「森鴎外」の版間の差分

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		+	{{記事名の制約|title=森{{JIS2004フォント|鷗}}外}}
		+	{{JIS2004}}
		+	{{Infobox 作家
		+	| name          = 森 {{JIS2004フォント|&#40407;}}外<br />（もり おうがい）
		+	| image        = Ougai Mori October 22, 1911.jpg
		+	| imagesize    =
		+	| caption      = 森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外（1911年）
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		+	| birth_name    =
		+	| birth_date    = [[1862年]][[2月17日]]
		+	| birth_place  = {{JPN}}<br />[[石見国]][[津和野町|津和野]]<br />（現・[[島根県]][[津和野町]]）
		+	| death_date    = {{死亡年月日と没年齢|1862|2|17|1922|7|9}}
		+	| death_place  =
		+	| resting_place = [[禅林寺 (三鷹市)|禅林寺]]
		+	| occupation    = [[小説家]]<br />[[評論家]]<br />[[翻訳家]]<br />[[劇作家]]<br />[[帝国陸軍|陸軍]][[軍医]]<br />[[高等官|官僚]]
		+	| language      = [[日本語]]
		+	| nationality  = {{JPN}}
		+	| education    = [[博士]]（[[医学]]・[[文学]]）
		+	| alma_mater    = [[東京大学]][[医学部]]
		+	| period        = [[1889年]] - [[1922年]]
		+	| genre        = [[小説]]<br />[[翻訳]]<br />[[史伝]]
		+	| subject      = 近代知識人の苦悩
		+	| movement      = [[ロマン主義]]<br />[[高踏派]]
		+	| notable_works = 『[[舞姫]]』（1890年）<br />『[[ヰタ・セクスアリス]]』（1909年）<br />『[[青年 (小説)|青年]]』（1910年）<br />『[[雁 (小説)|雁]]』（1911年）<br />『[[阿部一族]]』（1913年）<br />『[[山椒大夫]]』（1915年）<br />『[[高瀬舟 (小説)|高瀬舟]]』（1916年）<br/>『[[渋江抽斎]]』（1916年、史伝）
		+	| awards        =
		+	| debut_works  = 『於母影』（1889年）
		+	| spouse        = 登志子（[[1889年]] - [[1890年]]）<br />[[森志け|志け]]（[[1902年]] - [[1922年]]）
		+	| partner      =
		+	| children      = [[森於菟|於菟]]（長男）<br />[[森茉莉|茉莉]]（長女）<br />[[小堀杏奴|杏奴]]（次女）<br />不律（二男）<br />[[森類|類]]（三男）
		+	| relations    =
		+	| influences    = [[ハンス・クリスチャン・アンデルセン|アンデルセン]]、[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]､[[ウィリアム・シェイクスピア|シェイクスピア]]､[[フリードリヒ・フォン・シラー|シラー]]、[[ゲアハルト・ハウプトマン|ハウプトマン]]、[[アルトゥル・ショーペンハウアー|ショーペンハウアー]]、[[エドゥアルト・フォン・ハルトマン|フォン・ハルトマン]]、[[夏目漱石]]、依田學海など
		+	| influenced    = 多くの日本の作家
		+	| signature    =
		+	| website      =
		+	}}
		+	'''森 {{JIS2004フォント|&#40407;}}外'''（もり おうがい、[[1862年]][[2月17日]]（[[文久]]2年[[1月19日 (旧暦)|1月19日]]）– [[1922年]]（[[大正]]11年）[[7月9日]]）は、[[明治]]・[[大正]]期の[[小説家]]、[[評論家]]、[[翻訳家]]、[[劇作家]]、[[大日本帝国陸軍|陸軍]][[軍医]]（[[軍医総監#旧日本軍における軍医総監|軍医総監]]＝[[中将]]相当）、[[官僚]]（[[高等官]]一等）。[[位階]][[勲等]]は[[従二位]]・[[勲一等]]・[[功三級]]・[[医学博士]]・[[文学博士]]。本名は'''森 林太郎'''（もり りんたろう）。
		+
		+	[[石見国]][[津和野]]（現・[[島根県]][[津和野町]]）出身。[[東京大学]][[医学部]]<ref>入学時は第一大学区医学校予科</ref>卒業。第一次世界大戦以降、[[夏目漱石]]と並ぶ文豪と称される。
		+
		+	大学卒業後、陸軍[[軍医]]になり、[[陸軍省]]派遣留学生として[[ドイツ]]で4年過ごした。帰国後、訳詩編「[[於母影]]」、小説「[[舞姫]]」、翻訳「[[即興詩人]]」を発表する一方、同人たちと文芸雑誌『[[しがらみ草紙]]』を創刊して文筆活動に入った。その後、[[日清戦争]]出征や[[北九州市|小倉]]転勤などにより、一時期創作活動から遠ざかったものの、『[[スバル (文芸雑誌)|スバル]]』創刊後に「[[ヰタ・セクスアリス]]」「[[雁 (小説)|雁]]」などを発表。[[乃木希典]]の[[殉死]]に影響されて「[[興津弥五右衛門の遺書]]」を発表後、「[[阿部一族]]」「[[高瀬舟 (小説)|高瀬舟]]」など歴史小説や史伝「[[渋江抽斎|澁江抽斎]]」等も執筆した。
		+
		+	晩年、[[帝室博物館]]（現在の[[東京国立博物館]]・[[奈良国立博物館]]・[[京都国立博物館]]等）総長や[[帝国美術院]]（現[[日本芸術院]]）初代院長なども歴任した。
		+
		+	== 生涯 ==
		+	=== 生い立ち ===
		+	[[1862年]][[2月17日]]（[[文久]]2年[[1月19日_(旧暦)|1月19日]]）、[[石見国]][[津和野町|津和野]]（現[[島根県]]）で生まれた。代々[[津和野藩]]主、[[亀井氏|亀井家]]の[[御典医]]をつとめる森家では、祖父と父を婿養子<ref>祖母も養子であり、祖父母の代で森家の血筋が絶えていた。このため{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、親戚の[[西周 (啓蒙家)|西周]]と血がつながっていない。</ref>として迎えているため、久々の跡継ぎ誕生であった<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外誕生の前年、祖父の白仙が[[東海道]]の[[土山宿]]で病死したため、とくに祖母は{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を白仙の生まれ変わりといって喜び、後年、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が留学と出征から無事帰国するたびに、はらはらと涙を落としたという（[[#小金井1999|小金井（1999）]]）。</ref>。
		+
		+	藩医の嫡男として、幼い頃から[[論語]]や[[孟子]]やオランダ語などを学び、藩校の[[養老館]]では[[四書五経]]を復読。当時の記録から、9歳で15歳相当の学力と推測されており<ref>[[#平川ら1997a|平川ら（1997a）]]、15頁。なお同書は、学生、作家、軍医、家庭人の側面から、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の実像にせまった。</ref>、激動の[[明治維新]]に家族と周囲から将来を期待されることになった。
		+
		+	[[1872年]]（[[明治]]5年）、[[廃藩置県]]等をきっかけに10歳で父と上京。東京では、官立医学校（ドイツ人教官がドイツ語で講義）への入学に備え、ドイツ語を習得するため、同年10月に私塾の進文学社<ref>ドイツ人教員がいて生徒の1割強が華族の身分。当時の父親の収入を踏まえると、西周が学費も世話をしたという説がある。</ref>に入った。その際に通学の便から、政府高官の親族[[西周 (啓蒙家)|西周]]の邸宅に一時期寄食した。翌年、残る家族も住居などを売却して津和野を離れた。
		+
		+	=== 陸軍軍医として任官 ===
		+	[[1873年]]（明治6年）[[11月]]、入校試問を受け、[[第一大学区医学校]]（現・[[東京大学]]医学部）[[予科]]に実年齢より2歳多く偽り、11歳で入学（新入生71名。のちに首席で卒業する[[三浦守治]]も同時期に入学）<ref>校名が頻繁に変更されたように当時は、大学制度確立の過渡期にあたる。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が入学した明治6年度は、予科（[[旧制高等学校]]に相当する課程）の入学年齢制限が14歳–17歳であった（明治7年度は15歳以下の入学が見合わされており、明治8年度は入学年齢制限が16歳 - 20歳に引き上げられた）。また9月入学の予定であったものの、明治6年度は、定員100名に達しなかったため、学生募集が続けられた。最終的に実年齢をいつわった11歳の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外のほか、17歳の上限年齢を超えた18歳と19歳の応募者も入学した（計71名）。なお、[[本科]]に進めるのは30名にすぎず、上級の落第者と編入生を加え、予科生は厳しい競争にさらされた。ちなみに、予科71名の新入生はドイツ語の能力で3クラスに分けられており、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の属した中位のクラスでストレートに本科を卒業したのは24名のうち11名、下位のクラスでストレートに本科を卒業したのは41名のうち2名であった（[[#平川ら1997a|平川ら（1997a）]]、129–134頁）。</ref>。
		+
		+	定員30人の本科に進むと、ドイツ人教官たちの講義を受ける一方で、[[佐藤元長]]に就いて[[漢方医学|漢方]]医書を読み、また文学を乱読し、[[漢詩]]・[[漢文]]に傾倒し、[[和歌]]を作っていた<ref>[[#平川ら1997a|平川ら（1997a）]]、112-118、142頁。なお、[[依田學海]]から漢文を、[[佐藤応挙]]から漢詩と和歌を、[[伊藤松渓]]（孫一）から漢詩を学んでいた。</ref>。
		+
		+	なお語学に堪能な{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、後年、執筆に当たってドイツ語など西洋語を用いるとともに、中国の故事などをちりばめた。さらに、自伝的小説「[[ヰタ・セクスアリス]]」で[[語源]]を西洋語の学習に役立てる逸話を記した<ref>自伝的小説「ヰタ・セクスアリス」に主人公の[[哲学者]][[金井湛]]の体験として「寄宿舎では、その日の講義のうちにあった術語だけを、希臘拉甸の語原を調べて、赤インキでペエジの縁に注して置く。教場の外での為事は殆どそれ切である。人が術語が覚えにくくて困るというと、僕は可笑しくてたまらない。何故語原を調べずに、器械的に覚えようとするのだと云いたくなる。」と記された。</ref>。
		+
		+	[[1881年]]（明治14年）[[7月4日]]、19歳で本科を卒業（今後も破られないであろう最年少卒業記録）。卒業席次が8番であり<ref>卒業席次が8番となった理由として、卒業試験の最中に下宿が火事になって講義ノート類を焼失したり、[[外科学]]のシュルツ教授が{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の講義ノートに漢文の書き込みを見つけて反感を買ったりした等が挙げられる。また妹の回想には、下宿に同居して{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の世話をしていた祖母が、卒業試験前に文学書を読みふける{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を心配するくだりがある。しかし、首席で卒業した[[三浦守治]][[東京帝国大学]]教授が門下生に{{Quotation|余ガ大学ニ在ルヤ同級生ニ森林太郎ノ俊才アリ、[[高橋順太郎]]ノ勉強アリ。共ニ畏敬セル競争者ナリキ}}と語ったなど、卒業席次上位10名の中で他者より5 - 7歳年下の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、なかなか優秀であった。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、38頁。</ref>、大学に残って研究者になる道は閉ざされたものの、[[文部科学省|文部省]]派遣留学生としてドイツに行く希望を持ちながら、父の病院を手伝っていた。その進路未定の状況を見かねた同期生の[[小池正直]]（のちの[[陸軍省#医務局|陸軍省医務長]]）は、[[陸軍軍医本部]]次長の[[石黒忠悳]]に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を採用するよう長文の熱い推薦状を出しており、また小池と同じく[[陸軍軍医]]で日本の[[耳鼻咽喉科学]]の創始者といわれる親友の[[賀古鶴所]]{{small|（かこ・つると）}}は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外に[[陸軍省]]入りを勧めていた。結局のところ{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、同年[[12月16日]]に陸軍軍医副（中尉相当）になり、[[東京陸軍病院]]に勤務した<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の陸軍省入りには、当時の[[軍医総監]]、[[林研海|林紀]]とじっこんの間柄である[[西周 (啓蒙家)|西周]]の助力も働いていたようで、[[1882年]]（明治15年）[[5月]]には同期の中で初の「[[軍医本部]]付」となった。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、41–42頁。</ref>。
		+
		+	なお、妹・[[小金井喜美子]]の回想によれば、若き日の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、[[四君子]]を描いたり、庭を写生したり、職場から帰宅後しばしば寄席に出かけたり（喜美子と一緒に出かけたとき、ある落語家の長唄を聴いて中座）していた<ref>[[#小金井1999|小金井（1999）]]、35–37, 39頁。</ref>。
		+
		+	=== ドイツ留学 ===
		+	[[File:Mori-Ogai-Gedenkstätte.jpg|thumb|250px|森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外記念館、ドイツ・ベルリン]]
		+	入省して半年後の[[1882年]]（明治15年）5月、[[東京大学医学部]]卒業の同期8名の中で最初の[[軍医本部]]付となり、[[プロイセン]]の[[陸軍衛生制度]]に関する文献調査に従事し、早くも翌年3月には『[[医政全書稿本]]』全12巻<ref>『[[医政全書稿本]]』全十二巻の前部は、[[陸軍衛生制度]]のほか、軍隊での儀礼や法制、経理、給与、設営などが取り上げられた。また、その後部は、[[軍陣衛生]]の各論で構成された。二十歳の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、そうした膨大な内容の稿本を十ヶ月ほどで編集したのである。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、45頁。</ref>を役所に納めた。[[1884年]]（明治17年）6月、[[衛生#衛生学|衛生学]]を修めるとともに[[ドイツ]]陸軍の[[衛生制度]]を調べるため、ドイツ留学を命じられた。[[7月28日]]、[[明治天皇]]に拝謁し、[[賢所]]に参拝。[[8月24日]]、陸軍省派遣留学生として[[横浜港]]から出国し、[[10月7日]]に[[フランス]]の[[マルセイユ]]港に到着。同月11日に首都[[ベルリン]]に入った。
		+
		+	最初の1年を過ごした[[ライプツィヒ]]（1884年[[11月22日]]–翌年[[10月11日]]）で、生活に慣れていない{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を助けたのが、昼食と夜食をとっていたフォーゲル家の人達であった<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、ドレスデンに移った年のクリスマス休暇で、ライプツィヒに出かけた。予定を延ばして滞在したものの、[[12月30日]]さらに滞在をすすめる人たちに別れを告げた。[[#金子1992|金子（1992）]]、15–18頁。</ref>。
		+
		+	また、黒衣の女性ルチウスなど下宿人たちとも親しくつきあい、[[ライプツィヒ大学]]では[[フランツ・ホフマン|ホフマン]]など良き師と同僚に恵まれた。演習を観るために訪れた[[ザクセン王国]]の首都[[ドレスデン]]では、[[ドレスデン美術館]]の[[アルテ・マイスター絵画館]]にも行き、[[ラファエロ・サンティ|ラファエロ]]の「[[システィーナの聖母]]」を鑑賞した。
		+
		+	次の滞在地ドレスデン（[[1885年]][[10月11日]]–翌年[[3月7日]]）では、主として[[軍医学講習会]]に参加するため、5ケ月ほど生活した。王室関係者や軍人との交際が多く、王宮の舞踏会や貴族の夜会や[[宮廷劇場]]などに出入りした。その間、2人の大切な友人を得た。1人は{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の指導者[[ザクセン]]軍医監の[[ウィルヘルム・ロート]]で、もう1人は外国語が堪能な同僚軍医のキルケ<ref>キルケの名は、ドレスデン滞在時の日記に17回登場し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外がドレスデンを離れた後も、つきあいが続いていた（[[#金子1992|金子（1992）]]、42頁）。</ref>である。なお、ドレスデンを離れる前日、[[ハインリッヒ・エドムント・ナウマン|ナウマン]]の講演に反論し、のちに[[ミュンヘン]]の一流紙で論争となった。
		+
		+	ミュンヘン（[[1886年]][[3月8日]]–翌年[[4月15日]]）では、[[ミュンヘン大学]]の[[マックス・フォン・ペッテンコーファー|ペッテンコーファー]]に師事した。研究のかたわら、邦人の少なかったドレスデンと異なり、同世代の[[原田直次郎]]や[[近衛篤麿]]など名士の子息と交際し、よく観劇していた。
		+
		+	次の[[ベルリン]]（[[1887年]][[4月16日]]–翌年[[7月5日]]）でも、早速[[北里柴三郎]]とともに[[ロベルト・コッホ|コッホ]]に会いに行っており、[[細菌学]]の入門講座をへてコッホの衛生試験所に入った<ref>近代[[細菌学]]の開祖とされるコッホは、[[ミュンヘン大学]]の恩師[[マックス・フォン・ペッテンコーファー|ペッテンコーファー]]と対立していたが、北里柴三郎の勧めもあり、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外はコッホにも師事した。</ref>。
		+
		+	9月下旬、[[カールスルーエ]]で開催される第4回[[赤十字社|赤十字]]国際会議の日本代表（首席）としてドイツを訪れていた石黒忠悳に随行し、通訳官として同会議に出席。9月26日・27日に発言し、とりわけ最終日の27日は「ブラボー」と叫ぶ人が出るなど大きな反響があった<ref>9月26日は、[[オランダ]]代表の「欧州外の戦争で傷病者を救助すべきか否か」という問題提起に、「眼中唯〃欧州人の植民地あるを見て発したる倉卒の問いなり」と発言。翌27日の最終日は、石黒忠悳の許可を得て「アジア外の諸邦に戦いあるときは、日本諸社は救助に力を尽くすこと必然ならんと思考す」と演説し、喝采を博した。ちなみに、その演説主旨は、4月18日に同期の[[谷口謙]]とともに[[乃木希典]]、[[川上操六]]の両少将を訪問したとき、どちらかの少将の発言内容とほぼ同じである。もっとも当時、あまり知られていない極東の小国（[[モンゴロイド]]で非[[キリスト教]]徒の国）の通訳官が、国際会議で発言すること自体、相当勇気が必要であろう。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、66–67, 70–73頁。</ref>。
		+
		+	会議を終えた一行は、[[9月28日]][[ウイーン]]に移動し、[[万国衛生会]]に[[日本政府]]代表として参加した。11日間の滞在中、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は恩師や知人と再会した。[[1888年]]（明治21年）1月、[[大和会]]の新年会でドイツ語の講演をして公使の[[西園寺公望]]に激賞されており、18日から[[田村怡与造]]大尉の求めに応じて[[カール・フォン・クラウゼヴィッツ|クラウゼヴィッツ]]の『[[戦争論#日本での成立|戦争論]]』を講じた。なお、留学が一年延長された代わりに、地味な隊付勤務（プロイセン近衛歩兵第2連隊の医務）を経験しており、そうしたベルリンでの生活は、ミュンヘンなどに比べ、より「公」的なものであった。ただし、後述するドイツ人女性と出会った都市でもあった。
		+
		+	同年[[7月5日]]、石黒とともにベルリンを発ち、帰国の途についた。[[ロンドン]]（[[保安条例]]によって東京からの退去処分を受けた[[尾崎行雄]]に会い詩を4首おくった）や[[パリ]]に立ち寄りながら、[[7月29日]][[マルセイユ港]]を後にした。[[9月8日]]横浜港に着き、午後帰京。同日付けで[[陸軍軍医学校|陸軍軍医学舎]]の教官に補され、11月には[[陸軍大学校#日本陸軍の陸大|陸軍大学校]]教官の兼補を命じられた。なお帰国直後、ドイツ人女性が来日して滞在一月（1888年[[9月12日]] - [[10月17日]]）ほどで離日する出来事があり、小説「[[舞姫]]」の素材の一つとなった<ref>現在、来日したドイツ人女性について3人の名が挙がっている。[[#植木2000|植木（2001）]]は、年上の既婚者'''エリーゼ・ヴァイゲルト'''（Elise Weigert。ヴィーゲルトWiegertの可能性も指摘された）説を否定し、遺産を得ていた仕立物師の娘'''アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルト'''（Anna Berta Luise Wiegert）（[[1872年]][[12月16日]]- [[1951年]]）説を新たに唱え、AnnaとLuiseが{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の子供達の名（杏奴、類）と一致すること等も指摘した。[http://www.asahi.com/travel/traveler/TKY200703030197.html 森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と「エリス」―ドイツ・ベルリン]。しかし、その後に刊行された[[#林2005|林（2005）]]と[[#小平2006|小平（2006）]]は、植木説ではなく、従来の主流である年上の既婚者説をとった。[[2010年]]11月19日、植木説に基づくTV番組NHKハイビジョン特集「{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の恋人～百二十年後の真実～」（90分）が放送された。放送直後、[[#今野2010|今野（2010）]]が刊行され、当時15歳のドイツ人女性が単身来日でき、また偽名でも日独間を行き来できる可能性があったこと等を明らかにした。[[2011年]]3月、[[六草いちか]]が'''エリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルト'''説を発表した。その根拠として、名前、出生地、帰国後の職業、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外帰国時の年齢（21歳）、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の娘の名前：茉莉と杏奴（エリーゼのミドルネームと妹がアンナ）等を挙げた。[[#六草2011|六草（2011）]]。[http://www.asahi.com/culture/update/0309/TKY201103090709.html {{JIS2004フォント|&#40407;}}外「舞姫」のモデルは彼女？　洗礼記録発見、経歴一致]</ref>。後年、文通をするなど、その女性を生涯忘れることは無かったとされる<ref>[[#小堀1981|小堀（1981）]]、195-196頁。</ref>。
		+
		+	=== 初期の文筆活動 ===
