伊勢川洋二

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伊勢川 洋二とは、「痴漢募集」女性になりすました大阪国税局海南税務署の上席調査官である。

事件概要

痴漢したい人とされたい人が出会うインターネット掲示板を利用し、女性になりすましてJR和歌山線の電車内で他人に痴漢行為をさせたとして、和歌山県迷惑防止条例違反(卑わいな行為)容疑で大阪国税局のベテラン職員が和歌山県警に逮捕された。

国税職員はネットの交流用掲示板で「ゆい」というハンドルネームを使い、通勤途中などに少なくとも23回、女性を装って痴漢を仕向ける悪質な書き込みを続けていた。一方、被害女性は事件後、電車に乗れなくなったといい、和歌山県警は一連の手口や事件の背景を徹底して究明している。

早朝の逮捕に報道陣押し寄せ

日の出から間もなくの2013年7月9日午前5時12分。和歌山県北部に位置する紀の川市内で、1人の男が逮捕された。大阪国税局海南税務署(和歌山県海南市)の上席調査官、伊勢川洋二(49)。自宅近くに止めた捜査車両内が逮捕場所となった。

逮捕を受け、捜査の拠点となっている和歌山東署には午前6時前から報道各社が詰めかけた。インターネットの掲示板を見て電車内で痴漢行為をした男が逮捕されて以降、新聞やテレビで全国的に事件が報道されてきたこともあり、早朝にもかかわらず大阪からも報道陣が押し寄せた。

履歴もとに裏付け

逮捕容疑は、ネット掲示板に「ゆい」という女性名で「痴漢してくれる人いませんか」と書き込み、2013年4月30日午前7時15分ごろ、JR和歌山線粉河駅から乗車した紀の川市の女性事務職員(23)と同じ電車に乗り込み、掲示板にこの女性の乗車位置や服装の特徴などを記載。書き込みを見た電車内の介護士の男(26)=強制わいせつ容疑で逮捕、処分保留で釈放=を誤って信じさせ、車両内で約25分間にわたって女性の太ももや腹部を触らせる痴漢行為をさせたとしている。

「慎重に捜査を進めた結果、書き込みを行っていることが認められたため逮捕するに至った」。和歌山県警幹部はこう述べ、「携帯電話会社に残る履歴などと書き込みを照合し、矛盾がないことを確認している」と説明する。

和歌山東署によると、伊勢川は「間違いありません」と容疑を認めているという。同署は犯行の詳しい動機や背景を調べるとともに、痴漢をして逃走している介護士の男とは別の男の行方も捜査している。

ベテラン職員がなぜ

大阪国税局によると、伊勢川は昭和57年に採用され、平成23年7月に海南税務署に赴任。同税務署で上席調査官として、主に法人税を担当していた。「年齢からしてもベテランの域。後輩職員もいるだろうし、自分の立場も犯行の重大さも分かっていたはずだ」と関係者は話す。

大阪国税局は逮捕について「誠に遺憾。職員の逮捕容疑となった行為は税務職員としてあるまじきもの」とコメントし、処分について「今後の捜査状況を踏まえ、厳正に対処する」としている。

「ゆい」語り、繰り返し記載

和歌山県警のその後の調べで、犯行の具体的な手口が徐々に明らかになってきた。

「服装は当日朝7時過ぎに掲示板で連絡します」「今日は乗ります」

伊勢川は犯行の数日前から、掲示板に「ゆい」のハンドルネームでこうした書き込みを頻繁に行っていた。当日は、出勤途中に電車内で見かけた女性になりすまし、スカートなどの服装の特徴に加え、「鞄二つ持ってます」など持ち物の特徴も“実況中継”。

「時間短いですが、いっぱい痴漢して下さい」「早く来て!」とも書き込み、男らを犯行に誘っていた。

さらに、「少し嫌がる様なそぶりもしますが、気にしないでね」といった記述も加え、女性が嫌がっても痴漢が続くよう仕向けていた。

「女性が嫌がることを予想して、痴漢プレーの一環だと男たちに信じ込ませるため先回りして書き込んだのかもしれない。だとすれば極めて卑劣な手口だ」。県警によると、被害女性は事件後、電車に乗れなくなったという。

また、掲示板には今回の犯行に関連する書き込みが4月23日5月1日で約50件あり、伊勢川のものとみられる書き込みは、このうち少なくとも23件確認されているという。

頭をよぎった「PC遠隔操作事件」

伊勢川は逮捕の約2カ月前の5月11日、「女性になりすまして掲示板に書き込んだ」と和歌山東署に名乗り出ていた。新聞やテレビで事件が大々的に報道されるのを見て出頭したとみられるが、捜査幹部らには「遠隔操作ウイルス事件」が頭をよぎったという。

2013年6~9月、ウイルスに感染したPCなどから横浜市大阪市ホームページなどに犯行予告・脅迫のメールや書き込みが相次ぎ、誤認逮捕を引き起こした事件だ。それだけに県警は慎重姿勢を崩さず、徹底した裏付け捜査を行った。

伊勢川が書き込んだとされる携帯電話の履歴は消去されていたため、携帯電話会社に残っていた通信履歴と掲示板の書き込みを照合。伊勢川の犯行と特定した。

特異な犯行だけに、逮捕にあたっては犯行の捉え方も焦点になった。県警は、介護士の男に誤信させ痴漢行為をさせたことを捉え、他者を道具として利用し自分がしたい犯罪をさせる「間接正犯」に当たると判断したが、今回のような事件での適用は珍しいケースという。

痴漢行為をした介護士の男は「サイトを見て犯行に及んだ」と供述しており、伊勢川の書き込みが犯行を誘引したことは間違いない。当初、県警は強制わいせつ容疑での捜査を進めたが、最終的には「着衣の上から、または直接他人の身体に触れること」という県迷惑防止条例(卑わいな行為の禁止)を適用した。

「インターネットの掲示板を介した例が少ない(犯行の)ケース。慎重な捜査が必要だった」と県警幹部は打ち明ける。

いまだ続く書き込み

一方、事件に関連する書き込みの約50件には、伊勢川以外の人物とみられる書き込みも多くみられるという。「『ゆい』の他にも15~20人のハンドルネームで書き込みがされている」といい、県警は他に犯行にかかわっていた人物がいないかどうか慎重に調べている。

今回、犯行に使われた近畿地方で痴漢を呼びかける掲示板は犯行後、閉鎖されたが、各地域での「痴漢プレー」を募集する同様の掲示板はいまだ複数存在し、痴漢を募る書き込みであふれている。

県警幹部は「サイトは匿名性が高く、今回のようななりすましが容易で、第2、第3の被害者が出る恐れもある。こうした犯罪をしっかりと取り締まっていきたい」と警戒している。