滑走路
滑走路(かっそうろ - runway)とは、空港、飛行場などに設置された施設で、飛行機が滑走し、離陸・着陸を行うための直線状の道のこと。空港の最重要設備である。
目次
概要[編集]
滑走路は外見はただの長大な道路だが、飛行機が着陸するときの衝撃に耐えられるよう通常の道路などに比べ丈夫にできている特殊な設備である。夜間でも離着陸が行えるよう誘導灯が埋め込まれていることが多い。
また、離着陸時の高速走行においても機体の揺れが少ないように、滑走路表面の凹凸は極めて少ない(高速道路などに不時着した場合、乗員は猛烈な振動に曝される事になる)。
離着陸時の鳥との衝突(バードストライク)は重大な事故に繋がるため、滑走路周辺には鳥追いまたは鳥威しの設備を設置することが多い。
滑走路の命名法[編集]
滑走路は以下の規則に従って命名される。
航空交通管制上、滑走路は滑走路番号と呼ばれる磁北からの方位角(時計回り、度単位)を 1/10 した数値で識別される。北(360°[1])を向く滑走路は「滑走路36 (runway three six) 」である。その逆向きの滑走路は磁方位で180°であり「滑走路18 (runway one eight) 」となる。それぞれの滑走路の番号は滑走路の端に表示されている(上記の例の滑走路では、南端に「36」、北端に「18」と表記されている)。
このように、一本の滑走路には方位に基づく2つの番号が割り当てられており、一本の滑走路の命名は2つの磁方位を組み合わせて表される。上記の「滑走路36」と「滑走路18」の例では、「18/36」 などと表記される[2]。
後述のように滑走路が並行する場合の命名は、滑走路番号のあとにL(左)・C(中央)・R(右)を付すことで行われる。たとえば、磁方位360°を向いた滑走路が3本平行に並んでいる場合、北向きに滑走路に正対して左側より「滑走路36L (three six left) 」、「滑走路36C (three six center) 」、「滑走路36R (three six right) 」となる。並行滑走路が2本しかない場合はC(中央)を使用せず、L(左)とR(右)のみを使う。したがって、南北に2本の滑走路が並行している場合(18/36の場合)、西側の滑走路を「18R/36L」、東側の滑走路を「18L/36R」と呼ぶ。
滑走路が4本並行する場合は、2本の滑走路番号を10度ずらして表記する。例えば、磁方位360°をむいた滑走路が4本平行に並んでいる場合は、それぞれ「01L/19R」「01R/19L」「18L/36R」「18R/36L」と呼ぶ[3]。
また、このような正式な表記法のほかに空港独自に滑走路名が存在する。特にこの独自の命名法にルールはないが、「A滑走路・B滑走路……」や「第1滑走路・第2滑走路……」などアルファベットや番号を割り当てることが多い[4]。
滑走路の長さ[編集]
飛行機の運行に必要な滑走路の長さは、ただ単に「車輪が接地している間に走行する距離」だけでは足りない。必要とされる滑走路の長さとは、通常の離陸で滑走を始めた点から浮上して高度35フィート(約10.6m)に達した瞬間の直下の点までである。この地点が滑走路上におさまっているならば、離陸決心速度 (V1) に達しない時点で緊急離陸中止しても滑走路内で停止できるのである。この離陸滑走路長にさらに15%の余裕を加えた距離が必要離陸滑走路長である。同様に着陸に使用するには飛行機の着陸滑走距離の 1.67 倍の距離が必要着陸滑走路長とされている。以上の必要離陸滑走路長と必要着陸滑走路長のうち長い方が、航空機の安全確保に必要な滑走路の長さである[5]。現実には、その運航の時点での天候・滑走路の状態・その飛行機の総重量などにより、必要滑走路長がその都度変化するのであり、必要滑走路長がその空港の滑走路長を逸脱しないように、搭載貨物量などを決めることになる。
一般に、代表的な大型機ジャンボジェットが離着陸可能な滑走路長は最低で2,500m程度とされる。同じジャンボジェットでも、燃料と旅客・貨物を多く積む長距離便(飛行距離が1万kmを超えるもの)が利用するには、3,150mが必要である。航空機開発の今後の動向により、必要な滑走路長は変化するとみられるが、これらの値は滑走路の能力を評価するためのひとつの指標といえる。
大規模な国際空港ではボーイング747やエアバスA380クラスの超大型旅客機の離着陸に余裕を持たせるため、3,000~4,000mを確保するのが標準的である。ただし、海上空港の場合は滑走路付近に山や高層建築物など航空機の離着陸の妨げとなる障害物が存在せず、滑走路のほぼ端から端までを使い切ることができることから、4,000mまでの長さは必要ないとも言われている。
世界で最も長い滑走路はエリア51の9,656m(別説あり)であるが、軍事基地であるが故に商業機が飛び交うことはない。一方、商業利用されている最長の滑走路は中国のチャムドバンダ空港であり、5,500mの長さを有する。この空港は標高が4,334mと最も高い場所にある空港であるため、周辺の酸素が薄く、十分に加速されるまで距離が必要であるためである。
滑走路の表面・舗装[編集]
近代化された空港では滑走路の路面は舗装してある。舗装のために用いられるアスファルトは一般の道路で用いられるものよりも遙かに高強度であり、重量の巨大な航空機の離着陸に十分耐えられるよう改良されたものが用いられている。また、極めて平坦になるよう舗装が施される。
