侮蔑
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軽蔑は、この項目へ転送されています。同名の映画については軽蔑 (映画)をご覧ください。 |
侮蔑(ぶべつ)は、他者を侮り、蔑み、馬鹿にして、ないがしろにする行為の総称である。敵対というより一歩距離をおいて哀れんで見下げている場合は軽蔑(けいべつ)と呼ばれることが多い。軽蔑の意図が薄く敵対的意図が強い場合は侮辱(ぶじょく)と呼ばれることが多い。風刺の意図が強い場合揶揄(やゆ)とも呼ばれる。
目次
[非表示]侮蔑と社会
侮蔑はされた側に強い不快感を催させ、敵意を起こさせる。このため、侮蔑行為は一般的に、明示的ないし暗黙に社会的に禁止されている。このため、侮蔑行為は秩序が乱れた社会か、さもなくば相当の怒り・敵意がなければ行われることはない。
侮蔑と法律
日本の刑法では、侮蔑行為を直接に罰する法令が二つある。
また、差別に関して強制力は低いが障害者基本法やあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約などが公布されている。日本国憲法をはじめとして特に労働関係の法令で差別の禁止事項があり、政令や告示等でセクハラなどの職場上の地位を利用した侮蔑行為が禁止されている。これらは労働基準局による一定の強制力を持つ。
侮蔑と社会構造
社会的弱者や侮蔑の対象となる行為をしたものが、しばしば集団的に侮蔑の対象となることがある。特定の集団が侮蔑されることにより他の層から孤立し、そのことがさらなる侮蔑を生んで侮蔑される集団が固定化され、社会階層を形成することがある。このような場合を差別階級と呼ぶ。
職業への侮蔑
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了解の下での侮蔑的行為
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何らかの目的で、両者の了解の下に侮蔑的行為が行われることがある。
- 教育的目的で失敗した人などを叱咤する場合、欠点をあげつらう場合。特に職人や体育会系の場所、あるいは家庭でよく行われる。しかし、いずれの場合にも懲罰的かつ暴力的であるため、前者は時として体罰またはセクシャルハラスメント・アカデミックハラスメント、後者は虐待として問題視され、失敗をなじるより成功を誉めたほうがよいとする意見も広がっている。
- 笑いを起こすことを目的として、一定の了解とお約束にしたがって侮蔑的ないし自嘲的に見える行為を行う場合。芸人は職業的にこの行為を行う。人によって程度は異なるが、侮蔑的表現があまりにも過剰な場合笑えずに引いてしまうこともある。
- マゾヒズムなどの性的嗜好において、いわゆる言葉責めや足を舐める等の侮辱的行為を快楽の手段として行う例がある。
侮蔑の動作
- あかんべえ(あっかんべー)は、舌を相手に向かって出すことで相手を侮蔑する表現である。また片方の目の下まぶたを手の指で引き下げる動作が加わることもある。日本国内において広く通用するが、やや子供っぽい印象を与える。また少なくとも英語圏でも同様の表現があり、顔文字で:-Pあるいは:P(左を上に見て、:を目に見立て、-を鼻に見立て、Pを舌を出した口に見立てる)という表現がある。
- クルクルパーは、手の人差し指だけを立てて2回ほど空中に円を描きさらにすべての指を広げる動作で、相手の知能が足りないことを示す侮辱表現である。日本国内において広く通用し、年齢にかかわらず用いられる。言語的に「クルクルパー」ないし略して「パー」とだけ言っても同様の意味になる。また形容動詞としても用いることができ(例:あいつはクルクルパーだ)、その場合、道具がうまく機能しない場合などにも用いられる(例:車がパーになった)。いずれにしても最初のクルクルは勢いよく、動作が進展しながら、やりすぎて破局を迎える(パーになる)という擬態語であり、単純な知能劣位を表現しているのではないことは高度経済成長期に出現したことで理解が可能である。社会が高度化し、熱意の裏返しで不適合を起こす生き様が各所で見受けられ、庶民的感覚でこの表現が発生したのではないかと考えられる。「正直者=馬鹿」という発想と期を一にしているとも言える。
- 歯と歯茎をむき出しにして、お前など相手にしないなどの意を込めて「いーだ」という。
- 手の甲を相手に向けて手を握り、中指のみを突き出して見せる(男性性器の意)という方法は代表的侮蔑表現である。英語圏においてはファック(fuck)と同義とみなされる。米国文化が世界に広く知られているため、世界の多くの場所で通用する。敵対的で、周囲にも極めて不愉快な感情を与える表現である。
- 手を握り、親指のみを下に向かって突き出す行為(サムダウン)は、主にヨーロッパ文化圏で「死ね」を意味する表現で、極めて敵対的な侮蔑表現である。世界の多くの場所で通用する。敵対的で、周囲にも極めて不愉快な感情を与える表現である。
- 手を握り親指のみを立て、その親指で首を横になぞる行為も、主にヨーロッパ文化圏で「死ね」を意味する。「首を掻き切ってやる」という極めて敵対的な表現である。日本では解雇を意味する場合もあるが、これは「クビにする」からの発想だと考えられる。
- 中南米では、親指と小指だけを立てて他の指を曲げ手の甲を相手側に向けるのが相手を侮蔑するポーズである。これは、ヤギの角を示していると言われる。ヤギは弱い動物であると考えられているため、勇気がなく弱い相手であることを嘲笑する意味になる。角であることを分かりやすくするため、親指と小指を立てた手を頭の後ろに持ってゆき指だけが頭の上に出るように見せることもある。
- 両手の人差し指を立てて頭の両脇につける行為は、日本では“角(つの)が生え鬼になる”―「怒っている」事を示す行為で侮蔑の意はほとんどないが、中南米ではヤギの角(臆病者)の意味になり極めて侮蔑的な行為となる。
