日本酒

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画像:Sake.jpg
酒器に酌まれた日本酒。(左)、猪口(中央)、

日本酒(にほんしゅ)は、発酵させて作る日本の伝統的なアルコール飲料の一つである。日本酒税法上では清酒(せいしゅ)、日本では、一般には単に(さけ)またはお酒(おさけ)、日本古語では酒々(ささ)、僧侶隠語般若湯(はんにゃとう)、現代の学生言葉ではポン酒(ぽんしゅ)などと呼ばれる。

約5℃から約60℃まで幅広い飲用温度帯がある(参照:#温度の表現(飲用温度))。同じアルコール飲料を同じ土地で異なった温度で味わうのを常としているのは、世界的に見て日本酒だけである。 料理魚介類の臭み消しや香り付けなどの調味料としても使用される。

近年、日本国内での消費は減退傾向にある一方、アメリカフランスを中心とした海外市場では日本酒、とくに吟醸酒の消費が拡大しており、「sake」として知られている。(参照:「日本酒の歴史」- 昭和時代以降

目次

[編集] 歴史

日本酒の歴史を参照。

[編集] 原料

日本酒の主な原料は、米と水と麹(米麹)であるが、それ以外にも酵母乳酸菌など多くのものに支えられて日本酒が醸造されるので、広義にはそれらすべてを「日本酒の原料」と呼ぶこともある。専門的には、香味の調整に使われる「醸造アルコール」「酸味料」「調味料」「アミノ酸」「糖類」などは副原料と呼んで区別する。

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用途によって、麹米(こうじまい)用と掛け米(かけまい)用の2種類がある。

麹米には通常酒米(酒造好適米)が使われる。掛け米には、全部または一部に一般米(うるち米)が使われるが、特定名称酒の場合、酒米のみが使われることが多い。普通酒は麹米、掛け米ともにすべて一般米で造られるのがほとんどである。

しかし、一般米からも高い評価を得る酒が造られており、高級酒となるとかつて山田錦一辺倒の傾向すらあった原料米の選び方や使い方も、近年は新種の開発などにより変化が著しい。詳しくは「酒米」参照。

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は日本酒の80%を占める成分で、品質を左右する大きな要因となる。水源はほとんどが伏流水地下水などの井戸水である。条件が良い所では、これらを水源とする水道水が使われることもあるが、醸造所によって専用の水源を確保することが多い。都市部の醸造所などでは、水質の悪化のために遠隔地から水を輸送したり、良質な水源を求めて移転することもある。酒造りに使われる水は、仕込み水はもちろんのこと、瓶やバケツを洗う水まで酒造用水である。

また、蔵元によっては仕込み水そのものを商品として販売しており、その水が好評をもって消費者に受け入れられている。

[編集] 硬度

水の硬度は、酒の味に影響する要素の一つである。日本の日常生活では、硬度の測定にアメリカ硬度を用いているが、醸造業界では長らくドイツ硬度を用いてきた。最近はアメリカ硬度へ移行する兆しも見受けられる。

造られる酒の味は、おおざっぱに言えば、軟水で造ればソフトな酒、硬水で造ればハードな酒になる。理由は、醸造過程で硬水を使用すると、ミネラルにより酵母の働きが活発になり、アルコール発酵すなわち糖の分解が速く進み、逆に軟水を使用するとミネラルが少ないため酵母の働きが低調になり発酵がなかなか進まないからである。

江戸時代以来、高品質な酒を産出してきたでは宮水と呼ばれる硬水が使用されていた。一方、1897年明治30年)には広島県の三浦仙三郎により軟水醸造法が開発された。かつては、硬水が酒造用水としてもてはやされていたが、軟水で醸した酒の味わいが現代人の味覚に合っているとして、近年では軟水も見直されている傾向もある。

[編集] 水質

古来から酒蔵は、川の近くに多い。これは、酒造用水として川の伏流水を汲み上げることによるもの。水は、酒の原材料のなかで唯一、表示義務の対象とされていない。したがって、原料水が、井戸水であるか水道水であるかを明らかにする必要は無い。ただし、酒造用水に課せられている水質基準は、水道水などと比べるとはるかに厳格である。酒蔵は、使用する水を事前にそれぞれの都道府県の醸造試験所食品試験所、酒造指導機関などに送って監査を受けなくてはならない。

監査は以下のような項目で行なわれる。

中国大陸とは違い、日本の水は各地によって小差はあるもののほとんどが中硬水であり、香味を損ねる分やマンガンの含有量が少ないので、醸造に適していると言える。太平洋戦争前に満州へ渡り、在留日本人のために当地で日本酒を造ろうとした醸造業者たちが利用できる水を見つけるのに苦労したという話が多い。

なお、発酵、および麹菌や酵母菌の繁殖を促進するのに有効なだけの微量のカリウムマグネシウム燐酸については、成分調整として添加することができる。

[編集] 水の用途

酒造りに用いられる酒造用水は、以下のように分類される。

  • 醸造用水 - 醸造作業の最中に酒のなかに成分として取りこまれる水。
    • 洗米浸漬用水 - 米を洗い、浸しておく水。仕込みの前に米の中に吸収される水でもある。
    • 仕込み用水 - 醸造時に主原料として加える水。酒が「液体」として商品になるゆえんともいえる。
    • 雑用用水 - 洗浄やボイラーに用いられる水。これにも、水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。
  • 瓶詰用水
    • 洗瓶用水 - 瓶を洗う水である。
    • 加水調整用水 - アルコール度数を調整するために加える水。醸造後に酒にとりこまれる。
    • 雑用用水 - タンクやバケツの清掃に用いる水。これにも、水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。

杜氏や蔵人の日常生活(食事や洗面など)には、一般人のそれと同じく水道水が用いられる。なお、興味深いことに、蔵人たちが入る風呂には酒造用水を用いる酒蔵が多い。すでにその段階から「仕込み」が始まっているとの酒蔵の考えによるものであり、縁起かつぎとして行っている。