		+	[[1889年]]（明治22年）[[1月3日]]、[[読売新聞]]の付録に「[[小説]]論」<ref>日本で最初に、[[エミール・ゾラ|ゾラ]]の文学的傾向の実体を紹介するものとなった。ちなみに、日本でゾラの自然主義の影響が出始めたのは、明治30年代である。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、100頁。</ref>を発表し、さらに同日の読売新聞から、弟の[[三木竹二]]とともに[[ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ|カルデロン]]の戯曲「調高矣津弦一曲」（原題：サラメヤの村長）を共訳して随時発表した。その翻訳戯曲を高く評価したのが[[徳富蘇峰]]であり、8月に蘇峰が主筆をつとめる[[民友社]]の雑誌『[[国民之友]]』夏期文芸付録に、訳詩集「[[於母影]]」（署名は「S・S・S」（[[新声社]]の略記）<ref>[[新声社]]の同人は、[[落合直文]]、[[市村さん次郎|市村瓚次郎]]、[[井上通泰]]、[[三木竹二]]（{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の実弟）、[[小金井喜美子]]（実妹で既婚）、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外本人の計6名。ただし竹二は、「於母影」の共訳に参加していない。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、103頁。</ref>）を発表した。その「於母影」は、日本近代詩の形成などに大きな影響を与えた。また「於母影」の原稿料50円をもとに、竹二など同人たちと日本最初の評論中心の専門誌『[[しがらみ草紙]]』を創刊した（日清戦争の勃発により59号で廃刊）<ref>『しがらみ草紙』は、3号に[[坪内逍遥]]と[[幸田露伴]]の、4号に[[山田美妙]]と[[石橋忍月]]の文が掲載され、その地位が高まった。最盛期に2,000部が売られた。</ref>。
		+
		+	このように、外国文学などの翻訳を手始めに（「[[即興詩人]]」「[[ファウスト]]」などが有名）<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の「翻訳」（広義）ぶりの現代的意味は、[[#長島2005|長島（2005）]]が参考になる。ちなみに、『{{JIS2004フォント|&#40407;}}外全集』53巻（岩波書店、1951-1956年）の内訳は、著作編33巻、翻訳編18（戯曲10、小説6、戦論・医事2）巻、別巻2である。</ref>、熱心に評論的啓蒙活動をつづけた。当時、情報の乏しい欧州ドイツを舞台にした「舞姫」「[[うたかたの記]]」「[[文づかひ]]」を相次いで発表。とりわけ、日本人と外国人が恋愛関係になる「舞姫」は、読者を驚かせたとされる。そのドイツ三部作をめぐって[[石橋忍月]]と論争を、また『しがらみ草紙』上で[[坪内逍遥]]の記実主義を批判して[[没理想論争]]を繰り広げた。
		+
		+	[[1889年]]（明治22年）に東京美術学校（現[[東京藝術大学]]）の美術解剖学講師を<ref>[[日清戦争]]後、[[東京美術学校]]に復職した後、[[審美学]]と[[西洋美術史]]を講じた（[[#新関2008|新関（2008）]]、180頁）。</ref>、[[1892年]]（明治25年）9月に[[慶應義塾大学]]の審美学（[[美学]]の旧称）<ref>（[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、202頁）は、「遅れた社会に科学を育てるには条件が必要。それは「標準」である。「芸術」の「標準」として{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は乾いた日本の土壌に「審美学」を植え付けようとした」と指摘した。</ref>講師を委嘱された（いずれも[[日清戦争]]出征時と小倉転勤時に解嘱）。
		+
		+	=== 日清戦争出征と小倉「左遷」 ===
		+	[[1894年]]（明治27年）夏、[[日清戦争]]勃発により、[[8月29日]]に東京を離れ、[[9月2日]]に広島の[[宇品港]]を発った。翌年の[[下関条約|日清講和条約]]の調印後、[[1894年|5月]]に[[近衛師団]]つきの[[従軍記者]]・[[正岡子規]]が帰国の挨拶のため、[[第2軍 (日本軍)#日清戦争における第2軍|第2軍]][[兵站部]]軍医部長の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を訪ねた<ref>当時[[遼東半島]]にいた{{JIS2004フォント|&#40407;}}外などとの交際は、[[遼東半島|遼東]]五友の交わりといわれた。その五友とは、新聞『[[日本 (新聞)|日本]]』の[[正岡子規]]と[[中村不折]]、『[[読売新聞]]』の[[河東銓]]（かわひがし せん。俳人[[河東碧梧桐]]の兄）、[[久松定謨]]、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の5人である（[[#佐谷2009|佐谷（2009）]]、54頁）。なお、[http://blog.hix05.com/blog/2009/01/post-892.html#more 子規との交際は小倉に転勤するまでつづき]、不折とは生涯つづいた。</ref>。
		+
		+	清との戦争が終わったものの、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は日本に割譲された[[台湾]]での勤務を命じられており（朝鮮勤務の[[小池正直]]とのバランスをとった人事とされる）、[[5月22日]]に[[宇品港]]に着き（心配する家族を代表して訪れた弟の竹二と面会）、2日後には初代[[台湾総督]]の[[樺山資紀]]等とともに台湾に向かった。4ヶ月ほどの台湾勤務を終え、[[10月4日]]に帰京。
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		+	翌[[1896年]]（明治29年）1月、『[[しがらみ草紙]]』の後を受けて[[幸田露伴]]・[[斎藤緑雨]]とともに『[[めさまし草]]』を創刊し、合評「[[三人冗語]]」を載せ、当時の評壇の先頭に立った（[[1902年]]廃刊）<ref>1月に創刊された『[[めさまし草]]』は、3月から「三人冗語」が掲載され、9月以降これに[[依田学海]]・[[饗庭篁村]]（あえば こうそん）・[[森田思軒]]・[[尾崎紅葉]]等が加わり、「雲中語」として評判になった。[[尾崎紅葉|紅葉]]・[[川上眉山]]・[[正岡子規]]・[[高浜虚子]]・[[落合直文]]などが文を寄せた。また「[[於母影]]」の共訳者であった[[井上通泰]]の実弟、[[柳田国男]]も[[松岡国男]]名で歌評を書いており、[[夏目漱石]]の俳句も掲載された（3号）。</ref>。
		+
		+	なお、その頃より、評論的啓蒙活動が戦闘的ないし論争的なものから、穏健的なものに変わっていった<ref>[[#池内2001|池内（2001）]]、67頁</ref>。[[1898年]]（明治31年）7月9日付『[[万朝報]]』の連載「弊風一斑　蓄妾の実例」のなかで、「[[児玉せき]]」との交情をあばかれた<ref>「[[児玉せき]]（32）なる女を十八、九の頃より妾として非常に寵愛し、かつて児まで挙けたる細君を離別してせきを本妻に直さんとせしも母の故障によりて果たす能わず」とある。現代教養文庫、1992年、14頁。なお児玉に関し、[[森まゆみ]]が「[[無縁坂]]の女」として章を立て、いきさつ等を記した。[[#森まゆみ2000|森まゆみ（2000）]]、297-343頁。</ref>。
		+
		+	[[File:Mori Ogai house Kokura.jpg|thumb|220px|森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外旧居（[[北九州市]][[小倉北区]][[鍛冶町 (北九州市)|鍛冶町]]）]]
		+	[[1899年]]（明治32年）6月に軍医監（[[少将]]相当）に昇進し、東京（東部）・大阪（中部）とともに[[都督部]]が置かれていた[[小倉市|小倉]]（西部）の[[第12師団 (日本軍)|第12師団]][[軍医部長]]に「左遷」<ref>この人事は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外本人の受け止め方を別にして当時の状況を踏まえれば、左遷と言えるのか疑問視する声もある（[[#松本1997|松本 （1997）]]、108-111頁）。なお、その小倉転勤は、前任者の[[江口襄]]（作家[[江口渙]]の父。なお渙の『わが文学半生記』青木文庫、1953年には父の友人として{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の名が何度か登場）が着任後わずか8ケ月で辞職（軍医の開業禁止を受け、病院での診療に専念）したために行われた穴埋め人事である。このため、後任の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、ほかの新設5師団の軍医部長5名と同じように[[1902年]]（明治35年）3月まで在任した。</ref>された。19世紀末から新世紀の初頭をすごした小倉時代には、歴史観と近代観にかかわる一連の随筆などが書かれた<ref>「[[{{JIS2004フォント|&#40407;}}外漁史とは誰ぞ]]」（文壇時評）、「[[原田直次郎]]」（日本の近代西洋絵画）、「[[潦休録]]」（近代芸術）、「[[我をして九州の富人たらしめば]]」（社会問題）、「[[義和団の乱|北清事件]]の一面の観察」（講演録）、「[[新社会合評]]」（[[矢野竜渓]]『新社会』の評論で[[社会主義]]などを記述）（[[#池内2001|池内（2001）]]、73-92頁）。</ref>。
		+
		+	またドイツ留学中、[[田村怡与造]]に講じていた難解な[[クラウゼヴィッツ]]の『[[戦争論]]』について、師団の将校たちに講義をするとともに、[[井上光]]師団長などの依頼で翻訳をはじめた<ref>末弟の[[森潤三郎]]は、『[[戦争論]]』の翻訳について「この事は軍人社会に兄の声望を重からしめ、[[山縣有朋|山県]]元帥に名を知られる因となった。」と書いた（[[#森潤三郎1942|森潤三郎（1942）]]）</ref>。その内部資料は、ほかの部隊も求めたという。
		+
		+	小倉時代に「圭角がとれ、胆が練れて来た」と末弟の[[森潤三郎]]が記述したように、そのころ{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、社会の周縁ないし底辺に生きる人々への親和、慈しみの眼差しを獲得していた<ref>後年、小倉時代を素材にした短編小説『鶏』で表れたように、田中美代子は、小倉での生活によって「それまで一途に中央志向に凝り固まっていた{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、だが次第に、日本の懐深く息づいている土着の魂というべきものに目覚めていったのではなかろうか。」と指摘した（[[#森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外1996|森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外（1996）]]、「解説」）。また、「上京して以来、（中略）ドイツでの留学生活を除いて、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の生活の場であり続けた東京と比べると、人々の生活・行動規範が緩やかで、ある意味で自由奔放な北九州のローカル都市・小倉と、そこで生活する人々の生活風俗は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外にとって異質で、新鮮な世界を意味していた」（[[#末延2008|末延（2008）]]、112、114頁）。</ref>。
		+
		+	私生活でも、[[徴兵検査]]の視察時などで各地の歴史的な文物、文化、事蹟との出会いを通し、とくに後年の史伝につながる掃苔（探墓）の趣味を得た<ref>[[貝原益軒]]（博多）の墓を皮切りに、[[加藤清正]]（熊本）、[[高山彦九郎]]（久留米）、[[広瀬淡窓]]（大分県[[日田]]）など、文人と武人の墓を探して参り、墓碑を筆記した。また東京に出張する途中、客死した祖父、森白仙（1861年、東海道の[[土山宿]]で没）の墓も参った。[[#末延2008|末延（2008）]]、117頁。</ref>。
		+
		+	新たな趣味を得ただけではなく、[[1900年]]（明治33年）1月に先妻・[[赤松登志子]]が[[結核]]で死亡したのち<ref>[[西周 (啓蒙家)|西周]]等とともに幕府派遣留学生であった[[赤松則良]]海軍中将の長女、登志子との結婚生活は、1年半ほどで破綻した。
		+	[[1888年]]（明治21年）[[9月8日]]に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が帰国した直後、[[9月12日]]にドイツ人女性が来日して[[10月17日]]に離日した出来事をきっかけに、留学中より西周から話のあった縁談が急に進み（[[9月18日]]に祖母が、[[10月17日]]に母と弟の竹二が西邸を訪問）、翌年2月24日に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と登志子は結婚した（[[#森まゆみ2000|森まゆみ（2000）]]、148頁）。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の弟2人、登志子の妹2人、女中が同居し、また新居には同人などが数多く出入りした。後年、[[幸田露伴]]は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外宅に行くと夜12時になっても1時になっても引き留められたと回想し、[[内田魯庵]]も、夜が更けたので帰ろうとすると「マダ早いよ、僕の処は夜が昼だからね。眠くなったらソコの押入から夜具を引きずり出してゴロ寝をするさ。賀古なぞは12時が打たんけりや来ないよ」といわれ、実際に[[賀古鶴所]]が12時すぎに来たのに数回出会ったと回想した。[[1890年]]（明治23年）[[1月]]に小説「舞姫」が発表されると、[[9月13日]]に長男[[森於菟|於菟]]が生まれたものの、[[10月4日]]に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は同居する弟2人を連れて[[赤松家]]所有の家を出て行った（仲人の西周が激怒し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は西邸の出入りを禁じられた）。
		+
		+	離婚の理由は、登志子の容姿や嫁姑問題（[[#平川ら1997a|平川ら 1997a]]、177–178頁）など、いくつか推測されてきたものの、わかっていない。なお、[[森於菟|於菟]]によれば、父{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は母に[[結核]]をうつされたと祖母が語ったという。その真相は不明であるが、少なくとも{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、1909年に戯曲「仮面」（離婚して2年後に結核が発症したことを示唆）をつくり、また没する10年ほど前から結核が発症していた。[[#森まゆみ2000|森まゆみ（2000）]]、137-183頁。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、98-99頁。</ref>、母の勧めるまま[[1902年]]（明治35年）1月、18歳年下の[[荒木志げ]]と見合い結婚をした（41歳と23歳の再婚同士）。さらに、随筆『二人の友』に登場する友人も得た。1人は[[曹洞宗]]の僧侶、[[玉水俊虠]]（通称、安国寺）で、もう1人は同郷の俊才[[福間博]]<ref>[[1875年]]（明治8年）5月に[[島根県]][[安濃郡 (石見国)|安濃郡]]で生まれ、37歳で没。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は随筆「二人の友」を発表しており、のちに[[芥川龍之介]]も[[第一高等学校 (旧制)|第一高等学校]]でドイツ語を習った[[福間博|福間]]を回想して随筆「二人の友」を発表した。</ref>である。
		+
		+	2人は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の東京転勤とともに上京し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の自宅近くに住み、交際をつづけた<ref>ただし僧侶の[[玉水俊虠|玉水]]は、敬愛する{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の後を追うように上京したものの、嫁姑問題にかかわったため、森家に出入りできなくなり、失意のうちに東京を離れた。なお小倉の新婚時代には、家主の10歳くらいの娘で、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外にかわいがられた盲目の八重も、「お祖母さんがそんなに毎日伺ってはお邪魔じゃろうと申しますが、また伺いました」といって{{JIS2004フォント|&#40407;}}外宅によく来ていた。ときには、「お祖母さんが怒ると私の事を穀盗人と申します。そう言う時は森さんがそれはそれは御親切に慰めて下さいます」と、目に涙をたたえて{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の新妻に訴えることもあった。[[#小堀1981|小堀（1981）]]、150頁。</ref>。
		+
		+	=== 軍医トップへの就任と旺盛な文筆活動 ===
		+	[[1902年]]（明治35年）3月、[[第1師団_(日本軍)|第1師団]][[軍医部長]]の辞令を受け、新妻とともに東京に赴任した。6月、廃刊になっていた『[[めざまし草]]』と[[上田敏]]の主宰する『芸苑』とを合併し、『芸文』を創刊（その後、出版社とのトラブルで廃刊したものの、10月に後身の『万年艸』を創刊）。当時は、12月に初めて[[戯曲]]を執筆するなど、[[戯曲]]にかかわる活動が目立っていた。
		+
		+	[[1904年]]（明治37年）2月から[[1906年]]（明治39年）1月まで[[日露戦争]]に[[第2軍 (日本軍)#日露戦争における第2軍|第2軍]][[軍医部長]]として出征<ref>凱旋した[[1906年]]（明治39年）[[1月12日]]には、親族のほか、[[佐佐木信綱]]や[[上田敏]]、[[小山内薫]]など一同で祝宴が催された。</ref>。
		+
		+	[[1907年]]（明治40年）10月、[[軍医総監|陸軍軍医総監]]（[[中将]]相当）に昇進し、[[陸軍省医務局]]長（人事権をもつ軍医のトップ）に就任した<ref>慣例として前任者（小倉「[[左遷]]」人事をした[[小池正直]]）の推薦が必要であった。その[[小池正直|小池]]は、7歳年上であったが、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外とは同窓生であり、かつて{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を採用してもらえるように[[陸軍軍医監]]の[[石黒忠悳]]に熱い推薦状を提出していた。学生時代の2人を知る[[緒方収二郎]]は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を「強記は実に天才」、小池を「沈黙謹厳」と評した（[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、41、310–311頁）。また小池は、7ヶ月間の外遊から帰国後、トップの[[医務局長]]に就任するまでの半年間、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と毎月1–2度会っていた。老朽軍医の淘汰を断行した小池の初回人事では、その淘汰で空いたポスト二つのうち[[第2師団 (日本軍)|第二師団]]（仙台）ではなく、[[近衛師団]]（東京）の軍医部長に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外をつけた。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が小倉にいた[[1900年]]（明治33年）[[5月]]末、小池医務局長の推薦にもとづく軍医の叙勲が行われ、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は小池と同等に[[勲四等]]に叙せられた。
		+
		+	日露戦争後、第一軍–第四軍の軍医部長経験者5名のうち中央に残されたのは{{JIS2004フォント|&#40407;}}外だけであり、会議などでも{{JIS2004フォント|&#40407;}}外がナンバー2の地位にあることが明確にされた。以上のように、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外に関する小池の人事では、小倉「左遷」だけが特異であった。その理由として[[#山下2008|山下（2008）]]は、「左遷」人事をした小池には{{JIS2004フォント|&#40407;}}外への悪意がなく、「左遷」には別の理由があったとした。また「左遷」人事の背景として、[[日清戦争]]後の台湾平定での[[日本の脚気史|脚気]]大流行とその隠蔽、[[陸軍大臣#歴代の陸軍大臣|陸軍大臣]]の[[高島鞆之助]]とその後任[[桂太郎]]など台湾での出来事を知る[[将官]]による責任追及とその反動（[[山県有朋]]元帥や[[大山巌]]元帥や[[児玉源太郎]]などと懇意である[[石黒忠悳]]（衛生の総責任者）の保身運動）という複雑なものを挙げた。</ref>。
		+
		+	なお同年9月、美術審査員に任じられ、第1回[[日本美術展覧会#官展の歴史|文部省美術展覧会]]（初期文展）西洋画部門審査の主任をつとめた<ref>[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、837頁。[[#新関2008|新関（2008）]]、180頁。</ref>。
		+
		+	[[1909年]]（明治42年）に『[[スバル (文芸雑誌)|スバル]]』が創刊されると、同誌に毎号寄稿して創作活動を再開した（[[木下杢太郎]]のいう「豊熟の時代」）。「半日」「[[ヰタ・セクスアリス]]」「鶏」「[[青年 (小説)|青年]]」などを同誌に載せ、「仮面」「静」などの戯曲を発表。『スバル』創刊年の7月、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、東京帝国大学から文学博士の[[学位]]を授与された。しかし、直後に「ヰタ・セクスアリス」（同誌7月号）が発売禁止処分を受けた。しかも、[[内務省 (日本)|内務省]]の[[警保局|警保局長]]が陸軍省を訪れた8月、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は[[陸軍省#陸軍次官|陸軍次官]]・[[石本新六]]から戒飭{{small|（かいちょく）}}された。同年12月、「予が立場」でレジグナチオン（諦念）をキーワードに自らの立場を明らかにした。
		+
		+	慶應義塾大学の文学科顧問に就任（教授職に[[永井荷風]]を推薦）した[[1910年]]（明治43年）は、5月に[[大逆事件]]の検挙がはじまり<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、[[1910年]]（明治43年）[[12月10日]]、被告26人が出廷した[[大審院]]特別法廷（非公開）の[[高等官]]傍聴席にいたとの説がある。なお同年[[12月14日]]、[[与謝野鉄幹]]と大逆事件弁護人の[[平出修]]とを供応した。その平出は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外から一週間にわたって[[無政府主義]]・[[社会主義]]に関する講義を受けたと伝えられている。[[#平川ら1997b|平川ら（1997b）]]、303–306頁。</ref>、9月に[[朝日新聞|東京朝日新聞]]が連載「危険なる洋書」を開始して6回目に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と妻の名が掲載され、また国内では[[南北朝正閏論#南北朝正閏問題|南北朝教科書問題]]が大きくなりつつあった。そうした閉塞感がただよう年に「ファスチェス」（発禁問題）、「沈黙の塔」（学問と芸術）、「食堂」（[[クロポトキン]]や[[無政府主義]]等を記述）などを発表。
		+
		+	[[1911年]]（明治44年）にも「カズイスチカ」「妄想」を発表し、「青年」の完結後、「雁」と「灰燼」の2長編の同時連載を開始。同年4月の「文芸の主義」（原題：文芸断片）では、冒頭「[[芸術#ジャンル|芸術]]に主義というものは本来ないと思う。」とした上で、{{Quotation|無政府主義と、それと一しょに芽ざした[[社会主義]]との排斥をする為に、[[個人主義]]という漠然たる名を附けて、芸術に迫害を加えるのは、国家のために惜むべき事である。学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄えるはずがない。|<ref>[[#森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外2000|森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外（2000）]]、「文芸の主義」138–140頁。初出1911年4月。</ref>}}と結んだ。
		+
