教育
教育(きょういく、英 education、仏 éducation、独 BildungまたはErziehung)とは、人がよりよく生き、またそれによって社会が維持・発展するように、人の持つ能力を引き出したり、新たに身につけさせたりする活動。
目次
概要
- 教育の定義
- 教育とは、人間が潜在的に持つ様々な能力を引き出したり、人がそのままでは持たない知識・技能・態度などを身につけさせたりという手段によって、個人がより良い方向へ発達し、またそれによって社会が維持・発展することを目指した活動である。端的に、学び・学習の指導・援助とも表現される。狭義では、知識の伸張(知育)、道徳の伸張(徳育)、身体の伸長(体育)の3つを中核として捉え、洗脳・訓練・条件づけなどとは異った、自発的で、個人がよりよく生きること全体に関わるものとされる。一方、広義では、キャリア・職業のための教育や社員教育、各種資格や試験のための教育など、特定の目的のために技術的な事項を教え伝達する活動も含む。詳しくは、下記の教育の定義を参照。
- 教育の主体と客体
- 教育を行う者のことを教育者(英 educator)・教師(英 teacher)という。通俗的には(狭義の)先生と呼ぶことが多く、これは教育を行う者に対する呼び掛けに広く使われている。教育を行う者が組織に属する場合には教員とも呼ばれ、法律上では教諭・教授等の呼称が用いられている。そのうち、特に国立・公立の機関で教育を行う者は教官とも呼ばれ、私立であっても大学・短大の教員にはこの用語が便宜的に用いられることがある。また、生業として教育を行うこと又はその者を教育職とも称する。詳しくは、教育関係者に対する呼称を参照。
- 一方、教育の受け手は、児童・生徒(英 pupil)または学生(英 student)、あるいは学習者・学び手(英 learner)、より堅い言葉では被教育者(英 educatee)とも呼ばれる(詳しくは在学生を参照)。教育の対象として、通俗的・日常的にはこどもや未成年という狭い範囲のみが念頭に置かれることも少なくないが、より広く成人も含むとする見解が現在では一般的となっている。教育の対象に応じて、乳児の場合には乳児教育(保育)、幼児の場合は幼児教育、児童の場合には児童教育、成人である場合は成人教育と呼ばれる。また、教育の対象が、障害者など学習や生活の上で特別な支援を必要とする者である場合は、特別支援教育という。教育の対象は他者であるとは限らず、自分自身であることもあり、その場合には自己教育(英 self-educationまたはautodidacticism)と言うことがある。
- 教育の行われる場
- 教育は、行われる場に応じて学校教育・社会教育・家庭教育の3つに大きく区分することが多い。「学校教育」とは、学校において行われる教育のことであり、特にこどもに対して、定められた学校で所定の年限の間、心身の発達に応じて行われる活動を指すことが多い。「家庭教育」とは、家庭において行われる教育のことであり、家庭教育のうち人間社会において基礎的な価値観・態度・徳をこどもに示すことは特にしつけと呼ばれる。「社会教育」とは、社会において行われる教育のことであり、学校や家庭以外の社会のさまざまな場において行われている多様な教育活動が該当する。なお、教育は必ずしも同じ場所に居合わせた者同士で行われる必要はなく、離れた場所に居る者に対して行われることもある。そのような教育は、遠隔教育(遠隔地教育)・通信教育と呼ばれる。
- 義務教育・公教育
- 国民に基礎的な教育を保証するために、日本を含む多くの国家が、公教育として数年にわたる義務教育を制度化している。これは一般的に、初等教育と中等教育の一部とが、児童・生徒の権利であるとともに、何者かの義務としても理解されていることを意味している。この義務としての教育を義務教育と呼び、それが誰の義務であるかは国によって、児童・生徒自身であったり、その国家・保護者・国民などであったりと異なっている。これらの点について詳しくは、下記の教育制度を参照。
人間以外の場合
高等動物では、教育に近い行動が見られる例がある。猫などの肉食獣では子供に狩りの練習をさせるために弱らせた獲物をあてがうなどはその代表的なものである。詳細は教育 (動物)を参照。
教育の理念
教育の定義
教育は様々に定義されてきたが、その定義の仕方は大きく次の4種類に分けることができる。
- 語源・語義からの定義 (例 「教育とは、能力を引き出すことを意味する」)
- 目標・目的からの定義 (例 「教育とは、よりよく生きるためのものである」)
- 方法・手段からの定義 (例 「教育とは、強制の一種である」)
- 機能・効果からの定義 (例 「教育とは、社会の再生産である」)
