「格差社会」の版間の差分
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+ | 大元には、「何を格差ととらえるか」という国民の意識の変化がある。そして、意識の変化には社会の変化が影響を与えている。 | ||
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+ | === 経済構造の変化 === | ||
+ | 高度成長から低成長への変化、工業製品の大量生産・大量消費の[[オールドエコノミー]]から情報やサービスを重視する[[ニューエコノミー]]への変換、IT化、グローバル化により、企業の求める社員像は、「多数の熟練社員(多数の学生を採用し、[[OJT]]によって育て上げ、熟練職員にしていく)」から、「少数の創造的な社員と、多数の単純労働社員」とに変化していった。この流れは、[[バブル崩壊]]による長期不況及び、1997年の[[山一証券]]の破綻に端を発した金融不安に対応する社会経済の構造改革などによって加速した。[[年功序列制度]]の廃止、[[正社員]]の[[ベアゼロ]]などの給与抑制や採用抑制、人員削減が行われ、パートタイマー・アルバイトや契約社員などの賃金が安い[[非正規雇用]]者が増加した。全雇用者に占める非正規雇用者の割合は、1980年代から増加傾向で推移しており、[[2008年]]には全雇用者の34.1%を占めている。 | ||
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+ | 企業の求める社員の像、規模が変化したことにより、企業に人材を送り出す、学校を取り巻く状況も変化した。企業が多数の[[正社員]]を必要としなくなったため、良い大学を出ても、良い企業に採用してもらえるとは限らなくなった。また、各個人の価値観も多様なものとなり、学生の方でも、必ずしも一流大企業と言われる企業を望まなくなった。これにより、「良い大学を出て、良い企業に入る」というシステムがうまく働かなくなった。 | ||
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+ | また、受験競争の過熱もあって、[[塾]]や[[予備校]]などが普及し、[[小学校|小]]・[[中学校|中]]・[[高等学校|高校]]における[[公立学校]]の地位は[[国立学校]]・[[私立学校]]に比べて低下しており、一般に一流と言われるような難易度や社会的評価の高い大学に進学するには、義務教育や公立校によってなされる授業のみでは難しくなっており、保護者にある程度の資力がないと教育に要するコストを十分負担することが出来なくなっている。 | ||
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+ | === 家庭の変化 === | ||
+ | 「大家族で、夫が外で働き、妻は専業主婦として家事をこなす」というモデルが主流であった頃は、以下のような対策を取ることによって社会リスクを回避し、格差を顕在化させなかった。 | ||
+ | ;収入低下のリスク | ||
+ | :家庭の稼ぎ手は夫のため、年功序列制度によって将来の収入増の見通しを立てるとともに、夫が亡くなった場合は[[遺族年金]]などによって収入をカバーしていた。 | ||
+ | ;老化のリスク | ||
+ | :老化し働けなくなった場合は、子供に養ってもらうことによって生活することを前提としていた。 | ||
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+ | だが、この家庭モデルは、核家族化、[[離婚]]増による母子家庭化によって崩れていく。さらに、「社会リスクを回避するためのもの」だった家庭は、変化によって逆に「社会リスクを増幅し、格差を生産するためのもの」へとその役割を変えていった。 | ||
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+ | ;夫、妻の父母が裕福かどうか | ||
+ | :裕福な父母がいれば、援助が受けられるが、貧しい父母がいれば、介護をしなければならず、負担となる。 | ||
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+ | === 格差が発生するタイミング === | ||
