左利き

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左利き(ひだりきき)とは、一般的に人間の内の利き手であること、またはそのような人のことを指す。ただし広義には手・だけでなく、のいずれかが左優位の場合にも用いられる。

概要

左利きの人は一般的に右手に比べて左手をより多く使う。例えば、文字を書く、料理をする、を使うなどである。左利きの人々は多くの動作で左手を使うことを好む。左利きは全ての動作を左手で行うと思われがちだが、実際には完全な左利きは少ない。文字を書く、を使うのは右だがボールを投げたりするのは左を使うなど動作によって使う手が決まっている場合もある。また特にどちらの手と決まっていない動作も多い。そういった意味では、左利きの人は、両利きと呼ばれることもある。

インドイスラム諸国では排泄行為後は(トイレットペーパーで拭くのではなく)手桶の水を流しながら左手で肛門周囲の汚れを洗い落とすのが習慣だったため、後の時代ではトイレ備え付けのシャワーホースを使って肛門周囲を水洗浄することが通常になったとは言え、かつての習慣から左手は衛生面で不潔(不浄)な手とされており、食事の際には左手を隠し、右手でつかんで食べる文化がある。公の食事の席では左手を出すのは無礼な行為とされている。ただしインドイスラムでも左利きの人はいる。この場合食事は右でその他の動作は左で行う(ただしインドでこの食事文化が厳格なのは右手の指先だけで食べる習慣があるインド南部であり、インド北部ではほとんど意識されていない)。

左利きの人を指す言葉として「サウスポー」などがある。サウスポーは、1892年にシカゴヘラルド紙の記者の作った造語である。野球の本塁が北西にあるのが原則であるため、左投げ投手の手(ポー:paw)は南(サウス:South)からくり出されることから名づけられた。広辞苑では「アメリカ南部出身の大リーグ所属投手に左利きが多かったことから」としている(これらの説には異論もある)。

なぜ左利きは少数なのか

1977年の統計では成人人口の8%から15%が左利きである。また、わずかながら女性よりも男性の方が左利きが多いという統計結果もある。この割合は古今東西を問わずほぼ一定である。古代の壁画や石像を見ても右利きの方が圧倒的に多かった。そのため左利きが生まれるのは文化教育食事など後天的要因によるものではないことが分かっている。しかし、なぜ左利きが少数なのか、なぜ10%前後で変動がないのかについてははっきりとした理由が分かっていない。また一卵性双生児が左利きである頻度は、単生児よりも若干ながら高い。 以下に左利きが発生する要因についてよく語られている意見を列挙する。正しい説を列挙したわけではないので注意。

自然選択説

心臓は左半身にあり、右利きの戦士は右手に武器を左手にを持って戦う、左利きの戦士は左手に剣を持ち右手に盾を持って戦う。この結果左利きの戦士の方が心臓を危険にさらし致命傷を負う確率が高くなる。従って右利きの人間が多く生き残るという自然選択説による説である。

これは非常によく言われる説であるが、かなり疑わしいとされている。まず、心臓の位置が左半身という前提になっているが、心臓は身体のほぼ中央にある。よって、盾を持つ手で影響が出るとは考えにくい。また、利き腕が遺伝することを前提としているが、利き腕に関わる遺伝子の存在は確認されていない(後述)。さらには、盾を使ったとされる年代や地域は限定される。や両手剣を使い、盾を使わない文化圏でも左利きが出ることや、盾がまだない石器時代から左利きが少数であること、盾が廃れた近代になっても左利きが増えないことなどを説明できない。

突然変異説

DNAや染色体異常などの突然変異により左利きが生まれるとする説。しかし、右利きと左利きでDNAや染色体に変化がないことは証明されている。学術的な説ではなく民間で生まれた都市伝説に近い。だが科学知識のない時代にはかなり信じる人も多く左手に対するマイナスイメージを生むことになった。

種の自己防衛説

生物は多様化することによって未知の伝染病や急激な環境変化に遭遇しても全滅することを防ごうとする。左利きが生まれるのもこの多様化の一種であるとする説。しかし、利き腕の差がその意味で効果があるかと言えばかなり疑わしいと言わざるを得ない。

