「格差社会」の版間の差分

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== 格差の再生産・固定化 ==
 
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[[大阪大学]]社会経済研究所教授[[大竹文雄]]の「賃金格差拡大に耐えられる社会に」の中では次のように著述されている。
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{{quotation|「[[ニューヨーク大学]]のフリン氏は、一時点の賃金格差は米国の方が[[イタリア]]よりもはるかに大きいにもかかわらず、生涯賃金の格差は両国でほぼ同じであることを示している。[[転職]]が比較的容易な米国においては、現在の賃金水準が低くても、転職によってよりよい条件の仕事に将来就く可能性があり、生涯賃金でみると賃金格差は、一時点での賃金格差に比べると小さくなる。これに対し、転職が困難だったり、将来の賃金上昇の可能性が小さい社会においては、現在の賃金格差が永続的に続くことになるため、 現在の賃金格差はそのまま生涯賃金の格差となってしまうのである。」}}
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[[経済協力開発機構]](OECD)は[[2008年]]に「日本は若者が安定した仕事につけるよう、もっとやれることがある」と題した報告書の中で、「正規・非正規間の保護のギャップを埋めて、賃金や手当の格差を是正せよ。すなわち、有期、パート、派遣労働者の雇用保護と社会保障適用を強化するとともに、[[正規社員の解雇規制緩和論|正規雇用の雇用保護を緩和せよ]]」と勧告を行っている。
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=== 貧困の文化 ===
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[[1960年代]]以降の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]では「[[貧困の文化]]」という概念が提示され、格差の再生産・固定化に強く関与していると言われている。「貧困の文化」とは貧困者が貧困生活を次の世代に受け継ぐような生活習慣や世界観を伝承しているサブカルチャーであり、このサイクルを打破することが格差社会を解決するために不可欠だ、という考えが広がっている。この概念は人類学者オスカー・ルイスの著書「貧困の文化―メキシコの“五つの家族”」からその名を取る。民主党のモニハン上院議員のレポートなどに採用され、アメリカの対貧困政策に大きな影響を与えている。日本ではまだ広く認識されていない。
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しかし貧困の文化の概念には、人類学者や社会学者などから数多くの批判がなされており、しかも現実のデータとあっていない(Goode and Eames, 1996)。またこの概念は本来発展途上国を対象としたものである為、先進国の政策に応用するのは不適切な面がある。さらに「貧困の文化」論は、格差問題を貧困層の自己責任論に押し込んでしまうという批判もある。
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また、[[ワーキングプア]]のように勤勉な労働者でありながら、労働条件や環境が劣悪なために貧困に陥ってしまうといった社会現象を説明できないとされる。
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=== 教育による階層化 ===
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詳しくは[[中高一貫教育#中高一貫教育のメリット・デメリット|中高一貫校#問題点]]を参照
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教育により、階層化が進むという指摘もある。
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[[山田昌弘]]は
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{{quotation|「勉強をして良い大学に入れば、良い企業に入れるといった社会の仕組み('''パイプラインシステム''')が、社会がリスク社会になることによって十分に機能しなくなった。一方で、パイプラインシステムは機能停止はしていないので、勉強すれば報われると思っている人は、勉強をすることによって良い企業に行く傾向にある一方で、勉強しても効果はないと思っている人は、勉強をせず就職もうまくいかなくなる傾向にある」}}
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と指摘している。
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これに関連して、[[内田樹]]は
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{{quotation|「上流階層は努力が報われると信じており、下流階層は努力をしても意味はないと信じている。<br/>(下流「勉強をしても良い企業に入れるとは限らない。だから勉強をする必要はない」と、上流「そもそも勉強をしなければ良い企業には入れない。だから勉強をする」の違い)</br>子供は自分が所属する階層の価値観に従うため、上流階層の子供は勉強をする一方で、下流階層の子供はむしろ勉強を否定することに価値を見いだす。こうして階層化は加速度的に進行した」}}
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と述べている。
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データとしては[[収入]]の高い家庭ほど進学率が高いという調査結果がある。一流大学への進学は私立の名門[[中高一貫校]]が有利だが、学費が高額であり[[入学試験]]に合格するための[[学習塾]]の学費も無視できない金額である。
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これに対し、公立校の中にも中高一貫校があり、その学費が安いが、これについて[[藤田英典]]は「小学生が自主的に遠くの公立中高一貫校を選ぶことはありえず、親の関心・選択が優先することとなり、公立中高一貫校は教育熱心な恵まれた家庭の生徒ばかりになる」と指摘している。
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また、[[国立学校]]については、学費は公立と同様に安いが、入学者の選抜には学力試験があるため、その入試に向けて教育熱心であり、学習塾等の費用をまかなえる経済力のある家庭の優秀な子弟が集まる傾向にあり、特に都市部においては私立名門校と同じように[[エリート|エリート校]]化している。
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ただし、日本では高卒と大卒の生涯賃金の差は先進国でも非常に低い部類に入る。
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===「上離れ」と「底抜け」===
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格差には、上位層がますます良くなる「上離れ」と、下位層がさらに落ち込む「底抜け」(例えば[[ワーキングプア]]など)がある。このうち、「底抜け」の増加が、社会に与える不安が大きくなる。
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「底抜け」層は
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*収入が低い
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*努力が報われないと思う
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などの特性を持つため、この層の増加は、社会の活力が失われたり、犯罪の増加などにより社会が不安定化する。
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== 格差の是正 ==
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=== 均等待遇 ===

