偏向報道
偏向報道(へんこうほうどう)とは、ある特定の事象について複数の意見が対立する状況下で、特定の立場からの主張を否定もしくは肯定する意図をもって、直接・間接的な情報操作が行われる報道である。政治・経済・裁判・事件・芸能等、対象は幅広い。様々なメディアの中で、特に現代において最も影響力が強いとされるテレビの報道姿勢が問題視されることが多くなった。
目次
概要
ヨハネス・グーテンベルクの活版印刷技術の発明以降、特にマスコミが台頭してきた19世紀、この「世論誘導力」の大きさに驚き、注目したのは権力者達であった。そして自らの権力安泰を図るために法、すなわち表現・言論を統制するための法を制定あるいは強化し、権力者に都合のよい報道が各国で行われた。すなわち偏向報道の歴史はマスコミ台頭と同時にはじまっている。
20世紀に入り電波がマスメディア用に実用化されると、時の権力者はこれを大いに利用した。有名なものとしてはナチス・ドイツによるものがあり、世界初のテレビジョン放送開始はナチスの宣伝・世論誘導の目的を持った「国策」として達成されている。日本においても同じであり、検閲と一体化されたラジオによる「権力偏向報道」がなされた。
しかしその結果は悲惨なものとなり、第二次世界大戦終結後、これに懲りた国々では表現の自由を厳格に定めて「権力偏向報道」を撤廃、併せて「権力監視の役目」をマスコミに与えた。これ以降、これらの国々での偏向報道とは、それまでの「権力に都合のよいように恣意的に歪めた報道」あるいはその逆のみならず、「多面的考察を欠いた非中立的報道」あるいは「特定個人の思想などを正当化するため恣意的になされる報道」など複数の定義、考え方がされるようになった。
戦後の日本でマスコミの偏向報道をあからさまに主張した公人は、佐藤栄作元総理大臣が最初とされる。1972年6月の退陣表明記者会見で、「僕は国民に直接話したい。新聞になると(真意が)違うからね。偏向的な新聞は嫌いなんだ、大嫌いなんだ。(記者は)帰って下さい。」と新聞記者を退席させ、テレビ局のカメラに向かって会見を行ったエピソードは有名である。これは日本の場合、テレビ、すなわち放送が唯一、法的規制を受ける言論報道機関であり、放送法に、政治的に公平であること、事実をまげないことなどが詳細に規定され、また放送によって権利侵害を受けた人などから2週間以内に請求があり、調査の結果「誤った放送」をおこなったことが判明した場合には2日以内に訂正放送をおこなわなければならないことが、罰則とあわせて定められていることが理由であった。
同じく元総理大臣の田中角栄は、マスコミを「第四の権力」と表現し、偏向報道をマスコミの武器として認識していたという。産経新聞の鹿内信隆は、社長だった1967年7月当時の広告主向け説明会で「新聞が本当に不偏不党の立場でまかり通るような安泰なものに、今、日本の国内情勢が成っているでしょうか。」「敢然と守ろう『自由』、警戒せよ、左翼商業主義!」と演説した。また、1970年9月には、産経拡販への協力を通じた支持を求める田中(当時は自民党幹事長)の通達が、全国の自民党支部連合会長、支部長宛に「取扱注意・親展」として送付され、国会で取り上げられたこともある。
国によって違いはあるが、概ね、「政治的に公平であること」「事実をまげないこと」「できる限り多面的に検討すること」などが法規定されているのは、いわゆるテレビ、ラジオなどの「電波報道」のみである。これは有限である電波を媒体として利用すること、また速報性・同時性の高さから大衆への影響力が非常に強いというのが理由である。しかしもとより表現とは特定の目的をもってなされるものであるから、電波報道といえども完全な公平性の実現などは不可能、結果、せいぜい最大公約数的な内容までにしかならない。対して媒体無限の新聞、雑誌などに規制はなく、新聞のいうところの「不偏不党の立場」などは、あくまでも自主的なもの、各社の考え方の違いがストレートに表れがちである。同じ事象を扱う場合であっても、電波報道と新聞、雑誌などの報道内容に大きな違いが生じるのはこのためであり、この違いをもって大衆から、どちらかが偏向報道であると言われることもある。そしてこれは大衆のみならず、例えば放送局と新聞社間でもあることで、放送局は特定の新聞社の社説を電波にのせることができない、これに対して新聞社が抗議する、最悪は法闘争にまで発展するといったこともある。
