納豆
納豆(なっとう)は大豆を納豆菌によって発酵させた日本の食品。現在では糸引き納豆の事を指す。
目次
概要
ヒマラヤ、中国雲南省から日本までの照葉樹林地帯にみられる食品であるが、日本における伝来経路は不明である。
日本においては、特に関東地方以北と南九州で好まれている。特有の匂いのためか、その他の地方(特に関西・四国地方)ではあまり消費されなかったが、製法や菌の改良などで臭いを少なくしたり、含まれる成分の内「ナットウキナーゼ」の健康増進効果がテレビなどのメディアで伝えられるようになった結果、1990年代後半にはほぼ日本中で消費されるようになった。また、ビタミンKも豊富で、大豆由来のタンパク質も豊富であり、現在でも重要なタンパク質源となっている。総務省統計局の全国物価統計調査の調査品目にも採用されている。
ただし、一部マスコミが主張するような、ナットウキナーゼが直接体内の血栓を溶かすなどという現象は、現実にはあり得ない(ナットウキナーゼは分子量が大きいのでそのままの状態では腸から吸収されない)ので、非科学的な煽動に踊らされて過剰な期待を寄せることには注意を要する。
また、日本食に馴染みがない者にとっては、日本食の中の苦手とする代表的な食べ物の一つでもある。納豆菌が炭疽菌の近縁種(同属種)であることから「不用意に食べると感染症に掛かる」という誤解をしていた者もいた。
7月10日が「納豆の日」の日とされている。これは1981年、関西での納豆消費拡大のため、関西納豆工業協同組合が7・10の語呂合わせで制定したもの。1992年、全国納豆工業協同組合連合会が改めて「納豆の日」を制定した。しかし「納豆」「納豆汁」が冬の季語である事や、「納豆時に医者要らず」という諺があったように、もともと納豆の時期は冬とされている。そのため7月に納豆の日を設けることには異論もある。
2007年1月7日に放送された関西テレビ・フジテレビの教養番組「発掘!あるある大事典2」で、納豆の摂取はダイエットに効果があると紹介された。多くの消費者がこれを信じ、こぞって納豆を買い求めたため、一時品薄状態になった[1]。しかし、番組で紹介されたデータはねつ造であったことが後に判明した。
作り方
伝統的な納豆の作り方は、蒸した大豆を藁で包み、40度程度に保温し約1日ほど置いておくというもの。藁に付着している納豆菌が大豆に移行し、増殖することによって発酵が起こり、納豆ができあがる。
近年では、大量生産の要求に応えるため、あるいは伝統的な製法では良質の藁を確保すること等が困難なこともあり、純粋培養した納豆菌を用いる製造が主流である。つまり、蒸した大豆を発泡スチロール容器や紙パックに装填し、これに純粋培養した納豆菌の分散液をかける。これを適温で保温すると、納豆菌が増殖し発酵する。流通段階での発酵の進み具合も勘案し、適度な発酵に至った段階で、消費期限やブランド銘が記された包装を施し出荷する。
納豆と衛生面
製法にかかわらず、業として納豆を製造するには、食品衛生法に基づき都道府県知事の許可が必要である。
市販の納豆の大部分は、純粋培養した納豆菌を種菌(たねきん)として用いる製法によって製造されている。
稲藁を用いた伝統的な製法による納豆も少ないながら製造され流通している。この製法での納豆菌は耐熱性の高い芽胞となって藁に付着しており、100°Cで沸騰している湯に数分浸すと大部分の雑菌が煮沸されて死滅し、納豆菌芽胞が生き残る。その後、ゆでた大豆を藁と接触させ37~42°Cに保つと、納豆菌は芽胞から発芽し増殖を始める。そして、その旺盛な繁殖力で、死滅を逃れた他の芽胞菌類に先んじて栄養となる物質を消費し、他の微生物の繁殖を阻む。
