水素

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自由中性子 - 水素 - ヘリウム
H
Li
250px
一般特性
名称, 記号, 番号 水素, H, 1
分類 非金属元素
, 周期, ブロック 1 (IA), 1, s</td></tr>
密度, 硬度 0.08989 kg·m−3, 不明
単体の色 無色
ファイル:H,1.jpg
原子特性
質量 1.6736 x 10-24 g
原子量 1.00794 u
原子半径 (計測値) 25 (53) pm
共有結合半径 37 pm
VDW半径 120 pm
電子配置 1s1
電子殻 1
酸化数酸化物 &pm;1(両性酸化物
結晶構造 六方晶系
物理特性
気体
融点 14.025 K
(−259.125 、-434.45 °F)
沸点 20.268 K
(−252.882 ℃、-423.17 °F)
モル体積 11.42 × 10−3 m3·mol−1
気化熱 0.44936 kJ·mol−1
融解熱 0.05868 kJ·mol−1
蒸気圧 209 Pa (23 K)
音の伝わる速さ 1270 m·s−1 (293.15 K)
その他
クラーク数 0.87%
電気陰性度 2.2 (ポーリング
比熱容量 1.4304 × 104 J·kg−1·K−1
導電率  ? /m·Ω
熱伝導率 0.1815 W·m−1·K−1
イオン化エネルギー 1312 kJ·mol−1
(比較的)安定同位体
同位体 NA 半減期 DM DE/MeV DP
1H 99.985% 中性子0個で安定
2H 0.015% 中性子1個で安定
3H trace 12.33年 β 0.019 3He
注記がない限り国際単位系使用及び標準状態下。

水素(すいそ、Hydrogenium hydrogen)は、原子番号 1 の元素元素記号H非金属元素のひとつ。元素の中で最も軽く、また宇宙で最も数が多い。地球上では有機化合物の構成要素として存在する。

一般に「水素」という場合は、水素の単体である水素分子(水素ガス) H2 を示すことも多い。水素分子は常温では無色無臭の気体で、軽く、非常に燃えやすいといった特徴を持つ。高圧ガス保安法容器保安規則により、赤いボンベに保管するように決められている。水素は宇宙で最も豊富にある元素であり、質量では宇宙全体の 55% を占め、総量数では全原子の 90% 以上を占めていると言われる。これらのほとんどは星間ガス銀河間ガス恒星あるいは木星型惑星の構成物として原子または水素分子の状態で存在している。地球上では、主に化合物の状態で存在し、単体の水素分子の状態では地球の大気中には 1 ppm 以下とほとんど存在していない。地球上では、分子状態の水素は天然ガスの中にわずかに含まれる程度である。

宇宙における主系列星の活動のほとんどはプラズマとなった水素の核融合反応によるもので、陽子-陽子連鎖反応CNOサイクルという過程を経て多くの元素を発生させている。水素原子はこの2つの核融合反応を起こす担い手であり、宇宙全体の活動に深く関わりがある。

歴史[編集]

水素の英語名 hydrogen は、はじめフランス語で hydrogène と命名され、「水を生ずるもの」を意味する。これはギリシア語の hydôr, ὕδωρ (水)と gennen (発生)の合成語である。水素を水素として発見したのは1766年ヘンリー・キャヴェンディッシュであり、アントワーヌ・ラヴォアジエが1783年に命名した。2006年周期表における水素の位置を変更すべきなのではないかとする論文が国際純正応用化学連合(IUPAC)に提出され、公式雑誌に掲載された。[1]

生産[編集]

水素分子を生じる化学反応は多岐に渡る。古典的には実験室において小規模に生成する場合、亜鉛アルミニウムなど水素よりもイオン化系列の大きい金属に希硫酸を加えて発生させる方法が知られている(キップの装置)。あるいは水酸化ナトリウムを添加して電導性を増した水を電気分解しても陰極から発生させることもできる。実際の実験室においては工業的に生産されたガスボンベ入りの水素ガスを利用することが通常である。

