東海道新幹線焼身自殺事件
東海道新幹線火災事件(とうかいどうしんかんせん かさいじけん)とは、2015年6月30日に新横浜 - 小田原間を営業運転中の東海道新幹線車内で、男が焼身自殺を図り、火災が発生した事件。1964年10月1日の同線の開業以来[1]、そして、全新幹線でも初めての列車火災事故となった[2][3]。国土交通省は新幹線を運営するJR各社を召集して緊急会議を開き、警備体制の強化、火災、テロ対策の検討を決定した[4]。
事件の経緯
2015年6月30日午前11時半頃、新横浜 - 小田原間を走行していた、東京発新大阪行き「のぞみ225号」の先頭の1号車で、東京都杉並区西荻北在住の71歳の男が、油のようなものをかぶりライターで火を着け炎上し、火災が発生した。列車は、小田原市上町で緊急停車し、火は乗務員(運転士)が車内に備え付けられていた消火器で消し止めた[5]。
男は1号車の客室内最前部辺りで火を着け、同客室の前方の運転室との間のデッキで倒れ死亡。神奈川県警察による司法解剖の結果、男の死因は焼死と判明した[6]。煙は1号車だけでなく隣の2号車にまで充満したため、他の乗客は3号車より後方に避難したが、巻き添えとなったとみられる乗客の横浜市青葉区在住の52歳女性が、1号車後方のデッキで倒れ死亡しているのが発見された。司法解剖の結果、女性の死因は気道熱傷による窒息死と判明した[6]。女性は、伊勢神宮へ、これまでの平穏無事のお礼参りに向かっている最中だった[7]。この他、乗客26名と乗務員2名の計28人が煙を吸うなどして重軽傷を負った[8][5][9][10]。重症の乗客は緊急停止中の地点から車外に降ろされ、救急搬送された。要出典
火災の発生した列車は現場に停車した状態で神奈川県警による検証が行われていたが、午後2時過ぎに小田原駅に移動、午後3時前に小田原駅に到着し残りの乗客を降ろした。のぞみ225号は小田原駅で運転を打ち切り、三島車両所へ回送された。一方、運転士は体調不良を訴え救急搬送された[11][12]。
火災車両は3日に警察による検証が行われ、1号車の1-3列目付近の座席はシートが焼け落ち骨組みだけになり、樹脂製の窓やカバーが高熱で溶けるなど、激しく燃えており、1号車内の前方半分の座席が燃えて骨組みが露出するなどしていた。また、火災により発生したすすは後方2号車の1-2列目付近まで到達していた[13]。
刑事捜査
この事件を受け、神奈川県警は殺人(未必の故意)や現住建造物等放火の疑いで7月1日に男の自宅を家宅捜索した[5][3][14][15]。
男は岩手県出身で、上京した後に飲食店で歌う「流し」の歌手や、幼稚園の送迎バスなどの仕事に就いており、地元の野球チームにも所属していた[16]。知人女性によれば、男は6月29日午後、「ガソリンスタンドへ行く」と、ポリタンクを台車に乗せ歩いていた。Xは事件の1年ほど前から清掃業で働いており、年金が少ないという不満を漏らしていた[17]。また、「年金が少ない。年金基金の前で首をつってやる」などという自殺を示唆する言動も繰り返していた[18]。
駅や新幹線N700系電車車内の防犯カメラを調べた結果、当日は西荻窪駅から乗車して東京駅で新幹線に乗り換え、車内で犯行を行う準備をしていたことが判明した。所持していた乗車券は掛川駅までだった[19][20][21]。
火災車両は7月3日、神奈川県警による検証が行われた(前述)。
運転への影響
火災発生直後から東海道新幹線は全線で運転を見合わせていたが、午後2時半頃運転を再開した[11]。この影響で、同日20時現在、上下線36本が運休、最大5時間以上の遅れが生じ、大幅にダイヤが乱れた[9]。
社会の反応
事件への対策
国土交通省は7月1日、JR東海を含む新幹線を運営する各事業者を召集し緊急会議を開いた。当面の対策として、駅構内や新幹線車両内の巡回強化など警備体制の強化を各社に要請した。今後も意見交換を行い、車両の安全性確保、火災、テロへの対策についても検討していくとしている[4]。
