住所
住所(じゅうしょ)とは、個人あるいは法人が生活の拠点にしている場所のことである。日常用語では、建造物などの住居表示や地番を指す所在地の意味としても用いられる。
目次
日本における定義と取扱い
民法上の住所
住所
- 個人の住所については民法第1編第2章第3節(民法第22条〜第24条)に根拠がある(2004年の民法改正前は民法第21条から民法第24条までであったが、改正により、かつての民法第22条と第23条とが現在の民法第23条の第1項、第2項にまとめられ、かつての民法第21条が民法第22条となった)。
- 住所決定についての各国の立法例としては、各人の実質的な生活場所を住所とする実質主義と形式的な基準で住所を決定する形式主義があり、日本の民法は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(民法第22条)として実質主義を採用している。
- 住所につき実質主義をとる場合、生活の本拠は定住事実のみで足りるとする客観説と、定住事実のほか定住意思が必要であるとする主観説の対立がある。
- 住所の個数については、複数の場所を生活の本拠としている場合にはそれぞれが民法上の住所となるとする複数説(学説上の多数説(我妻栄『新訂民法総則』95頁(岩波書店、1965年など))と単数説(単一説)がある。
- 債務の履行地(民法第484条)、民事訴訟の管轄(民事訴訟法第4条)などは、この住所により定まる。
- 住民基本台帳法(旧・住民登録法)では各人は転居届や転入届を提出する際に住所を届け出るものとされており(住民基本台帳法第22条・第23条)、各人の住所は住民基本台帳に記載されることになる(住民基本台帳法第7条第7号)。ただし、住民票の記載・消除・修正などは各人の届出または市町村長等の職権で行うものとされているから(住民基本台帳法第8条)、現実には届出などにより住民票に記載された場所と実質的に生活の本拠となっている場所(民法上の住所)とが一致しない場合がある。したがって、住民基本台帳法(旧・住民登録法)による住民票の住所は、民法上の住所との関係では「ただ事実推測のため一応の資料となり得るにすぎない」[1]ものと考えられている。判例も転出届の事実があっても実質的な生活の本拠の移転がなければ民法上の住所が移転したものとすることはできないとしている(最判 1997年8月25日 判例時報 1616号52頁)。
居所
居所とは、継続して居住しているものの生活の本拠というほどその場所との結び付きが強くない場所のことである。住所が知れない場合には、その者の居所が住所と見なされる(民法第23条1項)。また、日本に住所を有しない者は、その者が日本人か外国人かを問わず、日本における居所がその者の住所と見なされる(民法第23条2項本文)。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合にはそれによる(民法第23条2項但書)。
仮住所
ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所が住所と見なされる(民法第24条)。
国際私法
生活の本拠としての住所の成立要件は法域により異なる(例えば、英米法上の住所(ドミサイル)は、日本民法などの住所とは大きく異なる概念である)ため、国際私法において住所地を連結点とするのは適当ではないという問題意識があった。そこで、常居所という概念が採用されるに至った。
住民基本台帳法における扱い
住民基本台帳法により、市町村(特別区を含む。以下同じ)は住民票を備えており、国内在住の日本人は原則として全員いずれかの市町村で住民票に記載されている。複数の場所を生活の本拠としている者はそのうちのいずれか1つを住所として住民登録されることになる。
住民票を元にして、課税・国民健康保険などの行政事務が行われる。選挙人名簿も住民基本台帳を元に作成される(公職選挙法)。
修学のため親元を離れて居住する学生の住所はその寮または下宿などの所在地にある(最判昭29・10・20民集8・10・1907)。
住所不定
マスメディアの報道などで、しばしば住所不定という表現が使われることがあるが、これは必ずしもホームレスであることを意味するものではない。住所不定という状態の原因としては、引っ越しても住民登録を移すのを怠り、しばらくして前の住民登録地の住民登録が職権消除で削除されて、結果として住民登録がどこにもなく、住所不定となったケースがある[2][3]。
法人の住所
会社の住所は、その本店の所在地にあるものとされる(会社法4条)ほか、その他の内国法人についても、主たる営業所または事務所の所在地が住所とされる。
日本における住所の表記
日本における住所は、大きな区分から細かい区分の順序で表記される。細かい区分から大きな区分へと表記していく欧米式とは逆の順序になる。住居表示に関する法律により住居表示を実施している区域ではその住居表示を用い、それ以外の区域では地番を用いて表記される。これを最も長い形で表記すると、街区方式の住居表示を実施している区域においては、