脳の半球説

言語と手仕事の両面において、より良い運動神経を必要とする場合、の片側の半球で両方の判断をした方が、左右両方のを使うよりも効率的であるという理論である。脳の左側は言語を制御しているので、脳の左側が制御する右半身の方が発達する、左利きの人は逆になっている。他の霊長類は人間のような話し言葉を使うものは無い。他の霊長類には利き腕の偏りが見られない。このようにこの理論では予測する。この理論にも反論があり、90%前後の右利きの人は言語を制御するのに脳の左半球を使っているが、左利きの人は左半球の場合と右半球の場合があり可変であるという主張である(詳細については脳機能局在論参照)。

右利きの脳と左利きの脳の基本的な違いを脳スキャンで確認するいくつかの研究が行われた。通常、脳の特定部位が各作業に使われている状態で、右利きの人の脳は非常に集中される。この集中化は左利きの脳では一般的に無い。左利きの人が脳卒中の発作に見舞われた場合、右利きの脳卒中患者よりも復帰が早い。これにより左利きの人の脳は、脳の各所に機能を分散する度合いが高く、集中させる度合いが低いとされる。

利き腕と脳についてよく言われる説で右利きは理論に優れ、左利きは芸術など感性に優れると言うことがあるがこれは間違いである。確かに人間の左脳は言語野など理論的なものがあり、右脳には感性を司る部位がある。そして、利き腕と脳はクロスしたつながりが太いことも確かである。しかし、腕の動きが活発であるかどうかと脳の活動はほとんど関係がない。

利き足と言語に関しては、オウムの90%が左足利きであるという関係がある。

遺伝によるとする説

イギリス王室の王族の多くは左利きである。女王エリザベス2世をはじめ、チャールズ皇太子ウィリアム王子も左利きである。そのため利き手が遺伝する説の説明によく用いられる。しかし、統計としては分母が少なすぎて参考にならない。

矯正説

左利きの多くは親などの周りの大人に右利きに矯正されることが多いため、本来は左利きの人でも現在は右手使いのことがある。ただし下記にある通り左利きから右利きへの矯正は過度なストレスになるので、吃音などになってしまうことがある[1]

胎内で決まるという説

2004年、英ベルファストのクイーンズ大学博士・ピーター・ホッパーによって行われた研究によると、人間が右利きになるか左利きになるかは妊娠10週間目の頃に決定しているという新発見がなされたとのこと。

今回の研究にあたって、妊娠中の女性1000人に超音波走査を実施した結果、例えば10週間目から12週間目の頃に胎児が左手の親指よりも右手の親指を頻繁に吸っていた場合、子供はほぼ確実に右利きとして生まれてくるという関係性が明らかになったと話している。

これまで一般に信じられている説では、子供が3歳から4歳の頃に利き手が決定されるものであるとされていたが、今回の博士らの報告が事実であった場合、それらの学説を大きく覆すものとなる。

また博士らはそれ以外にも10週間目の頃の胎内での手の動きと利き手の関連性についてのいくつかの発見があったとしているが、胎内において脳が手に対してそれらの命令を出しているという証拠はなく、また脳の命令よりは脊髄反射によるものである可能性が高いと話している。

利き手の『矯正』の是非

個人差が多く見られる現象ではあるが大人になるほど利き手の変更は困難を極めることになる。そのため、日本を始めとする世界の多くの国で、幼少時に周囲の人物が、箸や鉛筆の『利き手の変更』を行なわせようとすることが多い。

しかしこの「矯正」は本人が望んだものではなく周囲の勝手な押しつけであること、うまく腕を動かせないストレスに加え、「矯正」の指導をする親が激しく叱ることが多いため悪影響が少なくない。

洋の東西を問わず、かつては左利きを身体障害者と考える人・地域は多く、さらには知的障害の一種のように扱う人もいた。そのため利き手の矯正はかなり高い比率で、時には厳しい体罰を伴ってでも矯正されていた。近年になって左利きは障害ではないことが広く知れ渡ると同時に、利き腕も個性のひとつとして考えられるようになったため、利き手を矯正する親の割合は減ってきたが、後述の筆記上の不便さから学校受験などで不利になると考え、また単に生活上の不便(後述)を考えて矯正する親が多々見られる。過去においては矯正が盛んに行われたため、本来左利きであるのに右利きの生活をさせられた者も多い。イギリス国王ジョージ6世は幼少期から少年時代に、父ジョージ5世により左手に長いひもを結び付けられ、左手を使った時には父から乱暴に引っ張られ、この虐待によりジョージ6世は重度の吃音になってしまった。また水森亜土王貞治ルイス・キャロルネルソン・ロックフェラーウィンストン・チャーチルも左利きであったが、同様もしくは類似の虐待を受け、水森とキャロルに至っては前述のジョージ6世と同様、吃音に悩まされることとなってしまい、チャーチルも生涯後遺症に苦しめられた。