+ | 格差は、人生の中で主に3つの段階で発生する。 | ||
+ | ;就職のタイミング | ||
+ | :[[就職]]は生涯の収入に深く関わるため、就職に失敗すると格差が生じる。特に日本のように新卒採用に偏っていると、[[再チャレンジ]]の機会が少なく、格差が固定化されやすい。 | ||
+ | ;出産・育児のタイミング | ||
+ | :出産・育児の時期は労働機会が減るため、リスクにさらされたときに格差が生じやすい。 | ||
+ | ;高齢化のタイミング | ||
+ | :老人になると、収入が増える機会が激減する一方で、健康を害するなどリスクが高まる。さらに「子供がいる・いない」「家がある・無い」「蓄えがある・無い」といった状況の違いが人によってあるため、格差が生じやすくなる。 | ||
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+ | === 企業規模に起因する格差 === | ||
+ | 日本では、学歴よりも、企業の収益規模によって格差が生じている面がある。例えば、年収.COMによる「賃金構造基本統計調査-平成15年版-」を参考にした企業規模による生涯賃金のシミュレートでは、『大卒男子の場合、従業員1000人以上の企業が3億2755万円であるのに対して、同100~999人規模の企業が2億8160万円、同10~99人規模の企業では2億3029万円となっています。単純にいえば、大企業と小企業とでは生涯賃金に1億円近い差がつくことになります。同じく高卒の場合には、従業員1000人以上の企業が2億7438万円、 100~999人規模の企業が2億1466万円、10~99人規模の企業が1億8452万円と、こちらも約9000 万円の格差が生じています。』とあり、企業規模が大きければ、学歴が高卒であっても企業規模の小さい大卒者よりも生涯賃金で4000万円近く上回ることとなる。 | ||
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+ | [[欧米]]は給与体系が産業横断的な[[職務給]]であるため、企業規模による格差は少ない。 | ||
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+ | == 格差の再生産・固定化 == | ||
+ | === 固定化 === |
2011年4月30日 (土) 10:51時点における版
格差社会(かくさしゃかい)とは、ある基準をもって人間社会の構成員を階層化した際に、階層間格差が大きく、階層間の遷移が不能もしくは困難である(つまり社会的地位の変化が困難、社会移動が少なく閉鎖性が強い)状態が存在する社会であり、社会問題の一つとして考えられている。
学問的には、社会学における社会階層研究や、教育社会学における不平等や地位達成研究(進学実績、教育志望、職業志望研究)、経済学における所得や資産の再分配研究と関連している。
目次
世界的傾向
国際通貨基金の報告書『World Economic Outlook Oct.2007』(世界経済概要2007年10月版)では、過去20年間の傾向として、ほとんどの国や地域で所得の国内格差が拡大しているという。
主因としては「技術革新」と「金融のグローバル化」を指摘している。一方で、よくいわれる「(貿易自由化といった)経済のグローバル化」については、「格差拡大と有意ではない」として疑問視している。
主要国の状況
- 国際通貨基金報告『World Economic Outlook Oct.2007』
ある国における最高所得層と最低所得層との比(最高所得層が、最低所得層の何倍いるか)は以下のとおり。ちなみに日本は、報告書の対象としている国の中で、一番低い値となっている。
国名 | 比率 | 対象年 |
---|---|---|
ブラジル | 23.45 | 2003 |
中国 | 12.20 | 2004 |
メキシコ | 11.25 | 2004 |
アメリカ | 8.63 | 2000 |
ロシア | 7.65 | 2002 |
イギリス | 6.67 | 1999 |
インド | 5.51 | 2003 |
フランス | 4.11 | 2001 |
日本 | 2.28 | 2004 |
貧困率(全体の中央値の半分以下の所得を得ている者の割合)及び順位は以下のとおり。日本は、加盟国の中ではアメリカに次いで二位となっている。
順位 | 国名 | 貧困率 |
---|---|---|
1位 | アメリカ | 13.7 |