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日本酒に用いるは、蒸した米に麹菌というコウジカビ胞子をふりかけて育てたものであり、米麹(こめこうじ)ともいう。これが米のデンプンブドウ糖に変える、すなわち糖化の働きをする。

穀物である米は、主成分が多糖類であるデンプンであり、そのままでは酵母がエネルギー源として利用できないので、麹の働きによって分子量の小さな糖へと分解せねばならない。言いかえれば、酵母がデンプンから直接アルコール発酵を行うことはできないので、アルコールが生成されるには酵母が発酵を始められるように、いわば下ごしらえとしてデンプンが糖化されなければならない。その役割を担うのが、日本酒の場合は米麹である。米麹は、コウジカビが生成するデンプンの分解酵素であるα-アミラーゼグルコアミラーゼを含み、これらの働きによって糖化が行われる。米麹は、ほかにタンパク質の分解酵素も含んでおり、分解によって生じたアミノ酸ペプチドは、酵母の生育や完成した酒の風味に影響する(参照:#麹造り)。

洋酒では、ワインに代表されるように、原料であるブドウ果汁の中にすでにブドウ糖が含まれているので、わざわざこうした糖化の工程が要らず、そのため単発酵文化圏となった。東洋においては、日本酒だけでなく、他の酒類や味噌味醂醤油など多くの食品に麹が使われ、それが食文化的に複発酵文化圏、カビ文化圏などとも呼ばれるゆえんともなっている。これは東南アジア東アジアの中高温湿潤地帯という気候上の特性から可能であった醸造法であり、微生物としての「カビ」の効果を利用したものである。

東洋で使われる麹菌には数々の種類があり、焼酎には白麹・黒麹(黒麹菌)・黄麹、泡盛には黒麹、紹興酒には赤麹が用いられるのが通常だが、日本酒の場合は味噌味醂醤油と同じく黄麹(きこうじ)(黄麹菌黄色麹菌)が用いられる。ただし、「黄色」と言われるわりには、実際の色は緑や黄緑に近い。

また形状から分類すると、日本で用いられる麹は、肉眼で見るかぎり米粒そのままの形をしているため、散麹(ばらこうじ)と呼ばれる。それに対して、中国など他の東洋諸国で用いられる麹は、餅麹(もちこうじ)と呼ばれ、原料となるなど穀物の粉に水を加えて練り固めたものに、自然界に存在するクモノスカビケカビ胞子が付着・繁殖してできるものである。

[編集] 酵母

主原料ではないが、日本酒造りの大きな要素であるため、ここに記す。詳細は清酒酵母を参照。

酵母とは、生物学的には真菌類に属する単細胞生物である。酒造りにおいては、通常は出芽酵母を指す。これも何十万を超える種類が自然界に広く存在しており、それぞれ異なった資質をもっている。この酵母の多様性が酒の味や香りや質を決定づける重要な鍵となる。また多種多様な酵母のなかで日本酒の醸造に用いられる酵母を清酒酵母といい、種は80%以上がSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)である。

近代以前は、麹と水を合わせる過程において空気中に自然に存在する酵母を取り込んだり、酒蔵に棲みついた「家つき酵母」もしくは「蔵つき酵母」に頼っていた。その時々の運任せで、科学的再現性に欠けており、醸造される酒は品質が安定しなかった。

明治時代になると微生物学の導入によって有用な菌株の分離と養育が行われ、それが配布されることによって品質の安定と向上が図られた。 1911年(明治44年)第1回全国新酒鑑評会が開かれると、日本醸造協会が全国レベルで有用な酵母を収集するようになり、鑑評会で1位となるなどして客観的に優秀と評価された酵母を採取し、純粋培養して頒布した。こうして頒布された酵母には、日本醸造協会にちなんで「協会n号」(nには番号が入る)という名がつけられた。このような酵母を協会系酵母、または協会酵母という。アルコール発酵時に二酸化炭素の泡を出す泡あり酵母と、出さない泡なし酵母に大別される。

もともとの日本酒は、米のもつ地味な香りだけで、いわゆるワインのようなフルーティーな香りは無い。香りをもつようになった吟醸酒を誕生させるのに大きな役割を果たしたのは、協会系酵母のなかの協会7号協会9号であった。

1980年代に吟醸酒が消費者層に広く受け入れられると、協会系酵母の他にも、少酸性酵母高エステル生成酵母リンゴ酸高生産性多酸酵母といった高い香りを出す酵母が多数つくられ、今も大メーカーやバイオ研究所、大学などでさまざまな酵母がつくられている。 1990年代以降は、それぞれ開発地の地名を冠する静岡酵母山形酵母秋田酵母福島酵母なども高く評価されるようになり、最近では、アルプス酵母に代表されるカプロン酸エチル高生産性酵母や、東京農業大学なでしこベコニアツルバラの花から分離した花酵母などが、強い吟醸香を引き出すのに注目を集めている。

しかし、日本酒における吟醸香は、ちょうど人が香水をやたらにつければ逆効果であるのに似て、あまり強すぎれば酒の味を損なう。そこで、強い吟醸香を出す酵母は蔵元に敬遠される一面もある。そういう酵母は、他の酵母とブレンドしたり、鑑評会への出品酒だけに使ったりと、まだ使い方が模索されている途上にあるといってよい。

[編集] 乳酸菌

自然の乳酸菌を用いる場合もあるが、多くの酒では添加する。酵母と同じように、日本醸造協会の「醸造用乳酸」もある。乳酸菌によって生産される乳酸は、他の雑菌が繁殖しないようにするために、とくに仕込みの初期に重要である。また、乳酸を始めとする酸が、酒に“腰”を与える。もし酸が全くなければ、酒はただ甘いだけのアルコール液になってしまう。酒造りでは、ほどよく酸を出すことも重要である。

[編集] その他

正式には副原料に区分されるもの。

<ラベルに表示される項目>

  • 醸造アルコール - すっきりした味わいにするため、あるいは香りを残すためにもろみに加えられる。単に増量のために加えられることもある(三増酒)。
  • 糖類 - 酒に甘味を付け加える。また、糖化液として加えられ、それを発酵させる場合もある。
  • アミノ酸 - 酒に旨みを付け加える。
  • 調味料 - 酒に旨みを付け加える。
  • 酸味料 - 酒に酸味を付け加える。


