ダウンロード違法化
ダウンロード違法化(ダウンロードいほうか)はこれまで合法だった、違法にアップロードされたコンテンツのダウンロードを違法化することである。
目次
日本
日本では、2010年1月1日より改正施行された著作権法の第二章『著作者の権利』第五款「著作権の制限」第30条の改正による。特にダウンロード違法化規制を会議する小委員会は、私的録音録画小委員会である。
ダウンロード違法化後
2010年1月1日に施行された著作権法の改正により、音声及び映像に関して、違法コンテンツと知りながらダウンロードする行為が違法となった。この改正を機に、以後発売されたコンピュータゲームで、起動時に「ゲームソフトを複製・アップロードすることは違法である」「(違法であることを知りながら)ダウンロードするのは処罰の対象になる」旨の注意書きが表示されるようになった。
基本的に、一般に市販されている商用の著作物(有償著作物)が、プロモーションなどの試供品提供の目的以外で、無償でダウンロードできることはない。クリエイティブ・コモンズ などにより正規に配布されている著作物や、エルマークなどで明示的に販売・配布が許諾されている旨を表示しているサイトを除けば、違法に公開されている疑いがある。違法であるかどうか明確でない場合には、市販されている商用の著作物であるため、該当する著作物の発売元に確認するといった方法がある。一方で、市販されている商用の著作物以外の著作物については、「合法的にアップロードされたもの」かを個人で判断するのは難しく、違法であるかどうかの確認方法が提供されていないことがほとんどである。そのため、ダウンロード違法化では、有償で提供されている商用の著作物が対象になっており、その他の著作物は対象になっていない。
日本国内向けの音楽・映像配信については、レコード会社と映像製作会社が正規に提供するコンテンツを配信するサイトに対して、一般社団法人日本レコード協会は、登録番号を発行するとともにエルマークを発行している[1]。エルマークが提示されていなかったり、登録番号が明示されていなかったりした場合、少なくとも、著作物の販売を委託されている著作隣接権者の団体である一般社団法人日本レコード協会から許諾されていないサイトであり、一般社団法人日本レコード協会に所属している団体に著作物の販売を委託している著作権者の音楽・映像については、違法に公開されているものである可能性が高い。なお、著作物によっては、一般社団法人日本レコード協会ではなく、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)などの他の著作権管理団体による登録番号が明示されている場合もある。
また、違法なダウンロードサイトの運営者は、違法な配信でアクセス数を稼ぎ、アフィリエイト広告で収入を得ているケースが多い。そのため、2012年12月3日には、日本音楽著作権協会(JASRAC)と日本アフィリエイト協議会は、アフィリエイト広告サービス提供事業者(ASP事業者)と連携して、アフィリエイト広告収入を目的とする違法音楽配信サイトに対して広告の掲載停止と広告料の支払停止を行う方針を発表した[2]。
通信の秘密について
違法ダウンロードを取り締まるために、情報機器(PC、スマートフォンなど)やソフトウェア(ウェブブラウザ、メールソフト、ファイル共有ソフトなど)による通信(有線・無線通信)を1台ずつ監視する必要がある。通信を監視することはすなわち傍受することでもあるため、憲法第21条2項で禁止している「通信の秘密」を侵害しかねない問題を抱えている。
インターネットにおける通信に関しては、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)により、著作権の侵害についても、通信ログや通信を行ったものに関する個人情報の提供を裁判所を介してサービス提供者に求めることができる。著作権者はこれらの個人情報に基づき、著作権の侵害の告発と、損害賠償請求を行うことが認められている。なお、著作権を管轄する文化庁は、権利を濫用せず、警告を行っても止めないなどの悪質なケースなどに限って運用するように求めている。
違法ダウンロード刑事罰化
