親衛隊
親衛隊(しんえいたい)とは、主に国家元首やそれに類する人の身辺警護をする武装組織。形態は軍隊の一部である場合あり、元首府直轄で軍隊からは独立している場合あり、さまざま。親衛軍(しんえいぐん)とも。
概要[編集]
多くは少数精鋭(とは言っても数百から数千人規模で師団・旅団級になる。ナチス親衛隊のヒエラルキーは総軍だった)の部隊で構成される。近世・現代では元首の警護というよりもエリート部隊の称号として与えられる場合もある。日本の近衛師団やイギリスの近衛兵、ドイツ第三帝国の武装親衛隊は警護任務だけでなく、一般部隊と同様に戦争にも参加した。
本義の親衛隊になぞらえて、日本の応援団や暴走族では団体旗を掲げて守る本部直属のグループを親衛隊と呼称している。応援団の場合、関西では親衛隊(多くは正旗手が親衛隊長を務める)、関東では旗手隊と称する団が多いようであるが、詳細は各項目を参照されたい。
親衛隊の例[編集]
- プラエトリアニ - ローマ軍親衛隊。ローマ皇帝の直率・警護軍団として、唯一イタリア半島での駐屯が許された軍団。
- 親衛隊 (ナチス) - ナチス・ドイツにおける国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)の直属軍事組織。「SS」の略称で知られる。武装親衛隊は戦闘に出征。一般親衛隊は国家保安本部などの公安警察的役割。
- ドルジーナ - キエフ大公国などの親衛隊。
- ドルジナ - ポーランド王国の親衛隊。
- セルデューク - ヘーチマン国家の親衛隊。セルジューク、セルジュクとも。
- ルィーンダ - ロシア・ツァーリ国の親衛隊。1698年にピョートル1世によってクーデター加担の嫌疑で廃止された。
- ロシア帝国親衛隊 - ロシア帝国における皇帝の近衛部隊の名称。グヴァルジヤ。
- 宿衛所 - 李氏朝鮮の親衛隊。“スギソ”と読む。
- 親衛隊 (ソ連・独立国家共同体) - ソビエト連邦、ロシア連邦などにおけるエリート部隊の名称。グヴァルジヤ。
- 皇帝近衛隊 - フランス皇帝ナポレオン1世の近衛部隊。近衛猟騎兵連隊・近衛胸甲騎兵連隊・近衛擲弾兵連隊・老近衛隊(ヴィエイユ・ギャルド)・中堅近衛隊(壮年近衛隊)・青年近衛隊(若年近衛隊)などの諸隊があった。
- フランス共和国親衛隊(ギャルド・レピュブリケーヌ) - フランス国家憲兵隊所属の、主に大統領府等を警備する親衛隊。麾下の軍楽隊「ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団」は“世界最強の楽団”として知られる。
- 大統領警護隊 - フセイン時代のイラクの大統領親衛隊。戦闘に出征。類似する部隊はシリア(国家親衛隊)、リビア(革命防衛隊)などにも存在する。
- サウジアラビア国家警備隊 - サウジアラビアの王室及び部族の警護・防衛を担当。独立以前のサウド家の私兵と配下の豪族の兵力を統合したもので、国防軍より歴史が古い。サウジアラビア国内において最も保守・親イスラム派であるとされる。軍部による政権奪取を予防するため、制度的に(比較的世俗派とされる)国防軍とは対立関係にある。国防軍は国防相が掌握するのに対し、同隊は第二首相の管轄下にある。また、任務も国防軍が対外防衛なのに対し、国家親衛隊は治安維持や対テロ作戦に従事しており軽装備である。
- 近衛師団 - 大日本帝国陸軍の皇室警護部隊。ただし、一般の部隊同様戦時には出征した。
- 近衛兵 (イギリス) - イギリス陸軍の王室警護部隊。バッキンガム宮殿の王室騎兵は有名。
親衛隊に類似する組織[編集]
- 共和国防衛隊 - フセイン時代の正規の国防軍とは別の武装親衛隊的な軍事組織。
- イスラム革命防衛隊(パースダーラーン) - イランのイスラム体制の防衛を主任務とする部隊。革命防衛隊省の管轄にあり、国防軍とは別個の組織である。ただし、実際の指揮系統等は便宜的に国防軍と統合されている。独自の海上部隊や航空部隊も保有する。
- 皇宮警察 (宮内省) - 日本の天皇と皇族を専門に警護する宮内省管轄の組織。日本が太平洋戦争で敗戦するまでは、近衛師団と分担して天皇や宮城を警護した。現在の皇宮警察は、警察庁の管理下にある政府組織であり、君主の命により独立して活動できるような親衛隊や近衛部隊という軍組織のような性質の物ではないが、武装可能である警察組織である上、皇室に対してのみ適用される警護組織という性質、さらに英名が近衛兵や親衛兵を意味する「Imperial Guard」であることから、「親衛隊相当の組織」ということも可能である。
- アメリカ海兵隊 - 大統領府や在外公館敷地内の警備も担当し、大統領が搭乗するヘリコプターは海兵隊の所属である。陸海空軍と異なり、外国への武力介入の際に、大統領が自分の一存で動かす事が出来る。
- 朝鮮人民軍陸、海、空軍名誉衛兵隊 - 具体的にどのような部隊か不明だが地上・海・空軍のエリート部隊。ちなみに青年親衛隊という民兵部隊がある。
日本史上の親衛隊[編集]
日本史上では律令制下において、近衛府の唐名として羽林とともに「親衛」の語が使われた。ただし、これは一般的な用例ではない。従って「近衛」と「親衛」という語は厳密には同義とはいえないが、事実上、同じと見てさしつかえない。
9世紀以降、律令制の崩壊に伴い、それまで天皇の警護を司っていた大伴氏を長とする衛府が実質を失ってゆく。これに代わり蔵人所の滝口と呼ばれる大内(皇居)警護の武士がその役割を担うようになった。清和源氏嫡流の摂津源氏は、代々、大内守護の任についた。
明治維新後は、宮内省侍従職の内舎人が天皇の身辺警護にあたり、陸軍の近衛師団、宮内省の皇宮警察は、宮城の警護及び儀仗を担当した。
太平洋戦争後は、警察庁に移管された皇宮警察本部が皇居・離宮の警護及び儀仗の任務を担当している。現在の皇宮警察の英語表記は、近衛兵や親衛兵を意味する「Imperial Guard」であり事実上の皇室の親衛隊となっている。また、皇居に隣接する北の丸公園に警視庁第一機動隊の本部が置かれており、皇居の外側は第一機動隊が警備している。このことから「近衛の一機」の通称がある。なお、自衛隊には親衛隊に相当する部隊は存在しない。