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2012年1月21日 (土) 13:43時点における版
廃墟(はいきょ、廃虚)とは、建物や施設、鉄道、集落などが使われないまま放置され、荒れ果てた状態になっているものを指す。
目次
概要
建物、施設などが使われなくなったとしても、他用途に転用され、適切な維持管理が続けられていたり、あるいは更地になっていれば、廃墟とはいえない。跡地利用も難しく、管理を続けるのも困難な場合には、建物、施設などが放置に任され、歳月とともに朽ちて崩壊し、あるいは草木に覆われて廃墟化の過程が進行する。
建設を発注した企業が倒産した、あるいは公共事業の一環として建設されたがその公共事業が中止になったなどの理由で、建設中の状態のまま放棄され、全く使われてない建築物もある。これらも廃墟に含まれる。
ナチスの強制収容所跡や広島の原爆ドーム、ハワイの真珠湾のアリゾナ (戦艦)などある時代の悲惨な状況を後世に伝えるため、破壊あるいは放棄され廃墟同然となった状態で意図的に当時のまま保存している例もある。
ロマン主義的廃墟趣味
かつて19世紀後半、イギリスやドイツのロマン主義でも、こうした廃墟、特に古代ギリシア、ローマのそれに関心が集まり、競ってその方面に出かける文人やそうした古代遺跡を版画や絵画に描いたり、あるいは君主の中には領地の中に故意に人工の古代の廃墟(いわゆるフォリー)を配した庭園を作らせたものもいた(特に古代ローマ時代の様式が好まれた)。
こうした廃墟を好んで作品のモチーフとした画家に、ドイツのカスパー・ダーヴィド・フリードリヒらがいる。また、アドルフ・ヒトラーも廃墟絵画を好み、自ら計画した建築物や都市も前提として古代ギリシアや古代ローマのように偉大で立派な廃墟となることが条件であったという(「廃墟価値の理論」)。彼の計画した都市は皮肉にも敗戦とともに廃墟になったことになる。
日本の廃墟ブーム
1970年代から鉄道ファンの一部に廃線跡をたどる廃線マニアと呼ばれる者がいた。廃線巡りは現在も、鉄道マニアなどによって行われている(廃線巡りを熱心に行うマニアは、昨今の鉄道ブームにより廃鉄とも呼ばれる)。また中には、1980年代ごろのレトロで懐かしい物への回帰する流行が見られると同時期に、廃墟へも関心も高まった。1990年代以降、廃墟となった施設、学校、病院、鉱山などの跡を訪ねて回る廃墟マニアが増えてきており、『廃墟の歩き方』(2002年)といったマニュアル本やWebサイト、DVDなども、人気を得ている。彼らは、
- 廃墟化した建物が持つ特有の雰囲気に魅力を感じる者。
- 廃墟となった施設が使われていた頃の様子を想像し、愛着を感じる者。
- 探検感覚で廃墟を探索する者。
- 旧式のドアの取っ手や、水道の蛇口、照明器具などの収集の目的を持っている者。
などに大まかに分類される。
- 廃線関連の本としては、堀淳一『消えた鉄道 レール跡の詩』1983年あたりがはしりであろう。その後ネコ・パブリッシング刊の月刊鉄道誌『RailMagazine』の連載『トワイライトゾ~ン』(1992~)によって、廃線後のみならず廃車体等にも目が向けられ、鉄道廃墟への関心が一気に高まっている。廃墟ブームのはしりとしては、宮本隆司『建築の黙示録』1988年、久住昌之、滝本淳助『東京トワイライトゾーン タモリ倶楽部』1989年、丸田祥三『棄景 廃墟への旅』1993年などが考えられる。廃墟ブームを生む下地として、赤瀬川原平らによる超芸術トマソンから路上観察学への活動も存在した。 (久住、滝本は赤瀬川の流れを汲む)
その一方で、廃墟が感傷の対象や芸術の題材としてより、心霊スポットとして若者などの間で話題になることがある。実際には特に忌まわしい事件などは起こっておらず、根拠がない都市伝説である場合が多い。
日本の場合、特に都市部では新陳代謝が激しく、廃墟が長期間そのまま残されることは少ない。バブル時期に何らかの計画が立ち上がったが、バブル崩壊とともに消滅したものなど、都市開発の計画が頓挫した場所などに建物などが廃墟状態になることもある。また、北海道など地価が安価で土地に余裕のある地域などでは、撤去費用がかさむのを回避し、古い建屋を撤去せず近くに新たに建てるなどすることが多く、廃屋、廃墟などが多く見られる。
近年、廃墟ブームはさらに広がりを見せ、軍艦島をはじめとした人気の廃墟は観光スポットとなり、観光ツアーが企画されて多くの人々が廃墟を訪れる現象が起きている。
廃墟ブームの問題点
廃墟の多くは私有地であり所有者の承諾を得ずに立ち入ること自体刑法に反することになる。
- 廃墟の内部に残っている備品を無断で持ち去る行為は、窃盗罪または遺失物横領罪が適用されることがある。(管理されている物件や差し押さえられている物件の場合、パンフレットなど通常は自由に持ち帰ることができる物を持ち出した場合も窃盗にあたることに留意する必要がある。)