2010年1月1日に施行された改正案では違法コンテンツと知りつつダウンロードした場合の罰則は見送られたが、2012年5月ごろには、罰則を導入することが検討されていた。自民・公明両党は法案提出の党内手続きを早期に完了していたが、民主党内では慎重論が強まり、4月25日の文部科学部会では結論が先送りされた[3]。 日本弁護士連合会は2012年4月27日付で違法ダウンロードに対する刑事罰の導入についての反対を表明した[4]。また、ジャーナリストの津田大介は「罰則が設けられれば、事情を分からない人が1クリックで犯罪者になってしまう恐れがある」と指摘した[3]。 2012年6月4日、インターネットユーザー協会は『違法ダウンロード刑事罰化』について、「法律を完全に理解していない子どもが摘発の対象となる」ことや、「別件捜査が容易になり、プライバシー(通信の秘密)の侵害につながる」ことなどを理由に、反対声明を発表した[5]。
2012年6月15日には、著作権法の改正案について、衆議院本会議において私的違法ダウンロード刑罰化を追加する修正案が提出され、賛成多数で可決、参議院に送付された[6]。刑罰の内容は、「私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権または著作隣接権を侵害する、自動公衆送信を利用して行うデジタル方式の録音または録画を、自らその事実を知りながら行って著作権または著作隣接権を侵害した者は、2年の懲役および200万円の罰金の両方を併科すること」となっている。
2012年6月20日の午前、参議院文教科学委員会は、著作権法改正案を採決の結果、全会一致で本会議に送付した[7]。同日、参議院本会議において、ダウンロード刑事罰化をはじめとして、「アクセスコントロール技術を施したDVDやゲームソフトのリッピングの違法化」や「アクセスコントロール技術を解除する機器やソフトウェアの販売禁止」を盛り込んだ改正案を、賛成多数で可決・成立した[8][9]。同改正案は2012年10月1日に施行されたが、10月1日現在でも利用者からは不安の声が上がっており、弁護士の福井健策は、「軽度の違反は摘発しないなどの慎重な運用と、今後実際に効果があったのかどうか検証が必要」と述べた[10][11]。
刑事罰化から1年が経過した時点で、これらの対応はコンテンツの売上回復に繋がらなかった事が報じられた。2013年9月29日付のNHKの報道によると[12]、WinnyやShareといったファイル共有ソフトウェアの利用は減少傾向にあり、コンテンツのレンタル等で一定の効果が見られた一方、刑事罰化以前と比較して音楽のダウンロード配信が20%以上減少しており、CDやDVD等の売上もやや減少傾向にあるとしている[12]。
刑事罰化直後の2013年DVDのジャンル別シェアで最大の一般向けアニメ販売は刑事罰化以降販売用が14.8%増加し、ネット上での不正ダウンロード対象としても比率の多い地方では地上波放送が無い深夜アニメが売り上げのほとんどを占めるBD(ブルーレイ)は24.6%増加している[13]。
2014年の音楽配信実績は前年度の減少から反転しPCスマホ向けのダウンロード配信とサブスクリプション(定額聞き放題サービス)契約の大幅増となっている[14]。
アノニマスによる抗議行動
違法ダウンロード刑事罰化が可決してから5日後の2012年6月25日、クラッカー集団アノニマスが違法ダウンロード刑事罰化に抗議する内容の声明を発表[15]、同日ごろから日本政府および日本レコード協会などのウェブサイトに対してサイバー攻撃を行った[16]。
アノニマスはサイバー攻撃の途中、霞ケ浦を霞が関と間違えて攻撃するというミスをおかしたが、この間違いを指摘するコメントに対して、Twitterにて「昨日は忙しいだった。でもちょっとミスしました。誤爆ごめんな(笑) やっぱり日本語は難しい。でもみんなは優しい。ミスの説明を言いました。 ありがとう。頑張ります。」と発言した[17]。
日本のアノニマスは、渋谷にて清掃活動をしながら違法ダウンロード刑事罰化について市民に知ってもらうためにリーフレットなどを配布するための「OFF会」を行うと告知した[18]。告知通り2012年7月7日に開催され、50人以上が参加し周辺の歩道を清掃した。この活動は、サイバー攻撃などの過激なものやテロ行為ではなく、あくまで清掃活動を主体としたもので、海外のアノニマスからは、「平和な、日本人的手段だ」と感心する声もあった[19]。
ドイツ
ドイツでは2007年(2008年1月1日施行)の法改正により明文化された。ただしドイツでは、2003年の法改正により「違法な複製からの再複製」は違法となっていたため、もともとダウンロードは違法だったとする説もある。しかし、2003年の改正では「適法に作成されているが、無断でアップロードされた複製からの再複製」は違法とならない可能性があった。このため、2007年の改正により、違法な複製からの再複製に加え、違法に公衆提供された複製からの再複製も違法であることが明確化された[20]。
