過労死

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過労死とは、周囲からの暗黙の強制などにより長時間の残業や休日なしの勤務を強いられる結果、精神的・肉体的負担で、労働者が脳溢血心臓麻痺などで突然死することや、過労が原因で自殺すること(いわゆる過労自殺)などである。

概要[編集]

過労が原因となって、心筋梗塞脳出血クモ膜下出血、急性心不全、虚血性心疾患などの心臓の疾患を引き起こし死に至る。また過労はしばしばうつ病を引き起こすが、過労によるうつ病から自殺した場合も含む。

2014年時点で、厚生労働省の統計によると、過去10年ほどのあいだに、過労による自殺者(自殺未遂も含む)が約10倍に増え、2013年時点で日本で196人が過労死している。働き盛りのビジネスマンに多いとされてきたが、近年では若者も増加傾向にあり、40-50歳代から20歳代にまで広がっている。女性も増加傾向にあるが、大半は男性である。

また、過労・長時間労働は、うつ病燃え尽き症候群を引き起こしがちで、その結果自殺する人も多いので、「過労自殺」も含む用語としてしばしば使われる。

何を「過労死」とするかについては、時期や文献によって若干のずれがある。(すでに資料としては古くなったものであるが)厚生労働省の2002年の「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」では、「過労死とは過度な労働負担が誘因となって、高血圧動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態をいう」とした。

最初、日本で起きているこの状態が欧米には無い特異な状態、日本独特の異常な状態、いかにも日本的な現象として報道されたものの、(もともと英語圏では無い現象なので)英語に訳す時work oneself to deathなどと強引に意訳され、しかも訳の表現が一定しなかったが、もともとこうしたことは日本以外ではほとんど起きていなかったので、「いかにも日本的な現象」と見なされ、また、しばしばもとの日本語表現もあわせて紹介され、日本では「過労死 karoshi」という表現で呼ばれていることが欧米で知られるようになり、英語やフランス語でも「karoshi」や「karōshi」と音写するようになった。

今では「KAROSHI」は英語の辞書や他言語の辞書にも掲載されている。2002年には、オックスフォード英語辞典にも掲載された。これは過労死が日本の労働環境を表すと同時に、日本以外の世界にも広がっている働きすぎに起因する健康破壊を端的に表す言葉になってきたことである。

メカニズム[編集]

過労死には一般的に以下の2種類の直接的原因がしられている。

精神疾患による自殺[編集]

働き過ぎは精神のバランスを喪失させ、への願望(希死念慮)をもたらす。「眠りたい以外の感情を失った」と訴える患者もおり、抑うつ状態やうつ病である場合が多い。ただ、「労働時間の長さ=自殺の危険性」というわけではなく、人により許容度が異なるが、それを職場の上司が理解していない場合が多い。また、オフの時間の過ごし方も影響する。睡眠不足の第一の原因は厚生労働省の平成28年版過労死等防止対策白書によると残業時間の長さになっており、36.1%である。

心臓・血管疾患による死亡[編集]

長時間労働は疲労を蓄積させ、血圧を上昇させる。そのことにより血管は少しずつダメージを受け、動脈硬化をもたらし、脳出血や致命的な不整脈を起こしたり、血栓を作り心筋梗塞脳梗塞を引き起こす。

日本[編集]

2014年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行された。同法により、過労死や過労自殺をなくすため、国(=日本の行政)が実態調査を行い効果的な防止対策を講じる、とされており、防止の方針を具体的に定めた大綱が作られることになっている。また国は、過労死等に関する実態調査、過労死等の効果的な防止に関する研究等を行うものとされ、さらに国及び地方公共団体は、過労死等を防止することの重要性について広く国民の理解と関心を深めるための瀬策を講ずるものとされる。

これまでは、日本人が過労死する状態があるにもかかわらず、日本では「過労」という言葉をはっきりと冠した法律も無く、日本の行政は、企業経営者の都合・顔色ばかりをうかがい、過労死をきちんと体系的に防止するしくみもつくらないまま放置していたが、この法律が施行されたことによって、状況の改善の一歩が踏み出された。日本全国の人々に向けて、弁護士が過労死に関する無料電話相談を開始した。

労災認定基準[編集]

