非正規雇用

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非正規雇用(ひせいきこよう)とは、いわゆる「正規雇用」以外の有期雇用をいう。狭義には、正規雇用、中間的な雇用、非正規雇用の3つに区分けした際の用語として使われることもある。対義語は「正規雇用」。

概要

内容面から定義しようとすれば、一般的に、いわゆる「正社員」「正職員」と呼ばれる従業員の雇用と比較したときに総合的に見て、

  1. 給与が少ない(例:単位時間当たりの給与が低い、退職金がない、ボーナスがない)
  2. 雇用が不安定(例:有期雇用)
  3. キャリア形成の仕組みがあまり整備されていない人事系統である(例:幹部までの昇進・昇級の人事系統に乗っていない、能力開発の機会に乏しい、就労を重ねても知識・技能・技術の蓄積されるような業務でない)

といった要素が色濃い雇用形態を総称する用語である。

法的な雇用形態の分類から定義すれば、 有期契約労働者派遣労働者(登録型派遣)、パートタイム労働者のいずれか1つ以上に該当するような労働者の雇用を指すことが一般的である。

日本では、「パートタイマー」「アルバイト」「契約社員」「契約職員」「派遣社員」(登録型派遣)と呼ばれるような職員の雇用が非正規雇用になる。

「非正規の子は非正規」の循環で広がる格差社会

総務省の労働力調査によると、非正規で雇用されている人は全国で1813万人(2012年)。これは労働者全体の35.2%を占めている。働く人の実に3人に1人以上が、非正規の労働者だ。このうち、学生のアルバイトや主婦のパートを除いた約450万人が、契約社員や派遣社員。その数は年々増加している。

この事実は、新たな問題を生み出しつつある。それは「非正規の子は非正規」という、貧と負のスパイラルがどこまでも続いていく格差社会の到来だ。夫が非正規だという女性(46才)はこう話す。

「私の育った家庭は裕福とはいえず、おもちゃやお菓子をねだっても買ってもらったことはありません。せめて子供には私のようなつらい思いはさせたくない、と子供が欲しがる物は買い与えるようにしましたし、塾や習い事にも行かせていました。でも、夫の収入が減り、私のパートの給料もたがが知れている。結局、塾も習い事もやめさせるしかなかったんです。成績は下がる一方で、このままでは夫や私と同じ道をたどることになるのでは、と不安でいっぱいです」

ある程度の収入があれば、子供にきちんとした教育を受けさせることができる。質の高い教育を受けられれば、将来大学に通い、その後正社員として働ける可能性は高くなる。

しかし、その“ある程度”の収入がないと、どうなるか。教育水準は下がり、社会に出たときにふるいにかけられ、非正規での労働を強いられる。親が非正規なら、子供も非正規。その先の生活保護の問題もまた然り。

この連なりは、確実に存在している。大学卒業を控える息子を持つ50代の男性も、非正規雇用者として働いてきた。

「息子の就活がうまく進まなかったんです。私は、正社員にはこだわらず、とにかく一度社会に出てみるといい、と話しました。ところが息子は『おれは親父のような惨めな人生だけは送りたくない』と言い放ったんです。そんなふうに自分のことを見ていたのか…とわかり、堪えきれず涙が溢れてきました」

世界的な観点

産業革命以降、産業の中心が工業となり、フルタイムの労働者労働力の中核となった。また、この過程で男性は仕事、女性は家庭という性的な役割モデルが確立されていく。

ところが、第二次世界大戦以降、サービス産業が成長していくことにより変化が起こる。サービス産業は労働需要の変化が激しく、1日の中でも需要が一定しない特色を持つ(例えば、スーパーレジでは時間帯によって必要な労働力が変わる)。そのため、サービス産業はフルタイム労働者よりも、パートタイム労働者の方が都合が良かった。また、女性の社会進出が進んでいったが、一方で女性は家事も担っていたためにフルタイムで働くのが難しく、パートタイムは都合が良かった。