2008年11月、トヨタ自動車相談役の奥田碩は、年金問題に関するマスコミの報道について、「個人的な意見だが、本当に腹が立っている。」「あれだけ厚生労働省を叩くのは、ちょっと異常な話。」と不快感を示し、続けて、「なんか報復でもしてやろうかな。例えばスポンサーにならないとかね。」と広告の引き上げを示唆した。(報道におけるタブーも参照されたい。)
中国との関連
日本では、中国に関する日本のマスコミの報道についてよく偏向報道が指摘される。そしてその偏向の原因が日中記者交換協定にあるとも指摘される。
1968年3月の「日中覚書貿易会談コミュニケ」では、日中双方が遵守すべきとして「政治三原則」が明記された。「政治三原則」とは、周恩来・中華人民共和国首相をはじめとする中華人民共和国政府が、従来から主張してきた日中交渉において前提とする要求で、以下の三項目からなる
- 日本政府は中国を敵視してはならないこと。
- 米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しないこと(台湾問題)。
- 中日両国関係が正常化の方向に発展するのを妨げないこと。
このうち項目2は、台湾国民政府を正統の政府と認めないという意味である。以降、中華人民共和国政府の外務省報道局は、各社の報道内容をチェックして、「政治三原則」に抵触すると判断した場合には抗議を行い、さらには記者追放の処置もとった。記者交換協定の改定に先立つ1967年には、毎日新聞・産経新聞・西日本新聞の3社の記者が追放され、読売新聞と東京放送の記者は常駐資格を取り消された。
日中記者交換協定参照
このような日中記者交換協定は、しばしば日本のマスコミ報道に影響を残し、報道における中国政府におもねり、偏向、つまり偏向報道があると指摘される。事例としては南京大虐殺に関する朝日新聞の親中派・反日的な性格などが問題視されることがこれまでにあった。
2009年ウイグル騒乱に関する日本の報道において「暴動」と表記されたことについて世界ウイグル会議系日本ウイグル協会代表のイリハム・マハムティは「“暴動”というのは明らかに中国政府側に立った表現」だとし、「もし暴動という呼び方をするのであれば、日本のマスコミは現地に記者を派遣して徹底的に取材し、デモに参加したウイグル人たちが最初に暴力事件を起こしたという証拠を提示したうえでそう呼ぶべきでしょう。しかし実際には、現地でそんな詳細な調査・取材を行っている日本のマスコミは、テレビでも新聞でも一社もありません。にもかかわらずマスコミは、中国政府に都合の良い報道を毎日のように繰り返している」として痛烈に批判したうえで、そのような日本のマスコミの態度の原因を1964年に中国政府と日本の大手マスコミとの間で締結された日中記者交換協定にあるのではないかとし、同協定のなかには「(日本人の記者は)中国政府に不利な言動を行わない・台湾独立を肯定しない」という取り決めが含まれていると指摘している。
また、元外交官の佐藤優も「暴動」表記は中国共産党・政府側の立場に基づく表現と指摘し、中立的な観点から「騒擾」や「事件」と表記すべきとしている。そのうえで、多くの新聞が当初「暴動」と報じた点を問題視しており、当初から「騒乱」と表記した『朝日新聞』に対しては「民族紛争に関する報道では、こういう細部への配慮が重要」と評価している。一方で、「暴動」と表記し続ける『産経新聞』に対して「なぜ中国当局と同じ『暴動』という表現を用いるのか?」と疑問を呈している。
日本で偏向報道として話題になる例