- いわゆる“グラフィティ・アート”と呼ばれるような落書きも、法律上は立派な違法行為である。たとえ所有者の明確でない廃墟であっても建造物またはその敷地内に無断で侵入しスプレー塗料やペンキなどで落書きをすると、場合によっては「器物損壊罪」(刑法第261条・3年以下の懲役または30万円以下の罰金)に問われることがある。
また、所有者の承諾を得て立ち入ったとしても、年代の古い建造物の壁や天井部分などにはアスベスト(石綿)が使用されている場合があり、崩落した箇所からアスベストが飛散する可能性もある。
廃墟の例
- 廃校
- 廃寺
- 鉄道の廃線・もしくは建設中に放棄された未成線
- 廃道
- 廃橋
- 廃鉱およびその周りの鉱山住宅跡(例:軍艦島) - 近年では鉱害問題や美観等から完全に撤去され、覆土工事や植樹工事によって痕跡すらなくなることが多い。また、坑口は閉山後はコンクリートや石などで封鎖することが義務付けられている。
- 廃工場(ソヴィエト映画『ストーカー』では廃工場が舞台に設定された)
- 廃病院(例:恵心病院)(使用済みの注射器などが放置されている場合もある。)
- 廃業した遊園地・ホテルその他レジャー施設・リゾート施設(例:横浜競馬場、五色園 - 愛知県日進市、寺院が管理する宗教公園。管理放棄の状態にあるが、4月のみ桜の名所に戻るため有料。)
- 建設中に放棄されたリゾート施設
- 旧日本軍の軍事施設・地下壕(例:山口県周南市大津島にある人間魚雷回天の発射練習基地)
- 米軍の軍事施設跡、または居住施設跡。1950年代オールディーズの雰囲気が漂う場所も多い。ただし、米軍管理下の敷地に立ち入った場合、国内法が適用されない場合があり、最悪の場合警備員などに射殺されたり、重い刑罰が科せられることもあり得る。
- 移転後の国立大学や国立の研究所の建物(旧国立公衆衛生院、広島大学旧校舎など)
著名な廃墟
- 現存するもの
- 廃虚となりつつあるもの
- 再利用が進められているもの
- 撤去されたもの
- 木の岡レイクサイドホテル(滋賀県) - 地元では琵琶湖レイクサイドホテル、幽霊ホテルなどと呼ばれていた。1992年に爆破解体。
- ドリームランドモノレール(神奈川県横浜市) - 正式にはドリーム開発ドリームランド線。長らく運休だったが2003年に撤去。
- 原町無線塔(福島県南相馬市) - 戦前の原町送信所の跡地。コンクリート製の塔は町のシンボルとして残ったが1982年に爆破撤去。
- お化けマンション(東京都町田市) - 土地の所有権を巡って裁判になり長らく工事が中断していた。1991年に取り壊された。
- 神子畑選鉱所(兵庫県朝来市)
- 恵心病院(神奈川県厚木市)
- 同潤会青山アパート(東京都渋谷区) - 2003年解体。跡地には表参道ヒルズが建てられた。
著名な廃墟愛好家・廃墟写真家
- 丸田祥三 - 廃墟写真集「棄景」シリーズなどで知られる写真家。
- 栗原亨 - 昨今の廃墟ブームの火付け役となった『廃墟の歩き方』シリーズの著者。廃墟愛好家。
- 大畑沙織 - 廃墟写真家。
- 鹿取茂雄 - 岐阜県在住の廃墟愛好家・酷道愛好家。
- 酒井竜次 - 元雑誌『愛知県漂流』編集長。『ニッポンの廃墟』(2007年)・『廃墟という名の産業遺産』(2008年)など数多くの廃墟関連の書籍を監修・執筆している廃墟愛好家・珍スポット愛好家。
- 中田薫 - 中筋純との共著『廃墟本』シリーズなどで知られている廃墟愛好家。
- 中筋純 - 中田薫との共著『廃墟本』シリーズなどで知られている廃墟写真家。
- HEBU - 写真集『廃墟/工場』シリーズの著者。廃墟・工場写真家。
- 小林伸一郎 - 廃墟写真家。
その他
- 老朽化した集合住宅(同潤会アパート、香港の九龍城砦など)で、建物の破損が進行し、空き部屋が多くなっているような場合に廃墟と表現される場合もあるが、本来の住民が居住している場合、放置されている訳ではないので、廃墟と呼ぶのは適切ではない。
- 原爆ドームは原子爆弾で崩壊した状態であるが、史跡(世界遺産)として保存され、倒壊しないよう補強などの措置が取られている。なお、同所の残留放射能については現在は危険な値ではなくなっているが、外部者の立ち入りは制限されている。
- 造られた当時最新の設備であった炭鉱集合住宅などを史跡として保存することを求める運動があるが、一般に公開する場合は、保守や安全対策(万が一来園者に事故が起きた場合の管理者としての法的責任の問題)など建物を改めて建築するほどの予算が掛かることになり実現は難しい状況にある。
- キリスト教美術では「異教世界の衰微」のシンボルとして「キリストの降誕」の背景などに描かれる。
廃墟の画像
- Haioku 1.JPG
廃屋
脚注
関連項目
外部リンク
- 小学館、めくるたび特設サイト小学館による、丸田祥三の廃墟写真の特設サイト