著作権法

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著作権法(ちょさくけんほう、昭和45年法5月6日律第48号)は、知的財産権の一つである著作権の範囲と内容について定める日本法律である。

概要[編集]

著作権法は、著作物の創作者である著作者著作権(著作財産権)や著作者人格権という権利を付与することにより、その利益を保護している。同時に、著作物に密接に関与している実演家レコード製作者放送事業者及び有線放送事業者に対して著作隣接権を付与し、これらの者の利権も保護している。同法に定められる内容は、総則(1条~9条の2)、著作者の権利(10条~78条の2)、出版権(79条~88条)、著作隣接権(89条~104条)、私的録音録画補償金(104条の2~104条の10)、紛争処理(105条~111条)、権利侵害(112条~118条)、罰則(119条~124条)に分類される。

沿革[編集]

旧著作権法制定前[編集]

日本で最初に著作権の保護が規定されたのは、1869年出版条例である。出版条例では、出版者に対して図書の「専売ノ利」を与えていたが、その内容はむしろ出版の取締りに重点が置かれていた。1887年、出版条例から版権の保護に関する規定が独立し、版権条例が制定された。版権条例は版権を著作者に認め、登録を要件としてその保護を規定していた。同時に、脚本楽譜条例(明治20年勅令第78号)及び写真版権条例(明治20年勅令第79号)も制定され、図書以外の著作物に対する著作者の権利が保護されるようになった。1893年、版権条例が改正され、版権法(明治26年法律第16号)が制定された。

旧著作権法の成立と改正[編集]

1899年文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)加盟にあわせ、水野錬太郎が起草した著作権法(明治32年3月4日法律第39号)が制定され、版権法、脚本楽譜条例及び写真版権条例は廃止された。これは現在では一般に「旧著作権法」と呼ばれる。起草者の水野錬太郎は著書「著作権法要義」で旧著作権法の逐条解説を行った。

現行の著作権法は、1970年に旧著作権法を全部改正して制定された。

著作物と著作者[編集]

著作物[編集]

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」のことを指す。著作者の内心に留まっている思想・感情そのものは著作物ではなく、著作物になるためには、それが表現されなければならない。一方で、表現された物であっても、それが思想・感情を表現したものでなければ著作物ではない。

「創作的」とは、著作者の個性が表れていればよく、必ずしも芸術性は必要でない。例えば、幼稚園児が描いた絵であっても、そこに個性が表れていれば著作物となる。

詳細は 著作物 を参照

著作者[編集]

著作者とは、「著作物を創作する者」を指す[1]。企画発案者や資金提供者は著作者とはならない。著作物を創作するのは自然人であるため、原則として著作者は自然人であるが、一定の要件を満たせば法人が著作者となることもある[2]映画の著作物の著作者については、特に「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とする規定がある[3]

なお、著作物の原作品に直接に氏名または周知の変名が著作者名として表示された者、又は、著作物の公衆への提供・提示の際に氏名または周知の変名が著作者名として表示された者は、その著作物の著作者と推定される[4]。例としては、絵画のサイン・書画の落款・テレビ番組のテロップ等である。反証がない限り、「著作者名として氏名等が表示された者」が著作者として取り扱われることになる(挙証責任の転換)。

日本の著作権法では、無方式主義が採用されているため、著作者は著作物を創作した時点で自動的に著作権者となる(著作権取得のための手続は必要とされない)。ただし、著作権(著作財産権)は譲渡可能であるため、著作者と著作権者が異なることはある著作者 も参照

著作権の内容[編集]

著作権は、個々の支分権の総体であり、一個の「著作権」という権利があるわけではない。著作権者は、自己が著作権を有する著作物を自分で利用するだけでなく、他人に対し、その利用を許諾することができる[5]。なお、著作権法には「使用権」というものは規定されておらず、「使用権」を他者に「許諾」するということも法律的には意味がない[6]。著作権法には、以下のような支分権が規定されている。

複製権[編集]