- 親指と人差し指で小さな円を作る動作は、日本では「OK」ないしコインの比喩から「お金」を表すが、世界中の多くの地域では女性器の意味になり、特に女性に対してこの動作を見せるのは相手を売春婦扱いすることになり、侮辱的であることがある。
- 笑いが侮蔑の表現手段となることもあり、この笑いは嘲笑(する)、せせら笑う、あざけるなどとも呼ばれる。笑いが侮蔑的意味を含むかどうかは多くの場合は前後の文脈などに依存する。嘲笑を文章で表現する場合、中立的な笑いの表現を流用することが多い。日本語では文末に(笑)をつけるなどの方法で表現する。より直接的に(苦笑)(嘲笑)などと書く場合もある。日本のインターネットスラングでは(笑)の代わりにwを用いることもあり、この場合はwを続けてwwwなどと書くことで嘲笑の意味を強調している。英語ではインターネットスラングとしてlol(laughing out loud)が用いられ、lolololol..と続けて書くことで表現する。
侮蔑に用いられる言葉
言語による侮辱表現は俗に悪口とも呼ばれる。侮蔑対象のいないところで侮蔑する場合、陰口と呼ばれることもある。しばしば公の場所からは排除され、俗語となっている。
侮辱語
- 馬鹿・阿呆・間抜け、低能は、知能が低いことや人を表す語で、そのまま侮蔑表現として通用する。また、気違い、キ印も同じ意味合いを持つが、これは精神障害者への侮辱語でもあるので、馬鹿などとは違い差別的な意味合いも強い。尚、「釣り馬鹿」「野球気違い(野球キチも同義)」など、特定の物事に関して熱狂的な人にたいしても使われる。直截的な侮蔑表現を避ける意図からか、インターネット上では基地外・既知外などとあえて誤変換させる場合も多い。
- 下手は技術が劣ることを侮蔑する言葉としてよく使われる。接尾辞を加え下手糞、下手っぴと言われることもある。類義語として青二才、半人前などがある。
- 他の侮辱語の前に接頭語として「ど」または「どん」をつける事によって侮辱の意味を強めることがある。ど下手、ど田舎、どん百姓など。
- 「助」などをつけて人名めかすことで、その人の特徴を侮蔑する。
- 侮蔑語の後に「野郎」などをつける事によってその人そのものの侮蔑をする事がある。馬鹿野郎、インチキ野郎、糞野郎、愚か者、卑怯者、○○○野郎(○○○の中にはいろいろな言葉が入るが、大抵は「大便」や「ウンコ」、あるいは性器の俗称などが入る)など。ただし、「盗っ人」など元々人を表す侮蔑語の場合は意味の強調になる。
- 名詞に「糞」「腐れ」などを前置する。排泄や性行為を意味する言葉は侮辱語として世界的に広く使われる。しかし日本語では性行為を意味する言葉はほとんど使われない(ただし古語の「たわけ」は元来この意味とされる)。
- 「カス」や「クズ」は、「社会のためにも人のためにもならないゴミのような人間」という意味がある。「がき」や「ちび」は、相手が子供(またはそれに同類)であることを馬鹿にする表現である。また、「~ども(め)」は、侮蔑の対象となるものが複数の場合に用いられる。
- 宗教的・精神的な意味で嫌悪を表現する場合、「汚らわしい(穢らわしい)」という表現が使われる場合がある。この「汚れ」は物理的というより観念的な「穢れ」の意味である。日本古来の神道に関連して明確化した概念であり、キリスト教圏などでは同様の侮蔑で罪の概念を用いることが多い。
- 「~のくせに」「~の分際で」など、存在を全否定する。
- 「二級」「下等」「三流」「平」などの接頭辞を付けて、程度や価値が低いことを嘲る。二級国家、下等人種、三流商社、平社員など。
- 「万年」のあとに相対的に低い程度、価値、地位などの言葉を付けて、いつまでも地位や技能が向上しないことを揶揄する。万年係長、万年補欠、万年バイエル(「バイエル」は多くの日本の年少者が用いる初歩者用ピアノ教則本)など。
日本語は日常会話で極端な侮蔑語を発することが少ない言語で、むしろ「大根」「こんにゃく」など婉曲な侮蔑語が多い。しかし外国語では日常会話でさえビッチ (bitch) 、マザーファッカー (motherfucker) 〔臆病者〕、アスホール (asshole) などを連発する英語、セッキ(새끼、ガキ)、ケーセッキ(개새끼、犬ころ)、シッパル(씨팔、性器を指す)を連発する韓国語など極めて豊富な侮蔑語彙をもつものがある。
侮蔑の動詞
敬語と同様に動詞に特別の助動詞を加える、別のことばを用いるなどの方法で侮蔑の侮意味合いを表現することがある。敬語とは逆に、相手を貶めるか自分を持ち上げる表現をする。
- 相手を貶める表現を使う。
- 「~やがる」「~くさる」など侮蔑の助動詞を接続する。
- 「死ぬ-くたばる」「食べる-食らう」「言う-ぬかす/ほざく/こく」など、別のことばを用いる。
- 被害妄想の感を伴う場合もあるが、相手の言動に対して「おちょくる」「なめる」「ふざける」など激しく非難する。
- 尊大語を用いる。
場面にそぐわない大げさな敬語を使うことで暗に相手を侮蔑することもある。言葉の上では相手を敬っているが、本意はむしろ逆である。
- 「ごめんあそばせ」「~をば」などの表現を用いる(女性のみ)。
- 盗むことを「拝借する」「頂戴する」などと表現する。本来は「借りる」「もらう」の謙譲語である。
差別語
差別用語 を参照
蔑称
蔑称 を参照
比喩による侮蔑
価値が低いものに例える
ゴミ・クズ・カス・クソ・糞・ウンコなどは、それぞれ一般的に価値が低いとされるもので、それを他の人や物に対する代名詞として使うことで、それらへの侮蔑表現として通用する。日本では、「クズ」や「クソ」以外はあまり使われないであろう。日本語以外の言語でもほぼ同様である。例えば、Shit(英、「糞」)というのは本来の意味(排泄物、大便の意)で用いることすら慎まなければならないほど侮蔑的要素が強い卑語である。
日本語では、野菜の名前が侮蔑表現として機能することがある。たとえば足が太い人に対しての大根(もともと色白の足を褒める言葉だったが、後に太い足を侮辱する言葉になったとされる)・侮辱語の一つであるおたんこ茄子(「オタンコナス」で1つの言葉、江戸時代の花魁の符牒で「お短小茄子」=小さな男性器という侮辱から発生した、という説がある)・色白や細身の男へのモヤシ(っ子)などがある。これらの表現は子供っぽい印象を与えるが、大根のように成人女性に対しても十分に侮蔑語として通用することもあるので、乱用するべきではない。