例えば、英語のeducationやフランス語のéducationは、ラテン語のducere(導く)に由来することから、教育とは人の持つ諸能力が引き出されるよう導くことであるとする定義がある。これは、語源・語義に基づいて、方法・手段の観点から定義した例である。
また、分析哲学の影響を受けたリチャード・ピーターズは、「教育を受けた者」という概念の内在的な意味を探求し、自由教育(教養教育)の立場から「教育」を次の3つの基準を満たす活動として定義した[1]。
- 教育内容 - 価値あるものの伝達
- 教育効果 - ものの見方が広がる
- 教育方法 - 学習者の理解を伴う
教育の目的
教育によって何を目指すかを教育目的(又は教育目標)と呼ぶ。教育目的の定め方には、2つの立場が存在してきた。
- 道徳主義 - 政治や社会、道徳や倫理と言った教育の外にあるものから教育目的を定めるもの(例 アリストテレスの徳[2])
- 機能主義 - 教育それ自体が上手くいくように教育目的を定めるもの(例 ジョン・デューイのプラグマティズム[3])
道徳主義の教育目的では、伝統的に、個人の発達・幸福のためとするか、社会の維持・発展のためとするかで論争がある。前者は教養教育・自由教育の立場で、人が一人の人間として豊かで幅広い教養を身につけることで、人が人間らしく生きることができるという考えである。こうした考え方は、一部の中等教育・高等教育でリベラルアート教育として実現している。他方、教育の目的を社会的な必要という観点から捉え、実学を重視する立場もある。専門学校・職業訓練校・専門職大学院などはこの現れである。
教育の正当性
なぜ人に教育を行うべきなのかという根拠のことを、教育の正当性と呼ぶことがある。これには、教育の必要性と教育の可能性の二面から論じられることが多い。教育が当たり前の活動となっている現在においては、どちらも暗黙のうちに当然視されることが多い。
教育の必要性
教育の必要性とは、なぜ人に教育が欠けてはならないのかである。いわば教育の必要条件にあたる。もし教育を受けなくともよいということになれば、教育は必ずしも必要でなくなる。この点について、例えばイマヌエル・カントは「人は教育によって人間になる」と述べ、人間らしく生きるために教育が必要であると論じた[4]。学びの意欲を喪失した若者が多いといわれる現代において、なぜ教育が必要かが改めて問われる状況にある。
教育の可能性
なぜ人を教育することができるのかを教育可能性と呼ぶ。これはいわば教育の十分条件にあたる。教育が必要であるとしても、それが人間にとって可能なものでなければ、教育はやはり正当性を失うことになる。例えば、プラトンは「徳は教えうるか?」と問い、哲人統治者としての自然的素養を重視した[5]。現在において教育可能性が問題となるのは、「教育がいかに可能か」という教育方法の問題や、「教育がどこまで可能か」という教育の限界の問題としてである場合が多い。
教育の歴史
教育に関する歴史を教育史と呼ぶ。家庭教育や社会教育も念頭に置けば、教育は人類の有史以来存在してきたものと考えることができる。
西洋における教育の歴史
制度化された教育について、西洋では古代ギリシアまで遡ることが一般的である。近代国家による教育が普及したのは、産業革命以降の労働者の必要性からであり、多くの国で国民に対する一般教育が公教育として施行されるようになったのは、20世紀に入ってからである。
日本における教育の歴史
日本で初めて教育制度が作られたのは、701年の大宝律令とされる。その後も貴族や武士を教育する場が存在し、江戸時代に入ると一般庶民の学ぶ寺小屋が設けられるようになった。初等教育から高等教育までの近代的な学校制度が確立するのは明治時代である。第二次世界大戦後の教育は、日本国憲法と教育基本法に基づいている。
教育の効果と機能
教育を行った結果としてどのようなことが起こるかについては、目的に対応して個人に与える影響と社会に与える影響の両面がある。この点に関連して、エミール・デュルケームは、近代における教育の機能を「方法的社会化」であると捉え、政治社会と個々人の双方が必要とする能力・態度の形成であるとした[6]。なお、教育が適切な効果・機能を果していない場合には、「教育の機能不全」、教育がむしろ否定的な効果・機能を果している場合には「教育の逆機能」と呼ばれることがある。
教育の効果
教育の効果、すなわち教育を行った結果として教育を受けた個人に起こる変化を教育効果と呼ぶ。教育の及ぼす効果には様々なものがあるが、一般的には、特に学校教育を念頭に置いて、狭い意味での学力の向上が真っ先に思い浮かべられることがある。現在の日本では、学校教育に関わる学力を紙面の試験で測定できるもの、とりわけ偏差値で計る傾向が強く、このことに対して強い批判が長年存在しつつも、受験現場では不可欠とされている実態がある。
