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2020年1月16日 (木) 00:04時点における最新版
人間国宝(にんげんこくほう)は、日本の文化財保護法に基づき同国の文部科学大臣が指定した重要無形文化財の保持者として各個認定された人物を指す通称である。文化財保護法には「人間国宝」という文言はないが、重要無形文化財保持者を指して人間国宝と呼ぶ通称が広く用いられている。
目次
概説[編集]
人間国宝は、重要無形文化財保持者として各個認定された人物を指す通称である。日本の文化財保護法において、無形文化財とは、演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いものをいう(同法第2条第1項第2号)。無形文化財のなかでも特に重要なものを、文部科学大臣は重要無形文化財に指定する(同法第71条第1項)(この点については重要無形文化財の項を参照)。すなわち、無形文化財とは芸能、工芸技術等の無形の「わざ」そのものを指すが、その「わざ」はこれを高度に体得している個人または団体が体現する。そして、日本国政府はこの「わざ」を体現する個人または団体を重要無形文化財の保持者または保持団体に認定し、その継承の支援と保護を行っている。
認定の方式[編集]
重要無形文化財の保持者または保持団体の認定の方式には、「各個認定」「総合認定」「保持団体認定」の3種がある。各個認定は保持者個人の認定、総合認定は集団を構成する保持者の認定、保持団体認定は保持団体の認定である。このうち「人間国宝」と呼ばれるのは、一般的には、個人が認定される各個認定の場合のみである。総合認定における団体の構成員、及び保持団体認定における当該団体およびその構成員については、人間国宝とは呼ばないのが一般的である。
演劇、音楽などの芸能の分野では「各個認定」と「総合認定」が行われ、工芸技術の分野では「各個認定」と「保持団体認定」が行われる。
- 各個認定
- 「重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現できる者」または「工芸技術を高度に体得している者」が認定される。
- 総合認定
- 「2人以上の者が一体となって芸能を高度に体現している場合」や「2人以上の者が共通の特色を有する工芸技術を高度に体得している場合」において、「これらの者が構成している団体の構成員」が認定される。
- 保持団体認定
- 「芸能または工芸技術の性格上個人的特色が薄く」かつ「当該芸能または工芸技術を保持する者が多数いる場合」において、「これらの者が主たる構成員となっている団体」が認定される。
支援制度[編集]
日本国政府は、重要無形文化財の保護を目的として、人間国宝(各個認定者)に対して年額200万円の特別助成金を交付している。保持団体に対しては伝承者養成事業や文化財公開事業に対してその経費の一部を助成している。国立劇場では能楽、文楽、歌舞伎などの後継者養成のための研修事業が行われている。
人間国宝の一覧(芸能)[編集]
芸能分野は、雅楽、能楽、文楽、歌舞伎、組踊、音楽、舞踊、演芸の8つの種別に分かれている。
平成21年度(2009年度)までの、歴代重要無形文化財保持者(各個認定)は以下のとおり(分野別。指定年月日順)。
雅楽[編集]
過去に各個認定はない。
能楽[編集]
- シテ方 - 喜多六平太(喜多流十四世宗家)、近藤乾三、櫻間道雄、後藤得三、豊嶋彌左衛門、松本惠雄、高橋進、八世観世銕之丞(静雪)、粟谷菊生、九世片山九郎右衛門(存命)、三川泉(存命)、友枝昭世(存命)
