陰毛

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陰毛(いんもう)は、ヒトの陰部生殖器)周辺に生えているである。別名としては恥毛性毛、俗称には男女の区別を設けてそれぞれをチン毛チンチロ毛マン毛メコ毛オメ毛と呼ぶ表現も使われる。

陰毛の生理

第二次性徴期における副腎皮質ホルモン分泌に従い思春期以降、男性は陰茎の増大(男性器の成長のTannerの第3段階)から約1年後、女性は乳房の成長がTannerの分類で第3または4段階(初経の1年前から3年後の間)に達した頃から発生する[1]

殆どの男性は男性器の成長のTannerの第3段階から約1年後に発毛するが、女性は乳房の成長のTannerの第5段階(成人型、初経から3年後以降)になっても発毛が見られないか、僅かしか発毛しない無毛症(かわらけは俗称)の人が僅かながら見られる。無毛症であってもホルモン剤によって発毛させる事や植毛も可能ではあるが、皮下脂肪型肥満を含む肥満視床下部性肥満プラダーウィリー症候群)等の性腺発育不全や放射線治療被曝による副作用後遺症等が原因でなければ健康上の心配はない。また、健康上問題がなく故意に陰毛をそり落としたり、まだ陰毛が生えていない状態の事をパイパンと言う。

陰毛が男性は10歳未満、女性は8歳未満に発生すると、性早熟症と診断される[1]

陰毛の性質

陰毛は一般に縮れ毛であり、陰部に集中して発毛する。陰毛の濃さ、面積等は個人個人の差が大きい。また頭髪と同じく、加齢等によって毛の色が白くなる事もある。生殖器周辺のみにしか発毛しない人がいる一方で、の辺りから臀部まで生える人もいる。

陰毛はTannerの分類で以下の段階で成長していく[1]

  • 第1段階 陰毛なし
  • 第2段階 真っ直ぐ又はややカールした陰毛を見る。男性は陰茎基始部に見られる。女性は大陰唇陰裂)に沿って陰毛が発生するが、最初は大陰唇(陰裂)の内側に見られるため足を揃えた状態では見えにくい。
  • 第3段階 陰毛が硬くカールして、恥骨結合部にまばらに拡がる。
  • 第4段階 陰毛が成人型になるが、大腿中央部までは拡がっていない。女性は恥骨結合をまたいで縦長(菱形)となる。
  • 第5段階 大腿部まで拡がり、逆三角形型となる。日本人女性は第5段階に成らないことが少なくない。

陰毛の色は、基本的に頭髪の色と同じである。ただし頭髪が金髪であっても性器の一部が見えないように黒に染めている場合や、また頭髪はブリーチして金髪茶髪に見えても陰毛は自然な色のままである事もある。頭髪の他にも、眉毛の太さで陰毛の濃い薄いが明らかになることもある。眉毛の濃い人は陰毛も濃いという説もあるが、それはむしろを除いた全身の毛に対して言える事である。

生物学的意味付け

性行為をする為のアイキャッチや性行為ができる体に成長したことを示す為に発毛する、陰毛が生殖器を保護する、男性が興奮する起爆剤の一種である等諸説があるものの現時点では明確にはなっていない。

また霊長類のうち人類だけ体毛の殆どが薄くなっているのに、逆に陰毛が発達しているのは何故なのか等解明されていない事も多い。ただ、陰毛が発育の後期に発生する点から見ても、人類が体毛を失ったあとに、新たに獲得した形質である可能性が示唆されている。

陰毛にまつわる伝説

伝説的な話として、の時代の美女と言われる楊貴妃は陰毛が足に達するくらい非常に長いと言われる話がある。しかし毛乳頭によって毛が造られ一定の期間に渡って伸び、やがて抜け落ちるという毛周期により話程長くなる事はないと考えられる。

また陰毛の生え際の形によって性格や健康状態などが判るという、一種の占いもある。陰毛が濃く広範囲に生えている人は、「情が深い」と言う者もいる。

嘗ての日本では、召集された兵士が妻や恋人の陰毛をお守りとして戦地へ持参したという話やプロ麻雀師が一大勝負に赴く時に懇意の情婦の陰毛を「運気が向上する」とお守りとして持参したという話もあり、これに倣って陰毛が受験や賭け事や勝負事でのお守りになるという言説もしばしば見られる。

科学的な根拠があるという訳ではないこれらの例も神秘的な物と捉える、古い時代からの性器崇拝の名残りであるといえよう。

陰毛とその表現

西洋では宗教による禁欲主義的な思想の影響等から、陰毛や性器の表現が抑制される傾向が古くからあった要出典。しかし、古代ギリシアに造られたアリストパネス喜劇女の平和』には浴場での女性同士の会話として話相手の陰毛が綺麗に脱毛されている事に言及する場面がある。また、イタリアルネサンスの代表的な芸術家であるミケランジェロの彫刻・ダビデ像1504年)には若い男性の陰毛が表現されている。

