国立市古美術品店主殺害事件
国立市古美術品店主殺害事件とは、2014年に東京都国立市で発生した、桜井正男とその妻・久美子による田代正美さん殺害事件である。
逮捕
東京都国立市の古美術店「孤董(ことう)館」で2014年5月3日、経営者の田代正美さん(73)=八王子市長沼町=が美術品などを奪われて殺害された事件で、警視庁は14日、強盗殺人で、群馬県みなかみ町小仁田、自称陶芸家・桜井正男(66)と妻のパート従業員・久美子(49)の両容疑者を逮捕した。
捜査一課によると、桜井は田代さんの取引相手で「金を借りに行ったが、交渉がうまくいかずに刺した」と供述。久美子は「私は殺していませんが、夫が美術品を取ってきた」と話しているという。
逮捕容疑では3日午後4~5時ごろ、国立市中一の古美術店内で田代さんの胸や腰を刃物で刺して殺害した上、店内のショーウインドーに陳列された古美術品のつぼや短刀のほか、現金を奪ったとされる。一課は14日、桜井宅を家宅捜索し、つぼや短刀、掛け軸など美術品十数点を押収した。
同課によると、3日午後4~6時ごろ、店の前でつぼのような荷物をワゴンタイプの車に運び込む男の姿を複数の通行人が目撃。車には女も乗っていた。目撃証言や付近の防犯カメラなどから、警視庁は、車が久美子の所有であることを特定。両容疑者が事件に関わった疑いが強まったとして、十四日朝から任意同行して事情を聴いていた。
桜井はこれまでに20回ほど田代さんに自作の陶芸品を売ったことがあったという。「刃物は自分で持ち込んだ」とも供述している。
事件経緯
桜井正男は陶芸家を名乗り、自宅敷地内の窯で陶磁器を焼いては骨董品店に売り歩き生計を立てていた。田代正美さんにも執拗に買い取りを迫り、殺害当日には借金を申し込んで断られていた。月3万円の家賃を約2年半にわたって滞納し、金銭的困窮が動機になった。
「もうからない作品ばかり売りに来る。店の品格を落とすから取引をやめたい」。
桜井と7年以上付き合いがあった田代さんは事件直前、同業者の男性にこう相談していた。桜井はこれまでに20回以上、今年だけでも数回、田代さんの店に押しかけ、「人が良いから断れなかったのではないか」と男性は嘆く。
桜井夫婦は約10年前、群馬県みなかみ町の関越道水上インターチェンジに近い2階建て民家に引っ越してきた。当初は、家主に「つぼが高く売れたから」などと言って、月5万円の家賃に1万~2万円を上乗せして支払っていた。
ところが、体調を崩し、つぼが売れなくなったと訴え、約3年前に家賃を月3万円に値下げ。それでも滞納し、2年半前からは支払いが途絶え、昨秋に家主が催促したところ、「つぼが売れないからカネがない」と突っぱねてきた。
桜井は妻の久美子の車で自作の陶磁器を売り歩いていた。同県高崎市内の骨董品店を訪れるようになったのは5~6年前。
「室町時代の信楽焼」と偽って高く売りつけようとしてきたが、偽物と指摘すると、桜井は「贋作は売れる。自分で作ったんだ」と開き直った。
さらに、「妻に原型を作らせてから焼くと素朴で古いものに見える」「土は兵庫県で仕入れた」などと吹聴し、1~2カ月に1度のペースで店にやってきた。別の骨董品店では一度断られても、「2万円でいい」などと安物の陶磁器の買い取りを再三要求していた。
田代さんを殺害した後も、桜井夫婦は陶磁器の売り歩きをやめなかった。逮捕前日の2014年5月13日午後4時ごろ、群馬県吉岡町の骨董品店を訪れ、店主にうどんをおごらせた上で、茶碗を買うように要求。店主が断っても、2時間後に戻ってきて、5万円で店主が買い取るまでは頑として立ち去らなかった。
この店主は「茶碗はとても売れそうにない代物だった。よほどカネに困っていたのだろう」と話した。