2位 | 日本 | 13.5 |
3位 | アイルランド | 11.9 |
8位 | イギリス | 8.7 |
資料出所:IMF『World Economic Outlook Oct.2007』
総務省の発表によれば、2004年の日本のジニ係数は0.278で、1999年より0.005上昇したとされる(しかし逆に家計調査では1999年より0.018減少している)。これは比較可能なOECD加盟国24か国の中で上から12位に位置し、国際的に中位に位置すると同省は評価している。
経団連の発表によれば、2000年の成人一人当たり純資産のジニ係数は、G7中最も低い0.547であり、日本はG7中最も保有資産の格差が少ない国となっている。
順位 | 国名 | ジニ係数 |
---|---|---|
1位 | アメリカ | 0.801 |
2位 | フランス | 0.730 |
3位 | イギリス | 0.697 |
4位 | ドイツ | 0.671 |
5位 | カナダ | 0.663 |
6位 | イタリア | 0.609 |
7位 | 日本 | 0.547 |
- 経団連資料:豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方
日本
現代日本の社会で「格差」を言う場合、主に経済的要素、それも税制や社会保障による再分配前の所得格差を指していることが多い。ここでは経済的要素 に関する格差社会および格差拡大について詳説する。
1998年頃に中流崩壊が話題となり、格差社会論争が注目されるようになった。主として社会的地位、教育、経済の3分野の格差が議論となっている。2006年の新語・流行語大賞の上位にランクインしている。日本社会が平等かつ均質で、一億総中流と言われていた時期(高度成長期からその後の安定成長期頃まで)においては、所得面での格差社会が問題になることはなかった(ただし、諸外国と比較すると1980年代の日本の収入格差は大きかったという指摘がある)。バブル期には、主に株価や地価の上昇(資産インフレ)を背景として「持てる者」と「持たざる者」との資産面での格差が拡大し、勤労という個人の努力とは無関係に格差が拡大したとして、当時問題視されることが多かったが、その後のバブル崩壊による資産デフレの進行とともに資産面での格差は縮小した。
2000年代に格差社会がテーマとして取り上げられている際は、一定の景気回復を前提とした上で、企業利益・賃金の増加のアンバランスないしは、その陰で進行している不具合という視点が取られることが多い(1997年から2007年の間に、企業の経常利益は28兆円から53兆円に増加したが、従業員給与は147兆円から125兆円に減少している)。2010年版『労働経済白書』では「大企業では利益を配当に振り向ける傾向が強まり、人件費抑制的な賃金・処遇制度改革が強められてきた側面もある。こうした中で、正規雇用者の絞り込みなどを伴う雇用形態の変化や業績・成果主義的な賃金・処遇制度が広がり、賃金・所得の格差拡大傾向が進んできた』と指摘している。マスコミや野党などは、当初、単に格差社会を指摘するものであったが、次第に格差の拡大、世襲化という点を強調する傾向が強まっている。 格差社会を指摘する場合は、他国との比較において日本の格差社会は顕著なものかどうかという視点が取られることが多いが、格差拡大を指摘する場合は、過去の格差状況との比較が中心的な視点となる。
小泉政権期のあいだに一種のブームとして種々のメディアを賑わせたこの言葉は、それになぞらえる概念、例として恋愛格差などの様々な概念の生みの親ともなった。
ただし、小泉政権以前から存在していた以上の格差が存在するようになったのか、格差が拡大しているのか、については争いがある(例えば、小泉内閣(2001年〜2006年)において、正規雇用が190万人減り、非正規雇用は330万人増えた。そのため、小泉内閣によって非正規雇用者の増加が進んだと言われる事があるが、統計では小泉内閣以前から増加している)。総務省の全国消費実態調査によると近年、所得格差の拡大傾向が見られる。世帯主の年齢別では50代以下の世帯で格差が拡大している一方、60代以上の世帯では格差が縮小している。
また、格差の実態を調査するため、様々な主体によって様々な統計が取られている。しかし、格差が存在するか否か、現在どの程度の格差が存在するか、ということはある程度分かりやすいものの、その格差が問題のあるものか否か、階層間の遷移が不能もしくは困難となっているか否か、というような評価については論者によっても異なり、明確なものではない。
