韓進海運
韓進海運(はんじんかいうん、かんしんかいうん、ハンジン・シッピング)は大韓民国のソウル特別市を本拠とする世界有数の海運会社・コンテナ運送会社。大韓航空など陸・海・空の物流企業を傘下に持つ財閥韓進グループの一員である。
目次
歴史
陸運業から始まった韓進グループは、1969年から釜山港でコンテナターミナルを運営してアメリカのシーランド社等海外の船会社の荷役を行っていたが、1977年に韓進コンテナラインズを設立して自ら海運業へ参入した。1988年には韓国のフラッグキャリアだった大韓海運公社を前身に持つ大韓商船と合弁(合併)して、現在の韓進海運となった。
破綻
2008年の世界金融危機で海運業が世界的に沈滞したため、韓進海運は流動性の高い資産を次々切り売りした結果、流動性危機が深刻になった。2010年代前半には巨額の営業損失を出し続けたため、韓進グループが2014年からの2年間で1兆2000億ウォンを支援したが、海運業不況の長期化、好況期に設定した高い傭船料、増加する船舶金融費用などで危機が深刻化した。2016年4月には韓進グループの趙亮鎬会長が経営権を放棄し、債権団に自律協約を申請していたが、各国の船主からの滞納している傭船料の支払い要求に対して資金が用意できない状態が続いた。
2016年8月31日、韓進海運は日本の会社更生法に相当する「法定管理」を裁判所に申請して破綻した。これにより、埠頭の相互利用を行っていたCKYHEアライアンスの川崎汽船(日本)、陽明海運(台湾)、長栄海運(台湾)等が影響を受けるほか、韓進のコンテナを運んでいた台湾の志信國際も影響を受ける。
各国の埠頭も影響を受け、韓進海運の船舶の仮差押さえや入港拒否が行われている。韓進海運が借受していた日本の青海A3ターミナルは、ターミナル作業において、今回の影響を受けないと発表している。
貨物についても影響を受ける。韓国国際貨物輸送業者協会(KIFFA)によれば、テレビなどの家電等は影響を受けるものの、携帯電話や半導体は空輸されているため影響を受けないとしている。
韓国の韓進海運、保有船の差し押さえ回避へ各国で法的措置を検討(2016年)
韓国の裁判所に法定管理(会社更生法に相当)を申請した国内海運最大手、韓進海運(117930.KS)は、保有する船舶の差し押さえを避けるため、世界各地で法的措置を取ることを計画している。韓国当局が明らかにした。
同社がソウルの裁判所に法定管理を申請した後、同社の船舶が世界各地で入港を拒否されるケースが増えている。韓国の海事当局によると、2016年9月5日までに、韓進海運のコンテナ船61隻とバラ積み船18隻が入港を拒否された。同社によると、このうち1隻はシンガポールで債権者に差し押さえられたほか、多くの港湾当局と港湾サービス会社が同社の船舶を扱う際に現金を要求しているという。同社は141隻の船舶を保有。うち128隻が運航している。米国では、少なくとも3社が韓進海運に対し、債権未回収を理由に船舶などの資産の差し押さえを求める法的措置を取った。
法律の専門家は、韓進海運が船舶の差し押さえを回避できるかは管轄区域によると指摘する。韓国貿易協会によると、韓進海運の船舶が現在運搬中の貨物は総額16兆ウォン(145億ドル)相当、荷主の数は8,300余りに上る。同社の未払い債権は6,100億ウォンという。同社はすでに米ニュージャージー州の裁判所に連邦破産法第15条の適用を申請し、船舶などの資産の保全を要請。韓国の金融監督当局は、同社が今週中に約10カ国で同様の法的手続きを行い、最終的には法的保護を求める管轄区域を43まで拡大する方針だと明らかにした。
輸出品載せた船舶68隻、23カ国44港湾で足止め
韓国1位、世界7位の海運会社である韓進海運の「法定管理行き」にともなう「物流大乱への懸念」が現実化している。世界に輸出商品を運んでいた同社の船舶のうち半分ほどが足止めされており、影響が輸出企業にまで及んでいる。韓国政府も官庁合同で「コントロールタワー」を作るなどあたふたと対応に乗り出した。法定管理が決定されてから5日ぶりだ。だが明確な解決策はない。
韓進海運が9月4日に明らかにしたところによると、同社所属の船舶68隻が足止めされている。韓進海運の保有船舶141隻のうち48.2%に当たる。入港できず海上で待機していたり、一部は差し押さえられた。主要港湾で韓進海運船舶に対して出入港を禁止したり荷役関連企業などが未払い代金の支払いを求めるなどの理由で作業を拒否しているからだ。こうした港湾は23カ国44カ所に達する。