<ラベルに表示されない項目>

  • 酵素剤 - 麹菌が造る「酵素」を補うためなどに「酵素剤」を使用することがある。原料重量の 1000分の1 以下の場合、原料として扱われない。
  • 活性炭 - 酒の雑味を取る。使いすぎると酒自体の味が薄くなる。
  • 清澄剤
  • ろ過助剤

[編集] 日本酒の製法

日本酒はビールやワインとおなじく醸造酒に分類され、原料を発酵させてアルコールを得る。しかし、日本酒やビールはワインと違い、原料に糖分を含まないため、糖化という過程が必要である。 ビールの場合は、完全に麦汁を糖化させた後に発酵させるが、日本酒は糖化と発酵を並行して行う工程があることが大きな特徴である。並行複発酵と呼ばれるこの日本酒独特の醸造方法が、他の醸造酒に比べて高いアルコール度数を得ることができる要因になっている。

日本酒は、次の過程を経て醸造される。

[編集] 精米

玄米から胚芽を取り除き、あわせて胚乳を削る。削られた割合は精米歩合によって表わされる。

米に含まれる蛋白質・脂肪は、米粒の外側に多く存在する。醸造の過程において、蛋白質・脂肪は雑味の原因となるため、米が砕けないよう慎重に削り落とされ、それにより洗練された味を引き出すことができる。その反面、精米歩合が高くなればなるほど米の品種の個性が生かしにくくなり、発酵を促すミネラル分やビタミン類も失われるので、後の工程での高度な技術が要求されることになる。

精米の速度が速すぎると、米が熱をもって変質したり、砕けて使い物にならなくなるので、細心の注意をもってゆっくり行なわなくてはならない。吟醸、大吟醸となると、削りこむ部分が大きいだけでなく、そのぶん対象物が小さくなって神経も使うので、精米に要する時間は丸二日を超えることもある。

1930年(昭和5年)ごろ以降は縦型精米機の出現により、より高度で迅速な精米作業が可能になり、ひいてはのちの吟醸酒の大量生産を可能にした(参照:吟醸酒の誕生)。最近ではこの縦型精米機をコンピュータで制御して精米している大メーカーもある。

[編集] 放冷・枯らし

精米後の白米、分け後の酒母、出麹後の麹を次の工程で使用されるまで放置すること。

精米された米はかなりの摩擦熱を帯びている。精米歩合が高く、精米時間が長ければ長いほど、帯びる熱量も大きくなる。そのままでは次の工程へ進むには米の質が安定していない(杜氏や蔵人の言葉では「米がおちついていない」)ため、袋に入れて倉庫のなかでしばらく冷ますことになる。また、摩擦熱によって蒸発した水分を元に戻す。 これを放冷(ほうれい)、また杜氏・蔵人の言葉では枯らし(からし)という。「しばらく」と言っても数時間単位で済む作業ではなく、摩擦熱が放散しきって完全に米が落ち着くまで通常3週間から4週間はかかる。

[編集] 洗米

精米された米は、精米の過程で表面に付いた糠・米くずを徹底的に除去される。これが洗米(せんまい)である。

普通酒を造る米などは、機械で一度に大量に洗米される。他方、高級酒を造る米は、手作業でおよそ10kgぐらいずつ、5℃前後の冷水で、流れる水圧を利用して少しずつ洗われる。洗っている間にも米は必要な水分を吸収しはじめており、「第二の精米作業」と言われるほどに、細心の注意を払う工程である。こうして洗われた米は浸漬へ回される。

[編集] 浸漬

洗米された米は、水につけられ、水分を吸わされる。これを浸漬(しんせき)という。

浸漬は、のちのち蒸しあがった米にムラができないように、米の粒全般に水分を行き渡らせるために施される工程である。水が、米粒の外側から、中心部の心白杜氏蔵人言葉では「目んたま」)と呼ばれるデンプン質の多い部分へ浸透していくと、米粒が文字通り透き通ってくる。米の搗(つ)き方、その日の天候気温湿度水温などさまざまな条件によって、浸漬に必要な時間は精緻に異なる。冬の厳寒のさなかの手仕事である。

このとき、米にどれだけ水を吸わせるかによって、できあがりの酒の味が著しく違ってくる。米の品種や、目指す酒質によって、浸漬時間も数分から数時間と幅広い。精米歩合が高い米ほど、その違いが大きく結果を左右するので、高級酒の場合はストップウォッチを使って秒単位まで厳密に浸漬時間を管理する。米は水からあげた後もしばらく吸水しつづけるので、その時間も計算に入れた上で浸漬時間は判断される。

なお、できあがりの酒質のコンセプトによっては、意図的に途中で水から上げるなど、ある一定の時間だけ米に吸水させる。これを限定吸水(げんていきゅうすい)という。

[編集] 蒸し

浸漬を経た米は広げて、湿度を保たせる。このあいだも米は水分を吸収し続ける。

その後、麹の酵素が米のデンプンを分解しやすくさせるために、米を蒸す。この工程を正式には蒸きょう(じょうきょう:「きょう」は「食へんに強」)、もしくは杜氏蔵人言葉で蒸しという。普通酒などでは自動蒸米機(じどうじょうまいき)という機械で、高級酒などでは和釜に載せた(こしき)という大きな蒸籠(せいろ)に移して、約1時間ほど乾燥蒸気で蒸す。

蒸しあがった米は、「内柔外剛」といって、外側がパサパサとしていて内側が柔らかいのがよいとされている。外側が溶けていると、コウジカビの定着の前に腐敗が始まる恐れがあり、また、内側に芯が残っていると、米で一番良質のデンプン質を含んだ部分が、糖化・発酵しない可能性があるからである。

なお、和釜から甑を外すことを甑倒し(こしきだおし)という。それは単に蒸しの作業が終わることだけでなく、杜氏や蔵人たちにとっては気の抜けない酒造りの季節が終わり、ほっと一息つく日の到来をも意味する。

