振り込め詐欺

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振り込め詐欺(ふりこめさぎ)は、電話はがきなどの文書などで相手をだまし、金銭の振り込みを要求する犯罪行為。詐欺事件の総称として2004年に警察庁が命名した。

2004年11月までは、“オレオレ詐欺”と呼ばれていたが、手口の多様化で名称と実態が合わなくなったため、架空請求詐欺融資保証金詐欺などと合わせる形で、2004年12月9日に、警察庁によって統一名称として「振り込め詐欺」と呼ぶことが決定された。2013年5月12日に、再び現状に合わなくなったことより「母さん助けて詐欺」など3名称と併用することが決まった。

概要[編集]

当初から長年、“振り込み詐欺”と言われたが、「振り込み」では納得して自ら振り込みをする意味合いとなるため、あくまで「振り込め」と人から言われている、騙されていないかとなど、どの時点でも注意や再考を喚起するようにと「振り込め詐欺」へと統一を図った経緯がある。

また全国的な改称に先がけて2004年9月、“なりすまし詐欺”に広島県警で独自に改称。振り込め詐欺に改称後も併用している。

2009年時点では金銭授受の方法が振込だけではなく、指定場所へ持参させる・宅配便や郵便で送付させる・バイク便業者や代理人が被害者の自宅近くに受け取りに現れるなど多様化しているが、こうした詐欺行為も「振り込め詐欺」と同種のものとして注意が喚起されている。

2013年3月21日、振り込ませるケースが減少し再び実態に合わなくなったことで、警視庁は同年4月10日までの予定で新たな名称案を募集。4月9日時点で1万件以上の案が寄せられ、期間内に約14000件寄せられた。応募案で最多だったのは「なりすまし詐欺」だった。

5月12日に新名称が発表され、「母さん助けて詐欺」が最優秀、「ニセ電話詐欺」・「親心利用詐欺」が優秀作品として選出され、この3作品は主に広報において振り込め詐欺と併用される。静岡県などでは、実態とそぐわないなどの理由から、新名称「母さん助けて詐欺」を使用しない県警もある。

発祥[編集]

1915年島田三郎に対する電報によって為替送金を指示する詐欺未遂事件や1986年の「高校生の孫」と「孫の担任」を騙る42歳の男が「もしもし僕だよ」と電話を架けて電話相手に直接会って現金を受け取る詐欺事件など、この種の詐欺事件自体は過去にも存在した。

ただし、電話を架けて金融機関の口座に振り込ませるという振り込め詐欺が注目されたのは21世紀に入ってからである。1999年8月頃から2002年12月頃までの間に電話で「オレオレ」と身内を装って11人に銀行口座に振り込ませた事件があり、2003年2月に犯人を検挙した鳥取県警米子署はこの手口を「オレオレ詐欺」としたのが、「オレオレ詐欺」という言葉が初めて誕生したとされている。また、「オレオレ詐欺」で架空口座を用いる手の込んだ手口は2003年2月中旬に東京都杉並区で誕生したのが最初とされている(この詐欺グループは2004年1~3月に検挙された)。

この種の詐欺が広く知られる様になったのは、「若い人の声で高齢者に電話をかけ、子や孫を装ったうえで困窮した状況を訴え、金が必要としてだまし取る」という「オレオレ詐欺」の犯罪を紹介して注意を喚起する報道がなされた事からである。当初の手口は、手当たり次第に電話をかけたり、電話帳に掲載されている氏名から一人暮らしの高齢者と推定される人を選んで電話をかけ、電話口に出たのが高齢者と見るや単に「オレオレ」と「名乗り」遠隔地に住む子や孫であると錯覚させ、そのうえで悲哀に満ちた声や緊迫に満ちた声で困窮に陥って居る事、例えば、悪徳金融業者から大金を借り直ぐに返さないと酷い目に遭わされる、交通事故や医療事故を起こして直ぐに示談金や慰謝料を払わないと収監される、などの状況を装い、所定の口座へ大金を振り込む様に仕向けるというものである。新聞やテレビなどの報道機関が手口を詳細に報道したため、逮捕された犯人が「新聞を読んで、これなら自分もできると思った」と自供するなど、報道がかえって模倣犯を激増させた。

