長野一家3人強盗殺人事件
長野市一家3人殺害事件は、2010年3月に長野市で起きた、在日韓国人の社長一家が殺害され西尾市南奥田町の資材置き場に遺棄された、一家殺人事件である。なお、この事件が発覚するきっかけとなった貸倉内にあったワゴン車から遺体が見つかった事件についても本記事でも述べることにする。
事件発覚
2010年4月8日、長野市若宮の貸倉庫から異臭がするとの通報が入る。10日、長野中央署員が、貸倉庫の放置乗用車内から男性の遺体を見つける。体の特徴から、沖縄県出身の住所、職業不詳の37歳、宮城浩法さんと特定。司法解剖の結果、死因は頭を殴られたことによる頭蓋内損傷と判明。遺体の腐敗は進み、死後数ヶ月が経過。長野県警は殺人、死体遺棄事件として中央署に捜査本部を設置した。
貸倉庫の借主・金文夫さんが、3月から行方不明になっていたのが分かり、長野県警組織犯罪対策課がその行方不明となっている長野市内の62歳会社経営者・金文夫さんの会社の社員らから任意で事情聴取。
長野市内の一家3人が行方不明となっていた事件で、長野県警は2010年4月14日夜、愛知県西尾市南奥田町の資材置き場から、長野市真島町真島、会社経営・金文夫(通名・金沢文夫)さん(62)と長男の良亮さん(30)、良亮さんの内縁の妻・楠見有紀子さん(26)の3遺体を発見した。
県警は15日未明、金さんら3人の遺体を埋めたとして金さんと同居し、金さんが実質的に経営するリフォーム会社従業員の伊藤和史(31)ら4人を死体遺棄容疑で逮捕した。
ほかに逮捕されたのは、金さんが実質経営の建設会社従業員・松原智浩(39)、同社従業員・池田薫(34)(長野市吉田)、金さんの知人とみられる自営業・斎田秀樹(51)(愛知県西尾市熊味町下池田)の3容疑者。
4人は共謀し、西尾市南奥田町の資材置き場に、金さんら3人の遺体を埋めた。4人のうち3人は容疑を認めている。金さんらは3月下旬から行方不明になっていた。
調べに対し、1人が「3人を殺して埋めた」と供述しているといい、県警は、殺人容疑でも調べる。今月10日には、金さんのリフォーム会社が使用している長野市若宮の貸倉庫内の車から、沖縄県出身で住所、職業不詳・宮城浩法さん(37)が殺害されているのが見つかっている。
事件概要
2010年4月10日に長野市若宮の貸倉庫内にあったワゴン車から長男の知人男性・宮城浩法さん(37)が頭蓋内損傷で亡くなっているのが見つかった事件に絡み、貸倉庫を使用している会社の実質的な経営者の斎田秀樹(51)などから事情聴取を進め、本事件について3月下旬から行方不明となっていて親族が捜索願を出していた一家3人について遺体を埋めたと自供して、その供述に基づいて捜索したところ、2010年4月14日に愛知県西尾市南奥田町資材置き場に長野県長野市に在住していた一家3人の遺体が遺棄されているのが発見された(韓国籍男性と長男夫婦)。
3人はいずれも窒息死だった。長野県警長野中央警察署は殺人事件として捜査して4月15日に4人を死体遺棄の疑いで逮捕、2010年5月5日に強盗殺人容疑で4人を再逮捕した。そのうち3人の容疑者は金さんの会社の従業員である。
愛知県幸田町の資材置き場では遺体を運ぶのに使ったとされるトラックが見つかった。最終的に4人は共謀して2010年3月28日に金銭トラブルから被害者の首をロープで絞めて窒息死させて現金約416万円などを奪い、西尾市の資材置き場にトラックで遺体を運んで埋めたとして強盗殺人罪・死体遺棄罪で起訴された。
長男の知人、宮城浩法さん(37)が殺害された事件では、殺害されてすでに亡くなっている韓国籍男性について長野市若宮の貸倉庫内に遺体を遺棄した容疑で2010年8月10日に容疑者死亡のまま書類送検している。その後、容疑者死亡のため不起訴。2010年5月31日に死体遺棄の疑いで逮捕された松原智浩とその知人で神戸市兵庫区荒田町の35歳無職の男については殺人容疑で再逮捕されていたが、殺人については不起訴となり、死体遺棄罪でのみ起訴された。
殺害方法
建設会社従業員である池田薫は、同社従業員・松原智浩、リフォーム会社従業員・伊藤和史、愛知県西尾市の廃プラスチック販売業・斎田秀樹と共謀。
2010年3月24日未明、松原が勤める建設会社の実質経営者であり、長野市に住む金さん方2階で、金さんの長男に睡眠導入罪を混ぜた雑炊を食べさせて眠らせた。同日午前8時50分頃、長男の様子を見に来た長男の内妻が昏睡していることに気付いたため、内妻の首をロープで絞めて殺害。その後、寝室で昏睡していた長男を殺害した。