多くの乗客が一斉に乗る以上、飛行機のように1人1人を金属探知機で検査するのは事実上不可能である。現状では警察官・警備員を同乗させることが精一杯である。要出典
JR東海とJR西日本は7月6日、安全対策強化のために東海道・山陽新幹線の客室内に常時撮影の防犯カメラを新設すると発表した。防犯カメラは2015年7月現在はデッキの乗降口に設置されているが、客室内(両端にある車内案内表示装置の横)に2台、トイレなどがあるデッキ通路部に1台を新設する。事件以降に追加新造する車両は製造時に対応、既存車両についても2018年度までに全ての車両に追設するとしている。[22]。一方、乗客の手荷物検査については「新幹線の特徴である利便性を大きく損なう」とし、実施に否定的な見解を示した[23]。JR東日本は、東北・北陸・秋田新幹線の客室内に既に設置されているカメラを、現在の「非常ボタンが押された場合のみ撮影」から「常時撮影」に変更することを検討している[24]。
日本国外のテロ対策の現状
飛行機と違い、新幹線では手荷物検査は行われていない。日本国外においても、先進国では検査の例はほとんどないが、2008年にムンバイ同時多発テロが発生したインドや中国では実施しており、通勤時に長蛇の列ができる問題も発生している。また、イギリスとフランスを結ぶ国際列車であるユーロスターでも例外的に検査を実施している[25]。
このようなテロ対策について、国土交通省は「過去に内々で議論したことはあるが、なかなか厳しい。すぐ乗車できる利便性の方が利用者のニーズとして高い」と説明する一方、日本の警察幹部は「リスクが現実になった。乗客に配慮する『公共の利益』とテロ対策による『国民の負担』のバランスを真剣に検討し、国ぐるみで対策を急ぐべきだ」と強調する[26]。
事件の評価
国際テロリズムに詳しい公共政策調査会の板橋功は「大きなイベントのたびに新幹線のセキュリティは課題になった。事件は危機管理に警鐘を鳴らす問題提起といえる」と指摘している[26]。
産経新聞はこの事件について「安全神話に激震」「現行の運行管理態勢を根底から揺さぶる事件」と報じた[27]。
2015年7月2日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系列)では「新幹線の安全神話が崩壊、安全性をどう確保すればよいのか」と報じ、司会の宮根誠司が「隣に座った人を疑う時代」とコメントした[28]。
出典
以下の出典において、記事名に実名が使われている場合、この箇所を伏字とする
- ↑ (2015-06-30) 新幹線焼身自殺:開業以来車内で起きた初の火災 毎日新聞 2015-06-30 [ arch. ]
- ↑ (2015年6月30日22時34分) 火をつけて死亡した男の身元判明 新幹線初の「列車火災事故」 産経ニュース 2015年6月30日22時34分 [ arch. ]
- ↑ 3.0 3.1 走行中の新幹線内で男が焼身自殺か 煙吸った女性死亡 朝日新聞デジタル 2015年6月30日(火)18時35分配信
- ↑ 4.0 4.1 (2015-07-01) 国交省 新幹線放火受けJRに警備強化求める NHK 2015-07-01 [ arch. ]
- ↑ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「26injure
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ 6.0 6.1 (2015年7月1日22時49分) <新幹線放火>東京駅から乗車 自殺の男、防犯カメラに 毎日新聞 2015年7月1日22時49分 [ arch. ]
