スーパーマーケット
スーパーマーケット(英:supermarket, SM)は、高頻度に消費される食料品や日用品などをセルフサービスで短時間に買えるようにした小売業態である。
スーパーマーケットの名称は、英語で「市場(いちば)」を意味する “マーケット” に、「超える」という意味の “スーパー” を合成し、「伝統的な市場を超えるほどの商店」の意で作られた造語であるが、スーパーマーケットの事業が拡大するうちにひとつの名詞となった。特定の品目を専門的に扱うのではなく、幅広い品目の商品を取り揃えることが通例であり、狭義では食料品や日用品販売主体のものを指すが、日本では総合スーパー、食品スーパー、衣料スーパーというように、セルフサービスの総合店を指している場合が多い。
日本で、この業態が誕生した時期には「SSDDS」や「セルフデパート」と呼ばれたりもしていた(詳細は#SSDDS・セルフデパート参照)。
目次
歴史
欧米での小売店はかつて、客と店員がカウンターを挟んで対面し、客の注文に応じて店員が商品を取り出す方式が通常だった。また食品や商品は消費者が購入するサイズに分けて包装してあるわけではなく、客の注文に応じて店員が切り分けて包装する必要があった。このような販売方式は労働力への依存が大きく、コストも高くついた。購買にかかる時間も長く、一度に応対できる客の人数は店員の人数に制限される。この形態の小売店は現在も精肉店・洋菓子店など専門店で存在する。
セルフサービスの食料雑貨店というコンセプトは、アメリカ合衆国の起業家クラレンス・ソーンダースが創業した Piggly Wiggly が起源である。彼は1916年9月6日、テネシー州メンフィスに1号店をオープンした。ソーンダースは彼の店で導入したアイデアについて多数の特許を取得した[1][2][3][4]。この店は大成功し、ソーンダースはフランチャイズ展開を始めた。The Great Atlantic and Pacific Tea Company (A&P) もカナダとアメリカ合衆国で同様の方式で成功を収め、1920年代には北米全体でよく知られるようになった。これ以降、北米の小売店は夜間に商品を棚に陳列し、翌日には客が棚から商品を手に取り、カウンターに持っていって支払いをするという方式になった。これによって店員の削減や客一人あたりの対応時間の短縮など大幅な合理化に繋がった。万引きの危険性は増大するが、規模の経済の効果と必要とする労働力の低下がセキュリティを整えるためのコストに勝っていた。
初期の食料雑貨店は肉や野菜を販売していなかった。生鮮食品も販売する食料雑貨店は1920年代ごろに生まれた[5]。
スミソニアン博物館によれば、アメリカでの現代的なスーパーマーケット(または、食品スーパーのうち大規模なものはフードセンター、小規模なものはフードマーケット)と呼ばれる形態は、かつてクローガーの従業員だったマイケル・J・カレンが1930年8月4日、ニューヨーククイーンズ区のジャマイカ地区にある6,000平方フィート(560平方メートル)の空きガレージで始めた店が最初とされている[6]。このキング・カレン(King Kullen:"king" はキングコングに着想を得てつけたという)は、「高く積み上げ、安く売る」をスローガンとして経営。1936年にカレンが亡くなったとき、キング・カレンは17店が営業していた。
1930年代にはクローガーやセイフウェイといった既存の食料雑貨チェーンもあり、当初はカレンのアイデアに抵抗していたが、世界恐慌で景気が落ち込み、消費者が価格志向になっていたため、結局それらチェーンもスーパーマーケット方式に転換せざるを得なくなった[7]。クローガーはさらにアイデアを先取りし、四方を駐車場に囲まれたスーパーマーケットを初めて建設した。
第二次世界大戦後、郊外の開発が進むにつれて、カナダやアメリカでスーパーマーケットがどんどん広まっていった。北米のスーパーマーケットの多くは、郊外のショッピングセンターで中心となる店舗として建設された。スーパーマーケットのチェーンの多くは地域的なものが多く、全国的なブランドではない。クローガーはその中でもアメリカ全土で知られているが、傘下には多数の地域ブランド(Ralphs、City Market、King Soopers など)を抱えている。カナダでは Loblaw や Sobeys が全国的ブランドとして知られているが、運営している店舗は様々な地域ブランド名である。
1950年代、スーパーマーケットは顧客への特典としてしばしばトレーディングスタンプを発行するようになった。最近では、各店専用の「メンバーシップカード」や「クラブカード」を発行したり、「ポイントサービス」を実施したりしている。一般に支払い時にカードをスキャンすると、カード所有者が特定商品について会員割引を受けられるという形態のものが多い。