		+	また陸軍軍医として、懸案とされてきた軍医の人事権をめぐり、陸軍次官の石本と激しく対立した。ついに医務局長の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が石本に辞意を告げる事態になった。結局のところ陸軍では、医学優先の人事が継続された。階級社会の軍隊で、それも一段低い扱いを受ける衛生部の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の主張が通った背景の一つに、[[山縣有朋]]の存在があったと考えられている<ref>陸軍に絶大な影響力をもつ山縣有朋とは、親友の[[賀古鶴所]]をとおして関係があった。[[1906年]]（明治39年）[[6月10日]]、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と賀古が[[佐佐木信綱]]と[[井上通泰]]ら4名を酒楼「常盤」に招いて歌会を起こすことを勧め、その後、賀古が山縣に話のついでに告げたところ、山縣も力をそえることになった（[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、285頁）。その歌会常盤会は、山縣が他界するまで15年間つづいた。もっとも5ケ月後、前年から体調を崩していた{{JIS2004フォント|&#40407;}}外も他界した。なお、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が山縣の誕生祝の宴に初めて招かれたのは、陸軍省医務局長を退く前年の1915年である。</ref>
		+
		+	[[1912年]]（明治45年）から翌年にかけて、五条秀麿を主人公にした「かのやうに」「吃逆」「藤棚」「鎚一下」の連作を、また司令官を揶揄するなど戦場体験も描かれた「鼠坂」<ref>末延は、小説「鼠坂」についての見出しに「「剣」に屈服した新聞記者」と副題をつけた（[[#末延2008|末延（2008）]]、246–281頁）。</ref>などを発表した。当時は、身辺に題材をとった作品や思想色の濃い作品や教養小説や戯曲などを執筆した。もっとも公務のかたわら、『[[ファウスト]]』などゲーテの3作品をはじめ、外国文学の翻訳・紹介・解説もつづけていた。
		+
		+	[[1912年]]（[[大正]]元年）8月、「実在の人間を資料に拠って事実のまま叙述する、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外独自の小説作品の最初のもの」<ref>[[#池内2001|池内（2001）]]、137頁。</ref>である「羽鳥千尋」を発表。翌[[9月13日]]、[[乃木希典]]の殉死に影響を受けて5日後に「興津弥五右衛門の遺書」（初稿）を書き終えた<ref>乃木希典の殉死と「興津弥五右衛門の遺書」に関する通説・定説には、批判もある（[[#池内2001|池内（2001）]]、147–157頁）。</ref>。
		+
		+	これを機に歴史小説<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の歴史小説は、「阿部一族」、「[[大塩平八郎]]」、「[[堺事件]]」、戯曲「曾我兄弟」（[[1914年]]3月）まで「権力と民衆」への視点を基本構図としながらも、殺伐とした物語が多かった。
		+
		+	「安井夫人」（[[1914年]]4月）以来、「山椒大夫」、「じいさんばあさん」、「最後の一句」、「高瀬舟」など家族の情を主体としたものが多くなっていく。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、655頁</ref>に進み、歴史其儘の「[[阿部一族]]」、歴史離れの「[[山椒大夫]]」「[[高瀬舟 (小説)|高瀬舟]]」などののち、史伝「[[渋江抽斎]]」に結実した。ただし、[[1915年]]（大正4年）頃まで、現代小説も並行して執筆していた。[[1916年]]（大正5年）には、後世の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外研究家や評論家から重要視される随筆「空車」{{small|（むなぐるま）}}を<ref>「空車」に対し、これまで様々な解釈がなされている。近年も注目すべき解釈が提示された。[[#池内2001|池内（2001）]]、198–207頁。</ref>、[[1918年]]（大正7年）1月には随筆「礼儀小言」を著した<ref>[[唐木順三]]にしたがえば、「礼儀小言」は大正期の日本人の暮らしと思想のあまりの大変動に恐怖を感じた明治人、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の大正的なるものに対する深刻な憂いの表明である（[[#片山2007|片山（2007）]]、106頁）。</ref>。
		+
		+	=== 晩年 ===
		+	[[File:Mori Ogai Tomb.jpg|thumb|180px|永明寺の墓]]
		+	[[1916年]]（大正5年）4月、任官時の年齢が低いこともあり、トップの陸軍省医務局長を8年半つとめて退き、予備役に編入された。その後、[[1918年]]（大正7年）[[12月]]、帝室博物館（現[[東京国立博物館]]）総長兼[[図書寮#宮内省図書寮|図書頭]]（ずしょのかみ）に<ref>[[東京国立博物館#沿革|帝室博物館]]では月・水・金曜日（8時から16時まで）に、図書寮では火・木・土曜日（8時から13時まで）に勤務した。
		+
		+	なお、博物館総長として毎秋、正倉院の虫干しに立ち会わなければならず、奈良や京都に1ケ月ほど滞在していた。また、総長就任の4年間で博物館の歳出が大幅に増え、就任4年目で就任直前の2倍強になった。館内の構造物について「分類陳列」方法があらたまり、「時代別陳列」に変更された。また、[[正倉院]]の参観資格が緩和され、[[帝室技芸員]]や[[古社寺保存会]]委員や美術審査員などのほか、「学術技芸ニ関シ相当ノ経験アリト認メタル者」にも参観の道が開かれた。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、705-707、785頁。</ref>、翌年1月に帝室制度審議会御用掛に就任した<ref>すでに臨時宮内省御用係として1913年（大正2年）2月から、[[勅語]]や[[令旨]]など、特別な文章の起草、執筆にかかわっていた。
		+
		+	[[1915年]]（大正4年）5月には、即位式前の[[大正天皇]]から[[漢詩#日本の漢詩|漢詩]]を所望され、「応制の詩」をつくった。なお、御用係は総長・図書頭就任時に免じられたものの、特別な文章へのかかわりは[[1921年]]（大正10年）頃まで続いた。[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、625、702–703頁。</ref>。
		+
		+	さらに[[1918年]]（大正7年）9月、[[帝国美術院]]（現[[日本芸術院]]）初代院長に就任した。元号の「明治」と「大正」に否定的であったため、宮内省図書頭として天皇の[[諡]]と元号の考証・編纂に着手した。しかし『帝諡考』は刊行したものの、病状の悪化により、自ら見いだした[[吉田増蔵]]に後を託しており、後年この吉田が未完の『元号考』の刊行に尽力し、元号案「昭和」を提出した<ref>一連の経緯は、[[#猪瀬2002|猪瀬（2002）]]が詳しい。</ref>。
		+
		+	[[1922年]]（大正11年）[[7月9日]]午前7時すぎ、親族と親友の[[賀古鶴所]]らが付きそう中、[[萎縮腎]]、[[肺結核]]のために死去。{{没年齢2|1862|2|17|1922|7|9}}。{{Quotation|余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス}}で始まる最後の[[遺言]]（[[7月6日]]付け）が有名であり<ref>ただし、遺言を残した翌7月7日に天皇と皇后から[[葡萄酒]]が下賜され、8日に[[摂政]]宮（のちの[[昭和天皇]]）から御見舞品が下賜され、[[従二位]]に叙せられた。なお{{JIS2004フォント|&#40407;}}外本人は、遺言を残した6日夜半から容体が悪化し、7日夕刻から昏睡状態に入っており、没した翌10日の東京朝日新聞が最期の様子を次のように報じた。
		+	{{Quotation|8日午後の注射以来少しく容体を持直し、午後10時頃には何事か看護の人に言はうと試みていたが聞きとれなかった。それから不安のうちに夜が明けて9日午前4時にわかに容体が変わったので……|[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、811-813、843頁［一部を平仮名にし、句読点を入れた］}}
		+	もっとも、死去する前日の8日に従二位に叙せられたことで、[[#大谷2000|大谷（1983）（2000）]]は{{JIS2004フォント|&#40407;}}外最後の遺言を疑問視し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の[[叙爵]]への執着を指摘した。[[#志田2009|志田（2009）]]は{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が石黒忠悳によって[[貴族院]]議員に推挙された際に喜んでお受けしたい旨の返書を送ったという日記(大正5年1月6日)の記述を挙げ、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が臨終の際に袴をはいていたのは[[叙爵]]の使者を迎えるためだったと指摘した。</ref>、その遺言により墓には一切の栄誉と称号を排して「''森林太郎ノ墓'' 」とのみ刻された。向島[[弘福寺]]に埋葬され、遺言により[[中村不折]]が[[墓碑銘]]を筆した。[[戒名]]は貞献院殿文穆思斎大居士。なお、[[関東大震災]]後、[[東京都]][[三鷹市]]の[[禅林寺 (三鷹市)|禅林寺]]<ref>「立ち依（よ）らば、大樹の陰、その名は{{JIS2004フォント|&#40407;}}外、[[森林太郎]]」と書いた[[太宰治]]は、希望したとおり、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の墓の前（はす向かい）に埋葬された（[[#猪瀬2002|猪瀬（2002）]]、9頁）。</ref>と津和野町の[[永明寺]]に改葬された。
		+
		+	== 人物評 ==
		+	=== 評論的啓蒙活動 ===
		+	{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は自らが専門とした文学・医学、両分野において論争が絶えない人物であった。文学においては理想や理念など主観的なものを描くべきだとする[[理想主義]]を掲げ、事物や現象を客観的に描くべきだとする[[写実主義]]的な没理想を掲げる[[坪内逍遥]]と衝突する。また医学においては近代の西洋医学を旨とし、和漢方医と激烈な論争を繰り広げたこともある。和漢方医が7割以上を占めていた当時の医学界は、ドイツ医学界のような学問において業績を上げた学者に不遇であり、日本の医学の進歩を妨げている、大卒の医者を増やすべきだ、などと批判する。[[松本良順]]など近代医学の始祖と呼ばれている長老などと6年ほど論争を続けた。
		+
		+	{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の論争癖を発端として論争が起きたこともある。逍遥が『[[早稲田文学]]』に[[ウィリアム・シェイクスピア|シェークスピア]]の評釈に関して加えた短い説明に対し、批判的な評を『しがらみ草紙』に載せたことから論争が始まった。このような形で{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が関わってきた論争は「戦闘的評論」や「論争的啓蒙」などと評される。もっとも、30歳代になると、日清戦争後に『めさまし草』を創刊して「合評」をするなど、評論的啓蒙活動は、戦闘的ないし論争的なものから、穏健なものに変わっていった。さらに、小倉時代に「圭角が取れた」という家族の指摘もある。
		+
		+	=== 幅の広い文芸活動と交際 ===
		+	肩書きの多いことに現れているように、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は文芸活動の幅も広かった。たとえば、訳者としては、上記の訳詩集「於母影」（共訳）と、[[1892年]]（[[明治]]25年）–[[1901年]]（明治34年）に断続的に発表された「即興詩人」とが初期の代表的な仕事である。「於母影」は明治詩壇に多大な影響を与えており、「即興詩人」は、流麗な雅文で明治期の文人を魅了し、その本を片手にイタリア各地をまわる文学青年（[[正宗白鳥]]など）が続出した。
		+
		+	戯曲の翻訳も多く（弟の[[三木竹二|竹二]]が責任編集をつとめる雑誌『歌舞伎』に掲載されたものは少なくない）<ref>たとえば、日本初の西洋風演出による新劇運動として、その後の演劇界に多大な影響を与えた[[自由劇場]]の第一回旗揚げで上演されたのは、[[ヘンリック・イプセン|イプセン]]作・{{JIS2004フォント|&#40407;}}外訳「ジョン・ガブリエル・ボルクマン」（[[小山内薫]]の演出）であった（[[1909年]]11月）。
		+
		+	当時の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、「草創期の新劇にとって非常に大きな力」となり、「ある時期、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が西洋の近代戯曲への窓口だったといっていい」とまで評価されている。（[[#平川ら1997c|平川ら（1997c）]]、176–177頁）。</ref>、歌劇（オペラ）の翻訳まで手がけていた<ref>[[国民歌劇協会]]が作曲家[[クリストフ・ヴィリバルト・グルック|グルック]]生誕200年を祝って[[1914年]]（[[大正]]3年）[[7月2日]]に上演を予定し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外に訳を委嘱した。ただし、第1稿は留学先のドイツから持ち帰った台本を底本としたため、協会の楽譜に合わず、その後、第2稿は完成したものの、[[第一次世界大戦]]の勃発など諸般の事情によって上演されなかった。
		+
		+	しかし、91年後の[[2005年]]（[[平成]]17年）9月18・19日、その幻のオペラは、関係者の尽力により、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が希望したフル[[オーケストラ]]で初演された（上野・[[旧東京音楽学校奏楽堂|東京藝術大学奏楽堂]]）。DVD：森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外訳オペラ『オルフエウス』紀伊国屋書店、KKCS-65。</ref>。
		+
		+	ちなみに、訳語（和製漢語）の「交響楽、交響曲」をつくっており、6年間の欧米留学を終えた演奏家、[[幸田延]]（露伴の妹）と洋楽談義をした（「西楽と幸田氏と」）。そうした外国作品の翻訳だけでなく、帰国後から演劇への啓蒙的な評論も少なくない<ref>たとえば、[[1889年]]（明治22年）8月、発足したばかりの[[日本演芸協会]]の文芸委員になっており、同年10月刊行の『しがらみ草紙』創刊号で「演劇改良論者の偏見に驚く」を発表。</ref>。
		+
		+	翻訳は、文学作品を超え、ハルトマン『審美学綱領』のような審美学（[[美学]]の旧称）も対象になった。単なる訳者にとどまらない{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の審美学は、坪内逍遥との没理想論争にも現れており、[[田山花袋]]にも影響を与えた<ref>[[田山花袋]]は、{{Quotation|私は殊に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外さんが好きで、『柵草紙』などに出る同氏の審美学上の議論などは非常に愛読した。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外さんを愛読した結果は私もその影響を受けた。|「私の偽らざる告白」『文章世界』1908年9月}}と書いた。
		+
		+	日露戦争中、第二軍写真班の取材記者として5ケ月ほど従軍した花袋は、宇品港のある[[広島市]]本町の宿に同軍軍医部長の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を訪ねており（初対面）、2人は文学談義を交わすなど頻繁に会っていた（[[#平川ら1997a|平川ら（1997a）]]、388、403–405頁）。</ref>。その{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、上記のとおり東京美術学校（現[[東京藝術大学]]）の嘱託教員（美術解剖学・審美学・西洋美術史）をはじめ、慶應義塾大学の審美学講師、「初期文展」西洋画部門などの審査員、[[帝室博物館]]総長や[[日本芸術院|帝国美術院]]初代院長などをつとめた<ref>{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が日本の近代美術史に残した足跡の一つに、実質的編集者として展覧会カタログ『原田先生記念帖』を発行したことが挙げられる。その展覧会とは、[[1909年]]（明治42年）[[11月28日]]（日曜日）、[[東京藝術大学|東京美術学校]]校庭の校友会倶楽部で開催された「[[原田直次郎]]没後十周年記念遺作展」である。
		+
		+	故人は、[[東京美術学校]]と関係がなかったものの、かつて同校で教鞭をとっていた{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が発起人に[[黒田清輝]]をまきこみ、校友会倶楽部での展覧会開催が実現した。その展覧会カタログは、全出品作23点の写真と、[[黒田清輝]]や[[松岡寿]]、[[長沼守敬]]など同時代人による回想とが掲載されており、明治美術史の貴重な資料となっている。また、日本にまだ美術館[[学芸員]]が存在しなかった当時、公務（[[陸軍省#医務局|医務局長]]等）と執筆活動で多忙をきわめていた{{JIS2004フォント|&#40407;}}外がやり遂げたことは、今日の美術館学芸員の先駆的仕事でもあった。[[#新関2008|新関（2008）]]、138–140頁。</ref>。
		+
		+	交際も広く、その顔ぶれが多彩であった。しかし、教師でもあった[[夏目漱石]]のように弟子を取ったり<ref>弟子の有無に限らず、[[松本清張]]による{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と漱石の比較が興味ぶかい（[[#松本1997|松本（1997）]]、93–97頁）。なお、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と漱石の対比は、生前の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を知る[[平塚らいてう]]もしており、（[[#金子1992|金子（1992）]]、314-315頁）で読むことができる。</ref>、文壇で党派を作ったりはしなかった。ドイツに4年留学した{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、閉鎖的で縛られたような人間関係を好まず、西洋風の社交的なサロンの雰囲気を好んでいたとされる。[[高等官|官吏]]生活の合間も、書斎にこもらず、同人誌を主宰したり、自宅で歌会を開いたりして色々な人々と交際した。
		+
		+	文学者・文人に限っても、訳詩集「於母影」は5人による共訳であり、同人誌の『しがらみ草紙』と『めさまし草』にも多くの人が参加した。とりわけ、自宅（観潮楼）で定期的に開催された歌会が有名である。その観潮楼歌会は、[[1907年]]（明治40年）3月、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が[[与謝野鉄幹]]の「新詩社」系と[[正岡子規]]の系譜「根岸」派との歌壇内対立を見かね、両派の代表歌人をまねいて開かれた。以後、毎月第一土曜日に集まり、[[1910年]]（明治43年）4月までつづいた。[[伊藤左千夫]]・[[平野万里]]・[[上田敏]]・[[佐佐木信綱]]等が参加し、「新詩社」系の[[北原白秋]]・[[吉井勇]]・[[石川啄木]]・[[木下杢太郎]]、「根岸」派の[[斎藤茂吉]]・[[古泉千樫]]等の新進歌人も参加した（[[与謝野晶子]]を含めて延べ22名）<ref>[[#山崎2007|山{{JIS2004フォント|&#64017;}}（2007）]]、299頁。</ref>。
		+
		+	また、当時としては[[女性差別|女性蔑視]]が少なく、[[樋口一葉]]をいち早く激賞しただけでなく、与謝野晶子と[[平塚らいてう]]も早くから高く評価した。晶子（出産した双子の名付け親が{{JIS2004フォント|&#40407;}}外）やらいてうや純芸術雑誌『番紅花』（さふらん）を主宰した[[尾竹一枝]]など、個性的で批判されがちな新しい女性達とも広く交際した<ref>そうした{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の女性観については、[[#森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外2006|森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外（2006）]]が参考になる。同書には、[[樋口一葉|一葉]]や晶子やらいてうの評なども集められている。
		+
		+	また、[[#金子1992|金子（1992）]]には、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と[[女性解放運動]]に関する記述があり、らいてうの回想文を引用（322頁）し、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が日本初の女性団体[[新婦人協会]]の設立にどう関わったのか等を紹介している。ちなみに、若き日の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、[[1885年]]（明治18年）9月28・29日に[[ライプツィヒ]]でドイツ初の女性団体「独逸婦人会」（[[1865年]]設立）の第13回総集会を傍聴していた。</ref>。
		+	その{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の作品には、女性を主人公にしたものが少なくなく、ヒロインの名を題名にしたものも複数ある（「安井夫人」、戯曲「静」、「花子」、翻訳戯曲「ノラ」（イプセン作「[[人形の家]]」））。
		+
		+	=== 軍医として ===
		+	[[File:Ogai Mori.jpg|thumb|180px|軍服姿の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外]]
		+	上記にもあるように、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は[[東京帝國大学]]で近代西洋医学を学んだ[[陸軍軍医]]（第一期生）であった。医学先進国のドイツに4年間留学し、帰国した[[1889年]]（明治22年）8月–12月には陸軍兵食試験の主任をつとめた。その試験は、当時の[[栄養学]]の最先端に位置していた。[[日清戦争]]と[[日露戦争]]に出征した{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、[[小倉市|小倉]]時代をのぞくと、つねに東京で勤務、それも重要なポジションに就いており、最終的に[[軍医総監]]（[[中将]]相当）に昇進するとともに陸軍軍医の人事権をにぎるトップの[[陸軍省#医務局|陸軍省医務局長]]にまで上りつめた。
		+
		+	[[ビタミン]]の存在が知られていなかった当時、軍事[[衛生学|衛生]]上の大きな問題であった[[脚気]]の原因について、[[日本の脚気史#明治期の主な脚気原因説|医学界の主流を占めた伝染病説]]に同調した。また、経験的に脚気に効果があるとされた[[麦飯]]について、海軍の多くと陸軍の一部で効果が実証されていたものの、麦飯と脚気改善の相関関係は（[[ドイツ医学]]的に）証明されていなかったため、科学的根拠がないとして否定的な態度をとり、麦飯を禁止する通達を出したこともあった。
		+
		+	日露戦争では、[[1904年]]（明治37年）[[4月8日]]、[[第2軍 (日本軍)|第2軍]]の戦闘序列（指揮系統下）にあった[[鶴田禎次郎|鶴田]][[第1師団_(日本軍)|第1師団]]軍医部長、横井[[第3師団_(日本軍)|第3師団]]軍医部長が「[[麦飯給与の件]]を森（第2軍）[[軍医部長]]に勧めたるも返事なし」（[[鶴田禎次郎]]「[[日露戦役従軍日誌]]」）との記録が残されている（ちなみに第2軍で脚気発生が最初に報告されたのは[[6月18日]]）。その「返事なし」はいろいろな解釈が可能であるが、少なくとも[[大本営]]陸軍部が決め、[[勅令]]（天皇名）によって指示された戦時兵食「白米6合」を遵守した。結果的に、陸軍で約25万人の脚気患者が発生し、[[日本の脚気史#日露戦争での陸軍脚気惨害|約2万7千人が死亡する事態]]となった。
		+
		+	なお、脚気問題について{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、[[陸軍省医務局長]]に就任した直後から、[[日本の脚気史#原因解明と治療薬開発|臨時脚気病調査会]]の創設（[[1908年]]・明治41年）に動いた<ref>その創設の半年前、[[1908年]]（明治41年）[[1月18日]]に[[海軍軍医]]の[[本多忠夫]]（[[1913年]]に[[軍医総監]]、[[1915年]]に[[海軍省]]医務局長）は、医学雑誌『[[医海時報]]』の掲載文に「[[脚気調査会]]の設置は、早くからわれわれの切望してきたところである」と記述し、その掲載誌も[[脚気調査会]]の設置を強く求めていた（[[#山下2008|山下（2008）]]、344頁）。</ref>。
		+
