大阪タクシー乗客死亡事件

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大阪タクシー乗客死亡事件とは、2013年11月14日大阪市中央区で発生した、タクシー運転手・中村浩司による会社員・木村綾平さんの死亡事件である。

事件概要[編集]

2013年11月14日午後大阪・中央区の駐車場で26歳の男性がタクシーから降りた直後にバックしてきた同じタクシーにはねられて死亡した。タクシー運転手は「ギヤをバックに入れたまま誤って発進してしまった」と供述した。

大阪・中央区城見にあるビルの駐車場で大阪・箕面市の会社員木村綾平さん(26)が乗っていたタクシーから降りた直後にバックしてきた同じタクシーにはねられた。

木村さんは病院に運ばれたが頭を強く打っていて死亡が確認され警察は大阪・住之江区のタクシー運転手・中村浩司(53)を自動車運転過失傷害の疑いでその場で逮捕した。

調べに対し「ギヤをバックに入れたまま誤って発進してしまった」と供述している。現場はJR京橋駅に近い「大阪ビジネスパーク」の一角。

裁判[編集]

1審大阪地裁(2014年8月)[編集]

タクシーを誤って後方に急発進させ、降車したばかりの乗客をはねて死亡させたとして、自動車運転過失致死の罪に問われたタクシー運転手の中村浩司の初公判が8月上旬、大阪地裁で開かれた。

中村浩司は乗客をはねた後もスピードを一切緩めることなくガラス壁に衝突。「人が挟まっているぞ!」と騒然とする周囲の声も理解できず、運転席でただ呆然としていた。

当時、運転手歴わずか2カ月。シフトレバーが「バック」になっていたのが直接の原因だが、その背景として、降車時にシフトレバーを「パーキング」にしないままサイドブレーキをひいて停車する“悪い癖”があった。

ゆっくりと襲いかかる
何の前触れもなく、突然の悲劇が木村綾平さんを襲ったのは2013年11月14日のことだった。大阪市内のコンピューター関連会社に勤務する木村綾平さんはこの日、取引先に業務用パソコンを搬入するため、同僚の男性2人とタクシーに乗り、同市中央区城見のビル前に到着した。

木村綾平さんは降車直後、重さ約40キロのパソコンを運ぶ台車の到着を路上で待っていた。すると、直前に荷物を下ろしたばかりのタクシーの後部が、ゆっくりと襲いかかってきたのだ。

突然の事態に、木村綾平さんは逃げることもできなかった。タクシーに押し出されるまま、数メートル先のビルのガラス壁に頭から衝突。病院に搬送されたが、頭の骨を折っており、間もなく死亡が確認された。

自動車運転過失致死罪で起訴された運転手・中村浩司は、2013年9月にタクシー業務に就いたばかりで、事故はそのわずか2カ月後に起きた。8月5日の大阪地裁初公判で、運転手は「その通りです。間違いないです」と素直に起訴内容を認めた。

検察側は冒頭陳述で、タクシーを誤ってバックさせた状況について「シフトレバーがバックに入っていることに気づかず、アクセルを踏んだ」と指摘した。しかし、バックする際は通常、車内に「ピーッ、ピーッ」と大きな音が鳴り響き、ドライバーに警告する。運転経験がある人にとっては、にわかには信じがたい話だろう。

「昼休憩前の安堵感か」
弁護側は続く被告人質問で、事故原因の背景となった運転手の“特異”な操作方法を明らかにした。

中村浩司「あの…タクシー運転手になってから、車を停止するときに『D(ドライブ)』のまま、サイドブレーキを引いて停止するのが習慣になっていました」

弁護人「なんでそんな習慣を?」

中村浩司「タクシーを降りるとき、料金を置いてすぐに降りるお客さんが多くて。すぐに発進できるように、そうなりました」

通常の運転では、停車時にはシフトレバーを「P(パーキング)」に移した上で、サイドブレーキを引くことで二重の安全措置を取る。しかし、中村浩司はシフトレバーの位置に注意を払わない癖ができていたため、シフトレバーがバックに入っていることに気づかないまま、アクセルを踏んでしまったという。

弁護人「(後進の際の)警告音は聞こえなかったんですか?」

中村浩司「後で確認したら警告音が鳴っていたんですが、その時は聞こえませんでした」

中村浩司は事故後、運転者の適性診断などを行う自動車事故対策機構(NASVA)でカウンセリングを受けたことを振り返り、こう説明した。

中村浩司「心理状態によっては脳がまひし、実際に鳴っている音が聞こえない場合があるとカウンセラーから聞きました。運転や荷物の積み卸しが終わり、昼休憩前の安堵感もあって耳に入らなかったのかもしれません」

「殺されたも同然だ」
最後に現在の心境を弁護人に問われ、運転手は弱々しい声で続けた。

中村浩司「26歳の命を奪ってしまった。なぜ停車中に(シフトレバーを)パーキングにしなかったのか。今は後悔しかありません…」

証拠調べや証人尋問では、膝の上に置いた両手を見つめ、終始うつむいていた中村浩司。木村綾平さんの父親の供述調書が読み上げられると、身を固くして聞き入っていた。学生時代から成績優秀で自慢の息子だったこと、コンピューター関連会社に就職後も幹部候補生として将来を嘱望されていたこと…。父親の調書は、こんな言葉で締めくくられた。

「ほんのわずかな注意で事故は防げた。こんなことで死ななければならないのか。息子は殺されたも同然だ」

大阪は“特異”の声も
情状証人として出廷した中村浩司の妻は「夫は真面目できちょうめんな性格だった」と証言した。

確かに事故の状況を振り返れば、新人運転手の“真面目さ”ゆえに、タクシーの料金精算で後続車を待たせることを恐れ、特異な停車方法を考え出したのではないか。業務に集中しすぎて、周囲の音や状況にも気づかなかったのではないか-という想像も働いてしまう。

一方で、警察庁のまとめでは、タクシーが原因となった交通事故は、全国的には平成20~24年で約15%も減少したが、大阪府内に限れば20年も24年も2320件台とほぼ横ばいの状態が続く。

府内のあるタクシー運転手は「シフトレバーを移動させずに停車するというのは危険で、考えられない話」とした上で、府内でタクシー事故が減少しない現状についてこう指摘する。

「『5000円超分5割引』という大阪独特の料金制度のあおりで、タクシー運転手は収入が少ない。乗客を増やそうとして業務に余裕がなくなっている面が影響しているのかもしれない」

2014年9月4日の次回公判で検察側の被告人質問や論告求刑などが行われ、結審する。