インターネット依存症
インターネット依存症(インターネットいそんしょう、インターネットいぞんしょう、Internet Addiction Disorder、IAD)とは、日常生活に干渉をおよぼす程度の、インターネットへ過剰に依存した状態をさす。
目次
概説[編集]
1994年頃からゲッツバーグ大学臨床心理学者キンバリー・ヤング(Kimberly S. Young)により、インターネットの利用が及ぼす影響について、「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM-IV)[1]を基に精神疾患にあたるかの調査が行われていた。これらの研究結果から名称された行動的依存症である。 臨床的には、賭博依存症と平行な位置づけである「特定不能の衝動制御の障害」に分類され、DSM-IV(精神障害の診断と統計マニュアル)をもとに診断される[2]。
キンバリー・ヤングやインターネット依存症を精神疾患と考える研究者たちは、インターネット依存症を次版のDSMであるDSM-Vに含めるように請願活動を行っていた。そうすることで、保険会社がインターネット依存症のカウンセリングのための支払いを行うようになるとされている。だが、インターネット依存症は実際の障害ではなく、これをDSM-Vの精神疾患として分類するべきではないとする主張もあった。
しかし、2008年アメリカ医療情報学会(ANA)は「インターネットおよびビデオゲーム中毒」を分類に入れ、正式な診断名とすることを推奨した [3]。 結果として、DSM-Vでは「今後検討すべき診断名」として盛り込まれることとなった[4]。
かつては、インターネット嗜癖とも言われた。
診断基準の案[編集]
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12か月のうちに、以下の3つないしそれ以上の臨床的に重篤な障害や苦痛に至る、インターネットの利用における不適応のパターンが見られること。
- 以下のいずれかで定義される耐性。
- 満足感を得るために、インターネットに非常に長い時間ふれている必要がある。
- インターネットにふれる時間が同じである状況が続けば、影響が極端に減少する。
- 以下のAまたはBによって明らかになる禁断症状。
- (A)以下の1~3のような特徴的な禁断症状。
- 大きく長期間にわたるインターネットの使用の中止または縮小。
- 以下のうち2つまたはそれ以上の現象が、インターネットの中止から数日~1か月後以内に発生する。
- (a)精神運動性の動揺。
- (b)不安。
- (c)インターネット上で起こっていることについての強迫観念的な考え。
- (d)インターネットについての空想または夢。
- (e)自発的または無意識に起こる、指のタイピングの動き。
- (B)インターネットまたは類似したオンラインサービスを利用することで、禁断症状が軽減するかなくなる。
- (A)以下の1~3のような特徴的な禁断症状。
- 意図したより長い時間、インターネットにアクセスしている。
- インターネットの使用を減らすか制限しようとする欲求や努力はするが、うまくいかない。
- 非常に多くの時間をインターネットに関連した活動(たとえば、インターネット関連の書籍を購入したり、新しいWebブラウザを試してみたり、ベンダーの調査を行ったり、ダウンロードしたファイルを分析したりする)に費やす。
- インターネットの使用のために、家族、社会、職業、あるいはレクリエーションの重要な活動の期間や頻度が減少する。
- 持続的、あるいは再発する、身体、家族、職業、精神の問題が引き起こされる(たとえば、睡眠不足、結婚が困難になること、早朝の約束への遅刻、職業上の任務の放棄、あるいは重要な他者を放棄する感情)のを知っているにもかかわらず、インターネットの使用を継続している。
批判[編集]
キャロル・ポテラとジョナサン・ビショップをはじめとするインターネット研究者によって、インターネット依存症などというものは存在しないと主張されている。インターネットは社会的媒体であり、人はインターネットという媒体に没頭することはできないと考えられている。インターネットは環境であると見なされているが、オークションサイトで値をつけるような媒体の面も持っている。また、インターネット依存症理論が強く比較している、インターネットの使用とギャンブルの依存との間には有意な差が存在する。インターネットが大きな部分で向社会的で、双方向的で、情報主導の媒体であるのに対し、ギャンブルは個人的で、反社会的で、社会的な埋め合わせになる価値をほとんど持っていない。
また、上記のテストなどもごく普通の人間であっても依存症とされるなどの曖昧な点を含んでいる。実際のところ治療を必要とするまでの深刻な例は0.5%以下であると言われている事に加え、具体的な診断基準についても研究家によってまちまちであり統一した基準は存在しない。
日本の状況[編集]
日本政府の取り組み[編集]
早くからインターネット依存症への対応を行っていたネット先進国の米国、韓国にくらべて、インターネット依存症への問題意識が低かったため、対処や予防は遅れている。 米国、韓国、中国では社会生活にあたえる脅威と認識し、国家的な対策を講じている[5] 日本政府の問題への取り組みは調査段階にとどまり、積極的な対策はとられていない。 加えて、施策として主導する省庁が決まっておらず、同内容の意識調査を省ごとに行うなど、省庁間での足並みの乱れも目立つ。
2003年、文部科学省はインターネット依存症について「「情報化が子どもに与える影響(ネット使用傾向を中心として)」に関する調査報告書」により、詳細に報告した[6]。
2008年、厚生労働省は成人男女7500人を抽出調査した結果、国内で約271万人がネット依存傾向にあると推計した[7]。
