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マンガン - - コバルト
ファイル:Fe-TableImage.png
一般特性
名称, 記号, 番号 鉄, Fe, 26
分類 遷移元素
, 周期, ブロック 8 (VIII), 4 , d
密度, 硬度 7874 kg/m3, 4.0
</td><td align="center">灰色がかった
光沢のある金属色
鉄の塊。純度99.97%
原子特性
原子量 55.845 u
原子半径(計測値) 140 (156) pm
共有結合半径 125 pm
VDW半径 データなし
電子配置 [Ar]3d64s²
電子殻 2, 8, 14, 2
酸化数酸化物 2, 3, 4, 6(両性酸化物
結晶構造 体心立方構造
物理特性
固体(強磁性
融点 1808 K (1535 )
沸点 3023 K (2750 ℃)
モル体積 7.09 ×10−6 m3/mol
気化熱 349.6 kJ/mol
融解熱 13.8 kJ/mol
蒸気圧 7.05 Pa (1808 K)
音の伝わる速さ 4910 m/s (293.15 K)
その他
クラーク数 4.7 %
電気陰性度 1.83(ポーリング
比熱容量 440 J/(kg·K)
導電率 9.93 ×106 /m·Ω
熱伝導率 80.2 W/(m·K)
第1イオン化エネルギー 762.5 kJ/mol
第2イオン化エネルギー 1561.9 kJ/mol
第3イオン化エネルギー 2957 kJ/mol
第4イオン化エネルギー 5290 kJ/mol
(比較的)安定同位体
同位体 NA 半減期 DM DE/MeV DP
54Fe 5.8% 3.1×1022
55Fe {syn.} 2.73 年 ε 0.231 55Mn
56Fe 91.72% 中性子30個で安定
57Fe 2.2% 中性子31個で安定
58Fe 0.28% 中性子32個で安定
59Fe {syn.} 44.503 β 1.565 59Co
60Fe {syn.} 1.5×106 β- 3.978 60Co
注記がない限り国際単位系使用及び標準状態下。

(てつ。鐵、銕ラテン語FerrumIron)は原子番号 26の元素。元素記号は Fe金属元素の一つで、遷移元素である。

概要[編集]

元素記号の Fe は、ラテン語での名称「Ferrum」に由来する。日本語では、鈍いさから「くろがね(黒鉄、黒い金属)」と呼ばれていた。

道具の材料として、人類にとって最も身近な金属元素の1つで、様々な器具や構造物に使われる。鉄を最初に使い始めたのはヒッタイトである。ヒッタイト以前の紀元前18世紀ごろ、すでに製鉄技術があったことが発掘された鉄によって明らかになっている。鉄器時代以降、鉄は最も重要な金属の1つであり、産業革命以降、益々その重要性は増した。鉄は、炭素などの合金元素の存在により、より硬いとなる。

性質[編集]

純粋な鉄は白い金属光沢を放つが、湿った空気中では容易にを生じ、見かけ上黒ずんだり褐色になったりする。一方、極めて純度の高い鉄は、比較的高いイオン化傾向を有するにも拘らず、酸に侵されにくくなる。

自然の鉄の同位体比率は、5.845%の安定な鉄54、91.754%の安定な鉄56、2.119%の安定な鉄57、0.282%の安定な鉄58からなる。鉄60は不安定で比較的短寿命(半減期150万年)なため、自然の鉄中には存在しない。ニッケル62とともに、鉄56の原子核は全ての原子核の中で最も安定であり、これ以上核融合を行ってもっと重い元素を作ってもエネルギーが産み出されない。このため恒星核融合反応の最終的な生成元素は、恒星の質量がどれほど大きい場合でも鉄までであり、これより重い元素は、核融合反応では生成されない。より重い元素は超新星爆発等で生成される。