2011年4月30日 (土) 10:55時点における版

格差社会(かくさしゃかい)とは、ある基準をもって人間社会の構成員を階層化した際に、階層格差が大きく、階層間の遷移が不能もしくは困難である(つまり社会的地位の変化が困難、社会移動が少なく閉鎖性が強い)状態が存在する社会であり、社会問題の一つとして考えられている。

学問的には、社会学における社会階層研究や、教育社会学における不平等や地位達成研究(進学実績、教育志望、職業志望研究)、経済学における所得資産の再分配研究と関連している。

世界的傾向

国際通貨基金の報告書『World Economic Outlook Oct.2007』(世界経済概要2007年10月版)では、過去20年間の傾向として、ほとんどの国や地域で所得の国内格差が拡大しているという。

主因としては「技術革新」と「金融のグローバル化」を指摘している。一方で、よくいわれる「(貿易自由化といった)経済のグローバル化」については、「格差拡大と有意ではない」として疑問視している。

主要国の状況

国際通貨基金報告『World Economic Outlook Oct.2007』

ある国における最高所得層と最低所得層との比(最高所得層が、最低所得層の何倍いるか)は以下のとおり。ちなみに日本は、報告書の対象としている国の中で、一番低い値となっている。

国名 比率 対象年
ブラジル 23.45 2003
中国 12.20 2004
メキシコ 11.25 2004
アメリカ 8.63 2000
ロシア 7.65 2002
イギリス 6.67 1999
インド 5.51 2003
フランス 4.11 2001
日本 2.28 2004
経済協力開発機構2000年の統計

貧困率(全体の中央値の半分以下の所得を得ている者の割合)及び順位は以下のとおり。日本は、加盟国の中ではアメリカに次いで二位となっている。

順位 国名 貧困率
1位 アメリカ 13.7
2位 日本 13.5
3位 アイルランド 11.9
8位 イギリス 8.7

資料出所:IMF『World Economic Outlook Oct.2007』

総務省の発表によれば、2004年の日本のジニ係数は0.278で、1999年より0.005上昇したとされる(しかし逆に家計調査では1999年より0.018減少している)。これは比較可能なOECD加盟国24か国の中で上から12位に位置し、国際的に中位に位置すると同省は評価している。

経団連の発表によれば、2000年の成人一人当たり純資産のジニ係数は、G7中最も低い0.547であり、日本はG7中最も保有資産の格差が少ない国となっている。

順位 国名 ジニ係数
1位 アメリカ 0.801
2位 フランス 0.730
3位 イギリス 0.697
4位 ドイツ 0.671
5位 カナダ 0.663
6位 イタリア 0.609
7位 日本 0.547
経団連資料:豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方