日本においても利き手の「矯正」のもたらす悪影響が認知されていないことと、左利きに対する偏見を持つ者が多い(かつて「(左)ぎっちょ」という言葉が存在したように、老人に特に多く見られる。語の起こりは毬杖から)ため、強引な変更が行われることがある。さらに悪いケースでは、無理な矯正のストレスが原因で吃音になってしまっても、その原因が無理な矯正にあることを理解できずに、吃音への偏見を嫌がってさらに根性論を振りかざして子供の吃音を治そうとする親もおり、いたずらに症状を悪化させ、子供を苦しめることもある。一部には我が子をクリエイティブな能力のある子供に育てようと、右利きの子供を左利きにしようとする親もいるが、同様の悪影響があるため全く薦められない。

また、左利きを「矯正」しようとするのは親や祖父母といった肉親だけではない。教育関係者の中にも「左利きの児童の利き手矯正ができる教師である」ことが教育者としての自身の実績や高評価(これは同僚や上司からの評価も含まれる)につながると考えている者が未だにおり、実際、幼稚園小学校の教諭などが保護者の意向なども無視して左利きの子供に無理矢理かつ強引に矯正を行おうとすることは、現在でも幾らでも見られるものである。当然ながら子供は担任教諭を選ぶことはできないわけで、これらによるストレスから教師との関係が悪化するのみならず、最悪の場合には登校拒否非行いじめ(これには教師からのいじめを含む)などの要因ともなり得る。

そもそも根本的な問題として、小さいときなら利き腕の変更が容易と言うが科学的に検証されている説ではない。これは幼少時はまだ利き腕が定まっていないとの前提であるが、変更しようとする=既に左を多用しているわけで、この段階で利き手は明確に定まっている。利き手は箸や筆の持ち方とは全く異なることを理解しなければならない。幼少期の変更が多いのは適切な時期だからではなく、親の影響力が強い時期であるからにすぎない。利き手の変更には諸々の悪影響が出るとされるため、事故によって負傷し利き手に重い後遺症が残ったなど、よほどにやむを得ない事情が発生しない限りは全く勧められるものではない。そもそも左利きが少数であることは統計上明らかであるが、左利きが間違っているわけではない。

左利きの不便

世の中の製品(機械やコントローラなど)は、右利きの人が利用することを前提に設計されているものが多い。これは左利きにとって不便なだけでなく、危険性が高い場合がある。