同じ表現の自由が認められている国であっても、日本は欧米を中心とした各国の「明白かつ現在の危険」(clear and present danger)に対し「利益衡量」による「表現の規制」がされる。すなわち日本の場合、表現の責任は原則として表現者個人ではなく第三者、すなわちレフリーを担務するマスコミに帰属し、特に報道について重要な「真実性の判断」をするのは、欧米を中心とした各国の「報道受信者」すなわち個々の視聴者また読者などではなくマスコミである。このことから日本では、特に大きな利害関係の生じる報道内容で、それを報じるマスコミが、被報道者、報道受信者の双方から「偏向報道」としてしばしば叩かれる、およそ欧米を中心とした各国とは異なる特異な現象を生じている。すなわち「偏向報道」がしばしば大きく話題になるのは、表現の自由が認められている、いわゆる先進諸国中では概ね日本だけの現象である。
政治
- テレビ朝日は、1993年に行われた総選挙の期間中に、小沢一郎率いる新生党をはじめとした当時の野党(日本共産党は除く)による非自民政権樹立を促す報道と、当時の同局報道局長・椿貞良が日本民間放送連盟の会合でそれを正当化する旨の発言をした「椿事件」が起こり、椿局長が証人喚問される事態になった。
- 2000年夏頃より、当時の内閣総理大臣森喜朗がビル・クリントンに対して出鱈目な英語の挨拶を行ったと言う噂が一部マスメディア、著名人によって報じられる。事実は毎日新聞論説委員高畑昭男による作り話であり、森はこの捏造を批判している(詳細はWho are you ?捏造報道)。
- 2001年5月15日、当時の長野県知事・田中康夫による「脱・記者クラブ宣言」に地元の有力紙である信濃毎日新聞(信毎)が猛反発し、これ以後一貫して田中知事の政策を批判する報道が行われ続けた(参照:記者クラブ#長野県の「脱・記者クラブ宣言」)。
- TBSの情報番組『サンデーモーニング』の2003年11月2日放送分にて、東京都知事・石原慎太郎の「私は日韓合併(の歴史)を100%正当化するつもりはないが、(以下略)」という発言が、テロップによって「100%正当化するつもりだ」という正反対の表示で報道された(参照:石原発言捏造テロップ事件)。
- 朝日新聞は、2007年に行われた参議院議員選挙の前後、政策論争よりも当時の安倍内閣に対するバッシングに終始し、連日の様に「安倍首相 支持率低下」を紙面に踊らせていた。その後、安倍首相は内閣改造後の同年9月、自身の健康状態を理由に退陣した。朝日新聞はこれに因んだ、仕事も責任も放り投げてしまう行為を指す「アベする」という新語が流行していると報じたが、一部のネットユーザーからは、そのような語は流行していないとする指摘がなされ、逆に「アサヒる」という語が生まれるきっかけになった。
- 日刊ゲンダイは、以前より自民党を批判し、同紙が支持する小沢一郎を擁護する報道を行っていたが、小沢が民主党に所属していた2010年参院選期間中の7月1日より「もう一度民主党へ投票を」という見出しで民主党への投票を呼びかける記事を掲載している。また、その他にも「今更『自民に投票』は時代おくれだ」(同6月30日付)、「民主党へ投票が最良の選択」(同6月29日付)、「迷わずに民主党へ投票しよう」(同7月3日付)など、一貫して民主党に肩入れする記事を掲載した。これに対し、自民党は大島理森幹事長名義で、中央選挙管理委員会に公職選挙法違反の疑いがあるとして質問状を提出した。
一方的なバッシング・過度の肩入れ
- 産経新聞は、えひめ丸事故において、アメリカ政府およびアメリカ海軍を弁護擁護する主張を繰り返した。他にも日教組大会拒否問題をその社説『主張』で取り上げたのは他紙の5日後であり、記者が組合員にバッシングされた事まで記述していた。ただし、同事件の当事者であり当時の内閣総理大臣であった森喜朗はメディアによる偏向報道を重ねて批判しており、代表的な事例として、事件が起きた時点でゴルフ場にとどまったことをマスコミが批判した際、事件当時は冬であったにも関わらずテレビ各局が半年前の夏に撮影された箱根でのゴルフの姿を繰り返し放送したことなどを挙げている。