固体の純鉄は、フェライト相BCC構造)、オーステナイト相FCC構造)、デルタフェライト相(BCC構造)の3つのがある。911℃以下ではフェライト、911–1392℃はオーステナイト、1392–1536℃はデルタフェライト、1536℃以上は液体の純鉄となる。常温常圧ではフェライトが安定である。強磁性体であるフェライトがキュリー点を超えたところからオーステナイト領域までの770–911℃の純鉄の相は、以前はβ鉄と呼ばれていた。

栄養学的には、鉄は(生体)にとって必須の元素である。鉄分を缺くと、血液中の赤血球数やヘモグロビン量が低下し、貧血などを引き起こす。で吸収される鉄は二価のイオンのみであり、3価の鉄イオンは二価に還元されてから吸収される。鉄分を多く含む食品はホウレンソウレバーなどである。動物性の食物起源の鉄の方が吸収効率が高い。ただし、過剰に摂取すると鉄過剰症になることもある。

用途[編集]

産業[編集]

安価で比較的加工しやすく、入手しやすい金属であるため、人類にとって最も利用価値のある金属元素である。特に産業革命以後は産業の中核をなす材料であり、「産業の米」などとも呼ばれ、「鉄は国家なり」と呼ばれる程、鉄鋼の生産量は国力の指標ともなった。この為、鉄鋼産業には政府の桿入れも大きく、第二次世界大戦後の世界的な経済発展にも大きく影響している。

鉄は、鉄筋や鉄骨などとして多くの建物の建材に使われる。また、炭素をはじめとする合金元素を添加することでとなり、炭素量や焼入れなどを行うことなどで硬度を調節でき、工具鋼においては固体材料のなかで最も強度増幅能力が高く安価な部類に属するため不変形特性が重要でかつ加工形状の自由度が要求される金型に多用される。また、同様の原理により刃物自動車部品などにも使われる。

鉄は多くの金属と有用な合金を作ることで知られる。代表的なものとして、通常の鉄は空気中や分を含む場所でゆっくりと酸化し、を生じるが、鉄とクロムニッケルの合金であるステンレス鋼は錆びにくく、比較的安価な合金として知られる。このため、ステンレス鋼に加工された鉄は、飲み物や醤油などの液体を入れるやキッチンシンクなどにも用いられるほか、生活用具や鉄道、自動車あるいは産業ロボットなど、あらゆる分野に利用されている。また、各種の工具鋼や、金属材料で最も熱膨張係数が低いインバー合金、最強の保持力を持つ磁性材料(ネオジム磁石)も鉄を含む。

他にも、鉄化合物インク絵具などの顔料として、赤色顔料ベンガラ青色顔料のプルシアンブルーなどとして使われる。

鉄は強い磁性を持つため、不燃物からの回収が容易であり、再利用率も高い。くず鉄として回収された鉄は、電気炉で再び鉄として再生される。

生体内での利用[編集]

生体においての鉄の役割として、赤血球の中に含まれるヘモグロビンは、鉄のイオンを利用して酸素を運搬している。そのため、体内の鉄分が不足すると、酸素の運搬量が十分でなくなり鉄欠乏性貧血を起こすことがあるため、鉄分を十分に補充する必要がある。鉄分は、レバーほうれん草などの食品に多く含まれ、これらを摂取することで改善される。また鉄の溶解度が小さい土壌で育てられる植物などでは、鉄吸収が不足することで植物の成長が止まり黄化することがある。この症状は、土壌に水溶性型の鉄肥料を与えるなどすると一時的に改善されるが、植物中に含まれる鉄量が増えるわけではなく、ビタミンAの含有量が増えることがわかっている。したがって、鉄肥料を与えることは植物中の鉄分ではなくビタミンAを増やすことに役立つ。植物の鉄欠乏を長期的に改善するには、土壌に大量の硫黄を投入するなどして、土壌質を変える必要がある。なお陸上植物に限らず、藻類も微量の鉄を必要とする。