  • 機械の操作ボタンの多くは(向かって、以下同)右側に配置されている。
    • エレベーターのボタン、パソコンテンキーやエンターキー、カメラシャッターボタンなど、ほとんどのものが右利きを前提にしている。
    • 自動販売機は硬貨投入口が右側にある(右手で投入しやすい)。
    • テレビ受像機の主電源スイッチや、ノートパソコンマウスの差込み口(USBジャック)が右側についているものがやや多い。
    • マウスでの操作を説明する際、右利き用に設定されていることを暗黙の前提としている。メインでクリックする方を左ボタンとしており、コンテキストメニューを開く際のボタンを右クリックと呼んでいる。(左・右が逆に感じるかもしれないが、右手で操作する場合、押しやすい人差し指が左ボタン、押しにくい中指が右ボタンに配置される)
    • 電話機の受話器は左手で持つように配置・配線がなされている。この方が右手でダイアル・またはプッシュボタンを操作したり、メモを取ったりしやすいから。ビジネスマナー講座でも「着信したら左手で受話器を取り、右手は筆記具を持って記録に備えよ」と教授される。(ただし、耳にも利きがあることが知られた現在では、聞き耳に受話器を当てることが推奨されているため、左手で右耳に受話器を当てるという不自然な行為になることも多い)
  • 日本の自動改札機は右側に投入口やICカードセンサーがある。
  • 缶コーヒーや缶ジュース等の飲み口(プルタブ)は右手で開けやすいよう、切り口が左奥方向に折れていく構造になっている。
  • アイロンの電源コードは本体右側から出ている物が多い。左手でアイロンをかけるとコードが衣類の上を跳ね回り邪魔になる。
  • 机に引出しが付く場合は概ね右側にある(ただし現行の学習机では、引出し部分が机の左右どちらにも置けるよう配慮されている)。
  • 公衆電話ボックスの折れ戸式の扉は、左手では非常に開けにくい構造になっている。
    • 特殊な例として、電子レンジコインロッカーの扉は、左手で開けてから利き手の右手で重いものを出し入れするので、左開きである。
  • 文字の留め・跳ねなどは右手で書くことを前提としている。
  • 刃物・工具の類も右手で使うことを想定した作りになっているものが多い。
    • はさみのかみ合わせは、右利き用になっており、左手では非常に扱いづらくなっている。(実際に左手で握ってみると刃が噛み合わず切断できない。)ただし、近年では左利き用や両利き用のはさみも販売されている。
    • かみそり包丁などの刃の付け方も右利き用である。カッターナイフも左手で握ると刃先が見えにくい。
      • 缶詰を開けるための缶切りも本来は右手で引く力を利用して開けるが、左手では押し込む操作となり非常に開けにくい。(近年ではプルトップ式が主流になり、困難な場合は減った。)
    • 日本刀は左側に差すが、左利きの場合、鞘から刀を抜くのに失敗することが多い。そのため右利きに矯正される事が多くなっていた。
      • 剣道では利き手がどちらであるかに関わらず、右手が鍔側・左手がその手前の状態で竹刀の柄を握るように指導される。ただし、初心者は竹刀を振りかぶるにあたって竹刀の軌跡が利き手側に傾く傾向があるが、左利きの者はこの点をかなり修正される。
    • ボール盤の卓上のものはドリルを下におろすハンドルが右側に付いており、左手での操作は困難である。
    • 電動丸ノコではモーターの右側に刃があり、右利きが操作する場合は自身の体と刃の間にモーターが位置するが、左利きが操作する場合は刃が体に接近しており、危険性が高い。安全カバーがある場合、固定していない側の木材が安全カバーに引っかかり、キックバックを起こしやすい。
    • 草刈り機は時計回りに刃が回転しており、右利きの行い易い右から左へ刈る動作に対応しており、左利きが左右逆に扱うとキックバックを起こしやすく、またアクセル操作も右親指で操作しやすいレバー操作になっていることが多い。
    • 多くの電動工具にはスイッチのロックボタンがあるが、右手の人差し指で押すことが想定されており、左手で使用すると意図しない時に無意識にボタンが押されてしまい、事故が起こる可能性がある。
  • そろばんは基本的に右手でそろばんを弾く、文字を書くことを前提で作られている。大抵のそろばん塾では左利きでも右利きの者同様の指導を受け、文字を書く手を右手に変更されることもある。これは「豆粒にも似た小さな珠を、指先で細かく動かす動作」に有利なのは当然利き手であり、その多数派が右手であるという理由に過ぎない。
  • 急須は持ち手の左側に注ぎ口があり、左手では外側に傾けないと注げない。一応、左利き用も物もあるが一般的ではない。
  • ファミリーレストランに置いてあるスープ用おたま(レードル)は右利き用なので、左利きの場合非常に注ぎにくい。
  • 定規の目盛りの多くは左から右に向って振られている。この方が右手で線を引くのに都合がよいから。
  • テストやアンケートなどはたいていが横書きで、問題が左、回答欄が右になっている。