影響は輸出企業に飛び火している。韓進海運の船で輸出品を運送していた企業は運送する船を確保できず直撃弾を受けている。影響が大きくなると韓国政府は対応レベルを高めた。この日政府ソウル庁舎で金栄錫海洋水産部長官の主宰で企画財政部、外交部など9官庁が参加する中で会議を開き対策をまとめた。韓国政府は海洋水産部で運営していた非常対応班を汎官庁が参加する「関係官庁合同対策タスクフォース」に拡大した。
当面は韓進海運所属船舶の足止めを解除することが急務だ。韓国政府もここに焦点を置いた。韓進海運の船が入港できるよう海外港湾の相手国政府やターミナルと協議する。現在韓進海運は船舶の差し押さえを防ぐため43カ国の裁判所に差し押さえ禁止命令を申請しているが、韓国政府は該当国に手続きを迅速に進めるよう要請することにした。
海洋水産部は韓国系海運会社の既存運航路線のうち一部寄港地を拡大する案も推進する。だがこうした対策が実際に効果を得られるかは政府も自信がない表情だ。該当国の協力が必須だが豪語はできないためだ。海洋水産部関係者は「韓国国内の港湾は政府が説得すれば従うだろうが海外港湾の事情は違う」と話す。
核心は「金」だ。主要国港湾の荷役拒否を防ぐには韓進海運が該当業者に代金を支払えば良い。韓進海運の未払い港湾利用料と荷役費、用船料などは6,000億ウォン(約557億円)を超える。金融当局によるとすぐに事態を沈静化させるために必要な資金はこのうち用船料を除いた3,000億ウォン程度だ。韓進海運が資金枯渇により法定管理行きを選んだ状況で自主的に資金を調達する方法は事実上ない。結果的に負担を背負うことになるのは債権団と大株主だ。
予想より大きな影響に驚いた金融当局が先にカードを切った。大株主が先に誠意を見せることを条件に追加資金支援を検討できるという立場を明らかにした。金融委員会関係者は「物流大乱の1次責任は大株主にある。大株主が担保を提供したり不足資金の一部を融通するような誠意を見せた後で債権銀行が追加融資などを検討できる」と話した。これは事実上債権団が提示できる最大限のカードというのが政府関係者らの説明だ。債権団は大株主の「自助案」が不足しているという理由で韓進海運にこれ以上資金支援をしないことにした。この結果韓進海運は法定管理を選択した。こうした状況で債権団が一切の条件もなく一方的に資金を支援するのは難しい。結局韓進海運側で名分を作ってこそ債権団が物流大乱解決用資金を支援できるということだ。
これに対し韓進海運関係者は「(政府や債権団から)公式な提案を受けていないので決まった立場はない」と話した。専門家らは双方の対立が続き事態が長期化する可能性を懸念している。また時間がかかるほど被害が大きくなる恐れがあるだけに、責任ある当事者がより積極的な姿勢を取る必要があると注文している。大韓海運とSTXパンオーシャンの法定管理に関与した法務法人セギョンのキム・チャンジュン代表弁護士は「荷役業者が作業を再開するには何より韓国政府が明確な立場を取らなければならない。回復手続き開始以降の債権(公益債権)に対しては政府が支払い保証をし、それ以前にできた延滞債権は法に基づいて処理するという原則を立てなければならない」と話した。
グループ会社ほか
韓進海運は、海運と北アメリカの大陸横断鉄道を使って一貫輸送を行うハンジン・ロジスティクス(Hanjin Logistics)、ばら積み貨物船などを扱う Keoyang Shipping、1997年にグループ傘下に収めたドイツの海運会社セネター・ラインズ(Senator Lines、世界金融危機により2009年2月に営業を終えた)、および物流情報システム会社 CyberLogitec などを子会社とする。グループ全体でコンテナ船、ばら積み貨物船、タンカーなど200近い貨物船を所有し、コンテナ船事業では、日本の川崎汽船、台湾の陽明海運、中国の中国遠洋運輸集団(COSCO)、台湾の長栄海運と提携関係(CKYHEグループ)を結んでいる。セネター・ラインズが営業していた時期、韓進海運とセネター・ラインズのコンテナ船部門を統合したハンジン・セネターは、世界のコンテナ輸送でも十本の指に入る規模を持っていた。
韓進海運の収入の90%は韓国国外から上がり、世界に3つの地域本部、200の支店、30の提携会社などからなるネットワークを築いている。ロングビーチ、ロッテルダム、東京、高雄、釜山などの港湾に専用のコンテナターミナルを所有し、さらに上海、青島、ポート・ケラン(マレーシア)などに内陸コンテナターミナルを構え、多くの国に新ターミナルを建設している。
中国には専用の船舶修理工場を2008年に開業させ、他社の船舶修理も受け入れ新たな収益源としようとしている。