人間以外の動物に例える
- 犬(科)に関するもの
- 犬は、誰かの忠実な従者であるような人、または他者の秘密をかぎつけようとする人間を蔑むときに、比喩的に用いられる蔑称である。特に、警察官など、国家権力またはそれに類するものの基で治安維持に当たる公務員に使われることがある。他に「誰かについて回る」という言葉では、後述のコバンザメや「腰巾着」などがあり、もっとストレートに寄生虫と言う場合もある。また、若者の間ではピクミンをもじった「ピクる」という言葉も存在する。
- 飼い犬 - 職務上の上司や実力者に極めて従順な者。
- 噛ませ犬 - 闘犬でわざとそれほど強くない犬をぶつけることから転じて、場数を踏むためだけに闘わされたり、好餌であったり、真っ先に憂き目に遭わされたりすることの意。当て馬と同義語。
- 野良犬 - 飼い犬と違い、気性が荒く不潔であることから、みずぼらしい身なりである様のたとえ。
- 負け犬 - 詳細は該当項目を参照のこと。
- 狆くしゃ - (狆がくしゃみしたような顔から)不細工な顔のたとえ。
- 狼 - 「羊の皮を被った狼」とは、大人しそうにしていながら、ある時に凶暴化したり、本性を表わしたりすることを言う。特に、女性に対して性行為を強要するまたはその可能性のある男性に対して使うことが多い。
- 一匹狼 - 一人で行動するのを好む人、または独り善がりな人。ただし、これは自嘲または褒め言葉としての性格が強いか。
- 狐 - 小ざかしい人、他人をだまそうとする人などを蔑むときに用いられる。
- 狸 - 腹の中で悪事などを考えていても言動に出さない人、ずるがしこい人を蔑むときに用いられる。
- 猿(科)に関するもの
- 猿は、小ざかしい人、他者のまねをする人、騒がしい人、ないし容姿が猿に似ている人を蔑むときに、比喩的に用いられる蔑称である(織田信長が豊臣秀吉に使った事で有名。秀吉が貧相だった為。ただし蔑称でなく愛称であると受け取られることが多く、実際もそうだったようである)。ただし、メガネザルについては、子供の間でのみ眼鏡をかけている人を比喩的に表現する場合に使われ、大抵は成長と共に消滅していく。黄禍論の盛んなころ東洋人に対する蔑称として「イエローモンキー(Yellow Monkey)」がある(ニコライ2世やヴィルヘルム2世が多用していた)。
- 猫(科)に関するもの
- 馬に関するもの
- 馬は、顔が面長の人を「馬面」ということがある。
- 家畜に関するもの
- 牛 - その生態から行動、特に食べるのが遅い人、のろまな人を言う。
- 牛歩戦術 - 政治用語であるが、転じて意図的に行動を遅らせて相手をじらすこと。単に「牛歩」というと、動きが遅いことを指す。
- 羊 - 新約聖書にある「群れから迷い出た羊」(『マタイによる福音書』18:10-14、『ルカによる福音書』15:3-7)から、主に教会で牧師が言う「迷える羊」という表現が用いられることがあるが、一般的にラジオ・TVの人生相談などで用いると侮辱となる可能性がある。
- 豚 - その生態から太っている人や汚らしい人、貪欲な人に対して使われることが多い。「豚箱」は拘置所・刑務所の俗称。
- 山羊 - 新約聖書(『マタイによる福音書』)では、ヤギを悪しきものの象徴として扱うくだりがあるなどかつて山羊は悪いものとみなされることがあった。そのため文化によっては山羊の真似をすることが侮辱行為とされる。
- 鳥類に関するもの
- 風見鶏 - 実際の風見鶏が風向きによって刻々とその向きを変えることから、日和見主義の人物あるいはそのような性格を指して言う蔑称。
- 鴨 - 楽に勝てる相手を指す。
- カモる - 俗語。いともたやすく勝つこと。「手玉に取る」と同義語。
- つばめ(燕) - 「若いつばめ」は、年上の女性にかわいがられる若い男子。また、年下の夫。
- 鶏・チキン - 臆病者、または卑怯者の事を侮蔑する際に使う。
- ハゲタカ - コンドルおよびハゲワシの俗称。死んだ動物の肉を食い漁る性質から、ハゲタカファンド(バイアウト・ファンド)とは、死に体の企業に投資する外資系投資ファンドに対する揶揄。
- 魚介類・海洋生物に関するもの
- イカ臭い - 助兵衛なさま。精液および不衛生な状態の陰茎のにおいが、食品としてのイカのにおいに例えられることがあるため、インターネット上を中心にこの語が使われている(精液#臭い)。
- コバンザメ - 誰かにしょっちゅう付きまとっている人のたとえ。英語ではbrown nose、誰かの尻にいつも鼻を突っ込んで付きまとっているから。
- ザコ - (1)弱い相手を罵る語。(2)有象無象なもののたとえ。格闘・アクション系の漫画・アニメ・ゲームなどに登場するキャラクターに関しては、特に雑魚キャラと呼ばれる。
- タコ - (1)禿げ頭の男性に対する侮蔑。「たこ入道」とも。(2)使えないこと。人や物が言うことを聞かない(使い甲斐がないの意)こと。
- タラコ - 唇が厚く、タラコに見える人に対する侮蔑。ほとんどの場合、男性に使われる。
- まぐろ(鮪) - 性行為の最中に動きたがらない人を揶揄する。女性に対して使われることが多いが、男性に対しても使われる。または泥酔して動けなくなった人や鉄道事故による轢死体も指す。
- シーラカンス - 「生きた化石」の別名を持つことから、恐ろしく時代遅れな人や物に対する揶揄。
- 虫に関するもの
- 蛆虫 - 単に汚らしい者に対する侮蔑。蠅の幼虫である蛆は、便所など不潔な所を好むため「男鰥夫(やもめ)に蛆が湧く(独身・単身の男性は、部屋の片づけや掃除を面倒くさがることから)」とも。ちなみに、天照皇大神宮教は、「蛆の乞食よ目を覚ませ」と説いているが、これは上へ上がろうとするときに他の者を踏み台にしてまで這い上がろうとすることを蛆虫に例えたといわれる。