- 読売新聞は、1974年から1975年にかけて名人戦騒動を起こした。1961年から始まった旧・名人戦は14年間に渡って約2500万円に契約金が据えおかれたため、日本棋院は新たに1億円の契約金を提示した朝日新聞社に名人戦主催権を移すことを表明した。これを受けて読売新聞は「金目当て」「信義がない」と激しいバッシングをほぼ1年にわたって囲碁界全体に加え、裁判にまで発展した。1975年末に棋聖戦創設という形で決着したものの、日本棋院の院生数の激減という結果に至り、日本囲碁界の凋落と中国・韓国の台頭の一因となった。
- テレビ、ラジオではプロスポーツ中継などで言われることがある。例えばプロ野球においては、電波、新聞ともに一方的である。例えば読売ジャイアンツが勝利するとスポーツ報知だけではなく、他の在京スポーツ新聞(日刊スポーツ・スポーツニッポン・サンケイスポーツ)がこぞって1面記事に持ち込むことがある。それに対し、みのもんたの朝ズバッ!にてみのもんたが「なんで(番組で応援している)横浜を1面にしないの?」と苦言を呈すシーンが時折見られる。
- しかしこれらは、電波でもプロスポーツ中継などについてはおよそ全ての放送局で通常、「報道扱い」にしていないためでもある。日本放送協会、民間放送連盟放送基準のいずれにも該当する基準はない。ただし、試合結果やそのダイジェストなどを報道番組中で扱う場合には報道扱いになる。日本放送協会の場合「公共放送」という立場上、その放送基準に、全ての番組内容について別途、考査規定がある。民間放送局でのプロスポーツ中継の番組種別は基本的に「娯楽」であり、一般のバラエティ番組などと同じ考査基準であるため。(日本民間放送連盟基準)。よって例えば阪神甲子園球場での阪神タイガース対読売ジャイアンツ戦ラジオ実況中継は、昔から関東ラジオ局向け(ジャイアンツ寄り実況)、関西ラジオ局向け(タイガース寄り実況)と、実況席から分けて別々に配信されている。またテレビ、ラジオ同時中継、すなわち毎日放送が同日担当した場合などでは、地元向けラジオでは「阪神タイガース寄り」、一方、東京送り、全国配信のテレビでは「できるだけ中立的に」といった配慮がなされ、あからさまにラジオで「テレビで試合をご覧のタイガースファンの方はラジオでお楽しみ下さい。」といったコメントが入れられることすらある。一方、高校野球などのアマチュアスポーツ中継などではNHK、民間放送を問わず、その主旨から極力、中立的な実況内容にされる。
- 高岡蒼甫が2011年7月23日に、「正直、お世話になったことも多々あるけど8は今マジで見ない。韓国のTV局かと思う事もしばしば。うちら日本人は日本の伝統番組を求めていますけど。取り合えず韓国ネタ出てきたら消してます。ぐっばい」とTwitter上で発言した。高岡は、韓国に対する批判ではなく、国の一大事時にどさくさ紛れに欺いて偏りをみせてる今の体制への嫌悪感から、日本を引っ張っている人間たちに対する抗議のために発言したとしている。自身の思想信条をツイッターで告白後、所属事務所のスターダストプロモーションとの間で話し合いがもたれたが平行線に終わり、高岡からは自主退職の申し出はなされなかったが契約は解消された。その後、契約解消が明らかにされた後のワイドショーの報道は高岡だけを批判する内容に終始しており、高岡の意見に賛同したり擁護する報道はほとんど見られていない。また、高岡の発言から派生した2011年のフジテレビ騒動・フジテレビ抗議デモなどもフジテレビをはじめとした在京キー局・主なメディア等では報道されていない。
レッテル貼り
- 1989年に発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の容疑者が、漫画やアニメの収集・観賞を趣味に持ついわゆる「おたく」であった事から、おたくを犯罪者予備軍として扱う批判的報道がなされた(東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件#影響参照)。その後2000年代に入ると、おたくを題材にした邦画やテレビドラマが人気を博し、それをきっかけにおたく関連の番組や特集も組まれる様になった。また、中川翔子や栗山千明といった女性芸能人がインタビュー等で堂々とおたくである事を公言したり、一般にも「腐女子」と呼ばれる女性のおたくも増えている事から、以前の様な差別や偏見は幾分和らいでいる。しかしながら、一たび凶悪事件が起きると、当該事件を想起させると見なされている漫画やアニメがバッシングの対象となる事例も依然として起きている。