学力以外でも経済面での効果が、比較的多くの人々の関心を集めている。例えば、学歴が上がるほど生涯賃金も上がることはよく知られているが、教育を投資と考える傾向の低い日本において、学歴による生涯賃金の差は比較的小さい[7]。その一方で、現在の日本社会では、「勉強して良い大学に入れば、良い企業に入れる」という仕組みが崩れてきたことが幾人かの論者によって指摘されるている[8]。
そのほか、政治面では、各国において教育年数が長いほどおおむね個人主義的・革新的価値観を持つ者が増えることが明らかになっている[9]。この傾向は日本においても基本的に同様で、学歴が高いほど投票率が高まる半面、政治への満足度は逆に下がり、また、学歴が高まるほど自民党支持が減って、民主党支持や支持政党無しの者が増えることが知られている[10]。
教育効果に関する議論は、教育内容や教育方法などを改善する上で欠かせない一方、教育目的を測定可能なもののみに置き換えがちな点には注意が必要である。
教育の社会的機能
教育が社会に対してどのような影響を与えるか、いかなる役割を果たしているかという教育の社会的機能に関しては、肯定面・否定面双方から議論がある。
- 教育の肯定的な機能
- 教育が社会に及ぼす効果として、経済・政治・社会などに与えるものが議論されている。経済面においては、進学率の上昇による労働者の質的向上が経済成長を押し上げる効果があることが指摘されている(教育の経済効果)[11]。
- また、政治面では、開発学においては識字率の上昇が民主化に寄与すると考えられることが多いが、識字率と民主化との間の相関は一般に考えられている程には高くなくむしろその反例も見つかることから、この考えは「西欧市民社会の誤謬である可能性」を指摘する見解がある[12]。
- そのほか社会的な面においては、教育の普及が男女や階級の平等に寄与するといった主張や、教育水準の上昇が幼児死亡率や衛生状態の改善に寄与するといった主張などがある。
- ただし、教育がもたらすこれらの肯定的な機能に対しは疑問の声も一部で上がっている。例えば、発展途上国においては、基礎的な教育の実施で期待される所得・生産性の向上や市場経済への移行などといった経済効果や、政治における民主化の前進、社会における人口の抑制などといった効果が、必ずしも顕著には現れていないことが指摘されている[13]。
- 教育の否定的な機能
- 教育の否定的な機能として、学校を軍隊・病院・監獄などと同様の近代特有の権力装置であるとしたミシェル・フーコー [14]、学校教育が近代社会に支配的な国家のイデオロギー装置であると論じたルイ・アルチュセール[15]、教育が文化的・階級的・社会的な不平等や格差を再生産または固定化する機能を果しているピエール・ブルデュー、バジル・バーンスタイン、サミュエル・ボールズとハーバート・ギンタス、教育は家父長制を再生産しているとのフェミニズムからの議論、教育は社会の多数派の文化を押し付けているという多文化主義からの議論、などが有名である。これらの議論は、昨今の日本においても格差社会との関連で再び見直されている。
- 教育の肯定的な機能を否定したり、教育の否定的な機能を主張したりする見解に対しては、それらが特定の教育内容・教育方法のみを前提としている点を指摘することで、教育の内容や方法を改善することでそうした問題が解決できると考える立場がある。
教育制度と教育施設
教育制度
- 教育制度
- 教育に関する制度を教育制度と呼ぶ。現実的には学校教育に関する制度が中心となるため、学校制度と言い換えることのできる場合も少なくないが、社会教育など学校外の制度の重要性も見逃してはならない。教育制度は、学校制度や義務教育の年限など、国によって異なっている。
- 詳細は 教育制度 を参照
- 教育行政・教育政策
- 教育に関する行政を教育行政、教育に関する政策を教育政策と呼ぶ。日本の教育政策については、日本の教育政策と教育制度を参照。教育政策の課題は国によって大きく異なっているが、先進国においてはおおむね社会的格差の解消や国際的な経済競争・知識社会化への対応などが、発展途上国の多くでは識字率・就学率の向上が、求められている。
- 詳細は 教育行政 を参照
- 教育法
- 教育に関する法律を教育法と言う。各国によって教育に関わる法体系にも大きな相違がある。条例等も含める場合には、教育法令と呼ぶ。教育法令によって、各国で教育に関わる権利・義務の具体的なあり様が異なっている。
- 詳細は 教育法 を参照
教育施設