- ↑ (2015年7月1日1時6分) 「伊勢神宮へお参りに」 新幹線火災で犠牲の○○さん 朝日新聞 2015年7月1日1時6分 [ arch. ]
- ↑ (2015-07-03) 新幹線放火 2号車の一部まで熱風達したか NHK 2015-07-03 [ arch. ]
- ↑ 9.0 9.1 (6月30日17時35分) 新幹線車内で火災 放火の疑いで捜査 NHK 6月30日17時35分 [ arch. ] [リンク切れ]
- ↑ (2015年6月30日13時10分(最終更新6月30日17時41分)) 東海道新幹線火災:乗客騒然「煙の中逃げた」 毎日新聞 2015年6月30日13時10分(最終更新6月30日17時41分) [ arch. ]
- ↑ 11.0 11.1 (2015-06-30) 東海道新幹線、運休や3時間以上の遅れ TBS 2015-06-30 [ arch. ]
- ↑ (2015-06-30) 東海道新幹線火災、運転士も煙を吸い救急搬送 TBS 2015-06-30 [ arch. ]
- ↑ (2015年7月4日1時17分) 放火のすす、2号車まで…新幹線車両検証 読売新聞社 2015年7月4日1時17分 [ arch. ]
- ↑ ポリタンク直前まで隠し持つ=焼身自殺計画し乗車か―死亡の71歳男、自宅捜索へ 時事通信 2015年7月1日6時4分配信
- ↑ (2015年7月1日20時39分) 新幹線放火:「未必の故意」で殺人容疑を適用 神奈川県警 毎日新聞 2015年7月1日20時39分 [ arch. ]
- ↑ (2015年7月1日12時9分) 新幹線放火容疑者、前日にタンク持つ姿 「GS行く」 朝日新聞 2015年7月1日12時9分 [ arch. ]
- ↑ (2015年7月1日15時0分) 新幹線焼身放火:油、前日に購入か 容疑者宅を捜索 毎日新聞 2015年7月1日15時0分 [ arch. ]
- ↑ (7月1日13時31分) 前日にポリ容器「GS行く」=年金不満「自殺してやる」—新幹線放火・××容疑者 ウォールストリートジャーナル 7月1日13時31分 [ arch. ]
- ↑ 新幹線放火 ガソリン使用、計画的自殺か 乗車券とともに前日購入 産経新聞 2015年7月3日7時55分配信
- ↑ (2015年7月3日11時22分) 新幹線切符は掛川行き=通過駅、自殺目的か-神奈川県警 時事通信 2015年7月3日11時22分 [ arch. ]
- ↑ 新幹線のぞみ225号 えきから時刻表 列車詳細 2015年6月29日時点
- ↑ 東海道・山陽新幹線車内の防犯カメラの増設についてPDF 東海旅客鉄道ニュースリリース 2015年7月6日
- ↑ (2015年7月6日19時53分) 東海道・山陽新幹線、客室内にも防犯カメラ設置 常時撮影へ 2015年7月6日19時53分 [ arch. ]
- ↑ JR東も常時撮影検討=客室カメラ、新幹線放火でウォール・ストリート・ジャーナル2015年7月7日3時1分
- ↑ (6月30日18時36分) 中国では鉄道乗車時に荷物検査、通勤時に長蛇の列 「ユーロスター」は空港並みの厳しさ 産経ニュース 6月30日18時36分 [ arch. ]
- ↑ 26.0 26.1 新幹線火災 危険物「フリーパス」…サミット・五輪控え対策急務 産経新聞 7月1日(水)7時55分配信
- ↑ (2015年6月30日13時46分) 安全神話に激震 「死ぬかと思った」車内パニック 産経WEST 2015年6月30日13時46分 [ arch. ]
- ↑ (2015年7月2日20時20分) ミヤネ屋で「新幹線の安全神話が崩壊」の文字 安全性の確保を議論 Livedoor ニュース 2015年7月2日20時20分 [ arch. ]
関連項目
外部リンク
- 鉄道事故の概要 運輸安全委員会
- タイムライン 東海道新幹線火災 朝日新聞