いずれにせよ、日本国内で流通する市販品は、食品としての基準に適合するよう管理され製造されていると見做して良い。
なお、敢えて自家で納豆を作ることを試みる場合には、以下の点に注意されたい。納豆菌は酸にはやや弱く、乳酸菌の活動によって生まれる乳酸によって活動が阻害される事がある。また技術開発の結果普及した匂いの弱いタイプの納豆では、活動がさほどおう盛ではない菌株が用いられており、環境によっては雑菌が繁殖する余地がある。また、納豆菌の天敵として細菌寄生性ウイルスのバクテリオファージがあり、ファージ活動後に雑菌が繁殖する事もありうる。特に納豆菌繁殖前の茹でた大豆には雑菌が極めて繁殖しやすい。自家製といえども食用に供するには衛生面でのそれなりの配慮が必要である。
ところで、納豆が苦手なひとのなかには納豆を指して「腐った煮豆」などと形容するケースも見られる。しかし腐敗と発酵との違いは、専ら、微生物が作用した結果が有害(無益)なものかあるいは有用なものかという価値判断に基づくものである。したがって、食品として十分衛生的に製造され、(世界的に見れば一部かもしれないが)多くの人に嗜好され、栄養的に価値が高い納豆は優れた「発酵」食品である。
ちなみに、日本酒を作る際に、熱に強い芽胞を形成しかつ繁殖力も旺盛な納豆菌が原料米に混入すると、日本酒を醸す酵母よりも先に繁殖して酵母を駆逐し得る。この場合納豆菌は粘り麹を生む好ましからざる雑菌となる。酒造り職人の食卓において、日本酒を仕込む酵母の仕込み期間中の納豆は禁忌とされている所以である。
食べ方
最も典型的な食べ方はいわゆる納豆ご飯で、白米を炊いたご飯と、納豆を一緒に食べるもの。これは醤油や和ガラシを加えてかき混ぜ、粘性のある糸が現れてから食べるのが一般的。鶏卵やウズラの卵、ネギ、ミョウガ、大根おろし、鰹節など、様々な食品を混ぜて食べることも多い。北海道・東北地方の一部では砂糖を混ぜて食べる人もいる。変わったところでマヨネーズを混ぜる人もいる。地方によっては、ご飯にかけずに納豆だけを食べる人もいる。
納豆をかき混ぜる際には、先に一度良くかき混ぜてから醤油やタレを加え、もう一度かき混ぜるのがおいしい食べ方とされる。これは、先にタレなどを加えると水分過多となってしまい、グルタミン酸(旨味成分)を含む粘りがあまり出なくなってしまうからである。また、ネギやからしを加えると納豆のアンモニア臭を抑える効果があり、優れた薬味といえる。ネギやからしを途中で加えずに、最後に少しだけ載せた方がおいしいという人もいる(蕎麦のネギやわさびと同様)。 また、よくかき混ぜると、ポリグルタミン酸をグルタミン酸にかえることができると言われているので、旨み成分を楽しみたい方は、よくかき混ぜてから食べる。
和風スパゲッティのトッピング、お好み焼きの具、カレーライスにかけるなどとしても用いられる。また納豆を叩き刻んで味噌汁に入れた納豆汁は、江戸時代までは納豆ご飯よりも普通に食卓に上っていた。
納豆は加熱することで匂いが強くなるので、好みが分かれるところである。ただし納豆天ぷらの場合、油で揚げることによって匂いがあらかた飛び、さらに天ぷらの衣で匂いが抑えられるのでむしろ食べやすくなる。
販売形態
販売方法
近年では減っているが、「納豆売り」と呼ばれる行商人が納豆を売り歩くこともあった。売り声は「なっと~~、なっと~~ィ(語尾をあげる)」というものであった。
現在では主にスーパーマーケットの食料品売り場などで販売されている。また、茨城県や埼玉県川越市などでは土産物として販売している場合もある。