こうして、パートタイム労働者は労働市場の中で規模を拡大していったが、一方で待遇格差など様々な問題も生じることになる。

国際労働機関

1994年に、国際労働機関 (ILO) は非正規雇用者の権利の保障のため、『パートタイム労働に関する条約(第175号)』を採択した。これはパートタイム労働者の労働条件が比較可能なフルタイム労働者と少なくとも同等になるよう保護すると同時に、団結権団体交渉権、労働者が代表とともに行動する権利、労働安全の待遇、雇用及び職業における差別、社会保障制度、母性保護、雇用の終了、年次有給休暇、有給な休日、疾病休暇に関してフルタイム労働者と同じ条件を、フルタイム、パートタイム間の自発的な相互転換の促進を定めている。2011年現在日本は批准していない。2011年9月現在の批准国は欧州を中心に14カ国である。

日本における事例

非正規雇用の特徴

非正規雇用の特徴は、正規雇用に対して

  • 総じて、時間あたりの賃金が安い(例えば、女性出産に伴う就業パターン変化による生涯賃金の推計を行見ても、正社員として働き続ける場合と出産退職後パートタイマーとして再び働き出した場合では、賃金だけで2億円近い差が生まれるとしている)。
  • 雇用契約期間が短く、最長でも2年11箇月から4年11箇月程度しかないため、雇用が不安定である。
  • 景気が悪くなれば真っ先に非正規雇用の従業員を解雇するなど、人員削減の際、調整弁として好都合に使われる。
  • 単純業務のための安価な労働力として利用されていることが多い。
  • キャリアアップの機会に乏しい。
  • 勤続しても給料が上昇しないこと・上昇幅が小さいことが多い。正規雇用の多くが年齢給であるのに対し、非正規雇用の多くは定期昇給のない職務給である。
  • 労働時間が短いことが多い(1日あたり5 - 7時間程度)。
  • 福利厚生が正社員に比して充実していない。
  • 正社員になることが不可能ないし困難。 フリーターも参照。
    • 正社員になれたとしても、終身雇用が保証されるわけではない。
  • 女性が多い(特に中高年)。
  • 男性は、結婚率が低い。 結婚#未婚化・晩婚化も参照。
  • 社会保険・雇用保険(労働保険)の適用から外れる者が多い。

という点が挙げられる。

使用者側(雇う側)のメリット・デメリット

メリット

  • 需要や収益の変化に対応した調整を、職員の増減で行いやすい。
    • 日本は正社員の賞与などの賃金や残業代などの労働時間で調整する傾向が強い。
  • 時間あたりの賃金が安く、退職金社会保険料を払わないことも多いため、人件費を抑制しやすい。
  • 社員の教育費が削減できる。

デメリット

  • 知識・技術を社内に蓄積しづらい。製造業では熟練工、サービス業ではいわゆるベテランが育ちにくい。特に派遣社員は社外の人間のため、派遣先企業や所属事務所が異なる派遣社員同士で情報交換などは必要ないため。
  • 正社員と比べ会社に対する忠誠心・責任感が低い(特に派遣社員は派遣先の社員ではないため、他社の人間の派遣社員へ忠誠心・責任感を求めること自体ミスマッチといえる)。

などが挙げられる。

被雇用者側(雇われる側)のメリット・デメリット

メリット

  • 自分の都合に合わせて仕事の時間や期間を調整できる。
    • 副業・兼職(ダブルワーク)がやりやすい(正社員には従業員の副業を禁止しているところが多い)。
  • 現場によっては、特別の技能がなくてもできる単純作業の場合もある。
  • 多くの企業に触れて経験を積むことができる。
  • すぐに代替の人材が確保できるため、採用されやすい(採用の際に厳しい審査がされないことが多い)。

