ユーカリ
ユーカリはフトモモ科ユーカリ属(Eucalyptus)の総称。常緑高木となるものが多い。
和名のユーカリは、属名の英語読み「ユーカリプタス」(または英語化された「ユーカリプト」(eucalypt))を短縮したもの。学名の語源は eu-(真に・強く・良く)+ kalyptós(〜でおおった)、つまり「良い蓋」を意味するギリシア語をラテン語化したもの。つぼみのがくと花弁が合着して蓋状となること、あるいは乾燥地でもよく育って大地を緑で被うことに由来して命名されたとされる。漢語では「桉樹」。
なお、 Corymbia 、 Angophora 等の近縁の数属もユーカリに含めることがある要出典。
特徴[編集]
オーストラリア南東部や南西部、タスマニア島におもに分布する。ユーカリには500種類もあり、変種も含めると800から1000もの種類になる。成長がとても早く、材木として注目される。70メートルを超える高さになるものから、5メートル程で枝分かれする種類もある。コアラの食物としてよく知られている。
オーストラリア先住民族(アボリジニ)は傷を癒すのに葉を利用した。葉から取れる精油は殺菌作用や抗炎症作用、鎮痛・鎮静作用があるとされ、医薬品やアロマテラピーなどに用いられる。また、健康茶等にも利用される。ただし、ハーブや精油としての利用は、サプリメントや薬物との相互作用の懸念があると考えられている[1]。
ユーカリは、根を非常に深くまで伸ばし地下水を吸い上げる力が強いので、成長が早く、インド北部のパンジャーブ地方の砂漠化した地域の緑化に使われて成功した。旱魃(カンバツ)に苦しんでいた地方が5年程で甦った例がある(参照:杉山龍丸)。また東南アジアでは熱帯林を伐採した跡の緑化樹として用いられている。 かなり用土の乾燥を好む品種が多く、日本で良く見かける品種のほとんどが湿地帯に生息する湿潤を好む品種である。
オーストラリアでは自然発火による山火事が多いが、ユーカリがその一因である。ユーカリの葉はテルペンを放出するが、気温が高いとその量が多くなるので、夏期にはユーカリ林のテルペン濃度はかなり上昇する。テルペンは引火性であるため、何かの原因で発火した場合、燃え広がり山火事になるのである[2]。樹皮が非常に燃えやすく、火がつくと幹から剥がれ落ちるので、幹の内側は燃えずに守られる[3]。根に栄養をたくわえており、火事の後も成長し続けることができ、新しい芽をつけることもできる[3]。
発芽方法[編集]
オーストラリアの気候はとても乾燥しており、山火事が頻繁に起こる。ユーカリの種は、山火事を経験した後の降雨により発芽すると言われている。人工的にこの条件を満たすには、フライパンで種をさっと煎ったり、熱湯をかけたり、用土を燻煙処理したりする(特別な処理を行なわなくても発芽する種類がほとんどである)。
利用[編集]
パルプ原料[編集]
ユーカリはオーストラリアの原産で、森の木の4分の3がユーカリと言われる。近年、ユーカリプタス・グランディス (E. grandis)を中心に製紙パルプ用のチップ生産に使われ輸出もされているが、これによってユーカリの森林破壊が進み、有袋類の生息環境が危機にさらされている。
中華人民共和国の広東省、広西チワン族自治区、海南省などでも、製紙用原料として広く植樹が行われている。ブラジルでは、ミナスジェライス州に本社を持つパルプ製造会社セニブラ社が10万ha以上の自社林にユーカリを植栽し、7年サイクルで伐採を行い自社製品の原料としている。
精油[編集]
ユーカリプタス・グロブルスから抽出されたユーカリ油は、イギリスで医薬品として認証されており、気道のカタル性炎症(内服、外用)やリウマチの諸症状(外用)に利用される[4]。分泌腺の機能亢進、去痰、おだやかな鎮痙効果・局所的充血作用などの効能があり、のど飴や吸入剤、塗布剤、軟膏、消毒薬などに用いられる。咳を静め痰を減らす効果があるとして、気管支炎、咳、インフルエンザなどの時に、吸入などの方法で利用されることもある。
香料としても歯磨きや菓子などに調合されている。また、防腐効果が見られる。
ユーカリ油に含まれる成分はシネオール、ピネン、シトロネラール、など。市販されるユーカリプタス・グロブルス、ユーカリプタス・ラディアータの精油は非常に安価であるため、合成成分の添加などの偽和はほとんど行われない[4]。ユーカリプタス・グロブルス、ユーカリプタス・ラディアータ以外のユーカリ属の精油は、毒物学的な試験は行われていない[4]。
禁忌・中毒[編集]
ヒトに外用に用いた場合、一般に毒性・感作性・光毒性はないとされるが、外用した場合に精油成分が呼吸器から吸収される可能性がある。内服や蒸気発生装置などでの利用で中毒が見られ、内服で複数の致死例が報告されている[4]。喘息患者の気管支炎を悪化させる可能性がある。特に乳幼児への使用は危険であり、近くでの使用も避けるべきである。アメリカのメリーランド大学のMedical Centerは、6歳未満の幼児に精油を含むのど飴を与えたり、吸入させたり、顔の近くで精油を含む製品を使うこと、また大人が精油を内服するなどは、行うべきでないとして注意を促している[1]。ユーカリは精油・ハーブ共に医師の指導の下で使用すべきであり、特に喘息、脳卒中、肝臓病、腎臓病、低血圧、妊娠中、授乳中の人、抗がん剤のフルオロウラシルを使用中の人は、医師や植物医学分野の有資格者に相談することなく使用しないよう警告している[1]。
緑化[編集]
アルカリ性土壌でも強く育つため、土壌がアルカリ性になっている乾燥地帯の緑化に使われることが多い。また、土壌をアルカリ性から酸性へと移行する。そのため、酸性の土壌に育てた場合、土壌の酸性が強くなりすぎる場合がある。
コアラの食料[編集]
ユーカリはコアラの食料として知られるが、コアラが食べるユーカリの種類は限られており[5]、新芽しか食べない。600種類以上あるユーカリのうち、コアラが食べるのは40種類ぐらい。それぞれのコアラが食べるのは、生育する地方に生える14種類ほどである。[6][7]
脚注[編集]
- ↑ 1.0 1.1 1.2 Eucalyptus University of Maryland Medical Center
- ↑ 自然発火の仕組み - 日本植物生理学会-みんなのひろば-
- ↑ 3.0 3.1 すごい自然のショールーム 火事と共に生きるユーカリ ネイチャーテック研究会, 東北大学大学院 環境科学研究科
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
- ↑ 母親コアラの食性に準ずる
- ↑ ユーカリのうた:コアラ来日25周年 毎日新聞 2009年10月21日 地方版
- ↑ コアラの飼育 油家謙二 天王寺動物園
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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