		+	脚気の原因解明を目的としたその調査会は、[[陸軍大臣]]の監督する国家機関として、多くの研究者が招聘され、多額の予算（陸軍費）がつぎ込まれた。予算に制約がある中、[[脚気ビタミン欠乏説]]がほぼ確定して廃止（1924年・大正13年）されたものの、その後の[[脚気病研究会]]の母体となった。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が創設に動いた臨時[[脚気病調査会]]は、脚気研究の土台をつくり、ビタミン研究の基礎をきずいたと位置づける見解がある<ref>山下はつづけて「脚気根絶への道を拓いた[[森林太郎]]の功績は、ひときわ高く顕彰しなければならない。（中略）論理主義の森と実践主義の[[高木兼寛]]とは見解と手法に相違があり、それが一見対立的な姿に見えた。しかし「[[脚気の撲滅]]」という究極の目的は同じであった。（中略）／明治の脚気紛争のなかに出現したこの[[森林太郎]]と[[高木兼寛]]の脚気業績は、医学史上不滅の業績である。末永く顕彰記念しなければならないのである。」と記述した（[[#山下2008|山下（2008）]]、461頁）。</ref>。
		+
		+	反面、「その十六年間の活動は、[[脚気栄養障害説]]＝[[ビタミンB欠乏症]]（白米原因）説に柵をかけ、その承認を遅らせるためだけにあったようなものであった」と否定的にとらえる見解もある<ref>（[[#坂内2001|坂内（2001）]]、211–231頁）は、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が最後まで細菌説に固執したという見解のもと、[[1908年]]（明治41年）[[7月4日]]の調査会（第1回会合）で[[寺内正毅]][[陸軍大臣]]が麦飯の効用を強く示唆したにもかかわらず、次の会合で示された活動方針から[[麦飯]]を含む栄養の問題が排除され、また調査会発足時の委員である[[都築甚之助]]が細菌説から栄養説に転じた直後に委員を[[罷免]]された等の見解を示し、調査会の活動を否定的にとらえた。たしかに調査方針では、微生物学など「学」のついた研究分野までしか明記されておらず、その第二条に列記された研究分野は、[[微生物学]]、[[医化学]]、[[病理学]]・[[病理解剖学]]、[[臨床医学]]、[[流行病学]]であり、[[栄養学]]がない（[[#山下2008|山下（2008）]]、362頁）。もっとも、[[栄養学#栄養学の創設|医化学を修めた佐伯矩によって日本で栄養学が芽生えた]]のは、調査会が設立されてから6年後の[[1914年]]（大正3年）であった。なお初期の調査会では、[[1910年]]（明治43年）3月–10月と[[1911年]]（明治44年）6月–[[1912年]]（大正元年）10月の[[日本の脚気史#臨時脚気病調査会による食餌試験と食物調査|2回にわたり、食餌試験が行われた]]。また、[[#坂内2001|坂内（2001）]]は[[都築甚之助|都築]]が「罷免」されたと理解したのに対し、（[[#山下2008|山下（2008）]]、375頁）は「辞任」とする。その[[都築甚之助|都築]]は、[[1910年]]（明治43年）3月の調査会で[[日本の脚気史#未知栄養素の抽出|「脚気ノ動物試験第一回報告」をしており、同年12月9日に委員を辞めた]]。翌春、[[東京医学会]]総会で未知栄養障害説を発表（脚気ノ動物試験第二回報告）しており、のちに森委員長の配慮によって調査会でも発表した。その後も、製糠剤アンチベリベリンの開発とその効否試験など、精力的に研究をつづけた。</ref>。
		+
		+	なお、晩年の{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、同調査会で調査研究中の「脚気の原因」について態度を明らかにしなかった<ref>[[1914年]]（大正3年）[[9月]]に刊行された{{JIS2004フォント|&#40407;}}外と[[小池正直]]の共著『[[衛生新編]]』（改訂増補第5版、上下2冊、全1,830頁）では、はじめて「[[脚気]]」が記載された。ただし、当時[[脚気]]の原因をめぐって医学界が混乱していたこともあり、権威者の見解を列記しただけで、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外自らの見解を記述していない。[[#山下2008|山下（2008）]]、421–422頁。</ref>。
		+
		+	==== 脚気惨害をめぐる議論 ====
		+	[[陸軍]]の脚気惨害をめぐって、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の責任に関しての議論はたえない。そのうち{{JIS2004フォント|&#40407;}}外への批判として、（副食物が貧弱な）米食を麦食に変えると脚気が激減する現象が多く見られたにもかかわらず、麦食を排除しつづけた姿勢について激しい非難がある。<!--「Wikipedia:引用のガイドライン」に基づき、著作権物からの長文引用を削除--><ref>[[#志田2009|志田（2009）]]、16–18、237頁。</ref>。実際に日露戦争で陸軍兵士の３万人近くが脚気で苦しみ戦死でなく病死した事実、同じ時期に海軍兵士の脚気患者がほぼ皆無であったにも拘らず海軍の食事を取り入れずに通達や要望などを握りつぶしたことが近年ようやく明らかになり、著名な小説家としての名誉もかなり低くなっている。
		+
		+	逆に{{JIS2004フォント|&#40407;}}外を擁護するものとして、以下の見解がある<ref>[[#山下2008|山下（2008）]]、471–472、448頁。また山下は、[[ビタミン]]の存在を知っている後世から、その存在を知らなかった前世に対して安易に批判すべきではないとした。特に「基礎栄養学、ビタミン学、脚気医学の専門知識がない」門外漢による批判をいましめた。</ref>。
		+
		+	* 陸軍の脚気惨害の責任について、戦時下で陸軍の衛生に関する総責任をおう[[大本営陸軍部]]の[[大本営#組織|野戦衛生長官]]（[[日清戦争]]・[[石黒忠悳]]、[[日露戦争]]・[[小池正直]]）ではなく、隷下の一[[軍医部長]]を矢面に立たせることへの疑問。
		+	* {{JIS2004フォント|&#40407;}}外が白米飯を擁護したことが陸軍の脚気惨害を助長したという批判については、[[日露戦争]]当時、麦飯派の[[寺内正毅]]が[[陸軍大臣]]であった（麦飯を主張する軍医部長がいた）<ref>後年、寺内は脚気病臨時調査会の第1回会合のあいさつで、自ら長年[[脚気]]を患い麦飯で治癒した経験があること、[[陸軍]]への麦飯導入を石黒に激しく反対されたことを披瀝（ひれき）し、{{Quotation|〔日清戦争〕当時は此席に居らるゝ森局長の如きも亦石黒説賛成者にして余を詰問せられし一人なりし}}と発言した。</ref>にもかかわらず、[[大本営]]が「[[勅令]]」として指示した[[戦時兵食]]は、日清戦争と同じ白米飯（精白米6合）であった。その理由として、軍の輸送能力に問題があり、また脚気予防（理屈）とは別のもの（情）もあったとの指摘である。その別のものとは、白米飯は庶民あこがれのご馳走であり、麦飯は貧民の食事として蔑まれていた世情を無視できず、また部隊長の多くも死地に行かせる兵士に白米を食べさせたいという心情とされる<ref>[[#山下2008|山下 2008]]、289頁</ref>。
		+	* {{JIS2004フォント|&#40407;}}外の「[[陸軍兵食試験]]」が脚気発生を助長したとの批判については、兵食試験の内容（当時の栄養学にもとづく栄養試験であり、脚気問題と無関係の試験）を上官の[[石黒忠悳|石黒]]にゆがめられたためとの見解を示した<ref>兵食試験をあたかも脚気の試験であったかのように誤用し、試験成績を独断的にゆがめたのが上官の石黒忠悳であった。石黒の誤用により、兵食試験は誤解されたとの見解。[[#山下2008|山下（2008）]]、448–449頁。</ref>。
		+	<!-- まず、土岐の石黒あて上申書（1896年3月26日付け）には、「{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が〔陸軍兵食試験の結果を〕ゆがめた」とする本文にかかわる記述がない。次に、出典とした坂内（2001）も吉村（1994）も、そう記述していないはず（もしも、そう記述しているのであれば、両著者が誤解されないよう正確に引用すべきでは？）。以上より、「{{JIS2004フォント|&#40407;}}外がゆがめたとの説」について出典の明記になっていない。3月6日、要出典範囲を設定したものの、反応がないので、4月10日削除 -->
		+
		+	以上を端的にいえば、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が脚気問題で批判される多くは筋違いとの見解である。つづけて{{JIS2004フォント|&#40407;}}外への批判が起こった理由として、
		+	* [[高木兼寛|海軍の兵食改良]]を批判しすぎたこと。
		+	* 論理にこだわりすぎて学術的権威に依拠しすぎたこと。
		+	* 日清戦争時に上官の石黒に同調したこと<ref>この見解については、保身や党派性を、医師としての公衆に対する義務より優先させたとの批判がある。[[#志田2009|志田（2009）]]、179頁</ref>。
		+	が挙げられた。
		+
		+	ただし、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外が岡崎桂一郎著「日本米食史 - 附食米と脚気病との史的関係考」(1912)に寄せた序文で「私は臨時の脚気病調査会長になって（中略）米の精粗と脚気に因果関係があるのを知った」と自ら記述している事実から、{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は脚気病栄養障害説が正しいことを知りながら、敢えてそれを排除、細菌原因説に固執して、調査会の結論を遅らせていたとの指摘もある<ref>[[#志田2009|志田（2009）]]、145–153頁</ref>。
		+
		+	== 年譜 ==
		+	[[File:Tsuwano1.jpg|thumb|right|230px|史跡・森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外生家]]
		+	※日付は1872年までは旧暦
		+	* [[1862年]]（[[文久]]{{0}}2年）[[1月19日_(旧暦)|1月19日]] - [[石見国]][[津和野藩]]（現・[[島根県]][[鹿足郡]][[津和野町]]）に、藩医・[[森静泰]]（後に静男と改名）、[[森峰子|峰子]]の長男として生まれる。
		+	* [[1867年]]（[[慶応]]3年）11月 - [[村田久兵衛]]に[[論語]]を学ぶ。
		+	* [[1868年]]（[[明治]]元年）3月 - [[米原綱善]]に[[孟子]]を学ぶ。
		+	* [[1869年]]（明治{{0}}2年） - 藩校の[[養老館]]で、[[四書]]を一から読み直す。
		+	* [[1870年]]（明治{{0}}3年） - [[五経]]、[[オランダ語]]を学ぶ。
		+	* [[1871年]]（明治{{0}}4年） - 藩医の室良悦にオランダ語を学ぶ。
		+	* [[1872年]]（明治{{0}}5年）
		+	** {{0}}6月 - 父とともに津和野を発ち、8月に[[東京]]入り（向島小梅村）。その後、向島曳舟通りに転居。
		+	** 10月 - [[ドイツ語]]習得のため、本郷の進文学社（私塾）に入学。
		+	* [[1873年]]（明治{{0}}6年）
		+	** {{0}}6月 - 津和野町の家を売却し、祖母、母なども上京。
		+	** 11月、第一大学区医学校予科（現・[[東京大学]]医学部）に入学。同校は、のちに東京医学校に改称。
		+	* [[1877年]]（明治10年） - 東京医学校は、東京開成学校と合併して東京大学医学部に改組され、その本科生になる。
		+	* [[1880年]]（明治13年） - 本郷龍岡町の下宿屋「上条」に移る。翌年3月、下宿先で火災に遭い、講義ノートなどを失う。
		+	* [[1881年]]（明治14年）
		+	** 春 - [[肋膜炎]]にかかる。
		+	** {{0}}7月 - 東京大学医学部を卒業。父・静男の経営する南足立郡千住町の橘井堂医院に転居。[[文部省]]広報に「[[東京府]][[士族]] 森林太郎 十九年八ヶ月」とみえる。その後、明治政府に仕える。
		+	** {{0}}9月 - 『[[読売新聞]]』に寄稿した「[[河津金線]]君に質す」が採用される。これが{{JIS2004フォント|&#40407;}}外の初めて公にされた文章であろう。
		+	** 12月 - [[東京陸軍病院]]課僚を命じられて、[[陸軍軍医副]]の任務につく。
		+	* [[1882年]]（明治15年）
		+	** {{0}}2月 - [[第一軍管区]]徴兵副医官（[[中尉]]相当）になり、[[従七位]]の[[位階]]を授かる。
		+	** {{0}}5月 - [[陸軍軍医本部]]課僚になり、[[プロシア]]陸軍衛生制度の調査に駆り出される。
		+	* [[1884年]]（明治17年）
		+	** {{0}}6月 - 陸軍衛生制度、[[衛生学]]研究の目的で、ドイツ留学を命じられる。
		+	** 10月 - ドイツに到着。[[ライプツィヒ大学]]でホフマン教授などに学ぶ。『ビイルの利尿作用に就いて』の研究を始める。
		+	* [[1885年]]（明治18年）
		+	** {{0}}1月 - ハウフの童話を翻訳した「盗侠行」を発表。
		+	** {{0}}2月 - ドイツ語で「日本兵食論」「日本家屋論」を執筆。
		+	** {{0}}5月 - [[陸軍一等軍医]]（[[大尉]]相当）に昇進。
		+	** 10月 - [[ドレスデン]]に移る。
		+	* [[1886年]]（明治19年）3月 - [[ミュンヘン]]に移る。大学衛生部に入学し、[[マックス・フォン・ペッテンコーファー|ペッテンコーフェル]]に[[衛生学]]を学ぶ。
		+	* [[1887年]]（明治20年）
		+	** {{0}}4月 - [[ベルリン]]に移る。
		+	** {{0}}5月 - [[北里柴三郎]]とともに[[ロベルト・コッホ|コッホ]]を訪ね、衛生試験所に入る。
		+	* [[1888年]]（明治21年）
		+	** {{0}}3月 - [[プロシア近衛歩兵]]第2連隊の軍隊任務につく。
		+	** {{0}}9月 - 日本に帰国。
		+	** 10月 - [[陸軍大学校]]教官に就任。
		+	** 12月、『非日本食論将失其根拠』を自費出版。
		+	* [[1889年]]（明治22年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[東京医事新誌]]』を主宰。その後、『[[読売新聞]]』に「医学の説より出でたる小説論」が発表され、本格的な文筆活動が始まる。
		+	** {{0}}3月 - 写真婚で、[[海軍中将]][[赤松則良]]の長女登志子と婚約。
		+	** {{0}}5月 - [[東京藝術大学|東京美術学校]]専修科の[[美術解剖学]]講師に就任。
		+	** {{0}}8月 - 『[[国民之友]]』に訳詩編「[[於母影]]」を発表。
		+	** 10月 - [[軍医学校]][[陸軍二等軍医正]]（[[中佐]]相当官）教官心得になる。
		+	* [[1890年]]（明治23年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[医事新論]]』を創刊。『[[国民之友]]』に「[[舞姫]]」を発表。
		+	** {{0}}8月 - 『[[しからみ草紙]]』に「[[うたかたの記]]」を発表。この作品は、[[石橋忍月]]との論争の火種になる。
		+	** {{0}}9月 - 長男・[[森於菟|於菟]]誕生。しかし、まもなく妻登志子と離婚。
		+	** 10月 - [[本郷駒込]]千駄木町57に居住を移す。{{JIS2004フォント|&#40407;}}外は、そこを「[[千朶山房]]」と呼ぶ。
		+	* [[1891年]]（[[明治24年]]）
		+	** 1月 - 『[[文づかひ]]』を刊行。
		+	** {{0}}8月 - [[博士 (医学)|医学博士]]の学位を授与される。
		+	** {{0}}9月 - 『[[しからみ草紙]]』に「[[山房論文]]」を発表。[[早稲田文学]]で[[坪内逍遥|坪内逍遙]]と[[没理想論争]]を交わす。
		+	* [[1892年]]（[[明治25年]]）
		+	** {{0}}7月 - 翻訳小説集『[[美奈和集]]』（春陽堂）を刊行。
		+	** {{0}}8月 - 医学と文学の論争から離れて休息を取るため、自宅（観潮楼）を建設。
		+	** 11月 - 『[[しからみ草紙]]』に[[ハンス・クリスチャン・アンデルセン|アンデルセン]]の「[[即興詩人]]」を連載。
		+	* [[1893年]]（[[明治26年]]）11月 - 陸軍一等軍医正（[[大佐]]相当）に昇進し、軍医学校長になる。
		+	* [[1894年]]（[[明治27年]]）
		+	** {{0}}7月 - [[日清戦争]]勃発。
		+	** {{0}}8月 - 東京から[[広島市]]に向かう。
		+	** 11月 - [[大連市|大連]]に上陸。
		+	* [[1895年]]（明治28年）
		+	** {{0}}5月 - [[下関条約|日清講和条約]]調印後、帰国（帰京することなく広島市にとどまる）。
		+	** {{0}}8月 - [[台湾総督府]]陸軍局軍医部長になり、台湾に赴任。
		+	** {{0}}9月 - 帰国の途につく。
		+	* [[1896年]]（明治29年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[めさまし草]]』を創刊。
		+	** {{0}}3月 - [[幸田露伴]]、[[斎藤緑雨]]らとともに『めさまし草』に「三人冗語」を連載。
		+	** {{0}}4月 - 父・静男死去。
		+	* [[1897年]]（明治30年）
		+	** {{0}}1月 - [[中浜東一郎]]（[[ジョン万次郎|中浜万次郎]]の長男）、[[青山胤通]]らとともに公衆医事会を設立、『公衆医事』を創刊。
		+	* [[1898年]]（明治31年）
		+	** {{0}}8月 - 『[[時事新報]]』にて箴言集「[[智恵袋]]」（ドイツ人作家・[[w:Adolph Freiherr Knigge|Adolf Freiherr von Knigge]]著『Über den Umgang mit Menschen』の抄訳・翻案）連載開始。
		+	** 10月 - [[近衛師団]]軍医部長兼軍医学校長に就任。
		+	* [[1899年]]（明治32年）
		+	** {{0}}2月 - 軍医監（[[少将]]相当）に昇任し、[[第12師団 (日本軍)|第12師団]]軍医部長として[[福岡県]]の小倉に赴任。
		+	** {{0}}6月 - 『[[二六新報]]』にて箴言集「心頭語」連載開始。
		+	* [[1902年]]（明治35年）
		+	** {{0}}1月 - [[大審院]]判事[[荒木博臣]]の長女志げと再婚。
		+	** {{0}}3月 - 東京に転勤。
		+	* [[1903年]]（明治36年）
		+	** {{0}}1月 - 長女・[[森茉莉|茉莉]]誕生。
		+	** {{0}}3月 - 『[[新小説]]』にて箴言集「慧語」（スペイン人作家・[[w:Baltasar Gracián|{{Unicode|Baltasar Gracián}}]]著『Handorakel und Kunst der Weltklugheit （{{Unicode|Oráculo manual y arte de prudencia}}のドイツ語訳）』の抄訳・翻案）連載開始。
		+	* [[1904年]]（明治37年）
		+	** {{0}}2月 - [[日露戦争]]勃発。
		+	** {{0}}4月 - [[第2軍 (日本軍)#日露戦争における第2軍|第2軍]]軍医部長として、[[広島市]]の宇品港をたつ。『うた日記』を書く。
		+	* [[1905年]]（明治38年） - [[奉天会戦]]勝利後、残留していたロシア赤十字社員の護送に尽力。
		+	* [[1906年]]（明治39年）
		+	** {{0}}1月 - 帰国。
		+	** {{0}}6月 - [[賀古鶴所]]らと歌会「常磐会」を設立（のちに[[山縣有朋]]などが参加）。
		+	* [[1907年]]（明治40年）
		+	** {{0}}3月 - [[与謝野鉄幹]]・[[伊藤左千夫]]・[[佐佐木信綱]]らと自宅で「観潮楼歌会」を開く。
		+	** {{0}}6月 - [[西園寺公望]]が主催した歌会「[[雨声会]]」に出席。
		+	** {{0}}8月 - 次男・[[不律]]誕生。
		+	** 10月 - [[軍医総監|陸軍軍医総監]]・[[陸軍省#医務局|陸軍省医務局長]]となる。
		+	* [[1908年]]（明治41年）
		+	** {{0}}1月 - 弟・[[三木竹二]]死去。
		+	** {{0}}2月 - 次男・不律死去。
		+	** {{0}}5月 - 文部省の[[臨時仮名遣調査委員会]]委員になる。
		+	* [[1909年]]（明治42年）
		+	** {{0}}3月 - 『[[スバル (文芸雑誌)|スバル]]』に口語体小説「半日」を寄稿。以後、頻繁に寄稿する。
		+	** {{0}}5月 - 次女・[[小堀杏奴|杏奴]]誕生。
		+	** {{0}}7月 - [[博士_(文学)|文学博士]]の学位を授与され、また「[[ヰタ・セクスアリス]]」掲載の『スバル』が発売禁止となる。
		+	* [[1910年]]（明治43年）
		+	** {{0}}2月 - [[慶應義塾大学]]の文学科顧問に就任。『[[三田文学]]』編集委員。
		+	* [[1911年]]（明治44年）
		+	** {{0}}2月 - 三男・[[森類|類]]誕生。
		+	** {{0}}5月 - [[文芸委員会]]委員になる。
		+	** {{0}}9月 - 『スバル』に「[[雁 (小説)|雁]]」を連載。
		+	* [[1912年]]（明治45年）
		+	** {{0}}1月 - [[文芸委員会]]に頼まれていた戯曲『[[ファウスト]]』の訳を完結させる。
		+	** 10月 - 初の歴史小説「[[興津弥五右衛門の遺書]]」を『[[中央公論]]』に発表。
		+	* [[1913年]]（[[大正]]{{0}}2年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[中央公論]]』に「[[阿部一族]]」を発表。
		+	* [[1914年]]（大正{{0}}3年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[中央公論]]』に「[[大塩平八郎]]」を発表。
		+	** {{0}}2月 - 『[[新小説]]』に「[[堺事件]]」を発表。
		+	* [[1915年]]（大正{{0}}4年）
		+	** {{0}}1月 - 『[[中央公論]]』に「[[山椒大夫]]」を、『[[心の花]]』に「歴史其儘と歴史離れ」を発表。
		+	** 10月 - 『[[中央公論]]』に「最後の一句」を発表。
		+	** 11月、[[大島健一]][[陸軍省#陸軍次官|陸軍次官]]に辞意を表明。同年、[[渋江抽斎]]の調査研究を始める。
		+	* [[1916年]]（大正{{0}}5年）
		+	** {{0}}1月、『[[中央公論]]』に「[[高瀬舟 (小説)|高瀬舟]]」を、『新小説』に「寒山拾得」を発表。東京日日新聞と大阪毎日新聞に「[[渋江抽斎]]」を連載。
		+	** {{0}}3月、母峰子死去。
		+	** {{0}}4月、[[陸軍省医務局]]長を退く。[[予備役]]に編入。
		+	* [[1917年]]（大正{{0}}6年）
		+	** 12月 - [[帝室博物館]]総長に就任し、[[高等官]]一等に叙せられる。
		+	* [[1918年]]（大正{{0}}7年）
		+	** 11月 - [[正倉院]]宝庫開封に立ち会うため[[奈良市|奈良]]に一時滞在。以後[[1921年]]（大正10年）まで毎秋、奈良を訪れた。
		+	* [[1919年]]（大正{{0}}8年）
		+	** {{0}}9月 - [[日本芸術院|帝国美術院]]の初代院長に就任。
		+	* [[1921年]]（大正10年）
		+	** {{0}}6月 - [[臨時国語調査会]]長に就任。秋、足に浮腫が出来はじめるなど、[[腎臓病]]の兆候が見られ始める。
		+	* [[1922年]]（大正11年）
		+	** {{0}}4月 - [[イギリス]][[エドワード8世 (イギリス王)|皇太子]]の正倉院参観に合わせ、奈良へ5度目の旅行。途中、いくどか病臥する。
		+	** {{0}}[[6月29日]] - [[萎縮腎]]と診断される。また、[[肺結核]]の兆候も見られた。
		+	** {{0}}[[7月6日|7月{{0}}6日]] - 友人の[[賀古鶴所]]に遺言の代筆を頼む。
		+	** {{0}}[[7月9日|7月{{0}}9日]] - 午前7時死去。向島[[弘福寺]]に埋葬される。
		+	* [[1927年]]（[[昭和]]{{0}}2年） - 墓が[[三鷹市]]禅林寺に移される。分骨され[[津和野町]]永明寺にも墓がある。
		+
		+	== 主な作品 ==
		+	[[File:Mori-Ogai.JPG|thumb|200px|森鴎外]]
		+
		+	=== 小説 ===
		+	{|
		+	| valign="top" |
		+	*[[舞姫]] （『[[国民之友]]』、1890年1月）
		+	*[[うたかたの記]] （『[[国民之友]]』、1890年8月）
		+	*文づかひ （吉岡書店、1891年1月）
		+	*半日 （『[[スバル]]』、1909年3月）
		+	*魔睡 （『[[スバル]]』、1909年6月）
		+	*[[ヰタ・セクスアリス]] （『スバル』、1909年7月）
		+	*鶏 （『スバル』、1909年8月）
		+	*金貨 （『スバル』、1909年9月）
		+	*杯 （『中央公論』、1910年1月）
		+	*[[青年 (小説)|青年]] （『スバル』、1910年3月–11年8月）
		+	*普請中 （『三田文学』、1910年6月）
		+	*花子 （『三田文学』、1910年7月）
		+	*あそび （『三田文学』、1910年8月）
		+	*食堂 （『三田文学』、1910年12月）
		+	*蛇 （『中央公論』、1911年1月）
		+	| valign="top" |
		+	*妄想 （『三田文学』、1911年4月）
		+	*[[雁 (小説)|雁]] （『スバル』、1911年9月–1913年5月）
		+	*灰燼 （『三田文学』、1911年10月–1912年12月）
		+	*百物語 （『中央公論』、1911年10月）
		+	*かのように （『中央公論』、1912年1月）