デメリット

  • 時給に換算した場合の賃金が安いうえ、賞与が出ない。
    • 正社員と同じ環境の仕事であっても、低賃金である。
  • 勤続年数が増え、仕事の能力が上がっても昇給はほとんどない(=使用者にしてみれば人件費を抑制できる)。
  • 退職金が払われないか、正社員よりも低い。
  • 常に自分自身でスキルアップをはからねばならない。
  • 雇用形態が短期契約のため、将来への展望が不安定。
    • 若いうちは良いが、年を取ると選べる仕事がなくなっていく。
    • 短期契約ゆえに単純作業しか割り当てられない場合が多く、職歴になりにくい。
  • 短期雇用かつ低賃金であるため、数百万円から1千万円以上を要する住宅自動車ローンなどの借り入れが不可能。

その他

  • 1年間の収入合計が103万円(平均月収約85,800円)を超えた場合、所得税を納める義務が発生するため、パート・アルバイトは年収を103万円以下に抑えようとすることが多い(配偶者控除)。年収調整のため年末繁忙期にシフトを空ける現象も見られ、人事労務管理の配慮点の一つである。

などが挙げられる。

日本での経緯

戦後高度経済成長期において、日本の企業は常に人手不足にあり、労働者を囲い込む形で正規雇用が常態化した。さらにそれを補佐する形で農閑期の農業労働者や主婦をパートタイム労働者として雇い入れる形になった。

その後、バブル経済崩壊後の平成不況では、企業は、競争力強化の必要性に迫られ、コスト削減の圧力への対応が必要になるとともに、大規模な景気後退を経験したことを背景として、将来の商品需要の不確実性への対応が必要だと認識するようになる。このため、 正規雇用(フルタイム労働)である正社員の採用を抑制する一方、コスト削減のために単純業務に対する安価な労働力の供給源として、また、不確実性への対応のために企業業績縮小期の雇用調整弁として、非正規雇用の従業員(非正社員)を増やすことで労働力をまかなっていくようになっていく。日本では正社員に対する整理解雇の条件が非常に厳しく、(正当な理由もなく)容易に解雇することができないため、正社員の雇用には慎重になっており、企業は景気が回復しても、正社員を増やすより、正社員の残業で対応したり、上述の通り、有期雇用や派遣社員などの非正規雇用で代用したりすることが常態化した。

労働者数の推移をみると、1980年代から雇用者に占める非正規雇用の比率は少しずつ増加し、1990年に初めて20%を超えた。以降は、ほぼ横這いで推移していたが、1990年代後半になると増加傾向が著しくなり、1999年に25%、2003年に30%を超え、2012年には過去最高の35.2%を記録し、3人に1人超を占めるようになる。また、若年層の非正規雇用率については、学生を除いた15-24歳で31.2%、25-34歳で26.5%であり、全体と比較すると低いものの上昇傾向にある。

厚生労働省の2010年版『労働経済白書』は非正規雇用増加の原因として「相対的に賃金の低い者を活用しようとする人件費コストの抑制志向が強かった」、さらに「労働者派遣事業の規制緩和が、こうした傾向を後押しした面があったものと考えられる」と指摘している。OECD(経済協力開発機構)は日本における非正規雇用増加の原因が「非正規社員に比して正社員の解雇規制が強いこと」と「非正規雇用への社会保険非適用」にあると指摘。労働市場の二極化を是正するよう、たびたび勧告を行っている。

日本での現状

  • 非正規雇用者は極めて弱い立場にある。2000年代は輸出産業である製造業が好調だったが、人手不足は外国人労働者を含む派遣社員を中心に非正規雇用でまかなわれた。そのため、日本国外市場の減速が製造業を直撃した2008年秋頃からの解雇・雇止めの増加は、まず非正規雇用者から行われた。製造業の派遣社員は、派遣会社の提供している寮に入居している者が多く、職を失った多くの非正規雇用者たちが路上へ放り出された。また、製造業以外の職種でも非正規雇用労働者の解雇・雇止めが進んだ。
  • 大企業と中小企業とでは、大企業の方が非正規雇用の割合が高い傾向にある。
  • 男性と女性とでは、女性の方が増加傾向にある。特に若年層でその傾向がある。例えば、バブル景気前(1984年)とバブル崩壊とその後の景気回復(2006年)とを比べると、若年層に占める正規雇用の割合は、男性に比べて女性の方が低下幅が大きい。
  • 経済学者岩田規久男は「アジアなどで生産される輸入品は、現地の未熟な低賃金労働者がつくっている。それに対処するために、非正規就業者の賃金は低い水準に抑えこまれている」と指摘している。

