「著作権の保護期間」の版間の差分
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2015年8月25日 (火) 21:50時点における最新版
著作権の保護期間(ちょさくけんのほごきかん)とは、著作権の発生から消滅までの期間をいう。
この期間において著作権は保護され、著作権者は権利の対象である著作物を、原則として独占排他的に利用することができる。著作権の発生要件と消滅時期は各国の国内法令に委ねられているが、世界160ヶ国以上(2006年現在)が締結する文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約が、権利の発生要件として「無方式主義」(同条約5条(2))、著作権の保護期間として「著作者の生存期間および著作者の死後50年」(同条約7条(1))を原則としていることから、著作権は著作物の創作と同時に発生し、著作者の死後50年(あるいはそれ以上)まで存続するものと規定する国が多数を占める。
広義の「著作権」には著作者の人格的権利(著作者人格権)や、著作権に隣接する権利(著作隣接権)も含まれることがあるが、本項目では狭義の著作権、すなわち著作者の財産的権利に限定し、その保護期間について説明する。
目次
総説[編集]
保護期間の意義[編集]
著作権保護の目的は、大きく分けて2つの側面から説明されることが多い。一つは著作権を著作者の自然権ととらえて、著作者の人格的利益を保護することである。もう一つは著作物の独占的利用権を与えることによって、著作者に正当な利益が分配されることを促し、その結果として創作活動へのインセンティブを高めることである。前者はヨーロッパを中心とした大陸法系の国において現れた考え方であり、後者はイギリスやアメリカを中心とした英米法系に由来する考え方であるといわれる。いずれの説明を採ったとしても、著作権の保護期間が短期に過ぎれば、著作者の私益の保護が不十分となり、結果として著作者の創作意欲が減退するおそれがあるといえる。
一方で、著作物が著作者の独力で創作されることはなく、先人の業績に何らかの形で依拠して創作されるのが常である。そのため、著作権を永続的なものとすると、その著作物を利用することで可能となる新たな創作活動が困難となり、文化の発展が阻害される結果を招く。そうすると、新しく創作された著作物であっても、いつかは万人がそれを自由に利用できる状態に置くべきであり、著作権の保護期間が長期に過ぎることも妥当ではない。
そこで、著作者に著作物の独占的利用権を与えることによる著作者の利益(私益)の保護と、著作物の利用促進による社会的利益(公益)の保護の均衡を図るために、著作権の保護期間は適切な期間に調整されるべきである。
著作権発生の特徴[編集]
著作権の発生要件を定める法制には「無方式主義」と「方式主義」がある。無方式主義とは、著作物を創作することによって著作権は当然に発生するもので、著作権を発生させるためには、いかなる方式(手続)の履行も必要としない主義をいう。一方、方式主義とは、著作権を発生させるためには、官庁への納入、登録、登録手数料の支払いなど、何らかの方式(手続)の履行を求める主義をいう。
無方式主義は大陸法系に由来する法制であり、方式主義は英米法系に由来する法制であるといわれる。著作物の創作によって著作権が当然に発生する無方式主義は、著作権を著作者の自然権としてとらえる大陸法系の思想に合致する。一方、著作権の保護目的を功利主義的にとらえる英米法系の思想からは、著作権を発生させるために、官庁への登録などの手続を求めることは自然である。
世界160ヶ国以上(2006年現在)が加盟するベルヌ条約は無方式主義を原則としていることから(ベルヌ条約5条(2))、世界のほとんどの国が無方式主義を採用している。
一方で、英米法系のアメリカ合衆国やラテンアメリカ諸国は、ベルヌ条約に加盟することなく、独自の著作権保護同盟(パン・アメリカン条約)を形成し、方式主義を適用してきた。そのため、世界に無方式主義国と方式主義国が混在し、無方式主義国で創作された著作物が方式主義国では保護されないという問題が生じた。そこで、1952年、この問題を解決するために万国著作権条約が制定された。同条約3条によれば、以下の3つを著作物の複製物に対して表示することによって、方式主義国においても方式が履行されたものとみなし、保護を受けられることとしたのである。
- 「c」を○で囲んだ記号(右図)
- 著作権者の名称
- 著作物の最初の発行年
なお、アメリカ合衆国は1989年にベルヌ条約に加盟し、方式主義から無方式主義への転換をはかった。その他の方式主義国も次々と無方式主義に転じたことから、2006年現在、方式主義を採用する国はほとんど存在しない。そのため、万国著作権条約3条に基づく著作権表示の法的な意味はほとんど失われたといってよく、現在では著作者や著作権者の名称、著作物の創作年や発行年、著作権の存在自体を表示するために慣用的に使用されているのみであり、その使用法や意味づけは必ずしも統一されていないのが実情である。
著作権消滅の特徴[編集]
著作権の消滅時期を定める法制には、「死亡時起算主義」と「公表時起算主義」がある。死亡時起算主義は著作者の死亡時を起算時として著作権の消滅時期を決定する主義であり、公表時起算主義は、著作物の公表日を起算日として著作権の消滅時期を決定する主義である。
ベルヌ条約は死亡時起算主義を原則としている(ベルヌ条約7条(1))。ただし、無名や変名、団体名義の著作物については、著作者の死亡時を客観的に把握することが困難であるため、公表時起算を適用することを容認している(ベルヌ条約7条(4))。また、映画の著作物についても、公表時起算を適用することを容認している(ベルヌ条約7条(2))。