- 蚊とんぼ - 大きさは蚊、形はとんぼに似ている昆虫であるが、どっちつかずで中途半端な、役に立たない者(物)のたとえ。→機動戦士Ζガンダムでシロッコが敵のモビルスーツを指して言った言葉。
- ゴキブリ - ネズミや蠅と同様、ちょこまか動き回ってうっとうしいものに対する侮蔑で、悪い意味でしぶといものに対する侮蔑としても使われる。また、ポマードをべたべたと付けた男子の頭(髪の毛)を例えることも。
- 蚤
- 蚤の心臓 - 臆病者、小心者のたとえ。
- 蚤の夫婦 - 妻の方が背が高い夫婦に対する揶揄。
- 蠅 - ゴキブリ同様、ちょこまか動き(飛び)回ってうっとうしいものやうるさいものに対する侮蔑。「小蠅」というとさらに侮辱感が高まる。
- 爬虫類・両生類に関するもの
- イモリ - 腹部が赤いことに引っ掛けて、アカハラ(アカデミックハラスメント)主義者または常習者を揶揄する。
- カメレオン - 背景によって色を変える性質から、相手・都合によって態度を変えること。
- 蛇 - (1)狡猾ないし執念深いヒトに付いて、隠喩的に用いられる。狐に例えるよりも侮る意味が弱く、ある種の畏怖を抱くような場合に用いられる。(2)直喩的に、目が細い人、または顔全体が蛇を彷彿とさせる人をいう。
- その他の動物に関するもの
- 鼠 - こそこそと秘密をかぎ回る人を蔑むときに用いられる。ドブネズミの場合は、単に薄汚い人を蔑む場合に用いられることが多い。出っ歯の人を蔑む場合もある。写真家秋山庄太郎は、学校給食のときにこう言われたことで、二度と学校で食べることはなくなったというエピソードがある。
- 蝙蝠 - 哺乳類でありながら、鳥のように翼を持ち空を飛ぶところからどっちつかずで中途半端な存在の者、あるいは状況の変化によって有利な側につく者を罵る場合に用いられる。
- ハイエナ - ハゲタカと同様、死んだ動物の肉を食い漁る性質から、いわゆる食べ残しを狙う者のたとえ。
- カメ - 動きが遅いことから、のろまあるいは愚鈍な人に対して用いられる。
- カバ - 直截的に顔がカバに似ている人。間接的には動きの鈍い人に対して用いる。
- キリン - 極端に背が高い人を言う。
英語圏(特に米国)に於いては、ニワトリ(チキン)は臆病者を表し、相手をチキンと呼ぶことは臆病者とののしる意味がある。中南米に於けるヤギも同様である。
非人道的あるいは汚らわしい人物や行為を侮蔑する場合、哺乳類一般を意味するけだものないし畜生が使われる場合がある。獣類一般が侮蔑語として機能しているのは仏教の六道で畜生道が人間道の下に置かれているのと無関係ではないが、仏教特有の価値観というわけでもない。英語ではbeastやbeastlyが同様の侮蔑表現として用いられる(ただし日本語で言う「野性的」の意味の誉め言葉として用いられることもある)。畜生の場合は呼びかけでは「この畜生めが」が典型的に使われるが、その短縮形である「(こん)畜生(め)」は悔しさの表現に転化している。
これをより強調する場合には鬼が使われる場合がある。ただし、この表現は軽蔑というより恐れ・怒りなどを表現することが多く、好意的に「厳しい人」「妥協の無い人」の意味で使われることもある。また動物と組み合わせて「犬畜生(にも劣る)」などがある。
さらに強調する場合は、両者を合わせて鬼畜という表現が使われる。これは存在自体が許しがたいといった強烈な憎悪に近い侮蔑のニュアンスを含む。これでも足りない場合「鬼畜にも劣る」という表現が使われる。
植物(野菜・草木)に例える
日本語では、植物に例えた侮蔑語も数多く存在し、用いられてきた。
- 芋 - 野暮ったい物もしくは人を嘲る意味で使われる。
- ウド - 「ウドの大木」とは、大きく育ってしまって逆に役立たないもののたとえ。
- 南瓜(かぼちゃ・カボチャ)
- 大根 - 「大根足」とは足が大根の如く太い人の事を指す。特に女性に言うと失礼に当たる。「大根役者」とは芝居が下手な役者、売れない役者を嘲る意味で使われる。
- 茄子
- おたんこ茄子
- ボケナス
- 白菜 - (1)白髪頭でオールバックの男性を嘲る。(2)「歯が臭い」の駄じゃれ。
- 糸瓜(ヘチマ) - つまらないもののたとえ。「だってもヘチマもない」は、言い訳をしようとするものに対して聞きたくないという意を含める決まり文句である。
- モヤシ - 痩せ細っていて体力もしくは腕力がなさそうな人のたとえ。
- ブロッコリー - パーマの人のたとえ。
有害なものに例える
存在を疎ましく感じる者、または見下すときに、病気を引き起こしたり汚染や公害の原因となるものに例えることがある。
- 寄生虫 - 他の人や物に依存することのたとえ。
- ばい菌 - 主に未成年(小中高生)の間で用いられ、言われた人は深刻な精神的苦痛を受けて自殺に追い込まれるほどであった。今でも一部の地方では使われている。
- 産業廃棄物 - 実際にあった裁判で、裁判官から「犬のふんは肥料になるが、暴走族は何にもならない産業廃棄物以下だ」という配慮を欠いた発言があったと言われている。
危険なものに例える
- ニトロ(グリセリン) - ダイナマイトの原材料で、少しの衝撃でも簡単に発火・爆発しやすいことから、怒りっぽい人への揶揄。
直截的な侮蔑
身体的特徴・風貌を指摘する
身体の著しい特徴が侮蔑の対象となることがある。しばしば差別と関連し、特に障害に関連するものはここでは除外する。
- 身長の低いことを指摘することは、特に男性に対しては多くの文化圏では侮蔑となる。日本語ではチビがこれに該当する。日本の若い女性の間では、平均身長以下の男性にもこの言葉を用いることが多く、本来の意味ではなくなっているとも言われている。この場合は、高身長であることが当たり前で、そうでない男性を侮蔑する言葉として用いられているといえる。