一方で、過剰な鉄の摂取は生体にとって有害である。自由な鉄原子は過酸化物と反応しフリーラジカルを生成し、これがDNAタンパク質、および脂質を破壊するためである。細胞中で鉄を束縛するトランスフェリンの量を超えて鉄を摂取すると、これによって自由な鉄原子が生じ、鉄中毒となる。ヒトの体には鉄を排出する効率的なメカニズムがなく、粘膜や粘液に含まれる少量の鉄が排出されるだけであるため、ヒトが吸収できる鉄の量は非常に少ない。しかし血中の鉄分が一定限度を超えると、鉄の吸収をコントロールしている消化器官の細胞が破壊される。この為、高濃度の鉄が蓄積すると、ヒトの心臓肝臓に恒久的な損傷が及ぶ事があり、最悪の場合はに至ることもある。

米国科学アカデミーが公表しているDRI指数によれば、ヒトが一日のうちに許容できる鉄分は、大人で45ミリグラム、14歳以下の子供は40ミリグラムまでである。摂取量が体重1キログラムあたり20ミリグラムを超えると鉄中毒の症状を呈する。鉄の致死量は体重1キログラムあたり60ミリグラムである。6歳以下の子供が鉄中毒で死亡する主な原因として、硫酸鉄を含んだ大人向けの錠剤を飲み過ぎるケースがあげられる。

なお、遺伝的な要因により、鉄の吸収ができない人々もいる。第六染色体のHLA-H遺伝子に缺陥を持つ人は、過剰に鉄を摂取するとヘモクロマトーシスなどの鉄分過剰症になり、肝臓あるいは心臓に異変を来す事がある。ヘモクロマトーシスを患う人は、白人では全体の0.3〜0.8パーセントと推定されているが、多くの人は自分が鉄分過剰症であることに気づいていないため、一般に鉄分補給のための錠剤を摂取する場合は、とくに鉄缺乏症でない限り、医師に相談することが望ましい。

その他[編集]

鉄の同位体の一種である59Feは、鉄動態検査に用いられる。

製法[編集]

産出[編集]

大規模な鉄鉱床は、光合成により酸素単体が大量に発生したことにより、海水中に溶存しイオン化していた鉄が、酸化鉄として沈殿したことにより産み出されたと言われている。

詳細は 鉄鉱石 を参照

選鉱[編集]

詳細は 選鉱 を参照

製錬[編集]

鉄の製錬はしばしば製鉄と呼ばれる。簡単にいえば、鉄鉱石に含まれる様々な酸化鉄から酸素を除去して鉄を残す、一種の還元反応である。アルミニウムチタンと比べて、化学的に比較的小さなエネルギー量でこの反応が進むことが、現在までの鉄の普及において決定的な役割を果たしている。この工程には比較的高い温度(千数百度)の状態を長時間保持することが必要なため、古代文化における製鉄技術の有無は、その文化の技術水準の指標の1つとすることができる。

日本では古来からたたら吹き(鑪吹き、踏鞴吹き、鈩吹き)と呼ばれる製鉄技法が伝えられているが、現在では島根県安来市の山中奥出雲町等の限られた場所で日本刀の素材製造を目的として半ば観光資源として存続しているが、それと並存し和鋼の進化の延長上にもある先端的特殊鋼に特化した日立金属安来工場がある。鉄鉱石を原料とする日本の近代製鉄は1858年1月15日(旧暦1857年安政4年12月1日)に始まったと言われ、その後急幕末以降、欧米から多数の製鉄技術者が招かれ日本の近代製鉄は急速に発展した。現在の日本では、鉄鉱石から鉄を取り出す高炉法スクラップから鉄を再生する電炉法で大半の鉄鋼製品が製造されている。高炉から転炉連続鋳造工程を経て最終製品まで、一連の製鉄設備が揃った工場群のことを銑鋼一貫製鉄所(もしくは単に製鉄所)と呼び、臨海部に大規模な製鉄所が多数立地していることが、日本の鉄鋼業の特色となっている。日本では電炉法による製造比率が粗鋼換算で30%強を占める。鉄が社会を循環する体制が整備されており、鉄のリサイクル性の高さと日本における鉄蓄積量の大きさを示している。鉄スクラップは天然資源に乏しい日本にとって貴重な資源であり、これをどう利用するかが、注目されるべき課題とされている。