日本

現代日本の社会で「格差」を言う場合、主に経済的要素、それも税制や社会保障による再分配前の所得格差を指していることが多い。ここでは経済的要素 に関する格差社会および格差拡大について詳説する。

1998年頃に中流崩壊が話題となり、格差社会論争が注目されるようになった。主として社会的地位教育経済の3分野の格差が議論となっている。2006年新語・流行語大賞の上位にランクインしている。日本社会が平等かつ均質で、一億総中流と言われていた時期(高度成長期からその後の安定成長期頃まで)においては、所得面での格差社会が問題になることはなかった(ただし、諸外国と比較すると1980年代の日本の収入格差は大きかったという指摘がある)。バブル期には、主に株価や地価の上昇(資産インフレ)を背景として「持てる者」と「持たざる者」との資産面での格差が拡大し、勤労という個人の努力とは無関係に格差が拡大したとして、当時問題視されることが多かったが、その後のバブル崩壊による資産デフレの進行とともに資産面での格差は縮小した。

2000年代に格差社会がテーマとして取り上げられている際は、一定の景気回復を前提とした上で、企業利益・賃金の増加のアンバランスないしは、その陰で進行している不具合という視点が取られることが多い(1997年から2007年の間に、企業の経常利益は28兆円から53兆円に増加したが、従業員給与は147兆円から125兆円に減少している)。2010年版『労働経済白書』では「大企業では利益を配当に振り向ける傾向が強まり、人件費抑制的な賃金・処遇制度改革が強められてきた側面もある。こうした中で、正規雇用者の絞り込みなどを伴う雇用形態の変化や業績・成果主義的な賃金・処遇制度が広がり、賃金・所得の格差拡大傾向が進んできた』と指摘している。マスコミや野党などは、当初、単に格差社会を指摘するものであったが、次第に格差の拡大、世襲化という点を強調する傾向が強まっている。 格差社会を指摘する場合は、他国との比較において日本の格差社会は顕著なものかどうかという視点が取られることが多いが、格差拡大を指摘する場合は、過去の格差状況との比較が中心的な視点となる。

小泉政権期のあいだに一種のブームとして種々のメディアを賑わせたこの言葉は、それになぞらえる概念、例として恋愛格差などの様々な概念の生みの親ともなった。

ただし、小泉政権以前から存在していた以上の格差が存在するようになったのか、格差が拡大しているのか、については争いがある(例えば、小泉内閣2001年2006年)において、正規雇用が190万人減り、非正規雇用は330万人増えた。そのため、小泉内閣によって非正規雇用者の増加が進んだと言われる事があるが、統計では小泉内閣以前から増加している)。総務省の全国消費実態調査によると近年、所得格差の拡大傾向が見られる。世帯主の年齢別では50代以下の世帯で格差が拡大している一方、60代以上の世帯では格差が縮小している。

また、格差の実態を調査するため、様々な主体によって様々な統計が取られている。しかし、格差が存在するか否か、現在どの程度の格差が存在するか、ということはある程度分かりやすいものの、その格差が問題のあるものか否か、階層間の遷移が不能もしくは困難となっているか否か、というような評価については論者によっても異なり、明確なものではない。

なお、諸外国との比較では、日本の格差は非常に小さいという(『World Economic Outlook Oct.2007』)。

過去の日本の格差社会については#過去の日本の格差社会を参照のこと。

注目の契機

1997年を頂点に始まった正社員削減、サービス業製造業における現業員の非正規雇用への切り替えにより、就職難にあえぐ若年層の中から登場した、安定した職に就けないフリーターや、真面目に働きながら貧困に喘ぐワーキングプアといった存在が注目されるようになったこと、ジニ係数の拡大や、ヒルズ族などセレブブームに見られる富裕層の豪奢な生活振りが盛んに報じられるようになったことなどを契機として、日本における格差社会・格差拡大が主張されるようになった。

また同時に盛んに報じられるようになった言葉にニートがある。これは失業や貧困が増大する社会で、それに苦しむ貧困層や失業者が、自分達よりさらに下の長期的な失業者に不満や憎悪を向けるモラルパニックと言われる現象であり、格差社会の深刻さを示す現象だと言える。