なお、諸外国との比較では、日本の格差は非常に小さいという(『World Economic Outlook Oct.2007』)。
過去の日本の格差社会については#過去の日本の格差社会を参照のこと。
注目の契機
1997年を頂点に始まった正社員削減、サービス業製造業における現業員の非正規雇用への切り替えにより、就職難にあえぐ若年層の中から登場した、安定した職に就けないフリーターや、真面目に働きながら貧困に喘ぐワーキングプアといった存在が注目されるようになったこと、ジニ係数の拡大や、ヒルズ族などセレブブームに見られる富裕層の豪奢な生活振りが盛んに報じられるようになったことなどを契機として、日本における格差社会・格差拡大が主張されるようになった。
また同時に盛んに報じられるようになった言葉にニートがある。これは失業や貧困が増大する社会で、それに苦しむ貧困層や失業者が、自分達よりさらに下の長期的な失業者に不満や憎悪を向けるモラルパニックと言われる現象であり、格差社会の深刻さを示す現象だと言える。
地域による格差
県民経済計算を使用してジニ係数を作成すると、県民所得は1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。県内総生産でも1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。
ただし、地域格差については「東京はにぎわっているが、地方は停滞している(実際には、東京都の中でもさらに自治体によって格差がある)」「名古屋は、日本で一番栄えている(デンソー、アイシン精機など多数の自動車関連工場があるにもかかわらず、シャッター通り等、地方も真っ青の駅前の寂れっぷりを誇る刈谷市や、一人当たりの所得は高いはずなのに、床面積当たりの売上が低迷している名古屋市など、必ずしも好況とは言い難い)」など、実態と乖離したイメージで語られることが非常に多い。
もともと、地方によって産業構造、人口分布が異なっていることから、地方によって財政状況に差があるのは当然である。このため、従来から公共事業や補助金によって、再配分が行われてきた。しかし近年、公共事業や補助金は世論の求めや財政赤字の拡大の中で削減されており、これまで国が地方へ回していた予算や地方交付税が大幅に減らされたため、積み重ねられた地方債などの借金の負担と相まって、財政状況が苦しくなる地方自治体が相次いでいる。
2006年には北海道夕張市が財政再建団体(事実上の自治体の“倒産”)に転落し、深刻な地方自治体の財政状況が明らかになった。自民党内部には「夕張市の破綻は自己責任」とする主張も根強いが、中央集権の行財政システムを背景とする中央政府の責任転嫁ではないかとの指摘も出されている。なお、その後夕張市以外にも日本各地に複数の“転落予備軍”の自治体が確認されており、「第2の夕張」の懸念がなされている。
もっとも、地方自治体については「自治体や住民に経営センスが無く、怠慢・無為無策であることが、地域経済を停滞させている」と藻谷浩介(日本政策投資銀行地域振興部参事役)は指摘している。
- 刈谷市を例に挙げれば、多数の工場があり、労働者が駅を利用するにもかかわらず、駅前の土地を所有する地主が地価の上昇を当て込んで土地を手放そうとせず、駐車場として運用している結果、駅からは空き地があちこちに散見される状況になっている。
- 夕張市を例に挙げれば、夕張メロンという特産品があるにもかかわらず、関連商品の企業を市内に持たなかった(例えば夕張メロンゼリーで有名な株式会社ホリは砂川市にある。夕張メロンの生産に必要な道具等も、市内に企業等はないという)。その結果、夕張メロンが売れてもその利益が市や地元に還元されない状況となった。
産業間・企業規模における格差
企業の収益について見ると、各産業間の好不況に加えて、企業規模によっても収益力に格差が生じている。中小企業は、大企業に比べ収益の増加がそれほどでもない。
過去の日本の格差社会
- 五色の賤(律令時代)
- 貴族(平安時代〜昭和初期)
- 士農工商(江戸時代。ただし内職無しには食えない公家・武士も存在するなど貧富の格差と身分の格差にはずれがあった)
- 四民平等(江戸時代の身分制度を廃止した、明治時代の政策)
格差の発生の背景・原因
大元には、「何を格差ととらえるか」という国民の意識の変化がある。そして、意識の変化には社会の変化が影響を与えている。
また、実態を適切に把握せずに、イメージ論で語る状況もあるという。