- 在京キー局の番組で大阪府を取り上げる際、決まってイメージ映像は道頓堀や通天閣が使われ、さらにBGMはよしもと新喜劇のテーマソングや六甲おろしが使われている。大阪府民はすべてお笑い好き・阪神ファンであるかの印象を持たれてしまう。
海外で偏向報道として話題になる例
日本とは異なり「報道に主張はつきもの」で、偏向性は逆に各報道機関の特徴、それが商品であることも多い。報道受信者に対し「明白かつ現在の危険」を与えるものが表現規制の対象とされることから、これに該当すると認められる(法的に規制すべき表現であると認められる)報道が「偏向報道」ということにはなる。しかしながらこれは必然的に「世論を誘導する危険かつ重大な虚偽報道」に限りなく近い、あるいはそのものであったりで、実際に問題となったときには世論からのバッシングどころではなく、法的処罰を伴うといったこともあり、日本でいうところの「偏向報道」とは、ほぼ全くと言えるほどに異なるものである。
- 米国ニューヨーク・タイムズは2002年9月8日、ジュディス・ミラー記者による記事で「イラクが過去1 - 2年にウラン濃縮技術に必要なアルミニウム管数千本を入手しようとしていた」という政府関係者からの情報を掲載した。その日チェイニー副大統領はTVでのインタビューで「これは今朝のニューヨークタイムズにも載っていた確実な情報だ」と述べ、フセイン大統領の核開発疑惑を訴え、イラク戦争への世論誘導に利用した。後に捏造であると判明するこの情報を流したのは、他ならぬチェイニー副大統領のスタッフ(リビー副大統領首席補佐官)だった。いわばチェイニー副大統領の自作自演である可能性が高かったわけだが、ジュディス・ミラーとニューヨークタイムズは情報源秘匿の原則に従って、この事実をイラク開戦後もずっと隠蔽していたため「ブッシュ政権の情報操作に加担した」と厳しい批判を受けた。
- なお、ジュディス・ミラー記者はその後、イラク大量破壊兵器報道を巡るプレイム・ゲート事件に関連して連邦大陪審での証言を拒否したため収監される。同紙は「取材源秘匿」の原則に則ってミラー記者を擁護してきたが、ミラー記者が独断で取材源を明かして釈放されると一転して全社を挙げて非難に回る。同紙の編集主幹ビル・ケラーは、全社員へ当てたメールでミラー記者への擁護を撤回すると、同紙コラムニストのモリーン・ダウドはミラー記者を「大量破壊女」と批判した。同僚たちからの非難にいたたまれなくなったミラー記者は、2005年11月8日付けでニューヨークタイムズを退社したが、ニューヨークタイムズの彼女への対応は「昔付き合っていた女を振るようだ」(ニューズウィーク)と揶揄された。
- 欧米では、日本の東京電力福島第一原子力発電所の事故後、事実誤認や誇張した報道が相次いだ。米国オハイオ州のタブロイド紙には「ヒロシマ」「ナガサキ」の隣に「フクシマ」のキノコ雲が描かれた。英国のタブロイド紙は原発事故対応中に「作業員5人が死亡した」とする記事を掲載。これが各国のメディアに次々に伝送、報道される事態になり、見かねた日本の外務省はすべての在外公館に向けて「5人死亡の報道が広く流れている。類似の報道に接したら、ただちに訂正を申し入れるように」と指示する内容の訓令を出すことになった[1]。ニューヨーク・タイムズ電子版、2011年3月16日にはそのトップ画面に特報として建屋が吹き飛び、白煙を上げている福島第一原子力発電所の写真が使われ「事故は日本政府の認識よりもはるかに深刻である。在日米国人には日本政府が発表した避難距離よりも遠くに避難するように忠告する。特に4号機のプールにはほとんど、もしくは全く水がない状態であり、そこで露出している燃料棒から放射能が外部に放出されている可能性が高い。」といった内容が報じられた。同日の米国CNNウェブサイトには「災害発生、東京からの大脱出」という内容の記事が掲載された。実際、日本の外務省が見かねたほどの報道内容であるが、それでも「強制力をもって規制しなければならないもの」とはされず、自由に報道されている。