		+	*興津弥五右衛門の遺書 （1912年10月、『中央公論』）
		+	*[[阿部一族]] （『中央公論』、1913年1月）
		+	*[[佐橋甚五郎]] （『中央公論』、1913年）
		+	*大塩平八郎 （『中央公論』、1914年1月）
		+	*堺事件 （『新小説』、1914年2月）
		+	*安井夫人 （『太陽』、1914年4月）
		+	*[[山椒大夫]] （『中央公論』、1915年1月）
		+	*じいさんばあさん （『新小説』、1915年9月）
		+	*最後の一句 （『中央公論』、1915年10月）
		+	*[[高瀬舟 (小説)|高瀬舟]] （『中央公論』、1916年1月）
		+	*寒山拾得 （『新小説』、1916年1月）
		+	| valign="top" |
		+	|}
		+
		+	===戯曲===
		+	*[[生田川 (戯曲)|生田川]]
		+
		+	=== 詩歌 ===
		+	*[[うた日記]]（春陽堂、1907年）
		+	*[[横浜市歌]] (1909年)<!--説明は、記事「横浜市歌」の方でお願いします。-->
		+	<!--「横浜市立横浜商業高等学校校歌」は、下の「関連項目」に移動-->
		+
		+	=== 翻訳 ===
		+	*[[カルデロン・デ・ラ・バルカ]]「調高矣津弦一曲」（El alcalde de Zalamea）、1889年。※[[三木竹二]]との共訳
		+	*[[於母影]]（[[新声社]]訳『国民之友』夏期付録、1889年）
		+	*[[ハンス・クリスチャン・アンデルセン]]「[[即興詩人]]」 （『しからみ草紙』1892年11月 から掲載され、『めさまし草』1901年2月完）
		+	*[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]『[[ファウスト]]』 （第一部：1913年1月、第二部：3月、冨山房）
		+	* [[オスカー・ワイルド]]「[[サロメ (戯曲)|サロメ]]」
		+	* [[アルトゥル・シュニッツラー]]「みれん」「恋愛三昧」ほか
		+
		+	=== 史伝 ===
		+	*[[渋江抽斎|澁江抽齋]] （『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』、1916年1月 - 5月）
		+	*[[伊沢蘭軒|伊澤蘭軒]]
		+	*[[北条霞亭]]<ref>史伝の新版は、『鴎外歴史文学集』（全13巻、岩波書店）に、一部の小説作品や、[[漢詩]]と共にある。</ref>（続篇として[[狩谷棭斎]]を執筆する予定だった）
		+	*[[帝諡考]]
		+
		+	=== 随筆 ===
		+	*サフラン（『[[番紅花]]』1914年3月）
		+	*空車{{small|（むなぐるま）}}　（『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』1916年5月）
		+	*[[礼儀小言]]（『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』1918年1月）
		+
		+	== 家族 親族 ==
		+	=== 先祖 ===
		+	典医としての森家（森氏）は、1650年前後（[[慶安]]年間）から[[1869年]]（[[明治]]2年）の[[版籍奉還]]に及ぶ。
		+	<pre>
		+	玄佐━玄篤━玄叔━周菴━玄佐━玄碩━玄叔━周菴━秀菴━立本━秀菴━白仙━静泰━┳林太郎
		+	┣篤次郎
		+	┣喜美子
		+	┗潤三郎
		+	</pre>
		+
		+	=== 妻子 ===
		+	* 先妻 登志子（海軍中将[[赤松則良]]娘）
		+	** 長男 [[森於菟|於菟]]（おと、医学者、台北帝国大学医学部教授などを歴任）
		+	*後妻 - [[森志け|志け]]
		+	*:小説「波瀾」を著しており（『樋口一葉・明治女流文学・泉鏡花集』現代日本文学大系5、筑摩書房、1972年）、義妹の小金井喜美子とともに雑誌『[[青鞜]]』の賛助員になった。
		+	** 長女 [[森茉莉|茉莉]]（まり、随筆家・小説家）
		+	** 次女 [[小堀杏奴|杏奴]]（あんぬ、随筆家）
		+	** 次男 不律（ふりつ、夭折)
		+	** 三男 [[森類|類]]（るい、随筆家）
		+	4人の子供はいずれも鴎外について著作を残しており、とりわけ茉莉（国語教科書に載った『父の帽子』）と杏奴（『晩年の父』）が有名である。
		+
		+	=== 弟妹 ===
		+	*弟 篤次郎（[[三木竹二]]）
		+	*: 明治期を代表する劇評家で、内科医。演劇雑誌『歌舞伎』を主宰し、歌舞伎批評に客観的な基準を確立した（三木竹二『観劇偶評』、[[渡辺保]]編、岩波文庫、2004年）。
		+	* 妹 [[小金井喜美子|喜美子]]
		+	*: 明治期に[[若松賤子]]と並び称された翻訳家で、また随筆家・歌人でもあった（『鴎外の思い出』岩波文庫、1999年。『森鴎外の系族』岩波文庫、2001年）。
		+	* 義弟 [[小金井良精]]
		+	*: 喜美子の夫。初期の[[文部科学省|文部省]]派遣留学生（鴎外の前年にドイツ留学）。24歳で帰国し、27歳のとき[[お雇い外国人|高給のドイツ人教官]]に代わって東京帝国大学医学部教授に就任。後年、[[医科大学#分科大学期|帝国大学医科大学]]学長（現[[東京大学]]大学院医学系研究科研究科長・医学部長）等をつとめた<ref>[http://www.m.u-tokyo.ac.jp/information/deans.html 歴代医学部長]</ref>。
		+	小金井夫妻の孫の1人が小説家の[[星新一]]。
		+
		+	=== 傍系 ===
		+	* [[西周 (啓蒙家)|西周]]
		+	*: 鴎外の曾祖父の次男、森覚馬が西家を継いで生まれた子。幕末明治維新の西洋法学者・啓蒙家で、[[貴族院 (日本)|貴族院議員]]や[[元老院議官]]などの要職を歴任。上京後の一時期、鴎外少年は、西周邸から進文学社に通学した。
		+
		+	== その他 ==
		+	{{雑多な内容の箇条書き|date=2011年8月}}
		+	* 常日頃、文人の自分と武人のそれを厳格に分けて考えていた。あるとき文壇の親しい友人が軍服を着て停車場にいた森に何気なく話しかけたら、その友人を怒鳴りつけたことがある。
		+	* 軍人としての誇りが高く、娘と散歩する時にも必ず軍服に着替えた。あるとき杏奴と散歩をしていると、「わー中将が歩いているぞ」と子供たちがバラバラと駆け寄ってきた。日露戦争後で、軍人が子供たちのヒーローであったのである。鴎外を見つめていた子供たちの1人が、襟の深緑色を見て、「おい、なんだ、軍医だよ」と声をあげ、子供たちが散るように去ってしまったことにかなり落胆したそうである。
		+	* [[1892年]]（明治25年）に[[東京府]][[東京市]][[本郷 (文京区)|本郷区]]（現・[[東京都]][[文京区]]）に建設し、晩年まで過ごした住居「観潮楼」跡地に、文京区立本郷図書館鴎外記念室がある。
		+	* 細菌学を究めて以来、[[ルイ・パスツール|パスツール]]同様[[潔癖症]]になってしまい、果物などの食べ物も加熱しないと食べられなくなってしまったという。
		+	* [[下戸|酒は飲めず]]、大の[[甘党]]だった。[[あんパン]]や「消毒してあって、滋養に富んでいる」[[焼き芋]]が好物であった<ref>[[#嵐山2000|嵐山 2000]]</ref>。娘（茉莉・杏奴）の著書によると[[饅頭]]も[[茶漬け]]にして食べていたという。
		+	* 風呂嫌いで、盥を前に身を清めるのが日課であった。
		+
		+	== 脚注 ==
		+	{{脚注ヘルプ}}
		+	{{Reflist|2}}
		+
		+	== 参考文献 ==
		+	<!-- 本文などで出典として用いられていない文献を削除。2010年11月 -->
		+	*{{Cite book|和書|author=嵐山光三郎|authorlink=嵐山光三郎|year=2000|month=9|title=文人悪食|series=新潮文庫|publisher=新潮社|isbn=4-10-141905-1|ref=嵐山2000}}
		+	*{{Cite book|和書|author=池内健次|authorlink=池内健次|year=2001|month=12|title=森鴎外と近代日本|series=Minerva21世紀ライブラリー 67|publisher=ミネルヴァ書房|isbn=4-623-03559-X|ref=池内2001}}
		+	*[[猪瀬直樹]]「元号に賭ける」、{{Cite book|和書|year=2002|month=9|title=天皇の影法師|series=日本の近代猪瀬直樹著作集 10|publisher=小学館|isbn=4-09-394240-4|ref=猪瀬2002}}
		+	*{{Cite book|和書|author=植木哲|authorlink=植木哲|year=2000|month=4|title=新説　鴎外の恋人エリス|series=新潮選書|publisher=新潮社|isbn=4-10-600587-5|ref=植木2000}}
		+	*{{Cite book|和書|author=大谷晃一|authorlink=大谷晃一|origyear=1983|origmonth=4|year=2000|month=9|title=鴎外、屈辱に死す|series=ノアコレクション 3|publisher=編集工房ノア|ref=大谷2000}}
		+	*{{Cite book|和書|author=片山杜秀|authorlink=片山杜秀|year=2007|month=9|title=近代日本の右翼思想|series=講談社選書メチエ 396|publisher=講談社|isbn=978-4-06-258396-1|ref=片山2007}}
		+	*{{Cite book|和書|author=金子幸代|authorlink=金子幸代|year=1992|month=11|title=鴎外と〈女性〉　森鴎外論究|publisher=大東出版社|isbn=4-500-00588-9|ref=金子1992}}
		+	*{{Cite book|和書|author=小金井喜美子|authorlink=小金井喜美子|year=1999|month=11|title=鴎外の思い出|series=岩波文庫|publisher=岩波書店|isbn=4-00-311611-9|ref=小金井1999}}
		+	*{{Cite book|和書|author=小平克|authorlink=小平克|year=2006|month=6|title=森鴎外「我百首」と「舞姫事件」|publisher=同時代社|isbn=4-88683-577-5|ref=小平2006}}
		+	*{{Cite book|和書|author=小堀杏奴|authorlink=小堀杏奴|year=1981|month=9|title=晩年の父|publisher=岩波書店〈岩波文庫〉|isbn=4-00-310981-3|ref=小堀1981}}
		+	*{{Cite book|和書|author=小堀杏奴|year=2003|month=1|title=朽葉色のショール|edition=新版|series=[[講談社文芸文庫]]|publisher=講談社|isbn=4-06-198319-9|ref=小堀2003}}
		+	*{{Cite book|和書|author=小堀桂一郎|authorlink=小堀桂一郎|year=1998|month=11|title=森鴎外　批評と研究|publisher=岩波書店|isbn=4-00-025283-6|ref=小堀1998}}
		+	*{{Cite book|和書|author=今野勉|authorlink=今野勉|year=2010|month=11|title=鴎外の恋人　百二十年後の真実|publisher=日本放送出版協会|isbn=978-4-14-081442-0|ref=今野2010}}
		+	*{{Cite book|和書|author=坂内正|authorlink=坂内正|year=2001|month=5|title=鴎外最大の悲劇|series=新潮選書|publisher=新潮社|isbn=4-10-603500-6|ref=坂内2001}}
		+	*{{Cite book|和書|author=佐谷眞木人|authorlink=佐谷眞木人|year=2009|month=3|title=日清戦争　「国民」の誕生|series=講談社現代新書 1986|publisher=講談社|isbn=978-4-06-287986-6|ref=佐谷2009}}
		+	*{{Cite book|和書|author=志田信男|authorlink=志田信男|year=2009|month=1|title=鴎外は何故袴をはいて死んだのか　「非医」鴎外・森林太郎と脚気論争|publisher=公人の友社|isbn=978-4-87555-540-7|ref=志田2009}}
		+	*{{Cite book|和書|author=末延芳晴|authorlink=末延芳晴|year=2008|month=8|title=森鴎外と日清・日露戦争|publisher=平凡社|isbn=978-4-582-83407-9|ref=末延2008}}
		+	*{{Cite book|和書|author=長島要一|authorlink=長島要一|year=2005|month=10|title=森鴎外　文化の翻訳者|series=岩波新書|publisher=岩波書店|isbn=4-00-430976-X|ref=長島2005}}
		+	*{{Cite book|和書|author=新関公子|authorlink=新関公子|year=2008|month=2|title=森鴎外と原田直次郎　ミュンヘンに芽生えた友情の行方|publisher=東京藝術大学出版会|isbn=978-4-904049-03-7|ref=新関2008}}
		+	*{{Cite book|和書|author=林尚孝|authorlink=林尚孝|year=2005|month=4|title=仮面の人・森鴎外　「エリーゼ来日」三日間の謎|publisher=同時代社|isbn=4-88683-549-X|ref=林2005}}
		+	*{{Cite book|和書|editor=[[平川祐弘]]・[[平岡敏夫]]・[[竹盛天雄]]編|year=1997|month=5|title=鴎外の人と周辺|series=講座 森鴎外 第1巻|publisher=新曜社|isbn=4-7885-0597-5|ref=平川ら1997a}}
		+	*{{Cite book|和書|editor=平川祐弘・平岡敏夫・竹盛天雄編|year=1997|month=5|title=鴎外の作品|series=講座 森鴎外 第2巻|publisher=新曜社|isbn=4-7885-0598-3|ref=平川ら1997b}}
		+	*{{Cite book|和書|editor=平川祐弘・平岡敏夫・竹盛天雄編|year=1997|month=6|title=鴎外の知的空間|series=講座 森鴎外 第3巻|publisher=新曜社|isbn=4-7885-0603-3|ref=平川ら1997c}}
		+	*{{Cite book|和書|author=松本清張|authorlink=松本清張|year=1997|month=11|title=両像・森鴎外|series=文春文庫|publisher=文藝春秋|isbn=4-16-710684-1|ref=松本1997}}
		+	*{{Cite book|和書|author=森鴎外|others=[[田中美代子]]解説|year=1996|month=7|title=森鴎外全集 13 独逸日記・小倉日記|series=ちくま文庫|publisher=筑摩書房|isbn=4-480-03093-X|ref=森鴎外1996}}
		+	*{{Cite book|和書|author=森鴎外|editor=[[千葉俊二]]編|year=2000|month=11|title=鴎外随筆集|series=岩波文庫|publisher=岩波書店|isbn=4-00-310068-9|ref=森鴎外2000}}
		+	*{{Cite book|和書|author=森鴎外|editor=[[金子幸代]]編・解説|year=2006|month=4|title=鴎外女性論集|publisher=不二出版|isbn=4-8350-3497-X|ref=森鴎外2006}}
		+	*{{Cite book|和書|author=森潤三郎|authorlink=森潤三郎|year=1942|title=鴎外森林太郎|publisher=丸井書店|ref=森潤三郎1942}}
		+	*{{Cite book|和書|author=森まゆみ|authorlink=森まゆみ|year=2000|month=7|title=鴎外の坂|series=新潮文庫|publisher=新潮社|isbn=4-10-139022-3|ref=森まゆみ2000}}
		+	*{{Cite book|和書|author=山{{JIS2004フォント|&#64017;}}國紀|authorlink=山崎國紀|year=2007|month=7|title=評伝　森鴎外|publisher=大修館書店|isbn=978-4-469-22189-3|ref=山崎2007}}
		+	*{{Cite book|和書|author=山下政三|authorlink=山下政三|year=2008|month=11|title=鴎外森林太郎と脚気紛争|publisher=日本評論社|isbn=978-4-535-98302-1|ref=山下2008}}
		+	*{{Cite book|和書|author=六草いちか|authorlink=六草いちか|year=2011|month=3|title=鴎外の恋　舞姫エリスの真実|publisher=講談社|isbn=978-4-06-216758-1|ref=六草2011}}
		+
		+	== 関連項目 ==
		+	{{雑多な内容の箇条書き|date=2011年8月}}
		+	*[[井上通泰]]：『於母影』の共訳者で、歌会常磐会の創設メンバーの1人。
		+	*[[上田敏]]：一緒に雑誌『芸文』『万年艸』を創刊する等、親交を深めた。
		+	*[[木下杢太郎]]：医学生時代、鴎外に進路を相談。後年、鴎外の心境を深く理解した。
		+	*[[黒田清輝]]：[[東京藝術大学|東京美術学校]]の後輩教員。鴎外の依頼を受け、故原田直次郎展の発起人を務めた。
		+	*[[佐佐木信綱]]：『めさまし草』に歌を発表し、長年にわたって親交を深めた。
		+	*[[太宰治]]：希望したとおり、鴎外の墓のはす向かいに埋葬された（[[禅林寺 (三鷹市)|禅林寺]]）。
		+	*[[田山花袋]]：とくに鴎外の審美学（[[美学]]の旧称）が好きで、その影響を受けたと書いた。
		+	*[[永井荷風]]：鴎外の推薦で[[慶應義塾大学]]教授に就任。生涯その恩を忘れなかった。
		+	*[[中村不折]]：鴎外の自宅から別荘の表札、墓碑銘まで書いた。
		+	*[[原田直次郎]]：ドイツ留学時代からの友人。
		+	*[[吉田増蔵]]：晩年の鴎外に乞われて上京し、[[元号]]や[[勅語]]や[[皇族#明治憲法下|皇族]]名などに関わった。
		+
		+	<div style="float: left; vertical-align: top: white-space: nowrap; margin-right: 1em;">
		+	*[[青山胤通]]
		+	*[[石黒忠悳]]
		+	*[[小山内薫]]
		+	*[[落合直文]]
		+	*[[北里柴三郎]]
		+	*[[北原白秋]]
		+	*[[小池正直]]
		+	</div><div style="float: left; vertical-align: top: white-space: nowrap; margin-right: 1em;">
		+	*[[幸田露伴]]
		+	*[[斎藤緑雨]]
		+	*[[高木兼寛]]
		+	*[[田村怡与造]]
		+	*[[夏目漱石]]
		+	*[[樋口一葉]]
		+	*[[平塚らいてう]]
		+	</div><div style="float: left; vertical-align: top: white-space: nowrap; margin-right: 1em;">
		+	*[[平出修]]
		+	*[[藤田嗣治]]
		+	*[[正岡子規]]
		+	*[[与謝野晶子]]
		+	*[[与謝野寛]]
		+	*[[依田學海]]
		+	*[[柳田國男]]
		+	</div><div style="float: left; vertical-align: top: white-space: nowrap; margin-right: 1em;">
		+	*[[交響曲]]（訳語）
		+	*[[戦争論#日本での成立|戦争論]]
		+	*[[美学#日本の美学|美学]]
		+	*[[飛行機]]（訳語）
		+	*[[横浜市立横浜商業高等学校]]（Y校校歌）
		+	*[[エルヴィン・フォン・ベルツ]]
		+	</div><br style="clear: left;" />
		+	* [[ORGAI]] - 日本語[[ワードプロセッサー]][[ソフトウェア]]。名前は鴎外から取った。
		+
		+	== 外部リンク ==
		+	{{Wikisource|Category:森鴎外|森鴎外}}
		+	{{Wikiquote|森鴎外}}
		+	{{Commons|Mori Ogai}}
		+	*{{青空文庫著作者|129|森鴎外}}
		+	*[http://www.ougai.com/ 文京区立本郷図書館鴎外記念室]（[[文京区]]）
		+	*[http://rarebook.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/ogai/index.html 鴎外文庫書入本画像データベース]（[[東京大学総合図書館]]。鴎外の自筆草稿や書入本を見ることができる）
		+	*[http://12monkeyz.info/ougai/ 森 鴎外]
		+	*[http://www.horagai.com/www/who/65morio1.htm 森鴎外経歴]
		+	*[http://www.geocities.jp/sybrma/25moririntarou.yuigon.htm 森鴎外遺言]
		+	*[http://www.mars.dti.ne.jp/~akaki/ 近代文学研究会：『舞姫』論、鴎外の医学方面での活動]
		+	*[http://www.pref.shimane.lg.jp/life/bunka/shinkou/internet_kikakuten/bungaku/bungakusha/mori.html 島根ゆかりの文学者 森 鴎外]
		+	*[http://www.horror-house.jp/cat4/18621922.html 森鴎外のお墓]
		+	*[http://www2.hu-berlin.de/japanologie/?jp=Adresse_jp. 森{{JIS2004フォント|&#40407;}}外記念館 ベルリン]
		+	*[http://bunzo.jp/archives/category/080guntai_kakke.html 防衛研究所図書館「軍隊と脚気」]
		+	*[http://blog.hix05.com/blog/2008/04/post-578.html 壺齋閑話「森鴎外晩年の歴史小説」]
		+	*[http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1087212/30  ニコニコ写真帳　第一集] 軍服姿の森鴎外（国立国会図書館近代デジタルライブラリー）
		+
		+	<!-- 「陸軍軍医総監」は同時期に3人いたこともある階級であり、全陸軍軍医の人事権をもつ「陸軍省医務局長」のポスト（実質的なトップで、戦時に大本営陸軍部の野戦衛生長官をつとめる）こそ重要
		+	{{Start box}}
		+	{{Succession box
		+	| title  = [[軍医総監]]
		+	| years  = 第5代：1907年11月13日 - 1912年9月18日
		+	| before = [[菊池常三郎]]
		+	| after  = [[藤田嗣章]]
		+	}}
		+	{{End box}}
		+	-->
		+	{{森鴎外}}
		+	{{Normdaten|PND=118736957|LCCN=n/50/6285|VIAF=15096}}
		+	{{DEFAULTSORT:もり おうかい}}
		+	[[Category:日本の小説家]]
		+	[[Category:日本の文芸評論家]]
		+	[[Category:日本の翻訳家]]
		+	[[Category:日本の劇作家]]
		+	[[Category:大日本帝国陸軍将官]]
		+	[[Category:日本の衛生学者]]
		+	[[Category:日本の軍医総監]]
		+	[[Category:日本の宮内庁関係者]]
		+	[[Category:慶應義塾大学の教員]]
		+	[[Category:時事新報の人物]]
		+	[[Category:東京国立博物館の人物]]
		+	[[Category:奈良国立博物館の人物]]
		+	[[Category:日露戦争の人物]]
		+	[[Category:幕末津和野藩の人物]]
		+	[[Category:1862年生]]
		+	[[Category:1922年没]]
		+	[[Category:森鴎外|*]]
		+	[[Category:日独関係]]
		+
		+	[[de:Mori Ōgai]]
		+	[[en:Mori Ōgai]]
		+	[[eo:Mori Ogai]]
		+	[[es:Mori Ōgai]]
		+	[[fi:Mori Ōgai]]
		+	[[fr:Mori Ōgai]]
		+	[[hu:Mori Ógai]]
		+	[[id:Mori Ōgai]]
		+	[[it:Ōgai Mori]]
		+	[[ko:모리 오가이]]
		+	[[pl:Ōgai Mori]]
		+	[[pt:Mori Ōgai]]
		+	[[ro:Mori Ōgai]]
		+	[[sr:Мори Огај]]
		+	[[sv:Mori Ōgai]]
		+	[[vi:Mori Ōgai]]
		+	[[zh:森鷗外]]