厚生労働省の労災認定基準では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(略称:脳・心臓疾患)を取り扱っている。2000年7月に最高裁が下した自動車運転手の脳血管疾患の業務上外事件の判決を契機に、2001年12月に認定基準が改正され、発症前6ヶ月間の長期間に渡る疲労の蓄積、特に現在では労働時間の長さが数字で明記され、認定に際して考慮されるようになった。

仕事との因果関係の立証が難しいため、脳・心臓疾患の労災請求から決定(認定または不認定)までの所要日数は平成21年度で210日となっている。また、過労死の労災認定請求のうち過労死と認められるのは5割弱である。

なお、関連として、1999年11月策定の精神障害・自殺の労災か否かの判断指針により、うつ病による過労自殺労災として位置づけが明確化されている。

裁判[編集]

過労死を巡る裁判としては刑事、行政、民事の3種類がある。

刑事裁判[編集]

労働基準法では、法定労働時間を1日につき8時間、1週につき40時間と定め、これを超える場合には事前に労使協定を締結することを義務づけており、この上限時間も原則1年間につき360時間と定めている(労働基準法第32条、平成10年労働省告示第154号)。しかし過労死に至るケースの場合はこれらの時間を大幅に上回る時間外労働を行っており、労働基準法第32条違反、また、これらの時間外労働に対して正当な割増賃金(通常の賃金の25%以上の割り増し)が支払われていないケースがほとんどであり、同法第37条違反として労働基準監督署が事業主を送検するケースがみられる。ただし、労働基準法第32条違反は最高で罰金30万円、同法第37条違反は最高で懲役6か月又は罰金30万円と定められており、人を死に至らせる不法行為に見合った刑罰の重さとなっていないとの批判が、主に労働者団体等から唱えられている。

行政裁判[編集]

過労死が起こった場合、遺族はこの死亡が業務に起因するものであるとして労働基準監督署に労災補償給付を求めて申請を行うが、上記のように申請すべてについて労災認定が行われるものではないことから、労働基準監督署長が不認定の処分を下した場合、遺族は処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に、都道府県労働局に置かれる労働者災害補償保険審査官(労災審査官)に対して審査請求を行う。労災審査官が労働基準監督署長の処分を妥当と認めた場合(不認定相当とした場合)は、遺族は厚生労働大臣所轄の労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができる。

なお、労災審査官に審査請求を行ってから3か月以内に審査請求に対する決定がなされない場合、遺族は労災審査官の決定を待たずして労働保険審査会に再審査請求を行うことができる(労働者災害補償保険法第38条第2項)。

再審査請求に対する決定でも労働基準監督署長の不認定相当とされた場合、遺族は労働基準監督署長を被告として、行政処分(=労災不認定処分)の取消しを求めて行政訴訟を起こすこととなる。原則として、再審査請求に対する労働保険審査会の採決を経た後でないと提訴することはできないが、再審査請求を行ってから3ヵ月以内に裁決がない場合などは、再審査を待たずに行政訴訟を起こすことができる(同法第40条)。

この行政訴訟は地方裁判所に提起するものであることから、労災の認定に関しては事実上「六審制」が採られているといえる(労働基準監督署長→労災審査官→労働保険審査会→地方裁判所→高等裁判所最高裁判所)。

ちなみに、労働事件が先例として判決集に登載される場合は、被告の会社名が事件名となるが(例:「○○コーポレーション事件」)、労災不認定取消請求事件の場合は労働基準監督署長が被告となるため、過労死の起こった会社を併記するのが通例である(例:「○○労働基準監督署長(△△産業)事件」)。

民事裁判[編集]

過労死が起こった場合、企業が管理責任を怠ったとして裁判が起こることはつきものであるが、過労死の多くは勤務中に死に至るのではなく、激務な仕事をやめ1か月から数か月後に死に至るケースが多く、また、脳・心臓疾患は日常生活の習慣(高血圧気味であった、肥満気味であった、等)が過労により増悪することにより引き起こされることも多く、企業側は因果関係がないと主張する為、長期化することが多い。

過去の事例[編集]

