複線
複線(ふくせん、double track)とは、鉄道の軌道を上り列車用と下り列車用にそれぞれ1線ずつ、計2線敷くことを指す。鉄道の軌道を道路の概念で考えると、複線の場合では両側2車線、つまり片側1車線となる。
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特徴[編集]
単線の場合、一区間について一度に一方向にのみ列車を走らせることしかできないが、複線の場合には同じ区間に一度に双方向で列車を走らせることができる。このため単線と比較して多数の列車を設定できる。設定できる列車本数(線路容量)は、閉塞方式にもよるが、単線の2倍以上となる。対向列車を待つ時間をなくすことができるので、高速化にも効果がある。またダイヤが乱れた際に、一方の列車の遅れが反対方向の列車に影響を及ぼすことがないので、運転整理も行いやすくなる。
初期のイギリスの鉄道では、電信技術がなかったために、隣の駅と事前に列車の運行を打ち合わせることができなかった。このことから単線では安全な運行を行なうことが困難であったため、多くが複線であった。一方アメリカ合衆国では、費用の問題から、初期の時点で単線の路線が多く建設され、列車を安全に効率よく運転するための電信技術の発達を促した。
運転の方向[編集]
複線の路線においては、折り返しや分岐のある駅や信号場の構内を除き、個々の線路での列車の進行方向が一方に定められていることが多い。日本においては左側通行であるが、これは国や路線によって異なる。また道路の通行区分とは必ずしも一致しない。例えばフランスや台湾では道路は右側通行だが鉄道は左側通行である。左側通行の国と右側通行の国を直通する路線では、国境付近で立体交差などにより上下線を入れ替えている。
単線並列[編集]
線路が2本並んでいても、上りと下りの列車の使用する線路が分離されておらず、どちらの線路でも上下の列車が運行されているような例は、複線とは呼ばず単線並列(単線併設区間)と呼ぶ。単線並列では、線路容量や高速化などの複線の持っている多くの長所はないが、路線が分岐する区間などで用いられることがある。複線として建設された区間では、その進行方向を前提として分岐器や信号機を設置しているので、そのままでは単線並列運転を行うことはできない。
また、通常は複線として運転を行っているが、車両の故障で停車した列車が線路を塞いだ場合や保線作業で一方の線路が使えなくなった場合など、1線の障害時に単線運転できるように考慮されているものもあり、この場合も単線並列と呼ぶ。TGVなどヨーロッパにおける高速鉄道の多くはこの方式を採用しており、双方向運転と呼んでいる。数十 kmごとに上下線の連絡線を設けてあり、障害発生時にももう片方を使用して運転を継続できるメリットがある。
一方、日本では単線並列の例は少ない。日本はヨーロッパに比べて列車本数が多く、異常発生時に単線運転を行っても十分な輸送力を確保できないという考えが背景にある。また単線並列のための分岐器や信号機などの設備は普段は使わないので、使わない設備を設置することによる建設費や保守費の増大という問題もある。
日本の新幹線の車両技術を採用した台湾の台湾高速鉄道では、軌道やシステムにはヨーロッパのものも取り入れているため双方向運転が可能となっており、実際にトラブルが発生した場合、片方の線路を使用した双方向運転が行われている。しかし、日本側の技術者は、列車本数が多いためそのような運用は実現不能だとして、導入に反対していた。
日本における単線並列区間の例[編集]
- 四国旅客鉄道(JR四国)の高徳線・徳島線の佐古駅 - 徳島駅間(正式所属は高徳線)
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)の奥羽本線・仙山線(左沢線)の山形駅 - 羽前千歳駅間(正式所属は奥羽本線)
- JR東日本の奥羽本線の大曲駅 - 秋田駅間の大部分
- 近畿日本鉄道(近鉄)の生駒鋼索線(生駒ケーブル)の鳥居前駅 - 宝山寺駅間(両線での同時運行は繁忙期のみ)
日本における異常時に単線運転できる区間の例[編集]
複線の採用例[編集]
交通量が多い都市部や幹線でおもに採用されている。また、新幹線や地下鉄のようにこのシステムで建設することが前提となっているものもある。
複線化[編集]
単線であった路線を複線にすることを複線化と呼ぶ。一般には単線時代の線路を複線の線路の一方に利用して、もう一本の線路を敷く形で工事をするが、場合によっては単線時代の線路を放棄して、丸々複線の線路を新設することもある。これは複線化に合わせて線路の改良を行う目的などによる。
もう一本の線路を既存の線路の脇に増設することを腹付け線増(はらづけせんぞう)と呼ぶ。一方、一本の線路を増設する場合でも、土地の買収の問題や線路改良の意図などから、駅構内のみ上下線を並べて駅間では既存の線路とは離れた場所に線路を敷設する場合があり、このような例を別線線増(べつせんせんぞう)と呼ぶ。
別線線増となっている区間としては、
などの例がある。
複線化時の勾配改良[編集]
複線化に際して同時に急勾配区間の改良を行う例がある。急勾配の既存路線を放棄して勾配の緩い複線の新線を建設する場合は複線別線線増(ふくせんべつせんせんぞう)と呼ぶ。代表的な例として北陸トンネルがある。
一方、列車の運行上急勾配が問題になるのは下り勾配よりも上り勾配の時であるので、急勾配の既存路線をその勾配を下る向きに再利用して、勾配を登る向きの線路だけを別線線増で緩い勾配にすることがあり、これを迂回線増(うかいせんぞう)と呼ぶ。代表的な例としては東海道本線の大垣駅 - 関ヶ原駅間があり、上り本線は垂井駅を経由するが、下り本線は旧・新垂井駅(1986年廃止)を経由するルートで迂回する。
より複雑な例としてたすき掛け線増(たすきがけせんぞう)がある。峠を越えるためにその両側に急勾配区間がある単線区間を複線化する時に、緩勾配の単線を2本建設して途中で従来の線路に図に示したようにつなぎ合わせる。新たに建設した緩勾配の線路を峠を上る向きに使用し、峠を下る時には従来の急勾配の線路を使用する。このようにすることで、どちらの方向に列車を運転する時も、上り勾配を緩くすることができ、また従来の線路の一部を再利用できるので、すべての区間を勾配の緩い複線で造り直すよりも安く済ませることができる。ただし峠の頂点付近の旧線は再利用できずに廃止になることが多い。この手法は、東北本線の複線化で多用された。
複線が存在しない県[編集]
- 宮崎県には複線区間が一切存在せず、全線単線である。
参考文献[編集]
関連項目[編集]
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