複製権とは、著作権制度において全ての著作物を対象とする最も基本的な権利で、著作物を複製する権利である[7]。著作権法において複製とは、手書き、複写、写真撮影、印刷、録音、録画、パソコンのハードディスクやサーバーへの蓄積その他、どのような方法であれ著作物を形のある物に再製すること(有形的再製)を指す[8]。したがって、複製の結果出来上がった複製物は物に固定されている必要があるが、複製の対象となる著作物の方は必ずしも物に固定されている必要はない。例えば、演劇用の脚本の複製といった場合、脚本を直接コピー機を使って複写した場合だけでなく、その脚本に基づいて上演されたり、放送された演劇(無形的再製)をCDやDVDに録音、録画する行為も脚本の複写にあたり、複製権が及ぶことになる[9]。また、建築の著作物については、その設計図に従って同じ建築物を建てれば、建築の著作物の複製となる[10]。なお、その設計図をコピー機を使って複写した場合は、建築の著作物の複製になるのではなく、図形の著作物の複製となる。

著作物を完全にそっくりそのまま有形的に再製する場合だけでなく、多少の修正増減を施しても複製となるし、一部分だけの再製であっても当該部分が著作物性を有する部分であれば複製となる。したがって、たとえ音楽の1小節、小説の1ページであっても、複製すれば複製権侵害となりうる。

さらに、映画(映像)の作品の中で音楽や美術作品が使われている場合、その映画の著作権とは別に音楽や美術作品の著作権が独立して成立しているので、その映画を複製しようとする場合には、映画の著作権者だけでなく、その映画の中で使用されている音楽や美術作品の著作権者(複製権者)の許諾も必要となる(同じことは、二次的著作物や、著作物性を有する素材からなる編集著作物やデータベースについてもいえる)。

複製権侵害の要件としては、判例は原著作物と複製物との同一性の他に原著作物に「依拠したこと」も求めている。従って、原著作物の存在を知らずに創作し、結果的にたまたま同一の著作物が出来上がったにすぎない場合は、そもそもアクセスしていないため、複製に該当せず、複製権侵害にもならない。

また、著作権法30条から47条の9に規定されている著作権の制限規定に該当する場合、基本的には複製権者に無断で複製しても例外的に複製権の侵害とはならないが、法が許容する目的以外にその複製物を使用すると、その行為は複製とみなされる[11]

なお複製権者は、その複製権の目的たる著作物について出版権を設定することができるが、その複製権を目的とする質権が設定されているときには、当該質権者の承諾を得なければならない[12]

上演権・演奏権・上映権・口述権[編集]

  • 上演権 - 著作物を公に上演(演奏以外の方法で演じること)する権利
  • 演奏権 - 著作物を公に演奏(歌唱を含む)する権利
  • 上映権 - 著作物を公に上映(著作物を映写幕その他の物に映写すること。映画の著作物に固定されている音楽を再生することも含む)する権利
  • 口述権 - 言語の著作物を公に口述する権利

演劇や落語、講談、漫才の著作物等は上演権の対象となるが、詩や小説の朗読は口述権の対象とされ、上演権の対象に含まれない。

「公に」とは、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」いることを指し、「公衆」とは著作権法上は不特定多数だけでなく、特定多数を含む[13]。したがって、特定少数に対して上演することは上演権の行使にはあたらない。また、劇団員が公演前に特定多数の関係者の見ている前で練習しても、あくまで練習であって「直接見せ又は聞かせることを目的として」いないので、上演権の行使にはならない。しかし、公演本番で幕が開いた状態で演じた場合は、誰も観客が来ていなかったとしても、「公衆に直接見せ又は聞かせること目的として」上演している以上、上演権の行使となる。

ただし、既に公表された著作物を非営利・無料・無報酬で上演した場合は、たとえそれが公に行うものであっても、権利の範囲外である[14]。学校の文化祭等での劇の上演はこれにあたる。一方で、チャリティーショー等でその収益をすべて慈善団体などに寄付する場合は非営利・無報酬であるが、観客から料金を徴収している場合は無料の要件を充たさず、無許諾で上演すれば上演権の侵害となる。

公衆送信権等[編集]

著作物を公衆送信や送信可能化する権利である。

詳細は 公衆送信権 を参照

翻訳権、翻案権等[編集]

