2022-23年広域強盗事件
2022-23年広域強盗事件(2022-23ねんこういきごうとうじけん)は、2022年5月から日本全国で発生している同一グループによる連続強盗事件である[1][2]。「ルフィ事件」と呼称されることもある。
フィリピンの入国管理局ビクータン収容所にいる「ルフィ」や「キム」「ハオ」等と名乗り、当局に「ビッグボス」と呼ばれる男が実行犯を束ねているとされる[3][4][5][6]。犯人は移動手段にレンタカーや新幹線[7][8]、通信手段に秘匿性の高く、メッセージが一定時間で消去される機能が搭載されたロシア製のSNS、テレグラムを使用していたと見られる[9][10][11]。
被疑者[編集]
以下に被疑者の詳細を記す。
W・Y[編集]
Wは特殊詐欺グループのリーダー格で、グループ内の「ビックボス」と報道されている。Wの特殊詐欺グループによる2018年11月〜2020年6月にかけての被害総額は60億円以上だとされる。Wは1984年生まれで北海道別海町で生まれ育った[12]。地元の小中学校を卒業後に中標津町の高校に進学し、高校では剣道の部活で主将を務めていた。高校の同級生はWについて「明るく友達が多かった」「一般的な高校生」だったと話しており、大学に進学すると同時に札幌市に移り住むとススキノで働くようになった[13]。ススキノを通して同じ特殊詐欺グループの幹部であるIとFとも接点を持つようになったと思われ、10代の頃はススキノで客引きをし、20代になるとススキノで若者向けのミュージックパブを経営するが数年で閉店した。その後、Wは不動産業や別の飲食店の経営やオンライン上で女性と会話が可能なサービスなど様々な事業を行っていた[12]。Wはこの時期から暴力団関係者との交流を深めるようになり、闇社会に浸かるようになったと見られる。2012年、WとFは札幌市内で暮らすホストクラブ従業員宅に押し入り、現金約1000万円が入った金庫を盗んで逮捕された[14]。その後Wは国内の特殊詐欺グループに入り、2017年からタイを拠点にし特殊詐欺を繰り返したが、同年12月に運搬役を使って現金約3700万円をタイに持ち込ませようとしたが、中部国際空港で没収され、受け子8人が逮捕されてしまった。Wは翌年に拠点をタイからフィリピンに移し、廃ホテルを購入し複数のアジトを構え、日本からかけ子を呼び出し、グループは規模を拡大していった。2019年11月、Wに現金3億円以上を運搬していたWの交際相手が大阪府警などの合同捜査本部に逮捕され、その後出し子やかけ子など70人以上のメンバーが摘発された。これをきっかけにしてWがグループのリーダーである事が判明。2020年2月以降にもかけ子ら36人を含んだメンバー70人以上を逮捕し、Wも2021年4月にフィリピン内で拘束され、入管施設に収容された。そしてその直後から「闇バイト」を使った強盗を指示するようになったと思われる。[15]
I・K[編集]
IはWがススキノで働いていた時代にWと接点を持ったとされており[14]、Iは特殊詐欺グループのかけ子をまとめる役だったと見られている[16]。Iは1984年生まれで、北海道札幌市で生まれ育ち[17]、小学生の頃になると自分が気に入らない生徒や自分の言う事を聞かない生徒に大してクラス全員から無視させたり、上履きや靴などを捨てたり、暴言を吐いたりといったいじめを加えており、さらにIは30代の女性の担任にまで持ち物を捨てたり、カメラを壊したり、座る椅子に画鋲を置くなどのいじめを行い、女性は鬱状態に追い込まれた。Iが中学生になると言動はさらに悪化し、1年生の頃からタバコを吸い始め、他の生徒に「お前ゲロ臭いんだよ」と言い放ったり、いじめた生徒を奴隷のように扱い、さらに他の女子生徒に「体を売ってでも慰謝料を払え」と脅迫し、被害届が出される騒動まで起こしている。そしてIは3年生だった頃に少年院に送られ、それを理由にIの両親は離婚した[18]。Iが20代の頃になるとススキノで客引きをするようになり、ニュークラブを経営するも数年で店を潰し、2008年に風営法違反の罪で逮捕され、2016年にはひき逃げの容疑でも逮捕された。IはWとFがフィリピンに渡り、Kも加わり、遠隔で特殊詐欺を始めた後に合流したと見られている[14]。
F・T[編集]
FはIと同様にWとはススキノで接点を持ったとされており、特殊詐欺グループの「受け子」役であるリクルーターの統括役と見られている[16]。Fは1984年生まれの北海道の渡島の七飯町出身で、同町の小中学校を卒業すると、函館市内の専門学校に進学した。専門学校卒業後は不動産会社で働くものの、横領が発覚した為にFは解雇され、その後にススキノで働くようになったと思われ、2012年にはWが起こした札幌市内の金庫強盗事件の共犯者としてWと一緒に逮捕されている。FはWの子分格であり、当時を知る男性はFとWの関係性について立場がWの方が上だと感じたと証言している[14][17][19]。