包装方法
伝統的な包装方法では、納豆の製造で使用した藁をそのまま容器とするか、経木に納豆を包んでいた。
1960年代以降は、流通面で効率的なことなどから、一般的には発泡スチロール容器が使われている。発泡スチロール容器は積み重ねられる形状になっていて、3つを1セットとして売られている場合も多い。また、納豆を容器に入れたままかき混ぜて糸を引くことができるように、底に凹凸が付けられるなどの工夫もなされている。
発泡スチロール容器の普及は納豆の消費拡大に大きく貢献した。ただし、藁に比べると通気性が悪く、また納豆の臭い成分を吸着しにくいために、納豆独特の臭いがこもって強くなる傾向がある。こうした風味の違いや、「自然食品」的なイメージから、一部の高級品や自然志向の商品、土産物では現在でも藁や経木を使う場合がある。
なお、現在の納豆には、カラシと納豆用のタレが付属することが多い。
バリエーション
干し納豆
茨城県特産。納豆を天日干しすることにより長期保存可能にした「干し納豆」も存在する。なお納豆を乾燥させても納豆菌は死滅しない。
元来は保存食であったとされるが、現在は納豆の入手できない海外へ旅行に行く際に持っていくケースがあるという。
食べ方としてはそのまま食べるほか、湯につけてもどす、お茶漬けにするなどがある。
揚げ納豆
干し納豆に近いが、これは納豆を油で揚げ、粘り気を取り去ったもの。納豆独特の臭いも目立たない。揚げても納豆菌が死滅しないように、特別な製造技術が用いられている。そのまま酒のつまみとして食べる事が多い。しょうゆ・塩・梅・一味唐辛子などの味がつけられている。日本航空の国際線機内でも酒肴として提供されている。
そぼろ納豆
茨城県特産。おぼろ納豆、しょぼろ納豆とも呼ぶ。納豆に切り干し大根、たれを混ぜた物。そのまま酒のつまみとして食べたり、ご飯にかけて食べたりする。
糸引き納豆と塩辛納豆(寺納豆)
現在では、納豆と言えば、納豆菌を発酵させたいわゆる糸引き納豆を指すが、その他にも麹菌を発酵させた後乾燥させてから熟成した塩辛納豆(寺納豆)と呼ばれる納豆がある。麹菌納豆は古代中国(紀元前2世紀頃)からの遺跡等から出土しており日本にはおそらく奈良時代頃に伝来した豉(し、日本ではくきと読まれ久喜の字もあてられていた)と考えられている塩豉(後の塩辛納豆)と淡豉(平安以降歴史から姿を消す)との2種類がありそのままではなく調味料として使われていた。
平安時代の文献にも塩辛納豆の名は残っているが、一般に広まったのは室町時代以降でこの頃から糸引き納豆も登場しており区別するために塩辛納豆を久喜と呼び糸引き納豆を単に納豆と呼ぶようになった。またこの頃北宋・南宋に渡航した僧が再度持ち帰り広めたことから寺納豆とも呼ばれるようになり、今でも京都府の大徳寺納豆・天竜寺納豆や静岡県浜松市の浜納豆(浜名納豆)などが作り続けられている。
ひきわり納豆
砕いた大豆によって作られる納豆。普通の納豆より発酵が早く、消化が良いとされる。秋田県で古くから作られていた手法で、一般にはヤマダフーズが販売したものが発祥とされる。同社ではより細かく砕いた「きざみ納豆」も販売している。
甘納豆
甘納豆は1857年(安政4年)に栄太楼が開発した和菓子で、ここまで述べてきた発酵食品の納豆とは全く別物である。当初は浜名納豆(浜納豆)に似せて甘名納糖と名づけられた。名前が簡略化されて甘納豆と呼ばれるようになったのは戦後のことである。大阪では、納豆と言えば甘納豆を指す場合もある。
その他に、山形県酒田市の塩納豆、熊本県の金山寺納豆などローカル色に富んだ納豆もある。