[編集] 麹造り

とは、蒸した米に麹菌というコウジカビの胞子をふりかけて育てたもので、米のデンプン質ブドウ糖へ変える糖化の働きをする(詳しくは参照)。麹造りは正式には製麹(せいぎく)という。

口噛み製法で醸されていた原初期の日本酒をのぞいて、奈良時代の初めにはすでに麹を用いた製法が確立していたと考えられる。以来、永らく麹造りは、酒造りの工程に占める重要性と、味噌や醤油など他の食品への供給需要から、酒屋業とは別個の専門職として室町時代まで営まれてきたのだが、1444年文安の麹騒動によって酒屋業の一部へと武力で吸収合併された(参照:日本酒の歴史 - 室町時代)。

現在、たいてい酒蔵には麹室(こうじむろ)と呼ばれる特別の部屋があり、そこで麹造りが行なわれている。床暖房やエアコンなどで温度は30℃近く、湿度は60%以下に保たれている。温度が高いのは、そうしないと黄麹菌が培養されないからであり、また湿度に関しては、それ以上高いと黄麹菌以外のカビや雑菌が繁殖してしまうからである。入室には全身の消毒が必要で、関係者以外は入れない。それに加え、室外から雑菌が入り込まないように二重扉、密閉窓、断熱壁など、かなりの資本をかけて念入りに造られている。よく「麹室は酒蔵の財産」と言われる。

」の項に詳しく述べられているように、麹からは糖化作用のためのデンプン分解酵素のほか、タンパク質分解酵素なども出ており、これらが蒸し米を溶かし、なおかつ酒質や酒味を決めていく。あまり酵素が出すぎると目指す酒質にならないため、米の溶け具合がちょうどよいところで止まるように麹を造る必要がある。

[編集] 破精込み具合

それを見極めるのに着目されるのが、米のところどころに生じる破精(はぜ)である。ちょうど植物が土中へ根を生やすように、酵母が蒸米の中へ菌糸を伸ばしていくことを破精込み(はぜこみ)といい、その態様を破精込み具合(はぜこみぐあい)という。破精込み具合によって麹は次のように分類される。

  • 突破精型(つきはぜがた)
酵母の菌糸は蒸米の表面全体を覆うことなく、破精の部分とそうでない部分がはっきり分かれており、なおかつ菌糸は蒸米の内部奥深くへしっかり喰いこみ伸びている状態。強い糖化力と、適度なタンパク質分解力を持つ理想的な麹となり、淡麗で上品な酒質に仕上がるため、一般的な傾向としては吟醸酒によく使われる。
  • 総破精型(そうはぜがた)
酵母の菌糸が蒸米の表面全体を覆い、内部にも深く菌糸が喰いこんでいる状態。糖化力、タンパク質分解力ともに強いが、使用する量によっては味の多い酒になりやすい。濃醇でどっしりした酒質に仕上がるため一般に純米酒に好んで使われる。
  • 塗り破精型(ぬりはぜがた)
酵母の菌糸は蒸米の表面全体を覆っているが、内部には菌糸が深く喰いこんでいない状態。糖化力、タンパク質分解力ともに弱く、粕歩合が高く、力のない酒になりやすい。
  • 馬鹿破精型(ばかはぜがた)
前の工程、蒸しの段階で手加減を間違えたため、蒸米がやわらかすぎて、表面にも内部にも菌糸が喰いこみすぎ、グチャグチャになった状態。こうなると雑菌に汚染されている危険もある。酒造りには通常使えない。

杜氏や蔵人のあいだではよく「一、麹。二、酛(もと)。三、造り。」と言われる。「よい麹ができれば酒は七割できたも同然」という杜氏や蔵人もいるくらいで、酒造りの根本として重要視される。

目安としては蒸し米30kgにつき約1坪のスペースが必要で、また大吟醸酒などでは蒸し米100kg当たりに振りかける黄麹菌は5gほどである。

目指す酒質によって、麹造りには以下のような方法がある。

[編集] 蓋麹法

蓋麹法(ふたこうじほう)は、主に吟醸酒かそれ以上の高級酒のための方法であり、麹造りに要する時間は丸2日以上、だいたい50時間で、おおかた以下のような順番で作業がおこなわれる。

  1. 種切り まだ35℃近くの蒸し米を薄く敷き詰め、(ふるい)から種麹(たねこうじ)、すなわち粉状の黄麹菌を振りかけていく。終わると米を大きな饅頭のように中央に集めて布で包む。
  2. 切り返し 種切りから8~9時間経つと、黄麹菌の繁殖熱により水分が蒸発し米が固くなっているので、いったん広げて熱を放散させたうえで、ふたたび大きな饅頭にして包む。
  3. 盛り 翌日あたりになると黄麹菌の活動が盛んになり、米の温度も上昇がいちじるしい。そこで大きな饅頭を解き、小さな箱に米を少量ずつ小分けにしていき、この箱を決められたスペースに積み重ねて管理する。この小さな箱のことを麹蓋(こうじぶた)といい、麹蓋に米を盛りつけることからこの工程を盛りと呼ぶ。非吟醸系の酒の場合、麹蓋は使われないことも多い。
  4. 積み替え 盛りから3~4時間経つと、ふたたび米が熱を持ってくるので、麹蓋を上下に積み替えて温度を下げる。
  5. 仲仕事(なかしごと) ふたたび熱を散らすために米を広げて温度を下げる。
  6. 仕舞い仕事(しまいしごと) また熱を散らすため、米を広げる。これで米の熱を散らす作業は終わりという意味から仕舞い仕事と呼ぶのだが、実際上はこれが最後ではない。
  7. 最高積み替え 仕舞い仕事のあとも米の温度はさらに上がる。温度が最高になったときに、最後の温度調整のために麹蓋の上下積み替えをおこなう。温度が最高になったときに行なうので最高積み替えという。この後も何回か米の温度を見て、適宜に積み替えをして温度を下げる作業が続く。
  8. 出麹(でこうじ) 50時間ほど経過したころになると、栗を焼いたような香ばしい匂いがしてくる。これが麹ができたサインとなる。こうなったら麹室から麹を出す。