- 太りすぎていることを指摘することは、特に先進国社会では侮蔑となる。日本語ではデブがこれに該当する他、相撲取りや太った有名人の名前を出す場合もある。ピザは肥満の原因となる高カロリー食品の一つとされることから、転じて太った人間を指す蔑称に使われることがある。アメリカでは特に自己管理能力がないと見做され企業での昇進が遅らされるなど、経済的に差別される傾向にある。しかしこの傾向は国や地域によって異なり、中南米ではさほど侮辱の意が強くない。恋人同士が親しみをこめて相手のことを"Mi gordito"(私のおデブちゃん)などと呼ぶのはよくあることである。また、痩せすぎの体型は日本では太りすぎほどにはマイナスとみなされないが、ガリ、「鶏ガラ」「モヤシ」などの蔑称もある。イスラム諸国では女性は太っているほうが美人と見なされる。
- 脱毛症などで頭髪が薄くなった人の場合、禿(はげ、ハゲ)が該当する。また、自分の意思で敢えてスキンヘッドにしている人にも使われてしまう。
- 不細工・不格好、ブ男(醜男、不男)、ブス、醜女(しこめ)、オカチメンコ、オタフク
- それぞれ男性ないし女性の容姿が醜いことを指摘する言葉である。
- 整形美人
- 整形している人に対する悪口。同名のテレビドラマも参照されたい。
- ソース顔・しょうゆ顔
- バブル全盛期にOLが男性の顔を味覚になぞらえた言葉。ソース顔とは洋風、しょうゆ顔といえば和風の顔の意。すぐに使われなくなってしまった。こうした表現は過去にもあり、舶来風な様を「バタ臭い(=バター臭い)」という表現があった。
性に関するもの
恋愛・性行為は多くの人が重視する上、需給関係がアンバランスだったり、道徳的に制限が多い都合、侮蔑に関連した表現も多い。最近ではSM系アダルトビデオや、俗に言う「2次元キャラ」、「萌えキャラ」の影響も受けつつあり、そこから生まれた誤解も広まっている。
- 野郎は男性に対しての侮蔑語。本来は男娼を指す語であったが、近世では男性の蔑称となっている。
- 売女(読み方はばいた)、尼は女性に対しての侮蔑語。売女は文字通り売春婦を指す言葉として江戸時代から使われていたが、近世以降女性を罵る語となった。尼も出家した女性を示す語であったが、近代では女性への侮蔑語となっている。
- 男性に対し陰茎が小さいことを指摘することは、しばしば侮蔑となる。また、亀頭が小さく、全体的にドリルのように見えることを、「ドリチン(どりちん)」と呼び嘲ることもある。
- 男性が童貞であることを指摘することは、しばしば侮蔑となる。ただし性行為に関する規制が強い文化圏ではそうでもない。日本では、性交渉の経験がある男性でも、外見や容貌が今風でない場合には、「女性にもてなそうだから童貞」と見なして「童貞」と呼ぶ場合がある(若い女性に多い)。
- 男性が包茎であることを指摘することは、場合によっては侮蔑となる。また仮性包茎は包茎と異なり生物としてもっとも自然な状態であるが、文化的誤解などにより日本などでは侮蔑と取られる場合がある。日本では、若い女性が男性を罵る言葉としては非常にポピュラーである。また、小学生で陰茎が剥けている者は「ムケちん」といい、中学生以上で包茎の者が侮蔑の対象となる。陰毛の有無に付いても同様で、このように小中学生は共通性を美徳とし、少しでも異なっていると、その良し悪しに拘らず侮蔑の対象となってしまいがちである。
- 女性の乳房の大小を指摘する(「巨乳」、「貧乳」など)ことは、場合によっては侮蔑となる。ただし、乳房が小さいことを「美乳(微乳と音が同じことから)」と女性自身が言い換えることが日本では流行している。
- 女性の性器や乳首が黒い事を、(性経験が豊富な程メラニン色素が沈着するという誤解から)指摘する事も、侮蔑とされる場合がある。
- ヤリマンは貞操観念の薄い女性を侮蔑するときに用いられる。売女、肉便器もほぼ同義語である。特に、肉便器は女性を「男性のための物」として見ている事になるため、問題視される事も多い。なお、男性に対して同じようにヤリチンということもある。両者とも若年層では羨望の意味が濃く、年齢が上がるに従って侮蔑的意味が濃くなるようである。
- インポは、インポテンツ(ED)の略であり、勃起不全の意を表わす。幼児語の「ちんぽ」と陰茎の合成語のように聞こえることから、言われた人はそうした自覚の有無にかかわらず、強い不快感を示す。
性的嗜好・志向を示す言葉が侮辱に使われる事も多くある。
- 同性愛者の中で、男性に使われるゲイのことをホモ、女性に使われるレズビアン(ビアン)のことをレズというのは侮蔑の意味を含んでいることがしばしばある。また、バイセクシャル(両性愛者)に対してはバイと呼ばれる。
- 性同一性障害のうち、MtFをオカマ、FtMをオナベという蔑称がある。なお、「オカマ」は本来ゲイをさす言葉であり、今でもゲイとMtF両方をさす言葉として使われることがある。「オナベ」もFtMとビアン両方に対して使われることがある。これは性同一性障害と同性愛が混同されてきたことによる。
日本語では性的表現や泌尿器を一般的侮蔑表現に拡張することは稀だが、他の言語では多い。
- 英語では"fuck"(性交)、"motherfucker"(母親を姦淫する者)、"ass hole"(尻の穴)など。
- スペイン語では"jodido"(性交した者)、"coño"(女性器)など。
年齢・年代を指摘する
- 高齢の指摘が侮蔑となる事がある。特に女性に対しては、侮辱となる事が多い。先進国社会ではこの傾向が強く、アメリカでは公的な文書に年齢を記載しない事(アンチエイジング)が大変に流行している。
- 高齢化に伴い認識能力、運動能力、記憶力が低下することを意味する耄碌(もうろく)も痴呆と並んで差別にあたるのではないかと言われている。
- 年齢と未婚であることを併せて指摘して女性を侮辱する事がある。近年、負け犬の遠吠えのヒットにより、平均的な結婚年齢(いわゆる“適齢期”)を過ぎてなお未婚である女性を負け犬と呼ぶようになった。これは、蔑称というより、むしろ30歳以上の未婚女性の諧謔的な自称として使われる。また、かつては未婚の男性を「チョンガー」と云ったが、最近では使われる機会はめっきり減ったようである。
- 男女を問わず、中年である事の指摘が侮辱に当たる事がある。おじさん、おばさんという呼称は文脈によっては侮辱の意を持つ事がある。さらに、おっさん、おばはんは親しみとともに侮蔑の意図を込めていることもしばしばある。おじん、おばんになるとさらに差別意識が強くなる。熟女というと「中年女性は勘弁!」という意味合いを含むことがあるが、稀にこうした中年男女に対するフェティシズムを抱くものもいる。
