死刑

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死刑制度の世界地図(2004年4月6日時点)
凡例:
  • : 死刑を廃止した国、あるいは死刑を採用していない国
  • : 特段の事情(戦時など)が無い限り死刑を廃止した国
  • : 少なくとも10年間は死刑を執行していない国
  • : 死刑が法定刑として存在する国
死刑
死刑にした裁判長

死刑(しけい)は、刑罰の一種で、対象者(受刑者)の生命を奪う刑罰の総称である。生命刑(せいめいけい)とも呼ばれる。

概説

歴史

死刑は、身体刑と並び、中世(おおむね18世紀)以前には最もポピュラーな刑罰の一種であった。この時代、必ずしも重罪に適用される刑罰ではなく、比較的軽度の犯罪でも簡単に死刑が適用されることが少なくなかった。

中世以前の死刑は、多様な犯罪に適用される刑罰であったことから、単に「生命を奪う」というだけではなく身体刑の要素も含まれており、しばしば死刑内部に階層構造を形成していた。同一統治体の中で複数の死刑方法が採用されていることが多く、苦痛が多い「重罪用の死刑」、苦痛が少ない「軽犯罪用の死刑」が使い分けられていた。

この年代の死刑は、犯罪者を社会から抹消することだけではなく、見せしめ・報復としての機能も重視されていた。そのため、特に重罪向けの死刑の場合は、「より残虐なもの」「より見栄えのするもの」であるよう工夫された。また秘匿して行うという発想はなく、しばしば祭りとして扱われた。世界中でさまざまな死刑が行われたが、主なものを例示すると「火あぶり(火刑)」「刺殺(磔)」「八つ裂き」「斬首」などがある。

近現代に至って、人道主義の普及や統治機構の整備が行われるにつれ、死刑の扱いは変更された。

まず、死刑は徐々に「重大犯罪に対する特別な刑罰」と位置づけられるようになり、比較的軽度の犯罪については新たに普及しはじめた自由刑に移行していった。同時に祭事性を失い非公開とされる傾向が強まった。また身体刑の要素が除去され刑罰内容が「生命を奪う」ことに純化され、方法は「強い苦痛を与える方法」を避けて「絞首」「電気椅子」「毒物注射」「銃殺」などの比較的短時間にあまり苦痛を伴わずに死ぬような方法にとってかわられた。

現代の法体系においては、死刑は一番重い刑罰とされる(極刑とも呼ばれる)。非常に重いとされる罪に対してのみ科されるのが原則である。

制度

死刑制度の是非については世界的に多くの議論があり、死刑制度を設けている国と設けていない国がある。また、法律上は死刑制度を設けていても実際には死刑を執行していない国もある。また、一般犯罪においては死刑を廃止し、国事犯(スパイ行為)や軍事法廷(軍法会議)における脱走罪・敵前逃亡・利敵行為などに対してのみ死刑を残している国もある。

根拠

目的

一般予防説に従えば、「死刑は、犯罪者のを奪うことにより、犯罪を予定する者に対して威嚇をなし、犯罪を予定する者に犯行を思い止まらせるようにするために存在する。」ということになる。

特別予防説に従えば、「死刑は、矯正不能な犯罪者を一般社会に復して再び害悪が生じることがないようにするために、犯罪者の排除を行う。」ということになる。

日本やアメリカなど、死刑対象が主に殺人以上の罪を犯した者の場合、死刑は他人の生命を奪った(他人の人権・生きる権利を剥奪した)罪に対して等しい責任(刑事責任)を取らせることということになる。

一般的な死刑賛成論者は、予防論と応報刑論をあげるが、日本においては伝統的に応報論の延長として敵討の説が多く見られる。つまり、殺人犯に対する「報復」という発想で、被害者の心情を反映した発想だと思われる。これは特定少数者の心情的充足のみを目的として行われる行為であるため、その実行において客観性が著しく欠ける。近代の死刑制度は、このような個人によるあだ討ちによる社会秩序の弊害を、国家が代替することによって応報を中立的な立場によって執行するという側面も存在する。裁判官が個別の犯罪にたいする判決において死刑も含めて量刑を決める場合に、特に凶悪犯罪においては応報は常に根拠とされている。一方で、死刑反対派は近代刑法はこのような応報刑を否認する事を基本原理としていると主張するが、懲役刑の刑期の長短などが実際に応報に基づいておこなれていると言う事実も存在する。日本では日本国憲法下で初めて死刑を合憲とした判決(最高裁判所昭和23年3月12日大法廷判決)において、応報論ではなく、威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲であるとされた。ただし応報論に基づく死刑が違憲であるとの憲法判断は、いまだ出ていない。