著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利である。

詳細は 翻案権 を参照

その他の支分権[編集]

  • 展示権 - 美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物を、原作品により公に展示する権利。
  • 頒布権 - 映画の著作物をその複製物により頒布する権利。
  • 譲渡権 - 映画の著作物以外の著作物を、その原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利。
  • 貸与権 - 映画の著作物以外の著作物を、複製物の貸与により公衆に提供する権利。

著作権の制限[編集]

著作権の行使は、著作権者の利益を侵害しない範囲で制限されることがある。例としては、私的利用における制限等が挙げられる。

詳細は 著作権#著作権の制限 を参照

著作者人格権[編集]

著作者人格権とは、著作物を創作した著作者に認められる人格的利益を保護するための権利である。著作権(著作財産権)とは異なり、一身専属的な権利であるため、他者に譲渡することはできない。公表権氏名表示権同一性保持権の3種の権利が存在する。

詳細は 著作者人格権 を参照

著作隣接権[編集]

著作隣接権とは、「著作物を公衆に伝達する役割を果たす行為に対して与えられる独占的な財産権」のことを指す[15]。具体的には、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者に認められる権利のことを指す[16]
なお、著作隣接権は、著作者の権利に影響を及ぼす物として解釈してはならない。

権利侵害[編集]

著作権が侵害された場合の救済手段として差止請求権が認められている。損害賠償請求は一般法である民法の規定によるが、損害額の算定に関して特別の規定が設けられている。さらに権利侵害に対しては刑事罰も規定されているが、これらは親告罪とされている。ただし、コピーを防ぐためのプログラムを解除する装置ソフトを販売したり、著作者名を偽って販売を行ったりした場合には、権利者の告訴は必要ない(非親告罪)。

詳細は 著作権侵害 を参照

非親告罪化[編集]

海賊版対策の観点から、2006年(平成18年)より内閣府で行われた「知的創造サイクル専門調査会」の報告書(2007年2月26日)に、親告罪の一部非親告罪化、海賊版の広告への規制が盛り込まれた。報告書は、親告罪の状態では海賊版を取り締まる際に以下のリスクがあると述べる。

  1. 権利者が複数いた場合調整が困難である。
  2. 告訴権を持つ者が中小企業等の場合、金や人の負担を恐れて告訴をためらう。
  3. 親告罪は犯人を知ってから6か月を過ぎると告訴が不可能になるため[17]、著作権侵害の事実確認などに手間取ると告訴が不可能となる。

これを解消するため、一定の場合(営利目的の海賊版の販売など)においては非親告罪の適用範囲拡大の見直しが提言された。また、海賊版の広告についても、権利侵害として法律の整備を提言している。

非親告罪の拡大部分については、日弁連が「著作権保護による利益は対象の権利者のみのものであり、また侵害かどうかを判断できるのは被害の当事者(対象の権利者)である。加えて、平成12年国会答弁において文化庁は「非親告罪とすることは見送り、状況等を見ながら検討していきたい」と述べているが、現在(意見書提出は2007年2月9日)は当時と比べて状況は変化していない。よって非親告罪化をする理由はない」と、反対意見を出している。

日本の著作権法における非親告罪化も参照のこと

脚注[編集]

  1. 著作権法2条1項2号
  2. 著作権法15条1項
  3. 著作権法16条
  4. 著作権法14条
  5. 著作権法63条1項
  6. 北川善太郎京都大学法学部教授『ソフトウェアの使用と契約-開封契約批判』NBL435号11~12頁
  7. 著作権法21条
  8. 著作権法2条1項15号
  9. 著作権法2条1項15号イ
  10. 著作権法2条1項15号ロ
  11. 著作権法49条
  12. 著作権法79条
  13. 著作権法2条5項
  14. 著作権法38条1項
  15. 高林龍 『標準 著作権法』(有斐閣、2010年)230頁
  16. 高林龍 『標準 著作権法』(有斐閣、2010年)230頁
  17. 刑事訴訟法第235条1項本文

関連項目[編集]

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外部リンク[編集]

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