新製鉄法[編集]

従来の高炉法の場合、下記の欠点があった。

  • 銑鉄を製造するだけでも高炉のほかにコークス炉(石炭を乾留)・焼結炉が必要であり、また反応速度も8時間かかり、巨大設備投資が必要な割りに生産量が少ない。
  • コークスを製造できる石炭は石炭のなかの極一部である粘結炭(原料炭)だけであり、もともと価格が高かった。近年資源メジャーによる原料炭鉱山の買占めのため、単年度で原料炭価格が2倍に上昇するなど大きなコスト上昇要因となっている。高炉法に羽口からの非粘結炭(一般炭)吹き込みを併用しても、価格の安い一般炭の使用比率は全石炭使用量の25-30%程度が限界である。
  • 鉄鉱石価格は塊鉱石が高価で粉鉱石が安価であるが、高炉で粉鉱石を使う場合焼結炉で塊に焼き固めなければならない。その結果、焼結炉が必要で焼結工程で燃料を消費してコストが掛かるのみならず二酸化炭素を発生させてしまう。
  • 酸素濃度を多少増やす工夫もされているが基本は空気を吹き込む製鉄法である。反応速度が遅いほか、C1化学の立場からは製鉄排ガスに窒素が混入する事が、製鉄排ガスの化学工業的・商業的価値を落とし、製鉄排ガス(合成ガス)を原料とした大規模な自動車燃料合成、燃料自給率向上を妨げているとの批判もある。

最近提案/実用化されている製鉄法[編集]

溶融還元製鉄法[編集]

溶融還元炉では粉状の一般炭を酸素吹きで燃焼させ高温の一酸化炭素ガスを発生させ、予備還元した粉鉄鉱石を一気に還元し溶かして溶けた銑鉄を造る。溶融還元炉を出た一酸化炭素ガスは流動床/回転炉/シャフト炉で鉄鉱石を予備還元する。予備還元炉を出た一酸化炭素ガスは石炭乾燥空気の加熱などを経て、発電やスラブの再加熱、化学原料などに使用される。

利点
  • コークス炉、焼結炉が不要で、反応速度が速く比較的小さな溶融還元炉で大きな生産能力を持つために製鉄所新設の設備投資が高炉法より安くつく。
  • 一般炭100%使用可能なため、資源メジャーの原料炭値上げで大きな損害を出さなくて済む。製鉄だけを目的とするなら半無煙炭などの炭素含有量の高い石炭を使えば、投入原単位を節約できるが、副生ガスを化学工業原料として販売できる立地なら、より安価な高揮発分石炭でガス産出を増やす事もできる。
  • 予備還元炉の一部に流動床か回転炉を使えば、安価な粉鉱石も使える。
  • 酸素製鉄の場合、発生する還元ガスである一酸化炭素に窒素が混入しないため、燃料としてもカロリーが高いばかりでなく、C1化学の出発原料である合成ガスとして活用できる。日本の製鉄石炭消費は年間1億tに及び、その排ガスを活用してフィッシャー・トロプシュ法で軽油を生産したり、メタノールを生産した場合数千万tの自動車燃料を自給できる可能性があると言われている。
  • 鉄ガス併産・化学とのコプロダクション(資源エネルギー庁省エネルギー技術戦略 9P参照
課題
  • 日米欧とも上流設備は過剰気味である。日米欧とも鉄鋼需要は大きな成長はない。需要の増大している中国インドでは国産鉄鋼の価格が安く冷延鋼板より上流の製品では日米欧製品は価格が高すぎて売れないので、日本鉄鋼メーカーの設備投資は亜鉛/錫メッキ鋼板設備など下流高級用途に集中している。中国では熱効率が悪く二酸化炭素排出が多い中小高炉が乱立する様相を示しており、地球環境の視点からは、製鉄企業の適正な合併指導と新製鉄法の技術供与が望まれるが、それは中国インド産鋼鉄の価格競争力を高め、日本産鉄鋼の価格競争力が地盤沈下するブーメラン効果の原因ともなりうる。(中国鉄鋼生産の現状と神戸製鋼の対中技術供与
  • 鉄鋼会社が溶融還元法に転換すると、現在コークスを鉄鋼企業に納品している企業はコークス炉の経営が立ち行かなくなる。そのため、現在稼動中のコークス炉が40年の寿命を迎える2015年まで溶融還元製鉄の導入は困難と見られていたが、昨今の原料炭価格の急激な上昇、韓国浦項総合製鉄の溶融還元製鉄炉操業開始など、切替え前倒しが必要になるかもしれない事象が起きている。
  • 技術的には酸化鉄による炉壁の溶損の解決が課題の一つのようである。
  • 酸素製鉄法は膨大な酸素を消費する。東京湾・伊勢湾・大阪湾のような液化天然ガスの大消費地であれば液化天然ガスの冷熱利用で低コストに酸素を量産できる可能性があるが、そうでない場合、空気の分留によって酸素を製造するのに多大な電力を消費する。
炭材内装塊の高速自己還元技術[編集]