    • 右利きの場合問題を見ながら書き込むことができるが、左利きでは問題文が自分の手で隠れてしまうので、いちいち手を浮かせて確認しなければならない。
    • 逆に縦書き(問題が右、回答欄が左)のときは、左利きなら問題を見ながら書き込むことができる。しかし、一般的には横書きのことが多いので不利である。
  • 一般に左利き用の製品は、右利き用に対して生産数の少ないことから高価となるので、経済的負担を強いられる場合がある。例えばギターゴルフクラブなどがある。これらを左利きで使う人は指導できる者や知合いが少なく、(右利きの)人の物を借りて使えない。
    • ギターでは、教則本などが全て右利き(右手でピッキングして左手で押弦する)前提で書かれているため、右利き用のギターを単純に左利きで構えると、弦の上下が入れ替わるためコードフォームや音階が全て逆になる。ギターで左利き用を用意するとなると、弦を支えるブリッジとナットを左利き専用の部品に交換する必要があり、生産数の少ない左利き用のギターが高価になる原因になっている。
    • だが、ジミ・ヘンドリックスが右利き用のギターを左利きで弾いた影響から、右利きであってもあえて左利き用のギターを用いていたイングヴェイ・マルムスティーンのようなギタリストもいるが、その場合はブリッジとナットは右利き用のものを用いる場合が多い。
    • アルバート・キング松崎しげる甲斐よしひろなど、ごく一部の左利きのギタリストの中には、右利き用のギターを単に左利きに構えて、コードフォームや音階を独学でマスターした者も存在する。
    • ただし、バイオリンなどのクラシック音楽に使用する弦楽器金管楽器はほとんどが右利き用に作られており、左利き用はごく少数の好事家によって制作されるに留まる。
  • マウスなど「人間工学」に基づいて設計され「手になじむ」と言われる製品群には右利きが前提となっているものが多く、左利きには逆に使いにくい。
  • などは構造上、左利きに不向きだと言われる。理由はいくつかあるが、これは全て射手が右利きであることを前提にして設計しているからである。
    • 多くの回転式拳銃では、シリンダー(回転式弾倉)が左側に開くため、再装填しづらい。左右問わず使える中折れ式は極僅か。
    • 元折式散弾銃では、銃身の開閉レバーを右手の親指で右側に押して操作する前提の為、左利きの場合操作が行いにくい。また、既製品の廉価な銃では銃床の角度(ベンド、キャスト、ピッチダウン)や頬当て(チークピース)の要素が右射手を前提に製造されている為、クレー射撃では左射手向けに特注された銃床に交換する必要に迫られる場合もある。注文生産の高級銃においては、操作系から銃床まで全て左射手向けに左右反転させたものをオーダーできる場合もある。
    • ボルトアクション方式の小銃では、銃の右側にボルトハンドルがくるので、左利きでは排莢操作が行いにくい。銃床についても散弾銃と同様の不具合が生じる。
    • 自動火器などは、基本的に銃の右側に排莢を行う構造になっている。拳銃の場合はさほど問題ではないが、自動小銃を使用する際、左手で銃把を握った場合は排莢口と顔が近くなるので、焼けた薬莢が顔にあたり怪我をする危険性がある。ブルパップ方式の小銃では排莢口が顔とほぼ同位置にくるのでなお危険である。
    • 安全装置を始めとした銃の操作に要するボタンやノブは本体の左側(右手で持った場合、親指の来る位置。左手で持った場合、どの指先も当てはまらない)にあるものが多く、左手で銃を構えると操作できない配置のものが多い。
      • これらの問題点は、近年は排莢口を左側に変更した「左利き用」を開発したり、特にブルパップ方式の場合使用環境が戦場であるため右手を負傷した場合を鑑みて排莢口が左右変更可能であったり、FN P90のように排莢口を銃の下部に設けるなどして、左利き射手にも対応している。安全装置他の配置についても、上記の排莢口の位置と同じく、左右両側で操作できる、もしくはボタンやノブを左右どちらかに任意に付け替えられる、という設計が多くなっている。もっとも、これは利き手の問題に対処する他に、市街地における戦闘では「銃を左手で構えて撃たないと遮蔽物に身を隠せない」という状況が多発するので、操作系が片側に集中していると運用上の不利を生じる、という実戦経験が積み重ねられたことが大きい。
  • 外科医の世界では左利きの外科医は認められないとさえ言われてきた。道具は全て右利き用が主流で左利き用も無いわけではないが高価で、日本では医師の利き手に関係なく保険点数が決まっているため高価な道具を使っても請求できる金額が変わらないため経済的に不便であることが左利き用の道具をさらに少数化させている。集団作業である手術において一人だけ左利きの医師がいると対面している右利きの助手と手がぶつかったり、右利きの執刀医とは逆の動きに混乱が生じたりして作業に支障をきたす。このため、現在においても外科医は利き手に関係なく右手中心の作業を要求される。しかし、チームで行う外科手術以外においてはそれほど問題視されておらず、他の診療科においてはそれほど重要な問題ではない。