偏向報道とされる主な例
- 1989年に発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の容疑者逮捕をきっかけに、マスコミのおたくバッシングが発生したが、このときに「男性のおたく」しか例示しなかった。この頃からバブル経済を反映して元気な女性が増えたことも重なり、マスコミは女性を持ち上げる一方、男性を必要以上に貶める(中には少子化は男性が悪いという一方的な報道もあった[2])ような報道が目立ったとされる。21世紀に入り、おたくを題材にした邦画・ドラマをきっかけにおたく関連の番組や特集が増え、中川翔子や宇多田ヒカルなどの女性芸能人がテレビで堂々とおたくであることを公言したり、一般にも「腐女子」と呼ばれる女性のおたくも増えてきている。しかしながら、凶悪事件が起きると、当該事件を想起させられるようなアニメ・漫画がバッシングの対象となる場合も依然としてある。
- 1993年の総選挙の際には、テレビ朝日の報道番組が新生党や(共産党を除いた)野党を勝たせる為の報道をした「椿事件」が起こり、当時の同局報道局長が証人喚問をされる事態にまでなった[3]。この頃まではNHK以外の民間放送の各局は野党(非自民)寄りの報道をする傾向にあったが、自民党からの働きかけもあり、日本テレビ、フジテレビでは親会社である新聞社(読売新聞社、産経新聞社)の論調・編集方針が右派・保守主義な事もあり、自民党寄りの報道をするようになった。
- 三菱自動車工業によるリコール隠し(三菱リコール隠しや三菱ふそうリコール隠し)に対するメディアの対応。特に車両火災事故については全国で毎年6,000~8,000台発生し、1日平均20台以上は事故に遭遇しているにも関わらず、三菱車の車両火災にのみ特定した報道が行われた。
- 2001年5月15日、当時の長野県知事・田中康夫による、「脱・記者クラブ宣言」に地元の有力紙・信濃毎日新聞(信毎)が猛反発し、これ以後一貫して田中知事の施策・政策を批判する報道が行われ続けた。
- 2003年11月2日、TBSの情報番組『サンデーモーニング』で石原慎太郎東京都知事の「私は日韓合併の歴史を100%正当化するつもりはない」という発言が、テロップでは「100%正当化するつもりだ」と表示されて報道された[4]。
- 2007年の参議院議員選挙の際、政策論争よりも、安倍晋三首相やその内閣のバッシングに終始する週刊誌やタブロイド紙の報道が相次ぎ、見出しに「安倍不人気」「安倍惨敗必至」という文字が続いた。特に朝日新聞は2007年の参議院選挙前、連日のように「安倍首相 支持率低下」を紙面に踊らせていた。
- 産経新聞は憲法が保障する自由権(殊に言論・出版・思想・良心・結社の自由)が暴力などにより脅かされる事件が起きても、人命に関わる事態に発展しない限り社説「主張」で取り上げる事はない。これは他紙には見られない際立った編集方針である[5]。えひめ丸事件では、アメリカ政府・アメリカ海軍を弁護擁護する主張を繰り返した。日教組大会拒否問題を「主張」で取り上げたのは他紙の5日後であり、記者が組合員にバッシングされた事まで記述していた。
- バブル崩壊後の長期不況に伴い、有効求人倍率が著しく低下した社会状況の中で、若者が正規雇用にあり付けず、フリーターと呼ばれる非正規雇用の状態や失業・無業(ニート)の状態に置かれることを余儀なくされているにも関わらず、社会環境の問題としてでは無く、「努力をしない(または足りない)からだ」との自己責任論や「フリーターやニートになりたがる若者が増えている」「若者がひ弱になった」などの批判的報道が新聞・TVなどで繰り返しなされた結果、モラル・パニックを引き起こし、フリーター・ニート叩きが社会全体で加速した(→俗流若者論も参照)。また、マスコミが常に取り上げるのは、前述したような若者批判を展開する論者(学者・評論家)や、これを鵜呑みにした不勉強な芸能人の発言ばかりで、こうした言説に疑問を呈する者たち[6]からの反論を取り上げる事は殆ど無かった。