9時25分頃、自室のソファで寝ていた金さんを絞殺し、現金約416万円を奪った。さらに3人の遺体を運び出し、長野市内でトラックに積み替えた後、25日午前に愛知県西尾市内の資材置場の土中に埋めて遺棄した。その後、金さんの車を関西方面に走らせて3人が失踪したように見せかけ、奪った現金は4人で山分けし、飲食代や他の借金返済に充てた。
内妻殺害は松原と池田、長男殺害は伊藤と松原、金さん殺害は伊藤と松原が実行している。睡眠導入剤や死体遺棄場所、トラックなどは報酬目当てで参加した斎田が提供した。
金さんは松原、池田が勤める建設会社ならびに伊藤が勤めるリフォーム会社、金融業などを経営。松原、伊藤は金さん方へ住み込みをしていた。斎田は金さんの知人だった。
松原は2004年頃、金さん宅の内装工事を頼まれたときに金銭トラブルが起きて借金を背負い、金さん宅に住み込んで働いていた。池田は2009年頃まで長野市内で居酒屋を経営していたが、開店資金を金さんから借りていた。斎田は金さんの会社と取引があり、伊藤に誘われた。
動機・池田薫の第1審より
検察側は冒頭陳述で、金さんが経営する会社の従業員だった池田が、金さんへの借金を給料から天引きされ、ささいなことで怒鳴られるなどしたことから不満を募らせた―と指摘。共謀の時期について伊藤和史から「3月中旬に電話があり、殺害に加わることを決意した」と述べた。そして金さん殺害は「他の被告と役割を分担しており、共同正犯が成立する」と主張した。内妻殺害は犯行発覚を免れるためとした。
弁護側は、伊藤は当初、松原智浩と「2人で親子を殺害するつもりだった」と主張。松原が事件当日に内妻殺害をためらい「伊藤が『2人では難しい』と判断し、池田を呼び出した」と事前の共謀はなかったと述べた。長男ら2人への殺害は「(伊藤らに従わないと)自分も殺されるという恐怖からやむなく関与した」としたが、金さんの殺害については「もうできないよ」と拒否したとした。伊藤らが現金を奪ったことに関与しておらず、その後、分配された金銭もほとんど使っていない、とした。
第2回公判では、検察側が殺害の動機について、事件直前に池田の交際相手が妊娠し、長男に「中絶しろ」と繰り返し言われた点を指摘。被告が「殺して自由になりたかった」と考え、殺意を抱いたと捜査段階に供述したことを明らかにした。弁護側は「中絶できない時期まで耐えればよく、恋人や子供との未来があった」と被告の陳述書を読み、長男への殺意を否定。伊藤和史から殺害用のロープを渡され「(伊藤に)殺される」と恐怖心を抱いたと強調した。
第3回公判では、伊藤和史が出廷。伊藤は昨年2月22日、池田を犯行に加わるよう誘ったと証言。池田が実行時期を聞いたため、伊藤は「(殺害計画を)了解したと思った」と述べた。その後、2月中に2回ほど、池田に死体遺棄の実行役や遺棄場所が決まったと報告したという。昨年3月14日には、池田に死体遺棄の実行役への報酬について話し、会社の機材の売却代金を充てる考えを示すと池田が「記録に残るのでやめた方がいい」と応じたと証言した。伊藤は、自らの強盗目的を否認。池田が事件当日、金さん宅に到着後、共犯の松原智浩も加え3人で2、3分話した際、「金を取る話は全く出なかった」とした。女性裁判員が「男性宅での生活はどのようなものだったのか」と尋ねると、伊藤は「(男性らに)自由を奪われ、生き地獄だった」と訴えた。
第4回公判では、松原智浩が出廷。松原は昨年2月、伊藤から池田を犯行に加える提案を受けたが反対し、3月24日の事件当日まで伊藤と2人で金さんと長男を殺害する計画だったと証言した。弁護側の証人尋問で松原は、金さん宅で内縁を殺害した状況を述べ、事件当日に金さん宅に来た池田の様子については、「事態を把握しようと考え込んでいた。(犯行は)半ば強引にやらされ、おどおどして顔面蒼白だった」と証言。ロープを差し出された池田は「『訳が分からない』という様子だった」と振り返り、「半ば強引に、という感じだった」と証言した。松原は池田と「2人で事前に殺害の話し合いはしていない」と述べ、現金を奪ったことは「事件当時、池田は知らないはず」と述べた。検察側は、松原に「昨年春の検察官調書で『協力者を頼むなら、頼りになる池田しかいないと思っていた』と供述していた」と指摘。同被告は「仕事の話とプライベートの話が誤解されたのだと思う」と反論した。