  • 1988年全国の弁護士が連携して初めて「過労死110番]が開設される。当時の政府も医学会も「働きすぎでは死なない」と全面否定。労災申請はほとんど認められず、裁判でも勝てず、労組も向き合わなかった。
  • 1990年12月4日、読売新聞新聞奨学生として新聞販売店に勤務していた学生が過労により死亡した。同日午後3時20分頃、販売店の作業場内で嘔吐を伴う体調不良を訴え、そのまま昏倒。救急車で病院へ搬送されたが午後9時30分に死亡。遺族は裁判に踏み切り、最終的に1999年に読売新聞社と和解が成立した。この事件などを踏まえ各社新聞奨学生の過重勤務の実態、その制度の特徴から強制労働的性質がある事を日本共産党吉川春子などにより国会質疑で指摘されている。
  • 1999年東京都小児科医の男性が病院屋上から投身自殺した。同医師は、当直の日は時に30時間を超える長時間勤務に病院の経営方針が重なり、相当な激務と心労が重なっていたと思われる。遺族側はこの自殺(過労自殺)に対して労災認定を求めて裁判を起こしていたが、2007年3月28日に国が控訴を断念して労災認定が確定。
  • 家電量販店マツヤデンキ2000年11月に身体障害者枠で入社し、愛知県豊川市内の店で販売業務に就いていた、慢性心不全を抱える男性(当時37歳)が、同年12月に致死性不整脈により死亡した。翌2001年11月に、男性の妻が豊橋労働基準監督署に対し労働災害を申請したが認定されなかったため、2005年になって名古屋地裁に提訴。一審は訴えを棄却したが、二審名古屋高裁2010年4月16日に、「業務の過負荷による死亡かどうかは、男性本人の障害の程度を基準とすべき」などとする初判断を示して訴えを認め、労災と認定する判決を言い渡した。
  • 2001年政府は長期間の疲労蓄積で脳や心臓の疾患が起こる事を認める。
  • 2002年2月9日トヨタ自動車の社員であった当時30歳の男性が致死性不整脈により死亡した。月144時間という過酷な残業と変則的な勤務時間のためである、などと主張して男性の妻が訴訟を起こした。名古屋地裁は遺族側の主張をほぼ認め(認定した残業時間は106時間)この判決が確定した。
  • 奈良県立三室病院に勤務していた当時26歳の臨床研修医が、2004年1月に勤務中にA型インフルエンザを発症し、自宅療養をしていたが死亡した。この男性は、死亡直前の2003年12月には、1日当たりの勤務時間が12〜24時間に及ぶ日が連続6日間もあり、また、食事時間や休憩時間もほとんど取れない状態だった。地方公務員災害補償基金奈良県支部は2007年2月に、この男性の死を公務災害と認定し、両親に遺族補償一時金約417万円と、父親に約56万円の葬祭補償を支給したが、両親は、補償一時金に時間外手当が導入されていないとして、奈良地方裁判所に訴えを起こした。2010年8月26日に同地裁は、「時間外労働の存在は明確で、これを考慮しなかったことは違法」として、同支部の決定を取り消す判決を言い渡した。
  • 2005年2月に、産業機械商社・「マルカキカイ」に執行役員として勤務していて過労死した男性について、東京地裁2011年5月に、「実質的に労働者にあたる」として、労災の不認定を取り消す決定をした。
  • 1997年東急ハンズに入社した男性が、同社心斎橋店に勤務していた2004年3月に急死した。男性の妻と長男は、過重な労働が原因だったとして、同社を相手取り神戸地裁に訴訟を提起。同地裁は2013年3月13日の判決で遺族の主張を認め、同社の過重労働を認めた上で、従業員への安全配慮義務に違反したとして、遺族に7,800万円を支払うよう命じた。
  • 2007年7月5日、日産自動車の直系子会社ジヤトコプラントテックの男性社員が、建屋内で首を吊っているのを同社社員が発見、通報した。男性は死亡した。この日、男性は工長(現場のリーダー職)昇進を控えた集合教育を受けていたが、途中で席を立っており、この直後に自殺した。この教育は対象社員を一ヶ所に集め、数日間から数週間にわたり集中的に行われることから、「『日勤教育』的色合いが濃かった」(同社社員)といい、精神的に追い込まれる社員が少なくなかったという。男性の自殺について両社は黙秘しており、社内外への公表を行っていない。2008年現在係争中。
  • 2009年3月5日、過労による自殺で夫を亡くした京都市在住の女性が、大阪府弁護士らの協力を得て、社員が過労死したと認定された在阪の大手企業について、企業名などの情報公開を行うよう、大阪労働局に請求した。この女性は、企業名の公表が過労死などへの抑止力になると主張。しかし請求が退けられたため、女性や市民団体らが大阪地方裁判所に提訴。一審は女性らの訴えを認めたが、二審の大阪高等裁判所2012年11月29日に、「情報を開示することにより、各企業の社会的評価などが低下し利益を害することが有り得る」として、原告敗訴の逆転判決を言い渡した。原告側は「企業の擁護に終始した判決だ」として批判している。
