主文後回し
主文後回しとは、判決理由を先に言い渡し主文を後回しする判決のことである。
裁判官が刑事事件の判決を朗読する際、通常は主文を先に言い渡し判決理由を後回しにする。一方で。死刑判決において冒頭で主文を言い渡すと被告人が動揺してその後の判決理由を聞かなくなるため、判決理由を被告人によく聞かせるためとされている。このため、判決公判の冒頭に主文朗読がなされずにまず判決理由の説明が行われることは、「死刑の可能性が非常に高い」と裁判の当事者や報道機関等が判断する材料ともなっている。
ただし、判決の主文と判決理由を読み上げる順番については明確な規定があるわけではない。そのため、裁判官によっては、冒頭で主文の死刑判決を言い渡し判決理由を後回しにしたり、無期刑判決で先に判決理由を言い渡し主文を後回しにしたりする例外も存在する。
刑事訴訟
刑事訴訟の終局判決においては、主文で刑の言渡し、無罪、刑の免除、免訴、公訴棄却あるいは管轄違いが明らかにされなければならない。さらに、刑の執行猶予、保護観察、没収、押収物還付、罰金等の仮納付、訴訟費用の負担などが必要な場合には主文に記載される。
刑事訴訟における既判力は、認定された犯罪事実又は審判の対象となった犯罪事実と公訴事実において同一と考えられる範囲に及ぶのであって、主文のみで決することはできない。
また、2009年5月、音楽プロデューサー小室哲哉の著作権譲渡に関する詐欺事件において、極めて異例ともいえる主文後回しによる判決理由の説明がおこなわれた。同月21日から始まる予定の裁判員制度の評議では、まず、有罪か無罪かの判断をした上で量刑を決めることになっており、裁判員制度を意識したものとみられている。ただし、この著作権譲渡に関する詐欺事件を担当した杉田宗久裁判長は執行猶予でも主文後回しにすることが多い。
死刑判決の冒頭主文朗読の例
- 青森武田農協強盗殺傷事件の1961年7月青森地方裁判所判決
- 船橋夫婦強盗殺人事件の1965年5月千葉地方裁判所判決
- 大久保清事件の1973年5月前橋地方裁判所判決
- 名古屋女子大生誘拐殺人事件の1982年名古屋地方裁判所判決
- 藤沢母娘殺人事件の1988年3月横浜地方裁判所判決
- 新潟一家5人殺傷事件の1988年3月新潟地方裁判所判決
- 警察庁広域重要指定115号事件の1988年10月大阪地方裁判所判決
- 鶴見事件の1995年9月横浜地裁判決
- 東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の1997年4月東京地方裁判所判決
- 岡山短銃乱射事件の1999年の岡山地方裁判所判決
- 大阪連続バラバラ殺人事件の1999年2月大阪地裁判決
- 附属池田小事件の2003年8月大阪地裁判決
- この事件では、当初裁判長は主文を後回しにする予定だったとされるが、被告人が開廷宣言直後に騒ぎ退廷命令を受けたため、被告人不在となった法廷で主文から読み始めた。附属池田小事件#公判参照
無期刑以下判決の主文後回しの例
- 求刑死刑
- 仙台幼児誘拐殺人事件の1965年4月仙台地方裁判所判決
- 富山幼女殺害事件の1973年3月富山地方裁判所判決
- 甲府信金OL誘拐殺人事件の1995年3月甲府地方裁判所判決
- オウム真理教事件の井上嘉浩への2000年6月東京地裁判決
- オウム真理教事件の中村昇への2003年9月東京高等裁判所判決
- いわき市母娘強盗殺人事件の2006年3月の福島地方裁判所判決
- 静岡2女性強殺事件の2006年6月静岡地方裁判所判決
- 長崎市長射殺事件の2009年9月の福岡高等裁判所判決
- 求刑無期刑
- オウム真理教事件の林郁夫への1998年5月東京地裁判決
- 筋弛緩剤点滴事件の2006年3月仙台高等裁判所判決
- マツダ本社工場連続殺傷事件の2012年3月の広島地方裁判所判決
- 求刑有期刑
- 小室哲哉著作権譲渡詐欺事件の2009年5月大阪地裁判決