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2020年1月14日 (火) 20:29時点における最新版
電線類地中化(でんせんるいちちゅうか)とは電線(電力線・通信線等)および関連施設を地中に埋設することである。電線地中化、電柱地中化などとも言う。無電柱化とはその名のとおり道路上から電柱を無くすことであり、電線類地中化はその手法の一つである。
目次
無電柱化と電線類地中化[編集]
無電柱化・電線類地中化には以下のような手法がある。
電線類地中化[編集]
電線共同溝などの施設を道路(主に歩道)に埋設し電線類を収容することで、道路上から電柱を無くす。
電線類地中化の方式[編集]
- 共同溝 - 電線共同溝も単に共同溝とも呼ばれるので区別するため、幹線共同溝と呼ばれることもある。
- CAB - ケーブルボックス (CableBox) の略で歩道等の地中にコンクリートボックス(ボックスカルバート)を埋設し、その中に電線管を多数収容する。ボックスは電力会社・NTT・各電線事業者が共同で使用し電線管のみ各事業者が布設し使用する。電線管の増管などの際掘削することなく作業ができるメリットがある。
- C.C.BOX(電線共同溝) - Communication(通信)、Community(地域、共同)、Compact(小型) Cable(電線)Box(箱)の略でCABとは異なり、電線管がそのまま埋設されている。最近ではCABよりこの方式での整備が主流となっている。
- ソフト地中化 - (後述)
- 単独地中化 - 電力会社・NTTなどが独自に地中化を実施する。お祭りの山車が通行する道路などは架空ケーブルとの接触を防止するため、地中化されているところもある。
裏配線と軒下配線[編集]
主に、歴史的観光地などで用いられる。道路が狭く電線共同溝を設置するスペースが確保できない等の理由により、地中化できない場合に用いられることの多い手法である。
- 裏配線
- 無電柱化したい道路にある電線類を裏道に配線して、結果的にその道路から電柱を無くす。裏道には本来必要の無い電線を配線することにより裏道に電線が張り巡らせる。通りの裏に道がない場合、私有地(裏側)に電柱(支柱)を立てて配線する方法もある。
- 軒下配線
- 電線を沿道家屋の軒下や軒先を橋渡しのイメージで配線するもので電柱不要となる手法。ただし問題点として電力線は漏電による火災の危険性があり、それらの電線類は火災や震災などで途中の家屋が被災すると断線の可能性も指摘されている。また通信線は中継家屋による盗聴の可能性によりセキュリティに影響するなどが指摘されている。日本では法的に軒下配線しようとする沿道住民の全てが合意しなければ実施できず実施後も沿道家屋の売買により所有者が変更した時、新たな所有者が軒下配線を拒否すると再び電柱を建てる必要がある。
これらの手法を用い私有地内の電柱(支柱)・家屋を中継して配線した場合は配線工事やメンテナンスなどの際、許諾を得て私有地内に立ち入る必要があるなど公道の電柱に比べ何かと手間取ることが多くなる。
このような家屋の裏側・外壁などに配線する手法は、ヨーロッパの都市部では古くから一般に用いられている(共同溝も参照)。日本では一斉に建築される建て売り住宅などに用いられている場合もある。
ソフト地中化[編集]
道路上にある電線類を地中化するという点では電線類地中化と同じであるが、電線類地中化に必要となる地上機器(変圧器やペデスタルボックス)の設置場所が確保できない等の理由により電柱を撤去できない場合に用いられる手法で電線は地中化するが電柱は残るという中途半端なものである。電柱が残るのでは地中化の意味が薄いようにも見えるが、耐震性の向上などの効果はある。架線がなく照明の付いた電柱は半ば街灯と化す。そのため、電柱を街灯にカモフラージュさせる手法もある。ソフト地中化は無電柱化よりもむしろ電線類地中化の概念に含まれる手法である。
地中化のメリット[編集]
- 通りの景観が改善される。
- 歴史的・伝統的な町並みがよみがえることで、地域経済が活性化される。
- 住宅地としての資産価値(地価)やブランド価値が向上する。
- 台風や地震といった災害時に電柱が倒れたり、垂れ下がった電線類が消防車などの緊急用車両の通行の邪魔をする危険がなくなり防災性が向上する[4]。
- 地中化された電線は、架空線に比べ大幅に地震で破損しにくくなる。そのため災害時の情報通信回線の被害が軽減し、ネットワークの安全性・信頼性が向上する。
- 電柱類が道幅を狭める事がなくなるのでベビーカーや車いすが通りやすくなり、バリアフリー化の一環として無電柱化が行われる[4]。
地中化のデメリット[編集]
- 目視によって痛んだ電線類を断線前に発見できなくなるため、破損・断線箇所が特定しにくくなる。そのために復旧が遅れることもある[5]。