- ワキ方 - 松本謙三、宝生弥一、森茂好、宝生閑(存命)
- 笛方 - 藤田大五郎、一噌仙幸(存命)
- 小鼓方 - 幸祥光、幸宣佳、鵜澤壽、曾和博朗(存命)、北村治(存命)
- 大鼓方 - 川崎九淵、亀井俊雄、安福春雄、瀬尾乃武、安福建雄(存命)、亀井忠雄(存命)
- 太鼓方 - 柿本豊次、二十二世金春惣右衛門(存命)
- 狂言 - 善竹彌五郎、六世野村万蔵、三世茂山千作、九世三宅藤九郎(七世三宅庄市)、四世茂山千作(存命)、野村萬(存命)、野村万作(存命)
文楽[編集]
- 大夫 - 六世竹本住大夫、十世豊竹若大夫、豊竹山城少掾、八世竹本綱大夫、四世竹本津大夫、四世竹本越路大夫、七世竹本住大夫(存命)、九世竹本綱大夫(存命)
- 三味線方 - 四世鶴澤清六、六世鶴澤寛治、野澤松之輔、二世野澤喜左衛門、十世竹澤彌七、四世野澤錦糸、五世鶴澤燕三、七世鶴澤寛治(存命)、鶴澤清治(存命)
- 人形方 - 初世桐竹紋十郎、二世桐竹勘十郎、吉田玉男、吉田文雀(存命)、吉田簑助(存命)
歌舞伎[編集]
- 立役 - 三代目市川左團次、三代目市川壽海、八代目坂東三津五郎、初代松本白鸚、二代目中村鴈治郎、十七代目中村勘三郎、二代目尾上松緑、十三代目片岡仁左衛門、十七代目市村羽左衛門、五代目中村富十郎(存命)、四代目坂田藤十郎(存命)、七代目尾上菊五郎(存命)
- 女方 - 七代目尾上梅幸、六代目中村歌右衛門、四代目中村雀右衛門(存命)、七代目中村芝翫(存命)
- ふけ女役 - 三代目尾上多賀之丞
- 脇役 - 六代目市川團之助、二代目中村又五郎、六代目澤村田之助(存命)
- 竹本 - 五代目竹本雛太夫
- 長唄 - 杵屋栄左衛門、二代目芳村五郎治、五代目松島壽三郎、鳥羽屋里長(存命)、杵屋巳太郎(存命)
- 囃子 - 九代目田中傳左衛門、四代目望月朴清
組踊[編集]
音楽[編集]
- 琵琶 - 山崎旭萃
- 尺八 - 納富寿童、島原帆山、山口五郎(史上最年少)、青木鈴慕(二代目、存命)、山本邦山(存命)
- 筝曲 - 越野栄松、中能島欣一、宮城喜代子、米川文子(初代)、上原真佐喜(二代目)、米川敏子(初代)、中田博之、山勢松韻(六代目、存命)、米川文子(二代目、存命)
- 地歌 - 富崎春昇、富山清翁、菊原初子、藤井久仁江、富山清琴(存命)
- 長唄
- 義太夫節
- 一中節
- 河東節
- 宮薗節
- 新内節
- 常磐津節
- 清元節
- 琉球古典音楽 - 島袋正雄(存命)、照喜名朝一(存命)勝連盛重
舞踊[編集]
- 歌舞伎舞踊 - 坂東三津五郎(七代目)、花柳寿應、藤間勘祖(二世)、藤間藤子、花柳壽楽(二代目)、西川扇藏(十代目、存命)、花柳寿南海(存命)
- 上方舞 - 山村たか、吉村雄輝
- 京舞 - 井上八千代(四世)
演芸[編集]
演劇[編集]
芸能分野における「総合認定」[編集]
各個認定はいわゆる「人間国宝」、つまりその分野について高度な技術を持つ「名人」に対して行われる。一方で総合認定は、個人的な技術の高さではなく、ある芸能を保持し、後世に伝えてゆくために最低限必要な技量を持った人々に対して行われるものであり、その価値は実質上まったく異なる。総合認定が行われる分野は、一部の名人だけではなくその芸能自体が文化財保護の対象として考えられているものであるといえるだろう。
現在、重要無形文化財の総合認定には、以下の12団体が認定されている。総合認定の場合、「保持者」は、その団体の部員、会員、座員などである。
人数は延べ人数(過去に会員となった者の総数。故人を含む)で、平成12年度の数である。
