文庫
文庫(ぶんこ)は、原義としては文書、図書を収蔵する書庫を意味し、まとまった蔵書、コレクションやそれを所蔵・公開する図書館、さらには転じてまとまった形態によって出版される叢書を指す出版形態などに用いられる多義語である。
書庫を意味する和語の「ふみくら」に対し、漢字のふみ(文)、くら(庫)の二字をあてた「文庫(ふみくら)」に由来する和製漢語である。
書庫、蔵書としての文庫
文庫は書庫としての意味から転じ、後にはある邸宅や施設の中の書庫に収められた書籍のコレクションそのものおよびコレクションを収める施設を指す語として用いられるようになった。
中世では金沢北条氏の金沢文庫、足利学校の足利文庫などが有名な例である。
近世には徳川将軍家の紅葉山文庫が名高く、その他、各藩の大名や藩校のもとには優れた文庫が存在した。
国立国会図書館の源流である書籍館、国立公文書館に統合された総理府の内閣文庫などは、近世の文庫から引き継がれた蔵書を基礎としている。 近代以降では、有力者の私的なコレクションから出発した南葵文庫、静嘉堂文庫、東洋文庫などが文庫の名を冠しつつ、近代的な図書館として誕生した。
また、近代図書館活動の中では、「自動車文庫」、「学級文庫」、「子ども文庫」などというように、ある集団に対して開かれた蔵書群の比較的小規模なものを文庫ということがあり、特に図書館の外で有志が図書を収集し提供する小規模な図書館的な活動を「文庫活動」と呼ぶ。
「金沢文庫」は、横浜市金沢区にある施設名から転じて周辺の地名となったが、さらに単に「文庫」と略して、金沢文庫駅やその周辺の地域を指すことがある。
出版形態としての文庫
文庫の語は、明治期に、読者が全体をまとめて購入する事が期待され、また、全巻が購入される事によって文庫と呼ばれるにふさわしいようなコレクションになるように企画された叢書、全集のシリーズ名として用いられる事により、近代出版界の中で独特の用語として使われるようになった。
特に昭和期以降では、廉価で携帯に便利な形状をした、普及を目的とする小型本という出版形態の名として用いられるようになる。このため現代では、文庫といえば多くの場合、このような小型本を指すのが一般的である。
文庫と呼ばれる形態の出版物は、並製本(ソフトカバー)で、A6規格、105×148 mmの判型をとるものが一般的である。この形態の本は「文庫本(ぶんこぼん)」とも呼ばれる。
文庫本で出版される作品は、多くは以前に上製本(ハードカバー)の装訂をもつ比較的大型の本として出版された作品を、普及のために版をかえ、普通2年半から3年の間をおいて出版するものが典型的である。
しかしながら、近年では、この種の形態の本がもつ安価さなどの利点から単行本としての出版の初出が文庫であるものも存在し、特に旅情ミステリーや、ライトノベルなど低年齢層向けのジャンル、自己啓発書、官能小説、また、コンビニエンスストアや駅売店などの書店以外のルートで多く販売されることを想定した軽い話題を扱った書などに多くみられる。平成以後は漫画文庫の創刊が目覚しい。 ある種、安売り読み捨てとしてのフォーマットとして用いられることもあり、この場合は米国におけるペーパーバックと同等の出版形態とされる。
文庫ブーム
- 第1次
円本ブームの反動として、1927年(昭和2年)に岩波文庫が刊行され、ついで改造文庫、春陽堂文庫、新潮文庫が出て文庫ブームが起こった。
- 第2次
1949年(昭和24年)~1952年(昭和26年)。角川文庫、教養文庫、市民文庫、アテネ文庫などが創刊された。
- 第3次
1971年(昭和46年)~1973年(昭和48年)。講談社文庫、中公文庫、文春文庫、集英社文庫などが発刊され、戦後第2次文庫ブームが起こる。
- 第4次
1984年(昭和59年)~1985年(昭和60年)。光文社文庫、徳間文庫、PHP文庫、ちくま文庫、ワニ文庫、講談社X文庫、講談社L文庫、廣済堂文庫、祥伝社ノンポシェット、福武文庫が創刊。
- 第5次
1996年(平成8年)~1997年(平成9年)。幻冬舎文庫、ハルキ文庫、小学館文庫などが創刊。