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2013年2月17日 (日) 21:32時点における版

本来の表記は「森鷗外」です。この記事に付けられた題名は記事名の制約から不正確なものとなっています。

テンプレート:JIS2004 テンプレート:Infobox 作家

森 鷗外（もり おうがい、1862年2月17日（文久2年1月19日）– 1922年（大正11年）7月9日）は、明治・大正期の小説家、評論家、翻訳家、劇作家、陸軍軍医（軍医総監＝中将相当）、官僚（高等官一等）。位階勲等は従二位・勲一等・功三級・医学博士・文学博士。本名は森 林太郎（もり りんたろう）。

石見国津和野（現・島根県津和野町）出身。東京大学医学部^[1]卒業。第一次世界大戦以降、夏目漱石と並ぶ文豪と称される。

大学卒業後、陸軍軍医になり、陸軍省派遣留学生としてドイツで4年過ごした。帰国後、訳詩編「於母影」、小説「舞姫」、翻訳「即興詩人」を発表する一方、同人たちと文芸雑誌『しがらみ草紙』を創刊して文筆活動に入った。その後、日清戦争出征や小倉転勤などにより、一時期創作活動から遠ざかったものの、『スバル』創刊後に「ヰタ・セクスアリス」「雁」などを発表。乃木希典の殉死に影響されて「興津弥五右衛門の遺書」を発表後、「阿部一族」「高瀬舟」など歴史小説や史伝「澁江抽斎」等も執筆した。

晩年、帝室博物館（現在の東京国立博物館・奈良国立博物館・京都国立博物館等）総長や帝国美術院（現日本芸術院）初代院長なども歴任した。

生涯

生い立ち

1862年2月17日（文久2年1月19日）、石見国津和野（現島根県）で生まれた。代々津和野藩主、亀井家の御典医をつとめる森家では、祖父と父を婿養子^[2]として迎えているため、久々の跡継ぎ誕生であった^[3]。

藩医の嫡男として、幼い頃から論語や孟子やオランダ語などを学び、藩校の養老館では四書五経を復読。当時の記録から、9歳で15歳相当の学力と推測されており^[4]、激動の明治維新に家族と周囲から将来を期待されることになった。

1872年（明治5年）、廃藩置県等をきっかけに10歳で父と上京。東京では、官立医学校（ドイツ人教官がドイツ語で講義）への入学に備え、ドイツ語を習得するため、同年10月に私塾の進文学社^[5]に入った。その際に通学の便から、政府高官の親族西周の邸宅に一時期寄食した。翌年、残る家族も住居などを売却して津和野を離れた。

陸軍軍医として任官

1873年（明治6年）11月、入校試問を受け、第一大学区医学校（現・東京大学医学部）予科に実年齢より2歳多く偽り、11歳で入学（新入生71名。のちに首席で卒業する三浦守治も同時期に入学）^[6]。

定員30人の本科に進むと、ドイツ人教官たちの講義を受ける一方で、佐藤元長に就いて漢方医書を読み、また文学を乱読し、漢詩・漢文に傾倒し、和歌を作っていた^[7]。

なお語学に堪能な鷗外は、後年、執筆に当たってドイツ語など西洋語を用いるとともに、中国の故事などをちりばめた。さらに、自伝的小説「ヰタ・セクスアリス」で語源を西洋語の学習に役立てる逸話を記した^[8]。

1881年（明治14年）7月4日、19歳で本科を卒業（今後も破られないであろう最年少卒業記録）。卒業席次が8番であり^[9]、大学に残って研究者になる道は閉ざされたものの、文部省派遣留学生としてドイツに行く希望を持ちながら、父の病院を手伝っていた。その進路未定の状況を見かねた同期生の小池正直（のちの陸軍省医務長）は、陸軍軍医本部次長の石黒忠悳に鷗外を採用するよう長文の熱い推薦状を出しており、また小池と同じく陸軍軍医で日本の耳鼻咽喉科学の創始者といわれる親友の賀古鶴所（かこ・つると）は、鷗外に陸軍省入りを勧めていた。結局のところ鷗外は、同年12月16日に陸軍軍医副（中尉相当）になり、東京陸軍病院に勤務した^[10]。

なお、妹・小金井喜美子の回想によれば、若き日の鷗外は、四君子を描いたり、庭を写生したり、職場から帰宅後しばしば寄席に出かけたり（喜美子と一緒に出かけたとき、ある落語家の長唄を聴いて中座）していた^[11]。

ドイツ留学

入省して半年後の1882年（明治15年）5月、東京大学医学部卒業の同期8名の中で最初の軍医本部付となり、プロイセンの陸軍衛生制度に関する文献調査に従事し、早くも翌年3月には『医政全書稿本』全12巻^[12]を役所に納めた。1884年（明治17年）6月、衛生学を修めるとともにドイツ陸軍の衛生制度を調べるため、ドイツ留学を命じられた。7月28日、明治天皇に拝謁し、賢所に参拝。8月24日、陸軍省派遣留学生として横浜港から出国し、10月7日にフランスのマルセイユ港に到着。同月11日に首都ベルリンに入った。

最初の1年を過ごしたライプツィヒ（1884年11月22日–翌年10月11日）で、生活に慣れていない鷗外を助けたのが、昼食と夜食をとっていたフォーゲル家の人達であった^[13]。

また、黒衣の女性ルチウスなど下宿人たちとも親しくつきあい、ライプツィヒ大学ではホフマンなど良き師と同僚に恵まれた。演習を観るために訪れたザクセン王国の首都ドレスデンでは、ドレスデン美術館のアルテ・マイスター絵画館にも行き、ラファエロの「システィーナの聖母」を鑑賞した。

次の滞在地ドレスデン（1885年10月11日–翌年3月7日）では、主として軍医学講習会に参加するため、5ケ月ほど生活した。王室関係者や軍人との交際が多く、王宮の舞踏会や貴族の夜会や宮廷劇場などに出入りした。その間、2人の大切な友人を得た。1人は鷗外の指導者ザクセン軍医監のウィルヘルム・ロートで、もう1人は外国語が堪能な同僚軍医のキルケ^[14]である。なお、ドレスデンを離れる前日、ナウマンの講演に反論し、のちにミュンヘンの一流紙で論争となった。

ミュンヘン（1886年3月8日–翌年4月15日）では、ミュンヘン大学のペッテンコーファーに師事した。研究のかたわら、邦人の少なかったドレスデンと異なり、同世代の原田直次郎や近衛篤麿など名士の子息と交際し、よく観劇していた。

次のベルリン（1887年4月16日–翌年7月5日）でも、早速北里柴三郎とともにコッホに会いに行っており、細菌学の入門講座をへてコッホの衛生試験所に入った^[15]。

9月下旬、カールスルーエで開催される第4回赤十字国際会議の日本代表（首席）としてドイツを訪れていた石黒忠悳に随行し、通訳官として同会議に出席。9月26日・27日に発言し、とりわけ最終日の27日は「ブラボー」と叫ぶ人が出るなど大きな反響があった^[16]。

会議を終えた一行は、9月28日ウイーンに移動し、万国衛生会に日本政府代表として参加した。11日間の滞在中、鷗外は恩師や知人と再会した。1888年（明治21年）1月、大和会の新年会でドイツ語の講演をして公使の西園寺公望に激賞されており、18日から田村怡与造大尉の求めに応じてクラウゼヴィッツの『戦争論』を講じた。なお、留学が一年延長された代わりに、地味な隊付勤務（プロイセン近衛歩兵第2連隊の医務）を経験しており、そうしたベルリンでの生活は、ミュンヘンなどに比べ、より「公」的なものであった。ただし、後述するドイツ人女性と出会った都市でもあった。

同年7月5日、石黒とともにベルリンを発ち、帰国の途についた。ロンドン（保安条例によって東京からの退去処分を受けた尾崎行雄に会い詩を4首おくった）やパリに立ち寄りながら、7月29日マルセイユ港を後にした。9月8日横浜港に着き、午後帰京。同日付けで陸軍軍医学舎の教官に補され、11月には陸軍大学校教官の兼補を命じられた。なお帰国直後、ドイツ人女性が来日して滞在一月（1888年9月12日 - 10月17日）ほどで離日する出来事があり、小説「舞姫」の素材の一つとなった^[17]。後年、文通をするなど、その女性を生涯忘れることは無かったとされる^[18]。

初期の文筆活動

1889年（明治22年）1月3日、読売新聞の付録に「小説論」^[19]を発表し、さらに同日の読売新聞から、弟の三木竹二とともにカルデロンの戯曲「調高矣津弦一曲」（原題：サラメヤの村長）を共訳して随時発表した。その翻訳戯曲を高く評価したのが徳富蘇峰であり、8月に蘇峰が主筆をつとめる民友社の雑誌『国民之友』夏期文芸付録に、訳詩集「於母影」（署名は「S・S・S」（新声社の略記）^[20]）を発表した。その「於母影」は、日本近代詩の形成などに大きな影響を与えた。また「於母影」の原稿料50円をもとに、竹二など同人たちと日本最初の評論中心の専門誌『しがらみ草紙』を創刊した（日清戦争の勃発により59号で廃刊）^[21]。

このように、外国文学などの翻訳を手始めに（「即興詩人」「ファウスト」などが有名）^[22]、熱心に評論的啓蒙活動をつづけた。当時、情報の乏しい欧州ドイツを舞台にした「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」を相次いで発表。とりわけ、日本人と外国人が恋愛関係になる「舞姫」は、読者を驚かせたとされる。そのドイツ三部作をめぐって石橋忍月と論争を、また『しがらみ草紙』上で坪内逍遥の記実主義を批判して没理想論争を繰り広げた。

1889年（明治22年）に東京美術学校（現東京藝術大学）の美術解剖学講師を^[23]、1892年（明治25年）9月に慶應義塾大学の審美学（美学の旧称）^[24]講師を委嘱された（いずれも日清戦争出征時と小倉転勤時に解嘱）。

日清戦争出征と小倉「左遷」

1894年（明治27年）夏、日清戦争勃発により、8月29日に東京を離れ、9月2日に広島の宇品港を発った。翌年の日清講和条約の調印後、5月に近衛師団つきの従軍記者・正岡子規が帰国の挨拶のため、第2軍兵站部軍医部長の鷗外を訪ねた^[25]。