- 宮内庁式部職楽部(雅楽) - 50名
- 社団法人・日本能楽会(能楽) - 653名
- 人形浄瑠璃文楽座(人形浄瑠璃) - 133名
- 社団法人・伝統歌舞伎保存会(歌舞伎) - 294名
- 伝統組踊保存会(組踊) - 64名
- 義太夫節保存会(音楽) - 49名
- 常磐津節保存会(音楽) - 51名
- 一中節保存会(音楽) - 15名
- 河東節保存会(音楽) - 6名
- 宮薗節保存会(音楽) - 10名
- 荻江節保存会 - 8名
- 琉球舞踊保存会
これらの団体には、多くの場合その母体となる全演奏家協会があり、その中で技量の熟達が認められた者について、上記の各団体への加入が認められ(通常は会員の推挙または互選)、各団体へ正式加入と同時に「重要無形文化財総合保持者」に認定される。各団体ごとに選出母体となる団体があり、数年に一回程度追加認定(実質上の人数追加)がある。
人間国宝の一覧(工芸技術)[編集]
2008年までに認定された工芸技術部門の重要無形文化財保持者(各個認定)は以下の160名である(2008年(平成20年)9月11日付け認定分までを含む。)
(凡例)
- 陶芸、染織、漆芸、金工、人形、木竹工、諸工芸、和紙に分け、重要無形文化財に指定された工芸技術名と、保持者に認定された者の氏名を記載した。記載順は指定・認定された順とした。
- 荒川豊蔵、北村武資、喜多川平朗の3名は、それぞれ2つの工芸技術について保持者に認定されたため、重出している。
- 1975年の文化財保護法改正によって保持団体認定制度が導入される以前に「保持者代表」として認定されていた者については割愛した。
- *印は2009年10月現在の現存者、無印は故人である。
- 下の一覧には、保持者の死去により重要無形文化財の指定ならびに保持者の認定が解除されたものも含まれている。
陶芸[編集]
- 色絵磁器 - 富本憲吉、加藤土師萌(はじめ)、藤本能道(よしみち)、十三代今泉今右衛門、*十四代酒井田柿右衛門
- 鉄釉陶器 - 石黒宗麿、清水卯一、*原清
- 民芸陶器 (益子焼)- 濱田庄司
- 志野 - 荒川豊蔵、*鈴木藏(おさむ)
- 瀬戸黒 - 荒川豊蔵
- 萩焼 - 三輪休和(十代三輪休雪)、*三輪壽雪(十一代三輪休雪)
- 備前焼 - 金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄、*伊勢崎淳
- 唐津焼 - 中里無庵
- 染付 - 近藤悠三
- 白磁・青白磁 - 塚本快示
- 琉球陶器 - 金城次郎
- 鉄絵 - 田村耕一
- 練上手 - 松井康成(こうせい)
- 白磁 - *井上萬二
- 三彩 - 加藤卓男
- 民芸陶器(縄文象嵌)- 島岡達三
- 青磁 - 三浦小平二、*中島宏
- 彩釉磁器 - 三代徳田八十吉
- 常滑焼(急須)- 三代山田常山
- 釉裏金彩(ゆうりきんさい)- *吉田美統(よしたみのり)
- 無名異焼(むみょういやき)- *五代伊藤赤水(せきすい)
染織[編集]
- 江戸小紋 - 小宮康助、*小宮康孝
- 長板中形 - 松原定吉、清水幸太郎
- 友禅 -田畑喜八、木村雨山、中村勝馬、上野為二、森口華弘(かこう)、山田貢(みつぎ)、羽田登喜男(はたときお)、*田島比呂子(ひろし)、*森口邦彦
- 友禅楊子糊(ようじのり)- 山田栄一
- 正藍染 - 千葉あやの
- 型絵染 - 芹沢銈介、稲垣稔次郎(としじろう)、鎌倉芳太郎
- 羅 - 喜多川平朗、*北村武資(たけし)