左利きの人は生活の多くの場面で右手や右手用製品を使わざるを得ないので、結果として右手用の物を左手で使うようになり、却って左利き用の物が使いにくくなる事も多い。また両利きクロスドミナンスになる人が殆どである。ただ、こうした不便からくるストレスや、器具の操作ミスによる事故を起こしやすいなどの理由から、左利きは右利きに比べて平均9年寿命が短いという説(スタンレー・コレンの報告)がある。しかし、今のところ科学的な精密調査による検証は行なわれていない。

また、集団生活において、横に並んで食事をすると左利きと右利きの利き腕がぶつかるといった問題がある。建物設計でも座席間の距離は、右利きの人だけが並んだことを想定している。これは古代の軍隊でも顕著であり、代表的な例として古代ギリシアの槍部隊であるファランクスも全員右手に槍を持つことが前提となっている。左手で槍を持つことは許されなかった。現代の軍隊でも、前述のように銃火器の構造上、左利きは不便である。日本の警察では、警官の装備は拳銃が右・警棒が左の配置になっている。これは、左利きであっても変える事が認められない(そもそも左利き用ホルスターが作られていない)。

左利きの便

世の中の構造物(機械やコントローラなど)の中には、歴史的経緯から多数派である右利きにとって不便で少数派である左利きにとって便利になっているものもある。

  • 水道の蛇口電球、機械類を組み立てるボルトなどは、時間の経過によって固着するので、締めるときより緩めるときのほうが力が必要である。力に任せて締めこんでは破損の恐れもある。右手の場合は右回転のねじりの方が力が入りやすいので、多数派である右利きに合わせるならば右に回して緩めるようにしたほうが合理的だが、実際には逆になっている。これらのネジは右利きよりも左利きにとって便利である。ただし、一般にもっとも力を使うことの多い瓶の蓋を開ける場合には両手を使うため関係がない。
  • コンピュータのキーボード配列として一般的なQWERTY配列は、左手の使用頻度のほうがわずかながら右手より多い。多数派である右利きに便利なように右手の使用頻度を高めたDvorak配列もあるが、普及していない。
  • ビデオゲームコントローラは、業務用ゲーム家庭用ゲームを問わず、方向キージョイスティックを左手で操作するものが標準となっている。ゲームの種類にもよるが、多くの場合、複雑・微妙な操作を要求されるのは左手のほう[2]である。ゲームダコが左手指にできることが多いことも、ビデオゲームのコントローラが左手偏重であることを示している。これは、初期の業務用ゲームからの慣習である。横井軍平は、本来方向キーは右で操作するのが自然であると述べている。
  • 文字を縦書きするときに手が汚れない。また、書道の場合は最後に名前を書くときに手が汚れない。但し、これは中国語日本語韓国語のように縦書きの行を右から左に書く言語の場合であってモンゴル語のように行を左から右に書く言語の場合は当てはまらない。逆に、アラビア語のように横書きだが右から左に書く言語の場合は、左利きの方が手を汚さずに済んでいる(これは漢字文化圏においてかつて用いられた右横書きでも同様)。
  • 日本食の正しい配置は、右側に汁碗、左側にご飯茶碗、そして箸は持つ方を右に向けて置く。そうすると右利きでは一旦左手に持ち右手に手渡すというステップが必要であるが、左利きの場合は右手による僅かな補助があった方がいいとは言え右利き程手間が増えない。

左利きの寿命

統計によれば、高年齢層程左利きの割合が減少する。1991年に発表された論文は、この統計は左利きの人は右利きの人に比べて9年も短命であることを示すものであると主張し、その原因は左利きの人は右利き中心の世界に適しておらず、この世界で遭遇する「苦難」のために事故で死亡することが多いためであろうと示唆している。しかしその後の多くの研究により、右利きの人に比べて左利きの人が短命であるという証拠は全くないことが明らかになっている。なお、この出典はマカク類(ニホンザル類)に属するサルの老熟個体の右利き率について、それらが進化学的なものに根ざし、また「我々」人類と一致していない件について述べたものである。右利き、左利きどちらが長命かを述べた論文ではない。

左利きに対するバリアフリー

ユニバーサルデザインの視点から、右利き左利きどちらでも快適に暮らせる社会にしようとの動きも出始めている。

例えば、大手民鉄、JRが導入しているバーレススタイルの自動改札は、左手で使う場面も考え、券投入口が左に5度向いている。他にも左右両開きの冷蔵庫など家電製品にも対応品がある。

また、包丁なども近年では右手でも左手でも扱えるように歯付けがなされたものも存在する。

対応だけでなく、左利きの者に特化した商品も多い。左利き用のはさみは多くの文具店にみられる。 左利き用品の専門店もある。 京セラが発売していたカメラ「サムライ」は右利き用と左利き用の両方を用意していた。 アーミーナイフの一部にも左利き用モデルがある。 百ます計算でも、左にあった数字が、右に来ている場合がある。これにより、左手に隠れてしまう数字が見えるようになり、やりやすくなる。

