「民法」の版間の差分
Yuicheon Exp. (トーク | 投稿記録) |
細 (「民法」を保護しました: 度重なる荒らし ([編集=管理者のみに許可] (2018年5月21日 (月) 13:58(UTC)で自動的に解除) [移動=管理者のみに許可] (無期限))) |
||
(3人の利用者による、間の3版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
− | + | '''民法'''('''みんぽう'''、[[英語]]:'''civil law''')とは、民法典、あるいは[[私法]]の一般法のことをいう。 | |
前者の意味で用いられるのが一般的である(形式的意義における民法、狭義の民法)が、諸々の法規範のうちの一定領域を画して、その範囲のものを「民法」と総称することもある(実質的意義における民法、広義の民法)。 | 前者の意味で用いられるのが一般的である(形式的意義における民法、狭義の民法)が、諸々の法規範のうちの一定領域を画して、その範囲のものを「民法」と総称することもある(実質的意義における民法、広義の民法)。 |
2018年4月21日 (土) 22:58時点における最新版
民法(みんぽう、英語:civil law)とは、民法典、あるいは私法の一般法のことをいう。
前者の意味で用いられるのが一般的である(形式的意義における民法、狭義の民法)が、諸々の法規範のうちの一定領域を画して、その範囲のものを「民法」と総称することもある(実質的意義における民法、広義の民法)。
本項において法律として解説している内容は日本の民法(形式的意義におけるもの(民法典))に関するものである。
- 民法について以下では、条数のみ記載する。
目次
日本における民法[編集]
実質的意義における民法[編集]
民法典の中に若干異質な規定(例えば84条の3・1005条のような罰則規定)があること、および、民法典以外にも民法典中の規定と等質ないし極めて近接した性格の事柄を規律対象とする法規範が存在することから、このような概念が立てられる。
この場合、「市民生活における市民相互の関係(財産関係、家族関係)を規律する法」として、民法典の諸規定に加え、不動産登記法・戸籍法などの諸法もここでいう「民法」に含まれるものとされる。
ただし、いかなる特別法がこの「民法」に含まれるのか、必ずしも明確な基準があるわけではなく、学者によりその説く範囲は異なっている。そのため、この概念区分の実益に疑問が呈されることもある。
形式的意義における民法(民法典)[編集]
形式的意義における民法とは、制定法である「民法」という名の法律、いわゆる民法典のことをいう。具体的には、明治29年法律第89号の別冊として編成された民法第一編第二編第三編(総則、物権、債権)及び明治31年法律第9号の別冊として編成された民法第四編第五編(親族、相続)の形式上二つの法典が民法典である。全体が1898年7月16日から施行された。その後、日本国憲法の制定に伴い、その精神に適合するように(特に家制度の廃止など)後2編を中心に根本的に改正された。
以上のように、民法典は、形式上は明治29年の法律と明治31年の法律の二つの法律から構成されると理解されており、市販の六法全書なども両者を別の法典を構成するものとして扱うことが多かった。これに対し、法制執務上は、後者は前者に条文を加える旨の改正法であり、民法典は形式上も一つの法典であるとする立場が採用されていた。
この点については、口語化と保証制度の見直しを主な目的とした民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号)が2005年に施行されたことに伴い民法の目次の入換えがされ、入換後の目次が一体となっていることから、今後は一つの法典として理解することになると思われる。
制定当時の民法と現在の民法は形式上は同じ法律であるが、その形式・内容ともに大きな変化が加えられているため、戦後の改正以前の民法を「明治民法」と称することもある。
なお、日本における民法編纂の歴史については民法典論争を参照
民法典の構成[編集]
法典の編成は、いわゆるパンデクテン方式を採用している。本則は第1条から第1044条で構成される。講学上は、第1~3編を財産法、第4、5編を家族法として扱う(ただし、第4、5編をまとめて「家族法」とすることの問題点につき、家族法の項目を参照)。