地域による格差

県民経済計算を使用してジニ係数を作成すると、県民所得は1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。県内総生産でも1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。

ただし、地域格差については「東京はにぎわっているが、地方は停滞している(実際には、東京都の中でもさらに自治体によって格差がある)」「名古屋は、日本で一番栄えているデンソーアイシン精機など多数の自動車関連工場があるにもかかわらず、シャッター通り等、地方も真っ青の駅前の寂れっぷりを誇る刈谷市や、一人当たりの所得は高いはずなのに、床面積当たりの売上が低迷している名古屋市など、必ずしも好況とは言い難い)」など、実態と乖離したイメージで語られることが非常に多い。

もともと、地方によって産業構造、人口分布が異なっていることから、地方によって財政状況に差があるのは当然である。このため、従来から公共事業や補助金によって、再配分が行われてきた。しかし近年、公共事業や補助金は世論の求めや財政赤字の拡大の中で削減されており、これまで国が地方へ回していた予算や地方交付税が大幅に減らされたため、積み重ねられた地方債などの借金の負担と相まって、財政状況が苦しくなる地方自治体が相次いでいる。

2006年には北海道夕張市財政再建団体(事実上の自治体の“倒産”)に転落し、深刻な地方自治体の財政状況が明らかになった。自民党内部には「夕張市の破綻は自己責任」とする主張も根強いが、中央集権行財政システムを背景とする中央政府の責任転嫁ではないかとの指摘も出されている。なお、その後夕張市以外にも日本各地に複数の“転落予備軍”の自治体が確認されており、「第2の夕張」の懸念がなされている。

もっとも、地方自治体については「自治体や住民に経営センスが無く、怠慢・無為無策であることが、地域経済を停滞させている」と藻谷浩介日本政策投資銀行地域振興部参事役)は指摘している。

  • 刈谷市を例に挙げれば、多数の工場があり、労働者が駅を利用するにもかかわらず、駅前の土地を所有する地主が地価の上昇を当て込んで土地を手放そうとせず、駐車場として運用している結果、駅からは空き地があちこちに散見される状況になっている。
  • 夕張市を例に挙げれば、夕張メロンという特産品があるにもかかわらず、関連商品の企業を市内に持たなかった(例えば夕張メロンゼリーで有名な株式会社ホリ砂川市にある。夕張メロンの生産に必要な道具等も、市内に企業等はないという)。その結果、夕張メロンが売れてもその利益が市や地元に還元されない状況となった。

産業間・企業規模における格差

企業の収益について見ると、各産業間の好不況に加えて、企業規模によっても収益力に格差が生じている。中小企業は、大企業に比べ収益の増加がそれほどでもない。

過去の日本の格差社会

格差の発生の背景・原因

大元には、「何を格差ととらえるか」という国民の意識の変化がある。そして、意識の変化には社会の変化が影響を与えている。

また、実態を適切に把握せずに、イメージ論で語る状況もあるという。

経済構造の変化

高度成長から低成長への変化、工業製品の大量生産・大量消費のオールドエコノミーから情報やサービスを重視するニューエコノミーへの変換、IT化、グローバル化により、企業の求める社員像は、「多数の熟練社員(多数の学生を採用し、OJTによって育て上げ、熟練職員にしていく)」から、「少数の創造的な社員と、多数の単純労働社員」とに変化していった。この流れは、バブル崩壊による長期不況及び、1997年の山一証券の破綻に端を発した金融不安に対応する社会経済の構造改革などによって加速した。年功序列制度の廃止、正社員ベアゼロなどの給与抑制や採用抑制、人員削減が行われ、パートタイマー・アルバイトや契約社員などの賃金が安い非正規雇用者が増加した。全雇用者に占める非正規雇用者の割合は、1980年代から増加傾向で推移しており、2008年には全雇用者の34.1%を占めている。