粉炭と粉鉱石を加熱成型した塊を高炉に装填した場合、コークスと塊鉱石を交互装填した場合の5倍の速さで還元反応が進む。また同様の混合ペレットを溶融還元炉に使用した場合、炉壁溶損原因となるFeOの溶出が3%で済むという。回転炉によるITmk3法も後述のフロートスメルター法も同技術を使用しているとのこと。

フロートスメルター法[編集]

粉炭に窪みをつくり、粉炭と粉鉱石と石灰を混合したものをくぼみに充填し周囲の石炭を燃焼して加熱する。

特徴
  • 50万t/年規模の小型プラントに適する。炭素の酸化発熱は炭素>一酸化炭素より一酸化炭素>二酸化炭素の発熱量が大であり、石炭をCO2まで酸化することで石炭の使用原単位が減り、CO2の半減効果が得られる。ただし、発生するガスは二酸化炭素なので化学合成には使えない。

鉄利用の歴史[編集]

古代[編集]

製鉄技術が普及し始めたのは紀元前15世紀頃のヒッタイトが定説とされているが、鉄の利用自体はそれよりもはるかに古い。有史以前から隕鉄などを利用していた証拠が見つかっている。メソポタミアでは紀元前3000年前のウルという遺跡から、鉄器の断片が見つかっている。また、エジプトギザにあるクフ王ピラミッドの石の隙間から、紀元前2500年前の鋸の歯が見つかっている。放射性物質の調査から、これらの鉄器が隕鉄に因るものであることが判っている。鉄の利用のはじまりは有史以前と思われるが、はっきりしたことは判っていない。

人工的に鉄を発明したのは、上にもあるように紀元前15世紀頃、アナトリア半島ヒッタイト人であるとされている。なお紀元前20–18世紀頃のアッシリア人の遺跡からも人工鉄が見つかっており、当時のものかどうか議論されている。

古代・中世日本[編集]

紀元前3世紀青銅とほぼ同時期に日本に伝わった。製鉄技術はなく、当初は輸入されていた。一方、青銅は紀元前1世紀頃から日本で作られるようになった。

5世紀出雲地方や九州地方で製鉄が始められた。しかし、他の文化圏のように高温を保って化学反応を促進しようとは考えず、原料を鉄鉱石ではなく砂鉄に求めて技術を深化させてゆき、製鉄としては低温なたたら吹きが開発され広まった。古代、中世においては露天式の野だたら法が頻繁に行われていたが、江戸期に入り全天候型で以前より送風量を増加した永代たらら法に発展した。この日本独自の製鉄法では、玉鋼や包丁鉄といった複数の鉄が同時に得られるために、それが後の日本刀を生み出す礎となった。以後、出雲は一貫として日本全国に鉄を供給し、現在でも出雲地方にその文化の名残が認められ、日立金属などの高級特殊鋼メーカへと変貌を遂げている。