財産法の構成[編集]
財産法が対象とする法律関係に関するルールは、所有関係に関するルール(所有権に関する法)、契約関係に関するルール(契約法)、侵害関係に関するルール(不法行為法)に分けられる。このうち後2者を統合して、特定の者が別の特定の者に対し一定の給付を求めることができる地位を債権として抽象化し、残りについて、物を直接に支配する権利、すなわち特定の者が全ての者に対して主張できる地位である物権という概念で把握する構成が採用されている。
そして、債権として抽象化された地位・権利に関しては、債権の発生原因として契約法にも不法行為法にも該当しないものがあるため、そのような法律関係に関する概念が別途立てられる(事務管理、不当利得)。物権に関しても、所有権を物権として抽象化したことに伴い、所有権として把握される権能の一部を内容とする権利に関する規定も必要になる(制限物権)。また、物権と債権に共通するルールも存在する(民法総則)。
このような点から、財産法は以下のように構成されている。
家族法の構成[編集]
家族法のうち、親族関係に関するルール(親族法)は、夫婦関係を規律するルール(婚姻法)、親子関係を規律するルール(親子法)がまず切り分けられるが、その他の親族関係についても扶養義務を中心としたルールが必要となる。また、親権に関するルールは親子法に含まれるが、編成上は親子法から切り分けられて規定されている。これは成年後見制度と一括して制限行為能力者に対する監督に関するルールとして把握することによるものと考えられる。
相続法については、主として相続人に関するルール、相続財産に関するルール、相続財産の分割に関するルール、相続財産の清算に関するルールに分けられる。その他、遺言に関して、遺言の内容が必ずしも相続に関することを含まないこともあり、いわゆる遺言法を相続法と区別する立法もあるが、日本では相続法に含めて立法化しており、それに伴い相続による生活保障と遺言との調整の観点から、遺留分に関するルールを置いている。もっとも、これらを通じた規定について総則にまとめる方式が採用されていることもあり、法文上は、これらのルールが明確に区別されていない部分がある。
このような点から、家族法は以下のように構成されている。
民法理解の要点[編集]
民法典の構成は以上のとおりであるが、実際には、以下のように理解することができる。
権利の主体[編集]
民法において、権利の主体は人である。ここにいう人には、自然人 (人間) と法人がある。 法人とは、人間が集まった集団・団体等について、法律が人間と同様に人格・法主体性を認めたものであり、株式会社等の会社や、社団法人・財団法人等がある。
自然人と法人に人格ないし法主体性があるということは、例えば、金銭支払請求権や、ボールペン、土地・建物の所有権等を有する資格が認められるということである。
これに対して、自然人・法人以外の物(動物等)には、法主体性は認められない。動物は、植物、ボールペン、土地・建物等と同様、物 (ぶつ) の一種として扱われる。例えば飼い主が飼い犬にえさを与えても、飼い犬にえさの所有権が認められるわけではない。犬はあくまで飼い主の所有権の客体であって、所有権の主体となることはできないからである。 現代においては、人間は物とはならず、人間が所有権の客体となることはない。
債権と物権[編集]
人と物の区別に対応して、民法上の主要な権利として、債権と物権の区別がある。
- 債権
- 債権(さいけん)とは、人が、他人に対して、ある行為(財産的行為)を要求する権利である(人に対する権利)。
- 債権の種類としては、金銭債権、物の引渡請求権等が代表的であるが、登記請求権(登記手続への協力を求める請求権)、人を目的地まで運ぶこと(運送)を求めたり、家庭教師として指導することを求めたりするように、一定の行為を求める債権もある。契約の定めによって、様々な種類の債権を生み出すことができる(契約自由の原則)。
- なお、「債務」とは債権を義務者(債務者)の側から見た表現にすぎず、債権と債務が意味する権利義務関係は同一のものである。
- 物権
- 物権(ぶっけん)とは、ある物を支配し、利用・処分することのできる権利である(物に対する権利)。