- 日本経済新聞とその傘下にあるテレビ東京では、企業側・経営側(概ね大企業)の意向を汲んだ報道姿勢が際立っており、親米保守系の読売新聞や産経新聞よりも強く新自由主義・市場原理主義を支持している。例えば、日本経団連などの経済三団体が「提言」と称して時の政府与党であった自民党と公明党に要求し続けていた消費税率の引き上げ、ホワイトカラーエグゼンプションの導入、労働者派遣法の更なる規制緩和などは、実現すればいずれも労働者側にとっては不利益になるため、他紙・他局では問題点を指摘する報道もあった。しかし、テレビ東京のニュース番組や経済番組では、「国際競争力が低下する」との財界の意向を汲んで賛成の立場を示し、問題点を検証する報道を一切行っていないばかりか、反論に対しては、ゲストコメンテーターはおろかアナウンサーまでもが「時代遅れ」と切り捨てる様子が見受けられる[7]。
- 日本テレビはプロ野球を報道する際、同じ読売グループの読売ジャイアンツの情報を長く放送し、他球団の情報は短い。
- 在京キー局で平日夕方に放送されている報道・ワイドショー番組の特集コーナー(関東ローカル枠での放送)では、関東向けであるにも拘わらず、大阪を中心とした関西圏・名古屋を中心とした中京圏といった他の地方の悪質マナー問題ばかりを取り上げ、「○○(取り上げた地域名)は東京に比べてマナーが悪い」という印象報道を行なっている[8]。
2012年自民圧勝後のマスコミの反応
- 小選挙区制がうっぷん晴らしの装置になっているようでもあり悩ましい。ますますその場しのぎの国民受けに流れないか心配になる。
- 戦前の反省をふまえた、戦後日本の歩みを転換する。そうした見方が近隣国に広がれば、国益は損なわれよう。
- とりわけ、安倍氏ら自民党が自衛隊を「国防軍」に改称する9条改憲や、尖閣諸島への公務員常駐の検討など保守色の強い路線に傾斜していることは気がかりだ。海外にも日本に偏狭なナショナリズムが広がることを警戒する声がある。冷静に外交を立て直さねば孤立化の道すら歩みかねない。
- 有権者は白紙委任したわけではない。慢心にはしっぺ返しが待っている。
- 安倍自民党は勝利におごらず、野党の主張に耳を傾けて丁寧な国会運営に努め、地に足のついた政権運営を心掛ける必要がある。集団的自衛権の行使容認など、党の主張は一時棚上げすべきではないか。政治を機能させるための忍耐は、恥ずべきことではない。
- 今回、迷って1票を投じた有権者は自民に全権を委ねたわけではない。巨大与党の勇ましい決断は危うい。安倍総裁は自民党の公約が全面的に支持されたと受け止めるべきではない。
- 大勝した自民党の安倍晋三総裁は、そこをかみしめる必要があるだろう。改憲や外交・防衛政策での強硬姿勢は特に気になる。首相として失敗した過去もある。
- 国全体に堪える力が乏しくなり、選挙がうっぷん晴らしの場になっているのではないかと危惧する。
- 自民党が掲げた看板は「日本を、取り戻す」。経済や教育、外交、安心を取り戻すというが、それがなぜ「日本を」となるのだろう。
- 右翼の躍進は日本社会の右傾化の産物でもある。民主党政権発足に対する反作用でインターネットは「ネット右翼」と呼ばれる極右勢力に掌握された。
米元高官「米で『安倍首相で日本が右傾化』と言ってたのは、同氏を憎む朝日新聞の手法を輸入した人やメディア」
「安倍政権誕生となると、北京の論客たちはあらゆる機会をとらえて『日本はいまや右傾化する危険な国家だ』と非難し続けるでしょう。しかし『右傾化』というのが防衛費を増し、米国とのより有効な防衛協力の障害となる集団的自衛権禁止のような旧態の規制を排することを意味するのなら、私たちは大賛成です」
ブッシュ前政権の国家安全保障会議でアジア上級部長を務めたマイケル・グリーン氏が淡々と語った。日本の衆院選の5日ほど前、ワシントンの大手研究機関、ヘリテージ財団が開いた日韓両国の選挙を評価する討論会だった。日本については自民党の勝利が確実ということで安倍政権の再登場が前提となっていた。
CIAの長年の朝鮮半島アナリストを経て、現在は同財団の北東アジア専門の上級研究員であるブルース・クリングナー氏も、「右傾」の虚構を指摘するのだった。