となる[4]。例えば「東京都千代田区永田町二丁目2番1号衆議院第一議員会館999号」といった表記である。なお、住居表示を実施していない区域においては、以下のようになる。
- 都道府県 - (郡) - 市町村・特別区 - (政令指定都市の区) - 町・字 - 地番 - (支号) - (方書)
住所を構成するそれぞれの要素については以下のような特徴がある。
郡
郡は、町・村の区域にのみ置かれており、市・特別区には置かれない[5]。このため、郡が置かれているか否かという観点から、「市部」と「郡部」という地域区分法がある。
区(政令指定都市の区(行政区)・地域自治区・合併特例区)
大阪市「西成区」、横浜市「中区」などの区は、政令指定都市のみに設置され、「行政区」と称されるものである。
この行政区とは別に、平成の大合併で合併した市町村は、混乱を防ぐため旧市町村の区分を合併特例区ないし地域自治区として区分し、上越市「板倉区」のように住所の一部として表記することができると法令上定められている[6]。また、姫路市などのように、町名が「○○区△△」という形になっている事例もある。これらは行政区と同じ位置に表記され、「区」という名称が用いられるためまことにまぎらわしいが、行政区ではないため区役所などはない。合併前の町村役場が「支所」となっていることはある。
町・字
町・字は、「大字」「字」「町」などといった名称が用いられることが多い[7]。また、複数の階層区分を設けて、佐賀市「川副町大字西古賀」(「町」が上位区分で「大字」が下位区分)[8]、青森市「大字滝沢字住吉」(「大字」が上位区分で「字」が下位区分)などと表記することもある。「大字」の下位区分として「字」が用いられる場合、特に「小字」と称することがある。これらの階層区分の有無・名称などは市町村合併や町・字名整理の過程で各市区町村ごとに変遷してきたもので、全国的な統一基準や変遷の経緯が存在するわけではない。
その外、東北北部で用いられる「第○地割」や、北海道で用いられる「○条×丁目」など、その地域独自の区分法も存在する。
市街地では、台東区「浅草四丁目」のように「○丁目」という町・字区分が多い。そのため町を「町丁」と呼ぶ場合も多い。なお、「○丁目」に入る数字は、ほとんどの都道府県の告示で漢数字となっていることや、「浅草四丁目」もそうであるが、町名そのものに丁目を含んでいる[9]ため、アラビア数字を用いて「4丁目」などと表記するのは正確な表記でないという考え方もある。しかし、アラビア数字を用いた町丁名表記は広く普及しており、公共施設の表示や市区町村の公式サイトにでも使用されている。なお、「丁目」の部分を簡略に表記する場合は「-」(ハイフン)を用いる慣習がある。例えば「新宿区西新宿二丁目8番1号」という住所は、「新宿区西新宿2-8-1」と略されうる。
北海道の「条・丁目」がある地域の「条」と「丁目」は、一方が縦軸、他方が横軸を表す。両者の組み合わせで座標上の位置を示し、通常はともにアラビア数字で表記される。日本郵便の公式サイトでは「条」だけを漢数字にして「丁目」をアラビア数字にする表記が見受けられるため、これが正式な表記であると誤解されることがあるが、札幌市では「条」と「丁目」ともにアラビア数字で表記するのが正式である。「南18条西16丁目2番1号」という住所は「南18条西16丁目2-1」「南18西16-2-1」と略されうるが、「南18条西16-2-1」「南十八条西16-2-1」とは略さない。
町・字は全ての地域に必ず定められているものではなく、「○○市9999番地」といったように市町村名の後に町・字名がなく直接地番を付す区域もある。たとえば「八幡浜市立武道館」の住所は「愛媛県八幡浜市487番地」である。
京都市の旧市街地においては、「通り名」と呼ばれる独特の住所表記法があり、京都市中京区「寺町通御池上る」などのように町名・地番の代わりに用いたり、あるいは京都市中京区「寺町通御池上る」上本能寺前町488番地といったように、町名の前に通り名を表記することがある。これらは慣習的なものであるが、京都市の住民基本台帳においても用いられている。これは、そもそも町名が多くて覚えられない、また例えば京都市中京区油屋町など、通りが異なる場所に同一町名が存在するものが多数あり通り名を付けないと場所が特定しにくい、などの事情があるためである。郵便番号も蛸薬師通の油屋町と柳馬場通の油屋町で異なる番号が付与されている。しかし、ネットショッピングやカーナビなどはこの通り名に対応していないものがあり、京都市在住者に戸惑いの声もある[10]。
地番・住居表示
住居表示が行われていない地域の住所は、地番と支号を用いて「3番地5」あるいは「3番地の5」などと表記される(「支号」は不動産登記法上の名称で、「枝番」とも俗称される)。地番と支号の間の「の」の有無は市区町村ごとに異なるが、全国的な傾向として「の」を挿入する市区町村は減りつつある。ただし、不動産登記上は「の」を入れず必ず「3番5」となるため、1つの住所が、市役所では「3番地の5」と登録されて、法務局では「3番5」と登録されていることが起こりうる。