威嚇効果

個別の刑罰の威嚇効果は、死刑、終身刑およびほかの懲役刑も含めて、統計上、効果が実証されたことはない。死刑反対派は死刑の威嚇効果の統計的証拠の不在を指摘し、死刑賛成派は死刑の代替としての終身刑の威嚇効果の不在を指摘する傾向にある。

しかし、日本では死刑判決を受けた場合、無期懲役に減刑される可能性があるのなら直ちに控訴する場合がほとんどである。精神状態が正常な死刑囚はほとんどの場合、多少なりとも恐怖を感じていることを告白しているため、精神状態が正常な人間に対して威嚇効果の有無を検討した場合は威嚇効果はあるといえる。

分析方法には、地域比較と歴史的比較がある。

地域比較では、国や州の制度の違いによって比較が行われる。アメリカでは、死刑制度の無い州に比べ死刑制度の有る州の凶悪犯罪発生率は統計的に総じて高い。反対派はこの事実は威嚇効果の不在であると主張し、賛成派はこれは高い犯罪率に対する州政府の対応の結果であると主張する。先進国で死刑を実施している国としては、日本、アメリカ、シンガポール、台湾、などがあげられるが、アメリカでの犯罪率が高い一方で他は犯罪率が低いという事情もあり、国家や州の比較そのものに意味がないとの意見も存在する。

歴史的比較では、死刑が廃止された国で、廃止前・廃止後を比較するという試みが行われている。しかしながら、制度や社会環境の変化も伴うため、分析者によってさまざまな結論が導き出されている。ただし、「劇的に犯罪が増加・凶悪化し、死刑廃止は間違いだったと国民世論が判断した」という典型的ケースは、これまで発生していない。

方法

現在74カ国の死刑存置国で行われている、処刑方法は以下の通りである。

公開処刑は、中国、イラン、北朝鮮、サウジアラビアで行われる。

死刑に関する議論

死刑および死刑制度については、人権冤罪の可能性、またその有効性、妥当性など多くの観点から、全世界的な議論がなされている。議論には死刑廃止論死刑賛成論の両論が存在する。人権擁護団体などでは死刑廃止は世界的徴候と主張することが多いので、賛成論を、一度廃止すれば「復活」はないという意味で在置論と呼ぶ。もちろん死刑の廃止と復活は、世界中で史上何度も行われてきたので正確な表現ではない。

地理的には、ヨーロッパと南米が総じて廃止。ヨーロッパ諸国においてはベラルーシ以外死刑を行っている国は無く(ロシアにおいては制度は存在するが執行は十年以上停止状態である)。中東とアフリカとアジアにおいては総じて死刑制度が維持されている。冷戦時代は総じて民主国家が廃止、独裁国家が維持していたが、現在では冷戦崩壊後の民主化と大量虐殺の反省により東欧と南米が廃止、アジアおよび中東とアフリカの一部が民主化後も維持している状態である。

死刑執行が多い国

アムネスティ・インターナショナルの報告によると、2004年中国イランベトナムアメリカを合わせた執行数は、世界で全執行数の97%を占める。先進国以外では2004年に全世界で執行された死刑囚の数の90%以上が中国で、3400人について執行された。中国では死刑方法は公開銃殺刑が主だったが薬殺も導入されつつある。