経済構造の変化
高度成長から低成長への変化、工業製品の大量生産・大量消費のオールドエコノミーから情報やサービスを重視するニューエコノミーへの変換、IT化、グローバル化により、企業の求める社員像は、「多数の熟練社員(多数の学生を採用し、OJTによって育て上げ、熟練職員にしていく)」から、「少数の創造的な社員と、多数の単純労働社員」とに変化していった。この流れは、バブル崩壊による長期不況及び、1997年の山一証券の破綻に端を発した金融不安に対応する社会経済の構造改革などによって加速した。年功序列制度の廃止、正社員のベアゼロなどの給与抑制や採用抑制、人員削減が行われ、パートタイマー・アルバイトや契約社員などの賃金が安い非正規雇用者が増加した。全雇用者に占める非正規雇用者の割合は、1980年代から増加傾向で推移しており、2008年には全雇用者の34.1%を占めている。
学校システムの機能不全
企業の求める社員の像、規模が変化したことにより、企業に人材を送り出す、学校を取り巻く状況も変化した。企業が多数の正社員を必要としなくなったため、良い大学を出ても、良い企業に採用してもらえるとは限らなくなった。また、各個人の価値観も多様なものとなり、学生の方でも、必ずしも一流大企業と言われる企業を望まなくなった。これにより、「良い大学を出て、良い企業に入る」というシステムがうまく働かなくなった。
また、受験競争の過熱もあって、塾や予備校などが普及し、小・中・高校における公立学校の地位は国立学校・私立学校に比べて低下しており、一般に一流と言われるような難易度や社会的評価の高い大学に進学するには、義務教育や公立校によってなされる授業のみでは難しくなっており、保護者にある程度の資力がないと教育に要するコストを十分負担することが出来なくなっている。
家庭の変化
「大家族で、夫が外で働き、妻は専業主婦として家事をこなす」というモデルが主流であった頃は、以下のような対策を取ることによって社会リスクを回避し、格差を顕在化させなかった。
- 収入低下のリスク
- 家庭の稼ぎ手は夫のため、年功序列制度によって将来の収入増の見通しを立てるとともに、夫が亡くなった場合は遺族年金などによって収入をカバーしていた。
- 老化のリスク
- 老化し働けなくなった場合は、子供に養ってもらうことによって生活することを前提としていた。
だが、この家庭モデルは、核家族化、離婚増による母子家庭化によって崩れていく。さらに、「社会リスクを回避するためのもの」だった家庭は、変化によって逆に「社会リスクを増幅し、格差を生産するためのもの」へとその役割を変えていった。
(例)
- 夫、妻の父母が裕福かどうか
- 裕福な父母がいれば、援助が受けられるが、貧しい父母がいれば、介護をしなければならず、負担となる。
格差が発生するタイミング
格差は、人生の中で主に3つの段階で発生する。
- 就職のタイミング
- 就職は生涯の収入に深く関わるため、就職に失敗すると格差が生じる。特に日本のように新卒採用に偏っていると、再チャレンジの機会が少なく、格差が固定化されやすい。
- 出産・育児のタイミング
- 出産・育児の時期は労働機会が減るため、リスクにさらされたときに格差が生じやすい。
- 高齢化のタイミング
- 老人になると、収入が増える機会が激減する一方で、健康を害するなどリスクが高まる。さらに「子供がいる・いない」「家がある・無い」「蓄えがある・無い」といった状況の違いが人によってあるため、格差が生じやすくなる。
企業規模に起因する格差
日本では、学歴よりも、企業の収益規模によって格差が生じている面がある。例えば、年収.COMによる「賃金構造基本統計調査-平成15年版-」を参考にした企業規模による生涯賃金のシミュレートでは、『大卒男子の場合、従業員1000人以上の企業が3億2755万円であるのに対して、同100~999人規模の企業が2億8160万円、同10~99人規模の企業では2億3029万円となっています。単純にいえば、大企業と小企業とでは生涯賃金に1億円近い差がつくことになります。同じく高卒の場合には、従業員1000人以上の企業が2億7438万円、 100~999人規模の企業が2億1466万円、10~99人規模の企業が1億8452万円と、こちらも約9000 万円の格差が生じています。』とあり、企業規模が大きければ、学歴が高卒であっても企業規模の小さい大卒者よりも生涯賃金で4000万円近く上回ることとなる。
欧米は給与体系が産業横断的な職務給であるため、企業規模による格差は少ない。