ファーストフード
ファーストフードまたはファストフード(主にメディアが活用する省略語)(英:fast food)とは、短時間で調理、あるいは注文してからすぐ食べられる[1][2]手軽な食品や食事のこと。日本語のファーストの文字からは「最初」を意味する英単語の first が連想されることもあるが、そうではなく、「速い」を意味する英単語のfast(米英語では/ˈfæst/、擬似的にはファストと発音する。「fast food の日本語表記における混乱と問題点」節で詳述)に由来している。
料理と共に、それらを提供している外食産業について記述する。
目次
各地の様子[編集]
アメリカ合衆国[編集]
食文化は、民族、地域によって異なるため、それらの枠を越えて広がるには時間がかかり、それどころか、全く伝播しないことさえある。米国は多民族国家であるため、民族、出身国、人種、アメリカ国内での地域差などで分かれる食文化の枠を越えなければ、大きなビジネスにはならない宿命があった。
ファーストフードの始まりは、アメリカ国内における民族・地域の枠を越えて民族横断的に受け入れられる味付けであったこともさることながら、エンゲル係数が高かった時代に「安価」であったことが最大の武器となって広まった。中産階級においては、安価であることよりも、手軽に食べられ、食物エネルギーが大きいファーストフードは、労働効率を上げる食事として受け入れられていった。ハンバーガー、ホットドッグ、フライドチキン、サンドイッチ、ピザなど、種類ごとに「フードチェーン」がつくられて大企業化していった。
第二次世界大戦後、チェーン店が本格的に外国に展開し始めた。しかし、アメリカのノウハウそのままで海外進出した場合、為替の問題でファーストフードはかなり「高額」な食事になってしまった。特に、牛肉食の文化があまりない国に出店する際は、材料の入手でさらにコストが上がり、「ファーストフード = 富裕層の食事」という、アメリカ国内では考えられない図式で導入されることとなった。
海外進出初期においては「安価」ではないファーストフードであったが、「アメリカ資本」の「巨大フードチェーン」の進出は、競争力のないそれぞれの国の国内産業を圧迫するとともに、米国の文化侵略の象徴とみなされ、出店規制が行われることが多々見られた。
健康に関する知識の疎い貧困層ほど食事に占めるファーストフードの比率が高く、その為に貧困層ほど肥満になりやすい事が報告されている。また調理に時間がかからず、安価な点からファーストフードを選ばざるを得ない事情があるという[3]。
ヨーロッパ[編集]
自国産業を保護する政策が強く、巨大資本のアメリカ系企業に規制がかけられている国がある。特にフランスでは、アメリカ資本のファーストフードチェーンは少ない。しかし、国内企業のファーストフードチェーンや、個人経営に近いファーストフード系の店は見られ、パニーノ、グレック、シシカバブのような、アメリカとは異なった種類のファーストフードも見られる。
アメリカの主導するグローバリズムの象徴としてファーストフードが取り上げられる場合もあり、反グローバリズム、スローフード、フェアトレードなどの、経済論理と文化論が混ざった「反ファーストフード運動」が見られる。
日本[編集]
江戸時代には、蕎麦、天ぷら、寿司、おでん、うなぎ、串焼きなどが、街中を流す屋台で手軽に素早く食べられる料理として売られていた。
アメリカ式のファーストフードは、1970年代初頭に日本に流入してきた。1970年に英国のウインピーをはじめ、ケンタッキーフライドチキン、ドムドムハンバーガー、1971年にマクドナルド、ミスタードーナツ、1972年にロッテリア、モスバーガーが出店を開始した。なお、米軍統治下の沖縄県では、1963年に北中城村にA&Wの1号店が開店している。なおモスバーガーは他のハンバーガーチェーン店と形態は似通っているが、注文を受けて調理している等の違いがあることから、ハンバーガーレストランに分類されファーストフード店には該当しないという解釈もある。
日本には、アメリカ系チェーンだけではなくアメリカ以外のチェーンがある。「安い」「速い」というキーワードで、立ち食いそばなど古い食文化がファーストフードとなったのみならず、牛丼、ラーメン、カレーライスなど、近代になってから日本で展開されるようになった食文化もファーストフードチェーンとして営業している。ファミリーレストラン、定食屋、回転寿司のような店内で座席に座るものから、弁当、菓子パン、惣菜などを売る軽食産業は広がっている。また、かつて屋台で食べられていた安くて速い軽食も、常設の料理店で提供されるようになったものが多く、これらの料理全てがファーストフードとひとくくりにされることは無い。