- 債権と異なり、物権の種類は、所有権・抵当権等、法令に定められたものしか認められない(物権法定主義、民法175条)。
契約[編集]
債権の発生原因としての契約[編集]
民法を理解する上で最も複雑なのは、契約を含む債権の発生から履行・消滅に至るフロー・構造であり(根拠条文が各所に散在している)、これらの全体像を理解するには、まず債権の発生原因ごとに理解するのが有益である。
債権の発生原因として、民法は、契約(民法第3編第2章)・事務管理(同第3章)・不当利得(同第4章)・不法行為(同第5章)の4つを定めているほか、物権編の中を含め各所に債権発生原因を定めている。実際には、契約の場合と不法行為の場合では、債権の発生の仕方も、履行・消滅のプロセスもかなり異なるが、民法は、いずれも債権を発生させる点で共通しているとして、統一的な理解をしようとしているといえる。
ともかくも、債権の発生原因の中で最も重要なものは契約であり、民法の第3編第2章「契約」以外の条文も、多くは契約を念頭に置いて規定されているため、まず、契約の成立・履行・消滅のプロセスについて説明する。
契約の成立[編集]
契約は、法律行為(90条以下参照)の一種であり、当事者の意思表示の合致によって成立する。これを分析すると、一方当事者の申込みという意思表示に対して、他方当事者が承諾の意思表示をすることによって、契約が成立する(521条以下参照)。
例えば、Aという人が土地の所有権を有しているときに、Bが「Aの土地を買いたい」との売買の申込みの意思表示を行い、Aが承諾の意思表示を行うと、売買契約(555条)が成立する。このように、契約は原則として当事者の意思表示の合致のみで成立し(このような契約を「諾成契約」という)、たとえ土地・建物の売買であっても、契約書を作成しなくても契約は成立する(もっとも、契約書は売買契約が成立したことの重要な証拠となる)。
ただし、Aが未成年者であるとか、認知症等によって判断能力がないなど、意思能力や行為能力に問題があるときは、Aが財産を他人に食い物にされてしまわないように法律が保護する必要があり、そのために法律行為(契約等)の無効・取消しの制度や、法定代理の制度が設けられている(3条以下参照)。
また、意思表示の過程に詐欺・強迫(脅迫)・錯誤等があると、正常な判断ができないのであるから、このような意思表示についても無効・取消しの制度が設けられている(95条、96条等参照)。
契約の効果[編集]
契約の効果は、債権的効果(債権の発生)と物権的効果(物権変動)に分けて考えられる。
債権的効果と物権的効果が併せ生じるという契約の典型は売買契約である。例えば、土地の正当な所有者(「所有権」という物権を有する者)であるAが、Bに土地を売ったとすると、売主Aは、買主Bに所有権を移転する債務、具体的には、土地を引き渡し、所有権移転登記手続をする債務が生じる(Bから見れば、Aに対してそのような債権を取得する)。それとともに、原則として、売買契約の締結と同時に、AからBに対し、土地の所有権が当然に移転するという物権的効果も生じる(176条、意思主義)。(ただし、契約は債権編の中の制度であり、契約は基本的には債権についての制度である。他方、物権は物権編によって定められ、物権変動の根拠条文は民法176条である。契約成立に伴って民法176条の要件が満たされた場合(物権の正当な権利者が他者と移転・設定等の合意をした場合)に、物権変動という効果が生じる。所有権移転を要求する債権が成立してもそれを根拠として物権変動が生じるわけではない。)
したがって、契約によって必ずしも物権変動が生じるわけではない。たとえば、金銭の消費貸借契約などは貸金返還請求権という債権を生じるだけで、物に対する支配権 (物権) は生じない。また、他人(C)の所有物をBに売却するという売買契約も、法律上有効である(他人物売買)。この場合、売主Aは、Cから買い受けるなどして所有権を取得した上、買主Bに対して所有権を移転しなければならないという債務を負う(債権的効果)が、売主Aが物の所有権について無権限である限りは、買主Bが物権を取得するという物権的効果が生じないのは当然である。
なお、不動産・動産だけでなく、売掛金などの債権も売買契約の対象とすることができるが(債権譲渡、民法466条1項)、このような債権の売買契約が締結されたときも、売買契約の締結に伴って、債権が売主から買主に当然に移転するという効果が生じる。これは上記の物権的効果に準じて考えることができる。