[編集] 箱麹法

箱麹法(はここうじほう)は、蓋麹法から「3. 盛り」以降を簡略化する手法で、普通酒を中心とした酒質に用いられる。麹蓋を大きくしたような麹箱をつかって米を小分けするが、大きい分だけ一度に処理できる米の量が増え、ひいては手間やコストの低減化につながる。

[編集] 床麹法

床麹法(とここうじほう)は、麹蓋や麹箱を用いずに、麹床(こうじどこ)などと呼ばれる、米に黄麹を振りかける台で米の熱を放散させて造る方法である。普通酒を中心とした酒質に用いられる。

[編集] 機械製麹法

機械製麹法(きかいせいぎくほう)は、機械を用いて麹を大量生産できる方法。手間がかからず生産コストは抑えられるが、できる酒質には限界があるので、高級酒には適さないとされる。普通酒を中心とした酒質に用いられる。

[編集] 酒母造り

酵母を増やす行程のこと。杜氏・蔵人言葉では「酛立て」(もとだて)という。

酵母にはブドウ糖アルコールに変える働き、すなわち発酵作用があるものの、酒蔵で扱うような大量の米を発酵させるためには、微生物である酵母が一匹や二匹ではまったく不十分で、米の量に見合っただけの何百億、何千億匹もの酵母が必要となる。だが、じっさいの酵母の数を数える単位は匹ではなくcellという。

こうした状況のなかで酒蔵では、アンプルに入っている少量の協会系酵母を特定の環境で大量に育てることになる。このように大量に培養されたものを酒母(しゅぼ / もと)または(もと)という。

作業としては、まず酛桶(もとおけ)と呼ばれる高さ1mほどの桶もしくはタンクに、麹と冷たい水を入れ、それらをよく混ぜる。すると水麹(みずこうじ)と呼ばれる状態のものができあがる。酛桶は、最近では高品質のステンレス鋼のものが多く、どうみても「タンク」といった風体だが、醸造器としてはあくまでも「酛桶」という。

そのあと水麹に醸造用乳酸と、採用すると決めた酵母を少量だけ入れる。採用する酵母は、多種多様な清酒酵母から、造り手が目指す酒質に適すると考えるものが通常は一種類だけ選ばれるが、その酵母があまりにも強い特性を持つ場合などには、それを緩和するためにもう一種類の酵母をブレンドして入れることも多い。

上記のものに蒸し米を加えると酒母造りの仕込みは完成する。あとは製法によって2週間から1ヶ月待つと、仕込まれた桶のなかで酵母が大量に培養され酒母すなわち酛の完成となる。

酒母造りの場所は、酒母室(しゅぼしつ)もしくは酛場(もとば)と呼ばれ、雑菌野生酵母が入り込まないように室温は5℃ぐらいに保たれている。しかし麹室に比べると管理の厳重さを必要としないので、酒蔵によっては見学者を入れてくれるところもある。酒母室のなかでは、酵母が発酵する小さな独特の音が響いている。

酒母造りの際には、タンクの蓋は開け放しの状態になるから、空気中からタンク内にたくさんの雑菌野生酵母が容易に入り込んでくる。そのため硝酸還元菌乳酸菌を加え、乳酸を生成させることによって雑菌や野生酵母を死滅させ駆逐することが必要となる。この乳酸を、どのように加えるかによって、酒母造りは大きく生酛系(きもとけい)と速醸系(そくじょうけい)の2つに分類される。

[編集] 生酛系

生酛系(きもとけい)の酒母造りは現在大きく生酛(きもと)と山廃酛(やまはいもと)に分けられる。

[編集] 生酛

生酛(きもと)とは、現在でも用いられる中で最も古来から続く製法で、乳酸菌を自然から取り込み、乳酸を作らせ、雑菌や野生酵母を駆逐するものである。所要期間は約1ヶ月。所要期間が長いのは、工程が多く手間がかかるのと、醗酵段階も完全醗酵させるからである。しかし、腐造や酸敗のリスクが大きかったことから明治42年(1909年)に国立醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)によって山廃酛が開発された。現在でも時間や労力がかかるので敬遠される傾向にあるが、成功すればしっかりとした酒質が製成されるため、伝統の復活のために取り組んでいる酒蔵も増えてきている。工程の流れは以下の通り。

米、麹、水を混ぜる > 山卸 > 温度管理 > 酵母添加 > 温度管理 > 酒母完成

[編集] 山廃酛

山廃酛(やまはいもと)とは、生酛系に属する仕込み方の一つで山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)の略である。この方法で醸造した酒のことを 山廃仕込み(やまはいしこみ / -じこみ)あるいは単に山廃(やまはい)という。おおざっぱは言えば、生酛から山卸を除いた工程の流れとなるが、単に山卸を省略したものではなく、関連するその他の細部の作業もいろいろ異なる。詳しくは「山廃仕込み」「生酛・山廃・速醸酛の関係」参照。

[編集] 速醸系

速醸系(そくじょうけい)では、乳酸を人工的にあらかじめ加える、近代的な製法。明治43年(1910年)に考案された。仕込み水に醸造用の乳酸を加え、じゅうぶんに混ぜ合わせた上で、掛け米と麹を投入して行なわれる。速醸酛(そくじょうもと)とも呼ばれる。所要期間は約2週間。現在造られている日本酒のほとんどは、速醸系である。工程は以下のとおり。

米、麹、水、乳酸を混ぜる > 酵母添加 > 温度管理 > 酒母完成

[編集] 醪造り

(もろみ)とは、仕込みに用いるタンクのなかで酒母、麹、蒸米が一体化した、白く濁って泡立ちのある粘度の高い液体のことであるが、学問的・専門的にではなく、あくまでも一般的理解のためという前提で補足すると、日本酒の製法という文脈に限っては、

