色空間
色空間(いろくうかん)は、立方的に記述される色の空間である。色を秩序立てて配列する形式であり、色を座標で指示出来る。色の構成方法は多様であり、色の見え方には観察者同士の差異もあることから、色を定量的に表すには、幾つかの規約を設けることが要請される。英語のColor Spaceであるから、カラースペースともいう。また、色空間が表現できる色の範囲を色域という。色空間は3種類か4種類の数値を組み合わせることが多い。色空間が数値による場合、その変数はチャンネルと呼ばれる。
色空間の形状はその種類に応じ、円柱や円錐、多角錐、球などの幾何形体として説明され、多様である。
基礎知識[編集]
表色系[編集]
表色系は心理的概念あるいは心理物理的概念に従い、色を定量的に表す体系である。通常は3つの方向性を具える空間で表現され、色空間を構成する。
混色系(color mixing system)とは色を心理物理量と捉え色刺激の特性によって現すものである。数値として伝達する場合に適している。後述のXYZ表色系が代表的な例である。顕色系(color appearance system)は、色を色の三つの特徴に従って配列して、その間隔を調整し整合性を高め、尺度と共に差し出すものである。後述のマンセル表色系やNCSが代表的な例である。
色の具現化のガイドが厳格な色体系は、色を直接作り出す場面で用いられることが多く、そうでない色空間は、色を情報として伝達する場面で用いられること場合が多い。
数学的には3つの変数があれば、すべての色を表現できると言える。しかし、すべての色を表示できる必要がない状況や、そのほか実用の便宜のために、2変数以下、あるいは4変数以上を用いる色空間もある。また変数の取り方もさまざまなものがあり、目的に応じて多種多様な規格が存在する。
計算によってある色空間から別の色空間への変換は行えるが、変換後の色空間で表現できない色の情報は失われてしまう。また、その計算はふつう不完全である。色を扱うにあたっては、なるべく色空間を統一して作業することが求められる。なお、色空間にはカラープロファイルとして記録可能な色空間 (RGB, RGBA, YCbCr, CMYK, Lab color) と記録できない色空間がある。
均等色空間[編集]
Uniform Color Spaceのこと。色空間上での距離・間隔が、知覚的な色の距離・間隔に類似するよう設計されている空間。色の物理的な差異よりも、人間の知覚上での差異に主眼を置いた色空間。工業的には、工業製品の色彩の管理に要請される。
表色系[編集]
CIE表色系[編集]
RGB表色系[編集]
原色をR(赤、700nm)、G(緑、546.1nm)、B(青、435.8nm)とする表色系を、CIEのRGB表色系という。
XYZ表色系[編集]
RGB表色系は色知覚のよい近似であるが、知覚できる色を完全に合成できるわけではない。たとえばレーザー光などにみられる単一波長の色はRGB色空間の外側であって、加色によって再現することができない。この問題は、RGBの係数に負の値を許可することによって色空間を拡張すれば表現することができるが、取り扱いに不便である。
したがってRGB表色系を単純な一次変換で負の値が現れないように定めたXYZ表色系を、CIEは1931年にRGB表色系と同時に定めた。XYZ表色系は他のCIE表色系の基礎となる。
RGB表色系と異なりXYZ表色系では、それぞれの数値と色彩との関連がわかりにくい。Yは明度を表し、Zはおおむね青みの度合いを表すと考えてよい。Xは、それら以外の要素を含むと考えられる。
xyY表色系[編集]
XYZ表色系では数値と色の関連がわかりにくい。そこでXYZ表色系から絶対的な色合いを表現するためのxyY表色系が考案された。
- <math>x = \frac{X}{X+Y+Z}\,</math>
- <math>y = \frac{Y}{X+Y+Z}\,</math>
YはXYZのYをそのまま使う。このxとyを色度座標と呼び、すべての色はxとyによる2次元平面、および明度を示すYで表現できる。当然ながら、xyYからXYZに変換することもできる。
- <math>X = \frac{Y}{y}x</math>