- 地震などで地下設備が破損した場合、掘り返し工事を必要とし復旧が遅くなる。阪神・淡路大震災の際には断線の調査や修理に倍以上の時間がかかった[6]。
- 冠水・豪雪などの災害時は配線・復旧などの作業ができない。
- 架空地線(避雷線)の存在が無くなるため、沿道の通行人や建築物への落雷の危険性が増す。
- 電柱に設置されていた交通標識、交通安全や防犯のための電柱幕、電灯、信号、防犯カメラ、防災無線や街頭宣伝放送等のスピーカー、津波対策の標高表示板、避難場所誘導標識、住所表示、電柱広告、携帯電話基地局、公衆無線LAN、避雷針などは別の場所に設置する必要がある。
地中化の課題[編集]
- 初期費用(増設費用)が電柱に比べて高い。地中での整備費は1キロメートル当たり4億から5億円と電柱の約20倍(電気事業連合会)[7]。
- 電線地中化により地上に設置される変圧器は電柱よりも大きいため、道路の幅が狭い場合は設置箇所に苦慮する。
- 電線類を地中化する際には、道路や私有地内での調査・工事などが必要になる。これは、数か月にわたることもある。また、私有地内にも管路などのスペースを必要とすることがあるため、既存の建物の構造上など物理的な問題[8]や土地の権利関係の問題[9]について地元住民の理解を得る必要がある。
- 地中にはガス管や上水道・下水道管などがある。地面を掘り返す際には、電線の他にガスや上水道・下水道の管理計画と連動する必要がある。また明治期頃に埋設されたガス管などは正確な位置が分かっていないことも多く、地中化には慎重を要する。
- 電線類地中化地域に建築する(建て替える)場合や既存の建物に新たな電線類を引き込む場合、そうでない地域に比べ費用や工事期間が長くなる。
- 道路に電柱が無くなると地下管路を経由して電線やケーブルを建物に引き込むことになるが、その割高な工事費や通信会社が道路管理者に支払う必要がある管路使用料がネックとなり光ケーブル(光ファイバー)や同軸ケーブル等の敷設を拒む通信会社(ケーブルテレビ局)が存在している。そのためブロードバンド普及の障害となり、情報格差の一因となっている[10][11]。
備考[編集]
- 欧米は電線類地中化の先進国と言われているが、正確には無電柱化率である。大都市では地中化されていることが多いが、見えないよう裏庭などに配線されている場合もある。また、これは必ずしも景観上の配慮だけではない。例えばニューヨークでは被覆技術がまだ無く、切れた電線に感電する事故が多かったため、ロンドンでは街灯を設置する際、ガス灯は地中化せねばならず電灯と公平に競争させるため電灯でも地中化することを義務付けたためである。また、郊外では電柱や電線が用いられている。[12][13]
- 「日本は電線類地中化の後進国であり、行政は電線類地中化に消極的である」と言われもするが、後者はそうとは言えず、むしろ国土交通省などは旗を振り積極的に推進している。[14][7][5]地中化には様々なデメリット・課題があるにもかかわらず行政が積極的に進めているのは「箱物」「バラマキ」といった批判を受けにくい事から、工事がやりたいからではないのかとの指摘もある[7][15]。ただし、無電柱化に対する国の事業費は2010年度で約800億円程度[16]であり、道路予算全体の予算規模(約4兆3,000億円)からすると、それほど大きい規模ではない。
- 公共事業には建設・保守などの費用のほとんどが税金であるものが多いが、電線類地中化においては電力会社・通信会社などがおよそ3割の費用を負担している[7]。そのため費用負担による経営への影響や[17]、負担割合の不公平感などにより事業者の足並みがそろわなかったり前述の情報格差を生むことになっている。また、新規の電線類引き込み工事などは一般にも負担がかかる場合があるため、税金でほとんどが行われる種の公共事業ではない。そのため、行政には推進しやすい側面があるが、財政難の地方自治体では費用に苦慮する場合もある[7]。
日本における取組み[編集]
日本では1928年に初めて電線地中化が行われた。兵庫県芦屋市に高級住宅街として造成された六麓荘町において導入されたものである。
その後、1986年度から1998年度までに全国で約3,400kmの地中化が達成されている。これまでは、整備のしやすい大都市の幹線道路で行われてきたが1999年度からの事業計画ではこれに加え重要伝統的建造物群保存地区などの歴史的な街並みを保全すべき地区、バリアフリー重点整備地区などの良好な都市・住環境を形成すべき地区なども対象として広げている。本格的な法整備として1995年度に「電線共同溝の整備等に関する特別措置法」(平成7年3月23日法律第39号)が制定され、電線共同溝の建設及び管理に関する事項等が定められた。
無電柱化の現状[編集]