舗装は通常はアスファルトによるが、戦闘機のアフターバーナーの炎の影響が大きい場合はコンクリート舗装とする。小さい飛行場、大きな空港でも短い滑走路では舗装されていないこともある。
ブレーキ性能の向上のため、滑走路の全面に渡って、滑走路の長手方向と直角に細い溝切りを施す。これをグルービングという。グルービングは降雨時の排水の役割も持つ。
並行滑走路[編集]
運航回数の多い空港では、2本の滑走路を並行に配置し空港の能力向上を図っている。このような滑走路やその配置のことを並行滑走路という。
長い2本の滑走路が並行している空港では、片方の滑走路を離陸専用、もう片方を着陸専用と分離し、安全性の高い運用が可能である。また、夜間の保守作業や冬季の除雪作業の際は、片方の滑走路を閉鎖しながらも、もう片方の滑走路で運行を続けることも可能である。
長短2本の滑走路が並行している空港では短い滑走路に着陸できない大型航空機もあるため離着陸の完全な分離を行えないが、航空機の性能・状態、空港の地上交通を考慮して使用する滑走路を選択し、効率の良い運用がなされている。
並行滑走路には、滑走路間の距離により以下の例のようなタイプが挙げられる。
オープンパラレル[編集]
- 東京国際空港や関西国際空港、JFK国際空港、ホノルル国際空港などでは長い2本の滑走路が並行しており、かつ、両滑走路間に十分な距離が取られている。このような滑走路の配置はオープンパラレル方式(open parallel)と呼ばれている(この間隔は、ICAOの規定では1,525m以上とされている)。この方式では滑走路間の干渉が少なく、並行滑走路への同時進入・出発を行うといった効率的な運用も可能である。
- 成田国際空港は長短2本の滑走路が並行している。オープンパラレル方式ではあるが、短い滑走路に着陸できない大型航空機もあるため離着陸の完全な分離を行えない。このような滑走路配置では、航空機の性能・状態、空港の地上交通を考慮して使用する滑走路を選択し、効率の良い運用がなされている。
クロースパラレル[編集]
- 新千歳空港やフランクフルト国際空港などでは長い2本の滑走路が並行しているが、両滑走路間の距離が短く、並行滑走路への同時進入・出発は原則として不可能である。このような滑走路の配置はクロースパラレル方式(close parallel; "close"を動詞として発音し「クローズパラレル」とも)と呼ばれている。クロースパラレル方式では空港の敷地が狭くても2本目の滑走路を設けることが可能という利点がある。また、一方の滑走路で着陸を行うと同時に、もう一方の滑走路で離陸に備えて待機するといった効率の良い運用が可能である。
- 大阪国際空港やローガン国際空港では長短2つの滑走路が並行しており、かつ、それらが近接するクロースパラレル方式が採用されている。航空機の状態・性能により使用滑走路の制限を受けるものの、空港の地上交通・離発着機の調整を行うことで運用効率を上げている。
横風用滑走路[編集]
運航回数の特に多い空港では、横風での離着陸の安定を期するため、主要な滑走路とは別に向きを変えた滑走路を設けている。このような滑走路のことを、横風用滑走路という。その場合でも、主要滑走路より短いものである場合がほとんどといってよい。世界の大規模空港は着陸用・離陸用の並行滑走路に加え、横風用の3本の滑走路を持つものが多い。東京国際空港を一例とすると、通常使う滑走路が A 滑走路 (34L/16R, 3,000 m) と C 滑走路 (34R/16L, 3,000 m) であり、横風用滑走路は B 滑走路 (22/04, 2,500 m) である。
路面標示[編集]
滑走路には標示があり、この滑走路の標示に書かれていることは、ほとんどの空港で共通である。滑走路の標示は、以下のようなものが書かれている。
- 進入危険区域(黄色の山形模様)
- 矢印(滑走路移設末端:騒音を軽減するための対策、ここに着陸してはならない)
- 中央区間線
- 固定距離線
- 滑走終了線
- 滑走路番号
滑走路表示はほとんどの空港では白色で書かれているが、新千歳空港などの積雪の多い空港では黄色で書かれることもある。
飛行援助施設[編集]
この節を書こうとした人は途中で寝てしまいました。後は適当に頑張って下さい。 |
滑走路及びその周辺には、どのような状況においても安全に着陸できるよう飛行援助施設が充実している。
所有[編集]
滑走路の所有というのは、大きな空港であれば空港を管理する団体のものであるが、小さなものであれば希に個人が所有する者も存在する。土地が豊富なアメリカでは富裕層が滑走路を所有することは珍しくないが、それ以外ではごく希である。アメリカ初の個人所有の滑走路は、デルコ創業者であり NCR 会長となったエドワード・A・ディーズが、オハイオ州ケタリングの自宅に作ったものである。
脚注[編集]
- ↑ 磁方位の表記では、磁北を0°と表記せず360°と表す
- ↑ 滑走路の表記では通例小さい数字が前に来るため、「36/18」ではなく「18/36」と表す。
- ↑ このような4本並んだ滑走路の例は新千歳空港やシャルルドゴール空港でみられる
- ↑ 例として、東京国際空港では、16R/34LがA滑走路、04/22がB滑走路、16L/34RがC滑走路である。
- ↑ 空港を出発する便であっても、離陸後にトラブルなどで引き返して着陸する場合がある。そのため、必要離陸滑走路長が必要着陸滑走路長より短い場合でも、必要着陸滑走路長を確保しなくてはならない。
関連項目[編集]
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