第2位はイランで159人である。イランや他の回教国家の場合は、イスラム教の戒律を理由に廃教や同性愛や不倫も死刑適用される。またレイプ被害者の女性が強姦の事実を認めた後、強姦の立証をしそこなったため死刑になる事例も存在する。加害者は死刑ではなく鞭打ち刑で済んでいる。ただし、既婚者の不倫は死罪となっているため、不倫の罪で告訴された場合は事実にかかわらず女性は強姦を弁護に使うのが常套手段でありイスラム法においてレイプ被害が死罪とされているわけでない。また実際に強姦があったかどうかの事実関係は報道規制によりはっきりしていないが、イスラム法に批判的立場を取り、大陸法・英米法に依拠するものの間ではこの事件はレイプであったと仮定したうえで裁判の内容を曲解して宣伝する場合が多い。特にイスラム法に依拠した投石や生き埋めなどの死刑方法は、他国から残虐であると非難されている。これに対しイスラム側からの反論として、シャーリアやイジュディハッドへの無理解がある(イランやサウジアラビアの場合は、死刑以外の刑でも常習窃盗犯には断手などの身体刑障害の残る暴行においては手術によって同じ障害を与えるなどの徹底した応服主義に則っているので死刑以外の刑の批難も多い)。

ちなみにレイプ被害者が死刑にされたという事例は、イランで2004年8月14日に死刑判決が下り翌朝執行された16歳の少女である。この少女は13歳の頃に少年と2人きりでいたという理由で鞭打ち刑を受けた経験がある少女で、51歳の既婚の男性からレイプされそのことを黙っていたことによる罪で逮捕され、近所住民から彼女は不道徳であるという訴えを加え、裁判でレイプされたことを実証出来なかった上に着ていたベールを裁判中に投げた結果、死刑判決が下ることとなった。裁判では見た目から彼女の年齢を22歳ということにさせられ、また死刑執行の際に家族に死刑執行することを伝えなかった。また、この加害者の男性は95回の鞭打ち刑で済んだ。この内容を2006年になりBBCが伝えた。

米国では59件の執行があり、先進国中最大の執行数を記録している。執行方法は薬殺で、ネブラスカ州のみ電気椅子で死刑が行われる。人口比率で最大なのはシンガポール。人口が400万あまりの小さい都市国家で、2001年70件死刑執行された。日本では、2006年において4人が執行された。

シンガポール麻薬に対し極端に厳しく、量の多少にかかわらず麻薬を所持していた者、密輸しようとした者等は(外国人であっても)殆どの場合で死刑に処される。死刑判決についてシンガポールと麻薬所持が露見した者が籍を置く国との間で外交問題になることがある。

多くの国では未成年者を処刑することを禁止しているが、犯行時18歳未満であった者を処刑した国が、1990年以降に8ヶ国存在した。このうち、米国は1990年以降、犯行時に16歳だった者を含む19人を処刑し、世界一の執行数を記録している。最近、これは最高裁で違憲とされた。日本では、近年殺人に関して刑罰を厳しくしようとする意見が大勢を占め、犯罪抑止の観点からシンガポールの麻薬犯並みの厳罰にすべきという意見も出てきている。

中国の状況

概況

執行方法は公開銃殺刑が基本であるが薬殺刑も一部で導入されつつある。中国の場合は、賄賂授受・麻薬密売・売春及び性犯罪など被害者が死亡しない犯罪などでも死刑判決が下されたこともある。また、中華人民共和国の刑罰体系では一部の犯罪に関して下された死刑には執行猶予が付せられる場合がある(とはいえ、この執行猶予はいわゆる再教育を目指すものである。著名な執行猶予付き死刑を宣告されたものに江青がいる)。なお、過去にイギリスやポルトガルの植民地であった香港マカオには現在でも死刑制度が無い。なお、中国政府は北京オリンピックを控え国際世論、特に死刑制度を廃止している欧州諸国からの批判をかわす為、2007年以降は公開処刑は行わないことを発表した。

問題点

中国において、三権分立が不明確であり、法治主義ではなく役人等の意向が強く反映されている人治主義であると指摘されている。そのため、死刑を宣告するにしても司法機関において近代的刑事訴訟手続が要求する法手続きが充分整備されていないとの指摘がある。