女性を描いた絵画や彫刻は古代から数多く存在するがはっきりと陰毛が描かれる様になったのは、19世紀後半のギュスターヴ・クールベによる『世界の根源』(1866年)や20世紀の前半に活躍したベルギーポール・デルヴォーの絵画辺りからである。女性の陰毛が表現されるのが遅くなったのは西洋においては古代ギリシャ以来、美しい女性は陰毛を含めて体毛を抜いておくのが身だしなみだとされていた事が大きな要因と考えられる。

日本では、江戸時代春画にしばしば陰毛が描かれているが明治維新後に制定された刑法175条によって陰毛が描かれたものは猥褻であるとされ、メディアにおいてその表現は長い間禁じられていた。しかし東京国際映画祭の招待作品であったジョージ・オーウェル原作の映画『1984』に女性の陰毛が露わになるシーンがあって問題となったが、招待作品である事から特例として映像を修正することなく上映することが認められた。それ以後、いわゆるヘアヌードと呼ばれるヌード写真が刑法で猥褻と見なされることは事実上なくなり映画ビデオなど様々なメディアにおいて陰毛の描写については規制が緩和された。逆に、陰毛規制が行われていた頃には発毛前の少女のヌードには規制が行われなかったものが、むしろチャイルドポルノ規制の強化によって許されなくなった。

テレビなどで放映される時には陰毛が写っているとモザイクぼかしなどによって修正されるが、一部の番組では陰毛が写っていても修正されない場合がある。ビデオによる撮影では陰毛が写っているシーンがあるとモザイクをかけるが、俗に言われる裏ビデオではモザイクによる修正をしない場合が多い。また生放送では陰毛が映っているシーンがあるがいきなり修正することができず、画面を切り替えたりカメラを違う視点に変えたりするなどそれらに対処する術が難しい。このように日本国内での規制・自主規制はいまだに厳しいが、韓国では陰毛の写った媒体を曝け出すと日本よりも厳しい罪に問われることがある。

欧米のほとんどの国々では陰毛や性器を映像とする事自体は自由であり、青少年の目に触れないようにするという観点からの規制が存在するのみである。しかし、国によってはヌーディズムのために裸体でいることを認められた特定の区域以外において人前で陰毛を含めた陰部を見せると犯罪となる場合もある要出典

なおヨーロッパではベネトンエイズ撲滅キャンペーンの一環として数十人の老若男女の陰毛・外性器の写真を並べた新聞広告を出したことがあるが、この時は特段の問題にはなっていない。

この他、雑誌などにおいて人体のことを取り上げ何故陰毛・陰毛が生えてくるのかという記事がしばしば見られる。

陰毛と衛生

毛じらみ症は、陰毛に寄生して繁殖する小さな吸血昆虫であるケジラミが性行為の相手から移ってくることにより発症し、激しい痒みを引き起こす。診察を受け、剃毛して軟膏を塗るなどの治療が必要である。

包茎手術や帝王切開あるいは虫垂炎手術など、性器やそれに近い部位の手術を実施する場合には毛根で雑菌が繁殖して術後の化膿を防ぐために剃毛が行われることがあるが剃毛によって引き起こされる感染症のリスクもあることから、剃毛をできるだけ省いている病院もある[2]切開を伴わない通常の分娩でも剃毛が行われてきたが、意味がないという事から剃毛せずに分娩する医師が増えている。

男性は、仮性包茎包皮に陰毛が引き込まれ(俗にそば食い要出典と呼ばれる状態)、ペニスが動く事により陰毛が引っ張られて痛みを生じることがある。陰毛を包皮から取り出せば済む事であるが、ペニスが陰毛に触れないように分離する構造の下着も発明されている。仮性包茎の手術を勧める広告には、陰毛が包皮内の恥垢に触れることで雑菌の繁殖がうながされることが書かれている場合が少なくない。しかし日常的に性器を洗って清潔にしておく事で解消できる問題であり、商業主義的な広告であるとの見方もある。

女性は排泄の後、トイレットペーパーを使用するにあたっては前から後ろへ向かって拭くように幼児期から育てるべきだというのが常識となっている。これは大便内に存在する大腸菌などが性器やその周辺の陰毛に付着して繁殖しないようにとの配慮からである。

またにあるアポクリン汗腺分泌液によって強い臭いが出るわきがと同様に、陰部のアポクリン汗腺によるすそわきがもある。わきがはわきのアポクリン汗腺を外科的に取り除いてほぼ完全に治すことができるが、すそわきがの場合には永続的な効果のある治療は困難である。陰毛を永久的に脱毛して日常的に陰部をよく洗浄して清潔にしておく事によって、生活に支障のない程度の効果は期待できるようである。

陰毛を剃ることの大切さ

イスラム教では『コーラン』に記載されている通り、陰毛を剃ることを義務づけている。その理由として、衛生的に非常に不潔とされており、オーラルセックス時に口に毛が入ることが好ましくないと考えられており、また蒸れなどで痒みの原因になるとされている。このように、西洋・イスラム圏では、陰毛を剃ることはセックスパートナーへの配慮と自身への配慮を重ねている。

脚注

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