- 精好仙台平(せいごうせんだいひら)- 甲田栄祐、*甲田綏郎(よしお)
- 唐組 - 深見重助
- 有職織物 - 喜多川平朗、*喜多川俵二
- 献上博多織 - 小川善三郎、*小川規三郎
- 紬縞織・絣織 - 宗廣力三
- 紬織 - *志村ふくみ、*佐々木苑子
- 佐賀錦 - *古賀フミ
- 紅型(びんがた)- *玉那覇有公(たまなは ゆうこう)
- 綴織 - *細見華岳
- 刺繍 - *福田喜重
- 首里の織物 - *宮平初子
- 読谷山花織(ゆんたんざはなうぃ)- 与那嶺貞(よなみね さだ)
- 芭蕉布 - *平良敏子
- 経錦(たてにしき)- *北村武資(たけし)
- 木版摺更紗(もくはんずりさらさ)- *鈴田滋人
染織(伊勢型紙)[編集]
漆芸[編集]
- 蒔絵 - 高野松山、松田権六、*大場松魚、寺井直次、田口善国 、*室瀬和美
- 彫漆 - 音丸耕堂
- 沈金 - 前大峰、*前史雄
- 蒟醤(きんま)- 磯井如真、*磯井正美、*太田儔(ひとし)
- 髹漆(きゅうしつ)- 赤地友哉、増村益城(ましき)、塩多慶四郎、*大西勲、*小森邦衞、*増村紀一郎
- 螺鈿 - *北村昭斎
金工[編集]
- 銅鑼 - 魚住為楽、*三代魚住為楽
- 彫金 - 海野清、内藤四郎、鹿島一谷、金森映井智、増田三男、鴨下春明、*中川衛、*桂盛仁
- 蝋型鋳造 - 佐々木象堂
- 茶の湯釜 - 長野垤志(てつし)、角谷一圭(かくたにいっけい)、高橋敬典(けいてん)
- 鋳金 - 高村豊周(とよちか)、*齋藤明、*大澤光民(おおざわこうみん)
- 肥後象嵌・透 - 米光光正
- 梵鐘 - 香取正彦
- 鍛金 - 関谷四郎、*奥山峰石(ほうせき)、*田口壽恒(としちか)
金工(刀剣)[編集]
- 日本刀 - 高橋貞次(さだつぐ)、宮入行平(ゆきひら)、月山貞一(さだいち)、隅谷正峯(すみたにまさみね)、*天田昭次(あまたあきつぐ)、大隅俊平(としひら)
- 刀剣研磨 - 本阿彌日洲、小野光敬、藤代松雄、*永山光幹
人形[編集]
木竹工[編集]
- 竹芸 - 生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)
- 竹工芸 - 飯塚小玕斎(いいづかしょうかんさい)、二代前田竹房斎、*五世早川尚古斎、*勝城蒼鳳
- 木工芸 - 黒田辰秋、氷見晃堂、大野昭和斎、中臺瑞真(なかだいずいしん)、*川北良造、*大坂弘道、*中川清司(きよつぐ)、*村山明
- 木象嵌 - 秋山逸生(いっせい)
諸工芸[編集]
和紙[編集]
工芸技術分野における「保持団体認定」[編集]
工芸技術分野において、工芸技術の性格上個人的特色が薄く、かつ、当該工芸技術を保持する者が多数いる場合において、これらの者が主たる構成員となっている団体としてとして認定されているもの、すなわち、保持団体認定は、以下の14件・14団体である。
陶芸[編集]
染織[編集]
- 伊勢型紙 - 「伊勢型紙技術保存会」
- 喜如嘉の芭蕉布 - 「喜如嘉の芭蕉布保存会」
- 久米島紬 -「久米島紬保持団体」
- 久留米絣- 「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」
- 宮古上布 - 「宮古上布保持団体」
- 結城紬 - 「本場結城紬技術保持会」
- 小千谷縮・越後上布 - 「越後上布・小千谷縮布技術保存協会」
漆芸[編集]
- 輪島塗 - 「輪島塗技術保存会」
手漉和紙[編集]
- 細川紙 - 「細川紙技術者協会」
- 石州半紙 - 「石州半紙技術者会」
- 本美濃紙 - 「本美濃紙保存会」