生きるに値しない命
生きるに値しない命(いきるにあたいしないいのち、Lebensunwertes Leben)とは、ナチス・ドイツの人種政策(en:racial policy of the Third Reich)で、ナチ政府によって「生きるに値しない命」と見なされた者が安楽死させられるというホロコーストに繋がった。
経過[編集]
このフレーズは1920年に、法学者のカール・ビンディング(en:Karl Binding)と精神科医のアルフレート・ホッヘ(en:Alfred Hoche)が、その著書のタイトル「Die Freigabe der Vernichtung Lebensunwerten Lebens (生きるに値しない命の破壊は許される)」で初めて用いたものである。
ナチスドイツおよびナチ支配下のヨーロッパの国においては、「社会的逸脱者」あるいは「社会的な混乱の原因」と考えられた者が、このカテゴリーに分類された。「社会的逸脱者」のカテゴリーには、精神障碍者、身体障碍者、 政治的な反体制派、同性愛者、混血、犯罪者が該当した。一方、「社会的混乱の原因」のカテゴリーには、聖職者、共産主義者、ユダヤ人、ロマ、エホバの証人、有色人種(コーカソイド以外)、ポーランド人など様々な社会的グループの人々が該当した。これらの中でも、特にユダヤ人は、ほどなくしてジェノサイド政策の主要なターゲットとなった。
この概念は、ナチの観念論者が主張する「生きるに値しない命」を系統的に殺戮する施設である絶滅収容所によってクライマックスを迎えた。さらにこの概念は、ナチス・ドイツの人種政策だけでなく、様々なナチス・ドイツの人体実験やナチス・ドイツの優生学(en:Nazi eugenics)をも正当化した。「生きるに値しない命」の対象にはスラヴ系諸民族、とりわけドイツに隣接するポーランド人も含まれていた。
最高指導者アドルフ・ヒトラーは、東部戦線の将校に対して、すべてのポーランド系またはポーランド語を話す男性、女性、子供を、「哀れみや慈悲をかけずに」殺すように指示を書き取らせ、ハインリヒ・ヒムラーは、「すべてのポーランド人は、この世から消えるだろう。優秀なドイツ人が、ポーランド人を破壊することが、主要な任務であるとみることは最重要だろう。」と書き残している。ヒトラーが著した「我が闘争」にあるように、ナチスは最終的には東欧を生存圏として支配し、ここに居住するスラヴ系諸民族を排除することを目指していた。
関連書籍[編集]
- ジョルジュ・ベンスサン著、吉田恒雄訳 『ショアーの歴史 ユダヤ民族排斥の計画と実行』 白水社(文庫クセジュ)、2013年 ISBN 4-560-50982-1