清との戦争が終わったものの、鷗外は日本に割譲された台湾での勤務を命じられており（朝鮮勤務の小池正直とのバランスをとった人事とされる）、5月22日に宇品港に着き（心配する家族を代表して訪れた弟の竹二と面会）、2日後には初代台湾総督の樺山資紀等とともに台湾に向かった。4ヶ月ほどの台湾勤務を終え、10月4日に帰京。

翌1896年（明治29年）1月、『しがらみ草紙』の後を受けて幸田露伴・斎藤緑雨とともに『めさまし草』を創刊し、合評「三人冗語」を載せ、当時の評壇の先頭に立った（1902年廃刊）^[26]。

なお、その頃より、評論的啓蒙活動が戦闘的ないし論争的なものから、穏健的なものに変わっていった^[27]。1898年（明治31年）7月9日付『万朝報』の連載「弊風一斑　蓄妾の実例」のなかで、「児玉せき」との交情をあばかれた^[28]。

1899年（明治32年）6月に軍医監（少将相当）に昇進し、東京（東部）・大阪（中部）とともに都督部が置かれていた小倉（西部）の第12師団軍医部長に「左遷」^[29]された。19世紀末から新世紀の初頭をすごした小倉時代には、歴史観と近代観にかかわる一連の随筆などが書かれた^[30]。

またドイツ留学中、田村怡与造に講じていた難解なクラウゼヴィッツの『戦争論』について、師団の将校たちに講義をするとともに、井上光師団長などの依頼で翻訳をはじめた^[31]。その内部資料は、ほかの部隊も求めたという。

小倉時代に「圭角がとれ、胆が練れて来た」と末弟の森潤三郎が記述したように、そのころ鷗外は、社会の周縁ないし底辺に生きる人々への親和、慈しみの眼差しを獲得していた^[32]。

私生活でも、徴兵検査の視察時などで各地の歴史的な文物、文化、事蹟との出会いを通し、とくに後年の史伝につながる掃苔（探墓）の趣味を得た^[33]。

新たな趣味を得ただけではなく、1900年（明治33年）1月に先妻・赤松登志子が結核で死亡したのち^[34]、母の勧めるまま1902年（明治35年）1月、18歳年下の荒木志げと見合い結婚をした（41歳と23歳の再婚同士）。さらに、随筆『二人の友』に登場する友人も得た。1人は曹洞宗の僧侶、玉水俊虠（通称、安国寺）で、もう1人は同郷の俊才福間博^[35]である。

2人は、鷗外の東京転勤とともに上京し、鷗外の自宅近くに住み、交際をつづけた^[36]。

軍医トップへの就任と旺盛な文筆活動

1902年（明治35年）3月、第1師団軍医部長の辞令を受け、新妻とともに東京に赴任した。6月、廃刊になっていた『めざまし草』と上田敏の主宰する『芸苑』とを合併し、『芸文』を創刊（その後、出版社とのトラブルで廃刊したものの、10月に後身の『万年艸』を創刊）。当時は、12月に初めて戯曲を執筆するなど、戯曲にかかわる活動が目立っていた。

1904年（明治37年）2月から1906年（明治39年）1月まで日露戦争に第2軍軍医部長として出征^[37]。

1907年（明治40年）10月、陸軍軍医総監（中将相当）に昇進し、陸軍省医務局長（人事権をもつ軍医のトップ）に就任した^[38]。

なお同年9月、美術審査員に任じられ、第1回文部省美術展覧会（初期文展）西洋画部門審査の主任をつとめた^[39]。

1909年（明治42年）に『スバル』が創刊されると、同誌に毎号寄稿して創作活動を再開した（木下杢太郎のいう「豊熟の時代」）。「半日」「ヰタ・セクスアリス」「鶏」「青年」などを同誌に載せ、「仮面」「静」などの戯曲を発表。『スバル』創刊年の7月、鷗外は、東京帝国大学から文学博士の学位を授与された。しかし、直後に「ヰタ・セクスアリス」（同誌7月号）が発売禁止処分を受けた。しかも、内務省の警保局長が陸軍省を訪れた8月、鷗外は陸軍次官・石本新六から戒飭（かいちょく）された。同年12月、「予が立場」でレジグナチオン（諦念）をキーワードに自らの立場を明らかにした。

慶應義塾大学の文学科顧問に就任（教授職に永井荷風を推薦）した1910年（明治43年）は、5月に大逆事件の検挙がはじまり^[40]、9月に東京朝日新聞が連載「危険なる洋書」を開始して6回目に鷗外と妻の名が掲載され、また国内では南北朝教科書問題が大きくなりつつあった。そうした閉塞感がただよう年に「ファスチェス」（発禁問題）、「沈黙の塔」（学問と芸術）、「食堂」（クロポトキンや無政府主義等を記述）などを発表。

1911年（明治44年）にも「カズイスチカ」「妄想」を発表し、「青年」の完結後、「雁」と「灰燼」の2長編の同時連載を開始。同年4月の「文芸の主義」（原題：文芸断片）では、冒頭「芸術に主義というものは本来ないと思う。」とした上で、

無政府主義と、それと一しょに芽ざした社会主義との排斥をする為に、個人主義という漠然たる名を附けて、芸術に迫害を加えるのは、国家のために惜むべき事である。学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄えるはずがない。

– ^[41]

と結んだ。

また陸軍軍医として、懸案とされてきた軍医の人事権をめぐり、陸軍次官の石本と激しく対立した。ついに医務局長の鷗外が石本に辞意を告げる事態になった。結局のところ陸軍では、医学優先の人事が継続された。階級社会の軍隊で、それも一段低い扱いを受ける衛生部の鷗外の主張が通った背景の一つに、山縣有朋の存在があったと考えられている^[42]

1912年（明治45年）から翌年にかけて、五条秀麿を主人公にした「かのやうに」「吃逆」「藤棚」「鎚一下」の連作を、また司令官を揶揄するなど戦場体験も描かれた「鼠坂」^[43]などを発表した。当時は、身辺に題材をとった作品や思想色の濃い作品や教養小説や戯曲などを執筆した。もっとも公務のかたわら、『ファウスト』などゲーテの3作品をはじめ、外国文学の翻訳・紹介・解説もつづけていた。

1912年（大正元年）8月、「実在の人間を資料に拠って事実のまま叙述する、鷗外独自の小説作品の最初のもの」^[44]である「羽鳥千尋」を発表。翌9月13日、乃木希典の殉死に影響を受けて5日後に「興津弥五右衛門の遺書」（初稿）を書き終えた^[45]。

これを機に歴史小説^[46]に進み、歴史其儘の「阿部一族」、歴史離れの「山椒大夫」「高瀬舟」などののち、史伝「渋江抽斎」に結実した。ただし、1915年（大正4年）頃まで、現代小説も並行して執筆していた。1916年（大正5年）には、後世の鷗外研究家や評論家から重要視される随筆「空車」（むなぐるま）を^[47]、1918年（大正7年）1月には随筆「礼儀小言」を著した^[48]。

晩年

1916年（大正5年）4月、任官時の年齢が低いこともあり、トップの陸軍省医務局長を8年半つとめて退き、予備役に編入された。その後、1918年（大正7年）12月、帝室博物館（現東京国立博物館）総長兼図書頭（ずしょのかみ）に^[49]、翌年1月に帝室制度審議会御用掛に就任した^[50]。

さらに1918年（大正7年）9月、帝国美術院（現日本芸術院）初代院長に就任した。元号の「明治」と「大正」に否定的であったため、宮内省図書頭として天皇の諡と元号の考証・編纂に着手した。しかし『帝諡考』は刊行したものの、病状の悪化により、自ら見いだした吉田増蔵に後を託しており、後年この吉田が未完の『元号考』の刊行に尽力し、元号案「昭和」を提出した^[51]。

1922年（大正11年）7月9日午前7時すぎ、親族と親友の賀古鶴所らが付きそう中、萎縮腎、肺結核のために死去。テンプレート:没年齢2。

余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス

–

で始まる最後の遺言（7月6日付け）が有名であり^[52]、その遺言により墓には一切の栄誉と称号を排して「森林太郎ノ墓 」とのみ刻された。向島弘福寺に埋葬され、遺言により中村不折が墓碑銘を筆した。戒名は貞献院殿文穆思斎大居士。なお、関東大震災後、東京都三鷹市の禅林寺^[53]と津和野町の永明寺に改葬された。

人物評

評論的啓蒙活動

鷗外は自らが専門とした文学・医学、両分野において論争が絶えない人物であった。文学においては理想や理念など主観的なものを描くべきだとする理想主義を掲げ、事物や現象を客観的に描くべきだとする写実主義的な没理想を掲げる坪内逍遥と衝突する。また医学においては近代の西洋医学を旨とし、和漢方医と激烈な論争を繰り広げたこともある。和漢方医が7割以上を占めていた当時の医学界は、ドイツ医学界のような学問において業績を上げた学者に不遇であり、日本の医学の進歩を妨げている、大卒の医者を増やすべきだ、などと批判する。松本良順など近代医学の始祖と呼ばれている長老などと6年ほど論争を続けた。

鷗外の論争癖を発端として論争が起きたこともある。逍遥が『早稲田文学』にシェークスピアの評釈に関して加えた短い説明に対し、批判的な評を『しがらみ草紙』に載せたことから論争が始まった。このような形で鷗外が関わってきた論争は「戦闘的評論」や「論争的啓蒙」などと評される。もっとも、30歳代になると、日清戦争後に『めさまし草』を創刊して「合評」をするなど、評論的啓蒙活動は、戦闘的ないし論争的なものから、穏健なものに変わっていった。さらに、小倉時代に「圭角が取れた」という家族の指摘もある。

幅の広い文芸活動と交際

肩書きの多いことに現れているように、鷗外は文芸活動の幅も広かった。たとえば、訳者としては、上記の訳詩集「於母影」（共訳）と、1892年（明治25年）–1901年（明治34年）に断続的に発表された「即興詩人」とが初期の代表的な仕事である。「於母影」は明治詩壇に多大な影響を与えており、「即興詩人」は、流麗な雅文で明治期の文人を魅了し、その本を片手にイタリア各地をまわる文学青年（正宗白鳥など）が続出した。

戯曲の翻訳も多く（弟の竹二が責任編集をつとめる雑誌『歌舞伎』に掲載されたものは少なくない）^[54]、歌劇（オペラ）の翻訳まで手がけていた^[55]。

ちなみに、訳語（和製漢語）の「交響楽、交響曲」をつくっており、6年間の欧米留学を終えた演奏家、幸田延（露伴の妹）と洋楽談義をした（「西楽と幸田氏と」）。そうした外国作品の翻訳だけでなく、帰国後から演劇への啓蒙的な評論も少なくない^[56]。

翻訳は、文学作品を超え、ハルトマン『審美学綱領』のような審美学（美学の旧称）も対象になった。単なる訳者にとどまらない鷗外の審美学は、坪内逍遥との没理想論争にも現れており、田山花袋にも影響を与えた^[57]。その鷗外は、上記のとおり東京美術学校（現東京藝術大学）の嘱託教員（美術解剖学・審美学・西洋美術史）をはじめ、慶應義塾大学の審美学講師、「初期文展」西洋画部門などの審査員、帝室博物館総長や帝国美術院初代院長などをつとめた^[58]。

交際も広く、その顔ぶれが多彩であった。しかし、教師でもあった夏目漱石のように弟子を取ったり^[59]、文壇で党派を作ったりはしなかった。ドイツに4年留学した鷗外は、閉鎖的で縛られたような人間関係を好まず、西洋風の社交的なサロンの雰囲気を好んでいたとされる。官吏生活の合間も、書斎にこもらず、同人誌を主宰したり、自宅で歌会を開いたりして色々な人々と交際した。

文学者・文人に限っても、訳詩集「於母影」は5人による共訳であり、同人誌の『しがらみ草紙』と『めさまし草』にも多くの人が参加した。とりわけ、自宅（観潮楼）で定期的に開催された歌会が有名である。その観潮楼歌会は、1907年（明治40年）3月、鷗外が与謝野鉄幹の「新詩社」系と正岡子規の系譜「根岸」派との歌壇内対立を見かね、両派の代表歌人をまねいて開かれた。以後、毎月第一土曜日に集まり、1910年（明治43年）4月までつづいた。伊藤左千夫・平野万里・上田敏・佐佐木信綱等が参加し、「新詩社」系の北原白秋・吉井勇・石川啄木・木下杢太郎、「根岸」派の斎藤茂吉・古泉千樫等の新進歌人も参加した（与謝野晶子を含めて延べ22名）^[60]。

また、当時としては女性蔑視が少なく、樋口一葉をいち早く激賞しただけでなく、与謝野晶子と平塚らいてうも早くから高く評価した。晶子（出産した双子の名付け親が鷗外）やらいてうや純芸術雑誌『番紅花』（さふらん）を主宰した尾竹一枝など、個性的で批判されがちな新しい女性達とも広く交際した^[61]。 その鷗外の作品には、女性を主人公にしたものが少なくなく、ヒロインの名を題名にしたものも複数ある（「安井夫人」、戯曲「静」、「花子」、翻訳戯曲「ノラ」（イプセン作「人形の家」））。

軍医として

上記にもあるように、鷗外は東京帝國大学で近代西洋医学を学んだ陸軍軍医（第一期生）であった。医学先進国のドイツに4年間留学し、帰国した1889年（明治22年）8月–12月には陸軍兵食試験の主任をつとめた。その試験は、当時の栄養学の最先端に位置していた。日清戦争と日露戦争に出征した鷗外は、小倉時代をのぞくと、つねに東京で勤務、それも重要なポジションに就いており、最終的に軍医総監（中将相当）に昇進するとともに陸軍軍医の人事権をにぎるトップの陸軍省医務局長にまで上りつめた。

ビタミンの存在が知られていなかった当時、軍事衛生上の大きな問題であった脚気の原因について、医学界の主流を占めた伝染病説に同調した。また、経験的に脚気に効果があるとされた麦飯について、海軍の多くと陸軍の一部で効果が実証されていたものの、麦飯と脚気改善の相関関係は（ドイツ医学的に）証明されていなかったため、科学的根拠がないとして否定的な態度をとり、麦飯を禁止する通達を出したこともあった。

日露戦争では、1904年（明治37年）4月8日、第2軍の戦闘序列（指揮系統下）にあった鶴田第1師団軍医部長、横井第3師団軍医部長が「麦飯給与の件を森（第2軍）軍医部長に勧めたるも返事なし」（鶴田禎次郎「日露戦役従軍日誌」）との記録が残されている（ちなみに第2軍で脚気発生が最初に報告されたのは6月18日）。その「返事なし」はいろいろな解釈が可能であるが、少なくとも大本営陸軍部が決め、勅令（天皇名）によって指示された戦時兵食「白米6合」を遵守した。結果的に、陸軍で約25万人の脚気患者が発生し、約2万7千人が死亡する事態となった。

なお、脚気問題について鷗外は、陸軍省医務局長に就任した直後から、臨時脚気病調査会の創設（1908年・明治41年）に動いた^[62]。

脚気の原因解明を目的としたその調査会は、陸軍大臣の監督する国家機関として、多くの研究者が招聘され、多額の予算（陸軍費）がつぎ込まれた。予算に制約がある中、脚気ビタミン欠乏説がほぼ確定して廃止（1924年・大正13年）されたものの、その後の脚気病研究会の母体となった。鷗外が創設に動いた臨時脚気病調査会は、脚気研究の土台をつくり、ビタミン研究の基礎をきずいたと位置づける見解がある^[63]。

反面、「その十六年間の活動は、脚気栄養障害説＝ビタミンB欠乏症（白米原因）説に柵をかけ、その承認を遅らせるためだけにあったようなものであった」と否定的にとらえる見解もある^[64]。

なお、晩年の鷗外は、同調査会で調査研究中の「脚気の原因」について態度を明らかにしなかった^[65]。

脚気惨害をめぐる議論

陸軍の脚気惨害をめぐって、鷗外の責任に関しての議論はたえない。そのうち鷗外への批判として、（副食物が貧弱な）米食を麦食に変えると脚気が激減する現象が多く見られたにもかかわらず、麦食を排除しつづけた姿勢について激しい非難がある。^[66]。実際に日露戦争で陸軍兵士の３万人近くが脚気で苦しみ戦死でなく病死した事実、同じ時期に海軍兵士の脚気患者がほぼ皆無であったにも拘らず海軍の食事を取り入れずに通達や要望などを握りつぶしたことが近年ようやく明らかになり、著名な小説家としての名誉もかなり低くなっている。

逆に鷗外を擁護するものとして、以下の見解がある^[67]。

• 陸軍の脚気惨害の責任について、戦時下で陸軍の衛生に関する総責任をおう大本営陸軍部の野戦衛生長官（日清戦争・石黒忠悳、日露戦争・小池正直）ではなく、隷下の一軍医部長を矢面に立たせることへの疑問。
• 鷗外が白米飯を擁護したことが陸軍の脚気惨害を助長したという批判については、日露戦争当時、麦飯派の寺内正毅が陸軍大臣であった（麦飯を主張する軍医部長がいた）^[68]にもかかわらず、大本営が「勅令」として指示した戦時兵食は、日清戦争と同じ白米飯（精白米6合）であった。その理由として、軍の輸送能力に問題があり、また脚気予防（理屈）とは別のもの（情）もあったとの指摘である。その別のものとは、白米飯は庶民あこがれのご馳走であり、麦飯は貧民の食事として蔑まれていた世情を無視できず、また部隊長の多くも死地に行かせる兵士に白米を食べさせたいという心情とされる^[69]。
• 鷗外の「陸軍兵食試験」が脚気発生を助長したとの批判については、兵食試験の内容（当時の栄養学にもとづく栄養試験であり、脚気問題と無関係の試験）を上官の石黒にゆがめられたためとの見解を示した^[70]。

以上を端的にいえば、鷗外が脚気問題で批判される多くは筋違いとの見解である。つづけて鷗外への批判が起こった理由として、

• 海軍の兵食改良を批判しすぎたこと。
• 論理にこだわりすぎて学術的権威に依拠しすぎたこと。
• 日清戦争時に上官の石黒に同調したこと^[71]。

が挙げられた。

ただし、鷗外が岡崎桂一郎著「日本米食史 - 附食米と脚気病との史的関係考」(1912)に寄せた序文で「私は臨時の脚気病調査会長になって（中略）米の精粗と脚気に因果関係があるのを知った」と自ら記述している事実から、鷗外は脚気病栄養障害説が正しいことを知りながら、敢えてそれを排除、細菌原因説に固執して、調査会の結論を遅らせていたとの指摘もある^[72]。