2010年、総務省は保護者および教職員向けに「インターネットトラブル事例集」を作成。「ネット依存による健康被害」による注意を喚起した [8]
2011年7月、国立病院機構久里浜アルコール症センター(現:国立病院機構久里浜医療センター)が国内第1号となるネット依存治療研究部門(TIAR)を設置した。
2012年3月、文部科学省国立教育政策研究所の関係者が、インターネット依存症予防を施策に反映するため、ネット依存症対策の先進国である韓国を訪問し、ソウル市の「青少年インターネット中毒予防・治療機関」を視察した[9]。
2013年8月、厚生労働省研究班の10万人を対象とした実態調査で、ネット依存の中高生が全国で51万8千人と推計されたと、各社から報道された[10]。
東京大学大学院の橋元良明の研究室と総務省情報通信政策研究所の共同研究による調査(2013年2月)では、ネット依存傾向が高い人の割合が、小学生2.3%、中学生7.6%、高校生9.2%、大学生6.1%、社会人6.2%という結果が出た[11]。橋元はその他の調査結果も踏まえて、日本ではソーシャルメディアの利用時間が長い「きずな依存」が多いとしている[11]。
民間の取り組み[編集]
インターネット依存症は個人の問題として重視されてこなかったが、政府の対応とは別に、NPOを主体とする民間団体の動きが活発になっている。
2011年12月 国立病院機構久里浜アルコール症センター(当時)の協力によって「ネット依存家族会」が立ち上げられた。
2012年2月19日福岡市にて、NPO法人の主催による「日韓共同フォーラム『メディア依存からの脱出』」開催され、「ネット依存対策」についての提言がまとめられ、文科省および厚生省に提出された。
海外の状況[編集]
中国の取り組み[編集]
2005年3月、中華人民共和国の北京軍区総病院で、インターネット依存症のための政府のクリニックが設けられた。そこで治療される患者は、大部分が14歳から24歳の裕福な家庭の若者であるが、長時間のオンラインゲームやチャットの結果、不安や抑鬱、睡眠不足で苦しんでいる。治療方法は、インターネットのコールドターキー(急激な中止)、カウンセリング、身体活動、厳格で規則的な睡眠パターンの導入などを含む。
2008年11月9日中国人民解放軍北京軍区総医院で「インターネット中毒診断基準」を作成。この基準を国家衛生部が認可したため、全国各病院で使用され中国において、インターネット依存症は精神疾患とみなされることとなった[12]。 予防としては、同年12月、教育部は「小中高校健康教育指導要綱」を発表し、中学校でインターネット依存症に対する教育を行うという学習方針を策定し、教育課程での予防教育の徹底を指示した。
2010年2月1日中国青少年インターネット協会による発表では、約2400万人の中国青年がインターネット依存症にあたるとされる[13]。
2012年1月中国政府のシンクタンク中国科学院による研究チームは、IRAと診断された17人と健常者16人の青年を被験者として、DTI(拡散テンソル画像)とMRIにより、被験者の脳を比較したところ、前者に脳内の主要な白質のFA(Fractional Anisotropy)経路に広範囲な減少があることを発表した [14]。
国内の専門診療機関[編集]
- 国立病院機構久里浜医療センター
- 成城墨岡クリニック
注釈[編集]
- ↑ アメリカ精神医学会が作った診断基準
- ↑ 『インターネット依存および携帯メール依存のメカニズムの検討』P176
- ↑ 日本労働研究雑誌『IT化とストレス』2011年4月号 P34
- ↑ 『推計500万人、ネット依存の「治療」 リアル人間関係が鍵』毎日新聞 2012年11月13日 東京夕刊
- ↑ 日本労働研究雑誌『IT化とストレス』2011年4月号 P35
- ↑ 「情報化が子どもに与える影響(ネット使用傾向を中心として)」に関する調査報告書
- ↑ ネット依存 「食卓にケータイ」は危険信号
- ↑ 。インターネットトラブル事例集 2012年11月閲覧
- ↑ ソウル市のインターネット中毒対策に日本人「すごい」
- ↑ ネット依存の中高生51万人、8%が「病的」 睡眠障害の恐れも 厚労省研究班 msn産経 2013年8月1日
- ↑ 11.0 11.1 () 「ネット依存」の日本的特徴は「きずな依存」 nippon.com [ arch. ] 2013-11-11
- ↑ インターネット中毒は病気!「精神疾患」に認定―中国
- ↑ あなたも私もネット中毒?!「青少年2400万人が中毒」との発表に疑問の声
- ↑ Abnormal White Matter Integrity in Adolescents with Internet Addiction Disorder
参考文献[編集]
- キンバリー・ヤング『インターネット中毒-まじめな警告です』毎日新聞社(1998) ISBN 978-4-620-31239-2136
- J.C.ハーツ『インターネット中毒者の告白』草思社(1996)
- クリフォード・ストール『インターネットはからっぽの洞窟』草思社(1997)
- ジェーン・ハリー『コンピュータが子どもの心を変える』大修館書店(1999)
- 牟田武生『ネット依存の恐怖』教育出版 (2004年2月)ISBN 978-4-316-80074-5
- 吉田俊和・高井次郎・元吉忠寛・五十嵐祐 『インターネット依存および携帯メール依存のメカニズムの検討―認知‐行動モデルの観点から―』電気通信普及財団研究調査報告書(2005)
関連項目[編集]
- オンラインゲーム依存症
- 携帯依存症
- スマートフォン依存症
- ネット中毒
- デジタル・ディバイド
- Dr jimmy - インターネット依存症の代表例。
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