さらに、ベルヌ条約7条(1)によれば、加盟国は、著作者の死亡から著作権の消滅までの期間を50年としなければならない。著作者の死後50年まで著作権を保護する趣旨は、著作者本人およびその子孫2代までを保護するためであるとされている。
ただし、より長い保護期間を与えることも認められているため(ベルヌ条約7条(6))、保護期間が50年を超える加盟国も実際に多数存在する。欧州連合諸国、およびアメリカ合衆国は死後70年を適用し(いずれも1990年代に保護期間を延長する法改正を実施)、メキシコ(死後100年)やコートジボワール(死後99年)のように、さらに長期間にわたって著作権を保護する国もある。
日本は最短期間である死後50年を採用しているが(著作権法51条2項)、欧米並みの水準に保護期間を延長すべきであるとする意見がコンテンツ産業界や権利者団体を中心に根強い。一方で、著作物の利用促進の観点から保護期間延長に反対する意見も強いことから、保護期間延長の妥当性について、政府、民間の双方で論争が続いている。
条約が定める著作権の保護期間[編集]
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約[編集]
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約7条は、加盟国が定めるべき著作権の保護期間の要件を以下のとおり規定している。ただし、加盟国は、より長期間の保護期間を認めることができる(ベルヌ条約7条(6))。
- 著作物の保護期間を、著作者の生存期間および著作者の死後50年とする(7条(1))。
- 映画の著作物の保護期間を、公衆への提供時から50年、またはこの期間に公表されないときは、製作時から50年とすることができる(7条(2))。
- 無名または変名の著作物の保護期間は、公衆への提供時から50年で満了する。ただし、この期間内に、著作者が用いた変名が、その著作者を示すことが明らかになったとき、無名または変名の著作者がその著作物の著作者であることを明らかにしたときは、著作者の死後50年とする(7条(4))。
- 写真の著作物および応用美術の著作物の保護期間は、各同盟国が独自に定めることができる。ただし、保護期間は、著作物の製作時から25年より短くしてはならない(7条(4))。
- 著作物の保護期間は、著作者の死亡および上記の事実(公衆への提供、製作)が発生した時から始まる。ただし、これらの事実が発生した年の翌年の1月1日から計算する(7条(5))。
- 著作物の保護期間は、保護が要求される同盟国の法令が定めるところによる。ただし、その国の法令に別段の定めがない限り、保護期間は、著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない(相互主義)(7条(8))。
著作権に関する世界知的所有権機関条約[編集]
著作権に関する世界知的所有権機関条約(WIPO著作権条約)の締約国は、ベルヌ条約1条~21条の規定を遵守しなければならないことを規定し(WIPO著作権条約1条(4))、著作物の保護期間に関するベルヌ条約7条の規定もその中に含まれる。しかし、写真の著作物については、ベルヌ条約7条(4)の規定の適用を除外している(WIPO著作権条約9条)。したがって、WIPO著作権条約の締約国は、写真の著作物に対して、他の一般著作物と同期間の保護期間を与えなければならない。
日本国も、WIPO著作権条約9条の規定にしたがい、写真の著作物の保護期間を公表後50年までとしていた著作権法55条を、1996年12月の著作権法改正によって削除した。
知的所有権の貿易関連の側面に関する協定[編集]
知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書1C、TRIPS協定)は、著作権を含む知的財産権の保護に関して世界貿易機関(WTO)加盟国が遵守すべき条件を定めている。
まず、TRIPS協定9条(1)は、WTO加盟国がベルヌ条約1条~21条の規定を遵守しなければならないことを規定し、その中には7条も含まれる。したがって、WTO加盟国は、ベルヌ条約が定める著作権の保護期間の要件をまず遵守しなければならない。
さらに、TRIPS協定12条は、著作物の保護期間が自然人の生存期間に基づいて計算されない場合の扱いを規定している。同条によれば、WTO加盟国は、著作物の公表の年の終わりから少なくとも50年間(著作物の製作から50年以内に公表が行われない場合には、製作の年の終わりから少なくとも50年間)、著作物を保護しなければならない。
世界各国における著作権の保護期間[編集]
- 世界各国の著作権保護期間の一覧も参照。
世界各国における著作権の保護期間、および保護期間延長に関連する法改正の動向について概説する。なお、2007年1月現在の世界最長はメキシコの「100年」であり、以下コートジボワール(99年)、コロンビア(80年)、ホンジュラス・グアテマラ・セントビンセントおよびグレナディーン諸島・サモア(各75年)と続く。
欧州[編集]
1993年の欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令により義務付けられていることから、著作者の死後70年としている国が多数を占める。その背景には、20世紀半ばにドイツでクラシック作曲家の子孫たち(その多くは、作曲家ではない)が延長運動を行った結果、1965年よりドイツにおいて死後70年が採用され、EU指令においてもドイツの保護期間が基準とされたことが大きいといわれる。その一方、EUでは著作隣接権を公表後50年から延長することについては2004年に断念している。[1]
スペイン[編集]