農器具が鉄器で作られるようになると、農地の開拓が進んだ。中世日本では鉄は非常に貴重であり、鉄製の農機具政府の持ちもので、朝借りて来て夕方には洗って返すことになっていた。私有地を耕すのには鉄の農機具を使う事が出来なかったため、良い農地は政府の所有であった。すなわち、中世の日本の貴族は鉄の所有権を通して遠隔地にある荘園を管理した[1]

11世紀頃から鉄の生産量が非常に多くなると、鉄が安価に供給されるようになった。[1]。個人が鉄の農機具を持つ事が出来るようになると、新しい農地が開墾されるようになった。すると開墾した農民が自ら開墾した田畑に対して所有権を主張するようになった。この所有権の主張から中央の貴族と争いが起きたり、農民同士の争いが頻繁に起きるようになり、農民が鉄器で武装し始め、武士の起源となった。この武士の元締めが源氏平家である。鉄の個人所有が結果として貴族政治の崩壊をもたらし、武士による鎌倉幕府の開府に繋がっていった。

近世日本[編集]

16世紀ヨーロッパから銃器生産技術がもたらされた。戦国時代にあった日本では、瞬く間に銃器の生産が普及した。銃をどれだけ用意してどう使うかが戦争の勝敗を決するようになった。銃を大量に準備し、かつ効率よく運用した織田信長が日本統一をほぼ成し遂げた。

当時、銃器の生産の中心は堺であった。優れた技術は外部に漏らさないのが普通で、堺は莫大な利潤を蓄えた。堺は銃器生産と貿易で栄華を極めたが、大坂夏の陣で壊滅的な打撃を受けたのち、そこから逃れた鉄器の技術者たちは日本各地に散らばっていった。鉄の技術者は鍛冶師、鋳物師と呼ばれた。

このころ、中国大陸では鉄の生産のために森林資源が枯渇し始めた。当時、鉄の精錬には木炭が使われたためである。日本の森林は再生能力に優れ、幸いにも森林資源に枯渇することが無かった。豊富な砂鉄にも恵まれており、鉄の加工技術では東アジアでは抜きん出た存在になった。

江戸時代、日本は鎖国政策をとっていたが、刀剣は最も重要な輸出商品として長崎から輸出された。輸出先は中国やヨーロッパである。今日でもヨーロッパ各地の博物館で当時の貴族たちが収集した日本刀を見ることができる。いっぽう森林不足により鉄が枯渇していた中国では、日本刀は主に鉄製品の材料として扱われたという。[2]

普及したとはいえ鉄製品は貴重品であるため、壊れた鉄製品を修復する需要があり、鉄の加工技術は日本各地で一般化していった。鍛接・鋳掛けのほかにも、金属の接合にはろう付け・リベットが使われた。

日本の江戸時代には鋳掛屋(いかけや)と呼ばれる行商人がいた。各地を渡り歩き、鍋釜の類を鋳掛けで補修することを生業としていたのが鋳掛屋であり、店舗を構えた鋳掛師(いかけし)と区別された[3]。鋳掛けによる溶接も行われた。彼らは溶けた鋳鉄に鞴(ふいご)で空気を吹き付けることで、鉄を流動化する技術を持っていた。吹き付けた空気により、鉄が燃焼し、その熱で鉄を完全な液体にすることが出来た。同時に脱炭が行われたと考えられている。この方法は山下吹きと言い、16世紀兵庫県の山下村の鋳物師銅屋新左衛門が発明したとされている。この鋳物師は堺の鋳物師の流れをくむ鋳物師である。転炉を連想させる高度な技術である。やや時代が下るが幕末から長州で製鉄技術が急速に発達したのは山下吹きの技術があったからだと言われている。鋳掛け屋は昭和初期の頃まで各地で見られたとされている。