教育の行われる施設を教育施設又は教育機関と呼ぶ。これらには、単に学校のみならず、図書館・博物館・美術館などはもとより、公園や映画館のような娯楽施設も、広く社会において教育的な機能を果す施設を含めて考えることが多い。とりわけ、基本的な生活態度の養成という観点からは、家庭や地域社会での教育・しつけが見直されている。
学校
教育施設の中でも専ら教育のために設立される施設を学校と呼ぶ。一般に知られる、小学校・中学校・高等学校・大学などは学校の典型例である。学校において行われる教育を学校教育と呼び、その就業年数や義務の有無など学校に関する制度を学校制度と言う。比喩として、こうした公式の制度の外にある学びの場も「学校」と呼ぶことがある。
教育の課程・内容・方法
教育課程
教育において、その実践上の目的・内容・方法等をまとめたものを教育課程又はカリキュラムと呼ぶ。教育課程は、通例では初等教育・中等教育・高等教育の3段階に分け、この前に保育や幼児教育を位置づけることもある。
教育内容
知育・徳育・体育のどの分野に重きを置くかで論争がある。正確な知識という共通基盤がなければ正しいコミュニケーションや共同生活すら図れない以上、教育において最低限の知識を伝授する必要はある。一方、そうした知識をいかに活用していくかという、思考力・コミュニケーション能力・創造力等の技能も不可欠である。さらに、知識や技能のみならず、社会生活を営む上での基本的な価値観・態度・徳目などを教育することに価値を置く見解もある。
教育の内容について詳しくは、「教科」を参照。また、新しい教育内容として、
教育方法
教育方法に関しては大きく二つの立場が対立している。一つは、学問の体系的な構造に従って系統的に教育を行うべきだという、系統学習の立場である。これは特に教育段階が上がるにつれて教育内容が学問の体系に近づく点で、説得性を帯びている。その一方で、特に幼児・児童への教育を中心として、こどもの自発的な学びを尊重すべきだとする問題解決学習(進歩主義・児童中心主義・経験主義)の考えも強い。日本の小学校における生活科や小中学校の総合的な学習の時間は、この考えに影響を受けたものであると言われている。
教育のために用いられる素材は、教材と呼ばれる。伝統的な教科書や黒板や従来から語学学習などで用いられてきた音声教材に加えて、近年では科学技術の発達に伴い、コンピューター、マルチメディア、インターネットなどを積極的に活用する動きが高まっている。また、電子黒板やインターラクティブ・ホワイトボードなどの最新機器も用いられ始めている。
教育問題
教育に関わる問題、とりわけ教育が社会に関わる問題のことを教育問題という。特にその深刻さを強調する場合には、教育病理または教育危機とも呼ぶことがある。詳しくは教育社会学の項目も参照。
教育現場における問題
教育活動は複数の人間が集まって行われる以上、そこに必然的に社会が生まれる。学校や学級などはその例である。そこにおいて何らかの問題が生じることがある。学級の中のいじめ・不登校・学級崩壊、教員と児童・生徒・学生との権力関係などがここに含まれる。
社会が教育へ与える影響
政治・経済・地域社会・文化などは教育活動に大きな影響を与えているが、こうした影響が問題を生じさせることがある。例えば、国の諸政策やマスコミによる報道などは、学校教育はもちろん家庭教育や社会教育にも大きな影響を与えている。
教育が社会へ与える影響
学校教育を含む教育活動は、社会一般に対しても大きな影響を与える。狭義で教育問題とは、この局面で生じる問題を指すことがある。学歴・管理教育・偏差値・非行・少年犯罪・学力低下など学習者、特にこどもを通じて結果として社会に与える影響の他にも、教師のあり方や学校・大学のあり方、学閥などの問題として、教育問題は広く社会病理の一領域をなしている。
各国の教育
海外における教育
(50音順)
アジアの教育
- イスラエルの教育 (イスラエルを参照)
- イラクの教育 (イラクを参照)
- インドの教育
- インドネシアの教育 (インドネシアを参照)
- サウジアラビアの教育 (サウジアラビアを参照)
- タイの教育 (タイ王国を参照)
- 大韓民国の教育
- 中華人民共和国の教育
- 中華民国の教育 (中華民国を参照)
- トルコの教育 (トルコを参照)
- 香港の教育 (香港、香港の教育史を参照)
- マレーシアの教育 (マレーシアを参照)
アフリカの教育
アメリカの教育
- アメリカ合衆国の教育
- ブラジルの教育 (ブラジルを参照)
オセアニアの教育
ヨーロッパの教育
- アイルランドの教育
- イギリスの教育
- イタリアの教育
- ウクライナの教育 (ウクライナを参照)
- オランダの教育
- スペインの教育
- ドイツの教育
