人身売買
人身売買(じんしんばいばい)とは、狭義には、人間を金銭などを対価として売買する行為の事である。広義には、労働の搾取、性的搾取、臓器売買等の身体搾取、思想・精神の自由の搾取などへその概念が拡張される。
また、主に西欧圏が問題とする人身売買と、逆に、西欧圏が問題にされる人身売買の二種が区別され、ここではまず、後者の方から解説してゆくことにする。
目次
A 西欧圏が問題にされる人身売買
西欧圏が問題とする人身売買の多くが、労働搾取、身体の搾取(性的)、身体の搾取(臓器売買)にとどまるのに対し、西欧圏が問題とされる人身売買の多くが、思想・精神の自由の搾取、ならびにその人間の業務上の権限を支配するタイプのものである。
ロシアにおけるアメリカ向け養子の問題
米国は99年から約4万5000人のロシア人を養子として引き取り、最大の引受先となってきた。 しかし、養子の虐待や思想の刷り込みなどが問題化し、ロシア下院で、米国民がロシアの子供と養子縁組することを全面禁止する法案条項が、全会一致に近い大差で可決された。
アメリカにおけるベトナム人養子
赤い靴はいてた女の子
フルブライト留学・ローズ奨学金
戦前の東京大学では、主要な講座の初代の教官はいずれもお雇い外国人であり、次代の教授以下はすべてその弟子筋に当たる。(明治期に日本に存在したフリーメーソンロッジの主な会員がお雇い外国人たちであったことはよく知られている)。そのため東京大学では、助教授が教授に就任する前に欧米へ留学して、そこで最終審査を受ける慣例があったが、現在ではこれは行われていない。
戦後になってフルブライト留学という制度が設けられたが、これは成績優秀者をアメリカに送る人身売買制度である。
そのアメリカにも同様の人身売買の形式があり、ローズ奨学金制度がそれで、これは成績優秀者をイギリスへ輸送する。この制度の犠牲者には、クリントン大統領やウォルト・ロストウなど著名な人物が多い。このローズ奨学金をモデルにフルブライト留学制度は制定されている。
松下政経塾
西欧型人身売買の問題点
一般には、労働搾取、身体搾取、精神搾取と順を追って倫理面での問題はより深刻になってゆくが、西欧圏での現状は、労働・身体の搾取までで議論を留め、思想・精神の搾取までは進めない傾向にある。
これは、西欧圏で人身売買の議論を主導しているのが、主にこのタイプの人身売買の犠牲者である点に原因があり、今後の課題であろう。
B 西欧圏が問題とする人身売買
自ら身を売り出したり(借金の返済、親族に必要な金銭の用立てなど)要出典、親が子を、また奴隷状態にある人を売買することもあるが、誘拐などの強制手段や甘言によって誘い出して移送することも多い。人の密輸、ヒューマン・トラフィッキング(Human Trafficking)あるいはトラフィッキング(Trafficking[1])ともいわれ、日本政府はこれを人身取引と表現している。
その目的は、強制労働、性的搾取、臓器移植、国際条約に定義された薬物の生産や取引、貧困を理由として金銭を得る為の手段などにあり、人の移送が国境を越えて行われる場合も多い。1990年代以降、特に1996年の児童の商業的性的搾取に反対する世界会議以降、国際的な人身売買が国際問題として取り上げられることが多くなっている。
現代社会においては、おおむねどの国においても犯罪行為とされており、1949年に発効した国際連合の人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約(人身売買禁止条約)、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国際組織犯罪防止条約)の「人身取引」に関する議定書、さらにジョグジャカルタ原則第11原則に於いても禁止されている。
送出国・中継国・受入国
国際的な人身売買者に関わる国は、送出国・中継国・受入国の三つに分類される。
送出国には政情不安、社会不安、内戦、自然災害、経済状況の変化、差別、周囲や家族からの圧力などの要因(プッシュ要因)があり、また受入国には、性関連のサービスおよび児童との性行為、非合法な臓器移植や実験、テロリスト、過酷な条件下の労働などに対する需要(プル要因)がある。このため非合法な人身取引がビジネスとして成立する。
略取の対象には、反抗する力のない貧困層、少数民族、災害の罹災者、移民などのマイノリティーや、子供が選ばれやすい。これらの対象者は、出生届や身分を証明する書類もなく行政などの保護を受けづらいため、人身売買の対象とされやすい。
2005年のスマトラ島沖地震の際には、大災害の混乱に紛れ、人身売買を目的とした子供の誘拐が多発した[2]。
国際的な取り組み
人身取引議定書