  • 2008年4月からウェザーニューズの予報センターに試用勤務し、主にマスコミ向け天気予報の原稿作成を担当していた、同社所属の気象予報士が、同年5月以降、過労死の認定基準を超える134 - 232時間の時間外労働を強いられた上、同年10月1日に上司が予報士に「本採用は難しい」と告知。翌日に自宅にて自殺した。これについて、京都市在住の元予報士の遺族が、翌2010年10月1日に同社を相手取り、約1億円の損害賠償を求める訴えを京都地方裁判所に起こした。その後、同年12月14日に、同地裁で和解が成立した。
  • 2008年5月に、宮崎県新富町の女性職員(当時28歳)が自殺した。この女性職員は2008年になって、同僚が休職したことに伴い、臨時職員の指導などの業務が加わり、同年2月下旬から2か月間の超過勤務時間が222時間に達しており、また、町長も認識していながら適切な対応をとらなかったことが自殺の原因になったとして、女性の両親らが2011年12月に同町を相手取り、慰謝料などを求める訴えを起こした。市町村職員の過労自殺が、損害賠償請求訴訟に発展した初の例となった。
  • 2004年4月からマツダで勤務してきた男性が、2007年3月うつ病になり、4月に自殺した。これについて、広島中央労働基準監督署2009年1月に、自殺と仕事との因果関係を認め労災認定。 一方、男性の両親は、長時間労働や、上司がパワーハラスメントをしたことなど、会社側が適切にサポートしなかったことが原因であるとして、同社に対し約1億1,100万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。2011年2月28日神戸地裁姫路支部は、訴えをほぼ認め、同社に対し約6,400万円の支払いを命じた。
  • 2007年4月、山梨赤十字病院に勤務していた男性職員が、同病院のリハビリ施設内で自殺した。この職員は、1993年から同病院の調理師を務めた後、2005年にリハビリ施設に転属したが、2007年から別の施設の開設準備に他の職員が関わるようになったため業務量が急増してうつ病を発するようになったといい、自殺前1カ月の時間外労働は166時間以上に及んでいたとされた。2012年10月2日甲府地裁は、「(過重な)業務と自殺との間に因果関係が認められる」として、慰謝料など約7,000万円の支払いを同病院に命じた。
  • 日本政府が実施する外国人研修制度2005年12月に来日し、金属加工会社・『フジ電化工業』(茨城県潮来市)で勤務していた、当時31歳の男性の中国技能実習生が、2008年6月に過労で倒れ、急性心機能不全により死亡した。この実習生に対しては、鹿嶋労働基準監督署が、外国人実習生としては日本で初の過労死と認定し、遺族は労災の保険金給付の一部の約1,100万円を受け取ったが、受入機関にも注意義務違反があるとして、同社の他、受入機関の『白帆協同組合』(茨城県行方市)に対して、約5,750万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁に起こし、2011年現在係争中。
  • 2008年4月居酒屋チェーン・ワタミに入社した当時26歳の女性が、同年6月に自殺。遺族は、長時間労働によって生じたストレスが自殺の原因になったとして横須賀労働基準監督署に労災申請したが却下。このため遺族は、神奈川労働者災害補償保険審査官に不服申し立てを行い、同審査官は労災認定した。
  • 2010年2月に、光通信に勤務していた当時33歳の男性が突然死した。この男性は2006年から営業課長職に、2009年にはクレーム対応部署に異動したが、虚血性心疾患で死亡。男性の両親と弁護士が、タイムカード打刻記録以外での時間外労働を算出したところ、死亡前3年間で100時間超の時間外労働を行っていた月が17回(最高153時間)存在したり、携帯電話の販売で過酷なノルマが課されたりしていた。両親は2014年6月24日に同社に対し「会社は安全配慮義務を怠り長時間労働を放置した」などとして、神戸地方裁判所に約1億6,450万円の支払いを求める訴訟を起こした。
  • 2010年4月に、東京キリンビバレッジサービスキリンビバレッジの子会社)の当時23歳の男性社員が自殺した。この男性の遺族らは、男性は2009年10月から2010年3月にかけて長時間勤務を強いられていたのが原因と主張し、品川労働基準監督署に労災申請。2011年10月5日付で同監督署は、過労による自殺として労災認定した。