「日本が右に動くとすれば、長年の徹底した消極平和主義、安全保障への無関心や不関与という極端な左の立場を離れ、真ん中へ向かおうとしているだけです。中国の攻撃的な行動への日本の毅然とした対応は米側としてなんの心配もありません」
確かに「右傾」というのはいかがわしい用語である。正確な定義は不明なまま、軍国主義や民族主義、独裁志向をにじませる情緒的なレッテル言葉だともいえよう。そもそも右とか左とは政治イデオロギーでの右翼や左翼を指し、共産主義や社会主義が左の、反共や保守独裁が右の極とされてきた。
日本や米国の一部、そして中国からいま自民党の安倍晋三総裁にぶつけられる「右傾」という言葉は、まず国の防衛の強化や軍事力の効用の認知に対してだといえよう。だがちょっと待て、である。現在の世界で軍事力増強に持てる資源の最大限を注ぐ国は中国、そして北朝鮮だからだ。この両国とも共産主義を掲げる最左翼の独裁国家である。だから軍事増強は実は「左傾化」だろう。
まして日本がいかに防衛努力を強めても核兵器や長距離ミサイルを多数、配備する中国とは次元が異なる。この点、グリーン氏はフィリピン外相が最近、中国の軍拡への抑止として日本が消極平和主義憲法を捨てて、「再軍備」を進めてほしいと言明したことを指摘して語った。
「日本がアジア全体への軍事的脅威になるという中国の主張は他のアジア諸国では誰も信じないでしょう。東南アジア諸国はむしろ日本の軍事力増強を望んでいます」同氏は米国側にも言葉を向ける。
「私はオバマ政権2期目の対日政策担当者が新しくなり、韓国の一部の声などに影響され、安倍政権に対し『右傾』への警告などを送ることを恐れています。それは大きなミスとなります。まず日本の対米信頼を崩します」
グリーン氏は前の安倍政権時代の米側の動きをも論評した。「米側ではいわゆる慰安婦問題を機に左派のエリートやニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズが安倍氏を『危険な右翼』としてたたきました。安倍氏の政府間レベルでの戦略的な貢献を認識せずに、でした。その『安倍たたき』は日本側で同氏をとにかく憎む朝日新聞の手法を一部、輸入した形でした。今後はその繰り返しは避けたいです」
不当なレッテルに惑わされず、安倍政権の真価を日米同盟強化に資するべきだという主張だろう。
ノロウィルス感染世界地図で「韓国は無し」と表示(2012年12月)
- 日本国内でウイルス変異株出現・韓国ではノロウイルス汚染、キムチ751トン
- 年末年始が怖いノロウィルス・パンデミック
- 西安東農協・豊山キムチ工場が先月9日から今月4日にかけて生産したキムチや調味料751トンがノロウイルスに汚染された可能性があることが分かった。このうち50トン余りのみが回収できた。
報道の信頼性の低下とメディアの多様化
偏向報道による世論操作は、政治や経済や倫理に影響を与えかねず、実際に社会を変容させたり、国民に対してマスコミ主導のミスリードを招いている例(戦時下のなどの自主規制とそれに続く言論統制など)がある[9]。
また、既存メディアに限らず、インターネット上においてもイデオロギーに影響された情報や信憑性に疑問符が付く情報を鵜呑みにし、影響されてしまう現状が考えられており、メディア・リテラシー教育の必要性が叫ばれる一つの理由となっている。
脚注
- ↑ 朝日新聞 2011年4月7日。
- ↑ 朝日新聞1990年6月7日付天声人語。同新聞1992年7月19日付記事。TBS『朝のホットライン』等多数。また日本経済新聞が少子化は男性の責任と間接的に批判する報道はしばしば見られる。
- ↑ 田原総一朗#朝まで生テレビ!/サンデープロジェクトも参照。
- ↑ 詳しくはサンデーモーニング#テロップ「捏造」疑惑を参照。
- ↑ ただし、メディア規制三法には反対の立場である。
- ↑ 雨宮処凛、本田由紀、内藤朝雄、後藤和智など。
- ↑ テレビ東京#日本経済新聞の支配も参照。
- ↑ 寺谷一紀#東京一極集中への反発も参照。
- ↑ 記者クラブおよび報道も参照。