マウスにも左利き専用のものがある。サンワサプライは2011年から左利き専用マウス「MA-ERG2LH」を製造販売している。かつて2006年にロジテックが左利き専用マウス「MX-610L」を製造販売していた。なお、ロジテック社CEOのゲリーノ・デルーカは左利きである。 マイクロソフトビル・ゲイツも左利きであるが、マイクロソフトは左利き専用のマウスはない。ただし左右対称のマウスを基本形としているため、どちらの手でも同じように使える。

拳銃でもベレッタM92のように安全装置レバーやマガジンキャッチのボタンを、反対側に変更できる自動拳銃が市販されている(アンビ・セフティと呼ばれる)。拳銃に限らず、銃は通常排莢方向が右(薬莢が右に飛び出す)だが、これを左手で使うと、右に飛び出した薬莢が目の前を通過するので、照準が乱れる上に、姿勢によっては顔面に当たるため非常に危険である。M16シリーズでは、薬莢を真横ではなく前方に飛ばすために、A2から「ケース・ディフレクタ」という突起を排莢口後方に設けている。

また、近年では、FN P90のように真下に排莢したり、FN F2000のようにチューブで銃の前方に空薬莢を飛ばしたりするという設計のブルパップ銃も開発されている。

スポーツ

スポーツにおいては、時として左利きであることが有利に働く場合がある。また、競技上の優位性確保のため、あえて利き手でない腕を用いる場合がある。

特に野球ボクシング相撲柔道など直接人と勝負するスポーツや一対一で必ず対戦するようなスポーツにおいては左利きであることが有利に作用する。右利きと左利きの人口比から左利きが右利きと対戦する機会が多いのに対して右利きは左利きと対戦する機会が少ないからである。右利きにとっては慣れないフォームの相手と戦う不利に加え、左利きが逆方向・逆回転の攻撃をしてくる。このため、多くのスポーツで左利きを利点として戦う選手がトップクラスにいる(ボクシングで世界王座13度防衛、うち6連続KO勝ちの記録を持つ具志堅用高も左利き)。一般的にサッカーアイスホッケーなど、相手側と対称のコートで行う球技の場合、右側には右利きの選手、左側には左利きの選手を配置するのが有利であるとされる。

野球においては右投げの投手に対して左打ちは有利とされている。左利き打者の場合は大半が左打ちだが、左手(利き手)をスイングの引き手にすることでバットが振り抜きやすくなるという理由などで、左利き打者が右打ちに矯正することも極稀にある。一方、左投げでは守備位置の制限が大きく、ほぼ投手一塁手外野手に限られる。これは捕球を右手、送球を左手で行うと一塁方向への送球の際右投げよりタイムラグが発生してしまうことが理由である(逆に進塁方向への送球は右投げより早く行うことが出来るが、こちらの守備機会は少ない)。ただ投手の場合左投げ投手の人口が少ないため対戦経験を積むことが難しく、アマチュアでは一般的には投手有利とされ、プロでも左で速球を投げる投手は右より速く感じられるという。さらにセットポジションでマウンドに立つとそのまま一塁を見ることができるので、一塁ランナーの牽制もしやすい。また、この優位性が広く認識されているので、リトルリーグ中学校の野球部などでは、左利きという理由だけで投手にされてしまうことも珍しくなく、場合によっては左利きであることを理由に生徒などに対して勧誘を行う指導者も見られる。逆に、右バッターが多いので、左利きの捕手は送球に不利であり特に少なく、左利き用のキャッチャーミットは都市部でも取り寄せでなければ入手困難である。どうしても左利き用のキャッチャーミットが見つからず、右利き用のミットを裏返しにして左利き用に改造したという事例も報告されている。

逆に、左利きであっても左腕で投球をせず、右腕で投球する選手もいる。シアトル・マリナーズ岩隈久志阪神鳥谷敬ヤクルト由規巨人坂本勇人などが左利きの右投げとして知られている。

相撲では、古くは江戸時代に無敵を誇った大関雷電大正後期の土俵を支配した横綱栃木山、昭和の大横綱として知られる双葉山、柏鵬時代を作った大鵬柏戸、「黄金の左」の輪島、平成に入っても朝青龍などの横綱、現役力士の琴奨菊舛ノ山大岩戸など左利きの力士が知られる。ただし四つ身との関係では、利き腕を上手にする方が一般的(右利き:左四つ、左利き:右四つ)ではあるものの、利き腕をあえて下手にする場合もあり、右四つと左四つを使い分けるいわゆる「なまくら四つ」の力士も少なくないため、一概には言えない。