工業的には、炭化水素水蒸気改質や部分酸化の副生成物として大量に発生する。現在のところ、水素ガスはメタンを主成分とする天然ガスから、触媒を用いた水蒸気改質によって生産する方法が主流である。ただしこの方法では将来枯渇する恐れのある化石燃料に依存しており、水蒸気改質により発生する一酸化炭素などのうち化成品に利用されない過剰分や燃料として利用される炭化水素は二酸化炭素として環境中に放出される。現時点では、このように原料が化石燃料であるため、水素を燃料として利用しても温暖化対策にはならない。

温暖化対策においては、水素はエネルギーの輸送手段として扱われる。太陽光発電などの自然エネルギーによる発電は最適な供給地と需要地とが離れており、電力送電するのでは効率が悪い。また、自動車船舶のように送電線からの供給を受けにくい用途もある。このため、電力を水の電気分解によって一旦水素のかたちで蓄え、需要地まで運ぶ、あるいは供給するという利用が考えられている。また最近ではマグネシウムと水を反応させて水素を作り出す方法も開発されている。マグネシウムと水が反応して発生する水素の他、反応時の熱もエネルギー源として利用できる。最大の課題は使用後のマグネシウムの還元処理で、太陽光などから変換したレーザー照射による高温により還元する方法が考えられている。

水素原子と同位体[編集]

水素には、水素(軽水素1H重水素 2H (略号D) 、三重水素 3H (略号T)の3つの同位体が知られている。このうち、最も軽い 1H は、1つの陽子と1つの電子のみによって構成されており、原子の中で唯一中性子を持たない。

2007年現在、同位体は七重水素まで確認されている。七重水素(原子核は陽子1、中性子6よりなる)は重陽子光速の3割まで加速してヘリウム8に衝突させて得られている。寿命は極めて短く、10ゼプト秒ほどしかない。

水素の同位体は、それぞれの特徴を活かして特徴的な使い方をされる。重水素原子核反応での用途で、中性子の減速に使用され、化学生物学では同位体効果の研究に使用されている。また、三重水素原子炉内で生成され、水素爆弾の反応物質や核融合燃料、放射性を利用したバイオテクノロジー分野でのトレーサーや発光塗料の励起源として使用されている。

水素原子は宇宙が誕生してから約38万年後に初めて出来たとされている。それまでは陽子と電子がバラバラのプラズマ状態で光は宇宙空間を直進できなかったが、電子と陽子が結合することにより宇宙空間を散乱されずに進めるようになった。これを宇宙の晴れ上がりと言う。

水素分子[編集]

水素分子は、常温常圧では無色無臭の気体として存在する、分子式 H2 で表される単体である。融点 −259.2 ℃、沸点 −252.6 ℃、密度 0.0899g/l、比重 0.0695(空気を1として)。最も軽い気体である。原子間距離は 0.074 nm、結合エネルギーはおよそ 104 kcal/mol。

水素分子は常温で安定であるが、反応性は高く、様々な物質と化学反応を起こす。特にフッ素とは低温でも非常に激しく反応し、また水素と酸素を体積比 2:1 で混合したものに火を付けると激しく爆発する(水素爆鳴気)。

ガス惑星の内部など非常に高い圧力下では性質が変わり、液状の金属になると考えられている。逆に宇宙空間など非常に圧力が低い場合、単独の水素原子で存在していることもある。H2 分子形状の雲は星の形成などに関係あると考えられている。

オルト水素とパラ水素[編集]

水素分子は、それぞれの原子核プロトン)の核スピンの配向により、オルト(オルソ、ortho)とパラ (para) の2種類の異性体が存在する。統計的な重みが大きいほうをオルソと呼ぶ。オルト水素は、互いの原子核のスピンの向きが平行で、パラ水素ではスピンの向きが反平行である。オルト水素とパラ水素は、化学的性質に違いがないが、物理的性質(比熱熱伝導率など)が若干異なる。

常温以上では、オルト水素とパラ水素の存在比はおよそ 3:1 である。低温になるほどパラ水素の存在比が増し、絶対零度付近ではほぼ 100% パラ水素となる。

金属水素[編集]

