無縁社会

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無縁社会

無縁社会(むえんしゃかい)とは、単身世帯が増え、人と人との関係が希薄となりつつある日本社会の一面を言いあらわしたもの。NHKにより2010年に制作・放送されたテレビ番組による造語である。

概要

無縁社会
無縁社会

日本では少子高齢化、女性の社会進出によるかつての結婚に対する若者意識の変化、地縁血縁社会の崩壊、個人情報保護法によるプライバシー保護の厳格化、家族社会とのコミュニケーションが希薄化しネットによる交流が主となっている若者、また終身雇用制度の崩壊をはじめ、長引く不況において団塊の世代の退職・雇用減少といった要因が重なり合い、単身者はますます孤立しやすい社会へと急速に移行している。2030年以降の生涯未婚率は30%を超えるであろうと予測されている。さらにニートフリーター派遣社員の増加が著しく30代、40代ですでに社会から孤立する者が急速に増えている。これらは日本に限らず先進国一般の風潮であり社会問題化している。

日本は、自殺率先進国の中でも非常に高い一方、年間で3万人以上が孤独死している。死因病気自殺など原因はさまざまだが、誰にも気づかれずに亡くなり、身元すら判明しないまま火葬され、無縁墓地に送られることもある。亡くなってまで一人は寂しいと考え、財産や所持品、さらには自分自身の死後の処理をNPOと生前契約するものも少なくない。全国の自治体の調査によれば、近年「身元不明の自殺と見られる死者」や「行き倒れ死」など国の統計上では分類されない「新たな死」が急増していることが判明した。

一方、こうした風潮をビジネスチャンスと捉えられ、さまざまな単身者向けのビジネスや商品が開発、販売されている。身辺整理や遺品整理、埋葬などを専門に請け負う「特殊清掃業」。共同墓、話し相手、保証人代行などの「無縁ビジネス」が繁盛している。

NHKは2010年1月以降、『報道プロジェクト・あすの日本』の一環として、『NHKスペシャル』などで関連する企画を放送し、その内容が特にネットユーザーを中心に大きな話題となった。NHKではその後も各種報道番組などを通じてキャンペーンを展開している。2010年12月1日にはユーキャン新語流行語大賞トップテンにノミネートされた。

無縁社会キャンペーン

無縁社会
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朝日新聞の「孤族」キャンペーンとも共通するのは、日本は本来「有縁社会」で、その縁が失われるのは嘆かわしいという湿っぽいノスタルジアだ。

しかし島田裕巳氏も指摘するように、人々は経済成長によって縁を失ったのではなく、高度成長期に自由で豊かな生活にあこがれて都市に集まり、みずから「無縁化」したのだ。小池和男氏などの調査でも明らかなように、日本人が「社縁」の好きな会社人間だというのも幻想である。

ところがNHKは、この問題を逆に見て「20~30代の4割が非正規雇用で働いている今、賃金があがることも、明日の保証もない。無縁社会を解消するために、私たちは何ができるのでしょうか?」と問いかける。ここでは「非正規雇用」は望ましくない働き方で、彼らを「正社員」にしてあげることが政府の役割だというストーリーが最初から前提されている。

これが事実なら、話は簡単だ。労働基準法を改正してすべての労働者を終身雇用(無期雇用契約)にし、解雇を全面禁止すればいい。それが答にならないことは、日本郵便のケースを見れば明らかだろう。亀井静香氏の命令で6500人の非正社員を正社員に「登用」したおかげで、今度は2000人を雇い止めする結果になった。これは「雇用規制を強化すると雇用は減る」という経済理論の人体実験である。

根本的な問題は、経済がグローバル化して競争が激化し、その変化を会社という共同体(長期的関係)で吸収できなくなったことだ。こういう状況で無理に社縁を守ろうとすると、会社が市場で淘汰されてしまう。競争に対応するには古い組織を個人を単位とする市民社会に分解して柔軟に動けるようにするしかなく、そういう変化が全世界で起こっている。