アイスホッケーにおいてはリンクがフェンスで囲まれていて左ポジションはフェンス際でのプレイにおいて右利きではスティックが内向きとなりフェンスに沿わせたパックの処理が難しくシュートを打つ体勢にも不利だが左利きは外向きとなり前述の点で有利であるためゴールキーパー以外は半数近くを左利きの選手で占めるチームも存在する。

ハンドボールにおいて、右45度、右サイドに左利きを置くことによって、プレーの幅が広がる。稀にセンターに左利きを置くこともある。

テニスや卓球のダブルスでは、ラケットを握る手が共に外側または中央に来るように2人が立つことによって、利き手が同じペアよりもカバーできる範囲が広がり有利である。

競馬では、左にササる(ヨレる)癖がある馬などで、左手でムチが巧みに扱えその癖を抑えられるのではないかという期待から、左利きの騎手が起用されることがある。実例としては、1954年の第21回東京優駿(日本ダービー)で、左回りの東京競馬場では内(左側)にササる癖が出るゴールデンウエーブが、左利きの岩下密政を鞍上に迎えて、見事に優勝したことが知られている。またばんえい競馬においては、普段と異なるムチの入れ方で馬を発奮させることを期待して左利きの騎手に騎乗を依頼するケースがある。


バレーボールでは、左利きの選手はセッター対角のポジションに置かれ、主にライトプレーヤーとして起用されることが多い。大林素子が得意としたコート右端から左端までのブロード(移動)攻撃は、右利きのプレイヤーが行う場合よりもさらに外側(体一つ分、若しくはアンテナぎりぎりの位置)からスパイクを打つことが出来、「モトコスペシャル」と呼ばれた。また、セッターが左利きの場合、右利きには難しいとされるツーアタックを比較的容易にこなせるため、攻撃の幅が広がるといった利点がある。中田久美、ジェフ・ストークなどが得意としていた。

短距離走では、トラックが左に向かっているため、走る際に体重がかけづらい(右半身で体重をかけなければならない)ため一般には不利といえる。

腕以外の左利き

単に左利きと言えば利き腕を指すことが多いが足、眼球、耳なども左右片方を重点的に使っている。サッカーなどでは左のポジションで左利きが非常に有利である。なお利き腕と利き足は必ずしも一致するわけではなく、利き腕は右手で利き足は左足の人も多数いる(例ではサッカーの中村俊輔、野球の岩村明憲など)。 利き目と利き腕が異なる者が銃を構える際、利き目でない目で照準を行うか、利き腕でない手で銃を持つこととなるため、そうでない者より難しくなる。拳銃ではこのような状態でも柔軟に対応可能だが、ブルース・ウィリスのように独特の構え方となる。

腕以外の左利きの不便も多々ある。

  • カメラのファインダーは本体の中央よりも左側にあり、右目で覗いている場合には左目の視界が開けているが、左目で覗くとカメラ本体が顔に被さって視界を遮られる。
  • ビデオカメラでファインダーが横に付いている形状の場合、ファインダーは本体の左側にあり右目で覗くようになっているため、左目で覗くことができない。
  • オートバイは右利きが前提の設計であり、スロットル(アクセル)操作が右手である。また、車体の左側から右手で引き上げなければメインスタンドがかけられない(メインスタンドのステップは左側だけに付いている)。

「左利き」という言葉の表現の転用

酒飲みの人を「左利き」と呼ぶ。これは、石細工を行う職人では左手にのみを持つため「のみを使う手」=「呑み手」という言葉遊びからである。左党とも呼ばれるようになった。

また、建築家の左甚五郎は左利きであったことから命名されたという説もある。

スペインでは「左利きの人」と言うと、悪意から犯罪を犯した人や泥棒を示すことがある。

両手同時利き

単に両利きであるに留まらず、両手が同時に利く(同時に別々の働きが出来る)例も稀に存在する。

  • パトリック・ブランウェル・ブロンテ - 左右の手で別々の内容の手紙が書けた。
  • トーマス・グリーン・ビートン - 左右の手で別々の曲をピアノ演奏出来た。
  • エドワード・S・モース - 左右の手にペンを持ってスケッチをすることができた。その特異性から、遺言に従って脳が献体された。

出典

  1. 『整形外科のお医者さんに聞きたい「痛み」の話』(p.20 青木治人監修 2005年)
  2. NINTENDO64の3DスティックやPlay Stationの左側アナログスティックは大半のタイトルで移動操作に割り当てられている。

左利きを題材にした作品など

関連項目