2000年、国際組織犯罪防止条約を補完する議定書として国際連合国連総会で採択、2003年に発行された条約。日本は2005年(平成17年)6月8日、国会で承認した。議定書の締結は条約の締約国であることが条件となっているため、条約が定める組織犯罪に対する国内法整備が進まない日本は議定書の締結にも至っていない。
各国の事例
日本
日本での人身売買に関する最古の記録は『日本書紀』676年(天武天皇5年)の売買許可願いである。下野の国司から凶作のため百姓の子どもの売買の申請が出され、不許可となっている。しかし、この許可願いの存在から、それ以前の売買の存在が推認されている。大宝律令・養老律令でも禁止はなされていたが、密売が行われていた。また奴婢の売買は公認されていた。人買いの語が多く見られるのは鎌倉時代、室町時代である。「撰集抄」には幼童、青年、老人さえ金で売られることが記され、「閑吟集」には「人買船は沖を漕ぐ、とても売らるる身ぢやほどに、静かに漕げよ船頭どの」という歌がある。謡曲では「隅田川」「桜川」などが、古浄瑠璃の山椒大夫とともに有名である。戦国時代、安土桃山時代には、多くの日本人が、大名やポルトガルを始めとするヨーロッパ商人たちによって、奴隷として世界中に売り飛ばされていた。これが豊臣秀吉によるバテレン追放令や、江戸幕府による鎖国体制の原因の一つになったとも言われる[3]。
人身売買は現代においても暴力団が関与して発生したケースもあり、2007年には風俗店の女性従業員が遅刻や無断欠勤を理由に、暴力団員の同風俗店経営者に「罰金」と称して架空の借金(約150万円)を通告され返済を迫られ、女性は拒否して逃走するも同暴力団員に捕らえ、別の風俗店に売り渡される事件が発生、栃木県警が暴力団員と風俗店を人身売買罪を初適用して逮捕・検挙したことが報じられている[4]。
2004年、日本は「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」を経て「人身取引対策行動計画」[5]を発表した。2005年6月には刑法を改正して「人身売買罪」を新設し、人身売買が誘拐と並んで扱われるようになった[6]。出入国管理及び難民認定法も改正され、人身取引などの被害者は、退去強制の対象外となり、また上陸特別許可や在留特別許可を与えて保護するなどの対応に切り替えられた[7][8]。
アメリカ国務省の2011年人身売買報告書[9]では、日本を「Tier2: 人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している国」として挙げている。日本は目的国、供給国、通過国であることが指摘されている。年次報告書によれば、日本企業の実施する「外国人研修・技能実習制度」が、賃金不払い、長時間労働、パスポートを取り上げるなどの不正行為によって移動の制限を行うなどにより、中国、東南アジア出身者の人権を蹂躙したり、暴力団組織が性風俗産業で外国人女性を強制労働させている実態を紹介し、日本政府による対応の不備を指摘した。Tier2の分類は7年連続となる。
警察庁が2001年から行っている人身取引被害者統計によれば、外国人被害者の国籍はタイ、フィリピン、インドネシア、コロンビア、台湾などが多く[10]、勧誘時に説明を受けた職種と実際に従事する職種が異なるなど欺罔を手段とするものが多いとされる[11]。
従来これらの問題に際しては、刑法上の営利誘拐や(外国人の)不法就労、強制労働を禁じた法・売春防止法などで各々のケースに個別対応して、明確な奴隷および人身売買として深刻に対処されていなかったという背景と、これら人身売買被害者の外国人労働者では、このような被害の発覚の時点で不法就労により本国に強制送還され、人身売買加害者側の裁判では被害者を欠いた形で裁判が行なわれることも問題視されていた。アメリカ国務省は依然として日本には未解決の問題が存在していることを指摘している[9]。
朝鮮・韓国
李氏朝鮮では強固な身分社会が築かれており、白丁や奴婢なる被差別階級が存在した。奴婢の人々は主人や政府の所有物とされ、金銭で売買されており、この身分から抜け出すのはかなりの困難を伴った。1894年の甲午改革によって廃止された。
日本統治下の朝鮮において朝鮮人売春斡旋業者による少女の誘拐・人身売買事件(朝鮮南部連続少女誘拐事件)が多発した。犯人は女性業者の場合もあった。また日本軍慰安婦として人身売買が多発し、業者のみならず日本政府も関与していたとする主張があり、現在も日韓で歴史認識論争、外交問題にもなっている。また韓国軍慰安婦にさせられたと主張する女性たちは韓国政府への責任を訴えている。性暴行と殴打、監禁、強制堕胎、性病強制検診、性売買業者主人と警察公務員の癒着不正など、数え上げることも難しい国家犯罪があったとし、韓国は国連人身売買禁止協約(韓国は1962年に発効)をおこなっているが、それは「紙クズ同然」だったとの証言が報道されている[12]。 韓国軍慰安婦 も参照