著作者の生存期間および死後70年までを保護期間の原則とする。1879年に保護期間を死後80年までと規定したが、1987年に死後60年に短縮し、1993年のEU指令に基づき1995年に死後70年に再延長した。1987年における保護期間短縮は、ベルヌ条約加盟国では唯一の事例であるとされる。なお、保護期間短縮にともなう経過措置では改正法施行時に生存している著作者が既に公表している著作物は短縮前の死後80年が適用される一方、既に故人である著作者については例外無く保護期間が短縮された。そのため、パブロ・ピカソ(1973年没)の保護期間は(1995年のEU指令に伴い)死後70年の2043年までである一方、サルバドール・ダリ(1989年没)の保護期間は死後80年の2069年までである。
ポルトガル[編集]
著作者の生存期間および死後70年までを保護期間の原則とする。1948年のベルヌ条約ブラッセル改正に伴う調査では保護期間を「無期限」と定めていたことが知られているが、この規定は1971年のパリ改正までに撤回されている。
アメリカ合衆国[編集]
著作者の生存期間および死後70年までを保護期間の原則とする(
(a))。無名著作物、変名著作物または職務著作物の場合、最初の発行年から95年間、または創作年から120年間のいずれか短い期間だけ存続する(17 U.S.C. § 302(c)前段)。ただし、この期間内に無名著作物または変名著作物の著作者が記録から明らかとなった場合は、保護期間は原則どおり著作者の死後70年までとなる(同後段)。著作権延長法[編集]
1976年著作権法(Copyright Act of 1976)の規定では、著作権の保護期間は著作者の死後50年まで(最初の発行年から75年まで)とされていた。これを20年延長し、現在の保護期間である死後70年まで(最初の発行年から95年まで)とした改正法が、1998年に成立した「ソニー・ボノ著作権保護期間延長法」(Sonny Bono Copyright Term Extension Act, CTEA)である。「ソニー・ボノ」の名称は、カリフォルニア州選出の共和党下院議員で、この法案の成立に中心的役割を果たしたソニー・ボノ(Sonny Bono)にちなむ。
1999年1月11日、元プログラマーであるエリック・エルドレッド(en:Eric Eldred)は、CTEAがアメリカ合衆国憲法1条8節8項(特許、著作権)および修正1条(表現の自由)に違反するとして、コロンビア特別区連邦地方裁判所に提訴した(エルドレッド-アシュクロフト訴訟(en:Eldred v. Ashcroft))。しかし、2003年1月15日、合衆国最高裁判所は、CTEAが合憲であるとの最終判断を示した(Eric Eldred, et al. v. John D. Ashcroft, Attorney General, 123 S. Ct. 769 (2003))。
日本[編集]
著作者の生存期間および死後50年までを保護期間の原則とする(著作権法51条2項)。無名または周知ではない変名の著作物、および団体名義の著作物の著作権は、公表後50年まで保護される(著作権法52条1項、53条1項)。また、映画の著作物の著作権は、公表後70年まで保護される(著作権法54条1項)。
法改正の動向[編集]
日本では、2004年1月1日、映画の著作物の著作権の保護期間を公表後50年から70年に延長する改正著作権法が施行されたが、映画以外の著作物の保護期間は、1970年の著作権法全面改正で死後38年から50年に延長されて以来、2006年現在に至るまで変更されていない。
1990年代、欧州連合諸国およびアメリカ合衆国で、著作権の保護期間を著作者の死後70年に延長する法改正が相次いだ。また、アメリカ合衆国政府は、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」[2]の中で、著作権の保護期間を著作者の死後70年(著作者の死亡時に関係しない保護期間は公表後95年)に延長することを日本政府に対して求めている。こうした状況を受けて、日本国内でも、著作権の保護期間の延長問題に対する関心が高まってきている。
2005年1月24日、文部科学省の諮問機関である文化審議会著作権分科会は、『著作権法に関する今後の検討課題』を公表し、「欧米諸国において著作者の権利の保護期間が著作者の死後70年までとされている世界的趨勢等を踏まえて、著作者の権利を著作者の死後50年から70年に延長すること等に関して検討する」[3]として、著作物の保護期間の延長が同審議会における検討課題の一つであることを正式に表明した。
2006年9月22日、日本文藝家協会副理事長の三田誠広を議長とする「著作権問題を考える創作者団体協議会」は、著作権の保護期間を著作者の死後70年までに延長する法律改正を求める声明を発表した[4]。同協議会は、日本文藝家協会、日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)、日本レコード協会などの16団体(発足時)から構成されている。
2006年11月8日、劇作家、法律家、学者など64名(発足時)を発起人として、「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」(発足時名称は「・・・考える国民会議」)が発足し、国民的な議論をつくさないまま保護期間を延長すべきでないとする声明を発表した。また、青空文庫は、2007年1月1日より保護期間延長に反対する趣旨の請願署名を開始している。[5]
日本国における著作権の保護期間[編集]
日本国はベルヌ条約、万国著作権条約、WIPO著作権条約の締約国である。また、TRIPS協定を遵守すべきWTO加盟国でもある。したがって、これらの条約、協定で定められた保護期間の要件をすべて満たすように、国内法で著作権の保護期間を規定している。
著作権の発生(始期)[編集]
著作権は、著作物を創作した時に発生する(著作権法51条1項)。登録を権利の発生要件とする特許権や商標権などとは異なり、著作権の発生のためには、いかなる方式(登録手続き等)も要しない(著作権法17条2項)。ベルヌ条約の無方式主義の原則(同条約5条(2))を適用したものである。
