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』(げき)は三島由紀夫の最後の声明文1970年(昭和45年)11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地内の東部方面総監室を占拠後(三島事件)、バルコニーから演説する際に撒布されたもの。

同書は当日、ジャーナリストの徳岡孝夫伊達宗克にも、封書に同封され託された。原稿用紙にして9枚ほどの長さの10段落の文章で、B4の紙2枚に三島の字でびっしり書かれている。

三島は、徳岡孝夫と伊達宗克へ託した手紙の中で、「同封の檄及び同志の写真は、警察の没収をおそれて、差上げるものですから、何卒うまく隠匿された上、自由に御発表下さい。檄は何卒、何卒、ノー・カットで御発表いただきたく存じます」[1][2]と、檄の全文公表を強く希望した。

内容[編集]

自衛隊内での約4年(学生らは3年)の体験入隊を振り返りつつ、三島は自衛隊を愛するが故に、この忘恩的と思われるような行為に出たことを述べ、三島自身の見てきた戦後日本の、「経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失ひ、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆく」姿、「政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を涜してゆく」国家となってしまったことを糾弾する。

さらに、「真の日本、真の日本人、真の武士の魂が残されてゐる」可能性のあり、そうでなければならない自衛隊が、現状としては法理論的には違憲であり、 「国の根本問題である防衛が、御都合主義の法的解釈によつてごまかされ、軍の名を用ひない軍として、日本人の魂の腐敗、道義の頽廃の根本原因をなして来ている」こと、また、自衛隊は敗戦後の国家の不名誉な十字架を負いつづけ、「国軍たりえず、建軍の本義を与へられず、警察の物理的に巨大なものとしての地位しか与へられず、その忠誠の対象も明確にされなかつた」ことを糾弾する。そして、日本の軍隊の建軍の本義は、 「天皇を中心とする日本の歴史・文化・伝統を守る」ことであるという大本を忘れている現状国家を憂いている。

自衛隊を名誉ある国軍とするためには、もはや議会制度下ではむずかしく、唯一の憲法改正の絶好の好機であった1969年(昭和44年)10月21日(国際反戦デー)のデモにおける自衛隊の治安出動がなされなかったこと、政府は警察力のみによって憲法に抵触しない方法で政体維持の自信をつけ、国の根本問題に対して頬っかぶりをつづけ、将来的に護憲のまま、ごまかしつづける国家となってしまったこと、自衛隊は「護憲の軍隊」というパラドックスにますます陥ったことを指摘する。

さらに、それに対し黙って甘んじている自衛隊員に、「諸官は任務を与へられなければ何もできぬといふ。しかし諸官に与へられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ない」ことを指摘し、「英米のシヴィリアン・コントロールは、軍政に関する財政上のコントロールである。日本のやうに人事権まで奪はれて去勢され、変節常なき政治家に操られ、党利党略に利用されることではない」ことを糾弾する。そして、「より深い自己欺瞞と自己冒涜の道を歩まうとする自衛隊は魂が腐つたのか。 武士の魂はどこへ行つたのだ。魂の死んだ巨大な武器庫になつて、どこへ行かうとするのか」と疑問を投げかける。

また、「国家百年の大計にかかはる核停条約は、あたかもかつての五・五・三の不平等条約の再現であることが明らかであるにもかかはらず、抗議して腹を切るジェネラル一人、自衛隊からは出なかつた」と述べ、2年後の沖縄返還に関連し、「沖縄返還とは何か? 本土の防衛責任とは何か? アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年の内に自主性を回復せねば、左派のいふ如く、自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終るであらう」と警告する。

そして、「生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。生命以上の価値なくして何の軍隊だ。今こそわれわれは生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に見せてやる。それは自由でも民主主義でもない。日本だ。われわれの愛する歴史と伝統の国、日本だ」と覚醒を促し、日本を「骨抜きにしてしまつた憲法に体をぶつけて死ぬ奴はゐないのか」と自衛隊員に呼びかける。

補足[編集]

『檄』の原文5段落目の、「この昭和四十五年十月二十一日といふ日は」という箇所は、「昭和四十四年」の誤りで、 『決定版 三島由紀夫全集第36巻・評論11』内では、正しい年に修正されている。

