スープ
スープ(英語:soup)とは、肉、野菜などを煮込んだ汁の多い料理。
狭義のスープとその変遷[編集]
狭義には語源となった欧州料理のものを指す。英語のsoup(スープ)、フランス語のsoupe(スプ)、ドイツ語のSuppe(ズッペ)、スペイン語やポルトガル語のSopa(ソパ)といった欧州圏の同系統の料理は元来は、パンに肉や野菜を煮込んだ鍋物の出汁と具、あるいはワインやシードルといった果実酒をかけてふやかした粥状の料理を指した。ヨーロッパでは、パンは伝統的には食事のたびに焼きたてのものを供するのではなく、時をおいて村の共同のパン焼き窯でまとめ焼きした大きなものを時間をかけて食いつなぐものであった。そのため焼いてから時間のたったものは硬くなっていたし、そもそも寒冷でやせた土地の多いヨーロッパの多くの土地では柔らかいふわふわした白いパンを焼ける小麦の栽培は困難で、ライムギやエンバクの栽培が主体であったため、それらを素材としたもともと硬い黒パンを常食とした土地が大半であった。
そうした大きな硬いパンはそのまま切って食べることは少なかった。通常食事に際して肉、特に豚肉を保存食に加工したハム、ベーコン、ソーセージといったものなどと、季節の野菜を鍋でやわらかく煮込み、汁の部分に味がよく溶け出した鍋物をつくり、家長がパンをナイフで切り分けて家族に配り、それを各自がむしったものを入れた皿に主婦が汁を注いでふやかし、さらに軟らかく煮えた具を載せて食べた。実はワインやシードルといった果実酒も、古くはこうした硬くなったパンをふやかして食べやすくする意味が大きく、そうした用途のための果汁を、アルコール発酵によって保存食にした性格を有したのである。スプーンが普及する以前の時代には、厚く切ったパンを各自の食卓におき、その上にこのような汁と具をかけてふやけたものを手でむしって食べたともいわれる。スープという語は鍋物の煮汁、すなわちブイヨンや果実酒に浸して食べるためのパン切れの意味で12世紀ごろから用いられ始め、14世紀になってパンに煮汁をかけてふやかした、パン入りのブイヨンを指すように変化していった。そして、こういうスープこそが伝統的なヨーロッパ庶民の日々の食事の中心を占めていたのである。
しかし、時代が下って17世紀以降に、中・上流階級の者に供される食事が洗練されてくると、素材の味がたっぷり溶け出したブイヨンそのものが重視される傾向が生じた。極端なものではコンソメのようにほとんど純粋なブイヨンにまで洗練されて、主役の一方であったパンはクルトンのような浮き身にまで痕跡化するに至った。また、パンに相当するデンプン質の食材を裏ごししたり、ベシャメルソースにして完全に流動化させるクリームスープなどのようなものも多い。もともとフランスでは本来はパンにかけるような鍋物を、ブイヨンを独立して飲み、また改めて軟らかくなった具を食べる独立した料理として扱う場合には、火にかけた鍋を意味するポトフと呼んだ。フランス料理では18世紀になると、このブイヨンの部分が肥大していった洗練されたスープを、郷土料理の伝統的スープと区別して、改めて鍋物を意味するポタージュの名で呼ぶようになっていった。
それでも欧米でスープ、あるいはポタージュと呼ばれる料理には元来のふやかしたパンの痕跡であるクルトンやパスタなどの浮き身や、裏ごしした穀類、豆類、ジャガイモなどに起源するデンプン質の素材が入っていることが多い。日本では汁物が主食に付随する飲むものと認識されているのとは対照的に、欧米では量の少ない軽めのスープがの主菜の前に供されることが多く、ボリュームのあるスープは(軽い食事では特に)それ自体が主菜級の食べものとなりうる。なお、英語・ドイツ語・フランス語ではスープを「飲む」(drink/trinken/boire)ではなく「食べる」(eat/essen/manger)と言う。また、英語のsupper(夕食)と同語源である。この点からもスープは「食べる」ものであったことが窺える。
スープの意味の拡大[編集]
ヨーロッパのスープが出汁の部分を主役とする料理に変質していったため、今日では一般的には非欧州圏の汁物料理や、欧州圏でもふやかしたパンとの結びつきの薄い汁物料理全般をスープに分類することも多くなっている。例えば日本の味噌汁はパンとの結びつきはないが、英語ではMiso soupと呼ばれている。あえてスープの原型に相当するものを日本料理に求めようとすれば、鍋物の汁に冷やご飯を入れて煮込んだ雑炊が最も類似しているであろうが、今日の日本人で雑炊と味噌汁を並べてどちらがスープかと問えば、味噌汁を指す者が大半であろう。また、欧米でも本来はスープというよりも魚介のポトフといったほうがいいブイヤベースが、今日ではスープとみなされているのが通例である。