- 国土交通省の調査によると、ロンドンやパリ、ベルリンなどの欧米の主要都市では無電柱化が概成しているのに対して、日本の無電柱化率は幹線道路(国道・都道府県道)に限っても東京23区で41%、全国平均は15%と大きく立ち遅れている[18]。H25年度末の各県別では、もっとも進んでいるのが東京都で約4.6%、次に兵庫県の約2.7%、最も遅れているのが茨城県の約0.4%である。これは国土交通省が各道路管理者より聞き取りをしたもので、全道路(高速自動車国道及び高速道路会社管理道路を除く)のうち、電柱、電線類のない延長の割合である[19]。
- 街路でない宅地の裏側に配線するには、街区が整形でない場合困難が生じる。日本では整形の街区は区画整理を行ったような場合に限られ、一般の市街地では不整形な敷地割が多いことから余り行われていない。そもそも日本の大部分の既成市街地は、戦災復興で区画整理されたような場合以外、幅員が狭いうえに区画道路が入り組んでおり、上水道・下水道・ガスをはじめ、電線地中化のための管路を埋設することが困難であるという事情がある(欧米の近代の街路幅員は最低10m程度であり、日本のように最低4mといった道路幅員は開発途上国でも余り見られない)。
- 日本の場合高級住宅地においても電線類の地中化または無電柱化が遅れている点がある。これは現行の制度が幹線道路沿いに公共事業費を投入しているのに対して、住宅地については道路幅員が狭いこともあり(道路新設や改良と同じく)道路特会が入らず、公共団体の単独事業とならざるを得ないからである。地域によっては、イメージの向上や地域の自主的なまちづくり活動として、多少の費用負担をしても地域の電線類を地中化してもよいとする場合があるが、そのような自主的な取り組みを支援する(国、公共団体、電力・通信会社の)制度ができていない。
- トンネルを作ったが5年以上も電柱が撤去されていないままの災害時緊急輸送道路が、8都府県の47か所あることが、2014年の会計検査院の調べで判明した[20]。
以上のような様々な理由により、細街路や生活道路での地中化は困難を伴う。日本では現在、国土交通省が幹線道路や歴史的街並みを保存すべき地区において地中化、無電柱化を推進している。そのため、同じ地域(町内)にもかかわらず電柱の有無により電線の引き込み費用や導入可能なケーブルなどに格差・不平等が生じている。法整備が進んでおらず電柱がなくなることへの補償制度が確立されていないこともあり、前述のように概して電柱のない場合に費用が高くなり導入可能な電線類も限定されることになる。幹線道路や歴史的街並みを保存すべき地区は、もともと道路公害や建築制限などで何かと苦労や負担の多い場所であるにもかかわらず、さらに痛みを強いることになっている。
脚注[編集]
- ↑ 1.0 1.1 1.2 NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 『電柱のないまちづくり-電線類地中化の実現方法』 学芸出版社、2010年
- ↑ 「電線類地中化は不動産価値を7%高める」株式会社ジオリゾーム
- ↑ 「近鉄あやめ池住宅地」まちのコンセプト
- ↑ 4.0 4.1 4.2 [1]
- ↑ 5.0 5.1 神戸新聞Web News 震災10年 備えは「ライフライン」
- ↑ [2]
- ↑ 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 東都総合研究所「行政資料集」
- ↑ 埋設物(管類・止水栓・浄化槽など)・塀・石垣・庭・植え込み・木の根・池・水路・物置小屋などの位置上の問題、土地の高低差、間口、接道の幅員による問題など
- ↑ 私道・借地・共有地・囲繞地・地役権通路など
- ↑ 日経パソコン「電柱の地中化がブロードバンド普及の壁に」
- ↑ すずかんラボカフェ「ITにタックル」
- ↑ 松原隆一郎『失われた景観—戦後日本が築いたもの』PHP新書、2002年、186-187項
- ↑ 土岐寛『景観行政とまちづくり』時事通信社、2005年、186項
- ↑ 国土交通省道路局「無電柱化の推進」
- ↑ 週刊朝日 2001年2月16日号「ITにタックル」第6講 IT予算とは言いながら
- ↑ 国土交通省道路局「平成22年度 道路関係予算概算要求概要」
- ↑ 例として、電力会社が地中化費用の負担のために電気料金を上げれば電力自由化による新規参入業者やガス事業者との競争などに影響する。
- ↑ 国土交通省道路局「無電柱化の現状」
- ↑ 国土交通省道路局「無電柱化に関する最近の動向」
- ↑ 読売新聞夕刊 2014年11月28日19面 「無電柱化 わずか1%」
参考文献[編集]
- NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 『電柱のないまちづくり―電線類地中化の実現方法』 学芸出版社、2010年 ISBN 978-4-7615-2487-6
- 足立良夫・井上利一『電柱のない街並みの経済効果』住宅新報社、2011年 ISBN 978-4-7892-3383-5