  • 2010年10月29日に、医療法人社団明芳会新戸塚病院横浜市)に勤務していた理学療法士の男性(当時23歳)が急性心不全で死亡しているのが発見された。遺族らは、男性が担当患者の増加や、在籍していたリハビリテーション科内の研究発表会の準備業務などによる長時間勤務が原因であるとして、横浜西労働基準監督署に労災申請。同監督署は2011年10月4日付で労災認定。理学療法士の労災認定は、この事例が初のこととなった。
  • 2011年(平成23年)5月13日から福島第一原子力発電所事故の収束作業に当たっていた建設会社の男性社員が、翌14日以降に体調不良を訴え、その後心筋梗塞で死亡。遺族は、短期間の高負担の作業による過労だとして、労災と認めるよう横浜南労働基準監督署に申請し、2012年2月24日に同監督署は労災と認定した。
  • 2011年4月末に、富士通海外マーケティング本部で課長を務めていた当時42歳の男性社員が急死した。この男性は、東日本大震災で外国人上司が国外脱出するなどした影響で過重労働となり、死亡前日から過去2ヵ月間の時間外労働の平均は最低でも月82時間に及ぶとされた。三田労働基準監督署はこの男性について、震災に伴う過労死であるとして労災認定した。
  • 2009年JR西日本に入社した男性が、その後2012年10月に自宅マンションで飛び降り自殺した。この男性は2011年6月から鉄道保安システムを管理する部署に配属されていたが、遺族らは、職場と工事現場との往復を繰り返させられていたことで、昼夜連続勤務や休日出勤の日数が月平均162時間にも及んだことなどが原因で鬱病を発症したことが自殺につながったとして、同社を相手取り契約1億9,000万円の支払いを求め大阪地裁に訴訟を起こした。
  • 2012年に自殺したアニメ制作会社の元社員男性が、過労による鬱病が原因と労災認定されたことが伝えられた。通院先のカルテには「月600時間労働」との記載があり、残業時間は多い時で344時間に上ったという。
  • 2012年10月過労自殺で亡くなった肥後銀行行員の遺族が、翌2013年に熊本地方裁判所損害賠償訴訟を起こした。なお、この件に対し、熊本労働基準監督署から労働基準法違反(過重労働)で役員ら3人が書類送検された。同年11月、熊本区検察庁が同法違反で同行を熊本簡裁略式起訴した。その後同簡裁は罰金20万円の略式命令を出し、同行は罰金を納付をした。また同容疑で、書類送検された取締役執行役員らは、嫌疑不十分で不起訴起訴猶予処分とされた。これを受け当時の頭取が、自身の月額報酬を30%カットするなど関係者の処分を明らかにしたほか、本店、支店すべての部屋に監視カメラを設置するなどの労務管理対策を実施することを表明した。その後2014年7月18日、同行は当初の主張を撤回し、自殺と長時間労働の因果関係を認め結審し、熊本地裁は同年10月17日、銀行が過重な長時間労働に従事させた結果、行員はうつ病を発症し自殺した。注意義務を怠ったとし、銀行に約1億3千万円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決を受け肥後銀は、コンプライアンス意識の徹底ならびに適切な労働時間管理態勢の強化について、全役職員一丸となって取り組んでおりますが、今後、尚一層安全な労働環境の構築に努めていくとするコメントを公表した。なお、同行は控訴しない方針である。
    • その後、自殺した男性の妻で同銀行の株主である女性が、株主としての立場で当時の役員らに対し損害賠償を求め、同行に提訴するよう要求したが受け入れられず、このため女性は2016年9月7日に同行を相手取り、当時の役員らに同行への損害賠償を求める株主代表訴訟を熊本地裁に起こした。
  • 福井県若狭町立上中中学校の当時27歳の男性教諭が、2014年10月に自殺。この教諭は同年4月から同校で勤務していたが、同年6月までの3ヵ月間に残業が月120 - 160時間超に上ったとされ、受け持っていた生徒の無断外泊や保護者とのトラブルもあったとされた。地方公務員災害補償基金福井県支部はこの教諭の自殺の原因が公務災害であると、2016年9月6日付で認定した。
  • 電通の新入社員でインターネット広告を担当していた当時24歳の女性が、2015年末に自殺。この女性は、同年10月9日からの1ヵ月間だけで見ても、時間外労働がその前の1ヵ月間の2.5倍に当たる約105時間に増えていたという。三田労働基準監督署はこの女性について、2016年9月30日付で労働災害と認定し、労災保険を支給することになった。この件に関連して東京労働局2016年10月14日に、電通本社のほか、関西支社・京都支社・中部支社の3支社をも、労働基準法に基づき強制調査を実施した。