学校システムの機能不全

企業の求める社員の像、規模が変化したことにより、企業に人材を送り出す、学校を取り巻く状況も変化した。企業が多数の正社員を必要としなくなったため、良い大学を出ても、良い企業に採用してもらえるとは限らなくなった。また、各個人の価値観も多様なものとなり、学生の方でも、必ずしも一流大企業と言われる企業を望まなくなった。これにより、「良い大学を出て、良い企業に入る」というシステムがうまく働かなくなった。

また、受験競争の過熱もあって、予備校などが普及し、高校における公立学校の地位は国立学校私立学校に比べて低下しており、一般に一流と言われるような難易度や社会的評価の高い大学に進学するには、義務教育や公立校によってなされる授業のみでは難しくなっており、保護者にある程度の資力がないと教育に要するコストを十分負担することが出来なくなっている。

家庭の変化

「大家族で、夫が外で働き、妻は専業主婦として家事をこなす」というモデルが主流であった頃は、以下のような対策を取ることによって社会リスクを回避し、格差を顕在化させなかった。

収入低下のリスク
家庭の稼ぎ手は夫のため、年功序列制度によって将来の収入増の見通しを立てるとともに、夫が亡くなった場合は遺族年金などによって収入をカバーしていた。
老化のリスク
老化し働けなくなった場合は、子供に養ってもらうことによって生活することを前提としていた。

だが、この家庭モデルは、核家族化、離婚増による母子家庭化によって崩れていく。さらに、「社会リスクを回避するためのもの」だった家庭は、変化によって逆に「社会リスクを増幅し、格差を生産するためのもの」へとその役割を変えていった。

(例)

夫、妻の父母が裕福かどうか
裕福な父母がいれば、援助が受けられるが、貧しい父母がいれば、介護をしなければならず、負担となる。

格差が発生するタイミング

格差は、人生の中で主に3つの段階で発生する。

就職のタイミング
就職は生涯の収入に深く関わるため、就職に失敗すると格差が生じる。特に日本のように新卒採用に偏っていると、再チャレンジの機会が少なく、格差が固定化されやすい。
出産・育児のタイミング
出産・育児の時期は労働機会が減るため、リスクにさらされたときに格差が生じやすい。
高齢化のタイミング
老人になると、収入が増える機会が激減する一方で、健康を害するなどリスクが高まる。さらに「子供がいる・いない」「家がある・無い」「蓄えがある・無い」といった状況の違いが人によってあるため、格差が生じやすくなる。

企業規模に起因する格差

日本では、学歴よりも、企業の収益規模によって格差が生じている面がある。例えば、年収.COMによる「賃金構造基本統計調査-平成15年版-」を参考にした企業規模による生涯賃金のシミュレートでは、『大卒男子の場合、従業員1000人以上の企業が3億2755万円であるのに対して、同100~999人規模の企業が2億8160万円、同10~99人規模の企業では2億3029万円となっています。単純にいえば、大企業と小企業とでは生涯賃金に1億円近い差がつくことになります。同じく高卒の場合には、従業員1000人以上の企業が2億7438万円、 100~999人規模の企業が2億1466万円、10~99人規模の企業が1億8452万円と、こちらも約9000 万円の格差が生じています。』とあり、企業規模が大きければ、学歴が高卒であっても企業規模の小さい大卒者よりも生涯賃金で4000万円近く上回ることとなる。

欧米は給与体系が産業横断的な職務給であるため、企業規模による格差は少ない。

格差の再生産・固定化

固定化

大阪大学社会経済研究所教授大竹文雄の「賃金格差拡大に耐えられる社会に」の中では次のように著述されている。

ニューヨーク大学のフリン氏は、一時点の賃金格差は米国の方がイタリアよりもはるかに大きいにもかかわらず、生涯賃金の格差は両国でほぼ同じであることを示している。転職が比較的容易な米国においては、現在の賃金水準が低くても、転職によってよりよい条件の仕事に将来就く可能性があり、生涯賃金でみると賃金格差は、一時点での賃金格差に比べると小さくなる。これに対し、転職が困難だったり、将来の賃金上昇の可能性が小さい社会においては、現在の賃金格差が永続的に続くことになるため、 現在の賃金格差はそのまま生涯賃金の格差となってしまうのである。」