また、モータリゼーションによって自動車で買い物に行くという文化が生まれ、駐車場を備えた大規模スーパーマーケットが確立した。こうして、商品の大量陳列と値引きによる薄利多売を実現し、チェーン展開による多数出店を進めたスーパーマーケットは、次第に流通業の中で影響力が大きくなり、これまでメーカー・問屋が握っていた価格決定権に強い発言力を持つ存在となった。
従来型のスーパーマーケットは、ウォルマート、イギリスのアズダ、カナダのゼラーズのようなディスカウントストアと激しい競争を展開している。これらの店舗は一般に労働組合がなく、さらに低価格で販売している。さらにコストコのような会員制倉庫型小売業が登場し、大量販売で低価格を実現している。ウォルマートやアズダが運営しているスーパーセンターは、食料品も含めた豊富な品揃えを誇っている。これらの店舗形態が増えるにしたがって、小規模な近所の雑貨店が世界的に消えていく傾向が続いている。結果として自動車への依存が強まり、交通量の増大と大気汚染につながっている。また、この状態で大型店舗が不採算などで消滅してしまうと、買い物難民と呼ばれる人が発生する。特に車などのパーソナルな交通手段を持たない・利用できない人にとっては大きな問題となっている。
日本におけるスーパーマーケット
名称として“スーパーマーケット”と言う言葉が日本に流入したのは、1952年に京阪電気鉄道の流通部門(現在の「京阪ザ・ストア」)が大阪の旧京橋駅に展開した店「京阪スーパーマーケット」が最初で、セルフサービスのスーパーマーケット業態が導入されたのは、翌1953年に紀ノ国屋が東京都港区赤坂青山北町六丁目の神宮前駅至近でオープンした店が日本初である。
日本の場合、売場面積300m²程度から3,000m²以上までいくつかの系統付けられたタイプがある。大規模なものでは、一店舗で食料品や日用品といった消費財から、衣料品・家電までの耐久消費財までも扱う総合スーパー、ゼネラルマーチャンダイズストアが主に市街中心地に多く出店されたが、最近では、食料品や日用品までを扱うスーパーマーケットが、郊外へ多数の店舗が集約されたショッピングセンターに出店する場合が多い。
また、規制緩和により1990年代後半よりタバコ・酒類などの免許品の取り扱い、長時間営業(9~10時から20~24時まで、一部では24時間営業もある)・売り場面積の大型化・新規出店の増加が進んでいる。尚、1979年から全国に先駆けて福岡県の地元スーパーマーケット「丸和」が24時間営業を始めている。
1996年からダイエーが日本のスーパー業界で初めて、全国規模で元日営業を開始。その後大手スーパーを中心に他社でも、元日営業が行われるようになった。
日本のチェーンストア業界では、構成比が50%以上の部門の名前を頭につけて分類する。
食品スーパーマーケット
食料品の売上構成比が70%以上あるものであり、スーパーマーケットの中で店舗数が最も多い。
住宅街の近くを基本に立地し、来店頻度は1週間に2・3回が想定されている。生鮮食品の扱いを主力として日常生活を支えることを目標に、売り場にある商品だけで1週間生活できるような品揃えを行うものとされている。元より薄利多売型の同種業態の中でも、特に競合店との安売り競争の激しい業態である。2000年代以降は生鮮食品を含む食料品に特化しての長時間営業をするものが増えている要出典。
郊外型の大規模な店舗はスーパースーパーマーケット (SSM) とも呼ばれ、インストアベーカリー・惣菜の調理場・店内飲食スペースなどを備え、最終加熱をするだけの食品の販売やサラダバーなどのミールソリューションを行うようになってきている。このような店舗では一般では入手しにくい食材も取り揃える事で、1980年代以降に急速に広がった大衆のグルメ志向もあり、またこれらを安く提供する事で人気を集めている。
大規模小売店舗立地法の規制売り場面積の以下の小型の店舗では、出店規制の厳しい都市部や住宅街の多い地域に深く根付いている事もあって一定の繁栄を見せている。その一方で、経営体力的に価格競争も難しくコンビニエンスストアと余り明確な違いを打ち出し難い部分もある。若者層や少子高齢化による高齢者宅では、生鮮食品を買わず出来合いの弁当や惣菜で済ませる場合もあり、より立地条件の良いコンビニエンスストアとの競合も起きている。
衣料品スーパー
衣料品売上構成比が70%以上あるものである。元々は衣類販売店等が大型化の過程でこのような業態に行き着くが、売り場面積を大きくして総合スーパーマーケットになっていったものが多い。
総合スーパー