地域別状況
- 秋田県仙北郡美郷町 - 「納豆発祥の地」の碑がある。ヤマダフーズの本社工場があり、東北随一の出荷量を誇る。
- 茨城県水戸市 - 明治以降、産地としてもっとも知られている。毎年3月10日に「納豆早食い大会」が開催されている。
- 熊本県 - 九州では例外的に古くから普及している。これは、加藤清正が朝鮮出兵の際濡れた大豆を馬に積んでいたのが馬の高い体温で発酵し納豆になったとの言い伝えがあるからだとされる。全国規模の納豆製造会社がありスーパーマーケットで普通に売られていて、消費量も多い。
一般に消費量は東日本が多く、西日本(特に近畿)ではあまり食べる習慣が無いとされる。特に北関東~南東北で消費量が多い。生産量日本一は茨城県だが、消費量日本一は福島県である(ちなみに消費量最下位は和歌山県である)。ただし冒頭のように、近年は関西地方でもスーパーなどで10銘柄程度の商品が普通に売られ、陳列スペースもほとんど関東と変わらなくなっている。
名称
納豆は元来精進料理として納所(なっしょ。寺院の倉庫)で作られた食品であり、これが名前の由来である。
「本来は豆を納めたものが『納豆』、豆を腐らせたものが『豆腐』であったのが、いつの間にか名前が取り違えられた」などとも言われるが、近代になって作られた俗説に過ぎない。そのことは「腐敗と同じく、菌の増殖により納豆ができる」という科学的知識が、「納豆」の名称が現われた頃には存在しなかったということを考えれば明らかである。
なお漢語における豆腐の「腐」は腐る意味ではなく、チーズのように凝固した食品(英語のカードcurdにあたる)を指す。
主な納豆メーカー
- 道南平塚食品(道産納豆、北海道登別市)
- オシキリ食品(北海道納豆、北海道江別市)
- 富士食品(北海道富良野市)
- 太子食品工業(青森県三戸郡三戸町)
- 黒石納豆(青森県黒石市)
- 巖手屋(岩手県二戸市)
- ヤマダフーズ(秋田県仙北郡美郷町)
- だいもんじ食品(福島県福島市)
- タカノフーズ(おかめ納豆、茨城県小美玉市)
- オーサト(茨城県取手市)
- くめ・クオリティ・プロダクツ(くめ納豆、茨城県常陸太田市)
- 笹沼五郎商店(茨城県水戸市)
- アイザワ食品(茨城県取手市)
- 菊水食品(茨城県日立市)
- 天狗納豆(茨城県水戸市)
- あづま食品(栃木県宇都宮市)
- こいしや食品(平家納豆、栃木県宇都宮市)
- 天野屋(芝崎納豆、東京都千代田区外神田)
- ミツカン(金のつぶ、愛知県半田市)
- 奥野食品(東京納豆、三重県松阪市)
- 旭松食品(なっとういち、大阪市淀川区)
- エイショク(広島納豆、広島県広島市)
- マルキン食品(熊本県熊本市)
- 丸美屋(熊本県玉名郡和水町)
脚注
関連項目
- ワルファリン(服用時には、納豆の摂取は避けた方が良い)
- 天狗納豆
- 水戸納豆
- ポリグルタミン酸
- 発掘!あるある大事典#データ捏造問題
外部リンク
- 全国納豆協同組合連合会 納豆PRセンター(業界団体)
- ナットウ(ナットウ菌) - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
- 納豆学会
- 納豆鉢と混ぜる棒(納豆の友)
- 納豆ホームページ(Never-Never-Land)
- みんなのナットウ(Natto for Everybody)ca:Nattō
de:Nattōes:Nattō fi:Nattō fr:Nattō id:Natto ko:낫토 lt:Natto sv:Natto tr:Nattō zh:納豆