指揮 (音楽)
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指揮(しき)とは、主として手と腕の身振りだけによって音楽の演奏に何時・何を・どうすべきか指示を出すこと。
概要
現代では専ら西洋音楽の指揮のことを指すことが多い。合唱団や各種のアンサンブルは、特に編成が大きい場合に指揮者を必要とすることが多い。
日本語では「指揮を振る」、「棒を振る」、あるいは単に「(演奏会・楽団・曲目を)振る」という言い方をしばしばする。
歴史
西洋音楽の指揮の歴史は少なくとも中世ヨーロッパにさかのぼり、キリスト教の教会にその役割の原形を見いだすことができる。その当時の指揮法はテンポや拍子を示す役割よりもメロディー(旋律)や音の高さ(音高)を示す役割が強かった。やがて、指揮棒を上下に動かして音楽のテンポや拍子を示すことが始められた。
17世紀頃には、現在の指揮棒とは違うものを使って指揮が行われた。当時の絵画には、紙や小さな棒、または素手で指揮をする姿が描かれている。リュリは杖のような棒で床を打って指揮をしたといわれる。しかし有る時、誤って自分の足を潰してしまい、それが元で破傷風で亡くなってしまった。
器楽合奏では奏者の一人が指揮の役割を担った。そして、多くは作曲家が奏者兼指揮者を務めることが多かった。具体的には、首席のヴァイオリン奏者が自分の弓を、またはリュート奏者であれば楽器のネックを動かして合奏を指揮した。通奏低音を担当するチェンバロ奏者が指揮をすることもあった。また、オペラでは二人の奏者が指揮を担当した。鍵盤楽器奏者が合唱団を、首席ヴァイオリン奏者がオーケストラを振ったのである。奏者の一人が必要に応じて指揮をするこの手軽なやり方は現代でも行われる。ピアノ協奏曲などでピアノ奏者が弾き振りをすることや、ジャズのビッグバンドでバンドマスターが曲の終りの指示を出すことなどがこれにあたる。
19世紀初頭、複雑な曲が作曲されるようになると、指揮を専門にする独立した人間が必要になった。指揮棒(タクト)の使用が一般的になり、見やすく分かりやすい指揮が必要とされ、さらには指揮者の手腕が演奏の水準に大きな影響を与えるようになっていった。ハンス・フォン・ビューローは指揮を専門にする最初の職業指揮者として有名である。また、従前から行なわれていた作曲家が指揮者を兼ねる状態も続いた。中でもヴェーバー、メンデルスゾーン、ベルリオーズ、ワーグナー、マーラーらは指揮者としても知られている。
演奏や作曲を引退した音楽家が指揮者としての活動を開始することも多い。しかし、「演奏や作曲から指揮に流れ込んで成功するケース」よりも、「演奏や作曲で見込みがないといわれたので指揮者になったケース」が成功しやすい。フルトヴェングラーやシェルヘンはその典型である。ヴァイオリニストやピアニストの指揮は使えない(といっても、過去の大指揮者達にはブルーノ・ワルターやシャルル・ミュンシュのように、ピアニストやヴァイオリニストの出身である者も多い)、或いは作曲家が指揮を頻繁にやりこむようになると作曲の腕が落ちるという俗説も根強い。それはだいたいにおいてオペラ指揮には常識である。なぜなら普通の楽器奏者はピアノによるオペラのコレペティションや任意の弾き歌いが出来ないからである。
ただし楽器出身による特徴は認められる。弦楽器出身の指揮は音の高低の合せ方が凄く上手い(ハインリヒ・シフやウェルザー=メスト、メータなど)、管楽器出身は呼吸法が上手く一致させるので主にそれで音楽の出を合わせる(ホリガーら)、打楽器出身者は棒のたたきが抜群に優れている人が多い(岩城宏之)、ピアノは耳による音の高低の感覚は弱いが合理的な練習と音楽の全体像を作るのが上手い(エッシェンバッハやバレンボイムなど)、声楽出身の指揮者(シュライアーやフィッシャー=ディースカウら)は呼吸法や発声法・レチタティーヴォなどの合せが上手い。更に合唱指揮者(リリングなど)は全く叩く振り付けが違ってくる。こういう棒は器楽曲にはテンポ的に全く通用しない事が多い。また作曲家の指揮は燃えないで最後まで合理的に音楽の本質のみを演奏する(ブーレーズやエトヴェシュ、ツェンダーら)などの性質がおおまかに認められる。またこれもウィーン地方や東京の俗語ではあるが、「弦の棒」(ボーイング風な叩き)や「管の棒」(呼吸法的な合せ方)という分け方がある。総じてオーケストラには「弦の棒」が多く好まれる。なぜなら団員の多くが弦楽器で民主的に大多数を占めるからである。