著作権の消滅(終期)[編集]
終期の原則[編集]
著作権は、著作者が死亡してから50年を経過するまでの間、存続する(著作権法51条2項)。ベルヌ条約7条(1)に対応する規定である。
- 共同著作物の場合
共同著作物の場合は、最後に死亡した著作者の死亡時から起算する(同項かっこ書)。これは、最後に死亡した著作者が、日本の著作権法6条に基づく権利の享有が認められない者(条約非加盟国の国民など)であっても同様であると解する[6]。
また、自然人と団体の共同著作物の場合、本項を適用して自然人である著作者の死亡時から起算するのか、後述する53条1項を適用して公表時から起算するのかが問題となる。この場合、自然人である著作者の死亡時から起算するのが妥当であると解する。保護期間の長い方による方が著作権保護の趣旨に合致するし、公表時起算は死亡時起算が適用できない場合の例外的規定だからである[7]。
- 保護期間の沿革
一般的な著作物(写真や映画の著作物を除く)の原則的な保護期間は、1899年7月15日に施行された旧著作権法では、著作者の死後30年までと規定されていた。その後は、以下のような変遷をたどっている。
- 1962年4月5日 死後33年に延長(昭和37年法律第74号、第1次暫定延長措置)
- 1965年5月18日 死後35年に延長(昭和40年法律第67号、第2次暫定延長措置)
- 1967年7月27日 死後37年に延長(昭和42年法律第87号、第3次暫定延長措置)
- 1969年12月8日 死後38年に延長(昭和44年法律第82号、第4次暫定延長措置)
- 1971年1月1日 死後50年に延長(著作権法全面改正)
そのため、過去に創作された著作物の著作権の保護期間は、著作者の死後50年とならないことがある。たとえば、芥川龍之介、梶井基次郎、島崎藤村[8]の作品の著作権の保護期間は以下のとおりとなる。
- 芥川龍之介(1927年7月24日没)の作品の著作権は、1963年1月1日の第1次暫定延長措置が適用されることなく、1957年12月31日(死後30年)をもって消滅した。
- 梶井基次郎(1932年3月24日没)の作品の著作権は、第1次~第4次暫定延長措置が適用されたが、1971年1月1日の改正法の適用を受けることなく、1970年12月31日(死後38年)をもって消滅した。
- 島崎藤村(1943年8月22日没)の作品の著作権は、第1次~第4次暫定延長措置および1971年の改正法が適用されたため、1993年12月31日(死後50年)をもって消滅した。
終期の例外[編集]
無名または変名の著作物[編集]
無名または変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後50年を経過するまでの間、存続する(著作権法52条1項本文)。無名または変名の著作物では著作者の死亡時点を客観的に把握することが困難であるから、ベルヌ条約7条(4)が容認する公表時起算を適用した。
ただし、公表後50年までの間に、著作者が死亡してから50年が経過していると認められる著作物は、著作者の死後50年が経過していると認められる時点において著作権は消滅したものとされる(同項但書)。また、以下の場合には著作者の死亡時点を把握することができるから、原則どおり死亡時起算主義が適用され、著作権は著作者の死後50年を経過するまでの間存続する(著作権法52条2項)。
- 変名の著作物において、著作者の変名が、著作者のものであるとして周知である場合(同条2項1号)
- 著作物の公表後50年が経過するまでの間に、著作者名の登録(著作権法75条1項)があったとき(同項2号)
- 著作者が、著作物の公表後50年が経過するまでの間に、その実名または変名(周知なもの)を著作者名として表示して著作物を公表したとき(同項3号)
ここで、「無名の著作物」とは、著作者名が表示されていない著作物をいう。「変名」とは「雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの」(著作権法14条)であり、「その他実名に代えて用いられるもの」の例としては俳号、芸名、四股名、ニックネーム、ハンドルネームなどが挙げられる。
また、「周知」とは、その変名が著作者本人の呼称であることが一般人に明らかであって、その実在人が社会的に認識可能な程度に知られている状態をいうものと解する[9]。たとえば、漫画家「手塚治虫」の名はペンネーム(筆名)であるが、周知の変名でもある。したがって、「手塚治虫」の名のもとで公表された漫画の著作物の著作権は、手塚治虫(1989年2月9日没)の死後50年の経過をもって消滅する(著作権法52条2項1号)。したがって、今後保護期間を変更する著作権法改正がないものと仮定すると、手塚治虫作品の著作権は2039年12月31日まで存続する。
団体名義の著作物[編集]
法人その他団体が著作の名義を持っている著作物の著作権は、その著作物の公表後50年(著作物の創作後50年以内に公表されなかったときは創作後50年)を経過するまでの間、存続する(著作権法53条1項)。団体名義の著作物においては、著作者の死亡を認定できないため、公表時起算を例外的に適用した。
団体名義の著作物とは、団体が著作者となるいわゆる職務著作(著作権法15条)の著作物に限らず、著作者は自然人であるが、団体の名において公表される著作物を含む。
ただし、上記の著作物の著作者である個人が、上記の期間内に、当該個人の実名、あるいは周知な変名を著作者名として著作物を公表したときは、原則どおり著作者の死後50年の経過をもって著作権が消滅する(著作権法53条2項)。
映画の著作物[編集]