鋳物業の盛んな富山県高岡市にも鋳物師の伝統である高岡銅器があり、この地域には古い技術がよく伝承されている。現在でも小松製作所YKK新日軽といった金属加工関係の大企業の工場が富山県に多くあるのはこの伝統と無縁ではない。

江戸幕末には、艦砲を備えた艦隊の武力を背景に開国を迫る西洋に対抗するために、大砲鋳造用の反射炉が各地に建造された。これらは明治時代になるとより効率の良い高炉にとって代わられた[3]

近世ヨーロッパ[編集]

前述の中国に限らず、鉄を生産している所では森林破壊が深刻だった。ヨーロッパの土地は比較的森林再生能力があるので近世まで持ちこたえたが、無敵艦隊を建造するために大量の鉄を必要としたスペインでは、もともと乾燥していたこともあって、ほとんど全土がハゲ山になってしまった。このハゲ山は現在でも回復していない。

17世紀のイギリスでも鉄生産のために森林破壊が深刻となっていた。湿潤な気候なのでスペインのように砂漠化はしないものの、木材資源の不足は誰の目から見ても明らかだった。そんな中、ダービーコークスが発明される。コークスは石炭を蒸し焼きにしたもので、不純物が少なく鉄の精錬に使うことができ、火力も強かった。コークスの発明により木材資源の心配が無くなり、鉄の生産量は劇的に増えた。

主な化合物[編集]

世界の主要鉄鋼メーカー[編集]

2005年生産高順[4]

  1. ミッタル・スチール
  2. アルセロール
  3. 新日本製鐵
  4. ポスコ
  5. JFEホールディングスJFEスチール
  6. 上海宝鋼集団公司
  7. USスチール

イメージ[編集]

西洋占星術錬金術などの神秘主義哲学では、軍神マルスと関連づけられ、その星である火星を象徴する。これは、古くから鉄が武器の材料として利用された事や、鉄錆がくすんだ血のような色である事に由来すると思われる。

一方の日本では、鉄は邪悪なものを取り除く力を持つと考えられていた時代もあった。たとえば遠野物語では、怪力の河童を鉄の針で退治したり、山中で身の危険を感じた猟師が魔除け用に持っていた鉄の弾を撃つというエピソードがある要出典

「鉄」の繁字体「鐵」は「金・王・哉」に分解できることから、本多光太郎は「鐵は金の王なる哉」と評した。なお、「鉄」は「鐵」の略字という説が有力であるが、使用頻度が高いために失われやすい点から、「鐵」の略字が「鉄」になったという説がある。又、「鉄」以外にも「銕」という略字もある。

しかし、「鉄」の表記は「金を失う」となるため、製鉄業者鉄道事業者などでは忌み嫌う傾向も見られ、あえて繁字体の「鐵」を使用する会社(新日本製鐵大井川鐵道和歌山電鐵など)や、「金が矢のように入る」とするため本来はの意味を持つ「鉃」の字を「鉄」の代替としてロゴで使用する会社(四国旅客鉄道を除くJR各社)も存在する。

鉄はその用途から、機械や人工物を象徴する元素として用いられることも多い。対する人間・生物の象徴としては、有機化合物の主要元素である炭素(元素記号C)が用いられる。

外部リンク[編集]

関連項目[編集]

脚注・出典[編集]

  1. 1.0 1.1 司馬遼太郎「この国のかたち」文春文庫 p.113-120
  2. 司馬遼太郎「長安から北京へ」中公文庫 p.188-188
  3. 3.0 3.1 鉄と生活研究会編 『鉄の本』 2008年2月25日初版1刷発行 ISBN 9784526060120
  4. 2005年生産高順[1]

外部リンク[編集]

1 元素周期表 18
1 H 2 13 14 15 16 17 He
2 Li Be B C N O F Ne
3 Na Mg 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Al Si P S Cl Ar
4 K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
5 Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
6 Cs Ba * Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At Rn
7 Fr Ra ** Rf Db Sg Bh Hs Mt Ds Rg ...
* La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb Lu
** Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No Lr