- フィンランドの教育 (フィンランドを参照)
- フランスの教育
- ポーランドの教育
- ポルトガルの教育
- ロシアの教育
日本における教育
日本における教育の理念
- 教育の概念
- 日本語の「教育」の語源である「教」は「励まし模倣させること」、「育」は「こどもが生まれること」又は「こどもを養うこと」を意味している。この語が日本で用いられるようになったのは江戸時代からと言われており、それ以前の日本や中国では「教化」という語が用いられた。
- 教育の目標
- 日本では、儒教の影響から学びや教育それ自体に高い価値を置く傾向がある。また、社会の道徳規範を身につけることが重要な教育目的であると認識されることも多い。
日本の教育政策と教育制度
現在の日本では、教育基本法(平成18年法律第120号、現行法・新法)が基本的な教育政策の方針を明示している。学校教育制度として戦後、六・三・三・四制が採られてきたが、近年では飛び級や中等教育学校の認可によって若干変化しつつある。
現代日本の教育政策においては、科学技術創造立国(科学技術立国とも)、教育立国として国家戦略として教育の重要性を位置づけ、生涯学習や高度専門教育の拡大、構造改革における教育特区の認定、専門職大学院の設置、高等教育の国際的な研究力の向上、海外留学生の受け入れ拡大、などの諸施政が採られている。
詳しくは、教育制度・教育行政・教育政策・教育法の日本に関する記述を参照。
日本の教育施設の特徴
日本は、欧米に次いで世界的には比較的早い明治期から、近代的な学校教育の施設・制度を整備し、公教育を実施した。また、欧米以外で母語による高等教育を実現している数少ない国でもある。詳しくは、学校・学校教育・学校制度の日本に関する記述を参照。
また、日本では学習塾・予備校などの学校外の教育機関が発達していることも特徴として挙げられることがある。近年では、NGOなどを中心に、学校外で広く社会や生活に関わる学びの場を拡充する動きも見られる。詳しくは、教育機関・社会教育・生涯教育の日本に関する記述も参照。
日本の教育内容の特徴
日本における教育の内容は、知識偏重(いわゆる詰め込み教育)と批判されることがある。そのため、批判的思考力・創造力・コミュニケーション/交渉能力などの育成に立ち遅れているとの見方がある。一方、そうした状況を反省して「生きる力」を重視した「ゆとり教育」へも現在では批判が強い。
日本の教育方法の特徴
日本の教育では、しつけを含め、幼少期は自由奔放に育て、年齢が上昇すると規律を教え込む傾向があり、この傾向は欧米とは反対であると言われている。その反面、日本の教育は画一的で、児童・生徒を個人としてよりも集団として扱う傾向が強く、またこどもの批判的思考力を養成する機能が弱いと批判されることがある。
日本における教育問題
- 教育の目的をめぐる問題
- 日本においては教育の目的を個人より社会の側に置く傾向が強いことを懸念されている。
- 教育の内容をめぐる問題
- これまでの知識偏重教育から、思考力・コミュニケーション能力・創造力などをいかに育成するかが課題となっている。個別の領域では道徳教育や性教育、歴史教科書問題や愛国心などが政治的な焦点となっている。
- 教育の方法をめぐる問題
- 日本の学校教育における教育方法の原則は、自発的な問題解決学習とより強制的な系統学習の間で揺れ動いており、意見の一致を見ていない。現在のゆとり教育への批判も根強い。
- 教育の行われる場をめぐる問題
- 生涯学習・社会教育のために学校外での学びの場をいかに創出していくかが、課題の一つになっている。また、家庭や地域社会の教育機能が低下しているとも言われる。
- 学校教育をめぐる問題
- 近年、教師や保護者のモラル、不登校や学級崩壊、学力低下、学校におけるこどもの安全、一部の学校の廃校・経営危機、教員養成のあり方などが問題となっている。
- こどもや若者のあり方をめぐる問題
- いじめ・非行・少年犯罪に加え、こどもが被害者となる凶悪犯罪も少なくない。また、少子化、フリーター・ニート、格差社会のこどもや教育への影響なども問題となっている。
教育学
教育を研究の対象とする学問を教育学と言う。教育学は、哲学・心理学・社会学・歴史学などの研究方法を利用して、教育とそれに関連する種々の事物・理念を研究する。教育哲学・教育社会学・教育心理学・教育史学などの基礎的な分野のほか、教育方法論・臨床教育学・教科教育学などの実践的分野がある。各国における教育学のあり方は、その国の教員養成のあり方とも密接に関わっている場合が多い。
脚注
- ↑ Peters, R. S. Ethics and Education London, Allen and Unwin, 1966.