- 中年男女から発せられる独特の体臭を加齢臭というが、行為がオジン臭いと、たとえそうした臭いがしなくても「あの人は加齢臭がきついのよねぇ」などと言われてしまう。
- 古い言い方であるが、30歳以上の女性を「年増」、それよりさらに年を経ている人を「大年増」と言った。
逆に、年齢が若い事を指摘して侮辱する事もある。
家族(家族構成)を侮辱する
本人を直接侮辱するのではなく、家族(特に母親)を侮辱することによって強い侮蔑の意を示すことがある。英語における最大限の侮辱言葉として「Mother Fucker」がある。
- 「おまえの母ちゃんデベソ」(子供の喧嘩の常套句とされる)
- "you bastard"(英語で「この私生児野郎」)
スペイン語圏では、母を連想させる「乳(ミルク)」を汚すことで侮辱の意味を表すことがある。
- "Me cago en la leche"(牛乳に糞をしてやるぞ)
アラビア語では"ابن الكلب"(犬の息子)と言って相手の親を侮辱する。この「犬」は母親ではなく父親の事を指しているため、本人の父親を罵る言葉である。したがって英語などと異なり、女性を罵る時は" بنت الكلب"(犬の娘)と言わなければならないが、これは滅多に用いられない。
中国語では「他媽的」という表現があり、魯迅は「国罵」(中国を代表する罵り語)とまで書いている。直訳すれば「あいつの母の」という意味だが、一字省略、一字文字を変えてあり、本来は「お前の母を犯してやる」という意味になる。
また、親や兄弟や親族が禿げていたり、太ったりしていても、子供はからかいのネタにするし、自分や家族や親族に自殺者や引きこもり、被差別部落在住者や身体障害者がいる場合、大人でも侮蔑し、実際に結婚や就職などが破談になったケースもある。
- 親馬鹿 - わが子かわいさのあまり、きちんとした評価が出来ないで、他人から見れば愚かとも思える行ないをすることを侮蔑・揶揄したもの。これに対し「子アホ(阿呆)」というのはそれによって子供の出来が悪くなった(と思える)ことであろうが、こちらは女性週刊誌などが勝手に作った造語だろう。
- 王八蛋(ワンバダン) - 中国(北京)語の王八は亀で、蛋は卵のことを指すので、相手を亀の子孫にして罵る言葉である。「寝取られ亭主」の意も。また、亀児子、亀孫子という言い方もある。
ちなみに、王八蛋の音だけを聞いた日本人がもちこんだのがアンポンタンという言葉。
- こぶ(瘤)付き - 子供を同伴していることに対する侮蔑。「子連れ」も場合によって侮蔑的な意図を含むことがある。「できちゃった結婚」も、結婚する前に子供が「できちゃった」とか、貞操観念の低さ、避妊に対する意識の薄さに対する否定的(批判的)な意味合いが強い。
- バツイチ - 離婚経験者に対する蔑称であるが、それを勲章として捉えている者もいる。
価値観・言動などを否定する
相手の感性や価値観、言動などを否定したり嘲笑することにより侮蔑することがある。以下にいくつか挙げる。
恥に関するもの
- 恥知らず
- 日本語では侮蔑的な表現である。日本は「恥の文化」といわれ、恥と侮蔑は縁が深い。特に母親が「そんなことをしたら自分が恥ずかしいでしょ」などと諭すことはしばしばである。しかしながらこれが言葉による虐待と見なされたり、極めて懲罰的な意図を込めることがある。
- Shame on you
- 英語。そのまま「恥を知れ」。
- 忘八蛋
- 北京語。忠・孝・礼・信・義・廉・悌・智の八徳目を忘れた者、“馬鹿野郎”の意。
挙動・体裁に関するもの
立ち居振る舞いや衣服、言動を馬鹿にした言葉は次のとおり。
- ああ言えばこう言う - いちいち口答えすること。「ああ言えば上祐」の流行語もあったが、被害者の心理を重く見て新語・流行語大賞のノミネートから外された。
- ウザ(った)い - 邪魔くさい。もともとは多摩地域の言葉。
- キモい・キショい - 気持ち悪い、気色悪い
- カマトト
- キョドる - 緊張や人見知りを行動に表している人を「挙動不審」ととらえて動詞化し、侮蔑のタネにすることがある。
- 知ったかぶり - 博識を気取ることを侮蔑する語。話の対象となる物事を知っているようで、まったく頓珍漢なことを罵る。また、ただ単に早とちりすることを嘲る場合は「勘違い」も侮蔑に当たる。
- 素っ頓狂 - いきなり奇声を発したり、突拍子もないことを思いついたりすること。「頓狂」を強めた言い方と見られるが、「狂」うという漢字が含まれる言葉に過剰反応を示し、差別用語と見なされる。
- 何様 - 生意気な言動や立ち居振る舞いに対して、「様付けで呼ばれるほどの身分でもあるまいし、なにを偉そうに」の意で使われる。
- ぶりっ子
- モサい
- モボ・モガ
- ろれ(ロレ)る - 呂律(舌)が回らない様を動詞化することで侮蔑する語。
趣味に関するもの
- キモオタ、キモヲタ - 一般的に拒絶反応を示されやすい趣味を持つオタクに対して使われる。アイドル、ロリコン、美少女アニメ、エロゲー、商業誌や同人誌のエロ漫画、美少女フィギュア、カメラ小僧などが対象になる。単純に容姿が醜い者への侮蔑語として使われる事もある。
- 腐女子、夢見乙女 - 女性オタクに対して使われる。正確にはボーイズラブを好む者が腐女子であるが現在は混同されている。
邪推
- 後ろ指を差す - 後ろから指差して謗ること。陰で悪口を言うこと。「後ろ指を差されないように心がけなさい」とはよく言うが、初めから見ず知らず(かつ不特定多数)の者がそうすることを期待して(疑心暗鬼に勘繰って)いるようで、極めて失礼である。そもそも陰口自体が、言う人に態度の裏表がある事を表している。
- おちょくる・なめる - 馬鹿にすることを詰ったり、責めたりする意を込める。→「おちょくる」は関西の方言に由来。