また死刑囚からの組織的な臓器移植が行われている。これは死刑を執行をされた囚人から臓器提供がされていると他国で批判された問題に対して中国政府高官が認めている。この死刑囚からの臓器移植は中国においては「罪を犯した事に対するせめてもの罪滅ぼし」との儒教的思想による発想からきているといわれているが、行刑関係者が医療関係者から死刑囚の臓器提供の見返りに金銭を受け取っている事も明らかになっている。そのため「移植ありき」の死刑執行の疑いがあり、移植患者にとって都合が良い(休みが取れる旧正月など)時期に大量に処刑されていると批判されている。そのため、2006年には臓器売買禁止法を施行した。だが、未だに臓器売買が行われていることがBBCの取材により明らかになっている。

なお、正式な死刑ではないが、主にチベット東トルキスタン、また民主化活動家や法輪功信者に対して行われる拷問による獄死や、農民運動活動家に対する虐待死が起こっている。これらは、地方政府の役人が中央政府の方針を無視し、自己保身のために自分たちにとって不都合な者を地元警察を使って殺害が行われているといわれている。当然これらの行為は裁判を経ていないため違法であるが、実態は不明である。そのため、公表されている数字よりも死刑執行者ははるかに多いとする指摘もある。また、死刑執行数が多すぎるため、かえって社会に動揺が広がっているとの指摘がある。(出展:朝日新聞2007年2月25日)

香港の富豪が誘拐され身代金を奪取された事件では、死刑制度のない香港ではなく広東省の刑事当局に告訴したため、富豪の生命が奪われたわけではないにもかかわらず、犯行グループが死刑になった。また日本で起きた福岡一家4人殺害事件被疑者3名のうち2名が中国へ逃亡し裁判にかけられた際には、主犯は死刑になったが、従犯に対しては、主犯の潜伏先を自白した「捜査協力」と「自首」を認定し無期懲役に減刑された。この司法取引的な減刑が、中国の刑事裁判の量刑の相場から外れるものであるとして、日本側の一部から非難を受けることになった。そのため、明確な判断基準に基づかない政治的な恣意的判決が日常的に行われている可能性があるとの指摘もある。

アメリカの状況

アメリカでは州法によって規定が違うため、死刑が続いている州と、死刑を廃止している州に分かれる。なお連邦では死刑制度を存置している。凶悪犯罪の少ない、裕福なニューイングランド諸州や裕福ではないが治安が安定している北部内陸州において死刑が行われず、貧しい南部諸州では死刑執行数が多い傾向にある。また、未成年に対する殺害を伴わない性犯罪の再犯者への死刑が適用される州法がサウスカロライナ州フロリダ州ルイジアナ州モンタナ州オクラホマ州の5州で最近成立したが、殺人を犯していない性犯罪者に対する死刑適用は過酷であり、憲法違反であると強く批判するものもいる。

死刑を廃止している州及び地区

アラスカ州ハワイ州アイオワ州メイン州マサチューセッツ州ミシガン州ロードアイランド州ミネソタ州ノースダコタ州ヴァーモント州ウェストバージニア州ウィスコンシン州コロンビア特別区(ワシントンD.C.)、プエルトリコグアム北マリアナ諸島米領ヴァージン諸島米領サモア

死刑が執行されていない州

ニューヨーク州カンザス州の裁判所は2004年に死刑を違憲とした。ニューハンプシャー州ニュージャージー州サウスダコタ州では1976年以来死刑が執行されていない。

死刑が執行について調整に入った州

イリノイ州においては司法当局により死刑確定後であっても、州の特別委員会の調査の上で改めて死刑が認められない限り、被告人は死刑とならない状況である。

死刑が適用される州

テキサス州が死刑制度が最も盛んな州として知られている。全米の死刑のうち3分の1テキサス州によって執行されている。

参考文献

  • 重松一義『死刑制度必要論』(信山社)
  • 植松正著・日髙義博補訂『新刑法教室I総論』(成文堂)
  • 板倉宏『「人権」を問う』(音羽出版)
  • 植松正「死刑廃止論の感傷を嫌う」法律のひろば43巻8号〔1990年〕
  • 井上薫『死刑の理由』(新潮文庫) 永山事件以、死刑確定した43件の犯罪事実と量刑理由について記されたもの。
  • 竹内靖雄『法と正義の経済学』(新潮社)
  • 日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮社)

関連項目

外部リンク