富永英之
富永 英之(とみなが ひでゆき)とは、工事発注の見返りに風俗店接待を要求する、JR貨物の45歳社員である。
事件概要
JR貨物のベテラン社員が工事の発注の見返りに要求したのは性風俗店での接待だった。JR貨物の貨物ターミナル周辺の物流施設をめぐり、警視庁捜査2課が摘発した贈収賄事件。JR会社法違反(収賄)で逮捕・起訴され、「なれ合いになってしまった」と供述したJR貨物事業開発本部グループリーダー、富永 英之(45)。
神奈川県川崎市の風俗街。ソープランドが軒を連ね、夜は色とりどりのネオンが妖しく光り、男性客を吸い寄せていく。そこで、富永の姿がたびたび目撃されていた。平成24年6月と11月にそれぞれ1回。そして、翌25年の5~8月には5回。計428,250円分の遊興を楽しんだ富永はしかし、代金を一銭も支払っていなかった。
代金を支払っていたのは、照明器具や空調設備などを手がける東証1部上場の電気設備会社「カナデン」(東京都港区)の営業担当の社員、三枝 裕祐(47)だ。性風俗店での接待が単なる好意によるものであるわけもない。三枝の狙いはJR貨物の物流施設の工事に参入することだった。工事の発注などを長く担当してきた富永にとって、三枝の狙いは言われなくとも十分通じていた。平成24年12月と平成25年11月、カナデンはJR貨物から照明器具の納入などを鉄道施設以外で初めて、受注した。富永の配慮によるものであることは明らかだった。平成27年4月、警視庁捜査2課は接待が賄賂にあたるとして、JR会社法違反(贈収賄)で、富永と三枝を逮捕。容疑を認め、2015年5月1日、同罪で起訴された。
JR貨物は国鉄の解体を受けて昭和62年に設立された。民間企業ではあるが、株主に独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が入り、国が経営に参画する特殊な形態で運営されている。 北海道から九州まで6カ所に支社を設け、8000キロ超の線路に1万台超の貨車を走らせ、1日20万トンの貨物を運ぶ巨大企業だ。主要都市に巨大な敷地を備えていることから、経営の柱である鉄道事業に加え、物流の拠点としてさまざまな不動産事業にも取り組んでいた。
富永が入社したのは平成4年のことだ。鉄道事業以外の不動産事業などの開発に携わり、平成17年には開発技術担当のグループリーダーに就任した。平成22年には九州事業開発支店長になり、平成24年に本社の開発技術担当のグループリーダーに復帰。一貫して開発畑を歩んできた。東京・品川の物流ターミナルに据えられた物流施設もその一つ。11棟のひとつひとつに佐川急便やヤマト運輸などの会社が入っている。改築もたびたび行われており、さまざまな業者がその工事に参入しようとしのぎを削るのも無理はない。三枝が目を付けたのも、その東京・品川の物流施設だった。
「富永はほかにもさまざまな業者と接触していたようだ」。捜査関係者はそう指摘する。富永は物流施設の開発、工事の発注に広範な権限を持っており、業者も当然認識していた。富永は、業者の営業担当がなんとしても“落としたい”ターゲットの一人だったのだ。ただ、JR貨物はJR会社法という法律で規制される特殊な会社でもある。同法では、JR貨物の役員・従業員について、公務員と同じように賄賂を受け取ったりすることを禁じており、当然過度な接待もご法度。JR貨物によると、そうした教育は徹底しており、富永も「接待を受けてはいけないことは知っていた」と供述している。
ガードの堅いJR貨物社員への接待は容易ではない。三枝は富永と長く付き合ううちに飲食などをともにするようになり、最終的に性風俗店での接待にも応じるようになった。平成3年にカナデンに中途入社して以来、一貫して空調関係の部署にいた三枝が、性風俗店での接待を始めたのは課長職について2カ月後のことだ。カナデン関係者は「焦りがあったのか…」と三枝の行き過ぎた営業活動に首をひねるばかりだ。