年譜

※日付は1872年までは旧暦

• 1862年（文久02年）1月19日 - 石見国津和野藩（現・島根県鹿足郡津和野町）に、藩医・森静泰（後に静男と改名）、峰子の長男として生まれる。
• 1867年（慶応3年）11月 - 村田久兵衛に論語を学ぶ。
• 1868年（明治元年）3月 - 米原綱善に孟子を学ぶ。
• 1869年（明治02年） - 藩校の養老館で、四書を一から読み直す。
• 1870年（明治03年） - 五経、オランダ語を学ぶ。
• 1871年（明治04年） - 藩医の室良悦にオランダ語を学ぶ。
• 1872年（明治05年）
  • 06月 - 父とともに津和野を発ち、8月に東京入り（向島小梅村）。その後、向島曳舟通りに転居。
  • 10月 - ドイツ語習得のため、本郷の進文学社（私塾）に入学。
• 1873年（明治06年）
  • 06月 - 津和野町の家を売却し、祖母、母なども上京。
  • 11月、第一大学区医学校予科（現・東京大学医学部）に入学。同校は、のちに東京医学校に改称。
• 1877年（明治10年） - 東京医学校は、東京開成学校と合併して東京大学医学部に改組され、その本科生になる。
• 1880年（明治13年） - 本郷龍岡町の下宿屋「上条」に移る。翌年3月、下宿先で火災に遭い、講義ノートなどを失う。
• 1881年（明治14年）
  • 春 - 肋膜炎にかかる。
  • 07月 - 東京大学医学部を卒業。父・静男の経営する南足立郡千住町の橘井堂医院に転居。文部省広報に「東京府士族 森林太郎 十九年八ヶ月」とみえる。その後、明治政府に仕える。
  • 09月 - 『読売新聞』に寄稿した「河津金線君に質す」が採用される。これが鷗外の初めて公にされた文章であろう。
  • 12月 - 東京陸軍病院課僚を命じられて、陸軍軍医副の任務につく。
• 1882年（明治15年）
  • 02月 - 第一軍管区徴兵副医官（中尉相当）になり、従七位の位階を授かる。
  • 05月 - 陸軍軍医本部課僚になり、プロシア陸軍衛生制度の調査に駆り出される。
• 1884年（明治17年）
  • 06月 - 陸軍衛生制度、衛生学研究の目的で、ドイツ留学を命じられる。
  • 10月 - ドイツに到着。ライプツィヒ大学でホフマン教授などに学ぶ。『ビイルの利尿作用に就いて』の研究を始める。
• 1885年（明治18年）
  • 01月 - ハウフの童話を翻訳した「盗侠行」を発表。
  • 02月 - ドイツ語で「日本兵食論」「日本家屋論」を執筆。
  • 05月 - 陸軍一等軍医（大尉相当）に昇進。
  • 10月 - ドレスデンに移る。
• 1886年（明治19年）3月 - ミュンヘンに移る。大学衛生部に入学し、ペッテンコーフェルに衛生学を学ぶ。
• 1887年（明治20年）
  • 04月 - ベルリンに移る。
  • 05月 - 北里柴三郎とともにコッホを訪ね、衛生試験所に入る。
• 1888年（明治21年）
  • 03月 - プロシア近衛歩兵第2連隊の軍隊任務につく。
  • 09月 - 日本に帰国。
  • 10月 - 陸軍大学校教官に就任。
  • 12月、『非日本食論将失其根拠』を自費出版。
• 1889年（明治22年）
  • 01月 - 『東京医事新誌』を主宰。その後、『読売新聞』に「医学の説より出でたる小説論」が発表され、本格的な文筆活動が始まる。
  • 03月 - 写真婚で、海軍中将赤松則良の長女登志子と婚約。
  • 05月 - 東京美術学校専修科の美術解剖学講師に就任。
  • 08月 - 『国民之友』に訳詩編「於母影」を発表。
  • 10月 - 軍医学校陸軍二等軍医正（中佐相当官）教官心得になる。
• 1890年（明治23年）
  • 01月 - 『医事新論』を創刊。『国民之友』に「舞姫」を発表。
  • 08月 - 『しからみ草紙』に「うたかたの記」を発表。この作品は、石橋忍月との論争の火種になる。
  • 09月 - 長男・於菟誕生。しかし、まもなく妻登志子と離婚。
  • 10月 - 本郷駒込千駄木町57に居住を移す。鷗外は、そこを「千朶山房」と呼ぶ。
• 1891年（明治24年）
  • 1月 - 『文づかひ』を刊行。
  • 08月 - 医学博士の学位を授与される。
  • 09月 - 『しからみ草紙』に「山房論文」を発表。早稲田文学で坪内逍遙と没理想論争を交わす。
• 1892年（明治25年）
  • 07月 - 翻訳小説集『美奈和集』（春陽堂）を刊行。
  • 08月 - 医学と文学の論争から離れて休息を取るため、自宅（観潮楼）を建設。
  • 11月 - 『しからみ草紙』にアンデルセンの「即興詩人」を連載。
• 1893年（明治26年）11月 - 陸軍一等軍医正（大佐相当）に昇進し、軍医学校長になる。
• 1894年（明治27年）
  • 07月 - 日清戦争勃発。
  • 08月 - 東京から広島市に向かう。
  • 11月 - 大連に上陸。
• 1895年（明治28年）
  • 05月 - 日清講和条約調印後、帰国（帰京することなく広島市にとどまる）。
  • 08月 - 台湾総督府陸軍局軍医部長になり、台湾に赴任。
  • 09月 - 帰国の途につく。
• 1896年（明治29年）
  • 01月 - 『めさまし草』を創刊。
  • 03月 - 幸田露伴、斎藤緑雨らとともに『めさまし草』に「三人冗語」を連載。
  • 04月 - 父・静男死去。
• 1897年（明治30年）
  • 01月 - 中浜東一郎（中浜万次郎の長男）、青山胤通らとともに公衆医事会を設立、『公衆医事』を創刊。
• 1898年（明治31年）
  • 08月 - 『時事新報』にて箴言集「智恵袋」（ドイツ人作家・Adolf Freiherr von Knigge著『Über den Umgang mit Menschen』の抄訳・翻案）連載開始。
  • 10月 - 近衛師団軍医部長兼軍医学校長に就任。
• 1899年（明治32年）
  • 02月 - 軍医監（少将相当）に昇任し、第12師団軍医部長として福岡県の小倉に赴任。
  • 06月 - 『二六新報』にて箴言集「心頭語」連載開始。
• 1902年（明治35年）
  • 01月 - 大審院判事荒木博臣の長女志げと再婚。
  • 03月 - 東京に転勤。
• 1903年（明治36年）
  • 01月 - 長女・茉莉誕生。
  • 03月 - 『新小説』にて箴言集「慧語」（スペイン人作家・Baltasar Gracián著『Handorakel und Kunst der Weltklugheit （Oráculo manual y arte de prudenciaのドイツ語訳）』の抄訳・翻案）連載開始。
• 1904年（明治37年）
  • 02月 - 日露戦争勃発。
  • 04月 - 第2軍軍医部長として、広島市の宇品港をたつ。『うた日記』を書く。
• 1905年（明治38年） - 奉天会戦勝利後、残留していたロシア赤十字社員の護送に尽力。
• 1906年（明治39年）
  • 01月 - 帰国。
  • 06月 - 賀古鶴所らと歌会「常磐会」を設立（のちに山縣有朋などが参加）。
• 1907年（明治40年）
  • 03月 - 与謝野鉄幹・伊藤左千夫・佐佐木信綱らと自宅で「観潮楼歌会」を開く。
  • 06月 - 西園寺公望が主催した歌会「雨声会」に出席。
  • 08月 - 次男・不律誕生。
  • 10月 - 陸軍軍医総監・陸軍省医務局長となる。
• 1908年（明治41年）
  • 01月 - 弟・三木竹二死去。
  • 02月 - 次男・不律死去。
  • 05月 - 文部省の臨時仮名遣調査委員会委員になる。
• 1909年（明治42年）
  • 03月 - 『スバル』に口語体小説「半日」を寄稿。以後、頻繁に寄稿する。
  • 05月 - 次女・杏奴誕生。
  • 07月 - 文学博士の学位を授与され、また「ヰタ・セクスアリス」掲載の『スバル』が発売禁止となる。
• 1910年（明治43年）
  • 02月 - 慶應義塾大学の文学科顧問に就任。『三田文学』編集委員。
• 1911年（明治44年）
  • 02月 - 三男・類誕生。
  • 05月 - 文芸委員会委員になる。
  • 09月 - 『スバル』に「雁」を連載。
• 1912年（明治45年）
  • 01月 - 文芸委員会に頼まれていた戯曲『ファウスト』の訳を完結させる。
  • 10月 - 初の歴史小説「興津弥五右衛門の遺書」を『中央公論』に発表。
• 1913年（大正02年）
  • 01月 - 『中央公論』に「阿部一族」を発表。
• 1914年（大正03年）
  • 01月 - 『中央公論』に「大塩平八郎」を発表。
  • 02月 - 『新小説』に「堺事件」を発表。
• 1915年（大正04年）
  • 01月 - 『中央公論』に「山椒大夫」を、『心の花』に「歴史其儘と歴史離れ」を発表。
  • 10月 - 『中央公論』に「最後の一句」を発表。
  • 11月、大島健一陸軍次官に辞意を表明。同年、渋江抽斎の調査研究を始める。
• 1916年（大正05年）
  • 01月、『中央公論』に「高瀬舟」を、『新小説』に「寒山拾得」を発表。東京日日新聞と大阪毎日新聞に「渋江抽斎」を連載。
  • 03月、母峰子死去。
  • 04月、陸軍省医務局長を退く。予備役に編入。
• 1917年（大正06年）
  • 12月 - 帝室博物館総長に就任し、高等官一等に叙せられる。
• 1918年（大正07年）
  • 11月 - 正倉院宝庫開封に立ち会うため奈良に一時滞在。以後1921年（大正10年）まで毎秋、奈良を訪れた。
• 1919年（大正08年）
  • 09月 - 帝国美術院の初代院長に就任。
• 1921年（大正10年）
  • 06月 - 臨時国語調査会長に就任。秋、足に浮腫が出来はじめるなど、腎臓病の兆候が見られ始める。
• 1922年（大正11年）
  • 04月 - イギリス皇太子の正倉院参観に合わせ、奈良へ5度目の旅行。途中、いくどか病臥する。
  • 06月29日 - 萎縮腎と診断される。また、肺結核の兆候も見られた。
  • 07月06日 - 友人の賀古鶴所に遺言の代筆を頼む。
  • 07月09日 - 午前7時死去。向島弘福寺に埋葬される。
• 1927年（昭和02年） - 墓が三鷹市禅林寺に移される。分骨され津和野町永明寺にも墓がある。

主な作品

小説

舞姫 （『国民之友』、1890年1月） うたかたの記 （『国民之友』、1890年8月） 文づかひ （吉岡書店、1891年1月） 半日 （『スバル』、1909年3月） 魔睡 （『スバル』、1909年6月） ヰタ・セクスアリス （『スバル』、1909年7月） 鶏 （『スバル』、1909年8月） 金貨 （『スバル』、1909年9月） 杯 （『中央公論』、1910年1月） 青年 （『スバル』、1910年3月–11年8月） 普請中 （『三田文学』、1910年6月） 花子 （『三田文学』、1910年7月） あそび （『三田文学』、1910年8月） 食堂 （『三田文学』、1910年12月） 蛇 （『中央公論』、1911年1月）

妄想 （『三田文学』、1911年4月） 雁 （『スバル』、1911年9月–1913年5月） 灰燼 （『三田文学』、1911年10月–1912年12月） 百物語 （『中央公論』、1911年10月） かのように （『中央公論』、1912年1月） 興津弥五右衛門の遺書 （1912年10月、『中央公論』） 阿部一族 （『中央公論』、1913年1月） 佐橋甚五郎 （『中央公論』、1913年） 大塩平八郎 （『中央公論』、1914年1月） 堺事件 （『新小説』、1914年2月） 安井夫人 （『太陽』、1914年4月） 山椒大夫 （『中央公論』、1915年1月） じいさんばあさん （『新小説』、1915年9月） 最後の一句 （『中央公論』、1915年10月） 高瀬舟 （『中央公論』、1916年1月） 寒山拾得 （『新小説』、1916年1月）

戯曲

• 生田川

詩歌

• うた日記（春陽堂、1907年）
• 横浜市歌 (1909年)

翻訳

• カルデロン・デ・ラ・バルカ「調高矣津弦一曲」（El alcalde de Zalamea）、1889年。※三木竹二との共訳
• 於母影（新声社訳『国民之友』夏期付録、1889年）
• ハンス・クリスチャン・アンデルセン「即興詩人」 （『しからみ草紙』1892年11月 から掲載され、『めさまし草』1901年2月完）
• ゲーテ『ファウスト』 （第一部：1913年1月、第二部：3月、冨山房）
• オスカー・ワイルド「サロメ」
• アルトゥル・シュニッツラー「みれん」「恋愛三昧」ほか

史伝

• 澁江抽齋 （『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』、1916年1月 - 5月）
• 伊澤蘭軒
• 北条霞亭^[73]（続篇として狩谷棭斎を執筆する予定だった）
• 帝諡考

随筆

• サフラン（『番紅花』1914年3月）
• 空車（むなぐるま）　（『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』1916年5月）
• 礼儀小言（『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』1918年1月）

家族 親族

先祖

典医としての森家（森氏）は、1650年前後（慶安年間）から1869年（明治2年）の版籍奉還に及ぶ。

玄佐━玄篤━玄叔━周菴━玄佐━玄碩━玄叔━周菴━秀菴━立本━秀菴━白仙━静泰━┳林太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　┣篤次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　┣喜美子
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　┗潤三郎

妻子

• 先妻 登志子（海軍中将赤松則良娘）
  • 長男 於菟（おと、医学者、台北帝国大学医学部教授などを歴任）
• 後妻 - 志け

  小説「波瀾」を著しており（『樋口一葉・明治女流文学・泉鏡花集』現代日本文学大系5、筑摩書房、1972年）、義妹の小金井喜美子とともに雑誌『青鞜』の賛助員になった。

  • 長女 茉莉（まり、随筆家・小説家）
  • 次女 杏奴（あんぬ、随筆家）
  • 次男 不律（ふりつ、夭折)
  • 三男 類（るい、随筆家）

4人の子供はいずれも鴎外について著作を残しており、とりわけ茉莉（国語教科書に載った『父の帽子』）と杏奴（『晩年の父』）が有名である。

弟妹

• 弟 篤次郎（三木竹二）

  明治期を代表する劇評家で、内科医。演劇雑誌『歌舞伎』を主宰し、歌舞伎批評に客観的な基準を確立した（三木竹二『観劇偶評』、渡辺保編、岩波文庫、2004年）。

• 妹 喜美子

  明治期に若松賤子と並び称された翻訳家で、また随筆家・歌人でもあった（『鴎外の思い出』岩波文庫、1999年。『森鴎外の系族』岩波文庫、2001年）。

• 義弟 小金井良精

  喜美子の夫。初期の文部省派遣留学生（鴎外の前年にドイツ留学）。24歳で帰国し、27歳のとき高給のドイツ人教官に代わって東京帝国大学医学部教授に就任。後年、帝国大学医科大学学長（現東京大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長）等をつとめた^[74]。

小金井夫妻の孫の1人が小説家の星新一。

傍系

• 西周

  鴎外の曾祖父の次男、森覚馬が西家を継いで生まれた子。幕末明治維新の西洋法学者・啓蒙家で、貴族院議員や元老院議官などの要職を歴任。上京後の一時期、鴎外少年は、西周邸から進文学社に通学した。

その他

箇条書きは本文に組み入れてほしいと言っていた人がいたようです。

• 常日頃、文人の自分と武人のそれを厳格に分けて考えていた。あるとき文壇の親しい友人が軍服を着て停車場にいた森に何気なく話しかけたら、その友人を怒鳴りつけたことがある。
• 軍人としての誇りが高く、娘と散歩する時にも必ず軍服に着替えた。あるとき杏奴と散歩をしていると、「わー中将が歩いているぞ」と子供たちがバラバラと駆け寄ってきた。日露戦争後で、軍人が子供たちのヒーローであったのである。鴎外を見つめていた子供たちの1人が、襟の深緑色を見て、「おい、なんだ、軍医だよ」と声をあげ、子供たちが散るように去ってしまったことにかなり落胆したそうである。
• 1892年（明治25年）に東京府東京市本郷区（現・東京都文京区）に建設し、晩年まで過ごした住居「観潮楼」跡地に、文京区立本郷図書館鴎外記念室がある。
• 細菌学を究めて以来、パスツール同様潔癖症になってしまい、果物などの食べ物も加熱しないと食べられなくなってしまったという。
• 酒は飲めず、大の甘党だった。あんパンや「消毒してあって、滋養に富んでいる」焼き芋が好物であった^[75]。娘（茉莉・杏奴）の著書によると饅頭も茶漬けにして食べていたという。
• 風呂嫌いで、盥を前に身を清めるのが日課であった。

脚注

参考文献

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• 池内健次 (2001) 池内健次 [ 森鴎外と近代日本 ] Minerva21世紀ライブラリー 67 ミネルヴァ書房 2001 12 4-623-03559-X
• 猪瀬直樹「元号に賭ける」、 (2002) [ 天皇の影法師 ] 日本の近代猪瀬直樹著作集 10 小学館 2002 9 4-09-394240-4
• 植木哲 (2000) 植木哲 [ 新説　鴎外の恋人エリス ] 新潮選書 新潮社 2000 4 4-10-600587-5
• 大谷晃一 (2000) 大谷晃一 [ 鴎外、屈辱に死す ] ノアコレクション 3 編集工房ノア 2000 9 1983 4
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• 小金井喜美子 (1999) 小金井喜美子 [ 鴎外の思い出 ] 岩波文庫 岩波書店 1999 11 4-00-311611-9
• 小平克 (2006) 小平克 [ 森鴎外「我百首」と「舞姫事件」 ] 同時代社 2006 6 4-88683-577-5
• 小堀杏奴 (1981) 小堀杏奴 [ 晩年の父 ] 岩波書店〈岩波文庫〉 1981 9 4-00-310981-3
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• 新関公子 (2008) 新関公子 [ 森鴎外と原田直次郎　ミュンヘンに芽生えた友情の行方 ] 東京藝術大学出版会 2008 2 978-4-904049-03-7
• 林尚孝 (2005) 林尚孝 [ 仮面の人・森鴎外　「エリーゼ来日」三日間の謎 ] 同時代社 2005 4 4-88683-549-X
• (1997) 平川祐弘・平岡敏夫・竹盛天雄編 [ 鴎外の人と周辺 ] 講座 森鴎外 第1巻 新曜社 1997 5 4-7885-0597-5
• (1997) 平川祐弘・平岡敏夫・竹盛天雄編 [ 鴎外の作品 ] 講座 森鴎外 第2巻 新曜社 1997 5 4-7885-0598-3
• (1997) 平川祐弘・平岡敏夫・竹盛天雄編 [ 鴎外の知的空間 ] 講座 森鴎外 第3巻 新曜社 1997 6 4-7885-0603-3
• 松本清張 (1997) 松本清張 [ 両像・森鴎外 ] 文春文庫 文藝春秋 1997 11 4-16-710684-1
• 森鴎外 (1996) 森鴎外 田中美代子解説 [ 森鴎外全集 13 独逸日記・小倉日記 ] ちくま文庫 筑摩書房 1996 7 4-480-03093-X
• 森鴎外 (2000) 森鴎外 千葉俊二編 [ 鴎外随筆集 ] 岩波文庫 岩波書店 2000 11 4-00-310068-9
• 森鴎外 (2006) 森鴎外 金子幸代編・解説 [ 鴎外女性論集 ] 不二出版 2006 4 4-8350-3497-X
• 森潤三郎 (1942) 森潤三郎 [ 鴎外森林太郎 ] 丸井書店 1942
• 森まゆみ (2000) 森まゆみ [ 鴎外の坂 ] 新潮文庫 新潮社 2000 7 4-10-139022-3
• 山﨑國紀 (2007) 山﨑國紀 [ 評伝　森鴎外 ] 大修館書店 2007 7 978-4-469-22189-3
• 山下政三 (2008) 山下政三 [ 鴎外森林太郎と脚気紛争 ] 日本評論社 2008 11 978-4-535-98302-1
• 六草いちか (2011) 六草いちか [ 鴎外の恋　舞姫エリスの真実 ] 講談社 2011 3 978-4-06-216758-1

関連項目

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• 井上通泰：『於母影』の共訳者で、歌会常磐会の創設メンバーの1人。
• 上田敏：一緒に雑誌『芸文』『万年艸』を創刊する等、親交を深めた。
• 木下杢太郎：医学生時代、鴎外に進路を相談。後年、鴎外の心境を深く理解した。
• 黒田清輝：東京美術学校の後輩教員。鴎外の依頼を受け、故原田直次郎展の発起人を務めた。
• 佐佐木信綱：『めさまし草』に歌を発表し、長年にわたって親交を深めた。
• 太宰治：希望したとおり、鴎外の墓のはす向かいに埋葬された（禅林寺）。
• 田山花袋：とくに鴎外の審美学（美学の旧称）が好きで、その影響を受けたと書いた。
• 永井荷風：鴎外の推薦で慶應義塾大学教授に就任。生涯その恩を忘れなかった。
• 中村不折：鴎外の自宅から別荘の表札、墓碑銘まで書いた。
• 原田直次郎：ドイツ留学時代からの友人。
• 吉田増蔵：晩年の鴎外に乞われて上京し、元号や勅語や皇族名などに関わった。

• ORGAI - 日本語ワードプロセッサーソフトウェア。名前は鴎外から取った。

外部リンク

	ウィキソースに、森鴎外に関する一次資料があります。

	ウィキクォートに、森鴎外に関する引用句集があります。

	ウィキメディア・コモンズに、Mori Ogaiに関するマルチメディアがあります。

• 森鴎外 - 青空文庫
• 文京区立本郷図書館鴎外記念室（文京区）
• 鴎外文庫書入本画像データベース（東京大学総合図書館。鴎外の自筆草稿や書入本を見ることができる）
• 森 鴎外
• 森鴎外経歴
• 森鴎外遺言
• 近代文学研究会：『舞姫』論、鴎外の医学方面での活動
• 島根ゆかりの文学者 森 鴎外
• 森鴎外のお墓
• 森鷗外記念館 ベルリン
• 防衛研究所図書館「軍隊と脚気」
• 壺齋閑話「森鴎外晩年の歴史小説」
• ニコニコ写真帳　第一集 軍服姿の森鴎外（国立国会図書館近代デジタルライブラリー）

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