ところで、AがBに土地を売った後に、AがCに同じ土地を売るという二重譲渡の問題が生じることがある。このようなA・C間の契約も民法上有効である(ただし刑法上はAに横領罪が成立し得る)。この場合、まずA・B間で契約に伴って民法176条が満たされると一応Bに物権が移転し、するとAは無権利者となって次にA・C間での契約に伴って民法176条の合意があってもAは無権利でCに物権は移転しないかにもみえる。しかし、民法は権利関係の公示性によって優劣を決する対抗要件の制度を定めており、物権(所有権)がBとCのいずれに帰属するかは物権の対抗要件によって決せられ、B・Cのうち先に登記(不動産登記)を得た方が所有権を確定的に取得するのが原則である(民法177条。必ずしも先に買ったBが優先するわけではない。通説たる不完全物権変動説等)。動産や債権についてもそれぞれ対抗要件が定められている(178条、467条)。
契約の解釈[編集]
契約の内容に疑義があるときは、契約の内容を解釈(確定)する必要がある。
契約内容の確定(解釈)の基準は、(1)意思表示、(2)慣習、(3)任意規定(第91条・第92条)、(4)条理の順である。
すなわち、民法には、契約内容を定める多数の規定があるが、「別段の意思表示(別段の慣習)がなければ」というような文言を入れている場合がある。(第404条、期間の計算方法(第138条)、第579条、第572条等)こういった規定は任意規定といい、当事者が特約(民法の任意規定と異なる意思表示)をしたときは、その特約が優先される(第91条)。このような規定は、当事者が特に意思表示をしていないときに、これを補充するものといえる。
ただし、民法の規定の中には、第90条、第580条第1項などの強行規定が存在し、これに反する意思表示(契約)は無効となる。
特に、たとえば、土地・建物の賃貸借契約については、賃借人の保護という社会政策的見地から、借地借家法(しゃくちしゃっかほう)などの特別法において、数多くの強行規定が定められている。 ある条文が任意規定か強行規定かは別段文言を有するなど、条文上明確なものもあるが多くは明言されておらず、規定の趣旨から判断するしかない。
債務の履行[編集]
以上のように確定された契約の内容に従って、債務者は、債権者に対して、債務を履行(弁済)する。
物の引渡しを目的とする債権の場合について、その債務の履行(弁済)の過程の概要を述べると以下のとおりである。
物の引渡しを目的とする債権(債務)の履行では、債務者が、所定の目的物を、所定の時期・場所において、債権者に提供する必要がある。(弁済の提供、493条)
- 弁済の提供があった場合
- 弁済の提供があった場合、債務者は以後、債務不履行責任を負わない(492条)。 債権者が弁済の提供を受領すると、弁済が成立し、債権は目的を達して消滅する。弁済の提供があったのに債権者が受領しない場合は弁済は成立せず、受領遅滞等の問題となる。
- 弁済の提供がなかった場合
- 弁済の提供がなかった場合で期限を徒過する等があり、債務者に帰責性がある場合は、債務不履行となる。弁済の提供がなかった場合で債務者に帰責性がない場合は債務は存続する。(不能になったときは債務は消滅する。)ただし、双務契約から生じた債務の一方が不能となって消滅した場合で、債務者に帰責性がない場合は、危険負担の規定(534条、535条、536条)が適用され、他方の債務も消滅する場合がある。(ただし、危険負担は任意規定)
弁済の提供の方法[編集]
- 弁済の提供(493条)は、原則として現実の提供でなければならない(例えば持参債務の場合)が、例外的に口頭の提供で足りる場合もあり(同条但書)(債権者の行為を要する場合(取立債務)や債権者が受領を拒む場合)、さらに口頭の提供も必要ない場合もある(拒絶の意思が明確である場合)。
- 引き渡すべき(提供すべき)目的物
- 特定物の引渡しを目的とする特定物債権の場合は、引き渡すべき(提供すべき)物は、契約で定められた当該目的物である。目的物に瑕疵(かし)(欠陥)がある場合でも、その物を提供して引き渡せば足りる(483条)。 ただし、特定物債権の債務者は引渡しまでは物の保管につき善良な管理者としての義務(善管注意義務、400条)を負っており、その違反があるときは善管注意義務違反の責任を負う。なお、隠れた瑕疵については任意規定として瑕疵担保責任の規定がある(570条)。 これに対し、等級が定まっていない種類物の引渡しを目的とする(狭義の)種類物債権の場合は、401条1項等で等級(品質)が定まると不特定物債権となる(種類物債権の確定)。