映画の著作物の著作権は、その映画の公表後70年を経過するまでの間、存続する(著作権法54条1項)。ただし、映画の創作後70年を経過しても公表されなかった場合には、創作後70年を経過するまでの間、存続する(同項但書)。映画の著作物の著作者は「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文抜粋)と規定されているが、映画が様々なスタッフの寄与によって創作される総合芸術であり、著作者が誰であるかを実際に確定するのは困難であるため、ベルヌ条約7条(2)に従い、公表時起算主義を採用した。
2003年(平成15年)6月12日、映画の著作物の保護期間を公表後70年に延長すること等を盛り込んだ改正著作権法が、衆院本会議で可決、成立した。これにより、企業が著作権を有するアニメ・テレビゲーム等の活気がある分野のコンテンツの保護期間が欧米でのそれに近づくことになる点がメリットであるとされる。しかし、そうしたごく少数の作品と同時期に公開された圧倒的多数の作品を死蔵・散逸させるデメリットの方が大きいという批判も強い(→ローレンス・レッシグ)。また、この改正著作権法の施行日が1月1日であったことから、1953年公開の映画について、著作権保護期間が50年か70年か争いがある。→1953年問題を参照のこと。
なお、1971年(昭和46年)より前に製作された映画作品は、旧著作権法の規定と比べ長い方の期間になるので注意が必要である。
写真の著作物[編集]
写真の著作物の保護期間を他の著作物を区別して特別に定める規定は存在しない。したがって、一般の著作物と同様に、写真の著作物の保護期間は死亡時起算の原則により決定される(著作権法51条2項)。
写真の著作物の保護期間は、1899年7月15日に施行された旧著作権法では、発行後10年(その期間発行されなかった場合は製作後10年)と規定されていた。その後は、以下のような変遷をたどっている。
- 1967年7月27日 発行後12年(未発行の場合は製作後12年)に延長(昭和42年法律第87号、暫定延長措置)
- 1969年12月8日 発行後13年(未発行の場合は製作後13年)に延長(昭和44年法律第82号、暫定延長措置)
- 1971年1月1日 公表後50年に延長(著作権法全面改正)
- 1997年3月25日 著作者の死後50年に変更(WIPO著作権条約への対応)
上記によれば、1956年12月31日までに発行された写真の著作物の著作権は1966年12月31日までに消滅し、翌年7月27日の暫定延長措置の適用を受けられなかったことから、著作権は消滅している。また、1946年12月31日までに製作された写真についても、未発行であれば1956年12月31日までに著作権は消滅するし、その日までに発行されたとしても、遅くとも1966年12月31日までには著作権は消滅するので、1967年7月27日の暫定延長措置の適用は受けられない。したがって、著作権は消滅している。いずれの場合も、著作者が生存していても同様である。
このように、写真の著作物は他の著作物と比べて短い保護期間しか与えられてこなかったため、保護の均衡を失するとして、日本写真著作権協会などは消滅した著作権の復活措置を政府に対して要望していた。しかし、既に消滅した著作権を復活させることは法的安定性を害し、著作物の利用者との関係で混乱を招くなどの理由から、平成11年度の著作権審議会は、復活措置を見送る答申を行っている[10]。
さらに、1996年12月の著作権法改正によって(翌年3月25日施行)、写真の著作物の保護期間を公表後50年までとしていた著作権法55条が削除され、写真の著作物に対しても、他の一般著作物と同等の保護期間が適用されることになった。これは、1996年12月の世界知的所有権機関(WIPO)外交会議によってWIPO著作権条約が採択されたことを受けたものであり、同条約9条は、写真の著作物に対して他の一般著作物と同期間の保護期間を与えることを義務づけているからである。
継続的刊行物、逐次刊行物等の公表時[編集]
著作物を、冊、号または回を追って公表する場合、著作物を一部分ずつを逐次公表する場合、それぞれ公表時をいつとすべきかについて、著作権法56条は以下の通り規定している。
継続的刊行物[編集]
冊、号または回を追って公表される著作物について、公表時を起算時として著作権が消滅する場合、その「公表時」とは、毎冊、毎号または毎回の公表時期とされる(著作権法56条1項)。
「冊、号または回を追って公表される著作物」の例としては、新聞、雑誌、年報、メールマガジンのような、継続的に刊行、公表される編集著作物、各回でストーリーが完結するテレビの連続ドラマなどが挙げられる。たとえば、テレビアニメ『タイムボカン』(1975年10月4日から1976年12月25日にかけて放送)は毎放送回でストーリーが完結する映画の著作物である。したがって、第1話の著作物の著作権の消滅時期は、公表時を1975年10月4日(第1話公表時)として計算される(著作権法56条1項前段)。そうすると、『タイムボカン』の第1話が自由に利用可能になるのは、今後保護期間を変更する著作権法改正がないものと仮定すれば、2046年1月1日午前0時からである。
逐次的刊行物[編集]
一部分ずつを逐次公表して完成する著作物について、公表時を起算点として著作権が消滅する場合、その「公表時」は最終部分の公表時とされる(著作権法56条1項)。
「一部分ずつを逐次公表して完成する著作物」の例としては、文学全集、新聞連載小説、ストーリーが連続して最終回に完結するテレビドラマなどが挙げられる。たとえば、NHKの連続テレビ小説『おしん』は最終回にストーリーが完結するものである。したがって、第1話のみであっても、その著作権の消滅時期は、公表時を1984年3月31日(最終話の公表時)として計算される(著作権法56条1項後段)。そうすると、『おしん』の第1話が自由に利用可能になるのは、今後保護期間を変更する著作権法改正がないものと仮定すると、2055年1月1日午前0時からである。