関連肉声資料[編集]

  • 『衝撃の記録―1970年11月25日 三島由紀夫』(キャニオン・ドキュメンタリー・シリーズ、1970年12月20日)
    EPレコード。収録内容:檄
  • 『三島由紀夫の死』(朝日ソノラマ 臨時増刊号、1970年12月20日)
    ソノシート(両面)2枚。盤面色に2種あり。
    収録内容:
    ソノシート{1}は両面に、「衝撃の現場!」(緊迫した現場の状況、事件の顛末を語る自衛隊代表者、現場の状況を説明する警察署長と自衛隊員、楯の会乱入隊員逮捕、三島の霊に敬礼する右翼団体、三島の死を語る石原慎太郎氏)。
    ソノシート{2}のA面に、「三島由紀夫!」(事件の現場に駆けつけた川端康成氏、楯の会発足の動機を語る三島由紀夫、剣道ボディビルに励むありし日の三島由紀夫、日本語について語る三島由紀夫)。
    ソノシート{2}のB面に、「三島由紀夫の生と死!」(東大全共闘との討論集会)。
    本誌面に、村上兵衛「わが友・三島由紀夫」、三島由紀夫「辞世」と「檄」を掲載。
  • 『嗚呼 三島由紀夫―1970年11月25日』(キャニオン・ドキュメンタリー・シリーズ、1970年11月25日)
    LPレコード
    収録内容:A面に、檄。B面に、座談(高橋基子シリア・ポール、三島由紀夫)。
    ※ B面収録の座談は、三島宅にて録音、1969年(昭和44年)2月3日 - 5日にニッポン放送パンチ・パンチ」で放送されたもので、一部が「VIVA YOUNG」1970年(昭和45年)12月号に掲載された。
  • 『三島由紀夫 最後の絶叫』(週刊サンケイ 臨時増刊「三島由紀夫特集」号、1970年12月31日)
    ソノシート(片面)。
    収録内容:檄(フジテレビニュース部FNNニュースから)
  • 『三島由紀夫 最後の絶叫』(アポロン、1970年12月)
    カセットテープ
    収録内容:三島由紀夫「最後の絶叫」(取材・構成:文化放送報道部。語り手:鈴木瑞穂
  • 『三島由紀夫氏追悼の夕べ』(タイセイ・グローバル社、1971年1月8日)
    カセットテープ2巻。ライナーノート
    収録内容:
    テープ{1}に、1.開会の辞(川内康範林房雄)、天と海(三島由紀夫)。2.追悼の挨拶(藤島泰輔北条誠)。
    テープ{2}に、3.追悼の挨拶(麻生良方)、英霊の声、自決直前の演説(三島由紀夫)、起て!紅の若き獅子たち(三島由紀夫と楯の会)。4.追悼の辞(滝原健之中山正敏水上勉{代読:川内康範})、辞世吟詠(高取賢司)、閉会の辞(黛敏郎)。
    ライナーノートに、三島由紀夫「自決直前の演説」と「辞世」を掲載。
    ※ 「三島由紀夫氏追悼の夕べ」は1970年(昭和45年)12月11日、豊島公会堂で行われた。

脚注[編集]

  1. 徳岡孝夫 『五衰の人 三島由紀夫私記』(文藝春秋、1996年。文春文庫、1999年)
  2. 伊達宗克編『裁判記録 「三島由紀夫事件」』(講談社、1972年)

参考文献[編集]

  • 『決定版 三島由紀夫全集第42巻・年譜・書誌』(新潮社、2005年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第36巻・評論11』(新潮社、2003年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第38巻・書簡』(新潮社、2004年)
  • 徳岡孝夫 『五衰の人 三島由紀夫私記』(文藝春秋、1996年。文春文庫、1999年)
  • 伊達宗克編『裁判記録 「三島由紀夫事件」』(講談社、1972年)
  • 福島鑄郎『再訂資料・三島由紀夫』(朝文社、2005年)
  • 安藤武『三島由紀夫「日録」』(未知谷、1996年)

関連事項[編集]

三島由紀夫
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