経済協力開発機構(OECD)は2008年に「日本は若者が安定した仕事につけるよう、もっとやれることがある」と題した報告書の中で、「正規・非正規間の保護のギャップを埋めて、賃金や手当の格差を是正せよ。すなわち、有期、パート、派遣労働者の雇用保護と社会保障適用を強化するとともに、正規雇用の雇用保護を緩和せよ」と勧告を行っている。

貧困の文化

1960年代以降のアメリカでは「貧困の文化」という概念が提示され、格差の再生産・固定化に強く関与していると言われている。「貧困の文化」とは貧困者が貧困生活を次の世代に受け継ぐような生活習慣や世界観を伝承しているサブカルチャーであり、このサイクルを打破することが格差社会を解決するために不可欠だ、という考えが広がっている。この概念は人類学者オスカー・ルイスの著書「貧困の文化―メキシコの“五つの家族”」からその名を取る。民主党のモニハン上院議員のレポートなどに採用され、アメリカの対貧困政策に大きな影響を与えている。日本ではまだ広く認識されていない。

しかし貧困の文化の概念には、人類学者や社会学者などから数多くの批判がなされており、しかも現実のデータとあっていない(Goode and Eames, 1996)。またこの概念は本来発展途上国を対象としたものである為、先進国の政策に応用するのは不適切な面がある。さらに「貧困の文化」論は、格差問題を貧困層の自己責任論に押し込んでしまうという批判もある。

また、ワーキングプアのように勤勉な労働者でありながら、労働条件や環境が劣悪なために貧困に陥ってしまうといった社会現象を説明できないとされる。

教育による階層化

詳しくは中高一貫校#問題点を参照

教育により、階層化が進むという指摘もある。

山田昌弘

「勉強をして良い大学に入れば、良い企業に入れるといった社会の仕組み(パイプラインシステム)が、社会がリスク社会になることによって十分に機能しなくなった。一方で、パイプラインシステムは機能停止はしていないので、勉強すれば報われると思っている人は、勉強をすることによって良い企業に行く傾向にある一方で、勉強しても効果はないと思っている人は、勉強をせず就職もうまくいかなくなる傾向にある」

と指摘している。

これに関連して、内田樹

「上流階層は努力が報われると信じており、下流階層は努力をしても意味はないと信じている。
(下流「勉強をしても良い企業に入れるとは限らない。だから勉強をする必要はない」と、上流「そもそも勉強をしなければ良い企業には入れない。だから勉強をする」の違い)</br>子供は自分が所属する階層の価値観に従うため、上流階層の子供は勉強をする一方で、下流階層の子供はむしろ勉強を否定することに価値を見いだす。こうして階層化は加速度的に進行した」

と述べている。

データとしては収入の高い家庭ほど進学率が高いという調査結果がある。一流大学への進学は私立の名門中高一貫校が有利だが、学費が高額であり入学試験に合格するための学習塾の学費も無視できない金額である。

これに対し、公立校の中にも中高一貫校があり、その学費が安いが、これについて藤田英典は「小学生が自主的に遠くの公立中高一貫校を選ぶことはありえず、親の関心・選択が優先することとなり、公立中高一貫校は教育熱心な恵まれた家庭の生徒ばかりになる」と指摘している。

また、国立学校については、学費は公立と同様に安いが、入学者の選抜には学力試験があるため、その入試に向けて教育熱心であり、学習塾等の費用をまかなえる経済力のある家庭の優秀な子弟が集まる傾向にあり、特に都市部においては私立名門校と同じようにエリート校化している。

ただし、日本では高卒と大卒の生涯賃金の差は先進国でも非常に低い部類に入る。

「上離れ」と「底抜け」

格差には、上位層がますます良くなる「上離れ」と、下位層がさらに落ち込む「底抜け」(例えばワーキングプアなど)がある。このうち、「底抜け」の増加が、社会に与える不安が大きくなる。

「底抜け」層は

  • 収入が低い
  • 努力が報われないと思う
  • 未来に希望がもてない

などの特性を持つため、この層の増加は、社会の活力が失われたり、犯罪の増加などにより社会が不安定化する。

格差の是正

均等待遇