特許

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特許(とっきょ、パテント)とは、法令の定める手続により、国が発明者またはその承継人に対し、特許権を付与する行政行為。

概要[編集]

特許は、有用な発明をなした発明者またはその承継人に対し、その発明の公開の代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利(特許権)を国が付与するものである。特許権は、無体物(ではない、形のないもの)である発明に排他的支配権を設定することから、知的財産権のひとつとされる。日本の特許法においては、特許制度は、特許権によって発明の保護と利用を図ることにより、発明を奨励し、また産業の発達に寄与することを目的とするとされている(特許法1条)。

特許制度の歴史[編集]

英語で特許を意味する"patent"の語源は、ラテン語の"patentes"(公開する)であるといわれている。

中世ヨーロッパにおいては、絶対君主制の下で王が報償や恩恵として特許状を与え、商工業を独占する特権や、発明を排他的に実施する特権を付与することがあった。しかし、これは恣意的なもので、制度として確立したものではなかった。

イタリアヴェネツィア共和国では、現在知られる限り最初の特許は、1421年に、ブルネレスキに与えられ、1474年には世界最古の成文特許法である発明者条例が公布された。このことから、近代特許制度はヴェネツィアで誕生したとされている。

1623年イギリス議会で制定された専売条例は、それまで国王が恣意的に認めてきた特許を制限し、発明と新規事業のみを対象として、一定期間(最長14年間)に限って独占権を認めるとともに、権利侵害に対する救済として損害賠償請求を規定した。この条例の制定によって、近代的な特許制度の基本的な考え方が確立されたとされる。また、この条例は、ジェームズ・ワット蒸気機関1769年)や、リチャード・アークライト水車紡績機1771年)等の画期的な発明がなされる環境を整え、英国に産業革命をもたらしたと評価されている。

1883年には、工業所有権の保護に関するパリ条約(パリ条約)が締結され、内国民待遇の原則、優先権制度、各国工業所有権独立の原則など、特許に関する国際的な基本原則が定められた。

日本では、明治維新後の1871年明治4年)に最初の特許法である専売略規則(明治4年太政官布告第175号)が公布された。しかし、この制度は利用されず、当局も充分な運用ができなかったため、翌年には施行が中止された。その後、1885年(明治18年)4月18日に本格的な特許法である専売特許条例(明治18年太政官布告第7号)が公布・施行された。1888年(明治21年)には審査主義を確立した特許条例(明治21年勅令第84号)が公布され、1899年(明治32年)には旧特許法(明治32年法律第36号)を制定してパリ条約に加入した。1922年大正11年)に施行された大正10年法では、先願主義が採用され現在の特許法の基礎が作られた。現行特許法(昭和34年法律第121号)は、1959年昭和34年)に全面改正された昭和34年法を累次、部分改正したものである。

特許制度の意義[編集]

発明に対して特許制度により独占的権利を与える根拠としては、いくつかの説が提唱されている。それらを大別すると、基本権(自然権)説と産業政策説の2つに分けられる。現在では、産業政策説に属する公開代償説が最も広く受け入れられている。

基本権(自然権)説[編集]

発明に対する権利は、人間に与えられた基本的な権利(自然権)であるとする説。1791年のフランス特許法等で採用された考え方である。財産権説と受益権説に細分される。

財産権説
発明に対する権利は財産権であるとする説。
この説によれば、特許法は、権利を創設するのではなく、規制するものであるということになる。
この説では、各国で独立して特許が与えられること(属地性)、複数の者が独自に同じ発明を完成しても最初に出願(または発明)した者しか権利を取得できないこと、出願をしなければ権利を取得できないことを説明することができない。
受益権説
発明が社会に貢献した程度に比例して、その報酬を受ける権利があるとする説。
この説では、上記の財産権説の矛盾に加えて、発明の社会への貢献度とその報酬とが必ずしも比例しないことを説明することができない。

産業政策説[編集]