K・T[編集]
Kは特殊詐欺グループではWに次ぐナンバー2の筆頭幹部だったとされており、特殊詐欺グループの現金回収・管理役だったと見られている[20]。Kは1977年生まれで、北海道室蘭市で幼少期を過ごしたと見られている[21]。
手口[編集]
実行犯は指示役の指示に従う形で、狙いを定めた住宅に侵入し、住民を拘束、そして金品を強奪する[22]。侵入する際は、窓ガラスを力いっぱい叩き割るという[23]。これについて、元埼玉県警捜査一課の佐々木成三は「当然、近所に大きな音が聞こえるでしょう。プロならそんなすぐに通報されるような真似はしない」と指摘している[23]。佐々木はまた、犯行が非常に雑で、証拠隠滅が不十分、素人によるものであることは自明だと述べている[23]。
経緯[編集]
今回の組織的犯罪の「起点」は、2022年5月2日に京都市中京区で発生した貴金属店での強盗事件であると言われている。京都府警は、この事件がSNS上での「闇バイト」募集をもって行われたことを突き止め、「調整役」も逮捕した。しかし、その数か月後には犯行の場が首都圏に移され、強盗は再開された[24]。
2022年12月5日、東京都で中野区強盗傷害事件が発生する。宅配業者を装って住宅に押し入り、強盗が行われた。この事件では逃げ遅れた男一人が現場で逮捕された。翌年の1月12日、千葉県大網白里市のリサイクルショップが襲撃され、金品は奪われなかったものの、店主が殴打され負傷した。翌日、自衛官の男が逮捕され、所持していたスマートフォンを解析すると「東京都狛江市の住宅で“仕事”をする」という情報が見つかった[25]。
同月19日、狛江強盗殺人事件が発生し、ついに死者が出る[26]。先述した解析情報をもとに19日、警察官が家族とともに被害者宅を訪れると、血を流して倒れている90代女性が発見された[27][28]。この日同居家族は外出しており、家には被害者一人の状態だった[28]。
関与が指摘されている事件[編集]
場所 | 年月日 | 備考 | 出典 |
---|---|---|---|
京都市中京区 | 2022年5月2日 | 一連の強盗事件の「起点」とされている。 | 以下全て[24] |
東京都稲城市 | 2022年10月20日 | ||
山口県岩国市 | 2022年11月7日 | 住宅に押し入るが失敗に終わる。 | |
東京都中野区 | 2022年12月5日 | ||
東京都渋谷区 | 2022年12月16日 | ||
広島県広島市西区 | 2022年12月21日 | 店主の親子が襲われ息子は意識不明。金品2千万円以上が強奪される | |
神奈川県川崎市宮前区 | 2023年1月9日 | ||
千葉県市川市 | 2023年1月9日 | ||
栃木県足利市 | 2023年1月10日 | ||
埼玉県さいたま市西区 | 2023年1月12日 | ||
千葉県大網白里市 | 2023年1月12日 | ||
茨城県龍ケ崎市 | 2023年1月14日 | ||
茨城県つくば市 | 2023年1月14日 | ||
東京都狛江市 | 2023年1月19日 | 被害者の90代女性が暴行を受け死亡した。 | |
広島県呉市 | 2023年1月24日 | 広島の事件の模倣犯。中学生2人が宝石店にハンマーを持って押し入り、店主の頭に怪我を負わせて宝石を持ち去った。事件後直ぐに逮捕された。 |
脚注[編集]
- ↑ (2023-01-27) 闇バイト強盗、14都府県の事件に関与か…警察庁長官「首謀者の検挙が重要だ」 ja 2023-01-27 [ arch. ]
- ↑ () 広域強盗団、福岡の事件も関与か 14都府県で20件、三十数人逮捕 西日本新聞 [ arch. ]
- ↑ () 「キム」足立の空き巣も指示役 東京・狛江強盗殺人の翌日:東京新聞 TOKYO Web ja [ arch. ]
- ↑ () 「ビッグボス」と呼ばれ部下を殴り割れたビール瓶でメッタ刺し…闇バイト強盗「ルフィ」ヤバすぎる素顔(FRIDAY) ja [ arch. ]
- ↑ (2023-01-30) ルフィ収容施設は「金がモノを言う世界」…賄賂でVIPルーム・複数スマホ・ゴルフ外出 ja 2023-01-30 [ arch. ]
- ↑ () 【急転】ルフィ別偽名“ハオ”今週中にも日本へ強制送還か…2019年には約35億円詐取も摘発逃れる 全国で相次ぐ強盗事件(FNNプライムオンライン) ja [ arch. ]
- ↑ 中国新聞 (2023-01-24) 中国新聞 防府の事件にも関与か 岩国強盗未遂事件の男、名義使いレンタカー | 中国新聞 ja-JP 2023-01-24 [ arch. ]