国有林・河川敷・浜辺など公有地にある住所は、そもそも土地登記が行われておらず地番が付されていないため、「無番地」などといった表記となることがある。これらの住所は「番外地」とも呼ばれる。また、その地点から最も近い地番を用いて「100番地先」などといった表記をすることもある。
住居表示が行われている地域の住所は、「5番10号」(街区+番号)あるいは「一条通り10号」(路線+番号)といった表記となる。住居表示は都市部で多く行われるが、必ずしも全ての市街地で行われている訳ではない。街区は通常数字を用いるが、大阪市中央区のように「A番1号」や「渡辺1号」といったアルファベットや漢字を用いた街区名もある。共同住宅などでは、建物に1つの住居表示をして部屋番号は方書とする場合と、「5番10-103号」のようにハイフンを用いた番号により戸別に住居表示をする場合がある。
地番・住居表示を簡略化して表記する場合、「-」(ハイフン)を用いる慣習がある。例えば「7番地9」や「7番9号」は「7-9」と略されうる。
方書
方書(かたがき)は、本来寄宿人が「○田×郎方」と家主の名前を示したものを指すが、現在では「○×マンション103号室」のように共同住宅の部屋番号も方書と呼ばれる。
部屋番号を簡略に表記する場合、地番・住居表示の後に「-」(ハイフン)で番号をつなげる慣習がある。例えば「5番地10 ○×マンション103号室」という地番+方書は「5番地10-103号(室)」「5-10-103」と略されうる。同様に「5番10号 ○×マンション103号室」という住居表示+方書は「5番10号-103号(室)」あるいは「5-10-103」と略されうる(戸別に住居表示がされる場合からの類推で「5番10-103号」と略すこともある)。なお、「5番10-103号」という住居表示もまた「5-10-103」と略されうる。
方書は、戸籍の本籍地には用いられない。住民票における取り扱いは、各地方自治体によって異なる。
住所のコード
現状、住所をコード化する体系が複数存在している。
全国町・字(まちあざ)ファイル(JISコード系)
全国町・字(まちあざ)ファイルは、総務省の外郭団体である地方公共団体情報システム機構が作成している住所のコードである。11桁からなる(全国町・字(まちあざ)ファイルの仕様PDF )。
- 1-2桁目(2桁):都道府県
- 3-5桁目(3桁):市区、郡町村
- 6-8桁目(3桁):大字、通称
- 9-11桁目(3桁):丁目、字、小字、通称
このうち、1桁目から5桁目の都道府県、市区郡町村を表す5桁のコードを、JIS住所コードという。
JIS住所コードに検証数字1桁を6桁目に加えたものを、全国地方公共団体コードという。
運輸局住所コード
運輸局で使われる住所のコード。小字のない地域では9桁、小字のある地域では12桁になる(自動車登録関係コード検索システム)。
- 1-5桁目(5桁):都道府県市区郡コード
- 6-9桁目(4桁):町村コード(実際には大字に対応する)
- 10-12桁目(3桁):小字コード(小字が住所にある地域のみ)
1-2桁目は、ほぼ都道府県に対応するが、北海道のみ50番から62番を使っており、1対1対応になっていない。
日本行政区画番号(損保統一コード)
国土地理協会と損害保険料率算出機構が主管する住所コード。
参考文献
- 『新版注釈民(1)』336頁以下(有斐閣、1988年)
脚注
- ↑ 川島武宜『法律学全集(17)民法総則』81頁(有斐閣、1965年)
- ↑ 青森県三戸郡新郷村公式ホームページ●住民登録Q&A
- ↑ ★元市民課職員の危ない話★ 市民課職員の住民票の話6
- ↑ これが「最も正式な表記」であることを意味するものでない。個人の住所の正式な記録は住民基本台帳であるが、ほとんどの市区町村の台帳の住所は市区町村名あるいは町・字名から始まっている。
- ↑ 例外として三宅島・八丈島などの東京都の島嶼部は郡が設置されていない。
- ↑ 合併特例区については、「市町村の合併の特例に関する法律」(平成16年法律第59号)第55条、地域自治区については、同法第25条。これら合併特例区や地域自治区としては「○○区」とのみ表記されるわけではなく、その地域自治区・合併特例区の名称としては「○○町」と表記される例もある。
- ↑ 長崎県には「○○名(みょう)」「○○郷(ごう)」といった名称も用いられる。
- ↑ 合併時に、従前の町名(川副町)を新市の町・字の町名とし、従前の字名(ここでは「大字西古賀」)を新市の町・字の字名としている。佐賀市・川副町・東与賀町・久保田町合併協議会オフィシャルホームページ(合併協定項目詳細III.その他必要な協議項目) (平成25年7月30日閲覧)。一方、志布志市「志布志町志布志」の様に、市町村合併の際にそれまでの大字名(大字志布志)から「大字」を除いたものに従前の自治体名(志布志町)を冠したものを新たな大字名とした場合は「志布志町志布志」が1つの大字名であり、「志布志町」が上位区分で、「志布志」が下位区分であるといった関係は記載上の順序であるに過ぎない。
- ↑ 横浜市中区伊勢佐木町のように町名が「伊勢佐木町」で字が「1丁目」「2丁目」の場合もあるがこのような例はごく少数である。
- ↑ 「京の伝統、通り名の住所表記が危機…ネットやカーナビ対応せず」 読売新聞 2010年7月20日