こうした後期近代の問題は、昔NHKがキャンペーンを張った「ワーキングプア」とか「格差社会」に比べれば本質的である。所得格差はバラマキ福祉で(短期的には)解決できるが、中間集団の求心力が失われて社会が<私>に分解する傾向は止めることができないからだ。

この種の問題は、欧米では繰り返し論じられてきた。社会が個人に分解することが望ましいと主張して政府の役割を否定したのがリバタリアンで、それに対して普遍的な正義の観点から政府による所得再分配が必要だと考えたのがリベラルだ。両者に共通する個人主義を批判して、各コミュニティに固有の価値を守ろうとしたのがコミュニタリアンである。

ところが日本では、サンデルの講義を放送したNHKでさえ問題の所在を理解しないで、「無縁社会を解消」して古きよき有縁社会をいかに取り戻すかというノスタルジアを繰り返す。それが人々の感情に訴え、政治的にアピールしやすいことは事実だろう。

施政方針演説でも、菅首相は「『無縁社会』や『孤族』と言われるように、社会から孤立する人が増えています」と述べ、「誰一人として排除されない社会」の実現を誓った。しかしこんな古くさい温情主義が何の解決にもならないことは、この1年半の民主党政権の実績で明らかだ。

ハイエクも論じたように、どんなコミュニティも自生的秩序として維持されるかぎりにおいて続くのであり、コミュニティを政府が作り出すことはできない。個人主義にもとづく市民社会は快適ではないが、日本が自由経済システムをとった以上、後戻りは不可能である。政府の役割は縁を作り出すことではなく、個人の自立を支援する最低保障だ。未練がましい無縁社会キャンペーンは有害無益である。

NHKの報道姿勢について

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  • 2011年2月10日放映のNHKのニュースウォッチ9内における無縁社会キャンペーンに関する報道について「無縁社会とネット依存の関連を強調するために、実態とはかけ離れた印象を与える編集が行われ放送された」との抗議が被撮影者である中原よりなされている。このように当事者より問い合わせがなされると、まずNHKは自社サイトより該当動画の削除を行った。その後、被撮影者に対し電話にて「(NHKのニュースウォッチ9の)制作者は映像の出来には今でも満足している。 メッセージは上手く表現出来たと思っている」とのみ、回答している。
  • 2011年2月11日放映の「NHKスペシャル『無縁社会〜新たなつながりを求めて〜』」における報道について、被撮影者であるガジェット通信記者が「事前の取材意図説明が虚偽であった」「取材時の約束が守られなかった」「事実確認がなされていなかった」「放映時まで放映内容は見せてもらえなかった」と、取材された際の経緯を報告している。
  • 2011年2月10日放映の「ニュースウオッチ9」の予告映像と、翌11日放映の「NHKスペシャル『無縁社会〜新たなつながりを求めて〜』」について、被撮影者である中原が「放送内容が事前に受けていた説明と明らかに異なる」「放送から受ける印象が本人の印象と著しく乖離している」として弁護士を通じて対応を求めたところ、ニュースウオッチ9編集責任者と無縁社会チーフプロデューサーは文書にて「指摘は重く受け止めています」「当該放送の特に『中原』出演分の再放送や出版は予定していません」と回答した。

しかし、これらの件に関してNHK広報は「番組、特集の内容に問題はない と考えています。無縁社会の中でのネットを通じたつながりをテーマにしていることについては、事前に十分説明していると認識しています」としている。また、番組ではネット世論の意見として、Twitterから任意のつぶやきを紹介している。

参考文献

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  • 土屋恵一郎『正義論/自由論―無縁社会日本の正義 (21世紀問題群ブックス )』岩波書店 1996年
  • 「無縁社会 おひとりさまのいく末」 週刊ダイヤモンド 2010年4月3日号
  • 橘木俊詔(たちばなき としあき)『無縁社会の正体 血縁・地縁・社縁はいかに崩壊したか』PHP 2011年

関連項目

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外部リンク

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