なお、直近の公表時から3年を経過しても次回の公表がない場合は、直近の公表時が最終部分の公表時とみなされる(著作権法56条2項)。公表間隔を長くすることにより、著作権の保護期間が不当に延長されることを防ぐためである。
保護期間の計算方法(暦年主義)[編集]
上述した「死後50年」、「公表後50年(映画では70年)」、「創作後50年(映画では70年)」の期間の計算方法には、いわゆる暦年主義が採用されている点に注意しなければならない。すなわち、「50年」または「70年」の起算点は、著作者が死亡した日、または著作物の公表日・創作日が属する年の翌年1月1日となる(著作権法57条、民法140条但書、民法141条)。暦年主義を採用したのは、その方が保護期間の計算が簡便にできること、著作者の死亡時や著作物の公表、創作時がはっきりとしない例が多いことによる。
たとえば、作家 池波正太郎(1990年5月3日没)の作品の著作権は、2040年5月3日をもって消滅するのではなく、1991年1月1日から起算して50年後である、2040年12月31日をもって消滅する。したがって、自由な利用が可能となるのは2041年1月1日午前0時からである。
相互主義に基づく保護期間の特例[編集]
著作権法58条は、ベルヌ条約7条(8)、TRIPS協定3条(1)但書の規定が容認する相互主義を採用している。したがって、著作権法は、ベルヌ条約同盟国または世界貿易機関(WTO)の加盟国(日本国を除く)を本国とする著作物に対して、それらの本国の国内法が定める著作権の保護期間が、著作権法51条~55条が定める保護期間よりも短いときは、それらの国内法が定める保護期間しか与えない(著作権法58条)。
たとえば、日本国ではないベルヌ条約同盟国であるA国の国内法が、映画の著作物の保護期間を公表後50年と定めているとする。「公表後50年」は、日本国著作権法が定める映画の著作物の保護期間(公表後70年、著作権法54条)よりも短い。したがって、A国を本国とする(A国で第一発行された)映画の著作物の保護期間は、日本国著作権法においても公表後50年までしか保護されない。
ただし、日本国民の著作物に対しては、著作権法58条は適用しない(同条かっこ書)。したがって、日本国民の著作物は、第一発行国によらず、著作権法51条~55条が定める保護期間が満期で与えられる。
戦時加算[編集]
第二次世界大戦における連合国(アメリカ、イギリス、カナダなど)やその国民が有する著作権であって、日本国と当該連合国との間で平和条約が発効した日の前日以前に取得された著作権に対しては、上述の通り認められる通常の著作権の保護期間に加えて、いわゆる戦時加算による保護期間の加算が認められる(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律4条)。第二次世界大戦中は、連合国や連合国民の著作権保護に、日本国は十分に取り組んでいなかったと考えられたためである。加算される期間は以下のとおりとなる。
- 太平洋戦争の開戦日の前日である1941年12月7日に連合国および連合国民が有していた著作権
- 1941年12月8日から、日本国と連合国との間の平和条約発効日の前日までに当該連合国および連合国民が取得した著作権
- 著作権の取得日から、日本国と連合国との間の平和条約発効日の前日までの期間が加算される(4条2項)。たとえば、1944年8月1日に、上記連合国またはその国民が取得した著作権の保護期間には2827日が加算される。この場合、通常の保護期間によれば1978年12月31日をもって保護期間が満了する著作権は、2827日の加算によって、1986年9月27日まで存続する。
著作権の消滅(期間満了以外の事由)[編集]
相続人不存在等[編集]
著作権者が死亡したが相続人が存在しない場合(民法959条に該当する場合)、あるいは著作権者である法人が解散した場合において、その著作権を帰属させるべき者が存在しない場合(民法72条3項に該当する場合)には、著作権は法定の保護期間満了を待つことなく消滅する(著作権法62条1項、2項)。
民法の原則をそのまま適用すれば、著作権はいずれの場合も国庫に帰属するはずである(民法959条、民法72条2項)。しかし、著作権法では上記のような特別規定をおき、著作権を消滅させることとした。著作物が文化的な所産であることを考慮すると、著作権を国庫に帰属させるよりは、広く国民一般に利用させるのが適切だからである。同様の権利消滅規定は、特許法、意匠法、商標法などの産業財産権法でも存在する(特許法76条、意匠法36条・商標法35条で準用する特許法76条)。いずれの規定も、著作権と同様に、権利の対象が知的所産であることを考慮したものである。
著作権の放棄[編集]
著作権法には、著作権を放棄できるとする明文の規定が存在しない。しかし、著作権は放棄できると解するのが、著作権の財産権的性質(著作権法61条、63条等)からも妥当である。ただし、放棄の効力発生要件としての登録制度が存在しないことから(著作権法77条)、著作権放棄の効力を発生させるためには、著作権者による、新聞広告その他への明示的な放棄の意思表示が必要であると解されている[11]。
一方で、著作権は放棄できないとする見解もある。仮に著作権は放棄できないとすると、著作権者が「著作権を放棄する」旨の意思表示をした場合の法的効果が問題となる。この場合、著作権者の意思を合理的に解釈して、著作権者は「著作権は保有しているが、それを行使しない(他人が著作物を利用することを禁止しない)」旨の意思表示をしたと解すべきである。したがって、そのような意思表示をした著作権者が、当該著作物の利用者に対して差止請求権や損害賠償請求権を行使することは、もはや信義誠実の原則から認められないと解すべきである。
著作権消滅の効果[編集]
著作権が消滅すると、その著作物はパブリックドメインに帰し、原則として誰でも自由に利用することができる。