2014年には、韓国塩田奴隷労働事件が発生し、知的障害者が人身売買され無償労働を強制されていたことが発覚した。
脱北者と人身売買
北朝鮮脱北女性は人身売買の対象となっており、20-24歳の女性は7000元、25-30歳の女性は5000元、30歳以上は3000元で中国などに売られている[13]。
中華人民共和国
中華人民共和国では、毎年、数万人もの児童が誘拐され、売買されている。大半が男児とされる。背景には、一人っ子政策により、子供を多く持ちたくても持てないため、児童を買いたいという需要がある他、児童を買う家族に罰則が存在しないことがあげられる。多くは内陸の貧しい家庭から誘拐され、東部沿岸部の裕福な家庭に売られるという。家族が警察に訴えても、警察は捜査を拒むこともある。中国政府も対策には乗り出していない。児童売買に医師などが関与する例もある[14][15]。また一人っ子政策の規定を超える子供を持ってしまい、罰金を支払えない親が子供を売りに出す例もある。これらは養子縁組という形で売買されている。インターネットでの取引も活発である[16]。 中国政府は児童誘拐年1万人(専門家は7万人)としている[17][18]。
中国では、東南アジアから売られてくる外国人の数も増えているとされる[19]。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国の奴隷制度の歴史 も参照 アメリカ合衆国では、特に南部のプランテーションで黒人奴隷が酷使されていた。西アフリカからアメリカには、1000万人もの奴隷が売られていった。アメリカでは、黒人を家族ごと購入する例があった。人道的な理由からではなく、こうすれば、その家族の子供が次代の奴隷となり、わざわざ奴隷商人から奴隷を買わなくても、奴隷の数を維持できるというのが主な理由であった。一部の州では奴隷制度廃止運動が盛んとなったが、アメリカ全土で奴隷制度が廃止されたのは、1840年、エイブラハム・リンカーンにより奴隷解放宣言、そして南北戦争による北軍が勝利した後のこととなる[20]。黒人以外にも、苦力と呼ばれた中国人など世界各地の有色人種が、労働力としてアメリカに売られていった。日本でも、石垣市にある唐人墓に眠る清人の悲劇などが伝わっている。
しかし、奴隷制が廃止されても、有色人種に対する苛烈な差別は根強く残り、現在でも根絶されていない。また、現在でも中南米などから女性を売買し、搾取する人身売買組織が存在する[21]。
アメリカ国務省の視点
en:Category:Human trafficking by country も参照
アメリカ国務省は、「人身売買に関する年次報告書」を毎年発表している[22]。Tier2 WatchListと最低ランクのTier3は監視対象国である。アメリカの貿易促進権限法で、Tier3の国との通商協定を結べないことになっており、例えばTier3の国はTPPに加盟できない[23]。
Tier1 | 基準を満たす |
---|---|
Tier2 | 基準は満たさないが努力中 |
Tier2 WatchList | 基準は満たさないが努力中で被害者数が顕著、かつ前年より改善が見られない、または次年以降の改善を約束しない |
Tier3 | 基準を満たさず努力も不足 |
2015年
2015年国務省報告書によるランキング[24]は以下の通り。
- Tier1:オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、イスラエル、イタリア、ニュージーランド、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ合衆国、大韓民国、台湾等、31の国と地域
- Tier2:アフガニスタン、アルバニア、アンゴラ、アルゼンチン、バングラデシュ、バーレーン、ベニン、ブラジル、コロンビア、クロアチア、キプロス、エクアドル、ジョージア、ギリシア、ホンジュラス、ハンガリー、インド、インドネシア、イラク、ヨルダン、ケニア、コソボ、メキシコ、モンゴル、モンテネグロ、モロッコ、オマーン、パラオ、ペルー、フィリピン、ルーマニア、ルワンダ、セルビア、スロベニア、トーゴ、トルコ、アラブ首長国連邦、ウルグアイ、ベトナム、ザンビア、日本、香港等、89の国と地域
- Tier2 WatchList: ボリビア、ブルガリア、ビルマ、カンボジア、中華人民共和国、キューバ、エジプト、ガーナ、ハイチ、ジャマイカ、ラオス、レバノン、マレーシア、マリ、パキスタン、カタール、サウジアラビア、スリランカ、スーダン、タンザニア、チュニジア、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタン等、44の国と地域
- Special Case: ソマリアのみ