- 不特定物債権の弁済の提供は同種・同品質・同数量の物であればどれでもいいが、欠陥のない物でなければならず、欠陥のある物を提供しても弁済の提供とはみとめられない。不特定物について、弁済の提供があり、401条2項または当事者の合意があると、目的物は特定の物に決まる。これを種類債権の特定(不特定物債権の特定)という。特定が生じて以降は引渡しまでの間、債務者は保管につき善良な管理者としての義務を負う(400条)。(狭義の種類物債権と不特定物債権を明確に区別せずに種類物債権や不特定物債権と呼ぶこともある。)(物を対象としない債権の場合を含めると、種類債権,不特定債権とも呼ばれる)
- 引渡し(提供)の時期・場所
- 引渡しをすべき時期・場所は、契約で定められた時期・場所である。
- 契約で引渡しの場所を定めていなかったときは、特定物債権の場合は債権発生の時(契約成立時)にその物があった場所(484条前段)、種類債権の場合は債権者の現在の住所(同条後段、これを「持参債務」という)においてしなければならない。
弁済の提供があった場合[編集]
- 債務者が弁済の提供を行ったが、債権者が受領しないため履行が遅延している場合は受領遅滞となる。受領遅滞の場合、前提として弁済の提供があるため弁済の提供の効果が生じるのは当然として、さらに、増加費用の請求(485条但書)、債務者の善管注意義務の軽減、危険負担の移転 という効果が生じるとされている。
弁済の提供がなく帰責性がある場合(債務不履行)[編集]
- 債務者が、正当な理由なく、以上のような債務の本旨に従った履行をしないことを、債務不履行という。
- 債務不履行には債務者の帰責性が必要である。
- 通説によれば、債務不履行は、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類があるとされる。
履行遅滞[編集]
期限を徒過しても債務者が債務の本旨に従った履行をしないことを、履行遅滞という。
たとえば、AがBに建物を売ったがAが期限到来後も建物を引き渡さない場合、債権者であるBが取りうる手段は、次のようなものがある。
- 現実的履行の強制(強制履行)
- Aに対し訴訟を提起して判決を取得した上で、強制執行する方法(第414条)。単に所有権移転を求める債権があるだけでは物権は移転しないことは前述のとおりであるが、債権であっても強制履行手続に至れば物権の移転が生じうる。
- 解除
- もはや債務者Aによる債務の履行をあきらめ、契約を解除する方法(第541条)。ただし、解除には債務者Aの帰責事由が必要とされる。契約を解除すると、契約は消滅するから、Bの代金債務も消滅し、既に代金を支払っていたときはAにその返還を求めることができる(第545条1項本文)。
- 損害賠償請求
- Aの履行遅滞によりBが受けた損害について、Aに対して損害賠償を求める方法(第415条前段)。損害賠償請求にも債務者Aの帰責事由が必要とされる。強制履行を求めるととともに損害賠償請求をすることもできるし(第414条4項)、解除した上で損害賠償請求をすることもできる(第545条3項)。
履行不能[編集]
- AがBに売った建物が、契約後に滅失したときのように、債務の履行が不可能になることを、履行不能という。このような場合、もはや前記の強制履行ができないことは当然である。
- 債務者Aに帰責事由がある場合は、BのAに対する建物引渡請求権は、損害賠償請求権に転化し、債権者Bは、損害賠償請求をすることができる(第415条後段)。また、Bは、自己の反対債務を免れるために、契約の解除をすることができる(第543条)。
弁済の提供がなく債務者に帰責性がない場合[編集]
- 弁済の提供がなく、債務者に帰責性がない場合は、債務は存続するのが原則である。
債務の履行が不能になった場合は債務は消滅する。
- ただし、双務契約から生じた債務の一方が不能になった場合には、危険負担の規定があり、他方の債務も消滅する場合がある。