様々な汁物料理[編集]
汁物料理を中国語では湯(タン)と書き、朝鮮語でも同様にタンと呼んでいる。ただし、中国語ではとろみのある汁物は羹(台湾では焿(コン)とも書く)という。また、長時間煮込むか蒸して作る汁物は、その料理法から燉(トン)、すまし汁はその料理法から汆(ツアン)という字を素材の前に付けて呼ぶ事が多い。
地中海沿岸のイタリア、フランスには魚介類を入れたスープがあり、ハンガリーにはグヤーシュなど、各国にその特産や風土を生かした名物料理がある。
ラーメンやフォーなどの麺類のだし汁や料理にうま味を加えるための液のこともスープと呼ばれる。アジアの汁の多い麺料理は、西洋ではしばしば「麺の入ったスープ」(例:英語のnoodle soup) と認識されている。
スープには食材のエキスやアミノ酸、核酸などの栄養成分やうま味成分を多く含むものが多いため、比喩的にエキスが豊富に含まれているような状態を指す場合もある(アミノ酸のスープ等)。
近年、女性の社会進出、健康志向に伴い、野菜の多いいわゆる「具だくさんスープ」を売りとする外食、中食(持ち帰りの惣菜販売)産業が盛んになっている。 代表的なスープ店としては「ディア.スープ」、「SOUP STOCK TOKYO」など。2005年には、ゼンケンの全自動野菜スープ調理器「菜食元気」という電化製品も発売され、健康関心ニーズとも結びついて、食の中でのスープの役割が見直されつつある。
代表的なスープ[編集]
- 味噌汁(日本)
- 澄まし汁 (日本)
- 三平汁(日本)
- 豚汁 (日本)
- 粕汁 (日本)
- 潮汁 (日本)
- けんちん汁 (日本)
- のっぺい汁 (日本)
- あーさー汁 (日本・沖縄県)
- ブイヤベース(フランス)
- ヴィシソワーズ(アメリカ合衆国)
- チャウダー、クラムチャウダー(アメリカ合衆国)
- チキンスープ(アメリカ合衆国他)
- チリコンカーン(アメリカ合衆国)
- ガンボ (アメリカ合衆国)
- アイントプフ(ドイツ)
- ツヴィーベル・ズッペ(ドイツ)
- グーラッシュ(ドイツ、オーストリア)
- グヤーシュ(ハンガリー)
- ミネストローネ(イタリア)
- アクアパッツァ(イタリア)
- ガスパチョ(スペイン)
- ソパ・デ・アホ(スペイン)
- ソパ・デ・ペドラ(ポルトガル)
- フォンデュ(スイス)
- ボルシチ(東欧)
- シチー(ロシア)
- パツァス(ギリシャ)
- イシュケンベ (トルコ、バルカン半島)
- フェジョアーダ(ブラジル、ポルトガル、東ティモール、アンゴラなど)
- サムゲタン(朝鮮半島)
- ポシンタン(朝鮮半島)
- ソルロンタン(朝鮮半島)
- カムジャタン(朝鮮半島)
- クッパ(朝鮮半島)
- チゲ(朝鮮半島)
- 酸辣湯(中華料理)(中華人民共和国)
- コーンスープ(各国)-玉米羹(粟米羮とも、中華料理)(中華人民共和国)
- 佛跳牆(中華料理)(中華人民共和国福建省)
- 蛇羹(中華料理)(中華人民共和国広東省)
- 花枝焿(中華料理)(台湾)
- カインチュア (ベトナム)
- ソムロームチュー (カンボジア)
- トムヤムクン (タイ王国)
- ソトアヤム (インドネシア、シンガポール)
- 肉骨茶 (マレーシア)
- サンバール (インド)
- アブグーシュト (イラン)
スープを題材にした楽曲[編集]
- 『キャロットスープの歌』(歌・作詞・作曲:谷山浩子)
- 『シンデレラのスープ』(作詞:小黒恵子、作曲:中村勝彦、NHKおかあさんといっしょ)
- 『チャイニーズ・スープ』(歌・作詞・作曲:荒井由実)
- 『土曜日のタマネギ』(歌:斉藤由貴、作詞:谷山浩子、作曲:亀井登志夫 歌われているのは厳密にはポトフ)
- 『本日のスープ』(歌:大泉洋 with STARDUST REVUE、作詞:大泉洋、作曲:根本要)
- 『見逃してくれよ』(歌:小泉今日子、作詞:活発委員会、作曲:加藤英彦、クノールカップスープCMソング)
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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