- <math>Z = \frac{Y}{y}(1-x-y)</math>
L*u*v*表色系[編集]
CIEが1976年に定めた均等色空間のひとつ。CIELUV(エルスター、ユースター、ブイスターと読むのが一般的)は光の波長を基礎に考案されたもので、XYZ表色系のxy色度図の波長間隔の均等性を改善したものである。日本ではJIS Z8518に規定されている。
L*a*b*表色系[編集]
CIE L*a*b*(エルスター、エースター、ビースター、慣用的にはシーラブと読む)はXYZから、知覚と装置の違いによる色差を測定するために派生した。L*はLuminance(輝度)を意味する。1976年に勧告され、日本ではJIS Z 8729に規定されている。均等色空間である。
ある色と他の色の色差を知るには、L*軸、a*軸、b*軸の差をそれぞれ二乗したものの和の平方根、
- <math>\sqrt{ {\Delta L^*}^2 + {\Delta a^*}^2 + {\Delta b^*}^2 }</math>
を(つまり、2つの座標の距離を)求めればよい。
CIE 1976 L*a*b*はCIE XYZを直接の基礎として、色差の知覚の線形化を試みている。L*、a*、b*の非直線関係は、目の対数的な感応性の模倣を目的としている。色情報は、色区間の白色点nの色を参照する。
Adobeシステムズ社のAdobe Photoshopなど、高価なグラフィック編集ソフトはL*a*b*をサポートしているが、L*a*b*の色空間はAdobe RGBよりも広いため既製ディスプレイでは対応していない。レタッチ用途としてはもっぱら輝度チャンネル(L*)を使って内部処理に使用することが多い。a*b*のカラーチャンネルには手を入れないため画像の劣化が防げる。
(L*u*vやL*a*b*から派生して、計算の便宜を図った妥協的(実用的)な均等色空間がいくつか存在する。)
マンセル表色系[編集]
色相、明度、彩度の3属性を用いて色を表す。
オストワルト表色系[編集]
マンセル表色系が心理的考察に基づいているのに対し、オストワルト表色系は心理物理学的考察に基づいている。現在でもデザイン分野などで利用される。
NCS (Natural Color System)[編集]
NCSはヘリングの反対色説の系譜にある表色系である。ヘリングの色の大系にスウェーデンの心理学者ヨハンソンたちが手を加え成立した、一般の人間の素朴な色の知覚を表現した表色系である。純色量、白色量、黒色量によって色を指定する。これを人間の感覚判断に委ねることがNCSの特徴であると言える。1990年にスウェーデン工業規格に採用された。色票系としてはNCSカラーアトラスがある。
DIN表色系[編集]
DIN表色系はM.リヒターたちの色差に関する研究を踏まえ均等色空間の実現を目指した表色系である。1955年にドイツの工業規格に採用され、色票集も刊行されている。色は色相、明度、飽和度で表現される。ヘリングの反対色説に則るが、合衆国のマンセル表色系と異なり、色相は黄から始まる。これはゲーテの思想との縁故が指摘[1]されている。
一般的な色空間[編集]
RGB[編集]
RGB も参照 RGBは一般に、加法混色を表現するのに使われる。RGBは、それぞれ赤 (red) 緑 (green) 青 (blue) の頭文字である。光の三原色であり、数値を増すごとに白に近づく。反対に、数値を減らすごとに黒くなる。コンピュータのモニタで用いられるのも、このRGBである。
視覚上では、色は光の三原色に近い、3波長に対応した網膜の錐体細胞が受け取って知覚される。これには若干の個人差があり、また実際問題として純粋な3波長を用意することが難しい場合が多いため、加法混色系の色空間にはさまざまな種類のものがある。さまざまな表色系が存在するが、それぞれの表色系ごとに、赤・緑・青の基準が定められている。
コンピュータで同時に表示可能な色数は、ビデオメモリにおいて各ピクセルに何ビットの情報を割り振るかにより決定される。かつてメモリが高価だった頃には表示色はかなり限られていたが、現在ではRGB各8ビット、計24ビットを割り振る事で、1677万7216色の表示を可能にしている。これは、ほとんどの人間の目で識別可能な限界とされ、フルカラーやトゥルーカラーなどと呼ばれる。しかし24bitでは画像編集の過程で劣化が無視できないため、48bit(各色16bit)などより多ビットで扱うことがある。