脚注
参考文献
関連項目
- 日本の著作権法における非親告罪化
- 模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement, ACTA)
- オンライン海賊行為防止法案(Stop Online Piracy Act SOPA)
- 通信の秘密
- 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)
- エルマーク
外部リンク
- STOP!違法ダウンロード - 日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター、演奏家権利処理合同機構MPN、映像実演権利者合同機構の7団体が設立した「STOP!違法ダウンロード広報委員会」のサイト。
- 著作権法の一部を改正する法律 - 文部科学省(新旧対照表あり)
- ↑ エルマークについて|一般社団法人日本レコード協会
- ↑ 違法音楽配信サイト運営者への広告料の支払凍結 | JASRAC
- ↑ 3.0 3.1 (2012年5月5日) 違法ダウンロードに罰則 自公民が検討 反対論も根強く 産経新聞 2012年5月5日 [ arch. ] 2012年5月13日
- ↑ (2012年4月27日) 違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に反対する会長声明 日本弁護士連合会 2012年4月27日 [ arch. ] 2012年4月30日
- ↑ (2012年6月4日) 『違法ダウンロード刑事罰化』について、議員向けの反対声明を発表しました。 インターネットユーザー協会 2012年6月4日 [ arch. ] 2012年6月4日
- ↑ (2012年6月15日) 違法ダウンロードに罰則、今国会中に成立見通し 読売新聞 2012年6月15日 [ arch. ] 2012年6月16日
- ↑ (2012年6月20日) 違法ダウンロード刑罰化、参院文科委で「原案通り可決すべき」 ITmedia 2012年6月20日 [ arch. ] 2012年6月20日
- ↑ (2012年6月20日) 違法ダウンロード刑事罰化・著作権法改正案が可決・成立 10月1日施行へ ITmedia 2012年6月20日 [ arch. ] 2012年6月20日
- ↑ () 平成24年通常国会 著作権法改正等について 文化庁の見解 文化庁 [ arch. ] 2012年7月13日
- ↑ (2012年10月1日) 違法ダウンロードに罰則 改正著作権法きょう施行 北海道新聞 2012年10月1日 [ arch. ] 2012年10月1日
- ↑ (2012年10月1日) 改正著作権法施行 不安の声も NHK 2012年10月1日 [ arch. ] 2012年10月1日
- ↑ 12.0 12.1 (2013-09-29) 刑事罰適用1年 売り上げ回復せず NHKニュース NHK 2013-09-29 [ arch. ] 2013-10-02 (JST)
- ↑ (2014-03-19) 2013年(1月~12月)の販売用・レンタル店用のジャンル別売上 一般社団法人日本映像ソフト協会 2014-03-19 [ arch. ] 2015-02-15
- ↑ (2014-11-21) 2014年有料音楽配信売上実績 一般社団法人日本レコード協会 2014-11-21 [ arch. ] 2015-02-15
- ↑ (2012年6月26日) Anonymousが日本政府とレコード協会に“宣戦布告” 違法ダウンロード刑事罰化に抗議 ITmedia 2012年6月26日 [ arch. ] 2012年7月20日
- ↑ (2012年6月29日) アノニマスの目的は「違法ダウンロード刑事罰化の阻止」 YOMIURI ONLINE 2012年6月29日 [ arch. ] 2012年7月20日
- ↑ (2012年7月3日) サイバー攻撃「アノニマス」霞が関と間違えて霞ヶ浦誤爆―何者か? J-CAST 2012年7月3日 [ arch. ] 2012年7月20日
- ↑ (2012年7月2日) Anonymous、渋谷で“お掃除オフ会”を計画 ITmedia 2012年7月2日 [ arch. ] 2012年7月20日
- ↑ (2012年7月7日) アノニマス、渋谷にあらわる 第1回清掃オフに50人超 ITmedia 2012年7月7日 [ arch. ] 2012年7月20日
- ↑ 前橋奈保子 2012 6-7