- ↑ () 「”ルフィ”と東京で会った」山口・岩国市の強盗未遂事件の被告 関西訛りの男に新幹線代渡される(テレビ朝日系(ANN)) ja [ arch. ]
- ↑ () テレグラムでの指示内容はどこまで解明できるのか…「ルフィ」らのスマホ解析が捜査のポイントに:東京新聞 TOKYO Web ja [ arch. ]
- ↑ () 「強盗系もあります」闇バイト募集者、記者が接触 テレグラムで「受け子」「出し子」勧告:中日新聞Web ja [ arch. ]
- ↑ () 関東連続強盗で使用か 「テレグラム」とは? ユーザー間通信 メッセージ自動消去にも対応(日刊スポーツ) ja [ arch. ]
- ↑ 12.0 12.1 () 特殊詐欺関与か 残る2人も送還・逮捕 容疑者を知る人は NHK [ arch. ]
- ↑ () 「明るく、友達多かった」 大学時代に飲食店も経営―逮捕のW容疑者 時事通信 [ arch. ]
- ↑ 14.0 14.1 14.2 14.3 () W・Y容疑者ら「ルフィ」魔の履歴書 札幌ススキノの闇と密接リンク 東スポ [ arch. ]
- ↑ () ルフィのリーダー格 W・Y容疑者の「成り上がり人生」…末端から数年でビッグボスに 日刊ゲンダイ [ arch. ]
- ↑ 16.0 16.1 () 比拠点詐欺グループ幹部ら2人再逮捕 カードで580万円引き出しか 朝日新聞 [ arch. ]
- ↑ 17.0 17.1 () フィリピンから移送の2人逮捕 道内時代を知る人が証言 NHK [ arch. ]
- ↑ () 「女性教師のイスに画びょう」「知人を風俗、薬物に勧誘」 連続強盗事件、I・K容疑者の“極悪”な素顔 [ arch. ]
- ↑ () 強制送還…北海道出身の男3人 ”ススキノ”で知り合ったか 同級生が証言「海外マフィアとつながっている」 北海道ニュース [ arch. ]
- ↑ () 【独自】特殊詐欺Gナンバー2の小島容疑者「被害者に申し訳ない」「相当重い罪になることは覚悟」逮捕後の主張が判明 TBS [ arch. ]
- ↑ () 小島容疑者は室蘭出身 広域強盗事件 親族「優しい子だった」 指示役疑い全員北海道出身 北海道新聞 [ arch. ]
- ↑ (2023-01-25) 多発する闇バイト強盗事件の背景に貧困問題…SNSで「ありがとう自民党政治」拡散の皮肉 日刊ゲンダイ [ arch. ]
- ↑ 23.0 23.1 23.2 (2023-01-30) 【ルフィ強盗事件】「ジジイやババアだけがお金を持っていてズルい」…若者たちの身勝手すぎる「ヤバい思考」 現代メディア [ arch. ]
- ↑ 24.0 24.1 (2023-01-26) 〈狛江90歳強盗殺人にも関与!?〉中野区強盗傷害事件。貧困家庭で育った○○容疑者(21)の過去と、フィリピンから指示をだす首領「ルフィ」の正体「コネを活用すれば“別荘の中”でも自由を謳歌できる」 集英社オンライン p.1 [ arch. ]
- ↑ (2023-01-26) 〈狛江90歳殺害事件との関連は?〉「『金庫はどこだ?』と尋ねられ、殴る蹴るの後、消火器を撒かれた」「現場付近ではお金が舞っていた」捜査のカギとなる2つの強盗事件の詳細 集英社オンライン [ arch. ]
- ↑ (2023-01-30) 狛江強盗殺人事件 被害品は腕時計3点と指輪1点 約60万円相当 日本放送協会 [ arch. ]
- ↑ (2023-01-20) 東京狛江の強盗殺人、広域強盗グループ関与か…千葉で逮捕の男のスマホから被害者住所 読売新聞オンライン [ arch. ]
- ↑ 28.0 28.1 (2023-01-26) 「真相、なんなんだろうと困惑」 狛江市の強盗殺人事件、遺族が心境 朝日新聞デジタル [ arch. ]
関連項目[編集]
- 人海戦術 - 捨て駒
- 国際犯罪 - 組織犯罪 - サイバー犯罪
- 犯罪人引渡し - 犯罪人引渡し条約
- フィリピンにおける犯罪
- フィリピンにおける汚職
- 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
- 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 - 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約
- モンキー・D・ルフィ - 漫画『ONE PIECE』の主人公。指示役W・Yの通称ルフィの元ネタ
- 新型コロナウイルス - 一連の連続強盗事件はコロナ禍のせいだとする指摘もある
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