発明に対する権利は、国の産業政策として発明の権利保護を図るために与えられるとする説。公開代償説、発明奨励説、過当競争防止説(競業秩序説)に細分される。

公開代償説
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明が他人に模倣されてしまうために、発明者は発明を秘密にし、その結果、発明が社会的に活用されないことになる。このため、新規で有用な発明を世の中に提供した代償として、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説で、現在最も広く支持されている説である。
発明奨励説
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明者は自ら発明したにもかかわらず他者に対して優位な立場に立つことができず、発明を行ったり、それを事業に結びつける意欲を失い、その結果、発明が社会的に活用されないことになる。そこで、発明を奨励するために、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説である。
過当競争防止説(競業秩序説)
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明が他人に模倣されてしまうために、発明者や企業は、他人の発明を模倣することや、自分の発明を模倣されないようにすることへ注力し、過当競争状態が生じ、発明自体に対する意欲や投資のインセンティブが働かない。そこで、過当な競争を防止するために、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説である。

各国の特許制度[編集]

以下の国の特許制度についてはそれぞれの項目を参照。

検索サービス[編集]

日本では公的な特許検索サービスとして、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許電子図書館(IPDL)があり、特許以外にも実用新案意匠及び商標等の産業財産権インターネット上で調べることができる。また、欧州特許庁(EPO)のesp@cenetに代表されるように、日本以外の各国でも同様のサービスが提供されている。

さらに、民間企業も有料又は無料のサービスを提供している。日本では、パトリス日立製作所NRIサイバーパテントトムソン・ロイター等が有料のサービスを提供している。また、米国の特許は2006年12月13日からGoogleGoogle Patentsでも検索できるようになっている。

パテントマップ[編集]

パテントマップとは、特許に関する情報を整理・分析・加工して図面、グラフ、表などで表したもので、特許マップ、または、特許地図とも呼ばれている。パテントマップを見ることで、特許をマクロな視点から把握することができる。

大企業同士の特許係争ともなると出願全件の侵害・非侵害を調べることが現実的ではない場合もあり、交渉の材料としてパテントマップが用いられることもある。パテントマップの作成業者は、特許庁ホームページ上特許情報提供事業者リスト集から調べることができる。

企業がパテントマップを活用するメリット
  • ライバル企業の出願動向を把握できる。
  • 新規案件を依頼するため、コンフリクトが発生しない特許事務所を調べることができる。
  • 特定技術の出願動向が把握できる。
特許事務所がパテントマップを活用するメリット
  • 新規の営業先企業を調べることができる。
  • ライバルとなる特許事務所の動向を把握することができる。
弁理士や特許明細書作成担当者がパテントマップを活用するメリット
  • 自分の得意とする技術を必要としている転職先や就職先を探すことができる。
技術者がパテントマップを活用するメリット
  • 技術の動向を把握した上で、新規製品の開発計画が立案できる。
  • 出願の動向を観測する事で、穴場の分野を狙って発明することができる。
コンサルタントがパテントマップを活用するメリット
  • 技術の動向を把握することができる。
  • パテントマップを定点観測することで、ある程度今後の技術動向を予測することができる。

批判[編集]

ノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツは、知的財産権は諸刃の剣であり、イノベーションを生み出すための研究投資にインセンティブを与える一方で、知識の拡散を阻害するインセンティブも働くと述べる。その財産権を有する企業が、企業利益を最大化するために知識を独占しようとするためであり、その場合には技術発展は阻害されてしまう。

ノーベル賞経済学者エリック・マスキンも同様の見解を示し、ソフトウェア産業のようなイノベーションが間断なく起こる産業においては、特許の基準を厳格にするよりも、特許制度をスクラップにした方がよいかもしれないと論じる。ソフトウェア産業では、先に起きた小さな技術発展をもとにして次の小さな進歩が起きるというように、ドミノ倒し式に技術発展する構造となっている。多くの独占者が行うように、特許権者は高額なライセンス料を課す。これによって各々の小さな進歩が妨げられ、全体としてイノベーションが阻害されてしまう。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]