- 債務者Aに帰責事由がない場合(隣家の火事による延焼で建物が焼失したような場合)、BのAに対する建物引渡請求権は、損害賠償請求権に転化することなく、当然に消滅する。残るは、Bの反対債務(代金債務)が存続するか、消滅するかであるが、これを危険負担の問題という。建物のような特定物の売買については、債権者Bが危険を負担する、すなわち代金債務は存続する(534条、債権者主義)というのが民法の原則であるが、この規定は制限的に適用すべきだとする見解も有力である。(ただし、危険負担は任意規定であり、これと異なる特約等があれば排除される。)
不法行為[編集]
契約に次いで重要な債権発生原因は、不法行為である(民法709条以下)。
不法行為とは、他人から損害を加えられた場合に、契約関係がなくても、一定の要件のもとに金銭賠償を請求する債権が発生することを認める制度である。例えば、他人の物を壊したときの損害賠償請求権や、交通事故による損害賠償請求権等である。
不法行為による損害賠償請求権の発生要件は、次のとおりであり、このような場合に、被害者から加害者に対する損害賠償請求権が生じる(709条)。
- 故意・過失による加害行為
- 違法に他人の権利が侵害されたこと
- 損害の発生
- 加害行為と損害の間に因果関係があること
- 加害者に責任能力があること
不当利得[編集]
不当利得とは、財産的価値が一方から他方へ移動し、これによって利益を得た者があるときに、それをそのままにしておいては不当といえるとき、受益者から損失者に利得を返還させる制度である(民法703条以下)。
不当利得返還請求権の発生要件は、次のとおりであり、このような場合に、損失者から受益者に対して、不当利得返還請求権が生じる(703条)。
- (1)法律上の原因なく、
- (2)他人の財産または労務によって利益を受け、
- (3)他人に損失を与え、
- (4)受益と損失の間に因果関係が認められること
例えば、売買で代金を支払った後に解除原因や取消原因が判明し、解除や取消しが行われたとき、契約は消滅し、又は無効となるが、このとき代金返還請求の根拠条文として、解除の場合は545条1項がある。しかし、取消しの場合は、代金返還請求の根拠となる具体的規定は存在しない。したがってこのときは、不当利得の規定を根拠に不当利得返還請求することになる(取消しでの物の返還請求の場合は目的物の所有権に基づく物権的返還請求権を根拠とできるが、同様に不当利得返還請求権も根拠となる)。
物権[編集]
物権とは、一定の物を直接に支配して利益を受ける排他的な権利である。
「物を直接に支配を受ける」というのは、物を物質的に使用・収益するという面(使用価値)と、物を処分して換価することができるという面(交換価値)が含まれる。
物権のうち所有権は、これらの一切の価値を把握する権利であるといえる。これに対し、地上権、地役権等の用益物権は、物の物質的な使用価値のみを把握するものであり、抵当権、質権等の担保物権は、物の交換価値のみを把握するものといえる。逆にいえば、これらの用益物権・担保物権が設定されると、所有権の内容は制限されるので、用益物権と担保物権を併せて制限物権という。
なお、隣地使用請求権(209条)など、物権編でも数多くの債権が定められている。解釈上の債権として、物権的請求権というものも認められている。
抵当権[編集]
制限物権の中で最も理解の必要性が高いのは抵当権である。
抵当権は、債権の担保(多くの場合、金銭債権の担保)として、不動産(又は地上権・永小作権)について設定される担保物権である。
抵当権は、主として債権者(抵当権者)と所有者(抵当権設定者)との抵当権設定契約により成立し、売買契約の物権的効果として所有権が移転したのと同様の構造で、抵当権設定契約の物権的効果として、債権者が不動産について抵当権を取得する。債務者でなくとも抵当権設定者になることはでき、そのときは、他人の債務のために所有物を担保に供するという関係であり、物上保証という。
抵当権で最も重要な効力は、優先弁済的効力(第369条)であり、抵当債務者が弁済期に弁済しないときは、抵当権者(債権者)は、民事執行法の不動産競売(けいばい)等の手続により、目的物を強制的に売却した代金から債権の弁済を受けることができる。
抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲について、例えば、建物についての抵当権は家具や土地賃借権にも及ぶか等の議論がある。 この点、古い判例ではあるが87条2項の処分を抵当権の「設定」ととらえ、抵当権設定前の従物には抵当権が及ばないとしたものがある。(但し通説は370条により抵当権の設定時期の前後を問わず従物に抵当権の効力が及ぶものとしている。) また、抵当権の目的物の交換価値が具体化されたものにも抵当権は及ぶとされ、物上代位性(第304条)と呼ばれる。例えば、目的物である建物が火災で滅失したとき、建物の火災保険金に抵当権が及ぶか否か、また物上代位における差し押さえの意義などが議論される。
譲渡担保[編集]
明文の規定のある担保物権ではないが、担保の目的で、機械等の動産を債権者に譲渡した形にして、引き続き債務者が使用収益するという譲渡担保が行われることがあり、これについても担保物権(抵当権)と同様の処理が図られることが多い。
関連する法律[編集]
民法典が想定する登録制度について定めた法律として不動産登記法、戸籍法、後見登記等に関する法律などが、特定の法律関係に関する民法典の特別法として借地借家法、商法、各種の労働法、割賦販売法などが、民法典やその特別法に規定する権利を実現するための民事手続法として民事訴訟法、人事訴訟法、家事審判法、民事執行法、民事保全法、各種の倒産法などがある。
日本と各国の民法の関係[編集]
いわゆる旧民法(いわゆる民法典論争により施行延期となり、そのまま施行されずに終わった、いわゆるボアソナード民法)がフランス民法(いわゆるナポレオン民法典)を範としていたのに対し、現在の日本民法は、ドイツ民法を手本にしたとされていた(これを、単に継受、あるいは法典継受という。もっとも、この時参照されたのは、制定されたドイツ民法そのものではなくドイツ民法草案である)。これに加え、大正期以後、日本法学がドイツの多大なる影響下に発展したことを受けてドイツ民法の日本法に与える影響ははかり知れない(これを、法典継受との対比において学説継受ということもある)。戦前の民法学の大家であった鳩山秀夫がドイツ民法の大きな影響を受けていたことや、日本民法学において長年にわたり第一人者であった我妻栄がドイツ民法的な思考方法で戦後日本民法の理論を構築したこともあって、現在の判例理論上のドイツ民法的な思考方法が散見される。
ところが、近年になり、日本民法は、その構成についてはドイツ民法典の構成に準じた構成がされているが、その内容についてはむしろフランス民法をベースとして構築されていることが指摘されるようになり(これは、旧民法がフランス民法を継受したものであったことのほか、民法典の起草を担当した三博士のうち、梅謙次郎と富井政章の二人の留学先がフランスであったという事情による)、学界にあってはこの観点からの民法理論の再構築がおこなわれている。この流れを牽引したのは星野英一や平井宜雄である。
なお、日本民法はイギリス民法からも若干の影響を受けている。いわゆるultra viresの法理を規定した民法43条(法人の能力)や、Hadley v. Baxendale事件の判決で表明されたルールを継受した民法416条(損害賠償の範囲)のほか、民法526条(隔地者間の契約の成立時期)がそれにあたるとされるが、起草を担当した三博士の一人である穂積陳重が、最初イギリスに留学したことによる影響である。なお、穂積は、イギリス留学の途中、依願により民法学論争たけなわであったドイツに留学先を変更した。
以上のことから、日本民法は、ドイツ民法を始めとした特定の母法に基づくというよりも、多角的に比較法の参照が行われて立案されたと評価される。
関連項目[編集]
関連書[編集]
- 『民法I(第三版)』内田貴 東京大学出版会 2005
- 『抵当権と利用権』内田貴 有斐閣 1983
- 『契約の再生』内田貴 弘文堂、1990
- 『民法III―債権総論・担保物権(第二版)』内田貴 東京大学出版会 2004
- 『民法II―債権各論 』内田貴 東京大学出版会 1997
- 『契約の時代―日本社会と契約法』内田貴 岩波書店、2000
- 『民法IV―親族・相続(補訂版)』内田貴 東京大学出版会 2004
代表的な民法学者については、日本の法学者一覧を参照のこと
外部リンク[編集]
- 民法施行法 抄(法令データ提供システム)