展開[編集]

当初は詐欺を行う犯人が専ら1人で子や孫を演じていたが、「債務者」であると装って困窮を訴えるのに加えて「債権者」役の人も電話口に出て「至急返済がなされなければ酷い目に遭わせる」と脅迫する手口も使われる。一方で、演じる対象を通勤に出た夫をはじめとする家族や親類に拡げて「交通事故」「痴漢」「横領」「傷害事件」「暴行事件」「借金返済」などの加害者や債務者に仕立てる手口も使われる。危害を受けた被害者やその関係者、駅員、警察官、弁護士等の役割分担を行って多人数で演技を行い、更には背景にサイレン等の効果音を流すなどの演出も行われた(劇団型犯罪)。プリペイド式携帯電話を駆使して、異なる人物が異なる電話からかけてきたり、被害者を装う人間に電話をかけさせるなどして全体として困窮に陥ったシチュエーションを演出する手法もとられた。その一方で、本物の親類へ確認をとる連絡を妨害するために、詐欺をしかける相手の家族の電話番号まで調べ上げて、予めその親類へ電話して話を長引かせて「話し中」としたり、いたずら電話を何回もかけて携帯電話の電源を切らせるなどの手法もとられた。「オレオレ」ではなく、個人名を名乗るケースも増えた。また、個人情報を入手して、相手の職業等に応じたシチュエーションを演出する事も行われる様になった。例えば、教員が教え子に淫らな行為や暴力行為をはたらいて示談金や治療費が必要として家族に振り込ませる、医師が医療ミスを起こして示談金や慰謝料が必要として家族に振り込ませる、等。

初期には単独犯や数人での犯行であったものが、徐々に大規模な組織を構成するようになり、対象者の名簿(カモリスト)が存在する事例や組織内でマニュアルを作成したり訓練を行っているとの事例も伝えられる。また、暴力団との繋がりを指摘したり、詐取した金が暴力団の資金源になっている、とする報道もある。

単に「オレオレ」と名乗って詐取する手法から派生して千差万別の手口が用いられる様になったことから、2004年12月9日に、警察庁によって統一名称として「振り込め詐欺」と呼ぶことが決定された。

手口[編集]

成りすまし詐欺
「俺だよ、オレオレ」「わたし、わたし」「お母さん……」「久しぶりだけど、覚えてるかな?」などとを装った電話をかけ、「交通事故医療事故を起こして示談金が要る」、「タクシーやバスに会社の小切手や預金通帳の入ったカバンを置き忘れてしまった。お金を貸して欲しい」などの虚偽の急用を訴えて現金を預金口座等に振り込ませるなどの方法によりだまし取る手口。
縁者を装うだけでなく、警察官、弁護士、交通事故被害者、性犯罪被害者を装う手口もある。
架空請求詐欺
有料サイトの利用料金などの架空の事実を口実とした料金を請求する文書等を送付するなどして、現金を預金口座等に振り込ませるなどの方法によりだまし取る手口。
融資保証金詐欺
実際には融資しないにも関わらず、融資する旨の文書等を送付するなどして、融資を申し込んできた者に対し、保証金等を名目に現金を預金口座等に振り込ませるなどの方法によりだまし取る手口。
還付金等詐欺
税務署や区役所等を名乗り「税金や医療費等を返還します」「今日が手続きの締め切りです」「ATMで手続きができます」等とATMに行かせ、携帯電話で還付手続きを指示するふりをし、実は犯人の口座にお金振り込む手続きをさせるなどの方法によりだまし取る手口。

電話でかける詐欺の場合は、時間帯は平日の午前10時頃又は午後2時頃が多い。これは電話に出る人間が一人である場合が多い時間帯であることと、金融機関で振込み可能な時間に合わせている。かつては金融機関で振込みを締め切る時間である午後3時の少し前に不安を煽りたてて早く振込みをさせるために平日の午後2時半頃が特に多かった。

「振り込め詐欺」という言葉が定着するにつれて、振込み型の詐欺は減少したものの、指定場所へ送付させる・宅配便や郵便で送付させる・バイク便業者や代理人が被害者の自宅近くに受け取りに現れて手渡しをさせるなど多様化している。また、だまし取る対象も現金に限定されず、カード(キャッシュカードやクレジットカード)を送付させたり手渡しをさせるなどし、巧みな話術や手法でカードの暗証番号を聞き出した上でカードを現金に換える手法も登場している。