OECDによる労働市場二極化の解消勧告

2006年にOECDは日本経済について、所得分配の不平等改善のために労働市場の二極化を削減するよう提言している。そのためには、正規労働者の雇用保護を削減し非正規労働者を雇用する企業のインセンティブを弱めること、 非正規労働者に対しての社会保険適用を拡大することが必要だと指摘している。

さらにOECDは2008年に、「日本は若年者が安定した職を見つける支援をするために、もっとできることがあるのではないか」と題したプレスリリースの中で、「日本の若年層は、労働市場の二極化進行の深刻な影響を受けている(Young people are severely affected by the growing dualism in the Japanese labour market)」と指摘し、「彼らは収入と社会保険は少なく、スキルやキャリア形成のチャンスは少ない」「非正規から正規への移行は困難であり、若年者は不安定な雇用に放置されている」と述べ、重ねて正規労働者の雇用保護削減と、非正規労働者の雇用保護・社会保障の拡大を提言している。

2007年に安倍内閣労働ビッグバンを閣議決定し、二極化解消を目指したが頓挫した。

企業による待遇改善の取組状況

非正規雇用から正規雇用への転換については、制度自体がない企業も多く、制度がある企業でも適用例はさらに少ないのが実情である。また多くの会社が非正規雇用に対する差別や冷遇は当然という認識があり、即戦力として扱えるスキルをもっていないと正社員と同様の収入になることは難しい。

ただし、一部では2002年から2007年までの景気回復による人手不足から、小売・流通業のように非正規雇用から正規雇用へと転換する動きがあった。小売・流通業は、出店等による人材不足感が高まっており、例えば

  • ワールド2006年11月に、子会社のパートなどのうち8割となる約5千人を本社の正社員として採用。
  • ユニクロを抱えるファーストリテイリングは、2007年3月5日に「地域限定正社員制度」を導入し、2年間で5千人を非正規雇用から正規雇用に転換すると発表。
  • ロフト2008年3月、正社員、契約社員、パート社員といった区別をなくし、全従業員を「ロフト社員」に統一すると発表。
  • 広島電鉄2008年3月、契約社員を全員正社員化し、賃金体系を一本化することを発表。ベテランを中心に、正社員の3割が賃下げとなった。
  • 西日本旅客鉄道2006年3月、契約社員を勤続3年以上を条件に正社員登用試験を年間2回実施することを発表。

などの動きがあった。

また、他の産業では

といった動きや、前述の小売業や外食産業で人手不足を背景としたパート待遇の改善(試用期間を経た正社員採用など)の動きについての報告(2008年4月時点)がある。

労働組合による取組状況

日本の企業の正社員のみを組合員にする場合が多い既存の労働組合では組合員でない非正規労働者の保護は意図されず、むしろ正社員の雇用を守るための安価な労働力・景気の調整弁として正当化されている。ただし、近年では非正規社員の増加及び正社員の組織率の低下を受けて非正社員のための労働組合(首都圏青年ユニオンなど)が結成されたり、既存の労働組合でも非正社員の加入を認める例が増加した。しかし、100年に一度といわれる大不況を受け、大企業の労組でさえも非正規労働者の解雇・雇止めを問題にできないでいる。連合幹部によれば、「不況の影響が大き過ぎて正社員の処遇を守るのが精一杯」という。