「醪(もろみ)」=「仕込み」=「造り」

としてほぼ同意に使われることが多い。

したがってこの醪造りも、単に「造り」と呼ばれる。「一に麹、二に酛、三に造り」というときの「造り」はこれを意味している。またこの造りをおこなう場所を仕込み場(しこみば)という。現在の仕込み場は、たいてい温度センサーのとりつけられた3t仕込みタンクが並んでいる。

醪造りの工程においては、酵母のはたらきでもろみがアルコールを生成すると同時に、麹によってデンプンが糖に変わる。この同時並行的な変化が日本酒に特徴的な並行複発酵である。

また仕込むときに三回に分けて蒸米と麹を加える。これが室町時代の記録『御酒之日記』にもすでに記載されている段仕込みもしくは三段仕込みである。

この方法により酵母が活性を失わずに発酵を進めるため、醪造りの最後にはアルコール度数20度を超えるアルコールが生成される。これは醸造酒としては稀に見る高いアルコール度数であり、日本酒ならではの特異な方法で、世界に誇れる技術的遺産といえる。

1回目を初添(はつぞえ 略称「添」)、踊りと呼ばれる中一日を空けて、2回目を仲添(なかぞえ 略称「仲」)、3回目を留添(とめぞえ 略称「留」)という。20~30日かけて発酵させる。

吟醸系(吟醸酒大吟醸酒)と非吟醸系(それ以外の酒)は、この過程において以下の二つの点で造り方が分かれる。

精米歩合
精米は、米に含まれる蛋白質を取り除くために行われるが、生物の構成において蛋白質が重要である以上、精米歩合の高い麹米・掛米から造られた醪は、酵母が生きていくにはよい環境ではない。そのため、酵母はその環境で生存するために、それら自身がアミノ酸クエン酸リンゴ酸などの有機酸を生成する。これらの中で、揮発性のものが独特の吟醸香を構成する。米が削り込んであればあるほど、酵母は苦しんで、吟醸香を出す。
温度管理
酵母がブドウ糖からエネルギーを得るためにも、また酵母が自身にとって快適な生存環境を構築するためにも、熱が放出される。しかし、その熱は醪の中の化学成分、特に有機酸に影響を与えて、雑味となる成分を生成してしまう。また生物は、主な構成物質が蛋白質であるために、その大半は蛋白質の凝固温度の手前である35℃前後が活動に適した温度である。雑味を抑えるためには、発酵熱が放出されてもなお35℃を下回らなければならない。そのために、日本酒造りは冬の寒い時期に行われることになった。通常の造りは15℃前後に熱を抑えるのに対し、さらに有機酸への影響を多く考えなくてはならない吟醸系の場合は10℃前後が目安とされる。

[編集] 泡の状貌

温度計もセンサーもなかった古来から、杜氏や蔵人たちは醪(もろみ)の表面の泡立ちの様子を観察し、いくつかの段階に区分けすることによって、内部の発酵の進行状況を把握してきた。この醪の表面の泡立ちの状態を(泡の)状貌(じょうぼう)といい、以下のように示される。

  1. 筋泡(すじあわ) 留添から2~3日ほど経つと生じてくる筋のような泡で、醪の内部での発酵の始まりを告げる。
  2. 水泡(みずあわ) 筋泡からさらに2日ほど経ったころ。カニが口から吹くような白い泡。醪の中の糖分は頂点に達している。
  3. 岩泡(いわあわ) 水泡からさらに2日ほど経ったころ。岩のような形となる泡。発酵にともなって放熱されるので温度上昇も著しいころである。
  4. 高泡(たかあわ) 岩泡からさらに2日ほど経ったころ。留添から通算すると1週間から10日前後。岩泡全体が盛り上がりを見せる。化学的には発酵が糖化に追いつこうとしている状態。泡あり酵母泡なし酵母の区別は、この高泡の有無で決められることが多い。
  5. 落泡(おちあわ) 留添から12日前後経ったころ。泡の盛り上がりが落ち着いてくる。化学的には発酵が糖化に追いついた状態。
  6. 玉泡(たまあわ) さらに2日ほど、また留添から通算で2週間ほど経ったころ。詳しくは大玉泡中玉泡小玉泡に分けられる。泡は玉のかたちになってどんどん小さくなっていく。小さければ小さいほど発酵はだいぶ落ち着いてきている。
  7. (じ) さらに5日ほど、または留添から通算3週間近く経ったころ。玉泡が小さくなりきって、今度は消えていく。発酵も終盤に近いことを示す。だが、どの段階で「醪造り」の全工程の終了とみなすかは、杜氏の判断に任されている。目的とする酒質によっては、このまま何日か時間を置いたほうがよく、また吟醸系の場合はさらにその状態を持続させることが好ましいとされるからである。

近年、泡なし酵母が多く開発されてきたが、今日でも泡あり酵母を使った醸造では、仕込みタンクのなかで日々刻々と上記のような状貌の推移を見ることができる。

[編集] アルコール添加

上槽の約2日前から2時間前にかけて、ゆっくりと丹念に30%程度に薄めた醸造アルコールを添加していくこと。

「アルコール添加」または略して「アル添(アルてん)」という語感から、工業的に何か不純な添加物を加えるかのようなイメージをもたれることが多い(参照:当記事内『美味しんぼ』)が、古くは江戸時代の柱焼酎という技法にさかのぼる、伝統的な工程のひとつである。次のような目的がある。