水素は非常に高い圧力下において金属化すると考えられている。実際に、1996年にローレンス・リバモア国立研究所のグループが、140GPa(1GPa = 約1万気圧), 数千℃という状態で100万分の1秒以下という寿命であるが、液体の金属水素を観測したと報告している[2][3]。しかしながら、2006年現在、数百GPaのオーダーで圧力を加える実験が行われているものの、固体の金属水素の観測はされていない。

励起状態の水素が金属化すると極めて強力な爆薬になるとの理論計算が行われ、電子励起爆薬として研究されている。この理論では圧力だけでは不十分であり、水素を励起状態にして圧力をかければ金属化するとしている。

超伝導の可能性[編集]

金属化そのものが達成されていないためにその真偽は未だ不明であるが、金属化した水素は室温超伝導を達成するのではないかという予想がある。この可能性の傍証として、周期表で水素のすぐ下のリチウムは、30 GPa 以上という超高圧下で超伝導状態となることが示されている。リチウムの超伝導への転移温度は圧力 48 GPa で 20 K 程度であるが、この数字は単体元素のものとしては高い部類に入り、いくつかの例外を除けば一般に軽い元素ほど転移温度は高くなるため、最も軽い元素である水素は、より高い転移温度を持つ可能性が十分ある。

木星深部は非常に高い圧力になっており、液体金属水素が観測された条件と似ている。木星を構成する最も主要な元素の一つである水素は、この状況下では金属化している可能性があり、木星の磁場との関わりも指摘されている。

用途[編集]

代表的な用途としては、次のようなものがあげられる。

水素の2004年度日本国内生産量は 415,223×103m3、工業消費量は 191,907×103m3である[4]

水素吸蔵合金[編集]

水素分子は極めて小さいため、原子あるいは分子の状態で金属格子内にも容易に侵入する。このため、などを水素に長期間触れさせておくと、水素脆化と呼ばれる現象が起こり材料の強度が劣化する。一方、パラジウム白金ニッケル、あるいは水素吸蔵合金と呼ばれるチタンジルコニウムなどの合金類は安定に多量の水素を吸蔵する性質があり、可燃性で扱いにくい水素を保存する方法として期待されている。

水素化合物[編集]

化学式 IUPAC組織名[5] 慣用名
BH3 ボラン (borane) ホウ化水素 (hydrogen boride)
CH4 カルバン (carbane) メタン (methane)
NH3 アザン (azane) アンモニア (ammonia)
H2O オキシダン (oxidane) (water)
HF フッ化水素 (hydrogen fluoride)
AlH3 アラン (alane) 水素化アルミニウム
(Aluminium Hydride)
SiH4 シラン (silane) 水素化ケイ素 (Silicon hydride)
PH3 ホスファン (phosphane) リン化水素 (hydrogen phosphide)
H2S スルファン (sulfane) 硫化水素 (hydrogen sulfide)
HCl 塩化水素 (hydrogen chloride)
GaH3 ガラン (gallane)
GeH4 ゲルマン (germane) 水素化ゲルマニウム
(germanium hydride)
AsH3 アルサン (arsane) アルシン (arsine)
H2Se セラン (selane) セレン化水素 (hydrogen selenide)
HBr 臭化水素 (hydrogen bromide)
SnH4 スタナン (stannane) 水素化スズ (tin hydride)
SbH3 スチバン (stibane) スチビン (stibine)
H2Te テラン (tellane) テルル化水素 (hydrogen telluride)
HI ヨウ化水素 (hydrogen iodide)
PbH4 プルンバン (plumbane) 水素化鉛 (lead hydride)
BiH3 ビスムタン (bismuthane) ビスムチン (bismuthine)

水素は電気陰性度が 2.2 であり、酸化剤としても還元剤としても働く。このため非金属元素とも金属元素とも親和しやすい。例えば、水素と酸素が化合するときには還元剤として働き爆発的な燃焼と共に水 H2O を生じる。ナトリウムと水素との反応では酸化剤として働き、水素化ナトリウムNaHを生じる。