第5回公判における被告人質問で、池田は検察官の取り調べに対し「強制的に(調書に)署名させられ、納得できない。弁護士も呼べなかった」と批判した。弁護側は事件当日の行動について質問。池田は伊藤から「例の件で来てくれ」と電話があり、男性方に出向いたが「殺害するつもりとは思わなかった」と事前の共謀を否定した。
論告求刑で検察側は、伊藤や松原らとの共謀について、他の被告の証言から「共犯者と事前に殺害を話し合っていたことは明らか」と指摘。伊藤から犯行計画の内容を事前に聞いており、現金を奪う目的があったことも知っていたとした。犯行動機について、金さんへの借金があった上、給料が少ないなどの不満があったと指摘。争点となった強盗目的の有無に関し「殺害後、分け前の現金を受け取っている」と強盗殺人罪が成立すると主張。犯行後はうそのアリバイをつくり、松原と口裏合わせしたことなどから、「自分の罪を免れ、軽くしたいということははっきりしている」と指摘し、「犯行の残虐さや動機にも酌量の余地はなく、極刑を回避する事情はない」とした。
同日の最終弁論で弁護側は、事前の共謀を示す客観的な証拠は伊藤の証言だけで、証言内容も「疑問点や矛盾点があり信用できない」と反論。その上で、凶器のロープなどの準備も伊藤、松原両被告が行っており「事前の共謀には全く関わっておらず、長男らの殺害に関与したのも突発的な事情」と述べ、「事前共謀には疑いがある」とした。強盗の意思については「金銭獲得に興味を示したことはない」とし強盗の目的があったとする検察官作成の供述調書を「誘導や被告の負い目に乗じた追及があり信用性に乏しい」とした。そして金さん殺害には「拒否している」と関与を否定し、無罪を主張。長男と内妻への殺害行為は認めたが「やむなく応じた」と述べ、受け取った現金については「口止め料だった」として強盗目的を否定し、うち約70万円は「使わないで保管していた」と主張し、池田が反省していることも訴えた。そして2人への殺人罪のみの適用を求め、懲役12年が相当とした。
池田は、最後に意見を述べる最終陳述で「今後償っていくとしか言えない。この場を借りてご遺族の方に謝罪させていただきたい」と述べた。
判決で高木裁判長は、証人尋問で「事前に犯行計画を話した」との伊藤和史らの証言を「具体的かつ自身に不利な事も積極的に話している」と信用性を認定。「池田は犯行の計画概要を知らされていた」と判断した。事前の共謀については「合理的な疑いが残る」と検察側の主張を否定。一方で、「殺害当日、被害者宅で計画の説明を受けた時に強盗殺人についての共謀を遂げた。3人を殺害して現金を強取する意思を有し、共犯者と共謀して実行行為を行った」と共謀を認定するとともに、3人に対する強盗殺人罪の適用を認めた。
量刑では「(殺害された妻は)犯行完遂の邪魔者として巻き添えとなり、理不尽な凶行の犠牲者」と、池田を厳しく非難。「『伊藤に殺される』と思い、やむなく殺害に加わった」との弁護側の主張を「被害者親子への不満という主体的な動機で参加した。池田は殺害の実行行為を積極的に行った」と退けた。そして、「3人の尊い命が奪われた犯行結果は重大。犯行態様の執拗性、残忍性も見過ごすことはできず、反省状況を最大限考慮しても被告人の刑事責任は誠に重大。共犯者間の刑の均衡などから、死刑をもって臨まざるを得ない」と指摘した。
2013年5月21日の控訴審初公判で、弁護側は一審同様、池田に強盗の目的はなく、事前の犯行計画の話し合いにも加わらず、男性以外の二人の殺害にとどまるとし、「死刑は相当ではない」と主張した。検察側は控訴棄却を求めた。
裁判経過
- 2011年12月6日、長野地裁は池田薫に死刑を言い渡した。現在、控訴中。
- 2011年12月27日、長野地裁は伊藤和史に死刑を言い渡した。現在、控訴中。
- 2012年3月27日、長野地裁は斎田秀樹に懲役28年を言い渡した。
長野3人強殺、二審は無期=裁判員の死刑、3度目破棄―東京高裁
強盗殺人と死体遺棄の罪に問われ、一審長野地裁の裁判員裁判で死刑とされた元従業員・池田薫被告(38)の控訴審判決が2014年2月27日、東京高裁であった。村瀬均裁判長は一審判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。控訴審が裁判員裁判の死刑判決を破棄したのは3例目。