指揮法
指揮法とは、指揮者が管弦楽団や吹奏楽団、合唱団などを指揮するための技法である。
基本
クラシック音楽では、一般に指揮によってテンポ、音量、表情などが奏者達に示される。指揮者の動きに絶対的な規則や法則は無く、体の動きや顔の表情全てが指揮者の表現と言える。
現代、ひろく行われている指揮法では、右腕で図形を描くことで奏者に拍を示し、奏者全員が同じテンポを共有できるようにすることが多く、指揮者のもっとも基本的な役割とされる。指揮棒を使う場合、指揮棒は右腕の延長として用いられる。図形を描く運動の中で、拍を示す位置を「打点」という。
小澤征爾等を育てた齋藤秀雄が唱えた斎藤メソッドでは、打点を示すために「叩き」といって何かを叩く動作をして明示的に示したり、「しゃくい」といって緩やかな曲線運動の中で加速度の変化として示したりする。このメソッドで指揮法が誰にでも理解できる反面、速度変化による表情づけ(アゴーギク)を必要以上に単純化するという批判も少なくない。
一方左腕は主に曲の表情を示したり、重要なパートに注意を喚起させたりするのに用いられる。そのほか、視線、顔の表情、全身のさまざまな動きを用いて、曲の表情を奏者に伝える。
両腕に共通することだが、曲の表情を表す代表的な方法には、
などがある。(あくまでも一般論、該当するとは限らない。)
多くの場合、指揮には指揮棒(タクト)を使うが、編成が小さい場合、合唱指揮をする場合、または曲調や指揮者の考え方によっては、棒を持たないで素手の指揮をすることもある。素手で行う指揮は、棒を持つことによるはっきりとした拍節感より、指先までを使った柔らかな表現を優先する場合に適しているとされ、緩徐楽章のみ指揮棒を置くこともある。合唱などでは、特に繊細な指示を出すにも効果的と考えられている。
また、ドラム&ビューグル・コーなどマーチングバンドの指揮者はドラムメジャーと呼ばれ、クラシック音楽のタクトよりはるかに大きな、杖のような指揮棒が使われることもある。四管編成やオペラ、管弦楽と合唱などの大編成の場合、長めの指揮棒を、一管編成などの室内管弦楽の場合、短めの指揮棒が多いが、絶対的な決まりはない。
応用
ウィーン国立音楽大学教授のカール・エスターライヒャーは指揮者の役割として次のような事を言っている。これは現代の作曲におけるパラメーターの考え方にほとんど重複する。
なお指揮法のテクニックで最も難解なのは、これら以外の音程や音の高さそのものの表現と言われている。指揮は単にリズムを刻む道具ではなく、曲に生命を吹き込むための仲介者でもある。そのため、原典に多くの脚色を行う流派と、そうではない流派に分かれる。こういった流派は、師弟関係によって受け継がれる場合も多い。
また、指揮棒をあやつる技術そのものは役割全体のほんの一部に過ぎず、その重要性は全体の10%に満たないという指揮者が大多数である。(指揮者の養成については指揮者の項目を参照のこと。)
書籍
日本における指揮のテクニックを扱う指揮法の書籍としては、斎藤秀雄『指揮法教程』(1953年、音楽之友社)、高階正光『指揮法入門』(1979/2001年、音楽之友社)、マックス・ルードルフ『指揮法』(大塚明訳、1968年、音楽之友社)、山田一雄『指揮の技法』(1966年、音楽之友社)があるが、近年マックス・ルードルフと山田一雄の書籍は絶版に近い状況にあり入手が難しい。また、これらの書籍の他にもアマチュア、初心者向けの書籍がある。
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