日本国外での過労死[編集]

過労死は先進諸国でなく、発展途上国の最貧民のあいだで深刻とされている。この場合は栄養失調などの要因も重なり、突然死だけでなく様々な病気から死に至る。特に、福祉に回す程余裕のない国は、労働者の生活実態さえ把握できていない場合が多い。ただし、賃金が安く雇用が保証されていない途上国では従業員の人員調整で生産調整ができる。国民の祝日以外は休日無しの毎日12時間労働は存在しても、日本で過労死に至るようなホワイトカラーの過酷な労働時間は途上国でも余り見られない。現在過労死が世界一の国は中華人民共和国である。中国の国営メディアは、毎年60万人ほどが過労死していると報じている。

「日本人は働き過ぎ」とよく言われたが、アメリカの管理職は同等の労働時間と言われており、仕事中に脳溢血や心臓麻痺での死亡例が存在する。また解雇が容易なので従業員の数を調整することで余分な残業代を減らす経営が行われる。そこで長時間の残業が必要とされるのは大抵が最低でも数百万ドルの報酬をもらう重役である。アメリカの企業では、解雇が日常茶飯事であると同時に、職員募集も常時行われている場合が多く、転職は日常的に行われている。特に、高い能力を持つ人材は他社からのスカウトも多く、労働条件が気に入らなければ退職という選択肢が現実に存在する。また法律および労働契約に違反した企業に対する損害賠償は、世界に類を見ない高額さである。このため過労死が会社による強制あるいは労災とは捕らえられておらず、社会現象と認識されていない。日本での過労死が「KAROSHI」として特別視されて報道されるのもこのためである。ただし、「KAROSHI」は存在しないが、簡単に従業員を解雇できるため、能力の低い(または技能が時代遅れとなった)人間はすぐさまワーキングプアとなり、一気に最下層へと転落することが多い(なお、年齢差別が禁止されているので、特別な技能のない中高年でも職探しは比較的容易である)

また、2015年時点のアメリカ空軍では、無人航空機操縦士が酷使されている実態が明らかとなっており、彼らの労働時間は平均で1日14時間、週6日勤務となっている。アメリカ軍では状況を改善するための方策を考えている。また、アメリカは、企業に有給休暇を義務付ける法律が存在しない唯一の先進国であり、企業が労働者に全く有給休暇を与えなくても法的には問題ではない。アメリカ経済政策研究センターが2013年5月に公表した調査によると、アメリカ人労働者の4人に1人は、有給休暇を全く取っていない。

イギリス・アイルランドを除く西欧諸国では、一般に労働規制が厳しいため一般の労働者が過酷な労働時間により脳溢血や心臓麻痺で死ぬということはほとんど考えられない。ただし、不法移民を使った違法な労働環境での事故死などは考えられる。また無報酬で残業を行うという考え自体が一般的ではない。ただし役員や管理職は長時間労働を強いられることが多い一方で、業績報酬制であるため残業手当は存在しない。