  1. 防腐効果 現在のアルコール添加の起源となっている、江戸時代の柱焼酎は、酒の腐造を防ぐために焼酎を加える技法であった。かつては防腐効果がアルコール添加の最も重要な目的であった。衛生管理が進んだ現代では、こうした意味合いは薄れてきている。
  2. 香味の調整 現在のアルコール添加の目的の第一はこれである。適切なアルコール添加は、醪からあがった原酒に潜在している香りを引き出す。特に吟醸系の酒の香味成分は、水には溶けないものが多く、それを溶かしだすためにアルコール添加が必要となる。そもそも吟醸酒自体が、アルコール添加を前提として開発された酒種であった(参照:日本酒の歴史#吟醸酒の誕生)。現在、吟醸酒を生産する酒蔵ではアルコール添加は酒質を高めるために必須と考えているところが多い。
  3. 味の軽快化 現在のアルコール添加の目的の第二。醪(もろみ)の中には発酵の過程で生成された糖や酸が多く含まれており、これらを放置しておくと、完成した酒が、良く言えば重厚、悪く言えば鈍重な味わいになる。ここでアルコール添加をおこなっておくと、それらが調整される。また純米酒はその性質上、多かれ少なかれ酸味が飲んだ後に残る。アルコール添加により酸味が抑えられ、飲み口がまろやかになる。さらに、現代の食生活では旨み・油が多用され、飲料としては軽快な味わいのものが求められるようになってきたために、酒の切れ味を良くするためにアルコール添加が活用されている側面もある。
  4. 増量 三増酒の全盛時代には、酒の量を水増しするために行なわれたことが多かった。「アル添」という工程が一般的に悪いイメージを持たれるのには、主にそうした前の時代の負の遺産であると思われる。

[編集] 上槽

上槽(じょうそう)とは、醪(もろみ)から生酒(なまざけ)を搾る工程である。杜氏の判断で「熟成した」と判断されたへ、アルコール添加副原料が投入され、これを搾って、白米・米麹などの固形分と、生酒となる液体分とに分離する。杜氏蔵人言葉では搾り(しぼり)、上槽(あげふね)ともいう。

なお、固形分がいわゆる酒粕(さけかす)になる。原材料白米に対する酒粕の割合を、粕歩合(かすぶあい)という。

上槽をおこなう場所を上槽場(じょうそうば)といい、普通酒本醸造酒純米酒は、そこで醪自動圧搾機(もろみじどうあっさくき)や遠心分離機(えんしんぶんりき)などの機械で搾られる。吟醸酒のように丁寧な作業を要する酒は、昔ながらの槽搾り(ふねしぼり)、ヤブタ搾り袋吊りなどの方法で搾られる。それは単に手造り感を演出しているわけではなく、吟醸酒の醪には溶解していない米が他種の酒よりも多く残る結果となるので、機械で搾ろうとしても酒粕が詰まってしまうからである。

搾りだされた酒が出てくるところを槽口(ふなくち)という。

また酒蔵では、その年初めての酒が上槽されると、軒下に杉玉(すぎたま)もしくは酒林(さかばやし)を吊るし、新酒ができたことを知らせる習わしがある。吊るしたばかりの杉玉は蒼々としているが、やがて枯れて茶色がかってくる。この色の変化がまた、その酒蔵の新酒の熟成具合を人々に知らせる役割をしている。

[編集] 滓下げ

滓下げ(おりさげ)とは、上槽を終えた酒の濁りを取り除くために、待つことを指す。槽口(ふなくち)から搾り出されたばかりの酒は、まだ炭酸ガスを含むものも多く、酵母・デンプンの粒子・蛋白質・多糖類などが漂い、濁った黄金色をしている。この濁りの成分を(おり)といい、これらを沈澱させるため、酒はしばらくタンクのなかで放置される。滓下げによる効果は、単に濁りをとることに留まらず、余分な蛋白質を除去することで、瓶詰後の温度変化や経時変化によって引き起こされる蛋白変性での濁りの予防や、後工程となる濾過の負担軽減へも影響を及ぼす。

滓下げを施した上澄みの部分を「生酒」(なましゅ)という。「生酒」(なまざけ)とは別の概念なので注意を要する。

完成酒を生酒(なまざけ)や濾過(むろかしゅ)に仕立てる場合などは異なるが、大多数の一般的な酒の場合、上槽から出荷までには二度ほど滓下げを施すことが多い。第一回目の滓下げをおこなったあとの生酒(なましゅ)にも、まだ酵母やデンプン粒子などの滓が残っているのがふつうで、雑味もかなりあり、これらを漉し取るために濾過(ろか)の工程が必要となってくる。

近年では、消費者の「生」志向に乗じて、滓下げ以降の工程を施さず無濾過生原酒として出荷する酒蔵もあらわれてきている。

[編集] 濾過

濾過(ろか)とは、滓下げの施された生酒(なましゅ)の中にまだ残っている細かい滓(おり)や雑味を取り除くことである。液体の色を、黄金色から無色透明にできるだけ近づける目的もある。
なお、この工程をあえて省略して、無濾過酒(むろかしゅ)として出荷する場合も多い。


  1. 活性炭濾過 生酒(なましゅ)の中に、粉末状の活性炭を投入して行なわれる濾過を炭素濾過(たんそろか)もしくは活性炭濾過(かっせいたんろか)ともいう。この活性炭粉末を、酒蔵では単に(すみ)と呼ぶ。基本的には一般家庭の冷蔵庫などで使われる脱臭炭や、煙草フィルターに入っている黒い粉末と同じものである。目安として、生酒(なましゅ)1キロリットルにつき炭1kgを投入し、取り除きたい成分や色をその炭に吸着させて沈澱させる。その後に不要成分ごと炭を脱去する。活性炭を投入するといっても、単に投げ入れるだけではなく、取り除きたい成分や色だけを抜くところにこの工程の難しさがある。あまり入れすぎると酒は澄んでくるが、味も色も香りもすべて無化して面白くも何ともない完成酒になってしまう。じつは高級酒ほど炭の使用量は少なく、根強いファン層を持つ銘酒では0.06キログラム程度であるともされる。このように、炭加減(すみかげん)がたいへん微妙であることから、地酒の本場では蔵人のあいだで炭屋(すみや)と呼ばれる、この工程だけの専門家が多く存在したが、活性炭濾過そのものが過去の手法になりつつあり、現在では活性炭の使用量、使用の有無、炭屋なる専門職は減少傾向にある。また活性炭を使用してから他の方法で濾過する場合も多いので、「活性炭の使用」の有無と「濾過」の有無は、まったく別の次元の話である。
  2. 珪藻土濾過 精製された珪藻土の層を用いた濾過を行い、夾雑物を、そして活性炭濾過を行なったあとであれば活性炭そのものを取り除く。珪藻土とは珪藻類の化石で、非常に小さな孔を多数持つ形状をしており、色の元となる物質、雑味物質、香り物質もある程度除去する。この濾過技術の進歩は、活性炭の使用が減少している一助ともなっている。
  3. 濾紙による濾過 特殊な濾紙を用いて濾過をする場合もある。
  4. フィルター濾過 最近とみに増加してきた。カートリッジ式のフィルターを用いて濾過する方法。カートリッジ式なので取替えが可能で、手軽さがメリットである。とくに生酒(なまざけ)として出荷する場合は、火落ち菌対策として、火入れをしないことから、高精度な(0.22~0.65μ程度の)除菌のための濾過をこれによっておこなう。