「RGBでは人間が知覚できる色をすべて表現できる」と説明されることがあるが、これは若干の誤解を含む。これについてはXYZで詳述。
sRGB / AdobeRGB[編集]
RGB色空間に関する規格として、「sRGB (standard RGB)」と「AdobeRGB」の2種類がある。sRGBは国際電気標準会議 (IEC) が定めた国際標準規格であり、一般的なモニタ、プリンタ、デジタルカメラなどではこの規格に準拠しており、互いの機器をsRGBに則った色調整を行なう事で、入力時と出力時の色の差異を少なくする事が可能になる。
AdobeRGBはAdobe Systemsによって提唱された色空間の定義で、sRGBよりも遥かに広い(特に緑が広い)RGB色再現領域を持ち、印刷や色校正などでの適合性が高く、DTPなどの分野では標準的に使用されている。
近年の技術向上によって、家庭用製品にもAdobeRGB色空間を用いるものが徐々にでてきている。プリンタにおいては、多色印刷を行うことによってAdobeRGBに迫っている。モニタにおいては、液晶ディスプレイでは冷陰極管とカラーフィルタの組み合わせで高彩度を得ることが技術的に難しいことと、JPEGなど一般的な画像ファイルがsRGBを想定しているためsRGBが再現できれば十分という考え方も重なって、sRGBどまりとなっているものが多い。
RGBA[編集]
RGBAはRGBの色空間に加えて、アルファチャンネルも色決定に考慮させる。これは、透過(透明度)を表現するものである。(厳密にはこれは色空間ではないとも考えられる。)
CMY[編集]
CMYは印刷の過程で利用する減法混色の表現法である。絵具の三原色。基本色は白で、それに色の度合いを加えて、黒色にしていく。すなわち、始めは白いキャンバスから始め、インクを加えて暗くしていく(反射光を減らす、すなわち減法)ということである。CMYには、シアン(cyan)、マゼンタ (magenta)、イエロー (yellow) インクの数値が含まれている。
CMYK[編集]
理論上、CMYをすべて均等に混ぜると黒色になるが、インクや紙の特性上、CMYのインクを混ぜて綺麗な黒色を作るのは技術的に困難であり、通常はすべてを混ぜても濁った茶色にしかならない。そこで、黒(Key plate)の発色をよくするために別途黒インクを用いるようになったのがCMYKである。キー・プレート (key plate) とは画像の輪郭など細部を示すために用いられた印刷板のことであり、通常黒インクだけが用いられた。なお、Kは"blacK"の略とされることが多いが、これは俗説で本来誤りである。日本の印刷業界では黒インクを「スミ(墨)」と呼ぶことがある。
印刷物では、文字などで黒は多用されるため、インクの節約にもなるので、現在ではもっとも使われている。
CMK[編集]
CMKは印刷の過程で利用する減法混色の表現法で、絵具の三原色からイエロー (yellow) を除いた表現である。CMKには、シアン (cyan)、マゼンタ (magenta)、そして黒 (black) のインクの数値が含まれている。 一般的にイエローの使用頻度が少なく、CMKだけで十分表現可能であり、印刷コストも下がることからチラシなど低価格印刷物に利用されている。
HSV[編集]
HSVはコンピュータで絵を書く場合や、色見本として使われる。これは、色を色相(色味)と彩度という観点から考える場合、加法混色や減法混色よりも自然だからである。HSVには色相 (hue)、彩度 (saturation value)、明度 (value) が含まれている。HSBとも呼ばれる。
HLS[編集]
HLSは、HSL、HSIなどとも呼ばれる。色相 (hue)、彩度 (saturation)、輝度 (luminance) よりなる、HSVに近い表現法である。明度と輝度との違いは値の算出方法である。明度がrgb各色のビットを足して単純に3で割ったものであるのに対し、輝度は下に書かれているように各色の重み付けが違う。(比率 赤:0.29891 緑:0.58661 青:0.11448) 明度より輝度の方がより人間の目から見た場合の明るさに近いと言われる。