- 希望的観測 - 「憶測」の中で、前向きな見方。転じて実現できそうにないことを期待させ、楽観的な態度であること。たとえば、消費者金融の取り立てで債務者が返済のあてもないのに「いついつごろまでには何とかできそうなので」といったときなどによく使われる言葉である。
- 誹謗中傷 - 「誹謗」とはそしることの意であり、「中傷」とは事実無根の言い掛かりをつけること。時として発言者にそうした意図があるなしにかかわらず、そうされていると勘違いして「誹謗中傷はやめ給え」と責め立てる事がある。
話し声に関するもの
- ガラガラ声 - いわゆるハスキーボイスを、否定的または侮蔑の意図を込めてこう呼ぶ。「だみ声」とも。
- きいきい声 - 「金切り声」の別称(蔑称)。
- 黄色い声 - 主に女性が挙げる甲高い声。憧れの的となる有名人の元に集まって大人げなくはしゃぐ声。
- 銅鑼声 - 上記「ガラガラ声」と同義語。
- 割れ鐘 - (「割れ鐘のような」の形で)成人男性の野太くて濁った声。
学歴に関するもの
低学歴は、文字通り相手の学歴が中卒、高卒、高校中退、三流大学卒など低い場合に用いられる。学歴社会である日本ではよく用いられる。「この中卒が」「○○大卒のくせに」などと、具体的に相手の学歴を言う場合もある。なお、大学の優劣については、駅弁大学の項目も参照されたい。
- 中坊
- 中学生に対する別称。発音が同じ事から「厨房」と表記されることもある。また、高校生の場合には高坊となり、「攻防」や「工房」と表記され、同様に小学生の場合は小坊となり、「消防」あるいは「生姜臭え」(しょうがくせぇ)と表記される。
尊称を使う
尊敬する気持ちが無いことが明らかなのにあえて尊称を使うこと(いわゆる「慇懃無礼」)により侮蔑の意を示すことがある。しかし、対象の面の皮があまりにも分厚い場合、侮蔑としての役をなさないという難点がある。
- 「○○先生は、いいご身分ですこと!」など。
- 2重敬語の使用。例:「先生様は大変すばらしいお方ですね」「社長さん」など。「先生」「社長」に既に尊敬の意が込められているので、「様」「さん」などの敬称を付ける事で軽蔑する事になる。
- 尊敬の接頭辞である「御(お・ご)」をつけるべきでない文脈であえてつける。例:「お役所」「お荷物」
- 旦那
- 「旦那(だんな、ダンナとも)」は、相手の亭主に対しては親しみを持って用いるが、「○○の旦那」「警察の旦那」などと、揶揄的な意図を含む場合がある。また、妻が自分の夫に対して使う場合は、多少軽んじた意を込める。
- 貴様
- 元は武家の書簡で使われていた敬称(あなた様と同等の意)であるが、江戸時代ごろから口語でも用いられるようになるにつれて尊敬の意味が薄まり、旧日本軍において上官が部下を呼び捨てるために用いたことで、現代では相手を罵って呼ぶ言葉として定着している。ただし、大正・昭和期においても貴様は同輩に対する敬称としての意味を持ち、その様子は映画や軍歌においても描写されている。なお、旧日本軍での用法も元は天皇の子である兵(国民)を預かるという名目上、兵に対して尊称を用いる必要があったことに由来する。
- 御前
- 元は「御前におわす方」、つまり自分より位の高い人物に対する尊称であったが、現代では相手を蔑んだり、親しみの意を込めて呼ぶ際に用いられ、男性語の色合いが強い。時として軽蔑に当たる可能性がある。「御前さん」というと「あんた」に近いが、人によってはどうしてもお前と言われることに抵抗を示すこともあるので、使わないほうがいいかもしれない。
- 君
- きみ : 「君」は、現代では同い年または年下の男女に対して用いる。
- 少なくとも明治時代頃までは相手に対する尊称であり、幕末に尊王の志士によって多用されたが(天皇の元において皆平等であるという水戸思想が反映されたものである)、現在では相手を同等またはやや下に見た二人称になっており、使う相手によっては不快に取られることがある。
- 女性が用いる場合は、教師が教え子に対してとか、母から息子、先輩が後輩などに用いる。なおこれらの立場であっても女同士で用いられることはなく、恋人同士で用いられることは無いと考えられてきたが、今日では女子校で先輩が後輩に使ったり、女友だち同士で「君」と呼び合ったり、おたがい「君」と呼び合うカップルもいる。
- くん : 「○○君」は、現代では主に同等または目下の男子に対する敬称であり、目上の者に対して使われることはない。
- 職場によっては女子に対しても用いられることがあるが、読者層が若者に多いグラビア誌や自動車雑誌でアイドル・投稿者・レースクイーンなどに対して「~クン」と書くのは逆に失礼に当たる可能性がある。
- 「眼鏡くん」「ガリ勉くん」など、侮蔑的な言葉につけて嫌みの意を強調する。「秀才くん」のように揶揄の意を込める場合もある。
- 「~公」
- 本来公爵の爵位を持つ人への尊称であるが、現代では侮蔑的な意味合いとしてよく使われる言葉である、また、特定の国の人に対しても使われる。もっとも盛んに使われたのは1980年代前後の若者の間で、2000年代以降は死語化しつつある。(例、「先公(先生)」「ポリ公(警察官)」「ヤー公(ヤクザ)」「ズベ公(不良少女、語源はブス・阿婆ずれ女を意味する「スベタ」)」「アメ公(アメリカ人)」「イタ公(イタリア人)」「ワン公(犬)」)
- てめえ
- 自分を遜って呼ぶ言葉である「手前」がなまったもので、相手を罵る言葉(いわゆる罵詈雑言)になっている。これに匹敵する呼び言葉として「われ」もある(主に関西などでつかわれる)。
- 天皇
- 俗に「ワンマン」と呼ばれる独裁的な社長や権力者に対する蔑称として「○○天皇」(○○には苗字が入る)のように用いることもある。(例、「服部天皇(服部敬雄)」「黒沢天皇(黒澤明)」「徳田天皇」(徳田球一)」)
- 中南米スペイン語における"vos"
- 中南米のスペイン語ではvosが相手を罵って呼ぶときの言葉として使われる。古いスペイン語ではvosは相手に対する尊称であった。現代スペイン語では vos から派生した vosotros が敬称・親称にかかわらず複数形として用いられている。
当てこすり