日本での呼称別の事情

以下に、日本でよく用いられる呼称別に、特徴を記す。以下の呼称は法的な定義があるわけではなく、企業ごとにも定義が異なる。

パート、アルバイト

期間契約労働者の一種を指すことが多い。短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)では「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者よりも短い労働者」。パートタイム労働法上は、無期契約であっても「パートタイム労働者」の対象になりえ、実際に無期契約のパートも一部見られる。労働力調査総務省)では、「勤め先での呼称がパート・アルバイトである者」となっている。一般的に定まった定義はなく、企業によって「パート」や「アルバイト」という呼称の定義は異なる。

一般的に、正社員と比べ労働時間が短く、時間あたりの賃金が安い。労働基準法の適用範囲内だが、現状では多くの面において適用されているとは言い難い。福利厚生などの対象にもならないことが多い。

構成は、学生主婦が多く、男性よりも女性が多くある。また、年齢構成では15~24歳といった若い世代よりも、30、40歳といった中年世代の方が多い。

パートは略称で、正式にはパートタイマー。語源英語のPart Timer。本来、通常の労働者の所定労働時間(週に40時間以内)よりも短い所定労働時間を定められていることからそう呼ばれるが、「パート」の実態は必ずしもそうとは限らず、単に従事する業務や賃金・待遇を通常の労働者と区別するための便法として使われる場合もある。そのため、週40時間労働しながら「パート」と呼ばれる労働者(フルタイムパートタイマー)も存在する。

「パート」と呼ばれていても、その職場の通常の労働者と同じ所定労働時間を定められていれば、パートタイム労働法の短時間労働者(パートタイム労働者)には該当しない。逆に、「パート」と呼ばれず業務や待遇に差がなくても、その職場の通常の労働者よりも短い所定労働時間を定められていれば、パートタイム労働者に該当する。

アルバイト語源ドイツ語のArbeit。戦前の大学生が学業の傍らで従事する労働を呼んだ用法が広まったもの。 ※詳しくは、アルバイトを参照。

契約社員(契約職員)

おおむね1箇月から1年単位の短期契約で雇われる形態を広く指す。製造現場に勤務する者は特に臨時工期間工などとも呼ばれる。高度な技術を有した専門職の人が1年以内の契約を結んだり、一度退職した職員が再雇用で嘱託社員として雇われる形態も含まれる。固定給のみならず、営業職に多く見られる完全出来高制のような形態もある。構成は、高齢層の割合が高い。また、若年層でも契約社員になる割合は増えている。

派遣社員(登録型派遣)

企業や官公庁が派遣会社と契約を交わし、派遣会社が雇っている従業員が企業や官公庁に派遣されて業務を処理する形態。指揮命令権は派遣先にある。

長い間、職業安定法の下、きわめて限定的な雇用形態として位置づけられてきており、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)の制定により正式に法律で規定されたのは1986年。当初は業種が制限されていたが、1999年、2004年に同法が改正され業種が拡大、それに伴い、派遣社員は契約社員ほどではないが増加している。

構成は、女性と男性とでは女性が多い。 労働者派遣事業人材派遣も参照。

その他

名ばかり正社員(ブラック企業)

一方では、正社員の中にも「名ばかり正社員」と言われる、非正規社員と大差ない低い給与(毎月の固定給制ではなく日給制や時給制の会社もある)で、雇用保険労災保険厚生年金健康保険に未加入で、交通費・昇給・ボーナス・退職金制度等もない労働者が目立つようになっており、正社員も非正規社員と同等の劣悪な労働環境(長時間労働やサービス残業・サービス休日出勤も強制的に命じる)に追い込まれるケースが増加していて、いわゆるブラック企業の事である。

日本国外における事例

ヨーロッパやアメリカには、日本や大韓民国(韓国)のような正規、非正規という明確な区分はない。

社会学者の河合薫はイタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランスでは非正規労働者の賃金の方が正社員よりも高いことを指摘している。

解雇規制が緩い英国においては非正規雇用の比率は米国に次ぐ低水準にあるが、属性調整後の有期雇用者(非正規)と常用雇用者に格差は見られないものの、派遣社員は正社員より1割ほど低い賃金とされる。