水素化物には、イオン結合型・共有結合型の他に、パラジウム水素化物などの侵入型固溶体(侵入型化合物)と呼ばれる形態がある。イオン結合型の化合物のなかでは水素は H イオンとして存在するが、侵入型固溶体は一種の合金であり、水素原子は金属原子の隙間にはまり込むように存在している。このため、容易かつ可逆的に水素を吸収・放出することが出来、水素吸蔵合金に利用される。なお、高性能な水素吸蔵合金中の水素原子の密度は、液体水素のそれに匹敵する。

一方、より電気陰性度の大きい元素との化合物では水素は H+ イオンとなる。水中で水素イオンを生じる物質が狭義のである。水溶液中では水素イオンは H3O+オキソニウムイオン) として振舞う。

水素はまた、炭素と結合することで、様々な有機化合物を形成する。ほとんど全ての有機化合物は構成原子に水素を含む(下に例を示した)。

おもな元素の水素化物の化学式とIUPAC組織名、および(存在するものは)慣用名を右表に示す。水素化合物及びCategory:水素の化合物 も参照。

水素イオン[編集]

水素のイオンには、陽イオンのヒドロン(hydron; ハイドロン)と、陰イオンのヒドリド(hydride; ハイドライド)とが存在する。1H+プロトンそのものであるが、元素としての水素は同位体混合物なので、水素の陽イオンに対する呼称としてはヒドロンが正確である(すなわちヒドロンは H+, D+ などの総称である)。しかし、化学の領域において単に「プロトン」と呼ぶ際は水素イオンを指し示していると考えて差し支えはない。

ヒドロン・プロトンあるいはヒドロニウムイオン[編集]

H+ であれ D+ であれ、ヒドロンは電子殻を持たないむき出しの原子核である為、化学的にはファンデルワールス半径を持たない正の点電荷の様に振る舞う。それ故通常は単独で存在せず、溶媒など他の分子の電子殻と結合したヒドロニウムイオン (hydronium ion) として存在する。極性溶媒中では、アルコールエーテルなどの酸素原子の電子殻と結合している場合が多いので、ヒドロニウムイオンというべき代わりにオキソニウムイオン (oxonium ion) と呼ばれることも多い。あるいは超強酸など極限状態においては単独で挙動するプロトンも観測されている。

また、アレニウスの定義ではヒドロンはの本体である。酸としてのプロトンの性質は記事 オキソニウムイオン あるいは記事 酸と塩基 に詳しい。

ヒドリド[編集]

アルカリ金属、アルカリ土類金属あるいは13族・14族元素で金属性を示す元素の水素化物が電離する場合は、ヒドリド (hydride, H) としてイオン化する。ヒドリドはK殻が閉殻した電子配置を持つために、一定の大きさを持ったイオンとして振舞う点でヒドロン(プロトン)とは異なる。実際、ヒドリドはフッ素アニオンよりもサイズが大きいように振舞う。

ヒドリドは塩基として作用する場合と還元剤として作用する場合があるが、それは金属と還元をうける化合物との組み合わせにより変化する。

参考文献[編集]

  1. 玉尾皓平、桜井弘、福山秀敏『完全図解周期表―自然界のしくみを理解する第1歩 ニュートンムック―サイエンステキストシリーズ』 ニュートンプレス 2006年12月 ISBN 978-4315517897
  2. Weir, S. T.; Mitchell, A. C.; Nellis, W. J. (1996). "Metallization of Fluid Molecular Hydrogen at 140 GPa (1.4 Mbar)". Phys. Rev. Lett. 76: 1860–1863.
  3. W・J・ネリス 「金属水素を作る」(日経サイエンスのページ)[1]
  4. 日本国 経済産業省・化学工業統計月報
  5. IUPAC Nomenclature of Organic Chemistry /Recommendations 1979 and Recommendations 1993 by ACD Lab. Inc.)

関連項目[編集]

1 元素周期表 18
1 H 2 13 14 15 16 17 He
2 Li Be B C N O F Ne
3 Na Mg 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Al Si P S Cl Ar
4 K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
5 Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
6 Cs Ba * Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At Rn
7 Fr Ra ** Rf Db Sg Bh Hs Mt Ds Rg ...
* La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb Lu
** Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No Lr