ただし、公表時起算によって著作権が消滅すると、著作権消滅後も著作者が生存し、著作者人格権が存続していることがある。その場合、著作者人格権を侵害する態様で著作物を利用することはできない(著作権法18条~20条)。また、その後著作者が死亡し、著作者人格権が消滅しても、著作者が生存しているならば著作者人格権の侵害となるような利用行為、著作者の声望名誉を害する方法による著作物の利用行為は引き続き禁止される(著作権法60条、113条6項)。
二次的著作物の著作権との関係[編集]
著作物を翻訳、編曲、変形、翻案して創作された二次的著作物の著作権の保護期間は、原著作物の著作権の保護期間とは独立して認められる。すなわち、創作(翻訳、編曲、変形、翻案)のときに著作権が発生し、著作者(翻訳、編曲、変形、翻案した者)の死亡時期、その二次的著作物の公表時期、あるいは創作時期を起算時として著作権の消滅時期が決定される。
したがって、原著作物の著作権が保護期間満了等の事由により消滅していても、二次的著作物の著作権が消滅しているとは限らない。
たとえば、アメリカ民謡『My Grandfather's Clock』(邦題『大きな古時計』)の作詞者であるヘンリー・クレイ・ワークは1884年に死去したから、歌詞の著作権は存在しない。一方、保富康午(1984年9月19日没)による著名な日本語訳詞の著作権は、今後保護期間を変更する著作権法改正がないものと仮定すると、2034年12月31日まで存続する。したがって、2006年現在、英語による原歌詞は自由に利用可能であるが、保富康午の日本語歌詞を利用するには、著作権法で定められた例外を除いて著作権者(2006年6月現在、日本音楽著作権協会)の許諾が必要である。
逆に、原著作物の著作権が存続したままの状態で、二次的著作物の著作権が先に消滅することもある。この場合、当該二次的著作物を利用するには当該原著作物の著作権者の許諾が必要であり、原著作物の著作権が消滅するまでは、二次的著作物を自由に利用することはできない(著作権法28条)。ただし、映画の著作物の利用については、次節のような特別な規定が存在する。
映画の著作物の場合[編集]
映画の著作物の著作権が保護期間満了によって消滅しても、その映画において翻案されている著作物(脚本や、原作となった小説や漫画等)の著作権は存続している場合がある。この場合、その映画の利用に関するそれらの原著作物の著作権は、映画の著作物の著作権とともに消滅したものとされる(著作権法54条2項)。したがって、映画の著作物を利用する限りにおいては、脚本や、原作となった小説や漫画等に係る著作権者の許諾を得る必要はない。この規定は、著作権が消滅した映画の円滑な利用を促進することをねらいとする。
ただし、著作権が消滅したものと扱われる著作物は、映画において翻案されたものに限られ、録音、録画されているに過ぎない著作物(字幕、映画音楽、美術品等)の著作権は消滅したものとされない。したがって、映画の著作物を利用するためには、字幕、映画音楽、美術品等に係る著作権者の許諾を得る必要がある。
著作権の保護期間に関する裁判例[編集]
1953年に公表された映画の著作物の保護期間[編集]
- 「ローマの休日」事件、「シェーン」事件
2004年1月1日に施行された改正著作権法は、映画の著作物の保護期間を公表後50年から公表後70年へ延長する規定を含んでいた。ただし、施行前に著作権が消滅した映画の著作物に対しては、遡って新法を適用して著作権を復活させることはない。
この新法の解釈に関する文化庁の見解は、「2003年12月31日午後12時と2004年1月1日午前0時は同時」という理由から、1953年に公表された映画の著作物は、新法の適用を受けて2023年12月31日まで保護されるというものである。これに対し、新旧両法の文理解釈からすれば、1953年公表の映画の保護期間は2003年12月31日までであり、2004年1月1日には消滅するという反対の見解もあった。これらの見解の対立は1953年問題ともよばれている。
2006年5月、『ローマの休日』(1953年公開)などの著作権者であるパラマウント・ピクチャーズ・コーポレーション(パラマウント社)が、1953年に公開された映画の著作物の著作権は2023年12月31日まで存続すると主張し、同作品の格安DVDを製造販売しているファーストトレーディング社に対し、同作品の格安DVDの製造販売の差止めを求めて、東京地裁に仮処分の申請を行った。さらに、同年公開の映画『シェーン』についても、別の2社を相手取り、DVDの製造販売の差止めを求めて東京地方裁判所に提訴した。
同年7月、東京地方裁判所は「ローマの休日」の仮処分申請に対し、1953年に公表された映画の著作物の著作権は2003年12月31日まで存続し、2004年1月1日には消滅しているとして、パラマウント社の申請を却下した。また、10月には「シェーン」に対しても同様の理由によってパラマウント社の請求を棄却する判決を言い渡した(東京地方裁判所判決平成18年10月5日)。「ローマの休日」の仮処分申請却下を不服とするパラマウント社は即時抗告を行ったが、10月に「シェーン」で敗訴したことを受けて「ローマの休日」については抗告を取り下げた。パラマウント社は「シェーン」についてのみ知的財産高等裁判所に控訴したが、同裁判所は2007年3月29日、著作権は2003年12月31日をもって消滅したとする一審判決を支持し、パラマウント社の控訴を棄却する判決を言い渡した(知的財産高等裁判所判決平成19年3月29日)。
自然人を著作者とする映画の著作物の保護期間[編集]
- 「モダン・タイムス」事件
2006年7月、チャーリー・チャップリンの映画の著作権を管理するリヒテンシュタインの法人が、「モダン・タイムス」(1936年製作)などチャップリン映画の格安DVDを販売する東京の2社に対し、格安DVDの販売差止めと約9400万円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴した。