ヨーロッパ

早い段階から、フルタイム社員とパートタイム社員の均等待遇(同一労働同一賃金)の動きがある。フランス1981年ドイツ1985年に差別的取り扱いを禁止している。欧州連合 (EU) では、1997年にパートタイム労働指令が発令された。これにより、パートタイムを理由とした差別の禁止と、時間比例の原則を適用することとなっている。背景として、産業別の労働協約と賃金体系があり、フルタイムとパートタイムとで賃金が違うということがあまりなかったことが挙げられている。

企業の側は、賃金に対しては抵抗をせず、年金については一部抵抗した。これは、年金にかかるコストがパートタイムの方がかかるためである(例えば一人のフルタイムを30年雇った場合と、30人のパートタイムを1年ごとに雇った場合とでは、同じ労働量に対して後者「30人のパートタイムを1年ごとに雇った場合」の方が事務コストが高くなる)。

労働組合の側は、フルタイム社員の取り分が減るとして抵抗した。

フランスでは非正規労働者の在職が短期なため、報酬の10%に相当する不安定手当を受けることができ、同一業務をする正社員の1割増しの賃金を受けることができる。また、派遣労働者は作業に関連した手当(危険、食事手当等)を受けることができ、有期労働者が契約期間あるいは派遣期間の間に有給休暇を取得できなかった場合は補償手当を受けることができる。

アメリカ

雇用に対する規制が緩く、レイオフも容易であるため、非正規雇用比率は主要国の中で一番低い(また失業期間も短い)。

均等待遇という原則は法制化されていない。これは、「それぞれの雇用形態は企業と労働者の間の契約で取り決められたものだから、政府が法律で介入することはしない」という考え方による。ただし、多くの産業別労働組合内でペイ・エクイティ原則が整備されている。よって、同じ仕事をしながら賃金に大きな差が出るということはありえない。

また、アメリカでの不平等とは人種や性、年齢といった自分で選択できないものであり、フルタイム、パートタイムといった雇用は選択の結果という考え方がある(そのため、人種、性等での雇用差別への法律での対応はなされている)。

そのため、労働者が広域な労働組合を組織し、企業や地方自治体に待遇改善を図る方向で動いている。

韓国

2006年11月30日に国会を通過・成立した「非正規職保護法」がある。

  1. 雇用期間が2年を超えた有期雇用者は無期雇用とし、派遣労働者は直接雇用とすること
  2. 賃金・勤務条件で正社員と不当に差別してはならない

といった内容となっている。

1997年経済危機をきっかけに非正規化が一気に進み、韓国の非正規社員率は55パーセントと日本の過去最高である33パーセントをはるかに超える高い状況だったこともあり、法が成立したが、実際には非正社員が2年勤務の法実施の直前に大量に解雇している事例が増えている。企業側にとって好都合な抜け道と不備がある法案で、非正規雇用の長期化は避けられたが、逆に継続雇用に支障をきたしているため、労働者全体の地位向上にはあまり効果が出ていないことが伝えられている。

また、この法の適用が大企業に限られていて効果が限定的で、労働者の固着化・外注化が進むなど却って非正規職労働者に不利にはたらく、といった批判も出ている。

平均月収88万ウォン程度で暮らす若者を指してある社会学者が名づけた「88万ウォン世代(88만원 세대)」という語が流行語となるなど、ワーキングプアは韓国でも大きな社会問題である。

中国

中華人民共和国(中国)の非正規雇用の定義は、『非正規就業とは、正規の職場での正式な社員契約を結んだ就労ではない、個人経営者や屋台、露店での販売員、家庭内手工業や企業の臨時契約社員などを指す』とされる。このため、例えば起業家も非正規雇用に含まれる。

非正規雇用者は少なく見積もっても約1億3000万人いる(2006年時点)と言われ、かれらは社会保障を受けることが出来ないため、社会保障の整備を求める指摘がある。

関連文献・記事

関連項目

外部リンク