槽口(ふなくち)から搾られたばかりの日本酒は、たいてい秋の稲穂のように美しい黄金色をしている。かつての全国新酒鑑評会では、酒に色がついた出品酒を減点対象にしていた時代があった。いきおい、酒蔵はどこも懸命に活性炭濾過で色を抜き、水のような無色透明の状態にして出荷することが多かった。

いわゆる「清酒」という言葉から一般的に連想される無色透明な色調は、そのような時代の名残りともいえる。現在では、雑味や雑香はともかく色の抜去は求められなくなってきたので、色のついたまま流通する酒が復活し、むしろ自然な色のついた酒の素朴さを好む消費者も増えてきている。このような流れのなかで、濾過のあり方も今後どうなるか注目されている。

[編集] 火入れ

火入れ(ひいれ)とは、醸造した酒を加熱して殺菌処理を施すこと。火当て(ひあて)ともいう。火入れされる前の酒は、まだ中に酵母が生きて活動している。また、により生成された酵素もその活性を保っているため酒質が変化しやすい。また、乳酸菌の一種である火落菌が混入している恐れもある。これを放置すると酒が白く濁ってしまう(火落ち)。
そこで火入れにより、これら酵母・酵素・火落菌を殺菌あるいは失活させて酒質を安定させる。これにより酒は常温においても長期間の貯蔵が可能になる。しかし、あまり加熱が過ぎれば、アルコール分や揮発性の香気成分が蒸発して飛んでしまい酒質を損なう。そのため、これも加減が難しい。現在は通常は62℃~68℃程度で行なわれる。

火入れの技法は、室町時代に書かれた醸造技術書『御酒之日記』にもすでに記載され、平安時代後期から畿内を中心に行なわれていたことがわかる。これはすなわち、西洋における細菌学の祖、ルイ・パスツール1862年加熱殺菌を発見するより500年も前に、日本ではそれが酒造りにおいて一般に行なわれていたことになる引用エラー 3; 無効な <ref> タグ: 無効な名前(多すぎる、もしくは誤った指定)

明治時代に来日したイギリス人アトキンソンは、1881年に各地の酒屋を視察、「酒の表面に“の”の字がやっと書ける」程度が適温(約130°F(55℃))であるとして、温度計のない環境で寸分違わぬ温度管理を行っている様子を観察し、驚きをもって記している。

[編集] 火入れと「生酒」の関係

火入れをしていない酒は「生酒」「無濾過生原酒」などとして人気がある。たしかにそういう「生」系の酒はみずみずしく、香りも若やいで華やかであり、また残存する微発泡感はのど越しもよく、それなりの商品価値がある。
しかし、一般にもたれている次のようなイメージはほとんど誤りである。

  • 生酒は、火入れをしていないので、それだけ新鮮さが保たれている。
  • 火入れは、酒の若さを失わせる工程である。
  • 生酒は、蔵で飲めるしぼりたての新酒の味である。

火入れをしなければ劣化が早く、すぐに生老ね香を発する。正しい保存管理をしていない飲食店などでは、劣化した酒を5℃前後まで冷やし、冷たさでわからないようにして出しているところも多い。ゆえに火入れとは、かえってその酒の新鮮さを長く保つために行なう工程であるといえる。

「生」系の酒の味は荒々しく、貯蔵・熟成を経た酒が持つ旨みやまろみ、深みに欠けるため、おおざっぱな言い方をすれば、筋金入りの愛飲家のあいだでは一般に火入れの工程を経た酒の方が好まれる傾向がある。

刺身に代表される「生」の食文化圏である日本では、新鮮であることが抜きん出て好まれる。また日本の日本酒業界は、「生」や「辛口」で売り上げを伸ばしたビール業界の影響を受けやすい。それらの要因から、日本酒も上記のような「生」と銘打った商品が1980年代から増えてきたのであった。

そうした状況を「生酒ブーム」という表現で切り捨てる酒類評論家も多く、また近年の日本酒の消費低迷と関連づけて具体的な苦言を提している識者もいる[1]

[編集] 「生酒」をめぐる表示問題

生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ)や生詰酒(なまづめしゅ)に仕立てる場合などをのぞいて、大多数の一般的な酒の場合、上槽から出荷までのあいだに火入れは二度ほど行なわれる。すなわち、一回目は貯蔵して熟成させる前、二回目は瓶詰めして出荷する直前である。とくに一回目の火入れは、成分に落ち着きを与え、その先の貯蔵中にどういうふうに熟成していくかの方向性を左右する。これをわかりやすくチャートにすると以下のようになる。

上槽滓下げ1回目濾過1回目火入れ1回目貯蔵・熟成
滓下げ2回目濾過2回目割水火入れ2回目瓶詰め出荷

  • 生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ) 火入れ1回目をしない。杜氏蔵人言葉では「先生」(さきなま)、「生貯」(なまちょ)などという。
  • 生詰酒(なまづめしゅ) 火入れ2回目をしない。杜氏蔵人言葉では「後生」(あとなま)などという。
  • 生酒(なまざけ) 火入れ1回目も2回目もしない。杜氏蔵人言葉では「生生」(なまなま)、「本生」(ほんなま)などという。
  • 生酒(なましゅ) 滓下げ1回目