詐欺グループ内ではそれぞれ役割分担について、金を要求する電話を掛けて騙す役の人間を「掛け子(架け子)」、振り込ませた金融口座から引き出す役の人間を「出し子」、金融口座を使わずに直接接触して現金を受け取る役の人間を「受け子」などの俗称で呼ばれている。「架け子」がきちんと電話をしているかを管理する「番頭」、「受け子」には金銭を持って逃亡するのを防止するための「見張り役」がいることがある。また、現金受け取り現場を担う「出し子」や「受け子」の「リクルーター」がいることがある。犯行を手助けするレンタル携帯電話や金融機関の架空口座などを提供する業者は「道具屋」と呼ばれる。これらのように役割が細分化されている一方で、厳しいノルマやペナルティによってシステム化されているため、振り込め詐欺グループは会社組織のようだと形容されることもある。このような細分化により末端の「出し子」や「受け子」を逮捕しても、「本丸」の摘発をしにくいという性格を持ってくる。

アルバイト感覚で「出し子」や「受け子」犯行に加担する者もおり、「出し子」や「受け子」の低年齢化が指摘されており、中学3年女子が「受け子」として逮捕された事例もある。

被害者[編集]

  • 被害者(連絡を受け、直接入金手続きを行った者)は2003年女性が約7割、60歳以上が全体の約8割。被害世帯の半数以上は、家族構成が65歳以上だけの『高齢者世帯』。
  • 2004年以降は、主婦の被害が急激に増えている。
    共通する特徴として、あまり働いておらず自分自身で生活を支えるほどの賃金を得ていない者が大多数を占めていることが挙げられる。
  • 被害が多い地域では加害者、被害者、被害金額とも関東(最も多いのが東京都)であり、東京、千葉神奈川埼玉の1都3県で半数超、被害額の8割が首都圏で引き出されている。
  • 逆に被害が少ない地域は大阪府である。理由として、世話好きな性格から困窮を装う電話にはことさら詳細な説明を求めようとする大阪人が多く、振り込め詐欺グループにとっては長電話になるうちに話の辻褄が合わなくなることを避けようとするためとされる。
  • 検挙率は極めて低く、2004年度の検挙率はわずか5.2%にとどまっている。その後、対策本部の設置などにより幾分検挙率は上がったが、それでも2006年度の検挙率は16.0%にとどまっている。

対策[編集]

振り込め詐欺の容疑者相手に対し販売目的で作った他人名義の口座(架空口座)の作成や取引を禁じる本人確認法犯罪収益移転防止法やプリペイド式携帯電話販売時の身元確認を厳しくしたり譲渡を禁ずる携帯電話不正利用防止法が制定された。

その他に、振り込んでから詐欺と気付いて口座の利用停止を求めた場合、従来は口座名義人に不便を強いる訳には行かないとして金融機関が口座利用停止処置を拒み、振り込んだお金が下ろされていくのを指をくわえて見守るしかなかったが、次第に口座利用停止や強制解約の要請に応じるようになり、残った預金から返還を受けられる例も増えている。

警視庁としては2004年度、全国に先駆けて副総監を本部長とする対策本部を設置。その後、道府県警本部もこれに倣い対策本部を設置し専門の捜査班、技術班を編成し公式ウェブサイト上でも広く市民へ対策を呼びかけている。

2007年12月14日に振り込め詐欺等の犯人の口座を凍結して、被害金を被害者に返還する法律として、振り込め詐欺救済法が成立。同月21日に公布2008年6月21日施行された。

もっぱら振り込まないようにしようと警告することが多いが、”振り込まれた側”については対策がほとんどできていない現状があった。後で振り込め詐欺であったことに気づいても、口座から返金を求めることがほぼ不可能であり、名義人の個人情報の開示、および口座の停止または強制的な解約ができない問題があった。