- ↑ アリストテレス 『ニコマコス倫理学』・『政治学』
- ↑ J・デューイ 『民主主義と教育』など
- ↑ I・カント 『教育学』
- ↑ プラトン 『国家』
- ↑ E・デュルケーム 『教育と社会学』 佐々木交賢訳 誠信書房 1922=1976年 (新装版 1982年 ISBN 978-4414517033)
- ↑ 例えば、男性標準労働者の生涯賃金(2004年)は、中卒2億2千万円、高卒2億6千万円、大卒・大学院卒2億9千万円。独立行政法人労働政策研究・研修機構 『ユースフル労働統計―労働統計加工資料集―2007年版』 2007年 ISBN 978-4-538-49031-1 p. 254
- ↑ 例えば、山田昌弘 『希望格差社会』 筑摩書房 2004年 ISBN 978-4480423085、中野雅至 『高学歴ノーリターン』 光文社 2005年 ISBN 978-4334933708
- ↑ Wiekliem, D. L. 'The effects of education on political opinions: An internationalstudy' International Journal of Public Opinion Research Vol.14 2002 pp.141-157.
- ↑ 財団法人明るい選挙推進協会「第19回参議院議員通常選挙の実態」(2002年3月発行)、「第20回参議院議員通常選挙の実態」(2005年3月発行)などhttp://www.akaruisenkyo.or.jp/seach/index.html
- ↑ 例えば、昭和50年代の日本の製造業において、教育水準の高まりが1%ポイントほど経済成長の高まりに寄与した。参照、労働省 『昭和59年 労働経済の分析(労働白書)』第II部1(1)1)
- ↑ 藤原郁郎 「民主化指標の考察と検証―識字率との相関分析を通じて―」『国際関係論集』(立命館大学) 第4号(2003年度) 2004年4月 pp.67-95.
- ↑ 国際協力開発事業団 国際協力総合研修所 『開発課題に対する効果的アプローチ』2002年5月 p.23.
- ↑ M・フーコー 『監獄の誕生――監視と処罰』 田村俶訳 1975=1977年
- ↑ L・アルチュセール 『国家とイデオロギー』
関連項目
参考文献
ここでは、教育全般に関わる文献のみ挙げる。
事典・用語集
- 青木一ほか編 『現代教育学事典』 労働旬報社 1988年 ISBN 978-4845100880
- 今給黎勝 『躾・教育をシフトするキーワード40』 梧桐書院 2006年 ISBN 978-4340401123
- 岩内亮一ほか編 『教育学用語辞典』 第4版 学文社 2006年 ISBN 978-4762015601
- 小沢周三編 『教育学キーワード』 新版 有斐閣 1998年 ISBN 978-4641058651
- 教育科学研究会ほか編 『現代教育のキーワード』 大月書店 2006年 ISBN 978-4272411696
- 竹内義彰 『教育学小事典』 新版 法律文化社 1976年
- 田中智志 『教育学がわかる事典』 日本実業出版社 2003年 ISBN 978-4534035813
- 時事通信社内外教育研究会 『教育用語の基礎知識(2008年版)』 時事通信社出版局 2006年 ISBN 978-4788725072
- 平原春好・寺崎昌男編 『新版 教育小事典』 第2版 学陽書房 2002年 ISBN 978-4313610323
- 山崎英則・片山宗二編 『教育用語辞典』 ミネルヴァ書房 2003年 ISBN 978-4623036066
- 山下幸雄編 『教育学小事典』 法律文化社 1970年
- 山田栄編 『教育学小事典』 協同出版 2000年 ISBN 978-4319100033
ウィキペディア内の教育総合案内
教育に関する機関・団体
- 文部科学省(日本国)
- 教育委員会(都道府県、市町村・特別区、地方公共団体の組合・またの名をいじめ問題隠蔽組織)
- 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)テンプレート:education-stub
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