ファーストフードは「安さ」が売りのひとつである場合が多く、経営者が人件費を下げる必要性に迫られる場合が多い。そのためスキルを必要としない経営が行われ、簡易またはマニュアル化された手順書を用意し、常用社員ではなく非正規雇用者を雇用し、主婦や学生などをパートタイムで雇用する事が多い。
中国[編集]
中国でファーストフードは「快餐 クワイツァン kuàicān」と呼ばれるが、必ずしも欧米風のものを指す訳ではなく、トレーに中華料理を盛って食べさせる定食屋などにも「快餐」の看板が掲げられている。中国では、1980年代に始まった改革開放政策の結果、ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドなどの世界的ファーストフード店が大都市から出店を始め、すでにかなりの地方都市にまで普及している。民族資本系洋風ファーストフードチェーンでは中国・台湾合弁のディコスが最大手である。もともと中国にある、麺類や餃子、ちまきなどの点心も、ファーストフードの性格をもっているが、欧米のチェーン店についで、台湾資本の豆乳を売り物にするファーストフード店が人気を集めるようになると、中華料理を基本にしたファーストフードチェーンも種々オープンするようになった。最近では台湾風のおにぎりチェーンや、日式のラーメン店やカレーライスの店などにも人気が出ている。
健康問題[編集]
2003年の世界保健機関(WHO)の報告書は、ファーストフードは肥満と関連すると報告している。2007年の世界がん研究基金による報告書は、がん予防のためにファーストフードの摂取を控えめにすべきだとしている。アメリカでは、マクドナルドやペプシコなど11の主要なメーカーが、12歳以下の子どもにファーストフードなどの広告をやめることで合意している。
2009年台湾政府は、ファーストフードなど不健康な食べ物に特別に課税する方針。食生活の改善と肥満低下を目的としている。同国では、肥満の子供が四人に一人以上になっており肥満問題が取り上げられている。
米国でも問題となっており、米成人の実に3分の2が肥満となっており医療費支出は900億ドルを超える[4]。
妊娠前にファーストフードを頻繁に食べた場合、糖尿病罹患リスクが増大することが報告されている。
fast food の日本語表記における混乱と問題点[編集]
英語の fast food に対する日本語は「ファーストフード」(テンプレート:lang-*-Latn)というカタカナ表記と発音が主に浸透した。日本放送協会(NHK)が2002年度(平成14年度)に行った調査では、「ファーストフード」と言う国民が72%と、多くを占めた。広辞苑(第6版)、明鏡国語辞典(第2版)、ジーニアス和英辞典(第2版)などの見出し語も「ファーストフード」が用いられている。この食事形態の外食産業が加盟する業界団体の日本フードサービス協会も、「ファーストフード」に表記を統一している</ref>。
一方、日本のマスメディアでは fast を「ファスト」と発音、表記することに決めているため、共同通信社をはじめとする大手通信社、日本新聞協会、NHK、日本民間放送連盟では「ファストフード」(ローマ字表記:fasutofūdo)を統一表記としている[5]。日本語は短母音(1音節=1モーラ)と長母音(1音節=2モーラ:長音)とを区別する言語であるため、その特徴を生かして fast を「ファスト」、first を「ファースト」と言い分けることで、カタカナ化された外来語の意味の混乱を回避しているとの説明もある。「fast」(速い)と「first」(最初)は意味が異なるが、fast food を first food、first aid を fast aid と誤記するなど、表記の混乱がしばしば見られる。ゆえに、ファストフードがより混乱のない書き方であるとも言える。近年は、「ファストファッション」の浸透やメディアなどの影響により、「ファストフード」と言う者も見受けられるようになった。また、「fast」の発音が/fæst/ -米国英語、/fɑːst/ -英国英語であるために、「fast food」が主に米国英語由来の単語であることを考慮した場合、ファストフードが日本語の原音主義の慣例表記により従った表現であろう。ただし、「æ」の音と「f」の音を日本人は適切に発音できないことが多いので、カタカナ読みで日本語風にファストフードと発音しても原音とはかなり違ってしまう。米国、英国のその発音はオンラインの辞書などで聞くことができる。
なお、厚生労働省は、どちらにも統一していない。
脚注[編集]
出典[編集]
参考文献[編集]
- 『新版毎日新聞用語集』 毎日新聞社 454ページ ISBN 4620904821