原告の主張によれば、被告2社は「モダン・タイムス」など原告が著作権を保持管理する9作品について、原告の許諾を得ずに格安DVDを販売したことにより、原告の著作権を侵害したとする。
原告は、著作権存続の法的根拠について、旧著作権法(明治32年法律第39号。新著作権法(昭和45年法律第48号)の施行により、昭和46年1月1日廃止。)22条ノ3、3条1項、52条1項、および新著作権法の昭和45年附則7条により、著作権保護期間は著作者の死後38年であることなどを挙げる。すなわち、原告の主張によれば、9作品のうち7作品はチャップリン個人の作品であるため、チャップリンが死亡した1977年から著作権保護期間が起算され、それから38年経過後の2015年まで著作権が保護されることになる。
なお、文化庁は『平成18年度著作権テキスト』の中で、著作権が保護される「映画の著作物」(独創性のあるもの)として、「昭和11年(1936年)から昭和27年(1952年)までに公表された実名の著作物のうち,昭和40年(1965年)に著作者が生存していたもの」を挙げ、原告の主張に沿う見解を示している[12]。
著作権が消滅した著作物の活用事例[編集]
著作権が消滅し、パブリックドメインに帰した著作物を有効活用する事例がみられる。近年の情報技術の発達、インターネットの普及を受けて、著作物をデジタル化し、インターネットを介して誰でも閲覧することを可能とするものが多い。しかし、著作権の保護期間を延長する法改正が各国で相次いでいることから、その存続が危ぶまれているものも存在する。
- プロジェクト・グーテンベルク
- 青空文庫と同様に、著作権が消滅した文書を電子化し、インターネット上で公開しようとする計画である。1971年、マイケル・ハートが開設した。最近では著作権の保護期間を延長する法改正が各国で相次ぎ、オーストラリアを始め事実上の活動停止や大幅な活動規模の縮小を強いられる事例も相次いでいる。
- 長野電波技術研究所附属図書館
- 江戸時代の和本・典籍・古文書などを扱う専門図書館である。著作権が消滅した古文献を電子化して配布し、集められた収益は散逸した史料収集にあてられる。
- ウィキソース
- 著作権が消滅した著作物およびフリーライセンスのもとにある著作物を集積し、公開するためのプロジェクトである。アメリカのウィキメディア財団が運営している。2003年に開設された。ウィキクォートも参照。
- 格安DVDソフト
- 『ファンタジア』(1940年)、『ローマの休日』(1953年)など、著作権が消滅した映画を格安DVDソフトとして販売する事例がある。権利者にライセンス料を支払う必要がないため、著作権が存続している映画のDVDソフトと比較して、販売価格は1~2割程度に抑えられている。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
注[編集]
- ↑ Commission of The European Communities, COMMISSION STAFF WORKING PAPER on the review of the EC legal framework in the field of copyright and related rights, 2004
- ↑ U.S. Government, Annual Reform Recommendations from the Government of the United States to the Government of Japan under the U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative, 2002, 2003, 2004, 2005 and 2006
- ↑ 文化審議会著作権分科会『著作権法に関する今後の検討課題』(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/05012501.htm)
- ↑ 著作権問題を考える創作者団体協議会の『共同声明』(2006年9月22日)(http://www.mpaj.or.jp/topics/pdf/kyoudou.pdf)
- ↑ 著作権保護期間の延長を行わないよう求める請願署名(青空文庫)
- ↑ 作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)、393頁
- ↑ 金井重彦、小倉秀夫編著『著作権法コンメンタール(上巻)』(東京布井出版、2002年)、510頁(本間伸也執筆部分)
- ↑ 3人の作家の選択は、Ytterbium 175『わたしたちの著作権講座』(http://neo-luna.cside.ne.jp/copyright/ncr14b.htm, 2006年6月30日URL確認)にならった。
- ↑ 金井重彦、小倉秀夫編著『著作権法コンメンタール(上巻)』(東京布井出版、2002年)、254頁(小畑明彦執筆部分)
- ↑ 著作権審議会第1小委員会『著作権審議会第1小委員会審議のまとめ』(1999年12月1日)(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/chosaku/toushin/991201.htm)
- ↑ 加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』(著作権情報センター、2006年)、377頁
- ↑ 文化庁『平成18年度著作権テキスト』(http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/pdf/chosaku_text_18.pdf)