- 次の言葉は、侮蔑しているつもりはなくても失礼に当たる言葉、流行語から「ほめ殺し」と呼ばれる言葉。皮肉って使われていた用法がそのまま定着してしまったものが少なくなく、誤用とも変化とも受け取れる。
- 案外・意外に・結構・割と
- いずれも「なかなかやるじゃないか」という意外性に対する感嘆・賛辞の言葉であったが、現代では見くびったり、買いかぶったりしていたのが、実際にはそれ以上の結果を生む(生まない)ことを見直したり、見下したりする場合があるので、遠慮した方がよさそうである。
- 奇特
- 元の意味は感心するべきこと、殊勝であることの意であったが、意味の誤用と、皮肉で使われていた双方の要因が重なって、(1)行いが異常であること。変態のようであること。アブノーマルなさま。(2)物好きであること。好事家のようであるさま - に捉えられるようになり、本来の意味を失ってしまった。週刊少年ジャンプでかつて巻末にあった読者コーナー『ジャンプ放送局』の「奇特人間大賞」などがこうした用法の定着に拍車をかけた部分も否めない。
- 気前がいい
- 金や物を出し惜しみしない、けちけちしないこと。特に、「金に糸目をつけない」の意であるが、今日では借金してまでおごってくれることを見透かしたり、体力的に余裕がほとんどないのに、炎が燃え尽きる最後のようにフルパワーを出し切ることを揶揄したりすることがある。したがって、特に目上の人が大盤振る舞いで会食などで出費を負担してくれた場合は、素直にありがとうございますと感謝した方がよいようである。
- 写真写り
- とりわけ女性に対しては、いずれの場合も失礼に当たる可能性がきわめて大きいため、遠慮すべきである。写真写りが良いというのは英語では"フォトジェニック【photogenic】"とも表現されるが、ともすると「写真に撮れば美人だけど(かわいいけど)…」と受け取られなくもない。逆に「写真写りが悪い」というのは、写真に取られることを生業としている人にとっては屈辱感を与えてしまいかねない。
幼児言葉を使う
幼児に対する言葉遣いを大人にする事で、相手の無分別を嘲笑する事がある。
- 相手を「ちゃん」付けで呼ぶ。
- おこちゃまは、一般に幼児に対して使われる語ではないが、相手を幼児のように扱う意が込められており、侮辱の時にのみ使われる言葉である。
- ちんは、主に幼児や未成年の女子が愛称に用いることが多いが、馬鹿ちん、わからんちんというのは侮蔑である。
- きちゃない、くちゃいは発音が未発達な幼児といえども使わないが、そのことを侮蔑した表現である。
- おつむ(頭)、ぽんぽん(腹)は、現代では幼児は用いないが、「お寝んねしろ」「お前の車えんこ(エンスト)したぞ」と共に、侮辱的な表現にのみ使われる。
- 稀有な例外として、カナダのヌートカ人の間では、背の低い人に対して幼児言葉を使う場合、「あなたは背が低いが、それは恥ずべきことではない」という意味の一種の敬意表現だという(イェスペルセンによる)
格言に関するもの
古来から言い伝えられている諺や格言にも、現代では侮蔑または差別と捉えられる言葉がある。
- その日暮らし
- 働かざる者食うべからず
- 怠け者の節句働き
同音異義語を使った侮辱
日本語では、漢字を輸入した際に同音異義語が多く生じたが、文字表記においてこの特性を生かし、ダブルミーニングによる語呂合わせが蔑称としてよく用いられている。
- 古くは奈良時代や平安時代に和歌や落首で、掛詞という修辞技法を侮辱に応用したものがある。
- 江戸時代のものは多く記録に残っており、最も代表的なものは鳥居耀蔵甲斐守の耀甲斐と妖怪をかけたものがある。
- 現代では新聞の一コマ漫画などの風刺で多く用いられる。
- ネットでは文字ベースの通信が盛んになったため、これらの普及以後は同音異義語の侮辱が数多く出ては消えている。ほとんどネット内のコミュニティでのみ通用する。インターネットスラング、2ちゃんねる用語に詳しい。
英語ではスペル入れ替えや、同じ発音でも単語の境目を変える、などの方法で同音異義語の侮辱を行うことがある(参照:en:Alternative political spelling)。
- 長い単語の中の一部分を切り出すと別の単語になる場合 (Hidden puns) 。無能な大統領に対しpResident(Resident=ただの住人)と揶揄したり、愛国的行動はpatRiot act(Riot act=暴動行為)にすぎないと批判したり、セラピストをthe/rapistと表記し(セラピストは強姦犯)と皮肉る、というように使われる。
- アルファベットの一部を見た目が似た記号に置き換えることがある。最も典型的なものは、対象が金に汚いという意味を込めて、S→$、E→€、L→£など通貨記号で置き換えるもので、マイクロソフト社 (Microsoft,MS) をMicro$oftないしM$と表記する例は世界中で用いられる。日本国内で見られるものとしては日本音楽著作権協会 (JASRAC) をJA$RA¢などと表記する例がある。
- 人種差別への批判として、CやKをKKKに置き換える場合。アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国に対するSouth Afrikkkaという表記例などがある。現在のアメリカ合衆国についても、Amerikkkaとの表記が使われる。
罵詈雑言
罵詈雑言(ばりぞうごん)とは、口を極めた悪口、ありとあらゆる口汚ない罵りの言葉の意で、侮蔑語よりさらに侮蔑および誹謗中傷の意が強まる。ここでは、一般的に男性語として通用する言葉は省き、 場合によっては暴言と見なされたり、誹謗中傷に当たる言葉を採り上げる。
- 相手を貶める表現を使う。
- 相手の行ないを激しく詰ったり、罵ったりする。
- 別な言葉を使ったり、接尾語を付けたりして罵る。
歴史中の侮蔑表現
文学中の侮蔑表現
侮蔑の故事
参考文献
- オットー・イェスペルセン『人類と言語』(改訂増補; Mankind, nation and individual from a linguistic point of view) 須貝清一・眞鍋義雄訳、荻原星文館、1944年