ただし、職場での人間関係のこじれや、パワーハラスメントなどを理由にした自殺などの事例はヨーロッパ大陸の一般労働者でも存在する。フランスでは、ルノーの心臓部とも言われるイヴリーヌ県のテクノセンターで、3ヶ月の間に従業員3人が自殺していたことが2007年2月に日本の報道機関でも報じられた。うち、1人は遺書で「仕事上の困難」を記しており、当局が「精神的虐待」が無かったかどうか捜査に乗り出す程の問題となっている。また、フランスでは2000年から一週間に35時間以上の労働を基本的に禁じる週35時間労働制が施行されている。そのため、一般の労働者に過労は基本的に起こりえないとされる。しかし、こうして減らされた労働時間を取り戻すために、企業は労働者に更なる結果を求める傾向にある。フランスは労働時間を減らしても、高い競争力や生産性を維持しているが、労働者にはストレスが掛かり、多くの暴力事件や自殺者を生み出しているとの指摘がある。フランスはG8中、ロシア日本に次いで自殺率が高い国である。フランステレコムでは、2008年2月から2009年9月の約1年半の間に、23人もの自殺が発生し、社会問題となった。職場で自殺をしたり、仕事が原因で自殺するとの遺書を遺したケースもある。この一連の自殺では、1週間の間に5人が立て続けに自殺したこともある。2009年以降、経済悪化を背景にした自殺も増加している。

イギリスではメリルリンチインターンシップで勤務していたドイツ人留学生が、3日連続ほぼ徹夜で仕事をした後、死亡する事件があった。過労死が疑われており、金融界の過酷な労働環境が問題視されている。また、近年はヨーロッパでも働きすぎによる健康問題が深刻化しており、2003年には数百万人のイギリス労働者が過労死ラインになっているという説もある。サービス残業が常態化している国もあり、2004年のオーストラリアでは労働者の約半分に残業代が支払われていないという調査がある。理由として、労働者は、残業を拒否することで解雇されることを恐れているとされる。スイスでは通信大手のスイスコムチューリッヒ保険最高経営責任者が過労で自殺している。また、スイスの労働法では裁量労働制を採る企業は、労働時間の管理義務が免除されている。この法律を悪用して、従業員に多大な残業を課している企業もあるとされる。

過労死の背景[編集]

国際労働機関(ILO)は人道的な労働条件の確立をめざして具体的な国際労働基準の制定を進めてきており、多くの国際労働条約を採択している。しかし、現在においても、日本やアメリカのようにILOが採択した183条約(失効5条約を除く)の多くを批准していない国、批准した条約を遵守していない国が存在している。

とりわけ、先進国の日本で過労死が多発している事象については、世界的にも稀有な例として見られており、労働運動側は国際労働条約の批准を求めているが、産業界は反対している。

先進国であるにもかかわらず労働基準法が遵守されていない例として認識されているほか、米国公正労働基準法のようなホワイトカラーの除外、英国労働法のようなオプト・アウトの仕組みを持たない日本の労働法の硬直性も指摘されている。

対策[編集]

2013年、国連の社会権規約委員会は日本政府に対して立法や規制を講じるべきと勧告した。

近年、日本では過労死の問題が注目されており、これを防ぐための取り組みが始まっている。地方議会などでは、過労死防止基本法の制定を求める動きがある。2013年12月時点で、38の自治体で法制定を求める意見書が採択されており、国政においても過労死防止基本法制定を目指す超党派議員連盟が存在する。

また、2013年の参議院選挙では、自民党とともに共産党の議席が増えたが、その理由の一つとして、共産党の志位和夫は過労に対する訴えが評価されたからとしている。2013年9月には、厚生労働省ブラック企業と呼ばれる企業の立ち入り調査を開始している。

2013年12月17日、厚生労働省ブラック企業対策として、事前にブラック企業の疑いがある5111の企業や事業所を調査したところ、82%に当たる4189箇所で法令違反が確認できたとの調査結果を発表した。厚生労働省は、これらの企業に指導を行い、指導の後も法令違反を続ける企業は、名前を公表する方針を発表している。

2014年5月23日、衆議院厚生労働委員会は、全会一致で過労死等防止対策推進法案を可決した。過労死対策は、国に責任があることを初めて法律に明記している。

2014年6月20日、過労死等防止対策推進法成立。2014年11月に施行。規制や罰則を定めるものではないが、国の取るべき対策として①過労死の実態の調査研究、②教育・広報など国民への啓発、③産業医の研修など相談体制の整備、④民間団体の支援。自治体や事業主には対策に協力する事を努力義務とする。

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