放送用[編集]
YIQ[編集]
YIQは、NTSCテレビ放送で経緯があって使用されている。YIQにはルミナンス(輝度)と2つのクロミナンス(色差、YIQの場合大体色の中の青と赤の量に相当)の値が含まれる。このことはPALテレビやJFIF形式のJPEG画像で用いられるYUV(YCC、正確にはYCbCrとも)に非常に似ている。
YIQは1950年代当時のカラーのブラウン管の性能に基づき定められている。当時は青の発色が悪かったため、YIQは青の表現力に欠ける面がある。テレビ・ビデオのデジタル化に伴い、YPbPrなどにとって代わられるであろう。
YCbCr / YPbPr[編集]
別名をYUVやYCCと言う。YIQも基本的には同じ仕組みである。なお、Adobe社のPhotoshopではこれと似た形式をL*a*b* (Luminescence alpha beta) カラーとして扱っている。Yは輝度信号(明るさ)を示し、Cb (U) は青の差分信号、Cr (V) は赤の差分信号を示す。
一般的に最も使われている色空間でテレビ等につなぐ方式はほぼこの方式を使っている(パソコン用ディスプレイはRGBで送るのが基本)。これには様々な方法があり、一般的に使われている黄色のケーブルではYCと呼ばれる差分信号部分を一つにまとめて送る。このケーブルをコンポジットといい、高画質テレビなどでよく使われるD端子や緑青赤の三色ケーブルを用いるものをコンポーネントという。過去にはパソコン用ディスプレイにもBNCケーブルを使い、コンポーネント方式を使ったディスプレイがあった。
なお、特にYUVで帯域を減らす際に色差分を減らす方法も存在している。人間の目は色の変化よりも明るさの変化に敏感なので、色差分を減らしても不自然だと感じにくいためである。
- YUV444 (YUV) : 4ピクセルごとに色差分と輝度を1ピクセルごとにとる方式。1ピクセル24ビットとするのが一般。
- YUV12 : 各ピクセルを表現するのに必要なビット数が12ビットのYUV。YUV420とYUV411の総称。
- YUV422 : 2×2ピクセルから色差信号を1だけとる形式。輝度信号は1ピクセルごとにとる。1ピクセルは16ビット(デジタル放送ではこれが採用されている)。
- YUV420 : 2×2ピクセルのうち、青の色差信号を最初のラインから取り、赤の色差信号を次のラインからとる方式。輝度信号は1ピクセルごとにとる。
- YUV411 : 2×2ピクセルのうち色差信号を各色1つだけとる形式。輝度信号は1ピクセルごとにとる。
- YUV9 : 4×4ピクセルで1つの色差信号しかとらない方式。輝度信号は1ピクセルごとにとる。1ピクセルは9ビット。
RGBからの変換式は
- Y = 0.29891 × R + 0.58661 × G + 0.11448 × B
- Cb (U) = -0.16874 × R - 0.33126 × G + 0.50000 × B
- Cr (V) = 0.50000 × R - 0.41869 × G - 0.08131 × B
逆にRGBに変換するときは
- R = Y + 1.40200 × Cr (V)
- G = Y - 0.34414 × Cb (U) - 0.71414 × Cr (V)
- B = Y + 1.77200 × Cb (U)
過去に用いられていた色空間[編集]
RGV[編集]
青色(Blue)でなく菫色(Violet)を用いた加法混色。RGB法に至る以前の初期の研究で用いられたのみ。
RG, RGK[編集]
赤 (Red) と緑 (Green) の強度で色を指定する方法。赤と緑の合成は、RGB色空間と同様に、加算により行なわれる。青 (Blue) がないので、青成分を含む色が正しく表現できない。テクニカラーフィルムで使われていた。RGK色空間はRG色空間にキー(Key, インクの黒、CMYK色空間でも使われる)を追加した色空間である。
参考(英語版): en:RG color space
脚注[編集]
- ↑ 『色彩学概説』 千々岩 英彰 東京大学出版会 2001.4 ISBN 4130820850