ミーム

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ミーム(meme)とは、いわゆる文化遺伝子で、文化内の「変異」が「遺伝(伝達)」的に承継され、「自然選択(淘汰)」される様子を進化になぞらえたとき、遺伝子に相当する仮想の主体である。例として災害時に飛び交うデマ、流行語ファッション言語など、すべてミームという仮想の主体を用いて説明できるとする。例えば「ジーパンを履く」という風習が広がった過程をミームの視点から捉え直せば、『1840年代後半のアメリカで「ジーパンを履く」というミームが突然変異により発生し、以後このミームは口コミ、商店でのディスプレイ、メディアなどを通して世界中の人々の脳あるいは心に数多くの自己の複製を送り込むことに成功した。』となる。訳語としては 摸倣子摸伝子意伝子 がある。

いくつかの定義[編集]

「ミーム」の概念は必ずしも定義が確定しているわけではなく、論者によって、また同じ論者でも研究の発展に応じて、その指し示す対象にはずれがあるので注意が必要である。ここではいくつかの定義を例示する。 [1] [2]

  • 文化複製の単位 (Dawkins, 1976)
  • 脳内にある情報の単位 (Dawkins, 1982)
  • 文化的に伝播された教訓の単位 (Dennett, 1995)
  • 心の中で影響力を持ち、かつ複製可能な情報の単位 (Brodie, 1996)
  • 強い伝染力を持つ知識、アイデア、概念 (Lynch, 1996)
  • 脳に貯蔵され突然変異によって変質した習性に近い教訓 (Blackmore, 1999: 邦訳106ページ)

ミームとの接触から感染まで[編集]

あるミームが自己を複製するとき、「次の宿主との接触→感染」の順序をたどる。接触はミームが関心をひいた時点で成立するが、かならずしも「感染」にまでは至らず、通常、ミームが感染対象の生体内で、他の先行ミームとの競争を生きぬき、安定な増殖をするようになって初めて「感染」が成立する。

流行 も参照

ミームの分類[3][編集]

  • 流行ミーム : 自然に広まったもの。定着したものは、習慣あるいは伝統ミームへと移行する
  • 習慣ミーム : 意識されずに繰り返されているもの
  • 伝統ミーム : それが維持されるための意識的な活動を伴うもの
  • 掟ミーム : ルールなど、規範としての正式な承認を受けたもの。
  • 仕掛けミーム : 人工的に広められたもの←→流行ミーム
  • 伝道ミーム : 他者にも伝えようという呼びかけが含まれているもの
  • 伝説&物語ミーム : 事実かどうか判断のつかないもの。あるいはフィクション
  • ミームに関するミーム : ミームの視点から問題を捉えなおしたもの。メタミーム

増殖の手法による分類[4][編集]

  • 条件づけ(反復) : ミームとの接触を繰り返させること。ときには快ないし不快による強化を伴うこともある(オペラント条件づけ)
  • 認知的不協和(矛盾の解決) :対立していたミームを双方とも存続させるような第三のミームを新たに作り出すこと。あるいは、当のミームを解決手段として必要とするような問題を故意に作り出すこと(不快による負の強化)
  • トロイの木馬(どさくさ) : 関心をひきやすいミームを利用して、別の本命のミームを相手に気づかれずに送りこむこと

歴史[編集]

ミームは、「進化論というアルゴリズムに支配される遺伝子」というパラダイムの、文化への適用という形で提案された。「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス 1976)で初めてこの語が用いられ、定着した。ドーキンスは「ミーム」という語を文化伝達や模倣の単位という概念を意味する名詞として作り出した。模倣を意味するギリシャ語の語根 mimeme から遺伝子 (gene) に発音を似せてミーム (meme) としたという。以降、進化論・遺伝学で培われた手法を用いて文化をより客観的に分析するための手段として有用性が検討されている。

文化遺伝子のような単位で伝達されるという考え方はドーキンス以前にもあった。旧制度学派経済学者のヴェブレンは社会や経済の進化がダーウィン的だという考え方を持っていた。人類学者クロークは、1975年に断片的な「文化的な指示」を人々が模倣しあうことで文化が伝達されると考えた。最近では、イギリスの生物学者ジュリアン・ハクスリーやドイツの生物学者リヒァルト・ゼーモンらも、20世紀初頭に類似の概念を提唱していたことが指摘されている。とくにゼーモンは1904年に「ムネーメ(mneme)」という用語を提唱している。さらに歴史をさかのぼると、18世紀啓蒙思想による社会や文化の進歩思想の影響が大きい。もともと生物の進化論は社会の進歩論を自然界に適用したものであり、ミームの考えかたは、進化生物学経由でもういちどこの考えかたが社会現象や文化に回帰してきたとみなすこともできる。
また、ミームなどの文化的な複製子による文化の進化と遺伝子による人間の生物的な進化とが相互に影響を与えあって共進化するという考え方二重伝承理論(Dual Inhertance Theory, DIT)が、ロバート・ボイド(Robert Boyd)とピーター・リチャーソン(Peter Richerson)によって1985年に提唱され、注目を集めた。 日本では佐倉統(東京大学情報学環)などが研究している。

類語[編集]

  • 文化遺伝子 (culturgen) (Lumsden and Wilson, 1981)

派生語[編集]

ミームに関する派生語として、次のようなものがある。 [5]

  • ミーム型(memotype) 遺伝学における遺伝子型に相当する概念。
  • ミーム学者(memeticist) ミーム学を学ぶ人、またはミーム技術者のこと。
  • ミモイド(memeoid, memoid) 自身の命さえも危険にさらす程の強い影響をミームから受けている人。例えば神風特攻隊自爆テロ犯など。
  • レトロミーム(retromeme) 既存のミーム複合体に自身の分身を送り込もうとするミーム。
  • メタミーム(metameme) ミームに関するミーム。
  • ミーム複合体(memeplex, coadapted meme complex) 相互に支えあいながら進化してきたミームの複合体。例えば宗教、科学など。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. Geoffrey M. Hodgson (2001) "Is Social Evolution Lamarckian or Darwinian?", in Laurent, John and Nightingale, John (eds) Darwinism and Evolutionary Economics (Cheltenham: Edward Elgar), pp. 87-118. 原文(一部相違あり)
  2. Oxford English Dictionary にミームの項目有り(有料)。
  3. 佐倉統ほか(2001)「ミーム力とは?」数研出版
  4. ブロディ(1998)「ミーム―心を操るウイルス」(講談社)
  5. リチャード・ドーキンス 『ミーム・マシーンとしての私』序文より(スーザン・ブラックモア著垂水雄二訳、草思社)

外部リンク[編集]

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