”振り込まれた側”に関する情報をほとんど引き出せない問題を防ぐため、預金保険機構のウェブサイト内にある「振り込め詐欺救済法に基づく公告」にて、振り込め詐欺で利用された(または可能性のある)口座の一覧が公開され、振り込み前に口座を確認できるようになった。

2013年3月に東京都では電話会話自動的録音器を、被害に遭いやすい高齢者を中心に1人5千世帯に無料で貸し出す取り組みが行われている。

防犯[編集]

警察では、以下のことを対策として挙げている。

  • 家族と会って話し合って、前もって「電話での呼び掛け方」や「合言葉」を決めておき、「電話で『お金を貸して』などと頼んだりしない」ことを話しておく。合言葉は警察では「家族や身近な親戚しか知らない事実」「慌てていても簡単に思い出せること」「絶対に忘れない言葉」「学校名簿、会員名簿等に公開していない事実」が望ましいとしている。例として「旅行の思い出」「好物、嫌いな食べ物」などをあげている。
  • 離れて暮らしている家族と普段から連絡頻度、共有する情報、信頼関係を高めておく。
  • 本人の携帯電話番号や勤務先の電話番号、友人の連絡先などを把握しておき、いつでも確実に連絡が取れるようにしておく。
  • (特に高齢者は)常に留守番電話にセットし、電話がかかってきても電話に出ずに留守番電話で受け、相手に録音されている留守番電話で話をさせ、合言葉で確認できたら電話を取る。
  • 「携帯電話の番号が変わった」「携帯電話を無くした」「(友達、上司、知り合いの携帯電話、会社の固定電話)別の電話を使っている」という電話には一度切って、元の電話番号にかけ直す。
  • ナンバーディスプレイ機能を活用する。
  • ATM利用限度額を引き下げる。
  • 銀行、クレジットカード会社、警察を名乗って暗証番号やインターネットバンキングの契約番号やパスワードを聞き出そうとすることに警戒する。

実例[編集]

日本[編集]

  • 1人の人間が被った振り込め詐欺被害の過去最高総額は、2011年に6月から12月まで岩手県の70代の男性が金融商品の購入立替を名目に、10数回にわたって指定された金融機関の口座に振り込み続けた事件で被害総額は4億数千万円である。
  • 警察が振り込め詐欺グループの人間を一斉逮捕した際に最も人数が多かった例として、2013年7月10日に34人を一斉に逮捕した例がある。
  • 警察が振り込め詐欺グループの最高額は口座には約370人から30億円以上の入金があった例があり、30億円以上の被害となると一詐欺グループが犯した被害金額としては過去最高総額と見られている。この詐欺グループは警察の捜査で2012年5月24日に28人を一斉に逮捕され、逃亡した詐欺グループの首謀者も2012年11月19日に逮捕された。

日本国外[編集]

  • 中国では2008年の2ヶ月間の間に2億8千万円もの被害が出たと報告された。2009年6月には中国公安省が、1年間のあいだに電話やメールを使った振り込め詐欺2万8,000件を摘発、容疑者7,000人の拘束を明らかにした。
  • 韓国では「電話詐欺」もしくは「ボイスフィッシング(voice phishing)」と呼ばれている。近年その手口が巧妙化しており、新型インフルエンザを装う振り込め詐欺が発生したとして韓国政府が国民に向け注意を促した。
  • 2009年5月には、ブルネイ国王ハサナル・ボルキアインドネシアの選挙に絡んだ振り込め詐欺に遭い、200億ルピア(約2億円)をだまし取られた。
  • アメリカ合衆国では、高齢者を狙うケースだけでなく、偽の慈善団体をかたって振込みを要求する詐欺や、嘘の賞金当せんを知らせて手数料を振り込ませる詐欺なども発生している。

関連書籍[編集]

  • NHKスペシャル職業詐欺取材班「職業振り込め詐欺」(ディスカヴァー携書)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

警視庁ホームページ内、2006年夏迄の被害状況や具体的手口について、犯罪者の証言も交えて紹介。
警視庁のホームページ内、実際にかかってきた振り込め詐欺の録音がある。
振り込め詐欺に指定されている口座の一覧
架空請求などで振込先に指定している口座の一覧が公開されている。
預金保険機構ホームページ内、振り込め詐欺に指定されている口座の一覧が公開されている。