構成比が70%以上の部門がなく、3つ以上の部門にわたって品揃えしているものであり、日本型スーパーストアや擬似百貨店とも呼ばれたことがあった。また、米国のシアーズ、JCペニーなどが G.M.S.(General Merchandise Store。「M」はマーケティングではない) と呼ばれていることから、同様の名で呼ばれることもあるが、米国の場合は食品を扱わないので、日本のものとは異なる。なお「総合スーパーマーケット」と表記される例はまれで、多くの場合「総合スーパー」が用いられる。日本で初めてこの業態を採り営業を始めたのは、福岡市のユニード(現在はダイエーに吸収合併)だとされる。
複層の建物を用い、店舗面積は広い。扱う商品が幅広く、日々の買い物というよりも、週末などに大きな買い物やまとめ買いをするために賑わう形態の店舗である。1990年代以前には郊外型大型店が多く見られ、飲食店など一部テナントを入れている場合も多い。
1990年代以降、スーパーマーケット業界を牽引してきたダイエーが業績悪化し始め、総合スーパーは凋落してゆく。主たる背景として、一つの分野に特化した専門店の台頭や、何でも扱っているが故の品揃えの薄さなどが挙げられる。コミュニティショッピングセンターの核店舗となるスーパーセンターや、リージョナルショッピングセンターの核店舗となるファッションのトータルコーディネイトを提案するゼネラルマーチャンダイズストアへの転換を目指す動きがある。
ネットスーパー
インターネットで注文を受け付けて、主に総合スーパーの店舗からその商圏の消費者に向けて即日配達するという商形態が始まっている。
SSDDS・セルフデパート
SSDDSは「Self Service Discount Department Store」の略で、直訳すると「セルフサービスによる割引料金の百貨店」になる。また略して「セルフデパート」と呼ばれたりしていた。これまでの百貨店並の品揃えで、かつセルフサービスを採用して安売りを行っていた。SSDDSは流通用語でもある。両語とも、スーパーマーケットの用語が一般化する前の1960年代頃、使われた用語である。一例としてダイエー三宮第一店(1963年開店、1995年閉鎖)が開店当初名乗っていた[8]。
関連項目
- 日本のスーパーマーケット一覧
- コールドチェーン
- チェーンストア
- 総合スーパー
- 百貨店
- キャッシュレジスター
- 入金機
- サッカー台
- グロサリー
- 生鮮食品
- 日配食品
- スーパーの女(日本映画)
- ネットスーパー
- ハイパーマーケット
- 特定建築物 - 日本の大規模スーパーマーケットに適用される環境衛生等に関する規定
- 移動スーパーマーケット
- プライベートブランド
脚注・出典
- ↑ http://www.google.com/patents?id=UnZhAAAAEBAJ&dq=Clarence+Saunders
- ↑ http://www.google.com/patents?id=dPdNAAAAEBAJ
- ↑ http://www.google.com/patents?id=HjBBAAAAEBAJ&dq=Clarence+Saunders
- ↑ http://www.google.com/patents?id=2dd5AAAAEBAJ&dq=Clarence+Saunders
- ↑ Strasser, Susan Never Done: A History of American Housework Holt Paperbacks, 2000.
- ↑ Anonymous, "The place where supermarketing was born," Mass Market Retailers 19, no. 9 (17 June 2002): 172.
- ↑ Ryan Mathews, "1926-1936: entrepreneurs and enterprise: a look at industry pioneers like King Kullen and J. Frank Grimes, and the institution they created (Special Report: Social Change & the Supermarket)," Progressive Grocer 75, no. 12 (December 1996): 39-43.
- ↑ 「For the CUSTMORS ダイエーグループ35年の記録」P.81 ダイエー社史編纂室 篇 1992年(非売品)
外部リンク
- 日本スーパーマーケット協会 - 食料品売上構成比が原則50%以上のスーパーマーケットで構成。
- 一般社団法人新日本スーパーマーケット協会 - セルフサービス方式を採用する食品スーパーマーケットを中心に構成。
- 月刊食品商業 - スーパーマーケット経営専門誌